著者
松葉 祥一 河野 哲也 廣瀬 浩司 村上 靖彦 本郷 均 加國 尚志
出版者
神戸市看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、2008年に生誕100年を迎えるモーリス・メルロ=ポンティの哲学とくにその身体論に焦点をあて、これまでの研究を総括するとともに、新たな展開の可能性を探究することにある。彼の身体論は、哲学にとどまらず、社会学、精神医学、心理学、美学、教育学、看護学などの分野に刺激を与えてきた。近年さらに認知科学や脳科学、ロボット工学などの分野にも影響を与えている。そこで本研究では、2008年11月25・26日立教大学における国際シンポジウムを始め講演会や研究会、書籍などを通じて、こうした彼の身体論研究の深まりと広がりを総括し、新たな発展のための基盤を築いた
著者
松田 和之
出版者
福井大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

前年度に現地で撮影した写真やスケッチ、調査メモ等の記録をもとに、フランス国内の教会・礼拝堂内にコクトーが残した壁画やステンドグラスの各々に関して綿密な分析を加えた結果、イカロスを思わせる天使像など、予想どおりヘブライズム的な要素とヘレニズム的な要素の混淆がそこには認められ、壮年期のコクトーの文学作品より読み取れる独自の世界観が晩年の教会美術作品にも反映されていることを確認できたが、加えて、より注目に値する予想外の発見があった。二つの異端的な性格を秘めたモチーフ、具体的に言えば、マグダラのマリアのモチーフとテンプル騎士団のモチーフが、慎重にカムフラージュを施されながら、一連の教会美術作品の中に盛り込まれていたのである。こうしたモチーフをカトリックの礼拝堂の内部に描きこむ行為は、安易な気持ちでできるものではなく、コクトーの反カトリック的な宗教観が確固たるものであったことを物語っている。従来、その重要性にもかかわらず、彼の宗教観(カトリック観)について掘り下げて考察されることは少なかった。それだけに、今回の発見を端緒としてコクトーの文学と芸術の本質を正統と異端の観点より照らし出すことができれば、本研究は充分に意義のあるものとなるだろう。コクトーが残した教会美術作品の中でも、とりわけ最後の作品となったフレジュスの通称「コクトー礼拝堂」は、円形で天井から光を取り入れる仕組みになっており、南仏にあるマチスやピカソが装飾を手掛けた礼拝堂や同時代の日本に残されたヴォーリズの教会建築等に見られるそれぞれに個性的な意匠と比較しても、その様式上の特異性には際立ったものがある。ともすれば等閑視されがちな「コクトー礼拝堂」の存在意義を改めて確認できたのも、本年度の研究成果と言えるだろう。今後とも引き続き考察を深め、その特殊な形状にこめられた意味を探ってみたい。
著者
津國 実
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

京都のハモ料理は、わが国の歴史的な食文化の一つである。しかし、水産物流通の国際化は、国外へハモの生産地域を拡大し、日本への大量供給を可能にした。その結果、国内のハモの需給バランスが崩れ、国産ハモの生産が減退し、食材自給による食文化維持が困難になっている。したがって、必要十分な国産ハモ生産を維持するために、産地において輸入品に対抗する高品質なハモ生産と新たな需要拡大が急務となっている。
著者
大橋 万紀
出版者
大阪府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度には、光反応を用いることで温和な条件下で炭素-炭素結合を形成できる、実用的な新しい炭素官能基導入法を開発した。本年度は、この反応の一般性についての指針を得ることを目的として、活性メチレン化合物、および電子受容性芳香族化合物の存在下における電子供与性不飽和化合物の光極性付加反応、およびphoto-NOCAS型三成分カップリング反応について検討し、以下の知見を得た。(1)光極性付加反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物を、電子豊富アルケンを用いて選択的にモノアルキル化することができる。(2)上記(1)で述べた反応を分子内で行うことにより、シクロアルカン誘導体が合成できる。(3)Photo-NOCAS型三成分カップリング反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物に対し、さらに複雑な置換基を一段階で導入できる。この反応では、高価な有機金属触媒や極低温、禁水、脱酸素などの反応条件を用いずに芳香族ニトリルのアリールーシアノ間の結合を活性化し、カップリング反応を進行させることができるため、合成化学的な応用が期待される。(4)上記(3)で述べた反応では、脱離したシアン化物イオンが連鎖的に作用しうる。このため、触媒量のシアン化物イオンを用いると、アリールーシアノ間の結合への共役ジエンの形式的挿入反応が進行する。この他、光誘起電子移動反応におけるマグネシウム塩の添加効果について総合的な検討を行い、同塩は一電子移動、およびそれによって生じたラジカルイオン対の解離を促進しているものと推定した。この成果は、高効率で実用的な光反応の開発へ向け、指針を与えるものと期待される。
