著者
石塚 晴通 大槻 信 池田 証寿 月本 雅幸 沼本 克明 築島 裕 小林 芳規 奥田 勲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

高山寺経蔵本のデータベース化により、平安・鎌倉時代の諸学・諸芸が形作る相互依存関係(学芸情報ネットワーク)を現経蔵本及び旧蔵本から再現することを目的とし、現地における原本の実地調査を二度に亘り(平成10年7月、平成11年1月)実施した。その成果として、『高山寺本東域傳燈目録』(高山寺資料叢書第十九冊)を東京大学出版会より刊行し、高山寺経蔵の形成に関する重大な進歩があった。さらに、高山寺経蔵の現蔵本や経蔵より流出して各家に分蔵される旧蔵本の書誌データを補強し、資料相互間の関連についての検討を行った。また、高山寺経蔵本の資料紹介・研究が多くなされている『高山寺典籍文書綜合調査団研究報告論集』(昭和56~平成9年度分17冊)及び『訓点語と訓点資料』(1~101輯)から研究資料を抽出して作成したデータベースを補強した。二度に亘る実地調査の期間及び各研究者のもとにおけるコンピューター環境を整備して得られた互いの緊密な連絡・協力体制により構築されたデータベースを活用し、文献の相互依存と継承について研究討論を行った。この結果、目的とした研究成果を達成し、全322ページの研究成果報告書を作成配布することを得た。
著者
赤澤 威 米田 穣 近藤 修 石田 肇 鵜澤 和宏 宝来 聡
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

2001年度調査の主たる目的は第1号埋葬人骨を伴った第11層の発掘であったが。予定した調査の最終段階において、人骨の一部が現われ、精査の結果それが頭骨の部であることが判明し、堆積状況からして第1号・第2号人骨と同様の状態で埋葬されているネアンデルタールである可能性が極めて高いと判断された。当人骨の発掘は緊急を要し、それは、さらに、次のような研究意義がある。○ネアンデルタールの埋葬ネアンデルタールが始めたといわれる意図的埋葬という風習、実はいまだに論争の絶えない人類史上の謎の一つである。第1号・第2号埋葬人骨ともに意図的な埋葬を窺わせる状況で発見されたが、確証はない。例えば掘り込みや副葬品といった証拠である新資料の発掘を通して、当該課題をさらに詳細に検討できる。○ネアンデルタールのDNA分析ドイツ・マックスプランク研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)等との共同研究でもってネアンデルタール人骨のDNA分析を行い、ネアンデルタールと現世人類との遺伝的関係を検討できる。○生存年代の測定発掘する地層年代を測定し、デデリエ・ネアンデルタールの生存年代を推定する。○ネアンデルタール人骨の三次元復先化石人骨通常、断片化した状態で発見される。多数の骨格部位が残る良好な人骨ではそれに応じた多数の骨片が見つかることになる。それを接合・補完し原形に復することは従来の経験的な方法では不可能である。そこで新資料のCT測定データでもってコンピュータ三次元画像を生成し、より正確・精密な立体復元を行う。
著者
坂部 沙織
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

H5N1インフルエンザウイルスのサイトカイン誘導能の解析背景H5N1ウィルスによるヒトへの感染・死亡例は、依然増加している。その死因は、高サイトカイン血症であると考えられている。また、高サイトカイン血症には、肺胞マクロファージが大きな役割を担っていると考えられている。方法ヒト末梢血由来マクロファージに、様々なH5N1ウイルスおよび、コントロールとして、季節性インフルエンザウイルスを感染させ、ウイルスの増殖性と48種類のサイトカイン・ケモカイン放出量を調べた。さらに、高サイトカイン誘導能を示すH5N1ウイルス株と、低サイトカイン誘導能を示すH5N1ウイルス株で、遺伝子組み替えウイルスを作出し、サイトカイン高誘導に関わるウィルス遺伝子を同定した。結果H5N1ウイルスの中には、高いサイトカイン誘導能を示す株と、季節性ウイルスとあまり変わらないサイトカイン誘導能を示す株があることがわかった。また、増殖性に関しても、季節性ウイルスとH5N1ウイルスとで大きな差は認められなかった。さらに、組み替えウイルスを用いた実験から、H5N1ウイルスの、ヒトマクロファージにおける高サイトカイン誘導には、PA遺伝子が関与していることが明らかになった。H5N1ウイルスがヒトに対して高い病原性を示す原因は、未だ明らかになっておらず、PA遺伝子が何らかの役割を果たしていることが示唆された。今後、メカニズムを解明していきたい。
