著者
吉本 佐雅子 鬼頭 英明 西岡 伸紀
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

49の高校(定点校)の生徒に,平成23年度(32,259名)と25年度(32,458名)の2回「高校生の喫煙,飲酒,薬物乱用の実態と生活習慣に関する全国定点追跡調査」を実施した。この2年間で薬物乱用経験者率は0.63%→0.51%に,飲酒の年経験者率は 40.0%→30.6%に,喫煙の年経験者は5.3%→3.6%と,減少していた。高校生においては「朝食摂取」,「学校生活の楽しさ」,「クラブの参加状態」,「アルバイトの週平均時間」,「大人が不在の状態で過ごす1日平均時間」,「悩みごと等を親に相談する方か」などのライフスタイルによる飲酒,喫煙の習慣化が薬物乱用に至る大きな要因として考えられた。
著者
谷口 泰造
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

<具体的内容>1:認知症モデルマウス(SJLB)海馬の発現蛋白プロファイリング認知症モデルマウス(SJLB)とコントロールマウスの海馬より抽出した蛋白を2次元電気泳動で展開し、発現蛋白のプロテオーム解析を行った。解析は、発現〓の比較のみならず、蛋白のリン酸化程度を指標として行った。両者でリン酸化の程度に差がある蛋白分子を多数見出し、質量分析法で同定した。その成果についてはNeuro2007にて発表した2:薬物投与による蛋白プロテオームの変化の解析認知症モデルマウス(SJLB)において、塩酸ドネペジル投与の有無による蛋白発現の変化、及び蛋白リン酸化程度の変化を検討した。塩酸ドネペジル投与で発現量、リン酸化程度が変化する蛋白分子を多数見出し、その幾つかについては質量分析法で同定した。成果については、第81回日本薬理学会に発表した。3:行動変化につながるタウ蛋白の物性解析タウ蛋白の凝集が行動変容を含めた病態発現に強く関与している。タウ蛋白の微小管結合部位に注目し、その凝集のメカニズムを検討した。さらには、凝集を阻害する物質の探索を行った。<意義・重要性>1-2で見いだされた蛋白分子は認知症発症に関与することが考えられ、認知症の病態解明に寄与するのみならず、認知症治療薬の開発のターゲットとして有望であることが期待される。3で見いだされた阻害物質についても認知症治療薬の開発につながる可能性が期待される。
著者
富澤 一弘
出版者
高崎経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

