著者
黒丸 尊治 中井 吉英
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.127-133, 1997-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

サポーティブセラピーとは, その人の問題解決能力をうまく引き出し, 自分で問題解決ができるよう援助することで, QOLを高めようとする治療法である。ここでは, われわれが行っているがん患者のグループ療法や個人療法でのサポーティブセラピーの実際について述べた。これには(1)信頼関係の構築, (2)問題点の明確化へのサポート, (3)問題解決のためのサポート, がある。また(3)には, がんの代替療法といった情報提供によるサポートや, その人の心理的枠組みを変換することで, 問題を受け入れ可能なものに変える肯定的視点からのサポート, 死や再発の不安への対処法を示した実存的視点からのサポートがある。最後にPILテストを通して, がん患者の「生きがい度」についても述べた。
著者
Masashi Ito Kozo Morimoto Takashi Ohfuji Akiko Miyabayashi Keiko Wakabayashi Hiroyuki Yamada Minako Hijikata Naoto Keicho
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
pp.2565-23, (Released:2023-10-06)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Primary ciliary dyskinesia (PCD) is a genetic disease characterized by motile cilia dysfunction, mostly inherited in an autosomal recessive or X-linked manner. We herein report a 29-year-old woman with PCD caused by a heterozygous frameshift mutation due to a single nucleotide deletion in exon 3 of FOXJ1. Heterozygous de novo mutations in FOXJ1 have been reported as an autosomal-dominant cause of PCD. The patient had situs inversus, congenital heart disease, infertility, and hydrocephalus. However, the nasal nitric oxide level was normal. Long-term macrolide therapy was remarkably effective. This is the first case report of PCD caused by a FOXJ1 variant in Japan.
著者
Rebecca L. Mccarthy Marianne De brito Edel O’toole
出版者
The Keio Journal of Medicine
雑誌
The Keio Journal of Medicine (ISSN:00229717)
巻号頁・発行日
pp.2023-0012-IR, (Released:2023-09-28)
参考文献数
61

Pachyonychia congenita (PC) is a rare, autosomal dominant inherited disorder of keratinization that is characterized by a triad of focal palmoplantar keratoderma, plantar pain, and hypertrophic nail dystrophy. It can be debilitating, causing significantly impaired mobility. PC is diagnosed clinically alongside identification of a heterozygous pathogenic mutation in one of five keratin genes: KRT6A, KRT6B, KRT6C, KRT16, or KRT17. Each keratin gene mutation is associated with a distinct clinical phenotype, with variable age of onset and additional features, which has allowed classification by genotype. Additional features include pilosebaceous cysts, follicular hyperkeratosis, natal teeth, oral leukokeratosis, hidradenitis suppurativa, itching, and neurovascular structures. Although classed as rare, the prevalence of PC is likely to be underestimated. There is no cure or specific treatment for PC at present. Current treatments are limited to conservative measures to reduce plantar friction and trauma, mechanical debridement, topical treatments, and treatments for associated features or complications, most commonly infection. However, through active research in collaboration with PC Project, a patient-advocacy group, and the International PC Research Registry, a global registry of PC patients, there are now many new potential therapeutic options on the horizon. This review summarizes the clinical features associated with PC and highlights the current and future treatment of its manifestations.
著者
黒木 勝久 橋口 拓勇 榊原 陽一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.511-519, 2020-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
49

生体内に存在する遊離の硫酸イオン(SO42−)は生体外異物や内在性ホルモン,タンパク質などさまざまな生理活性物質の機能制御に役立っている.硫酸基を生理活性物質に付加する役割をもつ硫酸転移酵素は大腸菌などの細菌から,真菌類,植物,魚類,哺乳動物など生物界に広く存在している.特に,植物モデルであるシロイヌナズナや魚モデルであるゼブラフィッシュ,哺乳動物モデルであるマウスおよびヒトでの研究が精力的に行われてきている.本稿では硫酸転移酵素の種特異的な機能や普遍的な機能に関して概説するとともに,植物,魚類,哺乳類における硫酸転移酵素の最近の知見を紹介する.また,最近発見されたα,β-不飽和カルボニルを標的とする第3の硫酸化反応に関しても紹介する.
著者
藤澤 宏幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会宮城県理学療法士会
雑誌
理学療法の歩み (ISSN:09172688)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.17-25, 2020 (Released:2020-05-02)
参考文献数
27
被引用文献数
2

