著者
横山 泰行
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

重度化・重複化している精神遅滞児になわとび運動を定着させるためには,きめの細かい指導案が不可欠である.この要望に対して,現在のところ唯一満足のゆく指導案を公表しているのは,高畑の著書「フ-プとびなわでなわとびは誰でも跳ばせられる」である.本研究では,「フ-プとびなわ運動」の指導ステップを紹介し,次に,高畑の実践報告書「フ-プとびなわ驚異の教育力」を文献資料として活用している.つまり,重度の精神発達遅滞で,自閉的傾向の認められる事例児のフ-プとびなわ運動に見られるマスター過程を克明に追跡し,その過程で本人の心身(肥満問題や身体活動量・運動能力問題など),家庭の両親,指導者,クラスの仲間に及ぼした影響を要約をするものである.この事例児は「フ-プとびなわ運動」で肥満解消に成功することはできなかったが,肥満程度の昂進しやすい思春期に,肥満の最重度化にブレーキを掛けることに成功したケースである.数百回に及ぶなわとび運動の消費エネルギーも,重度肥満の程度を大幅に軽減できる身体活動量とはならなかった.本研究の後半は,小学部の頃から重度肥満であった事例児が中学部において,急速に肥満を解消していった過程を詳細に追跡している.血液の生化学的検査により,このままの状態が続けば,事例児の病気は避けられないといった診断結果が肥満解消を促す最大の動因となった.肥満解消の原因は,父親が学校と緊密な連絡を取りながら,家庭での徹底した食事管理,掃除や散歩の活用,学校側での定期的な身体測定,食事量・運動量のチェックと是正,家族に対する正しい肥満知識の普及,両親を説得して肥満治療にあたった点にあるといえよう.また,嘔吐による体の変調も急激に体重を減らした要因であった.
著者
姫田 麻利子 パンジェ マリー=フランソワーズ パンジェ マリー=フランソワーズ
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本の初習外国語教育が、目標言語話者との出会いが差し迫ったものではない中で異文化間能力育成の結びつきを具体的にするには、「異文化間の気づき」能力の育成と実際的評価が必要である。本研究では、異文化体験時の主観的記述を、自省と「異文化間の気づき」能力証明、将来的発展の道標として有機的に組織し、また評価対象として読む他者の存在を想定した有機性も持たせるための指示文を備えた教材を日本人大学生向けに提案した。
著者
森田 啓
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、1年目からの継続で、実際に運動遊び指向を指導方針に置くクラブ(競技志向が比較的弱い)に所属するジュニア・ラグビー参加者を対象に調査活動を行った。調査の結果については、集計および分析を進め、近く公表する予定である。実際のプログラム作成の過程で、身体接触とともに、普段の日常生活では体験しない浮遊感覚を体験できるものとしてスノーボードに着目し、スノーボード体験者にも調査活動を実施した。本研究で着目した「キレ」の状態は、深層心理学では、日常生活とは異なるこころの状態(変性意識状態)のひとつと考え、この状態では無意識領域の働きが活性化し、私たちの日常の合理的な論法が通用しない独特な思考様式が浮かび上がるとする。「無意識の教育」のためには身体が直接感じる「感情」「感覚」を教材化、プログラム化することとなる。身体が直接感じる「感情」「感覚」は「無意識」の領域に属すると考えられるからである。本研究で行ってきた調査においては、これらを言語化し、他者との対話の中で浮かび上がらせることによって、「無意識の力」が存在することを考えるきっかけとなるよう工夫してきた。普段は意識できない、あるいは自分にはどうすることもできない「無意識」の領域があることが認識・理解できれば、次の段階、つまり「無意識」とうまく付き合うこと、それをいかにコントロールするかを考えることが可能となる。本研究において、他者との身体接触やスノーボードなどの体験においては、痛い、怖い、むかつくなどの否定的感情を喚起することが可能であり、経験をつむことによってこれらの感情を抑制したり、コントロールできる可能性が示唆された。今後は、実際にさらにデータを収集し、考察を進めていきたい。
著者
松下 一信 右田 たい子 三芳 秀人 山田 守 外山 博英
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするキノプロテイン脱水素酵素である大腸菌のグルコース脱水素酵素(GDH)および酢酸菌やPseudomonasに存在する異なる2種類のアルコール脱水素酵素(ADH)の構造と機能を、生化学、有機化学、遺伝子工学及びX線構造解析の手法を総合的に駆使して解明することを目的とし、3年間の研究によって以下に示す研究成果を得た。1)大腸菌GDHの構造機能解析:GDHの変異体ランダム変異法と部位特異的変異法を組み合わせて調製し、細胞膜から精製したそれら変異体のキネティクス解析及び酸化還元スペクトル分析を基に、PQQの周辺で酸化反応に関与する部位と分子内電子移動反応に関与する部位について解析した。その結果とGDHモデル構造解析から、His-262、His775、Trp-404、Asp466、Asp730、さらにLys-493の機能を明かにした。2)酢酸菌ADH及び大腸菌GDHのユビキノン反応部位の解析:酢酸菌ADHにはユビキノン還元反応とは別にユビキノールを酸化する活性が存在することを発見し、その2つの部位が異なる領域に存在し、異なる立体構造をもつことを、数多くの合成フェノール系およびカプサイシン系ユビキノン阻害剤の阻害スペクトラムとユビキノン類似体の基質特異性の比較から明にした。GDHのユビキノン結合部位が膜の比較的表面に存在することも明かとなった。3)酢酸菌ADH及びPseudomonas ADHのX線構造解析:Type II ADH(ADH IIB)の結晶化とそれに続くx線結晶構造解析を行い、その構造を1.9Aレベルで解読すること成功した。また、酢酸菌の膜結合型ADHに関しては、その結晶化には成功し、部分的な解像は得られているものの、最終的な構造を得るにいたっていない。
著者
澤井 志保 暁 清文 秦 龍二 出崎 順三 朱 鵬翔
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

