著者
辻 慎太郎 安部 恵子 臼井 達矢 涌井 忠昭
出版者
日本教育医学会
雑誌
教育医学 (ISSN:02850990)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.145-156, 2023-10-30 (Released:2023-11-01)
参考文献数
46

In recent years, the action of plantar and toes to play an important role in the movement ability of the elderly has been confirmed. Moreover, exercise using the toes is effective in improving the walking and balance of the elderly, and the need for toe exercise for the elderly is increasing. To date, there have been many reports verifying the effect of toe exercise over a long period of time, and there are few studies examining the immediate effect of toe exercise in the elderly. In this study, we examined the immediate effect of plantar and toe flexor exercise on the movement ability of the elderly. The study comprised 16 participants (3 male and 13 female; average age, 75.1±5.0 years). A crossover study was conducted by dividing the subjects into two conditions: control, and plantar and toe flexor exercise conditions. For plantar and toe flexor exercise, we performed a total of four types of exercises: (1) static stretching of the plantar and toe (2) towel gathering, (3) rock scissors and paper exercise, and (4) stepping on the foot plate. Additionally, toe flexor strength, toe’s ten-second test, 5 m walking time, 3 m zigzag walking time and TUG were measured before and after intervention to verify the immediate effects of plantar and toe flexor exercise. A two-way analysis of variance with both factors corresponding to each other showed that the toe flexor strength, toe's ten-second test, 5 m walking time, 3 m zigzag walking, and TUG measurement items were comparable between the two conditions after intervention. A significant difference was confirmed between the plantar and toe flexor exercise and control conditions. The results indicated that plantar and toe flexor exercise had an immediate effect on toe flexor strength, toe dexterity, and movement ability in straight line walking and direction changes.
著者
牛田 享宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.507-511, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
7

痛みは誰しもが経験するものであるが,病気やけがが治っても痛みが残るなどすると非常に苦しい経験が続いてしまうことになる.国際疼痛学会(IASP)は3~6カ月続く痛みを慢性疼痛と定義しているが,長引いているケースにおいては器質的な要因だけでなく心理社会的な要因も関与して持続することも多い.そのため世界保健機関(WHO)とIASPでは国際疾病分類(ICD-11)の中でその分類を定めており,骨関節あるいは神経系の問題に直接的に起因するタイプを慢性二次性疼痛症候群とし,器質的な要因があってもそれだけで説明が困難なものを慢性一次性疼痛と分類している.慢性二次性疼痛症候群のメカニズムについては神経障害性疼痛や侵害受容性疼痛などのモデル動物実験などを通じて明らかにされてきている.一方で慢性一次性疼痛は臨床的には線維筋痛症,慢性腰痛,過敏性腸症候群,舌痛症などがカテゴリされるが,これらについては多彩な養育経験や環境因子などが関与しており少なからず器質的な要因もかかわって,神経系の感作が引き起こされる痛覚変調性疼痛の病態を形成していることも多い.現在,痛覚変調性疼痛についても基礎医学的なメカニズムの解明が進んできているところであり,それらを包括した形での治療の方向性の模索が必要と考えられる.
著者
山本 裕康
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.960-966, 2015-05-10 (Released:2016-05-10)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)では,エリスロポエチン欠乏を主因として貧血をしばしば合併する.また,鉄の代謝に影響を与える要因が多く,その利用効率を低下させることでヘモグロビン合成は阻害される.赤血球造血刺激因子(erythropoiesis stimulating agent:ESA)療法の進歩により,CKDに伴う貧血治療は大きく前進したが,目標Hb値の設定や鉄補充療法についてはまだ課題も多い.
著者
加藤 甲
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.125-131, 2020 (Released:2020-02-25)
参考文献数
2
被引用文献数
1

手術記録作成は診療録記載と同様に外科医にとって最も重要な業務である. ビデオ録画などの記録媒体が発達した今日では, パソコンから電子画像を手術記録に貼付する外科医も少なくない. しかしながら, 術野を手描きイラストレーションで表現する重要性は解剖学的位置関係の把握, 術野観察力の鍛錬, 手術手技の復習と今後の工夫に寄与するところ大である. 本稿では著者のイラストレーションを用いた手術記録を提示してその実際を紹介する.
著者
森脇 亮
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.57-67, 2016-01-05 (Released:2016-04-15)
参考文献数
52

渦相関法を用いた地表面フラックスに関する研究は平原・海上・森林といったフィールドにおいて先行して行われてきたが,1990年代以降,都市域においても渦相関法を用いたフラックスの観測事例が増えてきた.フラックス観測データの蓄積により都市-大気間のエネルギー収支の定量的な把握が進んでいるが,一方,都市における熱収支は裸地や植生におけるそれとは異なる取り扱いが必要であることも明らかになっている.本稿では都市接地層で行われるフラックス観測について,適切な観測サイトの選定方法,観測高度の設定,観測を行う際に留意すべき事項,熱収支の考え方について解説する.また熱収支・CO2 フラックスの時間・季節変化の特徴,発生/吸収源などについて,これまで得られている知見を,著者らの研究を中心にまとめた.最後に,都市版のフラックスネットとして立ち上げられたUrban Flux Networkについて紹介しながら,近年の研究動向などを解説する.
著者
上條 達也 石本 幸暉 松嶋 達也 岩澤 有祐 松尾 豊
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2G1OS21c01, 2023 (Released:2023-07-10)

