著者
高橋 一秋
出版者
長野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

クマ棚の分布は尾根に集中した。クマ棚形成に伴って形成された小規模林冠ギャップの面積は、尾根において年間1haあたり141.3m2にも達し、この面積は調査地区の尾根に創出した倒木ギャップ面積の約6.6倍であった。林冠層における開空率および液果植物の結実率は閉鎖林冠下より小規模林冠ギャップ下のほうが高い値を示した。センサーカメラによる観察から、鳥類および哺乳類がクマ棚を採餌、貯食、休憩、繁殖の場所として利用していることが明らかになった。
著者
牧野 久実
出版者
鎌倉女子大学
雑誌
鎌倉女子大学紀要 = The Journal of Kamakura Women’s University (ISSN:09199780)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.73-80, 2019-01

本稿は、伝統的な大木桶の建造に和船建造の技術、特に板の擦り合わせ技術が用いられたという仮説(牧野 2017)を検証する論考である。板の擦り合わせ技術に重要な材料となるのは槇の檎皮を縄状にした槇肌であるが、今回日本で唯一醤油大桶の製造を手掛ける職人に聞き取り調査を行い、かつては槇肌を用いていたことを確認した。 これまで竹釘のみで材を合わせ、漏れ出る醤油で材が膨らむことで合わせ目が閉じるということが定説だったが、今回得られた証言は醤油桶の建造のみならず、かつての槇肌の利用や製造に関してより広範囲に調べる必要を示唆する重要な証言と言える。これに関連して、槇肌の利用に関する現存資料や史料を整理した。
著者
蛭川 幸史 岩田 亮 黒澤 昌弘 近藤 高正 後藤 滋巳
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
Orthodontic waves : journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:13440241)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.49-56, 1999-02-25
参考文献数
30
被引用文献数
18

歯の先天性欠如(以下, 先欠と記す)は, 隣在歯の傾斜, 対合歯の挺出, 上下歯列の正中線の偏位など不正咬合の原因となることがある.また, 先欠を有する患者に対して矯正治療を行う場合は, 上下顎の位置関係や, 顎の成長発育, discrepancy, 審美的問題などにこれが加わり, 治療方針や治療方法の決定が難しくなることが多い.そこで, 先欠の存在と不正咬合との関連を調べるため, 本学矯正歯科に来院した患者の先欠を統計的に調査した.愛知学院大学附属病院矯正歯科に来院し, 資料採得を行った不正咬合患者のうち, 唇顎口蓋裂などの先天異常, 歯数に異常を引き起こす可能性のある全身疾患の疑いのあるもの, 矯正治療の経験のあるものなどを除いた3343人を調査対象とした.第三大臼歯を除く永久歯の先欠は, 9.42%に認められた.欠如歯数は, 2歯までのもので全体の75%以上を占めていた.先欠の多い歯種は, 下顎第二小臼歯, 上顎第二小臼歯, 上顎側切歯, 下顎側切歯, 下顎中切歯であった.先欠の存在と不正咬合との関連では, 先欠を有する人は先欠の無い人に比べ, 叢生の割合が低く, 上顎前突と下顎前突の割合が高かった.先欠部位が, 上顎のみの人は, 下顎前突の割合が高く, 下顎のみの人は, 上顎前突の割合が高かった.また, 先欠を有する人は, 先欠部位にかかわらず過蓋咬合の割合が高かった.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>I 研究目的・方法</b></p><p>日本では2月下旬以降にCOVID-19の感染拡大が進み,3月には「行動変容」が求められるようになり,大都市を含む都道府県を中心に,知事による週末の外出自粛要請が行われた.4月には日本政府による緊急事態宣言が出され,罰則のある外出禁止ではなく,"自粛"という形で,人々の移動が実質的に制限されてきた.5月以降,感染者の増加が弱まってきたことで,5月25日には緊急事態宣言が解除され,6月19日からは政府による都道府県間の移動の自粛要請も撤廃されたが,7月に入って再び感染者が大きく増加してきている.</p><p>そこで,本報告では,位置情報付きTwitterデータを利用して,2020年1月以降の日本におけるTwitterユーザーの移動状況の時系列変化の実態を明らかにし,それによって「行動変容」をはじめとする人々の日々の移動に関する変化の一端を示すことを目的とする.分析に用いるデータは,米国Twitter社が提供するAPIを通して収集できた,日本国内の位置情報が付与されたTwitterデータのうち,2020年1月6日〜7月26日までのデータである.</p><p><b>II 都道府県別のTwitterユーザーの移動状況</b></p><p>同一市区町村内でのみ移動するTwitterユーザーに注目し,Twitterユーザーに関する市区町村内移動ユーザー率を1日単位で求める.市区町村内移動ユーザー率は,ある1日において,1つの市区町村内でのみ投稿しているTwitterユーザーの数を,その市区町村内でその日に投稿したことがあるTwitterユーザーの総数で割ることによって算出される.ただし,1日の投稿件数が2件以上のTwitterユーザーを分析対象に絞る.市区町村内移動ユーザー率は,都道府県を含めた複数の市区町村で構成される空間単位で算出することもできる.</p><p>図1は,2月上・中旬の日曜日である2日・9日・16日の都道府県別の市区町村内移動ユーザー率の平均値を1としたときの,各日の値の比を示したものである.3月29日には,埼玉県,東京都,神奈川県,山梨県,大阪府で1.50を超え,市区町村内移動ユーザー率の上昇が,外出自粛要請が行われた地域を中心に生じていることがわかる.5月6日の時点では,全都道府県で2月上・中旬よりも高い状況は続いている.都道府県間の移動自粛要請の撤廃後の6月21日には1.00を下回る都道府県も増えてきたが,大都市圏の都道府県では依然として高く,7月26日には大阪府で1.44,東京都で1.39となっている.</p><p><b>III 東京・京阪神大都市圏でのTwitterユーザーの移動状況</b></p><p>東京・京阪神大都市圏における市区町村内移動ユーザー率をみると,特に東京において平日に低く,休日に高いパターンとなっている.2月下旬以降の両大都市圏では,休日を中心とする市区町村内移動ユーザー率の上昇が確認でき,いずれも平日に低く,休日に高いという明瞭なパターンが確認できる.3月29日から5月下旬までは,おおむね京阪神よりも東京のほうが高い傾向にある.5月16・17日を最後に,両大都市圏の市区町村内移動ユーザー率が80%を超えることはなくなっており,平日に低く,休日に高い傾向を維持しつつも,徐々に低下してきている.</p><p>次に,昼間を11〜16時台,夜間を0時台と19〜23時台として,それぞれの大都市圏全体と,各大都市圏内のうち,2015年の昼夜間人口比率が100以上の市区町村(中心地域)とそれ以外の市区町村(周辺地域)ごとに求めたユーザー数をもとに,夜間ユーザー数に対する昼間ユーザー数の比率を求める.2020年第2週(1月6〜12日)の平日を100とした指数を求めると,東京では第10週(3月2〜8日)に上昇し,周辺地域では中心地域よりも高い値を示した.第14週(3月30日〜4月5日)以降,特に周辺地域において大きく上昇し,昼間のユーザー数が相対的に多くなってきたものと考えられる.第22週(5月25〜31日)以降は低下傾向に転じているが,第30週(7月20〜26日)の時点では,まだ第2週の水準にまでは戻っていない.京阪神については,おおむね似た推移を示しているものの,値の上昇は東京ほどではない.</p>
著者
石原 辰男 佐田久 真貴 佐久間 徹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.25-32, 2000-03-31 (Released:2019-04-06)