虚血性難聴モデル動物に骨髄造血幹細胞を用いた再生治療を試みた。内耳虚血負荷を加えた砂ネズミに骨髄造血幹細胞を内耳に移植すると、聴性脳幹反応(ABR)の虚血性障害が有意に改善した。更に蝸牛を摘出し、有毛細胞の細胞死の有無を検討すると、幹細胞治療群で有意に内有毛細胞の虚血性細胞死が抑制されていた。次いで細胞死抑制機構における骨髄造血幹細胞の役割を検討するために、骨髄造血幹細胞を蛍光色素でラベリングし経時的に細胞動態を調べると、内耳に移植された骨髄造血幹細胞は鼓室階に留まっており、内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合した骨髄造血幹細胞は見いだせなかった。従って内耳虚血障害では、骨髄造血幹細胞が有毛細胞に再分化したり障害有毛細胞と融合して、有毛細胞を再生する可能性はほとんどないと考えられた。一方幹細胞は多分化・自己再生能以外に各種栄養因子を分泌することが知られている。そこで各種栄養因子を調べてみると、骨髄造血幹細胞治療群の蝸牛では有意にglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)のタンパク量が増大していることが明らかとなった。以上のことより、骨髄造血幹細胞は内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合するのではなく、内耳でのGDNFの発現を増大させることで虚血性内耳障害を軽減させることが明らかとなった。今回の検討では残念ながら骨髄造血幹細胞からは有毛細胞の再生は認められなかった。そこで現在有毛細胞自身の再生を目指して、胚性幹細胞を用いた分化誘導実験を行っている。これに成功すれば有毛細胞を直接再生することが可能となり、再生治療の新たな手法を開発できるものと考えられる。
著者
鳴坂 義弘 安部 洋
出版者
岡山県生物科学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

