著者
井上 義雄 仁藤 慎一 中浜 隆之
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

千葉県から神奈川県にまたがる首都圏の東京湾流入河川(鶴見川、多摩川、荒川、江戸川および花見川)および相模川の汚染実態を、ヒト肝がんHepG2細胞における細胞内受容体AhR依存性Ethoxycoumarin-O-deethylase(ECOD)活性の誘導を指標としたバイオアッセイ法により比較検討した。試料はそれぞれの河川の河口付近の底質より調製した。汚染状況は、京浜工業地帯に位置する鶴見川で最もひどく、江戸川が最も清澄な河川であった。鶴見川河口の底質試料では、ECOD活性が高濃度域で低下する、いわゆる逆U字型の濃度-反応曲線が得られ、主汚染物質としてダイオキシン類よりは多環芳香族炭化水素(PAH)が疑われ、底質1g当たりPAH 2〜20μgと推定された。次に、鶴見川河口の高度汚染の原因を探る目的で、新横浜地区のかつての産業廃棄物野焼き現場付近を含む流域調査を行った。野焼き現場からの汚染物質の漏出が確認されたが、河口域の高度汚染への上流からの影響は小さ<、周辺工業地帯に起国するものと結論した。HepG2細胞における誘導型ECOD活性の高濃度のPAHによるダウンレギュレーションは、タンパク質量でも再現されたが、mRNA、の発現量は飽和曲線を示したことより、翻訳レベルにおける影響と推測された。Ah応答配列(XRE)を配したレポータープラスミドを用いるルシフェラーゼアッセイにより、脱抱合処理が不可欠のECOD活性測定と比べると定量性と再現性の高い簡便な汚染調査が可能となった。
著者
花見 健太郎
出版者
産業医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本年度はStat6欠損マウスを用いて樹状細胞(DC)の分化と抗原提示細胞としての機能解析を行った。まず、DC分化にてついてはマウス骨髄を用いたin vitroにおける分化とマウスの脾臓内のDCサブセット解析によるin vivoの分化について解析を行った。何れの評価系においても野生型とStat6欠損DCの間に違いを認めず、同程度のCD11c陽性樹状細胞を認めた。また、脾臓内のconventional DCとplasmacytoid DCの2つの異なるDCサブセットの全体に占める割合及び、これらDCのLPS刺激による発現レベルは野生型とStat6欠損DCの間に違いを認めなかった。抗原貪食能をFITC標識アルブミンの取り込み能にて評価を行ったが細胞内に取り込まれたアルブミン量に差は見られなかった。各々のサイトカイン産生能はLPSにて24時間刺激しIL-10、IL-6、TNF-αにつき評価を行った。Jak3欠損樹状細胞と同様Stat6欠損樹状細胞では過剰なIL-10の産生が見られた。これらの結果は関節リウマチに対する臨床試験において経口内服薬として類を見ない効果を見せているJak3特異的阻害剤の作用機序を示唆するものと考えられる。まず、in vivoとin vitroにおいてStat6はJak3同様DCの分化や抗原取り込み能には関与しないためJak3阻害剤はDCの自然免疫における基盤となる機能に影響は与えない。しかし、一方サイトカイン産生においてはIL-10の産生がやはりJak3欠損樹状細胞同様、野生型と比して亢進していた。以上より、Jak3阻害剤の抗炎症作用は樹状細胞からのIL-10産生を促すことによることが明らかとなり、Jak3-Stat6シグナル伝達経路がIL-10の産生を負に制御していることが明らかとなり関節リウマチ病態の理解と新規治療の開拓に大きな意義があると考える。
著者
中島 裕夫 斎藤 直 本行 忠志 梁 治子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

