著者
数馬 広二 KAZUMA Koji
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、江戸幕末期、関東農村で農民の身体文化の一部と位置づけられる剣術の普及とその意義を明らかにすることを目的とする。とくに、上野国(馬庭念流)・下野国(神道無念流)農村における武術流派運営の実態を調査した。(1)上野国甘楽郡の馬庭念流門人調査上野国甘楽郡内の馬庭念流門人は78村域。門人は七日市藩士(前田家)、小幡藩士(織田家 松平家)、「関守」「僧」「医師」「農民」などであった。とくに「砥石」「蒟蒻」信州米、上州絹の商取引で栄えた宿場町(下仁田町・一宮町・富岡町)に門人が多く確認された。また門人であった関守・神戸家、市川家は信濃国佐久郡への新田開発や藩への献金も行っており、馬庭念流が信濃国への門人を拡大する上で大きな役割を果たしたと考えられる。また馬庭念流が伊勢神宮へ姓名額を奉納した件では、18世樋口十郎右衛門定伊が七日市藩士として中山道の交通上の特権に恵まれ、滞りなく行われたことがわかった。このことは近世剣術流派の一事業である奉額活動が藩によって支えられた事実を示す初めての研究であった。(2)下野国太平山神社の奉納額の調査栃木県大平町にある太平山神社に奉納された武術姓名額(倉庫に保管)について枚数、姓名などにつき調査を行い、的確な番号付けと再配置を行った。作業は5日間合計作業人足は26名となった。合計84枚の額のうち剣術は、神道無念流(文政6年・嘉永7年・慶應丁卯年)の計3枚、弓術は日置流・大和流(明治28年)・奉納弓術会(明治35年)、砲術は、武衛流(慶応3年)、外記流(年代不明)であった。
著者
宮本 有紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

医療に対する「患者満足度」という概念の重要性については近年多くの医療関係者が認めており、関心の高まつているテーマである。精神科領域でも患者に対する処遇の改善や環境の改善が熱心に行われており、また、退院促進活動と関連して効果的な医療の利用が促進されている現在、患者による精神科医療の評価は、今後さらに広く試みられる必要がある。そこで、精神科疾患を有する患者の患者満足度に影響を与える因子を明らかにするために、平成17年度から平成18年度にかけて、精神科の入院医療を利用したことのある者に対し、インタビュー調査を実施した。調査対象は、精神科の入院医療を利用したことのある者で、研究協力に同意した者である。研究協力者は、調査対象者に次の対象者の候補となる者を紹介してもらう、精神科疾患を有する人の利用する施設等で募集するなどして研究者がアクセスすることのできた者である。調査の実施にあたり、研究の主旨と、研究への協力は自由意思によるものであり、答えたくないことを答える必要はないこと、いつでも協力を取り下げることができることを対象者に口頭および文書にて説明し、文書による同意を得た。また、インタビュー時に対象者から許可を得ることができた場合にはインタビュー内容を録音した。本研究で対象となった全ての者がインタビュー内容の録音に同意したため、その音声データを逐語録にした。対象者によって語られた内容を継続的に比較し、分析を行った。その結果、患者の精神科入院医療に対する満足に関連する要因として、医療者との関係性、疾患や症状の改善、入院環境や治療の構造などが抽出された。
著者
小川 博久 神田 伸生 岩田 遵子 杉山 哲司 樋口 利康 岡 健 小川 哲男
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、現代の学校において、子ども達が学校生活を快適に過ごしているか、学校は子ども達にストレスの無い生活の場を提供しているか、といった問題意識を追究するために、幼稚園や小学校においてフィールドワークを行い、自由な活動の場である遊びに焦点をあて、子ども達の姿を追い、その実態を分析することによって、現代の学校(幼稚園を含む)の課題の解決の方向を探ったものである。当初、小学校における学校の余暇時間における子どもの遊びに着目していたが、学校の居場所性を追求するためには、結局、子ども達の学校生活全体を把握せざるを得ず、われわれの課題は、小学校においては、学級における個と集団の問題を焦点にフィールドワークを続けることになった。その結果、この研究を通して明らかになったことは、幼稚園の室内遊びにおいては、室内に遊びのコーナーの設定がなされ、そこで日常的に繰り返し遊びを続けることで、幼児たちの間に同型的同調や応答的同調の「ノリ」が生成し、遊びが盛り上がり、幼児たちに成立する遊びの内部的秩序感覚(「ノリ」)を通して、個と集団のよき関係が成立すること、同じことが園庭では、エンドレスリレーやサッカーにおける循環や応答の動きのパターンを通して言えることが明らかとなった。また、小学校におけるフィールドワークからは、以下の点が明らかになった。現代の学校の本質として、教授活動を中心に、学業成績の階層的序列化によって、子ども達の能力も差異化され、特に「問題児」は、学級から排除される可能性をはらんでいるが、学級の個と集団の関係が子どもたちにとって豊かな居場所性を獲得するためには、物的・空間的環境の豊かさによって、子ども達の身体的同調を図るよりもこ教師と子どもとの間の相互的な言語コミュニケーションによって「ノリ」を確立することが重要であることが明らかとなった。
著者
村本 健一郎 播磨屋 敏生 久保 守 藤田 政之 椎名 徹
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

