著者
岩本 奈織子 鈴木 瑞佳 高木 康伸 堀口 慎一郎 有賀 智之
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.114-118, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
22

BRCA1/2遺伝学的検査は,PARP(Poly ADP-ribose polymerase)阻害薬のコンパニオン診断から遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)の診断まで広く晋及しつつある.今後,BRCA1/2遺伝学的検査数の増加と,それに伴いBRCA1/2病的バリアント保持者の増加が見込まれる.BRCA1/2病的バリアント保持者では,年に1回の乳房造影MRI検査でのサーベイランスが推奨されている.MRIでのみ描出される病変に対しては,MRIガイド下生検(MRI-guided vaccuum-assist biopsy;MRI-VAB)が必要となるため,MRIを行う際にはMRI-VABが可能な施設との連携が望ましいとされている.しかしながら,実際に保険診療でMRI-VABを行っている施設は少ない.当院では2022年6月からMRI-VABを開始し,2023年5月までの期間においてMRI-VABを6例に施行した.患者の年齢は30~60代であり,半数は悪性であった.1例は,BRCA2病的バリアント保持者で非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)と診断されたHBOC症例であった.今回,われわれはMRI-VABの導入時に必要であった準備と過程を報告する.
著者
山本 阿紀子 河野 真 稲垣 夏子
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.109-113, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
20

2012年に提唱されたgastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach(GAPPS)は,家族性に胃底腺ポリポーシスを生じ,胃底腺を発生母地として胃癌を発症する.今回,GAPPSと診断した1 例を経験したので報告する.44歳女性.母親は30代に胃ポリポーシスを指摘されたが自然消失した.73歳で胃癌を発症した後,多発する胃底腺ポリープが出現した.家族歴を考慮し上部消化管内視鏡検査を施行すると,密生する胃底腺ポリポーシスと,ポリープとは異なる白色調隆起を認め,組織学的に腺癌と診断された.遺伝学的検査ではAPC遺伝子のプロモーター1B領域に病的バリアントを確認し,GAPPSと診断した.GAPPSの本邦からの報告は少なく予防的胃全摘術やサーベイランスの明確な基準はないため,今後も慎重な経過観察と継続した遺伝カウンセリングが必要である.
著者
國宗 勇希 岡山 直子 児玉 雅季 森重 彰博 中原 由紀子 深野 玲司 岩永 隆太 前田 訓子 岡田 真希 木村 相泰 福田 進太郎 末廣 寛 伊藤 浩史
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.104-108, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
11

Li-Fraumeni症候群(Li-Fraumeni syndrome;LFS)は,TP53の生殖細胞系列の病的バリアントによって発症する遺伝性疾患である.症例は3人の子の母親で,第1子はこれまでに5度悪性腫瘍に罹患し,第2子も骨肉腫に罹患している.母親は第3子(未発症)の出産9カ月後に肝臓の絨毛癌のため40歳で死亡している.第1子はTP53の生殖細胞系列病的バリアントが確認され,父親は当時未発症であったが,同じ病的バリアントの保因者であり,その後前立腺癌のため亡くなった.今回,第2子の結婚に伴う遺伝カウンセリングの過程で,LFS病的バリアント保持者の配偶者に妊娠を契機に絨毛癌が発生するとの報告を知り,20年前に亡くなった母親の組織標本から遺伝子検査を試みた.TaqMan Probe法で同じ病的バリアントを検出し,本症例もLFS病的バリアント保持者(父親)から,妊娠を契機に病的バリアントが胎児,胎盤を通じて何らかの機序で配偶者(母親)へ移行し,まれな肝臓の絨毛癌を発症し亡くなられたと推察した.
著者
郷田 紀子 野間 翠 白山 裕子 岩見 加奈子 尾㟢 慎治 土井 美帆子
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.98-103, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
13

Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群(Cowden syndrome/PTEN hamartoma tumor syndrome;CS/PHTS)は若年発症の悪性腫瘍と関連するPTEN病的バリアントに起因する希少疾患である.症例は24歳女性,血性乳汁分泌で乳腺外科を受診した.右乳癌と同時に両側乳腺多発腫瘤,左卵巣成熟奇形腫,および子宮内膜肥厚も診断された.BRCA1/2遺伝学的検査は陰性.乳癌術後にmulti gene panel testing(MGPT)を行いPTEN病的バリアント(p.Gly132Asp)が判明した.本診断を機に生来からの顔面の皮疹や精神発達の状態が随伴症状として注目された.以後,子宮内膜肥厚に対して積極的な生検を行い乳癌術後11カ月に異型増殖症を認め,子宮全摘術により子宮内膜癌IA期と診断した.有意な家族歴や臨床症状を満たさない潜在的かつ孤発性のCS/PHTSの患者にとってMGPTは診断の大きな助けとなり,多角的なサーベイランスにつながり得る.
著者
木村 香里 平岡 弓枝 内藤 陽一 平田 真 吉田 輝彦 桑田 健
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.94-97, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
18