モデル実験植物から農作物への技術移管のモデルケースを提案することを目的として、ゲノム配列が明かになっているシロイヌナズナとアブラナ科作物のハクサイについて遺伝子レベルでの比較解析を行った。ハクサイの遺伝子ライブラリーを作成して2000個以上のハクサイ遺伝子を得、これら遺伝子を用いてマイクロアレイを作製し、遺伝子発現解析を行った。その結果、両植物間で機能が類似する遺伝子の存在が示唆され、技術移管に向けた重要なデータが得られた。
著者
杉本 雅樹 出崎 亮 関 修平 伊藤 洋 山本 春也 吉川 正人
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

セラミックスの原料である高分子材料の薄膜にイオンビームを照射することで、個々のイオン粒子の飛跡に沿って薄膜中に円筒形の架橋部分を形成し、それ以外の未架橋部を溶媒で除去することで直径数十ナノメートルの高分子ナノファイバーが作製できた。この原料高分子材料に、触媒能等を有する機能性金属をあらかじめ混合しておくことで、金属を含有した高分子ナノファイバーが作製可能であり、これを不活性ガス中で焼成することで、触媒金属を含有したセラミックナノファイバーが作製可能であることを明らかにした。このナノファイバーの長さ・太さ・形成数は、それぞれ高分子薄膜の厚さ、イオンビームの線エネルギー付与(単位飛跡あたり高分子材料に与えるエネルギー量)、射量(イオンビームの個数)で独立して制御可能である。また薄膜に対し、斜め45°で異なる4方向からイオンを照射することで、薄膜中でイオンの飛跡を3次元的に交錯させ、ナノファイバーを立体的に接続した3Dナノメッシュ構造が形成可能であることを明らかにした。
著者
工藤 元男
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

戦国楚の地域文化の一つとして発生した「日書」が、秦漢帝国を媒介にして、ある意味で普遍的な占卜文化として流通してゆく歴史的過程を明らかにした。またその過程で「日書」が前漢武帝期頃から弛緩・解体し始め、他の占書の中に組み込まれてゆく状況も明らかにした。このような「日書」の歴史的性格は、戦国晩期以降の郡県制の発達と連動するものであり、出張が多かった地方の郡県少吏にとって「日書」が必要不可欠な占いであったことを明らかにした。
著者
八木 厚志 都田 艶子 長渕 裕 毛利 政行 斉藤 誠慈 大中 幸三郎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

準線形放物型編微分方程式の安定性を調べる問題を,適当な関数空間における時間変数についての準線形常微分方程式の安定性を調べる問題と定式化し,次にこの常微分方程式に定常解が存在したとしてそのまわりで方程式を線形化してそれに放物型抽象方程式の理論を適用することにより定常解の漸近安定性結果を示した.すなわち,関数空間において解析半群の生成作用素A(u)を係数作用素とし,u=u(t)を未知関数とする準線形常微分方程式du/dt+Au(u)u=f(u),0<t<∞,を考え,それの一つの定常解A(u_0)u_0=f(u_0)を考えた.次に,方程式をu_0のまわりで線形化dv/dt+A(u_0)v+A(u_0)(v,u_0)-f_u(u_0)v=g(t),0<t<∞,し,このときに現れる線形化作用素A_0=A(u_0)+A_u(u_0)(・,u_0)-f_u(u_0)に着目してこの作用素がスペクトル条件{λ∈C;Reλ【greater than or equal】8}⊃σ(A_0),δ>0,をみたせば線形化方程式の基本解V(t,s),0【less than or equal】s【less than or equal】t<∞,は指数関数を用いて評価できることを示した.さらに,公式v(t)=V(t,0)v_0+∫_0^tV(t,s)g(s)dsを用いてu_0の近傍からでる解はすべて時間t→∞と共にu_0に漸近することを示した,併せてその差は時間と共に指数関数的に減衰することも示した.本研究の以上の成果により,準線形放物型方程式に対する定常解の安定性問題はその定常解の線形化作用素がスペクトル条件をみたすかどうかを調べる問題に帰着されることが一般的な枠組みの中で示されたことになる.本研究結果の応用に際しては,具体的な方程式に対してスペクトル条件がいつ成り立つかを調べる問題が生ずる.これを確かめるための一般的な判定条件は,本研究では得ることができなかった.そこで,いくつかの例について数値的にこれを確かめる試みを行い計算データを集めた.このデータから,便利な判定条件を探すのが今後の課題である.
著者
赤坂 信
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