著者
水野 恒史
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

宇宙最大の爆発現象であるγ線バースト(GRB)の放射機構の解明には、FermiによるGRBのモニタ・解析体制(γ線領域)の立ち上げと、「すざく」衛星搭載WAM検出器(X線領域)および「かなた」望遠鏡(可視光領域)とをあわせた多波長同時観測の確立が鍵を握る。そこで[1]2008年6月のFermi衛星の打ち上げに合わせて米国スタンフォード線形加速器センターに長期滞在し、初期運用に貢献するとともに、データの解析方法についての情報収集を行い、[2]また日本国内でのFermi衛星の運用や、WAM検出器および「かなた」望遠鏡による同時観測・解析の立ち上げを国内の研究機関および広島大学のスタッフ・学生と協力して行った。これらの準備状況について、2008年11月の三鷹での研究会で報告をおこなった。2008年9月に起きたGRB080916Cは、1GeV以上での史上最高のイベント数を記録した歴史的なGRBであり、母銀河の赤方偏移も決まったため科学的価値が極めて高い。このGRBについてFermiチームがまとめた論文が受理された。GRB081024Bは、赤方偏移こそ決まらなかったものの、100MeV以上の放射がはじめてshort GRBで検出されたものであり、またWAM検出器でも同時に検出がなされた点でも貴重な事象である。このGRBについては、WAMとの同時解析も含め積極的に解析に参加しており、天文学会でその報告を行った。
著者
山田 正良 龍見 雅美 福澤 理行
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

シリコンやGaAsなどの大口径半導体結晶塊を対象に、結晶引上げした円筒状の塊のまま、すなわち、結晶塊を何ら加工しない状態で、残留歪みの三次元分布を非破壊評価する新しい方法を開発し、その実用化を図ることを目的とした。このため、円筒状半導体結晶塊に直線偏光した赤外光を、円筒r軸ならびにz軸に沿って入射し、その透過光の偏光状態を測定する三次元赤外光弾性CT装置を試作し、LEC法で成長したLEC-GaAs単結晶塊、FZ法で成長した無転位FZ-Si単結晶塊、CZ法で成長したCZ-Si単結晶塊について、赤外光弾性測定を試み、残留歪みの評価を行った。LEC-GaAs単結晶塊では、結晶引上げしたままの円筒表面には大小の凹凸があるため赤外光弾性測定は困難であった。しかし、表面が鏡面でなくても円筒研削で荒れたままの状態でも赤外光弾性測定ができる新しい方法を考案した。これによって、LEC-GaAs単結晶塊中の残留歪みの擬似三次元分布評価ができることを明らかにした。無転位FZ-Si単結晶塊では、結晶引上げしたままの状態で赤外光弾性測定が可能であった。無転位FZ-Si単結晶では残留歪みが極めて少ないため、光弾性効果による複屈折よりも光学異方性による複屈折が支配的であることが明らかとなった。CZ-Si単結晶塊でも、光学異方性による複屈折が支配的であったが、赤外光を異方性がない[100]方位から入射することによって、残留歪みに起因する、光弾性効果による複屈折のみが測定可能であることを示した。これにより、本研究で開発した赤外光弾性法は、大口径シリコン単結晶の有転位化を調査するのに極めて有用であることが明らかとなった。
著者
須江 國雄 渡辺 広明
出版者
