著者
河野 一郎 清水 和弘 清水 和弘 赤間 高雄 秋本 崇之 渡部 厚一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では,唾液中のヒートショックプロテイン70(HSP70)が競技選手および高齢者のコンディション評価指標としての有用性について検討した.一過性高強度運動で唾液HSP70が増加することを示した.また継続的な高強度運動で安静時のHSP70は顕著な変動はしないが,その原因として高強度運動に対するHSP70応答の個人差が考えられた.さらに継続的な運動で高齢者の安静時HSP70が高まり,さらにHSP70がT細胞活性経路の亢進メカニズムに関わる可能性が示された.以上より,唾液HSP70によるコンディション評価は,競技選手では個々の変動が異なるため検討が必要であり,高齢者では有用である可能性が示された.
著者
諸橋 憲一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

核内受容体型転写因子であるAd4BP/SF-1は副腎皮質における各種遺伝子の転写を通じ、細胞の分化と機能維持に重要な機能を担っている。この因子の機能を通じ細胞が分化するにあたっては、クロマチン構造の制御を通じ、機能するエンハンサーが選択ならびに変換されるはずである。本研究では副腎皮質を対象として、Ad4BP/SF-1ならびにヒストン修飾を認識する抗体を用いたクロマチン免疫沈降法と大容量シークエンスをおこなった。その結果、Ad4BP/SF-1が遺伝子近傍または内部に存在するエンハンサーに結合することで解糖系遺伝子を制御していることが明らかになった
著者
亘 悠哉
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では,外来捕食者と生息地改変の複合的な影響を明らかにすることを目的とし,21年度はデータ解析と論文執筆を主に実施した.以下に概要を述べる.1.外来捕食者根絶後の生態系の回復外来捕食者の根絶後の在来生物群集の回復が,環境要因によって異なるかどうかを調べるために,年度の後半はパリ第11大学に滞在し,フランス領ニューカレドニアのサプライズ島で,生物群集の調査を行った.この島の生息地は,木本パッチと草本パッチからなり,外来種クマネズミ根絶後の在来生態系の回復の異なる生息地間での違いを明らかにするのに適している.根絶前後での在来種群集の生息データと比較すると,ウミドリ類,トカゲ類,植物,無脊椎動物類のすべてで顕著な回復が見られた.また,この回復の度合いは環境間で異なり,開けたパッチほど回復が顕著であった.これは,開けたパッチは,外来種の捕食圧の軽減の効果だけでなく,植生もより大幅に回復しており,これが在来生物の隠れ家や餌を提供するという,相乗効果が見られたと考えられた.環境の違いによる復元の違いを示したのは本研究が初めてであろう.これらの成果をカナダでの国際学会で発表し,外来種の根絶についての論文集に受理された.2.外来種対策が引き起こす想定外の現象の総説良かれと思って実施した外来種対策が,想定したほど効果がなかったり,時には逆効果になってしまうことがある.こういった事例は個々に報告されてはきたが,その概観がまとめられたことはなく,現場の担当者が生じている現象を正しく診断し,適切な対処法を講じていくのは難しい状況にあった.今回はこうした想定外の事例について,潜在する生態学的プロセスとそれに応じた対処法をまとめた.これは,今後,より効果的な外来種対策を実施していくのに役立つであろう.