日本に理学療法士が誕生してから半世紀を越えた。国家資格として専門職化を進めるために多くの努力が払われてきたが,どの程度専門職としての立場を確立してきたのであろうか。2020年度に20年ぶりとなる養成課程の指定規則が改正されることになったが,臨床実習指導者の要件がより厳格となり,後進育成のためにこれまで以上に有資格者の研鑽が必要となった。これを機に臨床実習の受け入れを終了しようと考える実習施設が出てくるのではないかという危惧が養成校側から聞こえてくる。しかし,自律性の観点からすると,「成員補充の自足性」が専門職を専門職たらしめている重要な要素であることを忘れてはならない。次の時代を担う後進の育成を,養成校と臨床家が連携して担うことが,理学療法士の専門職としての立場を強めるのである。本論文においては,専門職の定義を概観したのち,自律性の観点から理学療法士の専門性を高める方策と,臨床技術を伝承するための臨床教授法について論考する。
著者
水門 善之 田邊 洋人
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.FIN-029, pp.09-13, 2022-10-08 (Released:2022-10-01)

日本における製造業の基調的な生産動向を捉える上で,自動車工業の生産量を把握することは有用である.本研究では,携帯電話端末の位置情報(GPS 情報)を用いて計測した,自動車メーカーの生産拠点における時間帯ごとの滞在人数を基に,自動車生産量のナウキャスティング(即時性の高い推計)を行った.更に本研究では,同情報が示す自動車メーカー各社の生産状況の趨勢に基づいて株式投資戦略を構築した場合,堅調なリターンが得られることを確認した.また,比較検証のため,各社の株価の趨勢(モメンタム情報)に基づいて同戦略を構築した場合には,安定的なリターンは得られなかった.これらの検証結果は,株式投資において,携帯電話の位置情報に基づく即時性の高い生産量推計の有効性を示す内容と言えよう.
著者
宮田 晃志 坂東 寛 合田 光寛 中馬 真幸 新田 侑生 田崎 嘉一 吉岡 俊彦 小川 淳 座間味 義人 濱野 裕章 石澤 有紀 石澤 啓介
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-P-R-2, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】てんかんおよび双極性障害の維持療法に適応を有するラモトリギンは、副作用として重篤な皮膚障害が現れることがあり、死亡に至った例も報告されたことから2015年に安全性速報で注意喚起がなされた。ラモトリギン誘発皮膚障害は、血中濃度の急激な上昇が関与しており、代謝経路に関与するUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)阻害作用を示すバルプロ酸との併用でリスクが高いことが知られている。しかし、UGT阻害作用を示す薬剤はバルプロ酸の他にも睡眠薬、鎮痛薬、免疫抑制薬など多数存在するにも関わらず、それらの薬剤併用によるラモトリギン誘発皮膚障害への影響は不明である。本研究では、医療ビッグデータ解析を用いてUGT阻害作用を示す薬剤がラモトリギン誘発皮膚障害の報告オッズ比に与える影響を検討した。さらに、徳島大学病院の病院診療情報を用いて、併用薬によるラモトリギンの皮膚障害リスクの変化を検討した。【方法】大規模副作用症例報告データベース(FAERS:FDA Adverse Event Reporting System)を用いて、ラモトリギンとの併用により皮膚障害報告数を上昇させる薬剤を探索した。さらに徳島大学病院診療録より、ラモトリギン服用を開始した患者を対象とし、ラモトリギンの投与量、併用薬、皮膚障害の有無などを調査した。【結果】FAERS解析から、UGT阻害作用を示す医薬品のうち、ラモトリギンとの併用により皮膚障害リスクの上昇が示唆される薬剤として、バルプロ酸(ROR: 2.98, 95%CI: 2.63-3.37)、フルニトラゼパム(ROR: 5.93, 95%CI: 4.33-8.14)およびニトラゼパム(ROR: 2.09, 95%CI: 1.24-3.51)が抽出された。徳島大学病院診療情報を用いた後方視的観察研究の結果、ラモトリギン服用が開始された患者の内、20%程度で皮膚障害が認められ、フルニトラゼパム併用患者では皮膚障害発生頻度が上昇する傾向が認められた。【考察】フルニトラゼパムおよびニトラゼパムは、UGT阻害作用を示す薬剤であることから、ラモトリギンの血中濃度に影響し、ラモトリギンの皮膚障害リスクを上昇させている可能性がある。また、睡眠薬であることから精神科領域で併用する可能性があり、睡眠薬の選択や併用時の副作用モニタリングに注意を要すると考えられる。
著者
坂東 寛
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