半径60Kmのゾーン内(立ち入り規制汚染地域)にある低汚染地区(ベラルーシ共和国、ゴメリ地区バブチン村)および高汚染地区(同、マサニ村)で棲息する動物体内ならびに植物内に事故後19年を経た現在にどれくらいの^<137>Csが残存しているか、現地調査を行った。採集した試料は、ネズミ、モグラ、カエル、バッタ、トンボ、甲虫類、葉、樹木、小果実および土壌で、それぞれの汚染地区で各種につき3個体以上の採集を試みた。そして、井戸型ゲルマニウム半導体検出器にて、^<137>Csのβ壊変により生成する^<137m>Baのγ線スペクトルの崩壊数を3000秒間(放射能の低いものについては更に適宜最高643000秒まで)測定し、試料のグラム当りのBq(ベクレル)算出を行った。その結果、依然として低汚染地区に比して高汚染地区の試料の方が2〜20倍高い^<137>Cs含量を示し、20年近く経た今日でも低汚染と高汚染地区間での汚染の平均化は起こっていない事がわかった。また、前回1997年の我々の測定値と比較すると、同種間において約8年の間に有意な^<137>Cs含量の減少が確認された。バッタ、カエル、マウス、モグラの1997年に対する2005年の^<137>Cs残存率は低汚染地区でそれぞれ、2.20、0.99、1.23、2.70%で、高汚染地区での同バッタ、カエルも2.07、1.95%とほぼ同じ残存率であった。不撹乱土壌における^<137>Csの浄化半減期が24年とされているが、本調査から動物体内のクリアランス半減期が1.511年と算出され、実際は24年より短い可能性が示唆された。新しく開発した、H2AXヒストン蛋白のリン酸化部位(γH2AX)を蛍光抗体で検出する二本鎖DNA切断端検出法を高汚染地区のマウス固定臓器で試みた。しかしながら、今回の試料処理工程の条件下ではDNA障害量の差異をフォーカスシグナルの発現量で検出することはできなかった。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

すばる/XMM深宇宙サーベイ領域の一部において、すばる望遠鏡でのSuprim-CAMの可視光、UH2.2m望遠鏡でのSIRIUSによる近赤外線、Spitzer宇宙望遠鏡での近・中間赤外線撮像により検出された銀河と、JCMT/SCUBAにより検出されたサブミリ波源との対応を調べて、4つの赤外・サブミリ波で明るい原始銀河を発見した。これらのサブミリ波銀河について、多波長観測から得られたスペクトルエネルギー分布(SED)を、我々が開発した爆発的星形成領域からのUVからサブミリ波にわたるを再現するモデルを用いた解析を行った。このサブミリ波銀河のSED解析結果は、それらが爆発的星形成を起こしている段階の生まれたばかりの楕円銀河であることを示唆し、我々がこれまで発見されたサブミリ波銀河について、すでに明らかにしていた銀河の進化の描像を指示するものであるまた、我々のSED解析によれば、その光学的厚さから爆発的星形成領域の大きさも概算できるが、それによると、それらの星形成領域は高密度で分裂していて、その星形成終了後、凝集して、力学的に緩和したことも示唆される。この銀河形成に連動した星の凝集過程は、階層的構造形成シナリオと連動するかを考察するために、ダークハローの成長の様子を解析的に再現することを行い、初期では同じくらいのダークハローの合体過程がその成長過程を支配していることを明らかにした。このダークハロー合体成長過程が、サブミリ波銀河として観測されているような爆発的星形成とどのように連動するかを、現在、精査している。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

我々は、γ線バーストのモデルとして磁気波動砲を提出した。シュワルツシルド時空での解析で、中性子星程度の重力崩壊の場合は、この磁気波動砲の電磁波の振動数は【similar or equal】c^3/2GM【similar or equal】10^5s^<-1>程度になることが明らかになっている。周囲にプラズマが少し残っているとプラズマ振動数(4πne^2/m)^<1/2>【similar or equal】9000n^<1/2>s^<-1>より低い振動数の電磁波は反射、吸収されてしまうので、n>10^2cm^<-3>のプラズマがあれば、最終的には、そのプラズマに大部分のエネルギーを渡してしまう。