著者
横田 俊平 森 雅亮 相原 雄幸
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

乳幼児に発生するインフルエンザ脳症は症状の経過が急速で予後は不良であるが、病態メカニズムは不明な点が多い。しかし最近の報告から脳内の炎症性サイトカインの異常増多が原因と推察されている。今回ラットの髄液中にリポポリサッカライド(LPS)を投与し、中枢神経内に高サイトカイン状態を誘導し、それが中枢神経および全身に及ぼす影響を検討した。LPS髄注により髄液中のTNFαをはじめとする炎症性サイトカインは上昇し、LPS大量投与群のみ血清中の炎症性サイトカインも上昇した。脳組織内にサイトカインmRNAが認められ、免疫染色にてNFkB陽性細胞が認められることよりサイトカイン産生細胞はmicrogliaと推察された。組織学的検討では神経細胞、glia細胞のapoptosisが証明され、またLPS髄注により血液中のFITC-DEXTRANの脳組織内への漏出が認められ脳血管関門の破綻が組織学的に証明された。さらに脳組織内でcytochrome cの細胞質内への流出が認められ細胞障害がTNFαによるapoptosisであることが示唆された。以上のことよりLPSによるmicrogliaの活性化により中枢神経内の高サイトカイン状態が誘導され、過剰な炎症性サイトカインは神経細胞のapoptosisにより中枢神経機能不全をきたし、同時にastrocyteの障害により脳血管関門は破綻し、全身性に高サイトカイン血症をきたすことが実験的に証明された。
著者
金城 政勝 源 宣之 杉山 誠 伊藤 直人 淺野 玄 金城 政勝
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

エマージング感染症の多くの病原体は野生動物や昆虫と共存し、自然界で密やかに感染環を形成している。そこで本研究では、野生動物や吸血昆虫から種々の病原体や抗体を検出して、わが国に既に侵入しているあるいは侵入する恐れのある新たなウイルス性感染症をいち早く補足し、それらの予知法を考察しようとするものである。最終年度である本年度は、岐阜及び西表島での昆虫採集を引き続き行い、それらからのフラビウイルス(日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルス)遺伝子の検出を試みた。また、蚊由来培養細胞C6/36細胞を用いてウイルス分離も試みた。1)岐阜及び西表島における蚊の採取:本研究期間内において、最終的に20,919匹及び40,423匹の蚊がそれぞれ岐阜及び西表島で採取された。岐阜で採取された蚊のうち最も多かったのはイエカ属(80.0%)で、ハマダラカ属(17.2%)がそれに続いた。一方、西表島では、クロヤブカ属(62.7%)及びヤブカ属(32.7%)の蚊が大きな割合を占めた。2)RT-PCR法を用いた蚊からのフラビウイルス遺伝子の検出:同一のプライマー・セットを用いて日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルスの遺伝子を検出することができるRT-PCR法により、685プール(1プール50匹、計29,966匹)の蚊からウイルス遺伝子の検出を試みた。しかしながら、目的の増幅産物を得ることができなかった。以上にことから、上記のウイルスは岐阜及び西表島に高度に浸潤していないことが示唆された。3)蚊由来培養細胞を用いたウイルス分離:C6/36細胞に接種した599プールのうち、34プールが明瞭な細胞変性効果(CPE)を発見した。このうち西表島のヤブカ属のプールから分離されたCPE発現因子について各種生物性状を調べたところ、上記ウイルスとは異なるフラビウイルスであることが示唆された。今後、このウイルスの哺乳動物に対する病原性等を詳細に検討する予定である。
著者
高田 礼人 堀本 泰介
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

