著者
富江 敏尚 石塚 知明
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.216-234, 2016 (Released:2016-12-14)
参考文献数
38

レーザープラズマ光源の最有望応用技術として極端紫外光励起光電子分光法、EUPS、の原理を考案してから、4半世紀が過ぎた。最表面原子層の超微量汚染の検出、バンド曲がり、表面のキャリア密度の評価、導電率の評価等、他の手法では困難な分析がEUPSで可能になっており、触媒活性との良い相関が得られるなど、材料の有用な分析手段になっている。ユーザーの課題解決のために生まれた分析法が多く、ユーザーによりEUPSが高度化されたと言える。EUPSの着想に至るまでの経緯、実用装置にするための要素技術の選定と構成、従来の光電子分光にはない新たな分析法を可能にしたのはEUPSのどのような特徴によるか、などを記述した。
著者
松本 泰尚 Michael J. GRIFFIN
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.703, pp.185-201, 2002-04-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
33

鉛直全身振動暴露時の人体の動的応答特性の解明のため, 被験者を用いた振動実験及び人体動的応答のモデル化を行った. 駆動面で測定した立位及び座位における人体の動質量は, 振動数5~6Hzで最も顕著な共振特性を示した. この主共振振動数域において, 特に腰椎部で脊柱の曲げ振動が発生していることを, 駆動面から身体部位への振動伝達率の測定結果から明らかにした. 立位の場合は腰椎部で軸方向の変形も顕著であったのに対し, 座位の場合は脊柱の軸方向変形はほとんど見られなかった. モデルによる主共振発生メカニズムに関する検討の結果, 立位・座位ともに腹部内臓の鉛直運動の寄与が大きく, 座位の場合は臀部及び大腿部の鉛直方向の変形も動質量主共振の主な要因であることが認められた.
著者
西川 洋史
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-44, 2020 (Released:2021-04-30)

マニキュアは, プレパラート標本のカバーガラスのシーリングに用いられる。しかし, その乾燥には時間がかかるだけではなく, アセトンやブチル酢酸などの有機溶剤の刺激臭があるため, 学校の授業での使用は避けたほうがよい。紫外線硬化樹脂は, 表面コーティングや接着あるいはシーリングに使用される工業用素材であるが, ネイルアートではマニキュアの代わりに利用される。この液体状の樹脂はUVA波長(315~400 nm)の照射によって数分間で硬化するため, 作業時間が短縮できるだけではなく臭気も弱い。そこで本研究ではメチレンブルー水溶液を封入したプレパラート標本を用いて, 数種類の紫外線硬化樹脂の水分の蒸発抑制能について検討した。その結果, プレパラート標本を20℃2週間でインキュベートした場合, 紫外線硬化樹脂はマニキュアよりも有意に水分蒸発を抑制した。紫外線硬化樹脂によるシーリング法はその扱いやすさと保存率の高さから, マニキュアの代替になるだろう。
著者
柏崎 耕志 米澤 直晃 小菅 一弘 菅原 雄介 平田 泰久 遠藤 央 神林 隆 篠塚 博之 鈴木 公基 小野 右季
出版者
The Society of Instrument and Control Engineers
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.389-398, 2012 (Released:2012-08-16)
参考文献数
18