これが磁気波動砲の過程である。しかし、その詳細を理解するには、励起された電磁プラズマ波中での粒子加速過程を数値シミュレーションの手法を用いて調べる必要がある。現在、相対論的粒子プラズマの実空間1次元速度空間3次元コードにより、粒子と波の相互作用と粒子加速過程を調べた。これまでの準備的計算から定常波的なAlfven波が励起される環境では、順伝搬、逆伝搬、右偏光、左偏光の波が混じり合うことで、緩和過程がすみやかにすすみ、高いエネルギーの粒子を生成しやすい事が明らかになりつつある。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2001

爆発的星形成をガスから星への変換過程、化学進化と捉えて、マゼラン星雲などをはじめとする近傍の銀河の爆発的星形成領域(SBRs)、のスペクトルエネルギ-分布(SED)の再現を目指した。形成過程に応じて種族合成された星の光は、超新星爆発などによるその周囲のガスの重元素汚染に応じてばらまられたダストに散乱、吸収された後に観測されるので、球対称物質分布近似のもと、輻射輸送方程式を解いて、SEDモデルを構築した。ダストの成分としては、big grains(BGs),very small grains(VSGs),PAHsを考える。この成分比はSEDを再現する時のパラメータである。また、ダスト総量は、この成分比は固定したまま、星間ガス中の重元素量に比例して増加して行くと仮定した。このモデルが信頼性の高いSEDを再現できることは、我々の求めた星形成率が、Halpha線強度などから求められた値とよく一致していることで確かめた上で、近傍の代表的な爆発的星形成銀河について、UVで明るいUVSBGsから赤外で明るいULIRGsまでの数十個について適用して解析した。それらのSEDのほとんどがSMCタイプのダスト、SBRsの年齢が0.1Gyr程度でよく再現できた。さらに、そのそれぞれのベストフィットモデルの星形成領域の物質密度が、ULIRGsでは系全体で重力不安定を起こす程度密度が大きいのに対して、UVSBGsではその臨界密度程度であることを明らかにした。このようにSEDから星形成領域の物質密度を換算するには、ダストによる減光を正しく見積もらなければならない。UVからFIRにわたるSEDモデルとしては、我々のモデル以外にも、現在、提案されているものがいくつかあるが、この星形成領域の集中度の換算は、化学進化によるダスト生成量を星形成率に関わる光度と連動させ、また、光学的厚さを正しく再現する輻射輸送を解く我々の手法ではじめて可能になった。
著者
吉田 謙一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,静的な3次元シーンにおいて,全体として不自然にならないような非透視投影図を半自動的に生成するシステムを作成することである.この非透視投影図の歪みの知覚は,人間の投影図中の奥行き手がかりの知覚と関連性が深い.なぜならば,人間は奥行き手がかりを元に3次元シーンを復元し情報を読み取っているからである.そこで,本研究では,3次元シーン中の奥行き手がかりの配置と非透視投影図の歪みの知覚との関係性を,視覚心理学実験を通して調べて行き,その結果から得られた知見を利用した非透視投影図設計システムを作成した.昨年度は,相対的大きさ手がかりが線遠近法手がかりの配置に与える制限を調べる実験を行ってきた.本年度では,その実験の測定精度を上げるため,実験方法,解析方法の改良を行ってきた.さらに,線遠近法手がかりの配置から投影図の歪みを生成するアルゴリズムの改良を行い,より複雑なシーンについても適切な歪みが生成されるようになった.また,本システムによって生成された画像の注視点分布を計測することにより,その有効性を検証した.本システムを用いて生成した歪みを全体として不自然にならないように補正した画像の注視点分布は,補正を行わない画像と比べて,透視投影図に近い注視点分布が得られていることが確認できた.また,この評価実験を通して,逆に注視点分布からその注視点分布に見合った非透視投影図の歪みを推定するという新たな方向性を見出している.