著者
日比野 治雄 野口 薫 桐谷 佳恵
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

従来の視覚的ストレス研究では,被験者は光過敏性てんかん(photosensitive epilepsy)患者や片頭痛患者が主であった。そこで,本研究計画では,一般の健常者における視覚的ストレス(visual stress:広義の視覚刺激による不快感全般)の問題を取り上げ,一般健常者を被験者として心理物理学的実験を行った。本研究では,各刺激による視覚的ストレスの効果は,マグニチュード推定法(method of magnitude estimation)を用いて測定した。本研究で検討を加えた主な問題は,(1)幾何学的パターンの物理特性(チェック・パターンの縦/横比,ストライプ・パターンの空間周波数,パターンの大きさなど)と視覚的ストレスの効果;(2)ストライプ・パターンの色彩が視覚的ストレスに及ぼす効果;(3)ポケモン事件の視覚的ストレスに関する認知的要因:の三点である。それぞれの結果の概要は,以下の通りである。(1)生理的指標(脳波)による光過敏性てんかん患者での結果とは異なり,健常者では細かいチェック・パターンによる視覚的ストレスの効果が大きかった。(2)ストライプ・パターンのコントラストが一定の場合には,黄色のストライプ・パターンによる視覚的ストレスの効果が最も大きかった。(3)同一の視覚刺激を観察した場合でも,その観察者の心理的・認知的要因によって視覚的ストレスの効果は変化する。
著者
川崎 一平 牛尾 裕美 山田 吉彦
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、研究最終年度であり、主として本研究の成果発表、及び政策現場での実践的活動に研究の主眼をおいた。研究代表者の川崎は、(1)海洋開発シンポジウムにて奄美の振興政策と親族構造の関わりについて、著しい社会変容において伝統的親族構造が原理として存続していることを発表、(2)また第25回北方圏国際シンポジウムにて沖縄、奄美の離島振興において「離島文化」が重要視されていることを発表した(研究協力者の小野林太郎も共同発表)。実践的活動としては、分担者山田と共に(3)国境政策との関わりにおいて地域振興が展開されている根室市において地域社会の文化と深く根付いたエコツーリズムのモニタリングを実施した。分担者の山田吉彦は、川崎と共に北海道根室市での調査を実施するほか、沖縄県石垣市、竹富町において、海洋政策の市民政策への影響に関し調査を行った。これらの研究成果としては、土木学会海洋開発委員会に論文「わが国の海洋政策における国境離島開発の動向」を発表するほか、単著「日本は世界4位の海洋大国」を講談社より出版した。実践的研究としては、竹富町が策定した「海洋基本計画」に策定委員長として参加し、同計画の策定に本研究の成果を反映した。分担者の牛尾裕美は、「海洋基本法」の制定から「海洋基本計画」の策定に関する一連の政策決定過程おいて中心的役割を果たした「海洋基本法フォローアップ研究会」の議事録を(社)海洋産業研究会において調査することにより、現在の離島に関する法政策の基本的指針の決定過程の検討を行った。また、上記の基本方針において、上記の基本計画からその政策転換が図られた離島の振興に関する代表例としての「奄美群島振興開発特別措置法」の最新の改正法に基づく奄美群島民の「新たな公共」の実現に向けての創造的取組について奄美群島広域事務組合及び奄美市役所において聴取を行った。
著者
金谷 整一 大谷 達也
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本課題は、琉球列島における森林生態系の保全に資するべく、特異な生活型をもつアコウについて、種子散布者が遺伝的多様性の維持や集団間の遺伝的分化にどのように影響しているのかを検証することを目的として実施した。遺伝解析に先立ち、アコウ独自の核マイクロサテライトマーカー(nSSR)を17座開発した。1座当たりの対立遺伝子数は5~18(平均:9.5)であり、ヘテロ接合度は0.054~0.787(平均:0・594)であった。解析には、琉球列島から九州本土(五島列島含む)までの22集団から533個体(3~44個体/集団)を採取して実施した。集団に特異的に出現した対立遺伝子数は、与那国島で9、石垣島で7であり先島諸島で多かった。各集団の遺伝的多様性を示すヘテロ接合度(He)は0.484~0.764、アレリックリッチネス(Ar)は2.26~3,32であった。