群馬県勢多郡黒保根村の水沼製糸所(現桐生市黒保根町水沼、平成17年6月、合併にて黒保根村より移行)は,明治7年創業の県下最初の民間の洋式器械製糸場であり、社長星野長太郎、実弟新井領一郎の連繋のもと,本邦初の生糸直輸出を敢行した人物として知られている。従ってこの生糸直輸出に焦点をあわせて、行われた研究等は、報告者のものも含めて少なくない。しかしながら、明治35年、組合製糸甘楽社加盟以降、昭和17年、戦時統制化の営業停止に至るまでの、水沼製糸所経営史を総合的に見通すような研究は絶無である。それ故、報告者は,明治7年以降、昭和17年に至る水沼製糸所の経営に関する原史料を体系的に蒐集,以って明治前期一昭和前期までの全期間の経営史を明らかにすることを課題として、平成15年度以来、4ヵ年にわたり研究を継続してきた。この間の研究実績として、報告者は星野長太郎文書(現桐生市黒保根町水沼・杉崎静代氏所蔵)の調査を実施、水沼製糸所経営関連の史料を抽出して複写を行うと同時に、未整理史料の整理・複写に従事してきた。それらの概要は、日誌、日記、帳簿類、商用書翰、領収書等、きわめて多岐にわたるが、未整理商用書翰の大量出現を前に、これら史料の整理・複写に重点を置いて、作業を行ってきた。また史料の永年的保存の見地から規格性を有する文書箱を活用、史料の機能的配置や、防虫的措置にも努めてきた。さらに複写した史料の翻刻・活字化にも精力的に取り組んできた。かかる成果をうけて、別紙のような業績も生み出している。もとより万余の近代文書群故に、作業・研究ともに途上であるが、平成19年度以降、論文執筆、単著化を目指していく積りである。
著者
佐々木 泰造
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、電池材料・不動態膜などで重要な固体酸化物中の金属イオンや酸素イオンの原子拡散ついて電子論的手法(密度汎関数法)により、理論的研究を行った。Al2O3中のAlの拡散については、SiやTiを添加した場合についてこれら元素の近傍で2eV程度エネルギーが低下し、拡散において非常に重要であることが示唆された。一方、LaSi酸化物中の酸素拡散について、従来の測定結果をよく説明する拡散障壁値が得られ、その拡散機構を明らかすることができた。
著者
川添 愛 戸次 大介 片岡 喜代子 齊藤 学 崔 栄殊
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自然言語のテキストには事実のみではなく、書き手にとって真偽が不明な情報や、反事実的な仮定など偽であることが明らかな情報も含まれる。この研究では、機械による情報の確実性判断の基盤とするため、様相・条件・否定表現などの言語学的な分析に基づき、人間が普段情報の確実性を認識するのに利用しているテキストの意味特性をアノテーション(タグ付け)するスキーマを設計し、それに基づいてアノテーション済みコーパスを構築した。
著者
村岡 輝三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は台湾の1989年の「調査」(中華民国経済部投資審議会『僑外投資事業運営状況調査及対我国経済発展貢献分析報告、民国78年』台北、1991年7月)資料を基本に、「華僑・華人」の企業投資と資金運営の実態について、統計的検証を通じて明かしするところに意図がおかれている。研究の内容構成は、さしずめ、つぎの8節に分けて把握される。すなわち(1)問題の提起、(2)統計的検証と限界、(3)全般的推移と業種別分布、(4)資産負債の構造、(5)財務収支の構造、(6)資本における産業の構造と市場の構造、(7)経営の効率と金融保険業の突出、(8)残された研究課題、がそれである。1993年12月現在、台湾に対する「華僑」投資は累計2,382件、26億889万ドルを記録。一方、台湾企業の中国大陸向け投資は60億ドルに達した。台湾がいわば「中継」基地として対中投資の重要な役割を演じていることがこの数字から十分推測できる。台湾における「華人・華僑」企業経営に焦点を合わせた理由のひとつはこの点にある。いまひとつは、「華人・華僑」の企業経営に関する統計的調査は台湾しかなく、ほかに選択肢がないことである。それだけに上記の台湾の「調査」報告は貴重な資料である。本研究がさしずめ台湾に焦点を合わせた理由は上記の二点にある。一方、1989年はバブル経済たけなわの局面にあり、その点で以上の作業は台湾における「華僑」系企業の「事業運営」の実態が明かにされると共に、バブル経済と「華僑」資本の「活動」との関係が一定程度浮き彫りできることも本研究の大きな成果である。このように本研究はいくつかの点において特色ある内容が期待できる。以上の研究はほぼ予定通り順調運ばれている。400字原稿用紙50枚程度にまとめて八千代国際大学の紀要特集号に載せることがほぼ決まっており、鋭意執筆中である。
著者
永村 和照 池条 清隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,曲げ強度,歯面強度の伝達負荷能力がインボリュート歯車よりも優れた歯車を得ることを目的として,インボリュート・サイクロイド合成歯形,修正サイクロイド歯形といった特殊歯形はすば歯車を開発・設計し,その強度・性能を計算や実験の両面から検討を行い,つぎに示すような新たな知見等の成果を得た。1.本研究で設計・製作したホブにより特殊歯形はすば歯車の製作が可能となった。ホブの精度はJIS1級,それを用いて歯切りした試験歯車はJIS4級程度であった。 2.本研究のような特殊な歯形形状をもつはすば歯車においても成形方式の歯面研削によってJIS1級の歯形精度が得られ,歯形誤差が小さくなることによって歯車の振動性能が向上することがわかった。 3.設計された歯車の中心距離において,特殊歯形はすば歯車はインポリュートはすば歯車よりも優れた振動性能を有する。 4.特殊歯形はすば歯車は中心距離が設計値からずれた場合にかみあい状態が変化し,振動性能が変化する。特に,インボリュート・サイクロイド合成歯形はすば歯車では,中心距離が設計値よりも100μm以上狭くなると振動性能が低下する傾向があるが,その性能低下は十分に小さいものであり,はすば歯車によることによって振動性能が向上することが確認された。 5.インボリュート・サイクロイド合成歯形,修正サイクロイド歯形の2種類の特殊歯形はすば歯車のピッチング耐久限度はインボリュートはすば歯車よりも高いことが確認できた。このことから,これらの特殊歯形はすば歯車はインボリュートはすば歯車よりも歯面強度の優れた歯車であることが証明された。以上により,本研究で開発・設計した特殊歯形はすば歯車の振動性能,強度の優位性が確認され,実用に十分供することが可能と判断できる成果が得られたことを報告する。
著者
若月 光夫 富田 悦次 西野 哲朗
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