ラモトリギンは、抗てんかん薬および双極性障害の再燃再発予防薬として幅広く使用されている。一方で、副作用に重篤な皮膚障害があり、安全性速報で注意喚起がなされた。申請者は医療ビッグデータ解析により、ラモトリギンの皮膚障害リスクを上昇させる薬剤を見出した。本研究の目的は、候補薬剤の併用によるラモトリギン血中濃度および皮膚障害発現への影響を電子カルテ調査により明らかにするとともに、in vitroおよびin vivo実験により基礎的知見を集積することで、薬剤間の相互作用を明らかにし、適正で安全な薬物療法に寄与することである。
著者
森本 直記 中務 真人 森田 航
出版者
京都大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

ホモ・サピエンス(現生人類)に至った系統進化において、類人猿・人類段階の主要イベントは常にアフリカで起こったと主流仮説では考えられている。その一方、過去1600万年にわたり、様々な類人猿・人類がアフリカからの拡散を繰り返したことが、古生物地理から示唆されている。この拡散過程を明らかにするには、アフリカとユーラシアをつなぐ回廊地帯の化石資料が鍵となる。本研究では、回廊地帯の中でも有望な化石産地のひとつであるアナトリア半島(トルコ共和国)において、人類・類人猿化石の発掘調査行う。トルコ側研究者との交流を活性化させ、国際共同研究により新規化石サイトを開拓する。
著者
大坪 紘子 秋本 周 堀 繁
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.769-772, 2002-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1

安藤広重作「東海道五十三次」8種計418枚の絵画を分析し, 安藤広重の描く道路植栽の特徴を明らかにした。その結果, 街路樹型の植栽は無く, それに近い等間隔の列植植栽形式も少ないことがわかった。列植よりも, 単木植栽が多く, しかもそれらは渡し場, 橋塚, 高札, 茶屋など重要な道路施設とセットになっていて, それらの存在を植栽が強調していること。また, それらの単木, 従って大事な場所や施設の周辺には, ほかの植栽が多いか少なく, その結果, それら重要な地物がより強調されていること。さらに, それらの単木は樹姿良くその結果単木は単に要所を強調しているだけでなく, 印象深い風景に仕立て上げられていることがわかった。
著者
萬谷 隆一 堀田 誠 鈴木 渉 内野 駿介
出版者
小学校英語教育学会
雑誌
小学校英語教育学会誌 (ISSN:13489275)
巻号頁・発行日
vol.22, no.01, pp.200-215, 2022-03-20 (Released:2023-04-01)
参考文献数
110
被引用文献数
1

本研究の目的は,小学校英語教育学会での研究のあゆみを整理して俯瞰することで,これまでの研 究の成果と課題を明らかにし,今後の方向性を示唆することである。本研究においては小学校英語教 育学会の紀要・学会誌の論文を整理分類し,客観的にその傾向を見出すことに努めながらも,学問的 意義・実践的な意義の視点からの解釈を含めたナラティブレビューの手法を取った。『小学校英語教育 学会紀要』(第 1 号~第 11 号)及び JES Journal(Vol. 12~Vol. 21)に収録されている全論文(N = 242) を分析対象とし,タグ付けにより 19 の研究分野に分類した。また発行時期を,2008 年以前,2009~ 2017 年,2018 年以降の 3 期に分け検討した。分類の結果,最も多かったのは「教材」であり,次いで 「第二言語習得」が多かった。一方で,論文数が少なかったのは「特別支援教育」と「教師の発話」 であった。論文数の増減傾向から,4 つのタイプの研究分野が見受けられた。1)どの期間においても 一定の論文が投稿されていたカテゴリ(例:「指導法」「指導者」),2)どの期間においても論文数が少 なかったカテゴリ(例:「聞くこと」,「教師の発話」,「特別支援教育」),3)時代を経るにしたがって 論文数が増えているカテゴリ(例:「第二言語習得」,「教材」,「情意」),4)時代を経るにしたがって 論文数が減っているカテゴリ(例:「教員養成・研修」,「小中連携」)が見受けられた。
著者
Yuichiro Nishida Minako Iyadomi Yasuki Higaki Hiroaki Tanaka Yoshiaki Kondo Hiromi Otsubo Mikako Horita Megumi Hara Keitaro Tanaka
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.359-366, 2015 (Released:2015-02-15)
参考文献数
45
被引用文献数
10 10