The authors proposed a car transportation system, iCART (intelligent Cooperative Autonomous Robot Transporters), for automation of mechanical parking systems by two mobile robots. However, it was difficult to downsize the mobile robot because the length of it requires at least the wheelbase of a car. This paper proposes a new car transportation system, iCART II (iCART - type II), based on “a-robot-for-a-wheel” concept. A prototype system, MRWheel (a Mobile Robot for a Wheel), is designed and downsized less than half the conventional robot. First, a method for lifting up a wheel by MRWheel is described. In general, it is very difficult for mobile robots such as MRWheel to move to desired positions without motion errors caused by slipping, etc. Therefore, we propose a follower's motion error estimation algorithm based on the internal force applied to each follower by extending a conventional leader-follower type decentralized control algorithm for cooperative object transportation. The proposed algorithm enables followers to estimate their motion errors and enables the robots to transport a car to a desired position. In addition, we analyze and prove the stability and convergence of the resultant system with the proposed algorithm. In order to extract only the internal force from the force applied to each robot, we also propose a model-based external force compensation method. Finally, proposed methods are applied to the car transportation system, the experimental results confirm their validity.
著者
戸田 裕美子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-33, 2015-06-30 (Released:2020-05-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本研究は流通革命論をめぐる議論を再整理し,「細くて長い流通から太くて短い流通へ」という単純化された一般的な解釈を超えて,流通革命論をめぐる議論を再整理し,各論者がどのように流通革命を捉えていたかを明らかにする学説研究である。また,本論は各論者の主張を時系列に並べる編年史的な学説研究ではなく,流通革命論をめぐる諸説の中で語られたいくつかの問題を明らかにし,それらの問題の論理的なつながりを整理する問題史的な学説研究である。一連の分析を通じて諸研究の連関を再構成し,流通革命論の知的広がりを解明して,結論部分では,流通革命論の中で展開された諸問題と今日的な流通課題との関連を明らかにする。流通革命という一見過去の問題と思われる論題を今日的な視点から分析することを通じ,新たな分析視角を得ることを企図している。
著者
遠藤 央 廣瀬 健治 平田 泰久 小菅 一弘 菅原 雄介 鈴木 公基 篠塚 博之 新井 浩幸 阿久根 圭 神林 隆
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.75, no.755, pp.2028-2035, 2009-07-25 (Released:2017-06-09)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

We propose a novel car transportation system termed as iCART (i__-ntelligent c__-ooperative a__-utonomous r__-obot t__-ransporters). This system transports cars using two robots that move in coordination. This car transportation system can transport cars of any size and offers various functions such as parking, valet parking, towing service, and the transportation of cars inside a factory, onto a ferry, and in complicated parking areas. The robots in this car transportation system comprise three modules: the mobile base module, the lifter module, and the connecting module. This paper describes the details of the operation mechanism and the basic algorithm of each module. A leader-follower-type distributed motion control algorithm is applied to the proposed system and is used in an experiment performed to verify the validity of its function.
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.79-85,100, 2000-09-10 (Released:2007-09-28)
参考文献数
25