著者
大嶺 謙 永井 正
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

BCR/ABLキナーゼ阻害薬imatinibは慢性骨髄性白血病に対する有用な分子標的薬であるが、同剤の耐性機序の解明と有効な克服法の開発は重要な課題である。1.DNAマイクロアレイ法による、BCR/ABL陽性白血病細胞株KCL22とimatinib耐性株KCL22/SRとの遺伝子発現プロフィールの比較から、情報伝達系関連分子RhoAの耐性株における高発現が明らかとなった。新たなimatinib耐性株K562/SRとKU812/SRにおけるRhoAの発現をWesternblot法を解析し、特にKU812/SRで発現がきわめて増強していることを見いだした。2.新規Chk1阻害薬UCN-01をimatinibに併用することによりimatinibの耐性克服が可能であるか検討した。imatinib耐性BCR/ABL陽性細胞株は両剤の併用によってもアポトーシスの誘導がみられず、一方でG_0G_1期にある細胞比率の増加を認めた。さらにisobologramで細胞増殖に対する効果を検討した結果、何れの耐性細胞株でも相乗的増殖抑制効果は認められず、一部の細胞株ではむしろ拮抗的に作用した。従って、細胞周期に抑制的に作用する分子標的薬はimatinibの作用を阻害する可能性がある。3.様々な細胞内因子の機能調節に関与しているヘムのimatnib感受性への影響について検討した。hemin存在下で、KCL22細胞に対するimatinibのIC_<50>値は3.17倍に増加し、アポトーシスが誘導され、アポトーシス関連分子の増加が抑制された。heminはimatinibによるリン酸化BCR/ABL量の低下を阻害しなかったことから、BCR/ABLキナーゼ活性非依存的に作用しているものと推察された。更に、KCL22細胞にheminを添加することでYGCS遺伝子プロモーター活性の上昇および細胞内グルタチオン(GSH)濃度の増加を認めた。以上からヘムはimatinib感受性の調節に重要であり、その機序の一端はGSH合成系を介しているものと推察された。
著者
齋藤 佑希
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

皮膚虚血再潅流傷害の軽減には、炎症細胞浸潤に重要な接着分子の抑制より、抗TNF-α抗体によってマクロファージのiNOS発現を抑制し、且つTNF-α自体による細胞傷害を抑制する方が効果的であった。そしてその投与方法は局所投与が効率的であり、またiNOSを阻害する1400Wと組み合わせることで傷害軽減効果を増強させることができた。従って、抗TNF-α抗体および1400Wによって褥瘡が予防できる可能性が示唆された。
著者
大嶺 聖 安福 規之 宮脇 健太郎 小林 泰三 湯 怡新 TANG Yixin 山田 正太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

建設発生土や廃棄物をリサイクルする場合には,実際の建設にかかる費用だけでなく環境負荷に関する影響も考慮することが望ましい。また,各種リサイクル材に対して,材料作製に伴う環境負荷および廃棄物削減に伴うメリットを何らかの数値として算出し,環境負荷低減効果を表すための評価手法を構築する必要がある。本研究では,有害物質の溶出抑制効果を持つ混合地盤材料の開発を行うとともに,リサイクル材を用いる場合の環境負荷の低減効果を定量的に表す手法を提示した。廃棄物の有効利用法として,バイオマスの炭化物としての活用および都市ごみ焼却灰の地盤材料としての有効利用を例に,再資源化の効率について考察を行った。得られた結論は以下のとおりである。1)都市ゴミ焼却灰に炭化物を混合することでの重金属溶出が抑制される。また、木炭を混合しても,都市ゴミ焼却灰と同様の透水性および圧縮性を有し,力学的にも地盤材料として活用できると考えられる。2)炭化物の吸水性によってセメント安定処理土中の水セメント比を低下させ,強度が増加する。また,セメント安定処理土からの溶出が懸念されている六価クロムの溶出量を木炭混合によってある程度抑制することができる。3)刈草炭化物を混合することで、いずれの火山灰質粘性土についても強度改善効果が認められた。生石灰と刈草炭化物を質量比1:1で混合すると,生石灰添加量を軽減できるなど効果が大きい。4)都市ごみ炭化物を最終処分場における覆土材として利用した場合,廃棄物層から溶出される重金属や無機塩類等陽イオンに対する吸着効果が発揮されるため,浸出水質の早期安定化が期待される。5)リサイクル材の製造工程におけるCO_2排出量と廃棄物の活用に伴うCO2削減量を算定し,再資源化効率の評価法を示した。その結果,製造時のCO_2排出量が小さく,多くの廃棄物を使用している材料ほど再資源化効率が高いことが示された。