インフルエンザウイルスは、表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって様々な亜型に分けられる。現在まで、インフルエンザワクチンは主にウイルスHAに対する血中抗体を誘導することを目的としてきた。しかし、現行の不活化インフルエンザワクチンは抗原性が異なるHA亜型のウイルスには全く効果がない。本研究の目的はこれを克服し、全てのA型インフルエンザに有効な免疫法を検討する事である。これまでに、ホルマリンで不活化したインフルエンザワクチンをマウスの鼻腔内に投与すると、様々な亜型のウイルスに対して交差感染防御が成立することを明らかにした。これにはウイルス表面糖蛋白質に対する亜型特異的中和抗体以外の免疫応答が関与していると考えられた。免疫したマウスのB細胞を用いてハイブリドーマを作出した結果、ウイルス蛋白質に対するIgAおよびIgG抗体を産生するハイブリドーマクローンが多数得られる事が判った。これらの中には様々な亜型のウイルスに交差反応性を示す抗体があった。H1、H2、H3およびH13亜型のHAをもつウイルスに交差反応性を示す中和抗体が得られたため、そのエピトープを同定した結果、このモノクローナル抗体はHAがレセプターに結合する領域の近傍を認識する事が明らかとなった。この領域の構造は亜型に関わらず類似性が高いため、交差反応性を示すことが推測された。これらの結果は、全ての亜型のウイルスに対する抗体療法の可能性を示唆している。また、今後同様に免疫したマウスから得られた交差反応性を示すIgA抗体を用いて血清亜型に関わらずに様々なウイルスに対する交差感染防御のメカニズムを解析する。
著者
河岡 義裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

薬剤耐性H5N1ウイルスの病原性を調べるため、マウスおよびフェレットを用いた感染実験を進めていたが、同課題名で応募していた特別推進研究が採択されたため、そちらで引続き研究を進めていくこととなった。
著者
喜田 宏 梅村 孝司 迫田 義博 伊藤 壽啓 小笠原 一誠 河岡 義裕 岡崎 克則
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、家禽と家畜のインフルエンザの被害を未然に防ぐとともに、ヒトの新型インフルエンザウイルスの出現に備え、その予防と制圧に資することを目的とする。・動物インフルエンザのグローバルサーベイランスによるウイルス分布の解明2006年秋、日本、モンゴルにおいて採取された渡りガモおよびハクチョウの糞便材料からのウイルス分離を試みた。1,201検体の材料から合計55株のインフルエンザAウイルスを分離同定した。これらの分離株にはH5やH7亜型のインフルエンザウイルスは含まれていなかった。これまでのウイルス分離の成績と合わせると、H1-H16およびN1-N9までの144通りの組合せのうち、133通りのウイルスの系統保存を完了した。・インフルエンザウイルスの病原性決定因子の同定2006年夏、モンゴルの湖沼で死亡野烏が再び発見され、死亡したオオハクチョウおよびホオジロガモの臓器材料からH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離された。分離されたウイルスは、2005年中国やモンゴルの野生水禽から分離された高病原性のH5N1ウイルスと8つの遺伝子分節すべてが近縁であった。また、このウイルスに対して哺乳動物が高い感受性を示すことが動物試験から明らかにした。・ベッドサイド早期迅速インフルエンザ診断法の開発A型インフルエンザウイルスH5およびH7亜型抗原を特異的に検出する簡易診断キットを開発した。本キットの有用性を実験感染動物の材料を用いて評価したところ、NP検出キットより感度は劣るが、H5およびH7抗原を特異的に検出でき、ベットサイド診断法として有用であることが確認された。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。
著者
堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、リバース・ジェネティクス法により人為的に多段階の弱毒化を施し、さらに1つの粒子中に現在人で流行中の三種類のHA遺伝子(A/H1,A/H3, B)を同時に組み込んだHA重複組み換えウイルスワクチンの開発を最終目的とする。このワクチンは現在用いられている三種類のウイルスHAを混合した不活化ワクチンに比べ、接種量の制限が排除され、体内の抗原量を増すのみならず、粘膜免疫、細胞性免疫をも誘導できるため優れた免疫効果が期待される。さらに、間違いなく安全性、経済性にも優れる。この組み換えワクチンを作製する前提として、二種類以上のHA遺伝子があるいはキメラHA遺伝子がウイルス中に組み込まれる必要がある。そこでまずA型HIウイルスとB型ウイルスのキメラ遺伝子を構築し、その感染性ウイルス粒子への取込みを検討した。その結果、A型ウイルスHAのN末側シグナル領域より上流(3'非コード領域を含む)とC末側トランスメンブレン領域より下流(5'非コード領域を含む)をB型ウイルスHAに入れ換えたA/BキメラHA遺伝子が効率良く感染性ウイルス粒子中に取り込まれることを発見した。さらに、この組み換えウイルスは、B型野生株の攻撃に対して高い防御効果が認められた。これらの成績から、HA遺伝子のパッケージングおよびHA蛋白質の相互機能性についての情報が獲得でき、今後のHA組み換えウイルスの構築に大きく貢献する。現在、各種HA組み換え体の構築を進めている。