初年度は高垣(クネ)に関する一般的知見を得るために、北海道、山形県、長野県、島根県の事例を中心に現地踏査と文献収集をおこなった。次年度は関東地方、とくに千葉県北西部に位置する江戸川低地に分布するクネについて調査を実施した。松戸市北西部から流山市南部につづく江戸川低地には、農地(畑と水田)がひろがり、微高地に立地する農家が点在している。ほぼ矩形の農家の敷地のまわりに巡らされたクネと呼ばれる刈込まれた高い生垣(高さ4.5〜6m)がみられる。今回対象地とした南北2km東西1kmの範囲では約60か所(クネの跡が認められるものも含めて)のクネが分布していることがわかった。クネを構成している樹種は、江戸川に近い方と遠い方で異なることや南向きと北向きで異なる傾向がみられた。モチノキは至る所で用いられているが、ツバキも多用されている。イヌマキは寒さと乾燥に弱いため、北部や江戸川に近い方にはみられない。全方位ともすべてツバキというクネもあるが、方位によって樹種をかえているものがほとんどである。南側にモチノキ、北側にツバキあるいはケヤキ、そして枯れあがった部分の下にイヌマキを用いているものがみられる。農家は戦後に入植したところもあるが、古いところで150年から500年前からの入植という。クネの手入れは自分でやるところと植木職に委託するところがある。年1回の手入れ(刈込み)で植木職10人手間(1万6千円1人)というコストである。高い位置での作業なので、職人も若いもののなり手がいないということである。後継者の不足は同じような理由で島根県出雲地方でも同様であった。
著者
倉橋 正恵
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

世界最大規模を誇るボストン美術館浮世絵版画コレクションの中で、その大部分を占める歌川派役者絵のうち4850点を整理・考証・目録化した。さらに、コレクションのデータベースを構築し、当該館のHP上でのデータベース公開にデータを組み込む事によって世界的な浮世絵研究、歌舞伎研究の基礎を整え、今後の研究発展のための土台を築いた。
著者
金子 晃
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は偏微分方程式とトモグラフィに関連した数学の問題の理論的研究と計算機を援用した実践研究を主題とした継続的なものであり,今期の科学研究費受領期間中においては,主として以下のような研究を行い,成果を得た.(1)冪型の非線型項を持つ非線型熱方程式に対する藤田型の爆発の臨界指数は,錐の開きを識別できたが,放物型や柱状などのさらに狭い領域に対しては,有界領域との区別さえできない.これに対し,対数型の非線型項を導入すると,これらが区別できることを期待して,その一般論を構築した.特に,log uと1/log uを補間した函数logg uのp冪とuの積の形の非線型項に対して,任意の領域においてpに対する爆発の臨界指数が確定することを示した.具体的な領域に対するこの新しい臨界指数の決定は将来の課題として残された.(2)平面2値画像の2方向投影データからの再構成は,ほとんどの場合に一意性が無く,得られる解の関係や,よい条件を持つ解の探索はあまり明らかにされていない.本研究では,スイッチング演算により解の集合に有向グラフの構造を与え,その諸性質を調べることで,この問題への新たな接近法を開発した.こうして導入されたスイッチンググラフについて,さまざまな連結性,特にハミルトン性など,多くの興味深い結果が得られた.また,多くの未解決予想も得られ,新しい研究分野を拓いた.(3)代数幾何符号を画像に組み込む方法を発展させ,自動修復画像やマスク,電子透かしへの応用等を与えた.(4)逆畳み込みはトモグラフィの反転公式と同様,代表的な非適切問題である.ある種の正則化計算を導入して逆畳み込みを計算することにより,焦点のずれた実写写真の焦点補正を行い,この手法の実用性を確認した.本研究は,適切な逆畳み込みのパラメータを自動検出するところまで進めてから発表予定である.
著者
吉田 邦彦 早川 和男 亘理 格 人見 剛 遠藤 乾 藤谷 武史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第1は、平成大合併の動きとの関連での中山間地の動向調査で、とくに合併を拒否した基礎自治体に留意して、(1)平成大合併の経緯ないし(2)その理由の検討(日米で合併が説かれる際の相違)、(3)居住福祉に及ぼす影響、(4)合併が拒否される場合の根拠、ないしその際の苦境などを含めて、成果報告をした。空洞化する農林業、地方都市の再生のあり方も併せて検討した。また第2に、それと関連して、自治体の財政破綻・貧困地区の再生と「新たな公共」の担い手としての非営利団体の研究を行い、破綻自治体問題の居住福祉に及ぼす影響、今後の対策(その際の各種非営利団体の役割)などにつき、シンポを企画し、労働者協同組合とも連携して、草の根の居住福祉のための非営利団体の活動の調査を通じて、成果も発表し、さらに、「新たな公共」を担う小規模非営利団体の活動を基礎付ける立法化(「協同労働の協同組合法」)に着目して、それを学問理論的・実践的な検討を行った。さらに第3に、財政難の中山間地がこの時期も被災したことに鑑みて(能登震災、中越沖地震)、そこからの再生のあり方を検討した。すなわち、阪神大震災と比較した中山間地の震災の特性、近時の平成大合併の影響、住宅補償の進捗度、コミュニティ維持の確保の検証、商店街の復興の展望など調査しており、今後の課題として残したい。最後に第4として、グローバリズムと地方自治との交錯(補完性原理との関係)を扱い、本研究が注目する補完性原理は、EUの統治システムであり、それに倣う広域行政のシステムの構築をも、本研究は目的とした。そして、グローバリズムの進行とともに、地方自治と国際法ないし国際的取り決めとの交錯現象が、注目されるに至っており、そうした「国際地方自治論」と言われる問題に関する学会に参加して示唆を得ており、その成果をまとめたい。
著者
山崎 岳
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