著者
永井 正 大嶺 謙
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.Imatinibに対する耐性機序の解析-CML由来細胞株KCL22にheminを添加すると、imatinibに対するIC_<50>値が増加した。Hemin存在下では、imatinib添加後でもリン酸化Bcl2、BclXL、cleaved caspase 3、7,9、PARP等の量的変化が抑制されたことから、hemeはimatinibによるアポトーシスの誘導を阻害するものと考えられた。Heminの添加により、(1)AREを有する_-glutamylcystein synthetase(γ-GCS)軽鎖のプロモーター活性が増加し、(2)γ-GCSが律速酵素であるglutahioneの合成量の増加を認めた。さらに(3)γ-GCS阻害薬Buthionine sulfoximineを添加すると、heminによるimatinib感受性低下が部分的に回復した。この結果は、hemeによるNrf2活性の変化がimatinib感受性調節機序の一端を担っていることを示唆している。2.ImatinibとFarnesyltransferase阻害薬であるTipifarnibとの併用により、imatinib耐性株および親株で相乗的に細胞増殖が抑制された。この場合、細胞株によってアポトーシスの誘導と細胞周期阻害のそれぞれの重要性が異なっていた。次にTipifaarnibに対する耐性獲得機序を明らかにする目的で、ヒトCML急性転化由来細胞株K562を親株としてTipifarnibに対する耐性細胞株K562/RRを新たにクローン化した。K562/RRにTipifarnibを添加すると、K562と同程度にHDJ-2蛋白のfarnesylationが阻害された。従って、K562/RRにおけるTipifarnib耐性は、標的分子であるfarnesyltransferaseに非依存性の機序によるものと推察された。K562では、Tipifarnib添加によりアポトーシス関連分子の発現量が変化しAnnexin V陽性細胞数の増加を認めたが、同量のTipifarnibをK562/RRに添加してもこれらの変化を認めなかった。次に、DNAマイクロアレイ法によりK562とK562/RRにおける遺伝子発現プロフィールの差異について検討した。その結果、K562/RRでは細胞周期関連分子の他にβ-globinの発現増強が認められた。さらに、それぞれの細胞株におけるTipifarnib添加前後での遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイ法で検討したところ、β-globinの発現量がK562ではTipifarnib添加により増加するのに対し、K562/RRでは低下することが明らかとなった。この結果は、分化形質の発現と耐性獲得との関連を示唆している。
著者
大嶺 聖 EDWARDRAJA Chellaiah EDWARD Raja
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では,有用微生物による地盤環境改善技術の適用性を検討した。様々な地盤環境問題が生じているが,できるだけ自然の材料を活用し,低コストでかつ環境負荷の低減を図ることにより,アジア地域へ広く適用することのできる持続可能な技術の開発を目指している。その中で,バイオレメディエーションによる汚染土および石炭灰の環境負荷低減技術の適用性を検討した。得られた結論は以下のとおりである。1) ホウ素,フッ素,ヒ素,セレンなどに耐性のある微生物を同定することができた。これらの微生物によって重金属類の濃度を低減させることができる。2) 石炭灰については,乳酸菌・酵母・納豆菌などの身近な微生物を加えることにより,六価クロムの溶出量を低減させることができる。3) 石炭灰の埋立地から採取したサンプルからホウ素に耐性のある微生物を分離・同定し,溶液中のホウ素の濃度を低下させることができた。4) 堆肥に含まれる耐塩性試験により,16~18%程度の塩分濃度でも増殖できる数種類の好塩菌が存在することが確認できた。また,好塩菌堆肥を塩害土壌に混合することにより塩類濃度を約1ヶ月で4割程度低減できることを示した。