われわれは、自閉的行動をもつ幼児に対してフリーオペラント事態における指導を実施し、それに続いて机上の課題学習指導を導入した。絵カードの命名課題において呈示された絵カードの名前を言うことができないときに、その指導から逸脱する行動が認められた。そこで、Koege1(1995)に示唆を得て、わからないときに「これなに?」と質問するように指導した。今回われわれのとった手続きは、Kogel(1995)とは異なるものであったが、本児は質問行動を獲得し、指導から逸脱する行動は低減し、自発的な命名反応も増加した。さらに、フリーオペラント事態や日常の場面へも般化した。Koegelの手続きとわれわれのそれとを比較検討したところ、いずれの場合においても「これなに?」の質問が獲得されるためには、社会性強化子や他の自然強化子が有効に機能し、同時に物の名前を教えてもらって聞くことも強化機能を有する必要のあることが示唆された。
著者
Tomoya Suzuki Kanto Nishikawa Yukuto Sato Mamoru Toda
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
Genes & Genetic Systems (ISSN:13417568)
巻号頁・発行日
pp.21-00046, (Released:2021-11-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Species identification using molecular techniques has recently become common for various taxa. Loop-mediated isothermal amplification (LAMP) is one of the easiest and least expensive molecular identification methods. Although few studies have developed LAMP assays for amphibians, we believe that LAMP is also useful for identifying endangered amphibians. Hynobius tokyoensis and H. lichenatus occur in Honshu, Japan, and have parapatric distributions. They are similar morphologically, especially at early developmental stages, including eggs and larvae. Hynobius tokyoensis has been listed as a national endangered species in Japan since 2020, and unambiguous identification of these species is therefore important for their conservation and management. In this study, we developed a LAMP primer set for the mitochondrial cytochrome b region to detect H. tokyoensis, and we evaluated the LAMP assay using total genomic DNA from four H. tokyoensis and three H. lichenatus individuals from across most of their ranges. Our LAMP primer set could distinguish these two species. This study should help to establish LAMP assays for other endangered species and morphologically similar species.
著者
夏秋 道俊 岩永 秀人 新堂 高広
出版者
佐賀県果樹試験場
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-7, 2004 (Released:2011-03-05)