明朝と莫朝大越との外交に関わる中越両国の文献を収集し、これを両国国境をまたぐ人々の活動に焦点をあてて読み解くことで、これまでの政府間の外交関係史では注目されていなかった国境地帯の基層社会の実態を明らかにした。特に、現代中国で壮族、ヴェトナムでヌン族やタイー族等に分類されるタイ系の言語を母語とする人々が、歴史的にも両国間関係において重要な役割を果たしてきたことが立証された。
著者
三宮 真智子
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は, 人間の情報処理に対する科学的探究心の育成を重視した問題解決志向のコミュニケーション学習プログラムの開発を目指し, 次の3つの成果を上げた。(1) 一般社会人として必要なコミュニケーション能力を構成する知識, スキルを体系化した。(2) ミスコミュニケーション・データベースを試作した。(3) コミュニケーションがうまくいったり失敗したりするのはなぜなのかを科学的に探究する学習プログラムを開発した
著者
小長井 一男 東畑 郁生 清田 隆 池田 隆明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

2005年10月8日パキスタン・インド国境近くのカシミール山岳地でM7.6の地震が発生した。実数は9万人を超えると推測され、この地震がパキスタン社会に与えた影響が極めて深刻であることは言うまでもない。しかし同時にこの地震は、その後長期に継続する地形変化の引き金となり、被災地の復興に様々な問題を投げかけている。本年度で実施した研究の実績は主に以下の2点に集約される。(1)Hattian Ballahに出現した巨大な崩落土塊の変形については前年度までにをモンスーンの前後で精密GPSによる計測を行って、この土砂ダムの決壊にいたる懸念があり万が一の決壊時の流出解析を行い、この結果はState Earthquake Reconstruction & Rehabilitation Agency(SERRA)やMuzaffarabad市、そしてJICAにも報告されていた。この決壊は2010年2月9日に現実のものとなり、下流部に最高17m程度の洪水が押し寄せ30余りの家屋が流された。男子1名の犠牲者が報告されたが警戒していた住民の避難があったことが犠牲者を最小限に抑えたものと思われる。決壊に至った詳細を現地計測をもとにとりまとめ現地機関に報告するとともに、International Jopurnal "Landslides"にも2編の投稿を行っている(1篇は登載決定)。(2)カシミール地方の中心都市Muzaffarabad東側に南北に走る断層背面に露出したドロマイト混じりの斜面から流出する土砂はこれまでに谷沿いの家屋の多くを1階~2階レベルまで埋め尽くしていた。今年度はパキスタンが未曾有のモンスーン豪雨被害を受け、対象地域の様相は激変した。砂防堰堤の作られた沢とそうでない沢の被害の様相は大きく異なりこのような状況を調査し更なる対応への提言としてとりまとめている。
著者
北山 研二 川上 善郎 村瀬 鋼 木村 建哉
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