人間は環境の構造を理解し,複数モダリティからなる感覚器官からの情報を処理することで実世界で様々なスキルを獲得できる.人間のように多様なスキルを自律的に獲得できる知能ロボットの実現を目指す上で,複数モダリティからなるセンサ情報から世界モデルを学習し,モデルベース強化学習を行う手法は,自然なアプローチである.本稿では,ロボットアームのPick and Placeタスクにおいて,世界モデルに基づくモデルベース強化学習手法であるDreamerアルゴリズムを用いて,実ロボットアームの手先に触覚センサを取り付け,観測に用いることで,学習にかかる時間が短縮されることを検証する.また,実ロボットを用いて深層強化学習によりマニピュレーションタスクを学習させる際の学習環境について考察を行う.
著者
鹿野 和彦 大口 健志 林 信太郎 宇都 浩三 檀原 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.373-396, 2002-11-29 (Released:2017-03-20)
参考文献数
82
被引用文献数
5

An alkali-rhyolite tuff-ring is newly identified in the western end of the Oga Peninsula and named as Toga volcano in this paper. The existence of this maar-type volcano at the Toga Bay has been suspected for a long time because of the elliptical embayment reminiscent of a maar and the distribution of the Toga Pumice localized along the bay coast. The Toga Pumice is cornposed mainly of pumice and non- to poorly-vesicular glass shards, but many pumices of lapilli size are rounded and fines are poor giving a sandy epiclastic appearance to the deposit. In our latest survey along the bay coast, the Toga Pumice is found to be in direct contact with the basement rocks. The contact steeply inclines at 40-50° and envelopes an elliptical area 2.0 km×2.4 km covering the bay and bay coast to form a funnel-shape structure. The basement rocks at the contact are brecciated to a depth of several tens of centimeters, or collapsed into fragments to be contained in the Toga Pumice. The beds inside the inferred crater incline toward the center of the crater at 10-30° or much smaller angles, presumably reflecting a shallow concave structure infilling the more steeply sided crater. The deposit is thinly to thickly bedded to be parallel- to wavy- or cross-stratified, inversely to normally graded with many furrows, rip-up clasts and load casts, and is sorted as well as fines-depleted pyroclastic flow deposits and/or pyroclastic surge deposits. These features are characterisitic to turbidites and indicate the place of emplacement was filled with water. Constituent glass shards are, however, commonly platy or blocky and likely to be phreatomagmatic in origin, and pumice lapilli are interpreted to have been originally angular but rounded by repeated entrainment and abrasion in multiple phreatomagmatic eruptions and succeeding emplacement in the crater lake. A pyroclastic surge deposit (Oga Pumice Tuff) correlative in composition and age to the Toga Pumice occurs at Anden and Wakimoto, 11 km and 15 km east of Toga, respectively. The juvenile pumice lapilli are angular to subrounded, in contrast with the pumice lapilli of the Toga Pumice.
著者
河村 優詞
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-22, 2019-09-30 (Released:2020-09-30)
参考文献数
29
被引用文献数
3

研究の目的:特別支援学級在籍児童の漢字学習において、5種類の学習方法が漢字の書字獲得に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。研究計画:操作交代デザインを使用した。場面:小学校の教室で実施した。参加者:特別支援学級に在籍する7名の児童であった。独立変数の操作:空中に指で漢字を書く「空書きによる同時再生」、紙面に指で漢字を書く「指書きによる同時再生」、薄い灰色の線を鉛筆でなぞる「同時再生+薄線プロンプト」、手本を鉛筆で書き写す「同時再生」、手本を隠して鉛筆で書く「遅延再生」の5種類の学習方法を5試行ごとに交代で実施した。学習は1日につき漢字三つであり、一つの漢字につき5回ずつ筆記させた。行動の指標:学習直後、翌日、1週間後の書きテストにおける再生成績を比較した。結果:同時再生よりも遅延再生の再生成績が高いことが多かった。同時再生+薄線プロンプトでは同時再生よりも再生成績が低いケースがあった。空書き及び指書きによる同時再生の再生成績は低いことが多かった。結論:漢字を一時的に記憶して筆記することが有効であった。書字獲得に対する筆跡のフィードバックの重要性が示唆された。しかし、全学習方法で1日~1週間程度たつと大きく再生成績が低下することが多く、課題として残った。
著者
菅野 一輝 篠原 隆佑 中島 颯大 村岡 敬子 崎谷 和貴
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
河川技術論文集 (ISSN:24366714)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.233-238, 2023 (Released:2023-10-31)
参考文献数
20