著者
喜田 宏 MWEENE Aaron Simanyengwe
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

新型インフルエンザウイルスの出現には渡りガモ、家禽およびブタが重要な役割を果す。研究代表者はヒトと家畜・家禽に発生、流行するインフルエンザを予防・制圧するため、地球規模で動物インフルエンザの疫学調査を実施している。研究分担者を疫学調査に参画させるとともに、ウイルス学・分子生物学的解析法ならびに動物実験法を習得せしめ、グローバルな疫学調査網のカウンターパートとして養成することを目的とする。研究分担者は調査で分離されるウイルス株の遺伝子を解析し、インフルエンザウイルスの宿主域の分子基盤を明らかにする。研究代表者および研究分担者らが国内で実施した調査における渡りガモおよび家禽からの糞便およびブタ鼻腔拭い液を発育鶏卵あるいはMDCK細胞を用いてインフルエンザウイルスの分離を試みた。本年度、渡りガモからは69株の様々な亜型のインフルエンザウイルスが分離された。分離されたウイルスの亜型、卵での増殖能などの情報を基に、ワクチンおよび診断用抗原として適切な候補株を系統的に保存した。現在この系統保存は135通り中101通りまで完成している。また、2004年1月から発生した国内における高病原性鳥インフルエンザの発生の原因ウイルスであるA/chicken/Yamaguchi/7/04(H5N1)の抗原解析、遺伝子解析を行い、今回の流行に有効なワクチン候補株の選抜を行った。また研究分担者は、インフルエンザウイルスの高感度迅速診断法を確立するために、インフルエンザウイルスNS1蛋白に対するモノクローナル抗体を作出した。これらのモノクローナル抗体は、抗体作成時に免疫原とした組換えNS1蛋白およびインフルエンザウイルス感染細胞中のNS1蛋白を高感度で検出できることがわかった。このモノクローナル抗体を用いた迅速診断キット試作品が完成し、ウイルス感染細胞におけるNS1蛋白の検出時期を本キットで調べた。現在A/chicken/Yamaguchi/7/04(H5N1)を感染させた鳥類の材料を用いて、本診断キットの有効性を評価中である。
著者
大橋 和彦 高木 道浩 杉本 千尋 小沼 操
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ウイルス、細菌などの病原体には標的細胞への吸着の際、細胞表面糖鎖をレセプターとして利用しているものが多く、このようなレセプターをワクチンなどに利用すれば、株間で抗原性が異なる病原体に対しても広く有効な防除法を開発することが可能になる。そこで感染症防除のためにこれらの糖鎖を擬態できるようなペプチドを探索・同定し分子擬態利用法を開発するため、ウイルス(NDV)をモデルとしてNDVレセプター構造を分子構造的に模倣するレセプター擬態ペプチド分子を探索し、そのNDV感染に対する防御能を検討した。NDVヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)抗原を標的として特異的に結合するペプチド分子をランダムペプチドライブラリー(6mer〜8merのペプチドを含む)よりファージディスプレイ法とバイオパンニング法により探索した。その結果、NDV HN抗原に対して特異的結合性を示す3種類のファージクローンが得られた。得られたクローンの塩基配列・アミノ酸残基を解析した結果、EVSHPKVG、WVTTSNQW、SGGSNRSPの3種類のアミノ酸配列が擬態分子として同定された。さらに各ファージクローンのNDV特異的結合能は、抗NDVニワトリ抗血清を利用したELISA競合阻止試験によっても確認された。次にこれらの各ファージクローンより予想されたアミノ酸配列をもとに合成ペプチドを作製し、NDV粒子に対する結合能や感染防御能を解析した。3種類の合成ペプチドはNDVによる赤血球凝集活性を阻止できなかった。しかしながら、ウイルス中和試験の結果、これらのペプチドが部分的にNDVの感染を中和できることが示された。今後、これらのペプチドが結合するNDV粒子状の分子を明らかにするとともに、そのアミノ酸配列をもとに、よりNDV感染阻止能力の高いアミノ酸配列を模索し、in vivoにおける効果を検討することが、臨床応用に向けて必要となる。