課題研究「なぜ人々は物語なしに生きていけないのか------多メディアの中の物語の発生・展開・終焉------」を遂行するための本研究会は、理論的研究部門と事例調査研究部門とに分けて、それぞれに必要な多種多様なレクチャー・研究会(21回)、国際シンポジウム(1回)、現地調査(2回)・討論会(6回)等を3年間実施した。理論的研究としては、物語の定義、物語の成立条件、物語の存在論などが研究され、狭義の物語よりは多分野横断の物語の再定義、物語の存在論的可能性が提起された。事例調査研究では、既存の特定の分野には限定できず複数分野横断の研究となったが、あえて分類すれば、文学(4件)、メディア(5件)、映画(3件)、美術(2件)、文化制度(2件)、哲学(1件)、消費社会(1件)、演劇・オペラ(1件)、経済(1件)、心理(1件)であった。そこで論点となったのは、どの分野でも物語が大きな役割を果たし、「大きな物語」(国家論、革命改革論、資本主義、社会正義、会社至上主義、大義名分、文化制度、新旧論争、モダニスムとポストモダニスム、成功物語、共同体神話、良妻賢母、女性差別等々)とその細部にはそれとは矛盾するような無数の「小さな物語」(失権復活、隠れた天才、娯楽優先、事実優先、対象固執、恋愛至上主義、個人利益優先、個性尊重、怨恨復讐、青春回顧、年功序列、伝統墨守、自分探し等々)がせめぎ合っている、あるいは現代特有の現象として「大きな物語」に回収されない「小さな物語」の集合などが確認された。しかし、「大きな物語」の復権の可能性があることも確認された。今回の課題研究では、こうした理論的研究と事例調査研究を相互に連携させて研究会・レクチャー・討論会を組織したので、新しい視点と論点が交錯し研究に奥行きを与えることができ、多分野への総括的問題提起型の内容豊かで刺激的な報告書が作成できた。
著者
中村 仁彦 山根 克 杉原 知道 岡田 昌史 関口 暁宣 大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

1.力学的情報処理理論力学敵情報処理を行うメカニズムの設計法として,多項式および物理的力学系を用いた手法を確立した.また,力学系の可塑性パラメータを導入し,その可塑性に基づく学習と発達のモデルを構築するとともに,力学的引き込み現象としてのコミュニケーションモデルを実現した.2.ミラーニューロンの数学モデル隠れマルコフモデル(HMM)を用いたミラーニューロン数学モデルとその計算法を確立し,HMMの多重階層化による行為の抽象化を実現した.また,常識データベースをもつ言語解析システムと多重階層化ミラーニューロンモデルとの結合を行った.3.ヒューマノイドロボットによる行為の受容と生成の実験従外力運動をするヒューマノイドロボットの試作を行い,人間動作計測に基づいて動作パターンを獲得して制御系を設計する手法を開発した.また,ヒューマノイドロボットと力学情報処理および言語解析システム,行動受容生成システムの結合実験を行った.4.人間の筋・骨格詳細モデルによる大規模センサリ・モータ系のシミュレーションモーションキャプチャデータに基づく筋張力の推定と動力学シミュレーションを行う手法を開発した.また,人間詳細モデルの動力学計算の並列計算による高速化を実現した.大規模センサリ・モータ系としてのヒューマンキデルシミュレータを開発し,力学的情報処理モデルとの結合を実現した.
著者
西村 美東士 福留 強 清水 英男 齋藤 ゆか 谷川 彰英
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