消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;GIST)は希少がんであり,その一部ではSDHBに生殖細胞系列病的バリアントを認める.SDHBは,遺伝性パラガングリオーマ・ 褐色細胞腫症候群(hereditary paraganglioma/pheochromocytoma syndrome;HPPS)の原因遺伝子の一つとして知られている.今回の症例は30代男性で,胃GISTと診断され,手術検体の免疫染色にて,SDHB蛋白質消失を認めた.HPPS鑑別のため遺伝学的検査を実施し,SDHB病的バリアントを認めた.診療科横断的にHPPSサーベイランス体制を整え,GISTに対する通常診療に加え褐色細胞腫・パラガングリオーマ(pheochromocytoma/paraganglioma;PPGL)のサーベイランスを開始した.また,遺伝性であることの心理的負担があったため,フォローアップ遺伝カウンセリングを行った.若年発症GISTで免疫染色にてSDHB蛋白質消失の所見がある場合,HPPSの可能性を考え遺伝学的検査を検討することが有用である.また,サーベイランスの有用性に関するエビデンスの蓄積と継続した心理社会的支援が求められる.
著者
大髙 理生 中島 健 吉田 晶子 鳥嶋 雅子 川崎 秀徳 山田 崇弘 和田 敬仁 小杉 眞司
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.84-93, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
22

遺伝性腫瘍診療では,診断後発端者に血縁者への情報共有を推奨するが,困難な場合がある.欧米では受診勧奨の研究があるが,本邦の実態は不明である.2020年より遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)は遺伝学的検査が保険収載され,血縁者への対応も求められる.本研究はHBOC患者血縁者への情報共有と受診勧奨の施設での課題抽出を目的とし,乳房悪性腫瘍の治療実績国内上位100施設を対象に質問紙調査を行った.初回調査で回答を得た44施設(44%)のうち5例以上のHBOC診断数の31施設を対象とし29施設(94%)から二次調査回答を得た.26施設(90%)で血縁者のリスク説明は実施だが,発端者家系に特化した資料配布は17施設(59%)で未実施であった.課題は,「未発症血縁者のサーベイランスが保険適用外」「血縁者と疎遠な関係性」であった.受診勧奨支援は施設間差を認め,その解決には多角的な検討が必要と考えられた.
著者
櫻井 彩乃 菅原 ますみ 後藤 景子 渡辺 基子 岡村 仁 北村 裕梨 中井 克也 飯島 耕太郎 岡崎 みさと 魚森 俊喬 崔 賢美 村上 郁 櫻井 晃洋 齊藤 光江 新井 正美
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.74-83, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
20

BRCA1/2遺伝子検査が保険収載後に,本検査受検を考慮した乳癌患者の実態調査を行った.順天堂大学医学部附属順天堂医院乳腺センターにて,保険適用でのBRCA1/2遺伝子検査を提案された外来通院中の乳癌患者31名(受検者29名,非受検者2名)を対象に,検査時と結果開示後に調査を実施した.BRCA1/2遺伝子検査の保険収載は受検を明らかに促進していた.同胞や子どもを心配し受検をした対象者がもっとも多く,受検者の90%以上が血縁者への情報伝達を予定していた.血縁者への情報提供やキャリア診断の遺伝カウンセリング体制も整備する必要性が示された.また病的バリアントが検出されなかった約半数の対象者でネガティブな情緒の変化である「総合的気分状態」の上昇がみられた.乳癌診療や遺伝カウンセリングにおいては,病的バリアント非保持者でも心理支援を考慮すべき対象者がいることが示された.
著者
宮下 与兵衛
出版者
日本教育政策学会
雑誌
日本教育政策学会年報 (ISSN:24241474)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.147-156, 2014-07-15 (Released:2017-06-23)