雲の中で成長した雪結晶は自分の重みで落下が始まり,雲粒の中を落下していく途中で雲粒が雪結晶に付着して種々の形に成長するが,落下速度は遅いので,すぐに空間密度が高まり互いに接触する割合が高く,しかも枝の構造が機械的にからみやすいため,いくつもの結晶の合体した雪片となる.この雪片同士が衝突併合には,雪片輪郭線の複雑さや落下運動の不規則さが関与していることが報告されているが,実際に雪片同士が衝突した瞬間の映像は捉えられていない.また,雪片が複雑な運動を伴って落下する理由も十分には解明されていない.本研究では,できるだけ自然に近い状態で落下中の雪片の映像を録画するシステムを製作し,次にそれらの映像を画像処理技術を使って定量化し,降雪現象の物理的特性を定量的に解明するシステムを開発することを目的として以下の実験を行った.(I)降雪雪片撮影システムの開発できるだけ自然現象に近い状態で落下中の雪片を観測するために4m(縦)×5m(横)×13m(高さ)の観測塔内で,地面に対して水平方向に1台,および鉛直方向に4台のCCDカメラを設置し,降雪雪片の落下中の運動を2方向から同時に撮影するシステムを開発した.(I)降雪観測と解析実際に、降雪中の切片を5台のカメラで撮影した.撮影した画像から降雪雪片の形状と3次元的な落下運動軌跡を求めた.
著者
長尾 大輔 玉井 久司 喜多 英敏 田中 一宏 岡崎 文保 斎藤 幸恵
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

非球形粒子として雪だるま型あるいはダンベル型の異方性複合粒子を 合成した。本複合粒子は、粒子を形作る有機ポリマーと、そのポリマー内部に埋め込まれた球無機成分に外場応答性を与えれば、外場に応答する異方性複合粒子も合成できる。このような特徴を有する異形複合粒子に対して磁場、電場等の外場を適切に 印加すると、異方性粒子が向きを揃えた状態で集積することを顕微鏡観察により実証した。
著者
雪江 明彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては, 以前完成させた結果を出版することが一つの目的だった. 直近に完成した三つのプレプリントのうち二つは, 今回の研究期間中に出版することができた. 三つめは改訂中である. その結果を得る過程において, ジョルダン分解の概念を拡張する可能性に気がついた. それを遂行するのが, もう一つの目的であった. それはプレプリントという形では実現していないが, 研究は進行していて, 近い将来プレプリントになる予定である.
著者
三宅 明正
出版者
政治経済学・経済史学会
雑誌
土地制度史学 (ISSN:04933567)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.p35-42, 1991-04

The purpose of this paper is to analyze the industrial relations in Japan under the occupation. It is characterized by the state of trade-unions. In the early stage of the occupation Japanese unions were organized by both blue collars and white collars. They were called Juugyooin-Kumiai (Employee Union). Their antecedent was the Sangyoo-Houkokukai (Industrial Patriotic Association) during the war. The organization of Juugyooin-Kumiai was established through the Seisan-Kanri-Tousou (the struggle for production control). The characteristics of Juugyooin-Kumiai are as follows. 1) The members of this organization were those who belonged to the same company. 2) They regarded themselves as producers. 3) They understood themselves as the central power of postwar reconstruction. These characteristics were to be embedded in the Japanese industrial relations after the end of the occupation.
著者
木戸 利秋 平野 隆之 伊藤 文人 丹羽 啓子 丹波 史紀 谷口 由希子
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

社会的排除への政策対応が課題になっていることをふまえ、イギリスと日本の政策プログラムの評価研究を行った。その結果、イギリスでは社会的排除対策の進展もみられるが、同時に現代社会において貧困や排除に対応すべきソーシャルワークが岐路にたっていることも明らかになった。他方、日本では都市部での貧困調査、子どもの貧困調査、そして過疎地域の高齢者実態調査から貧困・社会的排除対策の現状と課題を明らかにした。
著者
正高 信男
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
心理學研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.285-291, 1996
被引用文献数
1 4

Placing the infant in a device which restrained his/her movement was a traditional custom of infant caretaking in a number of parts of the world, and is still observed in some of them. An example of such practices, swaddling, was investigated with Native Americans, the Aymara, in Bolivia, and caretaking behaviors in 24 swaddling and 18 non-swaddling families were compared. Results did not support the notion that swaddling was a form of infant neglect on the part of caretakers. Swaddling caretakers actually exhibited as strong interest in the infant as non-swaddling caretakers, and spent more money on his/her clothes. The mother spent less time for infant care in the swaddling family. However, other members of the family took more time to take care of the infant than those in the non-swaddling family. It is argued that swaddling effectively encourages non-mother family members to participate in infant caretaking, in addition to serving a potentially beneficial function to protect infants from unsafe and insanitary home environments.
著者
高崎 みどり 杉本 明子 佐々木 泰子 立川 和美 星野 祐子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、文章・談話の中の引用表現について、その実態を明らかにし、分析を施すことを目的とした研究である。扱ったデータは雑談、目的をもった会話、随筆等と多岐に渡る。引用表現について、文レベルでは扱えなかった諸現象に注目し、話し手および書き手の言語行動の戦略的所産として捉え直すことで、引用表現研究の新たな研究の可能性を示すことができた。
著者
三宅 琢也 中島 淳 鬼倉 徳雄 古丸 明 河村 功一
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.1060-1067, 2008-11-15
被引用文献数
3 7

九州産ニッポンバラタナゴ(RoK)の保護に向けた知見を収集するため,遺伝子と形態分析によりRoKの分布の把握を試みた。RoKのmtDNAは46集団中41集団で見られたが,13集団においてはタイリクバラタナゴ(RoO)のmtDNAも確認された。RoKは九州中北部に広く分布していたもののRoOによる遺伝子浸透は多所的に生じていた。平均側線有孔鱗数とRoOのmtDNAの頻度の間には正の相関が認められた。RoKの識別において側線有孔鱗数は,腹鰭前縁部の白色帯よりも優れた形質であると言える。