佐野短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、主に、西ヨーロッパ先進諸国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)における最新の経済状況と半導体産業の動向、西ヨーロッパ先進諸国に進出をした日系企業の動向に関する調査研究と資料の収集を実施した。研究日程は、9月9日(金)午前中に、成田よりコペンハーゲンへ、コペンハーゲンよりイギリスのロンドンへ出発。9月10日(土)〜14日(水)には、イギリスの日本貿易振興会(JETRO)ロンドン・センターと在英日本商工会議所を訪問し、イギリスの最新経済概況と、世界とイギリス半導体産業の動向や、日系進出企業の動向に関する調査研究の資料の収集を実施した。さらに、ロンドン市内のNECと東芝の経営責任者とのヒヤリング調査から、今後の経営戦略に関する調査研究をした。9月14日(水)には、イギリスのロンドンからフランスのパリに移動をした。9月14日(水)〜18日(日)には、フランスの日本貿易振興会(JETRO)パリ・センターと在仏日本商工会議所を訪問し、フランスの最新経済概況と、フランス半導体産業の動向や、日系進出企業の動向に関する調査研究の資料の収集を実施した。さらに、パリ市内の日立製作所の経営責任者とのヒヤリング調査から、今後の経営戦略に関する調査研究をした。9月18日(日)には、フランスのパリからドイツのデュセルドルフに移動をした。9月18日(日)〜22日(木)には、ドイツの日本貿易振興会(JETRO)デュセルドルフ・センターとデュセルドルフ日本商工会議所を訪問し、ドイツの最新経済概況と、ドイツ半導体産業の動向や、日系進出企業の動向に関する調査研究の資料の収集を実施した。さらに、デュセルドルフ市内のNECと東芝の経営責任者とのヒヤリング調査から、今後の経営戦略の調査研究をした。9月22日(木)には、ドイツのデュセルドルフからイタリアのミラノに移動をした。9月22日(木)〜25日(日)には、イタリアの日本貿易振興会(JETRO)ミラノ・センターと在イタリア日本商工会議所を訪問し、イタリアの最新経済概況と、日系進出企業の動向に関する調査研究の資料の収集を実施した。9月25日(日)の午後にミラノからコペンハーゲンへ、コペンハーゲンから26日(月)に成田に帰国をした。西ヨーロッパ先進諸国では、イギリス経済だけは好調であったが、土地価格が5年間で2倍に上昇したことで、若年層の住宅購入が困難化し、国内消費水準好調と関連して、個人の負債権者が増加しているのが問題である。他の3カ国はいずれも経済が停滞状況にあり、失業率はイタリアが8%で、他の2カ国は二桁台と深刻な状況にあり、特に、若年層での失業率が高い点が問題である。また、半導体産業は、日韓の半導体企業に圧倒されている。日系の進出企業数は、一時期の撤退傾向がストップをして、全体では一貫した増加傾向で推移しているが、特に、低賃金と経済発展による市場発展と拡大を見越して、チェコやハンガリー等の東欧諸国への進出増加が、近年の特徴でもある。
著者
秋山 真志 清水 宏 阿部 理一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、魚鱗癬の治療法の開発を目的とし、正常ヒトABCA12導入遺伝子の作成、培養魚鱗癬患者表皮細胞およびABCA12ノックアウトマウス(魚鱗癬モデルマウス)表皮細胞に対する遺伝子導入実験、遺伝子導入幹細胞株よりの皮膚再生系の確立、再構成魚鱗癬病変に対する遺伝子導入による治療実験、ABCA12ノックアウトマウスに対する胎児治療実験を施行し、それらの研究成果から臨床応用への可能性を評価した。
著者
美島 健二 斎藤 一郎 井上 裕子 山田 浩之 小原 久実
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マウスの唾液腺組織におけるSP細胞が、唾液腺組織を再構築する能力を有する幹細胞である可能性を検討した結果、これらの細胞には、幹細胞の特徴的な性格(細胞周期の静止期に位置する性格や腺組織の再構築能を保持するなど)が認められない事が明らかとなった。また、その表面マーカーを詳細に解析した結果、当初、上皮系細胞と考えられていた唾液腺由来のSP細胞の殆どは、間葉系由来の細胞集団であることが明らかとなった。
著者
今村 速夫 酒多 喜久
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ボールミリングによるナノ複合化によって、Mg水素化物を活性化して水素の放出過程を促進させることを材料開発のコンセプトに、Sn/MgH_2やSiC/MgH_2を検討した。MgH_2の微結晶中に高分散したSnやSiCのナノコンポジットでは、複合効果が発現して水素の放出温度が低下した。Sn/MgH_2系では、ナノ複合化の結果、MgH_2の水素放出温度が473K近くまで低下した。これはSnによるMgH_2からの水素放出過程における動力学的な促進効果よりも水素化物の熱力学的な不安定化に起因することがわかった。TDS(熱放出スペクトル),DSC(示差熱量分析),TG(熱重量分析)測定よりMg複合系では、複合化の結果少なくとも二種類の水素種が存在することがわかった。