決定性プッシュダウン変換器のスタック記号を1 種類に限定した決定性限定ワンカウンタ変換器について,それが空スタック受理式及び実時間最終状態受理式の場合,その等価性判定が多項式時間で行えることを証明した.また,決定性限定ワンカウンタオートマトンのある部分クラス等が,正例から多項式時間で極限同定可能なことを証明した.更に,正則言語の部分クラスに対する正例からの極限同定を利用した,ジュウシマツの歌文法の解析手法を改良し,自動化を図った.
著者
福井 厚 木谷 明 後藤 昭 白取 祐司 水谷 規男 葛野 尋之 中川孝博 豊崎 七絵 緑 大輔 石田 倫識 斎藤 司
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

3年間の研究成果は、福井厚編『未決拘禁制度の改革と展望』(日本評論社)と題して、龍谷大学矯正・保護研究センター叢書の1冊として2009年7月に公刊される予定である(既に入稿済である)。第一部が未決拘禁の実体的要件の理論的検討、第二部が未決被拘禁者の権利制限の解釈論的検討、第三部が不服申立・その他、附属資料1として外国調査の結果、附属資料IIとして施設調査の結果、付録(CD-Rom版)として、福井厚監訳「ドイツ未決勾留法対案」、という構成になっている。
著者
苑田 亜矢
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、コモン・ローの刑事訴訟手続の中心的特徴である陪審の一類型で、 刑事事件につき正式起訴の決定にあたる大陪審の起源である起訴陪審が、 12世紀のイングランドで成立した原因を、 当時の教会法および教会裁判手続の観点から解明することにある。 本研究においては、 起訴陪審を成立せしめた1166年のクラレンドン法と、 起訴陪審成立の原因を究明するための鍵の一つとされている1164年のクラレンドン法第6条の内容を分析するとともに、 12世紀のイングランドの国王裁判所と教会裁判所で用いられていたそれぞれの訴訟手続の実態を、 裁判実務関連史料に基づいて考察した。 その結果、 以下の諸点を明らかにすることができた。第一に、 当時の教会裁判所において、 糾問手続が、 別の型の手続と並んで用いられていた可能性があること、第二に、12世紀に権限を拡大しつつあった大助祭は、教会裁判官として、糾問手続を用いた裁判を行なっていたとみられること、第三に、当時のイングランドにおいて、大助祭の権利濫用が批判されていたこと、 第四に、 以上のことが、 国王裁判所における起訴陪審成立に関連があると考えられうること、以上の四点である
著者
白木原 美紀 天野 雅男 竹村 暘 白木原 國雄 天野 雅男 竹村 暘 白木原 國雄
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