著者
籔内 智浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は計算機上に構築された仮想世界でリアルな仮想物体操作の実現を目指すものである.このために操作を行うと変形する布など面状の柔軟物体を対象物体として、これらの物体を現実世界で操作した際の形状変化を仮想世界でリアルに再現することを目標とした.この目標を達成するためには、柔軟物体の形状変化をシミュレートできるモデルを現実物体の観測結果に基づいて獲得するアプローチが必要となる.このアプローチでは柔軟物体の三次元形状復元の問題とそれに基づいたシミュレーションに必要である対象物体の変形特性を記述するモデルパラメータ値推定の二つの問題が生じる.本研究では操作にともなう柔軟物体の三次元形状をカメラで観測し、観測結果にあわせてモデルを変形させることで三次元形状を獲得する一方、それらの三次元形状すべてを再現できるモデルパラメータ値を推定するという処理を繰り返すことで上述の二つの問題を同時に解決できる手法を提案し研究を進めてきた.この手法に関して今年度は次の二つを実行した.1.昨年度までのシミュレーション実験やハイスピードカメラによる実実験環境構築を土台として実環境で評価実験を行った.操作に伴うハンカチの形状変化を観測し、それを仮想世界で再現することで有効性を確認した.2.提案手法によるモデル獲得のアプローチを短時間で実行できるアルゴリズムを提案した.昨年度行ったシミュレーション実験の結果を整理し、研究会への原稿投稿と発表を行った.
著者
川上 彰二郎 大寺 康夫 佐藤 尚 花泉 修 ペンドリー J.B. ラッセル P.st.J.
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.偏光分離素子の高性能化単位セル構造の最適化により,消光比,動作波長域,斜入射特性を改善した。また,ARコートにより反射損失を低減させることにより,挿入損失を低減した。2.可視域フォトニック結晶の創生TiO_2/SiO_2を用いた可視域フォトニック結晶を作製した。さらに,これを用いて,複屈折性を利用した波長板や回折格子型偏光分離素子を試作し,動作を確認した。3.バンドギャップ拡大の研究自己クローニング法による変調杉綾と垂直孔形成により,完全バンドギャップが得られることを理論的に示した。さらに,これを実現するために反応性エッチングを含んだプロセスを提案し,原理的に可能であることを実験により示した。4.新しい導波路構造の提案・設計・解析新たに,格子定数・格子方位変調型の導波路構造を提案し,設計、解析を行い,その構造の有効性を確認した。これらは,自己クローニングのみで面内導波路が形成できるという利点を持つ。5.機能性材料とフォトニック結晶の複合技術の開発研究II VI族及びIII V族化合物半導体として,それぞれCdS,InGaAlAs系半導体を自己クローニング型フォトニック結晶と複合させるプロセスを開発し,発光特性の評価を行った。
著者
難波 謙二
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では底沸点有機ハロゲン化物のうち金属の洗浄剤などとして用いられてきたトリクロロエチレン(TCE)の定量を行った。TCEは揮発性の発ガン性のある有機溶剤で,地下に浸透し,地層を汚染している場所がある事が知られている。この様な場所ではTCEが地下水から検出され,重大な問題となっている。TCEは工場排水や地下水等を通じて,河川・沿岸環境に流入している事が知られているため,堆積物の前に水中での分布をまず調べる事にした。分析装置としてはガスクロマチグラフ-FIDを用いた。