著者
松浦 義昌 清水 教永 眞来 省二 浜口 雅行 坪内 伸司 田中 良晴
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、身体障害者個々の疾患レベルに適した運動処方の実際について、3年間の継続運動が身体障害者にどのような影響をもたらすのかについて検討した。対象者は、骨形成不全、頸髄損傷、脳性麻痺の障害を有する3名の身体障害者で、年齢は35歳〜43歳の範囲である。1週間から10日に一度の頻度で、それぞれの疾患に適した運動処方を3年間継続して行った。運動処方実施中は、心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度(RPE)、脳酸素飽和度(StO2)及びヘモグロビン量(Hb量)を連続記録し、運動前後には血圧、血中乳酸及び内省報告を記録した。いずれの被検者についても、運動処方3年目に心拍数-酸素摂取量の高い相関関係が認められた。心拍数とRPEの関係についても心拍数-酸素摂取量の関係同様に、運動処方3年目に高い相関関係が認められた。StO2及びHb量については、運動前安静時、運動中及び運動後のいずれの状態においても顕著な変化は認められなかった。運動前後の血圧は、運動後に拡張期、収縮期ともに高くなる傾向が認められた。血中乳酸は、運動前に比べ運動後におよそ4〜5mmol/mlの増加が認められた。運動後の内省報告では、いずれの対象者についても気持ちが良い等の報告を受けた。以上のことから、身体障害者における3年間の運動処方は、健常者の場合とは一部異なるものの身体障害者の生理心理に種々な影響を与え運動の習慣化という生活習慣の改善および呼吸循環器系機能の改善の可能性を示した。よって本研究で用いた運動処方は、身体障害者の生活習慣病予防やより積極的な健康生活の向上のための有益な処方の一つであると考えられる。
著者
岡崎 健一 鳥本 司
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

金属ナノ粒子は、粒子サイズや形状・結晶構造に依存して物理化学特性が大きく変化する。そのため、これらを制御することは、高活性触媒、電極触媒など様々な応用を目指す上で極めて重要である。当研究グループではこれまでに、イオン液に対して金属をスパッタ蒸着することにより、安定化剤などを添加することなく、イオン液体中に均一に分散した金属ナノ粒子や合金ナノ粒子を作製することに成功してきた。今年度、本手法を用いて、インジウム、金-銅合金、金-パラジウム合金を作製し、コア-シェル構造・中空構造などの形状制御、加熱処理による結晶構造制御、および組成制御による高活性電極触媒への応用について、それぞれ検討を行った。120℃で減圧乾燥したイオン液体(BMIm-BF_4)に対して、2.0Paのアルゴン雰囲気下でインジウムをスパッタ蒸着したところ、金属インジウムをコアに、アモルファス酸化インジウムをシェルに持つ、In/In-2O_3コア-シェル構造ナノ粒子を作製することに成功した。この粒子はコアサイズ4.0nm、シェル厚2.0nmのナノ粒子であった。さらに空気中200℃以上で加熱処理することにより、インジウムと酸素の拡散速度の違いにより、粒子内部が中空化した中空In_2O_3ナノ粒子を作製することにも成功した。このように我々が開発したイオン液体へ金属をスパッタ蒸着するナノ粒子合成法は、金属ナノ粒子のみならず、半導体ナノ粒子や構造特異性を有するナノ粒子を作製可能であることを見出した。一方、例えばAuCu合金ナノ粒子を液相で合成した場合、原子が規則的に配列した規則合金化するためには450℃付近まで加熱する必要があったが、減圧アルゴン下で加熱したイオン液体ヘスパッタ蒸着することにより、AuCu規則合金ナノ粒子を150℃という低温で形成できることを見出した。
著者
石橋 正己 荒井 緑 大崎 愛弓 大槻 崇 當銘 一文
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

平成20年から23年にかけて研究代表者は毎年バングラデシュを訪問し,熱帯植物を中心にバングラデシュ天然薬用資源の調査を行った.その結果,現地特有の植物種や現地で栽培された薬用植物を中心に約200種以上の植物種を収集した.得られた植物エキスに対して種々のシグナル伝達経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイルシグナル等)に対するスクリーニング試験を行い,選別された植物エキスより数多くの新規生物活性天然物を単離した.