分布北限(九州本土)の集団は琉球列島の集団より、若干低い多様性を示したが、琉球列島北端の屋久島は、九州本土ほど多様性は低くなかった。集団の遺伝的分化の程度(Gst)は0.074であり、海洋による遺伝的隔離が生じていると考えられた。屋久島において大型種子散布者であるサルの糞内にあった大量の種子を発芽させ、解析したところ非常に多様性が高かった。また屋久島では、一樹冠内に異なる遺伝子型の樹幹が含まれていることが確認された。このことは、樹冠内にあったサルの糞より発芽した実生が成木に成長している可能性を示唆している。すなわち、サルによる種子散布は大量かつ多様な種子を広範囲に分散させるとともに、花粉による遺伝子交流(近距離あるいは一樹冠内)の機会を増加させることに寄与していると推察される。したがって、大型の種子散布者は、アコウの遺伝的多様性の維持あるいは高めるために非常に重要な存在であると考えられた。
著者
中村 寛
出版者
多摩美術大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アメリカ国内の複数の地域におけるムスリムたちに焦点を当て、個々の地域における彼らの語り、日常的実践、価値や制度の構築・変容のプロセスを比較し解明するという全体構想のもとに行われる文化人類学的研究である。イスラームの地域性やムスリムの多様性を明らかにするために、ハーレムとデトロイトにおけるアフリカ系アメリカ人ムスリムたちの活動と彼らの地域との関係についての資料や文献、フィールド・データの収集・整理を行った。またフィールドワークや資料・文献収集を進めるなかで、これまで出会った問題群を理論的に取りまとめる作業を行った。
著者
星 雅丈
出版者
成美大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、地域における療養型病院の現状と、他の医療・介護施設との関係について、施設配置の状況や施設間連携の現状などを総合した調査・データ分析により療養型病院の地域における必要性を明示することを目指した2009~2011年度にかけて、京都府北部(中丹地域)におけるにおける療養型病院・介護老人福祉施設・介護老人保健施設の施設数・病床数・収容可能数や物理的配置、施設間移動距離等の調査を実施した。結果、療養型病院の過少や、人口と高齢化率とのミスマッチが示唆された。
著者
渡辺 暉夫 新井田 清信 前田 仁一郎 在田 一則
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

神居古澤変成帯・三都変成帯およびオーストラリアのニューイングランド〓曲帯の泥質片岩の変形についてまとめ、オーストラリアのニューイングランド〓曲帯で認められた典型的シース〓曲の産状をくわしく検討した。その結果、このシース〓曲は形態状むしろ舌状〓曲というべきであって、単にsimole shear成分だけではなく、pure shear成分やshear方向の回転をともなっているものであることを明らかにした。神居古澤ではこのような変形を受けた岩石の石英ファブリックの検討も行なった。このような振動は流体相の存在によっても促進されるので、流体包有物の研究も行なった。この研究からは変形帯がductile-brittle境界を横切る時に形成されたと思われる流体包有物が確認された。全体の研究を通して、変成帯の基質を構成する岩石の変形がsimple shear,pure shear,rotation の複合によることが明かとなり、この変形はメランジュ一般に適用できるであろうことか示唆された。また本研究ではマイクロリアタ-を用いた合成実験から岩石の流動が変成反応に及ぼす効果を明らかにすることを課題としていたが、マイクロリアタ-は5Kbの条件下で2週間圧力を維持できるものしか完成しなかった。原因はガスケットに使った材質が不適当であったためである。今年4月以降、装置の改良を待ち、実験を行う予定であったが、改良されたモデルは圧力の維持がさらに悪くなっており、使用に耐えなかった。現在更に改良を要求している。2週間の実験ではFeパンペリ-石成分のものからモンモリロナイトとザクロ石が生成された。パンペリ-石が生成されない理由はさらに検討しなければならない。
著者
玉田 真紀
出版者