熊本県天草下島沿岸域に周年定住するミナミハンドウイルカが2年間で26頭(年平均13頭)混獲されたことが漁業者への聞き取り調査から推察された. 本個体群の多くのイルカは背びれの傷をもとに個体識別されており, 個体数は200頭余りと小さい. 本個体群では, 混獲などの人為的要因による死亡数が2頭を超えると個体群が減少する可能性がある. 年平均混獲数13頭はこの値を大きく上回っている. 混獲対策が緊急課題であることが明らかになった.
著者
荘厳 舜哉
出版者
大阪学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

平成3年は,アメリカの5歳児との比較研究を,同一の観察パラダイムを利用することで試みた。現在,このデータ解析を日米両国で分析中であり,直接比較できる数値データは末だ出ていない。そこで両国で観察した印象を中心報告する。アメリカの子どもには遊んでいる玩具を,実験者が片づけてしまうストレス場面において,自分で箱を空けていったん片づけられた玩具を取り出す行動が散見され,また母親がお片付けの指示を出したとき,男女共にその理由を問いただす行動が目立った。翻って日本の子どもでは玩具を取り出す行動は皆無であり,また理由を問いただすのは男児に散見された。このような事実は,日米間の子どもの情動コントロールのあり方に大きな違いが存在するということを示唆する。6歳の観察では,前期に遊びたいのだがお母さんの言いつけに従ってお勉強を済ましてしまわなければ遊べないというストレス課題を,後期では男女別の3人集団の遊び内容の性差を見る課題を準備した。いずれの観察においても男女の性差が際立った結果となった。お勉強課題にあっては,男の子が女の子の約2倍の時間を必要とし,床に並べてある玩具で遊びたいという気持ちが,課題に集中することを妨害する傾向がはっきりと認められた。集団遊びでは男の子は互いの間にインタラクションが多く,会話も非常に豊富で,向社会的行動が豊かに出現した。また,全体のインタラクションでは,その状況がどのように変化するか全く予想がつかず,遊びのバリエションは非常に豊かであった。逆に女の子集団では会話すら行われないことが多く,一人遊びに終始する傾向が強く出現した。3人組にした女の子集団の約1/3のみに,不活発ながら相互作用が見いだされたが,互いが相手を意識して,結局相互作用を行うことが出来ないままに観察時間が終了する集団が目立った。
著者
山路 勝彦 棚橋 訓 柄木田 康之 成田 弘成 伊藤 真
出版者
関西学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、平成7年度に引き続き、野外調査の方法によって、オーストロネシア諸族の産育慣行と生命観、そし性差の比較を目的とした研究である。人が産まれ・育つ過程を研究するにあたっては、それぞれの社会が認知する社会的・文化的意味を理解しなければならない。そして、その過程に男女がともに深く関わる以上、性差の文化的意味付けを考える必要がある。平成7、8年度と、二回にわたる野外調査は、ポリネシア(タヒチ、トンガ、ラロトンガ、西サモア)、メラネシア(パプアニューギニアのナカナイ族、およびマヌス島民)、ミクロネシア(ヤップ島民、パラオ島民)、インドネシア(スラベシのブギス族)で実施された。このような広域にわたるオセアニア地域での比較研究は、広い知見を与えてくれた。例えば、インドネシアおよびポリネシアの双方にわたって類似した性差慣行、つまり「第三の性」、もしくは「トランス・ジェンダー」の存在が指摘される。身体的には男でありながら、家事仕事など女の役割を受け持ち、女としての自認を持つ、この「第三の性」の比較研究は、性差の多様な現象形態を浮き彫りにするのに、よく貢献する。男・女という分類は身体的形質だけに基づいているのではなく、社会的・文化的に規定された分類でもある。とすれば、性差の現れ方は多様である。社会構造、文化的背景を考慮しながらの、両地域での比較研究は有益である。他方、この「第三の性」は男らしさ、女らしさのイメージについて、ポリネシア的な特徴を教えてくれる。この「らしさ」は、幼少年期の育児方法と深く関係していて、子ども達のしつけ、遊びなどの参与観察を通してその調査は実施された。例えばトンガでは、男は農耕、女は家事というように、はっきりとした性差の役割分担が見られる一方で、この二極分化に反するように、異性の役割を受け持つ存在があり、これが「第三の性」を生み出していると結論できる。そして、その異性の仕事を受け持つ男の子は、幼少年期から母親との愛着関係が濃密であった。ミクロネシアでも、性と生殖、産育慣行の調査は続行されるとともに、これらの慣行を支える社会・文化的環境を視野にいれ、その変化を探求できた。例えば、結婚儀礼についての詳述な資料を得たほかに、第一子出産に伴う儀礼的交換の実態を把握でき、そして日本時代から現代に至る変化の様相も浮き彫りにされた。パラオ島では、大首長の即位式で、首長は男と女の双方の装束を身にまとい、両性具有の姿態で登場する場面がある。この儀礼的文脈での性差の研究も、大きな収穫であった。この両性具有の研究もまた、今後の性差研究に新しい展望を切り開くであろう。メラネシアでは、昨年度に引き続きマヌス島民の調査を行い、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査した。とりわけ神話・歌謡・詩の資料収集に努め、性と生殖に関する豊富な資料(イディオム)を採集したことは大きな収穫であった。本研究の意義は、オセアニア地域での性差観念の比較研究と並んで、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査したことにある。その一例として、月経や出産時の血の穢れなどの禁忌の事例を探求した。とりわけメラネシアで得られたこの種の知見は、今後の日本の事例をも含めて、比較研究の題材となりうる。オセアニア地域ではまた、植物の成長過程が様々な社会関係と比喩的に語られる場合が多い。例えば、人間の成長過程や親族(親子)関係などは、播種(挿し木)から成長し、やがて実を結ぶまでの植物の成長過程と対比して語られる場合が多い。本研究は、こうした象徴的分析法を通して本題に取り組んだことでも独創的であった。
著者
朝比奈 次郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