一般に,鳥の歌にはなわばりの防衛とつがい相手の誘引の2つの機能がある.後者の機能に重点をおいて歌をつかう種においては,歌は異性間淘汰により進化してきたと考えられる.このレビューでは,複雑な歌の性淘汰が鳥の脳の構造を変化させたかどうかを検討する.複雑な歌をうたうには,それを可能にする脳のコストがあるはずである.また,複雑な歌をきいてそれにもとづきつがい相手を選択するのにも,選択に要する認知機能が脳のコストとして存在するはずである.頭蓋の容量は成熟後は変化しないから,脳のコストは端的に頭蓋内でどのくらい容量を占めるかで比較できるであろう.したがって,歌に関わる特定の機能に特化した脳部位の体積を測定した研究を検討してみよう.鳴禽類における歌制御回路は図1のとおりである.歌の実時間産出は直接制御系と呼ばれる回路(神経核 HVc,RA)で行われる.一方,迂同投射系と呼ばれる回路(神経核Area X, DLM,LMAN)は歌の学習と知覚に関連するとされている.直接制御系の神経核の体積には性的2型があり,歌行動の性的2型と対応しているが,迂回投射系ではそのような対応は見られない.Area X はメスでは全く同定できないが,LMAN はメスでもオスと同じくらいの体積をもつ.これらのデータから,迂回投射系は歌の学習と知覚に,直接制御系は歌の実時間制御に関係すると仮定されている.直接制御系:直接制御系の神経核の体積は種レベルでみれば歌の複雑さと関係するが,同一種内では関係は明白ではなく,むしろ全く関係がないことを示したデータもある.種間比較では,歌の複雑さの指標も100倍からの違いが得られるが,同一種内の比較ではせいぜい4倍程度である.おそらくこれが,種内比較で肯定的な結果が出ない理由であろう.メスの歌選択性は,歌のプレイバックに対してどのくらい交尾誘発姿勢(CSD)が誘発されるかを指標とすることが多い.カナリアでは,HVc の破壊により CSD の選択性がなくなったという報告があるが,キンカチョウでは HVc の破壊による影響はなかった.これが種差と考えられるべきかどうかは不明である.迂同投射系:歌の複雑性と迂回投射系の関係を研究した報告は少ない.キンカチョウでは,LMAN の体積と歌の複雑さが逆相関したという報告がある.また,コウウチョウではAreaXの体積と歌の誘引力が逆相関したことを示す研究がある.歌の誘引力と複雑さの関係については不明である.一方,そのような関係は全くないという報告もある.キンカチョウでは,オスのAreaXを破壊することで,オペラント条件付けにより測定された歌の識別能力が低下した.また,同様な研究で,カナリアのメスの LMAN を破壊すると歌の識別に影響があるという.ムシクイに属する種では,メスの LMAN の体積がその種のオスの歌の複雑さに関係するらしい.コウウチョウではLMANの体積とメスが選り好みする程度が相関した.その他の脳構造:伝統的に考えられている歌制御系とはまったく別の部位であるが,NCM と呼ばれる部位では新奇な歌を聴くことで遺伝子発現が見られる.この部位の神経細胞も,新奇な歌にのみ反応することがわかっている,メスのホシムクドリでは,オスの歌の長さに応じて NCM の異なる部分で遺伝子発現が見られたと報告されている.ハトでは,視床下部の神経細胞がメスの特定の鳴き声に反応する.もし鳴禽でも同様な細胞が発見されれば,歌を分析するのは何も大脳だけではないということになろう.結論:メスの歌知覚と脳構造の研究はデータそのものがほとんどない.しかし,これはたいへん重要な分野であり,今後の展開が期待される.メスの歌知覚には迂回投射系が関わっていることは間違いないであろう.オスもメスも迂回投射系の破壊により歌の弁別力が下がるという報告は一致しているが,メスはLMANが大きい方が選択性が高く,オスは LMAN が小さいほうが誘引効果の高い歌をうたう.こうした一見矛盾したデータから LMAN の働きを洞察することが可能ではないだろうか.歌の複雑さと脳構造の関係は,種間比較では検出できるが,同一種内の個体比較では検出されていない.しかし,性淘汰により歌と脳が変化したことを示すためには,同一種内のデータがぜひとも欲しいところである.問題は脳にかかるコストを定量するための解剖学の技術と,歌の複雑さをどう定義するかにある.これからの研究では,脳の体積をはかるだけではなく,神経細胞の活性の度合いも定量化するような方法が必要である.また,歌の「複雑さ」とはいえ,要素のタイプ数のみが問題にされてきたが,要素配列規則も含んで複雑さを議論する必要があろう.
著者
Akio Tanikawa Booppa Petcharad
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.119-127, 2023-12-10 (Released:2023-12-10)