尚絅学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究目的は、繊維リサイクルの社会的なシステムを構築するための基礎研究データを得て問題点を明確にすることにある。繊維製品が大量生産、大量消費されるようになった現代、家庭で処分できないまま保管する衣服に困る事態が起きている。こうした繊維製品を資源回収するルートが各都道府県にどの程度存在するか、また、生活者にわかりやすく利用しやすい内容かを、各自治体から各家庭に配布される『ごみと資源の分別パンフレット』から分析し考察した。郵送とホームページより収集できたパンフレットの回収総数は1609(回収率89.0%)であった。9割以上回収できた県が55.3%、回収率が7割未満と低かった県は沖縄と秋田のみだった。平成7〜9年に東北地方のみを調査した時と比べると、パンフレットは手引きや事典などの形式が全般的に増え、詳細な品目を列挙するものが多く見られた。しかし記載品目は市町村で異なり、なぜその繊維製品を可燃、資源、粗大扱いにしているのかの基準がわかり難い。また、分別が細かすぎて実行し難いのではないかと思えるものが多かった。繊維製品が記載されている箇所を列挙して集計した結果、全国都道府県の平均値は、可燃扱いが92.4%、資源扱いが62.3%、粗大扱いが72.8%、不燃扱いが18.7%となった。資源扱いについて地域別に見ると、北海道45.8%、東北38.0%、関東77.4%、信越、北陸39.6%、東海80.0%、近畿77.7%、中国63.2%、四国55.4%、九州72.4%、沖縄45.5%となり、地域により格差があった。資源回収をする自治体の割合が7割を超えた地域は、上位から順に東海、近畿、関東、九州となり、歴史的に見て故繊維業者や再生利用する産業が近隣にある地域という特性が考えられる。回収物を利用する需要先の出口が確保できるため、行政の回収ルートも明示されていると思われた。
著者
近 雅博 前川 清人
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

オオセンチコガネの全分布域の47地点から採集された標本について反射スペクトルを測定し.本種の色彩の地理的変異を定量的に測定し解析した.その結果.反射スペクトルのピークの波長の短い緑色やルリ色に見える個体からなる集団が.屋久島.近畿地方南部.北海道南東部などに局所的に分布することを明らかとなった.日本産の個体について.ミトコンドリアCOI 遺伝子の部分配列にもとづき系統解析をおこなった結果.「九州・屋久島」と「本州・四国・北海道」の二つの大きな系統群に分かれることが明らかとなった.これらの系統群は.色彩にもとづいて認識された亜種の分類とは一致していなかった.
著者
山田 協太
出版者
鳥取環境大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、昨年度の成果を踏まえ、研究の焦点となるインドの3つの植民都市、ゴアGoa、ディウDiu、ダマンDamaoにおいて、臨地調査をおこなった。調査は、街路網、街区、施設分布、広場、敷地割、建造物など都市組織を構成する物理的諸要素に着目しておこない、それぞれの都市空間の特質とその構成原理を把握することができた。また、各都市の都市型住居の基本的構成を把握することができた。研究をつうじて、これらの植民都市は、18世紀中頃から19世紀初頭にかけて一様に大きな変容を経験し、現代都市へと至っていることが明らかとなった。その意味でこの時期に都市内外に生じた一連の変化は近代化として理解し得るものである。考察をつうじて、こうした変化は、周辺状況に加えて同時期の宗主国でおこなわれた政策と密接な関連を持って進行したこと、宗主国の都市建設の伝統が色濃く反映されていることが明らかとなった。研究の成果は、論文、学会発表をつうじて順次公開している。また、昨年度から引続いて宗主国および調査地域の双方において文献・地図資料の収集をおこない、アジアにポルトガルが建設した植民都市について市街の状態が詳細に描かれた都市図を網羅的に収集することができた。双方の研究者、研究機関との交流を深めることができたことも成果である。こうした成果をもとに、アジアにおけるポルトガル植民都市の形成と変容という、より大きな枠組で研究を展開できる可能性が見えつつある。
著者
鵜飼 正敏 横谷 明徳 藤井 健太郎 斉藤 祐児 福田 義博 島田 紘行 住谷 亮介 安廣 哲 深尾 太志 南 寛威
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