著者
朽津 和幸
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イネ培養細胞の細胞質内カルシウムイオン濃度変化や活性酸素種(ROS)生成のリアルタイム測定系を確立し、植物のストレス応答情報伝達ネットワークの分子機構の解明を進めた。植物病原菌由来のシグナル分子を認識し、プログラム細胞死を含む感染防御応答を誘導する初期過程では、ROS生成やMAPキナーゼの活性化に先立ち、細胞質のカルシウムイオン濃度が上昇することが明らかとなり、この過程の上流、下流での制御機構と、機能する複数の因子を同定した。
著者
本村 裕之 斎藤 参郎
出版者
日本文理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

渡航需要関数の推計においては現実のデータに照らしてほぼ正確に予測できることが示された。近年の急激な韓国人観光客の増加のほとんどを輸送コストの変化により説明できることを意味している。また、初めて来訪した観光客とリピータとの特性の違いを明らかにすることができた。これらマイクロ行動データの潜在的な価値は、外国人観光客の地域経済への影響を推計できる点にある。
著者
伊東 暁人 土居 英二 冨田 健司 渡部 和雄 尹 大榮 田口 敏行 影山 喜一 榎本 正博 佐藤 誠二 大橋 慶士
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

今回の研究を通じて明らかになったことは下記の諸点である。1.円高不況期をはじめ過去に研究対象とされてきた時期と今次のいわゆる「構造改革」期では、地方企業をとりまく国内外の諸条件、とりわけ中国をはじめとする東南アジア諸国との関係において大きな相違が認められ、従来の戦略では適応できない部分が大きい。2.全体として地方企業では消極的ながらも構造改革を肯定的に受け止めている傾向がみられる。一方で、国や地方自治体が推進している様々な産業振興政策については、業種によって違いが見られるが、費用対効果の点などで概ね否定的な評価が見られる。財政政策的支援よりも規制緩和、減税など自立的な競争環境の整備を求める意見が強い。3.経営課題としては、(1)販売単価の下落、(2)販売量の減少、(3)納期の短縮、(4)適切な人材、労働力の不足などが挙げられる。4.基本的な戦略としては、コスト優位よりも品質や特徴あるサービスなどで差別化することを指向している。しかし、戦略とIT利用の関係を見ると、業務効率化のレベルにとどまる傾向が見られる。電子商取引への戦略的対応、IT戦略を支える地方ソフトウェア業の高度化も課題として指摘される。5.地方であっても地域の特徴を活かした研究開発型産業集積やベンチャー企業創出の可能性が見られる。その際、一定の産業集積やクラスター形成を前提とした産学(官)協同型の研究開発戦略が効果的である。6.変化に対応した戦略的提携の重要性が以前にも増して認識されてきている。とりわけ、企業の水平的連携戦略、研究開発戦略における連携などが重要である。7.イタリア、韓国などの国々でも構造改革と地方企業の関係は共通した課題が見られ諸外国の事例を研究することは競争力のある地方の産業集積の形成の点から有効である。8.今後、NPOなど非営利の組織体と地方経済・企業との関係分析も重要になってきている。
著者
村岡 和幸
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

3年計画の最終年である平成19年度は、これまでに実施した野辺山45m鏡、野辺山ミリ波干渉計(NMA)、そしてアタカマサブミリ波望遠鏡(ASTE 10m鏡)の3つの電波望遠鏡を使って得られた輝線データに詳細な解析を加え、棒渦巻銀河M83中の巨大分子雲複合体(GMA)の分子ガス密度と星形成効率の関係を調べた。まず、M83の中心領域についてNMAから得られたHCN(1-0)輝線/CO(1-0)輝線強度比と星形成効率(SFE;単位ガス質量あたりの星形成率)の相関を調べた。このときの空間分解能は160pc(GMAの空間スケール程度)である。両者の相関は、R2〜0.4で明快であった。また、M83の円盤領域(棒状構造や渦巻き腕を含む)については、野辺山45mとASTE10m鏡から得られたCO(3-2)輝線/CO(1-0)輝線強度比とSFEを480pcの空間分解能で比較し、やはり両者の間に相関があることを見出した。HCN/CO比やCO(3-2)/CO(1-0)比は、分子ガス中に高密度ガス成分(n(H2)>104cm-3)が存在する割合、いわゆる「dense gas fraction」を反映している。そのため、分子ガスの単純な総量というよりは、星形成間近の高密度ガスがどれだけ多く存在するか(すなわち、dense coreの数の多寡)が星形成効率をコントロールしていると言うごとができる。1kpc以下の空間分解能でこうした性質を明らかにしたのは初めてのことである。