The large orb-weaving spider genus Araneus consists of numerous species with highly variable morphologies and behaviors, and phylogenetic analyses have suggested that the genus is polyphyletic. Here, we investigated the specimens of Araneus viridiventris Yaginuma 1969, A. noegeatus (Thorell 1895), and an undescribed species. They were morphologically similar to each other but differed from the type species of Araneus. Following our molecular phylogenetic analysis using the sequencing data of five genes, we describe a new genus, Leviaraneus n. gen., which contains these species. They are small spiders with a broad, green abdomen. Moreover, we described the unknown species as a new species, Leviaraneus halabala n. sp. Additionally, Leviaraneus noegeatus n. comb. is newly recorded from Thailand, and its male is described for the first time.
著者
小田 忠雄
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.120-133, 1981-04-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
著者
田宮 元
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度に完成した遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用のための高次元変数選択法ソフトウェアを、実際のゲノムコホートデータをテストデータとして適用して、この手法の妥当性を検証し、適宜修正を行ってきた。具体的には、前向きゲノムコホートで取得された健康診断データを応答変数として横断的解析を行い、次に、疾患二値データや前向きデータへの適用を順次試みた。手順の詳細は以下のとおり。1)環境暴露データの取り込み。宮城県住民を対象とした東北メディカル・メガバンク機構の前向きゲノムコホートで取得されていた環境暴露データについて、各変数のコーディングを行った。2)ゲノムワイドSNPジェノタイプデータの取り込み。この前向きゲノムコホートで取得されていた100万程度のSNPsのジェノタイプデータを取り込んだ。特に、SNPのクラスタリングエラーが相互作用検索時に深刻な偽陽性を生むことが知られているので、各SNPのクラスタリングに関するQCデータを利用し、低いクオリティのデータを事前に排除出来る工夫を行った。3)相互作用解析の実行。上記のデータをテストデータとして高次元変数選択法ソフトウェアにかけ、横断的な健康診断データを応答変数にして遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用の検索を実施した。これによって検出された相互作用候補を、機能的情報などから詳細にアノテーションを行い、データベース化した上で、追試研究に提供した。4)疾患二値データ(罹患・非罹患)の利用。上記集団において前向きに取得された疾患データや健康診断データを利用し、これらの応答変数に対して効果を持つ相互作用を検索し、上記の手順を繰り返すことによって、疾患感受性に寄与する相互作用候補をリストアップした。
著者
山石 季沙 松本 邦彦 澤木 昌典
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 (ISSN:1348592X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.121-124, 2022 (Released:2022-07-25)
参考文献数
4

本研究では、歴史的町並みを有する観光地において、域外資本店舗が画一的な印象を与えるファサード構成要素の状 態を明らかにすることを目的とした。評価構造を把握するため、評価グリッド法を用いた印象評価実験を行った。実験の結果、被験者は観光地景観に「特別感」と「安心感」が感じられたときに景観を「好ましい」と評価することが明らかになった。域外資本店舗による、地区のイメージと合致しない商品の取扱、写真やキャラクターを使用した過剰に内容を演出した広告とその過剰な掲示が、「宣伝が誇大だ」「工夫が感じられない」「安っぽい」と感じられ、これらの評価項目が「特別感」に反する「どこにでもある」という印象形成に寄与していることが明らかになった。
著者
Yuya Suzuki Ken-ichi Okumura
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.95-100, 2023-12-10 (Released:2023-12-10)

A coelotine species, Femoracoelotes platnicki, previously known only from Taiwan, is newly recorded from Iriomote Island, southwest Japan. The genus Femoracoelotes is characterized by the presence of a palpal femoral apophysis, the absence of a median apophysis, the absence of epigynal teeth, and broad, saclike copulatory ducts connected or overlapped medially. The morphology of F. platnicki specimens collected from Taiwan, including the type specimens are reassessed. Morphological data including variation in male palpal morphology, coloration and markings are provided on the basis of fresh specimens from Iriomote Island.
著者
松岡 俊二
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.3-9, 2022-09-29 (Released:2023-02-28)
参考文献数
31

ワシントン大学の研究グループは2020年に医学雑誌Lancet に発表した論文で,2064 年に世界人口は97 億3000 万人でピークを迎え,その後は減少へ転換するとした。ホモ・サピエンス登場から30 万年,永く続いてきた人類の膨張が終わりにさしかかっている。人口増加を前提につくられた社会経済システムの限界が明らかになり,新たな社会のデザインが問われている。本稿は,人類社会が人口減少・縮小社会へ転換することが,サステナビリティ研究にとって何を意味し,どのような転換への「備え」が必要なのかを論じる。特に,人口減少緩和政策としての人口政策についてフランスと日本の事例を論じ,人口減少適応政策を形成することの難しさをシルバー民主主義論に注目して考察する。
著者
磯村 拓哉
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、我々が近年開発したリバースエンジニアリング手法に基づき、様々な生物種の神経活動データを統一的に説明・予測可能な普遍的な生成モデル「基盤脳モデル」を創出する。この基盤脳モデルは自由エネルギー原理に従う脳型人工知能であり、原理的には、様々なタスク下の神経活動や行動を予測できると期待される。予測が可能であるかをテストすることで自由エネルギー原理や能動的推論の妥当性の検証を行い、予測と行動の統一理論の構築を目指す。