汽水域における環境DNA 調査では,捕獲調査との一致率が河川淡水域と比べて低いことが知られており,潮汐の影響や多様な岸際環境から地区を代表する採水箇所・採水タイミングの設定が課題である.本研究では,汽水域における調査精度を向上に資する情報を得るため,汽水域における時空間的な環境DNA の検出特性を把握することを目的とした.那珂川河口域の2km 区間内に9 地点を設定し,潮汐の異なる4 回(下げ潮,干潮,上げ潮,満潮)の採水を行い,MiFish法による環境DNA メタバーコーディングを実施した.検出された魚類相の類似性をNMDS により可視化した結果,下げ潮・干潮では地点間の魚類相が類似し,上げ潮・満潮では地点ばらつきが大きくなり,採水場所の空間的な違いより,潮汐タイミングによる時間的な違いが,環境DNA の検出種に大きな影響を与えることが分かった.また,検出種数は,干潮が満潮よりも有意に多く(P < 0.01),干潮と上げ潮・下げ潮の間には差がなかったことから,汽水域における採水は,満潮時を避け,干潮時を中心とした採水を行うことで,多くの魚種が検出しやすいと考えられた.
著者
大石 不二夫
出版者
マテリアルライフ学会
雑誌
マテリアルライフ (ISSN:09153594)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.93-104, 1999-07-30 (Released:2011-04-19)
参考文献数
11
被引用文献数
2

1 0 0 0 OA モンゴルの酒

著者
吉田 元
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.93, no.11, pp.878-884, 1998-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
7

モンゴルの酒といえば独特の馬乳酒が思い浮かべられる。最近モンゴルへ行かれて, 馬乳酒やそのほかのお酒についての製造状況を見てこられた筆者に, 自家醸造や工場生産の様子, 製晶の成分や香味, 製造や流通の社会状況など, モンゴルのお酒事情について幅広く紹介していただいた。
著者
廣畑 俊成
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.288-295, 2015-12-30 (Released:2016-03-31)
参考文献数
11

神経ベーチェット病は急性型と慢性進行型の2つに分類される.急性型は急性ないし亜急性に発症した髄膜脳炎の形をとり,髄液の細胞数が著明に上昇し,時にMRIのフレア画像で高信号域を認める.一方,慢性進行型では,認知症様の精神神経症状や失調性歩行が徐々に進行し,患者はついには廃人同様になってしまう.この病型では,髄液中のIL-6が持続的に異常高値を示すとともにMRIでは脳幹部の萎縮を認める.稀に両者が合併することもあることから(acute on chronic),両者の病態生理が異なることがわかる.慢性進行型の発症に先立って急性型の発作を起こしている場合が少なくないことから,急性型の発作がおさまった段階で,一度髄液IL-6をチェックしておくことが推奨される.シクロスポリンを投与している患者の約20%に急性の炎症性神経病変を生じるが,これは急性型神経ベーチェット病と同一であると考えられる.慢性進行型では,男性,喫煙,HLA-B51の頻度が高い. 急性型の発作急性期の治療の中心はステロイドである.急性型の発作予防には,コルヒチンの有用性が示唆されている.シクロスポリンによって誘発された急性型ではシクロスポチンの中止でほぼ完全に再発は抑制される.一方,慢性進行型ではまずメトトレキサートによる治療を行うべきであり,効果不十分な場合は,なるべく早くインフリキシマブの追加併用を行う必要がある.ステロイドの大量療法やアザチオプリン/シクロフォスファミドは無効である.
著者
塩谷 格 川瀬 恒男
出版者
Japanese Society of Breeding
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.57-66, 1989-03-01 (Released:2008-04-18)
参考文献数
21
被引用文献数
39 47

サツマイモに最も近縁な種Ipomoea trifidaは二倍体から六倍体をふくむ倍数体複合種である.I. trifidaの二倍体(K221,B1B1,2n=30)と四倍体(K223,B2B2B2B2,2n=60)をもちいて合成した六倍体(SH,2n=90)は,サツマイモ(2n=6x=90)と同じゲノム構成B1B1B2B2B2B2をもつとされている. I. trifidaの自然三倍体(K222,2n=45)の相互交雑よつ生じた誘導六倍体(DH,2n=90)および自然六倍体(K123,2n=90)のゲノム構造を明らかにするため,DH,K123,SH,サツマイモの間のF1雑種,またそれらの戻し交雑(BC1)と復交雑の後代植物の減数分裂・第一分裂中期の染色体体合を観察した.これら六倍体には1ゲノムが4重になっている部分があると推察された.そこで,両親のもつ4重ゲノム間の相同性を確かめるため,BC,や複交雑からの後代をも供試された(表1).その結果,誘導六倍体と自然六倍体K123は,合成六倍体やサツマイモと同じゲノム構造をもつことが判明した(表3).