DNAの放射線損傷と損傷を回避するための細胞系の自発的修復とを熱力学的緩和過程の観点から統一的に研究するための分光法の開拓を目的として、既存の液体分子線・シンクロトロン放射光電子分光法を発展させるとともに、新規に、光励起とは相補的な高速電子線エネルギー損失分光システムを開発した。また、光励起と電子エネルギー損失に後続して誘起される分子の非定常状態とその反応を時間発展的に観測するための分光学的研究法を開発した。
著者
伊東 栄志郎 BRIVIC Sheldon BROWN Richard 戴 从容 金 吉中 會 麗玲
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究「ジェイムズ・ジョイスと東洋文化の系譜学」は、従来20世紀ヨーロッパ文学最高峰として論じられてきたジョイス作品の東洋文化的要素を検証したものである。ジョイスの活躍した20世紀前半はアジアにおいては大日本帝国の時代でもあった。研究者は日本の帝国主義を一方的に断罪する研究が増える可能性を危惧しており、東アジア諸国の研究者たちも納得できる形で、日本や東アジア文化とジョイスとの関係を学術的かつ体系的にまとめる役割を担いたいと願い、積極的に韓国や中国の関連学会に研究発表をした。交付を受けた5年間において、国際学会発表9件、学術雑誌掲載論文8件(内3件を韓国、1件中国で出版)という成果を上げた。
著者
江口 卓
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

屋久島の気候環境とその原因を3次元的に明らかにするため,総合的な気象観測を山岳部で行い,収集したデータを中心に解析を行った.特に鹿児島の高層観測データと屋久島の観測データの比較から,自由大気の鉛直構造と屋久島における温湿度の標高による変化を,気圧配置および自由大気の成層状態を中心に解析を行った。その結果,気圧配置やそれにともなう自由大気の成層状態の違いによって気温および湿度の標高による変化に違いが認められた。特に,標高1800mの山頂部に位置し,森林限界より上にある黒味岳と標高1360mの森林地域に位置する淀川との間では,気温の顕著な逆転がしばしば起こるとともに,山頂部に向かって相対湿度の急激な低下が認められた。このような現像は,移動性高気圧に覆われ,1000-1500mの高度帯に逆転層が発達する場合に出現頻度が高かった.また,自由大気の鉛直構造との比較から,山頂部では同高度の自由大気の気温や湿度との対応がよかったのに対し,その下の森林帯では,自由大気の気温や湿度の変化と異なった変化をしていた.このことから,自由大気の温湿度状態の変化に対し,樹林帯では,森林そのものが温湿度の変化を防ぐ役割をはたしているのに対し,樹林帯から抜ける山頂付近では,自由大気の変化と対応した気温や湿度の変化が起こっていることが明らかになった。以上の結果により,屋久島の高標高域の温湿度環境は低地部とは大きく異なることが明らかになり,その変化は,被覆している植生の状態と自由大気の成層状態との関連によって生み出されていることが明らかになった。
著者
和田 安彦 菅原 正孝 三浦 浩之
出版者
関西大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

平成元年度の研究においては、昭和62年度の非特定汚染源負荷の調査・解析結果と昭和63年度に開発した非特定汚染源からの流出負荷量予測モデルをもとにして、雨水流出抑制施設等による非特定汚染源負荷の制御方法を確立し、実用化を検討して、3か年の研究成果のとりまとめを行うことが主な研究内容である。非特定汚染源からの流出負荷量の抑制方法には、非特定汚染源負荷の堆積量の削減と、雨天時流出量の抑制がある。そこで、流出水量系モデルと流出負荷量系モデルで構成されている数値モデルによって、下水道に種々の雨水浸透・貯留施設を有機的に結んだ広域的な雨水流出制御システムの効果を検討した。この雨水流出制御システムは、各種対策施設をユニット化することで、様々な流出形態に対応できるものである。都市型水害が発生しているある都市の排水区(排水区画積;211.35ha、不浸透域率;63.7%)において、広域雨水流出制御システムを導入した場合の効果を検討した。制御システムは道路下の浸透連結管、貯留池、管内貯留、雨水滞水池を組み合わせたもので、排水区全域の道路下には、すべて浸透連結管を設置する場合を検討した。この結果、雨水制御システム導入により、降雨初期の汚濁物質のファ-ストフラッシュ現象の発生を防止でき、越流の発生を大幅に抑制できることが明らかとなった。また、総降雨量80mm、時間最大降雨強度10mm/hr程度の降雨時においても、広域制御システムを導入すれば、公共用水域への流出負荷量を半減できることも明らかになった。今後、都市域での非特定汚染源負荷の流出制御には、各種の雨水制御施設を効果的に運用することが重要であり、最適な運用方式の確立、適切な施設規模の選定、降雨情報や流出情報に基づく施設制御等が必要になる。