著者
杉本 晃宏 松山 隆司
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、ユーザが手にし、それを持ち変えて観測している物体を装着型視覚センサでとらえ、その物体の3次元形状、及び、表面情報を復元する手法の確立を目指している。本研究によって得られた成果は、以下のようにまとめられる。1.装着型能動視覚センサを用いた視線検出:視線測定装置とコンピュータ制御可能な2台の首振りカメラで構成される装着型能動視覚センサを構築した。そして、視線測定装置と2台の首振りカメラを強調させることによって、周囲の奥行きが場所毎に大きく変わる環境でも、正確にその視線情報を検出する手法を考案した。2.3次元把持物体の形状復元:把持物体の全形状を復元するためには、物体を手で持ち変える前後で復元された部分形状を張り合わせる必要がある。本研究では、復元された部分形状を距離画像として捉え、物体表面の局所構造を保持する距離画像の張り合わせ手法を考案した。3.3次元把持物体の表面情報の復元:対象物を手で持ち変える前後で得られた画像群の明度情報を解析して、環境中での証明の強度と物体表面の反射特性との両方を推定する手法を開発した。本手法は、複雑な分布をもつ一般照明下において反射率を正確に推定することが可能であるという点において従来手法にはない特長を備えている。4.装着型能動視覚センサを用いた運動推定:2台の能動カメラそれぞれを注視点制御することにより、3次元空間中を自由に移動する人物の運動を逐次的に推定する手法を考案した。本手法は、装着した2台のカメラの基線長に依存せずに、長い運動に対しても、高精度な推定を安定に実現する手法となっている。
著者
矢田 勉
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度も、昨年度以前に引き続き、近世文学研究書の原本調査作業を行った。国文学研究資料館や東京大学付属図書館等において、昨年度までの調査の遺漏を補う作業を継続するとともに、加えて新たに亀田鵬斎・清水浜臣・高橋残夢の三人の文学研究にかかわる著作に就いては特に集中的な調査を行った(高橋残夢については、岡山県立図書館・京都大学付属図書館を中心に調査を行った)。その結果、特に高橋残夢の文学研究に就いては、音義説との関連から、あらためて国語意識史・文学研究史の上に正確に定位する必要があること、特にこれまでの定家仮名遣い派と歴史的仮名遣い派の二派の対立軸から捉えられてきた近世の仮名遣い研究史のあり方について、「音義仮名遣い」とでも言うべき領域を加えて、より多角的に記述しなおす必要があるという知見を得た。その問題については現在論文の準備中である。また、これまでに得られた近世の文学研究に関する基礎的データは、随筆等の非研究書における文字に関する記述の集積も含めて、データーベース化を進めており、公開を目指して今後、整備を継続する予定である。更に、文字に関する思索が研究の形式を採る以前の時代の文字意識史に関する研究も継続的に行い、今年度は、近年、文字研究市場で特別な位置を与えられてきた藤原定家の文字意識について、その書き残した書記資料から実証的に再検討した論として「定家の表記再考」を、また、更に平安時代におけるより一般的な文字意識のあり方を文字教育の実態という方面から検討した論として「平安後・末期における初歩的な書字教育のあり方について」を、それぞれ公にすることを得た。
著者
苫米地 英人
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

理論的な問題解決においては、以下の二点に焦点をあてた。1)制約の超並列処理の枠組みの確立。2)非記号的情報と記号的情報の混在・融合の枠組みの確立。第一点に関しては、現在提唱中の超並列制約伝播の手法を導入した。この手法は、制約記述に情報内容の包摂半順序関係を表す有向グラフを利用し、このグラフの超並列的な伝播により制約処理を行うという特色があった。また、第二点に関しては、ニューラルネットのベクトル空間の状態と超並列制約伝播グラフの活性化状態をベクトルとグラフの変換を利用することにより関連づける手法をとった。また、工学的には特に音声情報と視覚情報の両方を利用するマルチモーダルなシステムを構築した。これには、音声認識と視覚認識に時間遅れニューラルネットと環帰型ニューラルネットをそれぞれ利用することにより、非記号的なマルチモーダル入力を実現した。これらの入力を上記の二手法により記号的な制約と超並列的に融合していくことにより、実時間システムを実現した。