Objective A lower frequency for the peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α (PPARGC1A) Ser482 allele has been reported in elite-level endurance athletes among Caucasians, although this gene polymorphism has not been found to be associated with aerobic capacity in German, Dutch or Chinese populations. The purpose of the current study was to examine the associations between the Gly482Ser polymorphism and aerobic fitness in 112 Japanese middle-aged men. Methods The PPARGC1AGly482Ser polymorphism was identified according to a TaqMan® SNP genotyping assay. Habitual physical activity was objectively measured using an accelerometer. The lactate threshold (LT), an index of aerobic fitness, was measured based on a submaximal graded exercise test performed on an electric cycle ergometer. The association between the LT and the Gly482Ser polymorphism was assessed according to a multiple regression analysis and analysis of covariance, with adjustment for potential confounders (age, body mass index, cigarette smoking, physical activity level and regular exercise). Results A significant association was observed between the PPARGC1AGly482Ser polymorphism and LT, as carriers of the Ser482 had higher LT values than the Gly482 carriers. Conclusion The current results suggest that the PPARGC1ASer482 allele is associated with a higher aerobic capacity in Japanese middle-aged men.
著者
内藤 武七郎
出版者
The Textile Machinery Society of Japan
雑誌
繊維機械学会誌 (ISSN:03710580)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.T161-T172, 1994-07-25 (Released:2009-10-27)
参考文献数
12

目的 周波数の中音域に吸音率のピークを持つカーペットに関し, その層状構造と吸音特性との関係, およびこの現象の周波数特性面における理論的解明を行う.成果 周波数の中音域に吸音率のピークを持つカーペットは, 敷設された状態で最下層に織物, 不織布などの繊維集合体を持つカーペット特有の吸音特性であることを確認した.この特性は板 (膜) 振動型の共鳴振動による吸音が加わった吸音特性であることを理論的に解明した.このときの共鳴周波数は, 理論式のパラメータとしてパイルを含めたプライマリバッキング層の単位面積当たりの質量を板 (膜) の質量, カーペット最下層の繊維集合体からなるセカンダリバッキング層およびアンダーレイの厚さを板 (膜) 背後の空気層の厚さとして捉えれば, 板 (膜) 振動型の共鳴周波数の理論式が適用できることが分かった.
著者
山本 一貴
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.943, 2023 (Released:2023-10-01)
参考文献数
4

タンパク質分解誘導剤は,標的タンパク質に結合してその機能を低下させる従来の阻害剤とは異なり,標的タンパク質を化学的にノックダウンすることから,新たな創薬モダリティとして注目されている.Proteolysis targeting chimera(PROTAC)は,分子内にE3リガーゼおよび標的分子への結合部位を有し,強制的に標的タンパク質をユビキチン化することで分解を誘導する.PROTACは,触媒的に働くことも利点の1つであり,低用量化による毒性低減も期待できる.しかし,PROTACの開発においては,標的バインダーの修飾位置やリンカーの長さ・形状の最適化には指針がなく,標的によってオーダーメイドする必要があり,効率化が求められている.今回,ChenらのDNA encoded library(DEL)を用いたPROTAC最適化のアプローチについて紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Sakamoto K. M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 98, 8554-8559(2001).2) Brenner S., Lerner R. A., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 89, 5381-5383(1992).3) Chen Q. et al., ACS Chem. Biol., 18, 25-33 (2023).4) Winter G. E. et al., Science, 348, 1376-1381(2015).
著者
金 蘭美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.102-112, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
14

本稿では,母語話者と学習者の複合助詞「にとって」の使用実態を比較することで,学習者の誤用の原因を調べた。その結果,学習者の誤用の原因として,①「xにとってAはB」における「x」が「B」の「主体」ではなく「受け手」であることへの無理解,②「AはB」という意味づけ・位置づけを行う意義が見出せない場合の「にとって」の使用,③「x」と「A」がコミットしていることへの無理解,が主な原因であることが明らかになった。特に①の「x」を「主体」と捉えることによって起こる誤用の場合,その多くが「B」に動詞述語を使用しているものが多く,結果として「A」が欠如している文が多いことを確認した。③に関しては,「私にとって……」と「私は~と思う」との混同という形で現れており,「x(私)」と解釈の対象である「A」が直接関わりのある事柄でなければ「にとって」が生起しない,という成立条件を理解していないことが原因であることが明らかになった。
著者
松田修著
出版者
右文書院
巻号頁・発行日
2002