現代青少年に関する諸問題については、「個性尊重」による個人の充実のための支援とともに、望ましい社会化を支援するための理念が形成されてきた。しかし、それは次の理由から、不十分な結果に終わっていたと考える。第1に、「一人でも(よりよく)生きられるようになる」ことを望む「個人化」欲求を社会化とは二項対立的にとらえたため、「個人化」支援と統合された社会化支援理念の構築が不十分であった。第2に、「仲間と(よりよく)生きられるようになる」ことを望む萌芽的な「社会化欲求」に対して、魅力的な方策を示し、さらには社会参画につながる展望を示すという点で不十分であった。本研究では、これまで蓄積してきた「青少年問題ドキュメンテーション」等を活用した文献分析等によって、支援理念の変遷過程を検討した。キーワードに関しては、文脈まで含めて細部にわたり分析し、社会化支援理念が、青少年個人の即自、対自己、対他者、対社会の気づきにどう対応しようとしてきたかを検討した。その結果、その変遷過程に一定の特徴を見いだし、より効果的な支援方策のための知見を得た。家族問題に関しては「ひきこもり」等の問題について、職業・就職支援に関してはフリーターやニート等の問題について検討した。その結果、個人化と社会化の統合的支援や、自己形成と社会形成の一体化の実現に向けた有益な知見を得た。青少年対策行政機関や青少年教育機関等が発行する関連文献については、社会化支援理念を共有し、発展させるための意義を明らかにした。同時に、社会化効果の測定や、より効果的な施策・事業展開のための計画策定の指標について、また、経験知としての側面の大きい社会化支援実践に関する他メディアの活用等について、成果公開の内容と方法の改善に関する知見を得た。(成果公開ホームページ:http://mito.vsl.jp)
著者
岡崎 寛徳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年はまず、大名の遊びを中心とした分析を進めた。特に鷹狩や花見・湯治、また武芸などについて、弘前藩津軽家や彦根藩井伊家を事例として取り上げた。また、論文3本と書評1本を発表する機会を得た。論文の1本目は、那須資徳に関するもので、旗本那須家の再興と交代寄合への昇格について分析を行った。そこでは実父津軽信政や幕府実力者柳沢吉保に対する運動が功を奏して叶ったことを明らかにした。相応の運動を展開すれば、限度はあるが、いつかは必ず再興や格が叶うという意識が当時の武家社会の底流にあったと考えられるのである。また、信政が江戸滞在中に運動が展開されていたことも注目に値する点であろう。論拠史料は主に津軽家文書と那須家文書を扱ったが、那須家文書は分析が進められていないばかりではなく、所在自体もあまり知られていない。2本目は旗本遠山金四郎家に関する論文である。前年度に名町奉行として有名な遠山左衛門尉景元に関する論文を発表しているが、これはその続編に相当する。景元の息子景纂と、孫の景彰について、安政二・三年の二年間を対象とした。安政二年は遠山家にとって激動の一年で、景元の死去に続き、景纂も江戸城内で倒れたままその日の内に死去してしまった。その跡目は景彰が相続したが、この年は江戸で安政大地震が起こり、遠山家も被害を受けている。論拠史料は大倉精神文化研究所所蔵の遠山家用人の日記が中心で、知行地のある上総国夷隅郡(現千葉県岬町)や下総国豊田郡(現茨城県下妻市)を訪れ、旧名主家の史料を調査・分析した。3本目は幕末の青年大名井伊直憲の食生活に着目したものである。彦根城博物館に現存する献立日記や周辺史料から、食生活と行動について分析を進めた。