著者
小林 大二 加藤 喜久雄 油川 英明 兒玉 裕二 石川 信敬
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

融雪期の洪水で、その流出量が予想外に大きく危険な洪水は、融雪出水に雨の流出が重なった場合である。融雪出水期は豪雪地帯では1ケ月前後の長期にわたる。出水期の中期から末期にかけては日々出水が重なり、川の水位の高い状態が継続する。又斜面では地中流出が続くため地盤がゆるんでくる。そこへわずか30-50mm程度でも雨が重なると、水位は異常に高くなり洪水となるとともに、崖くずれが続発して、大災害となる。しかるに積雪を通しての、雨及び融雪水の出水予測は、その流出機構の煩雑性のため研究例が少なく、未解明な問題として残されている。融雪出水に重なる雨による異常出水の流出機構の解明と流出予測を試みるのが、本研究の目的である。研究は石狩川支流の雨龍川源頭部の豪雪地帯で行った。毎年融雪出水期を通じて、洪水の危険を有した出水は3-4回ある。63年度は、晴天の継続による出水の異常重量が2回、晴天日に続く雨による異常出水が1回あった。この雨量はわずか30mm前後であったが、夏期のこの程度の雨による出水の4-5倍以上の出水となった。夏の大雨の出水に比べると、積雪のため流出のピークが3時間程度遅くなっている。積雪1mにつきピークの遅れは2-4時間増すことが新たに設置された大ライシメーター(3.6×3.6m)及び堰によって確認された。河川水の比電導及び化学成分の分析結果によると、地中流出が約8割、表層流出が約2割となった。融雪出水が地すべり発生の要因となることが確かめられた。δ0の分析によって、河川水と融雪水のそれのわずかではあるが有意な差が認められた。積雪下の川の水温は融雪期を通じて3-4℃と高いが、この水温は、1.5の深の地温に相当する。融雪出水の主成分である地中流出水の流出経路の深さの概略がうかがえよう。
著者
高橋 劭
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

この研究は豪雨機構の研究のため豪雨雲内の降水粒子の分布を全降水粒子について求められるビデオゾンデを開発することを目的とした。直径200μmより大きい降水粒子についてはフラッシュ方式を採用、降水粒子が赤外線束を遮るとストロボが作動、フラッシュがたかれ、粒子映像を静止させてビデオカメラで撮影、1680MHzの搬送波を変調して地上に送信するものである。一方、雲粒子の粒度分布の測定のため新しく雲粒子ビデオゾンデの試作を行った。このビデオゾンデの原理はポンプで外気を吸い込み、透明なフイルム上に雲粒を捕捉、顕微鏡で撮影、CCDカメラの映像を地上に送信するものである。この雲粒子ビデオゾンデの特徴は、フイルムを流しながらフラッシュを作動して雲粒の映像を地上に送信するもので、フイルムの固定による外気の吸引では雲粒が次々と重なり見かけ上大きな雲粒が観測されるがこのフラッシュ方式の採用により雲粒粒度分布の測定誤差を最小限にすることが可能となった。室内実験でのビデオゾンデのテスト後、平成7年11月15日から1ヶ月間オーストラリア・メルヴィール島で行われたMCTEX国際プロジェクトに参加、降水粒子ビデオゾンデ16台、雲粒子ビデオゾンデ2台を雲内に飛揚することができた。ここでの雲はHectorと呼ばれ雲頂は18kmにも達し、強い雨と雷は想像を絶するものであった。我々のビデオゾンデで初めてHector雲の降水粒子の測定が行われ、氷晶域の異常な活発化、霰の融解に伴う雨滴のリサイクル、それに伴う大凍結氷の形成等が明らかになり10個/cm^2にも達する多くの氷晶数は雷活動の活発さを説明するものであった。全降水粒子ビデオゾンデの試作とこれらの飛揚によるHector雲の降水粒子の測定は当初予定していた降水機構の解明に大きな成果があった。
著者
下井 信浩 長谷川 彰 谷田部 喜久夫 市村 洋 片桐 正春 西原 誠一郎
出版者
東京工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