溶存揮発性有機物の濃縮装置を作成したが,環境水に適用すると,メタンなど通常の炭化水素のピークによってTCEの検出が妨害される。これに対処するには,FIDに代えてBCDを検出器とし用いることがまず考えられるが,本研究では,ヘッドスペース法によって環境基準よりも二桁低いnM程度の濃度までは定量できることが分かったので,試水のヘッドスペースをFIDによって分析した。カラムはChromosorb AW-DMCS 60/80を用いた。夏期の浜名湖の湖央で水深別に採水し,測定を行った。その結果,TCEと保持時間が同じピークが現れ,20nMと定量された。また,鉛直的には2m程度の水深で最も高くなることが観察された。なお,TCEはメタン資化細菌によって分解されることが知られているので,メタン添加実験を行った。しかし,細菌の増殖はなく,TCEの分解は促進されなかった。浜名湖周辺には工場の立地もあるので,このTCEの由来を今後広範囲に水平的に調べていきたい。東京湾湾奥花見川河口付近で汚染地下水由来と思われる環境基準と同程度の数百nMのTCEが定常的に検出されている。海洋に近づくと濃度が低下する傾向があること,鉛直的には表層で低濃度になることから,表層では大気に拡散するほか紫外線による分解を受けているものと考えられる。
著者
斉藤 功 小林 元夫 金井 鐘秀
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

矯正治療における歯の移動に際しては、機械的外力に対して歯根膜線維芽細胞が多様な生物化学的応答を示すことが報告され、それに引き続いて生ずる破骨細胞および骨芽細胞による骨の吸収・形成に何らかの影響を及ぼしていると考えられている。本研究では、in vitroの実験系を用いて培養したヒト歯根膜線維芽細胞(HPLF)にメカニカルストレスを加え、そ培養上清が骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1細胞)にどのような影響を与えているかについて検討した。HPLFは、13-16歳の患者の小臼歯から採取した継代8-12の培養細胞を、また骨芽細胞様細胞としては、継代17-19のMC3T3-E1細胞をそれぞれ実験に用いた。メカニカルストレスは、コンフルエントになったHPLFの細胞層上にカバースリップを置き、その上にガラス製円筒をのせ1.0g/cm^2で加圧した。HPLFをそれぞれ1, 3, 6, 12, 24時間加圧した後、conditionedmediumを採取し、stressed conditionedmedium (S-CM)とした。一方、加圧実験と同様の条件で培養して加圧を行わずに採取したHPLFのconditionedmediumをnon-stressed conditionedmedium (NS-CM)とし、さらに細胞培養していないmediumをcontrol medium (CM)とした。S-CM, NS-CM, CMをそれぞれ6well dish上でコンフルエントになったMC3T3-E1細胞に添加し、24時間インキュベーションを行った後、ALPase活性およびcAMP産生量を測定した。その結果、S-CMによってMC3T3-E1細胞のALPase活性とcAMP産生量とは、NS-CM, CMを添加した場合と比較して時間依存的に有意に上昇した。このことから、S-CMはMC3T3-E1細胞の細胞分化能ならびに細胞応答性を上昇させていることが明らかとなった。また、Indomethacinを添加することで、S-CMによるMC3T3-E1細胞のALPase活性が有意に抑制されたことから、S-CMによるMC3T3-E1細胞のALPase活性の上昇にはプロスタグランディンが関与していることが示唆された。
著者
丸山 茂徳
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

最終年度である本年度はこの2年間の研究成果をまとめ公表することを目的とした。高圧型変成相系列の標準となるフランシスカン層群の研究はJournal of Petrologyに印刷された。フランシスカン層群のテクトニクスはTectonophysics誌に、研究のまとめは月刊地球にそれぞれ印刷された。この2年間続けてきたカナダバンクーバー島の低圧型変成相系列の研究と中圧型変成相系列をまとめて、低温の変成作用一般を論じ、"Low-Temperature Metamorphism and Related Tectonics"と題してケンブリッジ大学出版会からB5判約450ページの専門書を出版する契約を結び、アメリカ人研究者2名と共同して第1稿の約2/3を仕上げたところである。