平成17年10月1日から平成19年9月30日までに医療観察法入院処遇の決定をうけ、当院に入院した53名を対象として基本情報として年齢、性別、主診断、副診断、対象行為種別、被害者、責任能力、遺伝負因過去の治療歴、過去の犯罪歴、教育歴、婚姻歴、職歴、治療中断、平均在院日数について個人情報を削除したうえで収集した。その結果、対象者は男性が女性の約三倍で年齢は20代から70代までと多彩であった。種診断は統合失調症が最も多いが精神遅滞、発達障害、人格障害などの合併例も認められた。対象行為は殺人、傷害、放火が多く9割以上の例で心身喪失あるいは心身耗弱と判断され約9割で不起訴となっていた。遺伝負因は25%の割合で認められ、過去の犯罪歴も25%の割合で認められた。教育歴は平均して12.2±2.5年、婚姻歴ありは32%だった。職歴については90%以上で職歴があるが対象行為時には15%程度しか就職していなかった。約90%で治療歴があるものの約65%で治療中断しており、対象行為時には約50%で治療を中断していた。平均在院日数は327±12日であった。多くの対象者が治療を受けている一方で中断率も高く、治療中断によって職を失うなどの社会的適応が悪化しており医療の担保の重要性を示唆する結果であった。また、発達障害や精神遅滞などが合併していることにより難治例となり入院期間が伸びている傾向が認められた。
著者
池田 公博
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

職業裁判官と裁判員との協働が求められる裁判員制度において、裁判員の関与が単なるお飾りではない実質的なものとなるための諸条件について検討を加えた。これによれば、職業裁判官は、専門家として審理の進行を適切に整序し、協働の前提となる裁判員の理解を促進することに注力すべきとされる一方、裁判員の側でも、社会生活上の経験をふまえつつも、報道等により形成される予断に左右されることなく、審理において現れた証拠と法に基づき、それらの評価をめぐる裁判官との議論を経て、判断に到達しようとする姿勢が求められる。裁判員制度が目的として掲げる司法に対する信頼の確保は、こうした過程が十全に機能することによってよりよく果たされるものと考えられる。
著者
大田 肇
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