The purpose of this paper is to research the following question through three case studies. Can the students participating in community development enhance their citizenship and does it lead to school improvement? Students, parents, teachers, and community residents organized the 'School Forum', the purpose of which was to discuss both school improvement and community development at three high schools: Nagano TATSUNO High School, Hokkaido BIEI High School, and Ibaragi OGAWA High School. In these School Forums, each of the students decided by themselves to engage in some volunteer activities. For example, TATSUNO High School students addressed garbage collection, researching some regional issues, and holding a symposium for community improvement. BIEI High School Students engaged in volunteer activities for cleaning up their town. OGAWA High School Students rallied to fix dangerous railway lines near their school. The students realized that both protecting their school and participating in the community shared a common interest, and these were issues that needed to be addressed. Overall, the students improved their sense of citizenship through communication with community residents and through community involvement.
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.145-148, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
6

飼育下アジアゾウ(Elephas maximus)3個体の体表にゾウハジラミ(Haematomyzus elephantis)寄生を認めた。感染個体は高度の瘙痒感を示し,室内の壁面や床面に体を擦り付ける行動が見られたが,これによる擦過傷や丘疹の発生は認めなかった。合成ピレスロイド系薬剤の寄生部位への局所投与には効果がなかった。カーバメイト系シャンプー剤による全身洗浄を約2か月間に5〜7回行ったところ著効が認められた。ゾウの検疫にはゾウハジラミ寄生にも注意を払う必要がある。
著者
水島 あかね 野中デュルト 沙羅セシィル
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.49-60, 2023-03-31 (Released:2023-06-15)

神戸市塩屋は,明治以降に外国人が多く居住した地域で,昭和初期に開発されたジェームス山外国人住宅地が現存する。近年は若い世代やクリエイターの移住や店舗の新規開店が相次ぎ,新旧の住民が共生している地域でもある。本研究では,昭和の記憶を持つ住民への聞き取り等により,住民と外国人との日常での直接的な関わりはあまりなかったものの,外国人の増加により,外国人と関わる仕事が創出されたこと,ジェームス山があるために戦時中安全だったと信じられていたことなどから,戦争を経ても外国人を好意的に受けとめ,異文化を受け入れる土壌は,外国人との共生により生まれ今日の塩屋に引き継がれていることを明らかにした。
出版者
文武堂 (發賣)
巻号頁・発行日
1921
著者
徳尾野 徹 横山 俊祐
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.26, no.62, pp.209-214, 2020-02-20 (Released:2020-02-20)
参考文献数
4

‘Open type preservation and maintenance’ means the situation that maintained soundly by utilizations of the privately-owned houses as tangible cultural property. The purpose of this study is investigating the possibility of it. By the analysis results of interviews to twenty owners, it was cleared as follows.1) By opening the houses, the connections that substance utilizations are made at inside and outside.2) The owners place visitors as outside evaluations and motivation of continuous actions.3) Workshops that develop participants to supporters are effective as utilizing technics for preservations.This shows accelerations of utilizations are one of important preserving measures.
著者
田中 厚子 松下 希和 赤澤 真理
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-12, 2022 (Released:2022-05-10)

日本の住宅の近代化における女性の役割に関する研究の一端として,戦間期に女性が施主となった住宅6件を対象に,婦人雑誌というメディアを通した近代化への貢献および憧れの醸成について分析した。住まいの外観は,海外渡航の有無によって和風と国際様式に二分し,起居様式は床座,椅子座,混合に三分した。それらの平面計画は一例を除き伝統的な座敷などの家父長制の名残はなく,自立した女性としての要望を満たしていた。室内には布地と色彩へのこだわりがあった。憧れには施主の交友関係における住まいへの憧れと,一般読者の憧れの二重構造があり,婦人雑誌の記事では,本人が住まいの写真に写ることで憧れを呼び,共同の意識を生み出した。
著者
福山 夏映 山本 幸子
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.28, no.68, pp.380-384, 2022-02-20 (Released:2022-02-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Thatching, which is steadily declining in Japan, can be one of the most sustainable constructing methods for today’s architectures. This study focuses on thatched small architectures, walls, or interiors constructed by the contemporary thatching method, and analysis how to introduce the thatching into contemporary architectures.According to case studies, we cleared out that the thatch often plays artistic or decorative roles in contemporary buildings. And to enable various shape and downscaling of thatched architectures, the traditional thatching method is updated through introducing the European constructing method, selecting the appropriate type of the thatch, or ingenious preparation of materials.