著者
小林 正弥 金原 恭子 一ノ瀬 佳也
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究においては、ハーバード大学のマイケル・サンデル(Michael Sandel)教授のDemocracy's Discontents-America in search of a Public Philosophy(Belknap Press, 1996)の翻訳プロジェクトを進めると共に、マイケル・サンデル教授を招聘した国際シンポジウムを開催し、「憲政政治」についての世界的な水準での理論的検討を行なった。
著者
竹村 景子 井戸根 綾子 宮崎 久美子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

3年度にわたって、東アフリカ海岸地方において現地調査を展開した。各人が対象地域において女性のライフヒストリーの収集にとって適当と判断した地点に密着し、イスラームとの関わりや結婚生活の実態、家族との繋がりにっいて詳細に聞き取った。また、1964年のザンジバル革命、2000年のタンザニア総選挙、2008年のケニアの大統領選挙および国会議員選挙についての意見を含め、女性たちの政治との関わりもある程度聞き取ることができた。ライフヒストリーの聞き書きに当たっては、調査対象となった女性たちが日常的に用いているスワヒリ語変種で話してもらっており、その意味で、3年度にわたって収集した語りは、言語学的および社会言語学的な価値もある資料となっていると思われる。
著者
高野 吉郎 大島 勇人 前田 健康 馬場 麻人 坂本 裕次郎 寺島 達夫 花泉 好訓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

口腔領域における抗原提示細胞ネットワークの全容を解明するための一連の研究の一環として、ラット切歯、臼歯、ヒト永久歯および乳歯を用いて、以下に示す項目について検討を行った。1.抗原提示細胞ネットワーク:マクロファージを含む抗原提示細胞ネットワークをMHC class II抗原に対する免疫組織化学と、ACPaseの酵素組織化学の二重染色法、ならびに免疫電顕法により精査した。歯根膜と歯髄で、樹状細胞郡とマクロファージ郡の2郡に大別し、両者の分布パターンの異同を大筋で明らかにした。幼若な個体では歯髄、歯根膜ともに樹状細胞は少数で、成長に伴って増加した。ラット臼歯歯根膜では樹状細胞と破骨細胞の棲み分けが確認され、歯髄では樹状細胞が頻繁に象牙細管に細胞突起を刺入していることが確認された。2.窩洞形成刺激が歯髄樹状細胞に与える影響:従来看過されていた窩洞形成後の樹状細胞の早期反応の詳細を明らかにした。窩洞形成直後から多数の樹状細胞が象牙細胞の傷害野へ集積し、修復象牙質の形成開始期まで溜まってダイナミックな動態を示すことが確認され、樹状細胞が外来抗原刺激の感受に加えて、歯髄修復に何らかの関与をしている可能性が示唆された。3.抗原提示細胞と破骨細胞の前駆細胞判別の試み:歯槽骨の骨形成野と骨吸収野が歯根の近遠心で明瞭に区別されるラット臼歯歯根膜では、同じ骨髄単球系細胞である樹状細胞と破骨細胞がやはり明瞭な棲み分けをしていることが確認された。そこで矯正的に骨の吸収と添加の方向を変化させ、樹状細胞と破骨細胞の局在性を変化させることで、in situでの両細胞の分化を誘導し前駆細胞の異同を検討した。4.ヒト乳歯歯髄の樹状細胞:健常、歯根吸収期、歯冠吸収期の乳歯歯髄に多数の樹状細胞の存在を確認した。樹状細胞はヒト永久歯歯髄やラット臼歯と同じく象牙細管に突起を刺入するものが多く、特に乳歯では歯髄側の象牙質吸収野に見られるセメント質様組織の形成との関係が伺われた。当初計画した歯髄樹状細胞の所属リンパ節への移動に関する細胞化学的検討と樹状細胞の抗原物質処理経路の免疫細胞化学的検討については、今後の検討課題とした。