今回の研究課題を改めて確認すると、長い歴史を誇っていたイギリスの軍法会議が、フィンドレイ事件に関するヨーロッパ人権裁判所判決(1997年)などによって、大きく揺さぶられ始めた。それらへの対応の中で、軍法会議を中心とする軍事司法制度全体の改革がおこなわれた。スピア事件に関する貴族院判決(2002年)およびクーパー事件に関するヨーロッパ人権裁判所判決(2003年)は、それらの改革をほぼ全面的に評価した。こうして、司法機関による軍事司法制度の法的評価は確定し、それらの総決算が2006年軍隊法制定である。こうしたプロセスで生み出された軍事司法制度のエッセンスを、「司法化」「市民法の論理」などの視点から、抽出することが、主たる課題であった。しかしながら、この課題の半分は、達成されなかった。その主たる要因は、2004年後半頃から生じた別の側面からの、軍事司法制度への揺さぶりであった。イラク占領をおこなっていたイギリス兵士による、イラク人虐待事件である。平時おいて、改革後の軍法会議はそれなりに円滑に運営されている一方で、その準備が不十分であったとされる占領に際しては、占領地域の混乱状態にイギリス軍は対応できず、軍そのものも混乱に陥ってしまった状況の中で、軍の規律は乱れ、事後にその処罰を行おうとしても、司法手続きに必要な事実・証人等を収集することすら、困難であった。そのために開廷された軍法会議をはじめ、一般の刑事裁判所での裁判においても、大半の被告人となった兵士達は無罪となり、イラク人虐待事件の解明への模索は今だ継続中である。達成されなかった課題に関しては、日々、これらに関する情報を収集するレベルでしか対応できず、それらの分析・検討は、Public Inquiryなどの今後の展開を視野に入れながら、今後の課題となる。
著者
齊藤 真紀
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

少数株主の地位に変動をもたらす行為は効率性の観点から望ましい場合がある。しかし,閉鎖的な会社においては,持株比率が,株主が会社に対する利害関係の主たる指標であるとはいえないので,経済的地位の保障のみによって,少数株主の法的地位を本人の意思に反して容易に変更することを認めるべきではないと思われる。株式所有が分散している会社においては,小株主にとって株式は代替性の高い投資商品であるため,株主の経済的な地位を保障しつつ,当該行為を実行する道を開くべきである。
著者
出口 雄一
出版者
桐蔭横浜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

占領期法制改革の過程において重要な役割を担ったGHQの法律家、特にアルフレッド・C・オプラーとトーマス・L・ブレークモアについて、アメリカ及び日本における旧蔵史料を調査・収集して分析し、比較法的観点を加味しながら彼らの占領期法制改革への寄与に関する分析枠組みを提示すると共に、刑事司法制度改革(検察審査会法の制定過程)についての実証研究を試みた。併せて、法制改革の前提条件となる、占領管理体制の法的側面に関しても、GHQの法律家の果たした役割を視野に入れて総体的な把握を試みた。
著者
中島 英喜
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、中央銀行が Clarida 等(1998)の政策反応関数をベースとしつつ、金利の下限を意識する状況を考え、金利観測に関する Tobit モデルとこれに基づく代替的な推定量を複数準備した。そして「ゼロ金利政策」の期間を含む日本の時系列標本を使い、ベースとなる政策モデルの推定と診断を行った。その結果、GMM 推定と最尤推定の双方で、回帰残差に対照的なバイアスが認められた。追加分析の結果、これらのバイアスは、分布の打ち切りという技術的問題を超える可能性が示された。そこで、ベースのモデルで仮定した金利平滑化仮説の当否を検証した。この仮定の検証はこれまで困難とされてきたが、金利の下限に着目することで新たな検証が可能になる。この検証により、推定期間における金利の平滑化仮説は極めて強く棄却された。