我が国で初めて、東京高専の下井研究室と千葉大学の野波、研究室との共同研究により、開発された半自律型(制御面で完全自律とはまだ表現できない。)地雷探知用6足歩行ロボットの試作機(COMET-I)は、各々の歩行脚に高性能磁気探知器を搭載し、地中に埋設された対人地雷の信管部の金属反応を探知して、地雷に接触することなく回避することが可能である。これらの実験は、2000年2月22日に実地された一般公開野外試験等において基礎的な技術検証が得られている。(2月23日の朝日新聞及び読売朝刊等に掲載された)また、ロボット腹部には地中レーダによる埋設地雷探知器を搭載している。これにより埋設されている地雷が対人地雷であるか対戦車地雷であるか等を判断し、地雷埋設地帯において探知された地雷が対人地雷のみである場合は、速やかにロータリカッタ付の特殊車両等により埋設対人地雷を粉砕処理を実施することを可能にする基礎技術を得ることが出来た。地雷探知用半自律型6足歩行ロボット(COMET-I)の概略は、不整地歩行の安定性を考慮して歩行脚を6足とし、各脚は3関節の自由度を持ち平行リンク機構を用いた独立制御が可能である。また、地雷の埋設箇所を回避した時のバランスを失うことのないよう重心の安定性を考慮した設計がなされている。駆動用の電源は、短時間の作業にはバッテリーを搭載し、長時間の作業には外部から供給する。総重量は、約120Kg、外形寸法は1.4m×0.8m×1mであり、実用を考慮した形状をしている。また制御面においては、2台のパーソナルコンピュータを搭載して分散制御と姿勢制御を併用したニューラルネットワークを基本とする非線形制御を実施、外界センサー技術として可視光及び赤外線映像による画像認識技術と自己位置計測等に超音波及びレーザレンジファインダー等を用いている。
著者
廣瀬 明 酒谷 誠一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、われわれが提案し世界をリードしている「複素ニューラルネットワーク」の理論に基づいて、対人プラスチック地雷を適応的に可視化するレーダシステムを構築することを目的として進められた。このレーダシステムは、人間の脳に似た機能を持ち、しかし一歩進んで、人間が持たない複素振幅情報を適応的に扱う能力を持ったニューラルネットワークを核としている。その結果、これまで事実上不可能であった浅く(0〜3cm)埋設されたプラスチック地雷の可視化に成功した。現在は次段階の研究であるフィールド試験(地雷原に似た状況での模擬地雷可視化)の計画を進めている。構築・開発に成功したこのシステムは、次の3つの部分から成る。(1)高空間密度・広帯域の集積アンテナによるハンドセット 新たなアンテナ・エレメントすなわちWalled-LTSA(walled linearly-tapered slot antenna)を提案・設計した。このアンテナ・エレメントは、小さい開口面積を持つため高密度に2次元的に集積化が可能であり、また広帯域を有しているため周波数掃引に好適である。この集積アンテナによって連続電磁波を放射し、また地中からの反射波を位相感受方受信機で2次元的に受信する。そして、その周波数を掃引することによって、空間および周波数空間の3次元空間での複素振幅データを得ることを可能にした。(2)複素画像を適応的に区分する複素自己組織化マップ(Complex-valued self-organization map : CSOM)モジュール また、得られたデータの複素3次元テクスチャを適応的に区分するCSOM適応クラス分けモジュールを開発した。反射波は2次元×周波数の3次元のテクスチャ情報を持っている。CSOMモジュールは、この複素テクスチャに基づき画素を適応的に分類し、画像を区分する。その結果、プラスチック地雷領域を他の土石領域や金属片を含む領域などと分離して、別のクラスに分類することに成功した。(3)地雷クラスを同定する複素連想記憶モジュール さらにCSOMによって分類されたクラスのうち、どのクラスがプラスチック地雷であるか、同定する必要がある。われわれは、これを2段階の複素連想記憶を提案・構築するによって実現に成功した。まず計測取得画像に含まれる特徴ベクトル(クラスを表現している)のセットに対して、それに近い特徴ベクトル・セットを有する教師画像を連想記憶的に探索する。次に、最も近かった教師画像の特徴ベクトルのうち、プラスチック地雷のクラスに相当する計測結果クラスを複素連想記憶で探索する。この2段階探索によって、効果的にプラスチック地雷クラスを同定することができた。