著者
大滝 純司 水嶋 春朔 北村 聖 加我 君孝 前沢 政次
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度までの研究活動に引き続き、以下の研究活動を行った。1.一次調査の結果を発表昨年度に実施したFGI調査の分析結果をまとめて、日本医学教育学会で発表した。2.二次調査の計画立案昨年度までの調査結果をもとに、二次調査として、全国規模のアンケート調査(多施設調査)を計画した。(1)調査対象の種類と数の検討研究班内で議論し、最終的に国内の研修病院(10カ所程度)の通院患者を調査対象に定めた。(2)調査対象者選定方法の検討調査対象病院の選定方法(層別など)について、資料を収集し研究班内で検討した。(3)質問紙原案の作成昨年度までの調査結果を参考にしながら、二次調査で用いる質問項目を検討し、質問紙の原案を試作した。(4)倫理審査二次調査に関する倫理面の審査を筑波大学の審査委員会に申請し承認を得た。3.質問紙原案による予備調査の実施試作した質問紙原案を用いて、某病院の内科外来患者を対象に予備調査を実施した。実施した結果を分析して質問紙を改良した。また、調査の運営方法などに関しても、この予備調査の経験をもとに再検討した。4.二次調査の実施調査対象病院の候補を選定し、調査への協力を依頼した。了承が得られた病院の内科外来患者を対象に、改良した質問紙を用い、対象者の同意を得て、二次調査を実施した。全体で10病院の521名から回答が得られた。5.二次調査の集計と分析、報告書の作成二次調査の結果を集計・分析し考察を加え、報告書を作成した。
著者
和田 恵美子
出版者
大阪府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、患者・家族の相談活動・自己決定支援の具体的方策、精神的支援をめざすツールとして闘病記の活用可能性を明らかにすることである。闘病記文庫を有する施設における地域住民の活用度を調査するとともに、看護師との闘病記朗読会を行い、彼らの反応およびインタビューデータを分析した。その結果、市民の闘病記に対する関心度は高く、利用環境について更なる整備が必要であること、また闘病記朗読は患者へ活用できる可能性があるが、それ以前に看護師に与える影響が大きく、教育ツールとして意義があることが示唆された。
著者
辻 由希
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、1990年代以降の日本の政治経済改革の文脈の中で政治課題となったケアや家族関連の政策形成過程における議論と、その文脈において注目を浴びた女性の代表/表象実践を、ジェンダーの視点から分析することである。2010年度は、児童虐待防止法の制定および改正過程、ドメスティック・バイオレンス防止法の制定および改正過程、および教育基本法の改正過程に関する資料を収集した。本研究では、これらの資料を言説政治という観点から分析することを通じて、政策過程における対立軸を明らかにし、その中で政治アクターによって提示された家族像を析出することを試みた。本研究の結果、1990年代以降の日本政治の展開に関して以下のような特徴がみられることが分かった。第一に、1990年代以降の日本政治の主要争点の一つとして、ジェンダー平等が存在する。90年代以降の日本では、男女の性別役割分業の改革や「男らしさ」「女らしさ」といったジェンダー規範の変容が政治的課題となり、それらの争点をめぐる政治的対立、すなわち「ジェンダー政治」が展開されてきた。第二に、ケアや家族にかかわる政策過程の横断的分析の結果、いくつかの異なる「家族」像が提示されていることが明らかになった。本研究ではそれを、家族責任の軽減・拡大と性別役割分業の維持・改革という二つの軸に沿って四つに分類し、日本のジェンダー政治における対立軸を明らかにした。第三に、以上のような政治的対立の中で、女性の政治的代表の代表/表象戦略は変容をみせている。女性の衆議院選挙候補者は、1990年代後半には男女共同参画社会の実現という政治課題と結び付けて女性の政治社会参加の必要性を強調する戦略をとることが多かったが、2000年代に入り、「子ども」や少子化対策に重点を置くことが増えてきている。
著者
軍司 祥雄 斎藤 隆 磯野 可一 松原 久裕
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