また、我々は、分子雲の大局的な速度勾配を仮定した場合の近似、いわゆるLarge Velocity Gradient(LVG)近似を用いて各輝線強度比から平均分子ガス密度を推定した。M83中心領域については、NMAのHCN/CO比から160pcの空間分解能で、M83円盤領域については、45m+ASTEのCO(3-2)/CO(1-0)比から480pcの空間分解能で、それぞれ平均ガス密度を推定した。こうして得られた平均分子ガス密度をSFEと比較したところ、中心でも円盤領域でも、SFE=10-12.4n(H2)0.96という一つの関係式で密度レンジ103<n(H2)<104cm-3の範囲で記述できることがわかった。このことから、・輝線比から推定した平均分子ガス密度は、Wada&Norman(2007, ApJ, 660, 276)で指摘されたように、dense gas fractionとよく対応する。・dense gas fraction(平均分子ガス密度)がSFEをコントロールする物理は、M83の中心でも円盤領域でも、定量的に同じであるという二つのことを意味する。これによって、我々は数100pcスケールでの平均分子ガス密度の推定から星形成の規模(SFE)に制限をつけられるかもしれない、という新たな可能性を見出した。
著者
田邉 信太郎
出版者
国際武道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、我が国近代(特に明治末期から昭和戦前期)に、主として民間の場で展開された健康文化の実態を明らかにすることであり、同時に今日の民間の場で展開されている健康文化への影響を検討しつつ、今後の我が国での新たな健康文化の形成にとっての意義を考察することであった。また、当時のこのような健康文化は、近代医学に対抗する性格を含んでおり、健康観・身体観・病い観、さらに治療観に特色のあることから、これらを代替的癒しの実践としてとらえ直して考察した。その結果、代替的癒しの実践は多様な内容と成立の経緯を有しており、今日に影響を残すものも少なくなく、さらには一部が国際的な民間健康文化にまで発展しつつあることが、明らかとなった。代替的癒しの実践を類型化してみると、まず目的からは強健法,保健法、治療法に大別されるが、それらの混合したものもあった。これらは近代医学・医療との関係でみたときに、特徴がさらに明確となった。すなわち、目的においては、健康や医療一般の活動と共通する面が大きいものの、それらの手段や背景の理論において、近代医学・医療のオルタナティブ(代替)としての性格を有している。たとえば手段に関して、全体として無薬療法を特徴としており、呼吸、身体操作、精神作用を媒介としたり、当時の近代医学・医療では採用していなかった各種機器を用いたりした。理論に関しては、全体として、自然良能(人間本来のもつ治癒力)への信頼を特徴としており、また生きた人間のからだへの経験的洞察に基づくものが多かった。これらの内容は、今日のいわゆる生活習慣病の時代において、我々の生き方と健康観全般に対して、なおオルタナティブとしての意義を有しており、さらにはからだと心の統合的把握のために、改めて示唆を与えるものと思われる。
著者
棚次 正和
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、宗教的な「救済」と科学的な「医療」の双方を包括するような概念としての「癒し」に着目し、その「癒し」の思想や意味を特に人体観や呼吸との関連の中で考察することを通して、宗教と科学(特に医学)の相互関係を解明するとともに、人類の新たな世界観の提示に結びつくような認識地平を開拓することにあった。学問的方法や知の内容に関して、宗教学と自然科学(医学)との間に大きな乖離が存在することは否定できないが、本研究では、その双方の学問領域の研究成果を統合化するための予備的作業として、まず宗教と科学における自然観や人間観の相違を可能な限り明確に浮き彫りにすることに努めた。その作業を通して、少なくとも次の三点が確認されたと思われる。1.宗教団体やニューエイジ共同体で実践されている「癒しの業(浄霊)」や「自然農法・有機農法」には現代自然科学(医学を含む)の知と技術の体系には包摂しきれない存在の深みの次元-哲学的宗教的には存在根拠や生命の根源と呼ばれる-への顧慮がある。2.その深みの次元に対する考察の射程を持たない自然科学の有効性と限界を承知しておく必要がある。3.自然科学の知見と精神科学(哲学や宗教学を含む)の知見とを統合するための視点の一つが、物質と精神を結ぶ、あるいは体と心を結ぶ「生命」に固有の次元を捉える視点と重なると考えられる。以上の研究成果を受けて、われわれは、呼吸や人体の構造などに現れた「生命」現象を探求するための手掛りが、生物固有の「波動」(ベルクソンの「持続」に近い)概念の解明にあることを示唆した。この探求が切り開く地平には、世界および人間の存在構造全体を見渡しうるような地点が用意されていよう。