消化器癌に対する集学的治療のなかで免疫療法の比重は未だ低い。これは免疫療法の理論的構築が動物実験ではなされているものの実際に臨床の場では顕著な効果を得られないことによる。この免疫応答不全の原因を究明することは癌の治療に大きな寄与をすると考えられる。担癌マウスの免疫応答不全の原因として脾細胞ではそのT細胞リセプター/CD3複合体(TCR/CD3 complex)のうちζ鎖が欠損し、IgEの高親和性リセプターであるFcεRIγ鎖がζ鎖に置き代わってTCR/CD3 complexを形成していることを示唆する実験結果が報告されている。我々はこのことが癌患者の免疫応答不全の原因となっていると考え癌患者の末梢血リンパ球のT細胞および腫瘍浸潤リンパ球を用いて検索した。担癌患者の末梢血リンパ球および手術時に摘出した癌部より0.5% collagenase処理により分離したリンパ球を0.5%digitoninでlysisしmonoclonal anti-CD3εAbで免疫沈降する。さらに2次元SDS-PAGEでTCR/CD3complexの構造を解析した。結果1.担癌患者の末梢血リンパ球105症例136回の分析ではζ鎖の発現が減弱したもの41回、完全に消失したもの47回であり約1/3の検索で完全消失を示した。大腸癌、胃癌、食道癌、肝癌、膵癌、乳癌などの症例において検索したが、特に癌の種類によるζ鎖の発現変異は認めなかった。TNM classificationによる癌の進行状況との関係をみるとstageが進行するのに従いζ鎖の発現の減弱、および消失する頻度が増強した。特に再発症例では47症例の検索中、発現の減弱は17例、消失は21例に見られた。2.癌患者の手術時摘出標本より分離した腫瘍浸潤リンパ球34症例(胃癌21例、大腸癌13例)の検討ではTCR/CD3 complexの構造異常が見られる症例は24例に見られ、そのうちζ鎖の消失が認められたものは18症例(52.9%)と高率であった。大腸癌、胃癌の両者においてこの現象は認められ、さらに末梢血Tリンパ球での構造変化が見られない症例でも腫瘍浸潤リンパ球では変化が見られ、癌局所のリンパ球から先に構造変化がくると事を示唆した。さらにζ鎖の発現の推移をみた症例では癌の進行が進むにつれて発現の減弱、消失が認められ、また治療に反応して発現が回復した症例も経験しζ鎖の発現消失は可逆的である可能性が示唆された。癌抗原がT細胞上に提示されたとしてもζ鎖の構造異常がその後のT細胞内のシグナル伝達を阻んでいる可能性があり、担癌患者の免疫応答不全の原因となっている可能性が示唆された。この原因の解明をさらに進めている。
著者
軍司 祥雄 斎藤 隆 磯野 可一
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

担癌マウスの脾細胞ではそのT細胞リセプター/CD3複合体(TCR/CD3 complex)のうちζ鎖が欠損し、IgEの高親和性リセプターであるFcεRIγ鎖がζ鎖に置き代わってTCR/CD3 complexを形成していることを示唆する実験結果が報告され、我々はこのとこが癌患者の末梢血リンパ球のT細胞でおきているのかを検索した。担癌患者の末梢血リンパ球を0.5% digitoninでlysisしmonoclonal anti-CD3ε Abで免疫沈降する。さらに2次元SDS-PAGEでTCR/CD3 complexの構造を解析した。1.これら55症例68回の分析では正常人と同じ構造を示したもの24回、ζ鎖の発現が減弱したもの21回、完全に消失したもの24回であり約1/3の検索で完全に消失を示した。この時、特に癌の種類によるζ鎖の発現変異は認めなかった。TNM classificationによる癌の進行状況との関係をみるとstageが進行するに従いζ鎖の発現の減弱、および消失する頻度が増強した。特に再発症例では17症例の検査中、発現の減弱は6例、消失は10例に見られた。癌患者のTCR/CD3 complexの構造をグループにわけてみると(1)正常なタイプ、(2)抗CD3ε抗体でζ鎖の発現が見られないが抗ζ鎖抗体での免疫沈降でζ鎖の発現がみられるタイプ(3)抗CD3ε抗体、抗ζ鎖抗体でもまったく発現の認められないタイプ、(4)またマウスの結果と同様にζ鎖の発現がみられずFcεRIγ鎖がζ鎖に置き代わっていると思われるようなタイプに分類できた。さらにζ鎖の発現の推移をみた症例では癌の進行が進むにつれて発現の減弱、消失が認められ、また治療に反応して発現が回復した症例も経験しζ鎖の発現消失は可逆的である可能性が示唆された。癌抗原が担癌患者のT細胞上に提示されたとしてもTCR/CD3 complexの構造異常がその後のT細胞内のシグナル伝達を阻んでいる可能性があり、担癌患者の免疫応答不全の原因となっている可能性が示唆された。この原因の解明をさらに進めている。