1.平坦地において根域制限栽培されたウンシュウミカン園を用いて,根域制限栽培に適した土壌母材について検討した。2.樹冠の拡大は保水力の高い火山灰土壌区が最も良好で,玄武岩質土壌区が最も小さかった。また,花崗岩質土壌区ではかん水の回数が多くなるため,肥効調節型肥料を用いることにより,樹冠が拡大すると思われた。3.玄武岩質土壌や安山岩質土壌区ではT/Rが低く,花崗岩質土壌区や火山灰土壌区では高い。4.果実の収量は火山灰土壌区で最も多く,次いで花崗岩質土壌区で,玄武岩質土壌区が最も少なかった。5.果実糖度は粘質な玄武岩質土壌区で最も高く,次いで安山岩質土壌区で,花崗岩質土壌区が最も低かった。
著者
岸本 章宏
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.139-145, 2012-01-15

チェス,オセロ,チェッカー,シャンチーなど,二人零和完全情報ゲームは世界に多い.この手のゲームは両者が最善を尽くすと「先手必勝,後手必勝,または引き分け」という解が求まる.本稿では,すでに必勝法が求められたゲームをいくつか取り上げ,必勝法計算に利用した手法について概観する.
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

2001年9月頃からBe拡散処理が施されたオレンジ/ピンクのサファイアが大量に日本国内に輸入され話題となった。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、鑑別機関としての対応が遅れる結果となった。その後の精力的な研究によってBe拡散処理の理論的究明には進展が見られたが、軽元素であるBe(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、その後の検査機関のあり方を問われる結果となった。<BR>LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性と、ppb~ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。鉱物等の固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10μm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、Be拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石学分野においても活用されるようになった。さらにLA-ICP-MSは蛍光X線分析では検出できない微量元素の検出が可能であるため、それらの検出された微量成分の種類や組み合わせがケミカル・フィンガープリントとして宝石鉱物の原産地鑑別に応用されている。既にコランダム、エメラルド、パライバ・トルマリンなどでは多くの研究例があり、一定の成果が上がっている。<BR>本研究では、これらのLA-ICP-MS分析法の宝石学分野における他の重要な応用例の1つとして、天然及び合成ルビーの鑑別法について検討した。<BR>1990年代初頭、新産地であるベトナム産ルビーの発見と同時期に大量の加熱処理されたベルヌイ法合成ルビーが宝石市場に投入された。加熱が施されることにより、鑑別特徴であるカーブラインが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが誘発されることで、識別が困難となった。1990年代半ば以降にはフラックス法によるカシャン、チャザム、ラモラ等の合成ルビーに加熱処理されたものが出現した。特にフラックス法合成ルビーは加熱によって内部特徴が変化すると、標準的な鑑別手法では識別が極めて困難となり、他の有効な鑑別手法の確立が必要とされている。本報告では、ベルヌイ法、結晶引上げ法、フラックス法、熱水法等の合成ルビーをLA-ICP-MSで分析し、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の遷移元素や希土類元素等の相違について纏めた結果を紹介する。
著者
田淵 久晃 田山 忠行
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.79-84, 2002
参考文献数
7

本研究では,顔の人物と表情の認識にどのような空間周波数成分が関わるかを調べた。我々は. root-mean-sauare (RMS)コントラスト感度とSN比(signal-to-noise ratio; S/N)を測定した。さらに理想的受信者の信号エネルギーをコンピュータ・シミュレーションで算出し,理想的受信者の信号エネルギーと,実験から得られた被験者の信号エネルギーとの割合から効率(Efficiency)を算出した。これらのデータは,顔画像は約20c/fwで最大感度を持つ単一のガウシャン・チャンネルによって処理されることを示唆する。
著者
久木元 美琴
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.291-299, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
63
著者
北川 眞也
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.264-271, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
44
著者
今野 泰三
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.287-290, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
29
著者
八塚 正晃
出版者
慶應義塾大学大学院法学研究科
雑誌
法学政治学論究 : 法律・政治・社会 (ISSN:0916278X)
巻号頁・発行日
no.93, pp.167-198, 2012

一 問題の所在二 歴史決議の政治的背景 (一) 権力移行と歴史の総括の気運 (二) 歴史決議の起草決定とその背景―慎重論と積極論の検討三 起草過程における三つのグループ―その特徴と関連 (一) 歴史の総括 (二) 政治体制改革の議論 (三) イデオロギーの修正四 歴史決議の公表をめぐる政治過程 (一) ポーランド事件と政治指導者の国内情勢認識 (二) 歴史決議への影響 (三) 歴史決議の公表五 結論
著者
倉島 孝行 松浦 俊也 日野 貴文 神崎 護 キム ソベン
出版者
京都大学フィールド科学教育研究センター森林生態系部門
雑誌
森林研究 (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.81, pp.1-11, 2021

本稿ではカンボジアを例に, 集約管理型コミュニティ林業 (以下, CF) 導入・普及の試みが発展途上国の台地・丘陵地帯で直面しうる問題と, その現実的な対策について解明・論述する. 具体的には一地方内の複数のCF区域と各周辺域の土地利用動態, それらの差違の要因, 以上の点から汲み取れる施策上の示唆点を記す. カンボジアでは大規模森林伐採権制度停止後, 国土の11%をCF域とする方針が出された. だが, 森林維持群と耕地拡大群という, 好対照なCF区域が狭い範囲内に出現していた. 特に後者には政府の新たな土地コンセッション発行に基づくゴム園の拡大と, 農民による商品農作物栽培地の拡大とが直接・間接に影響していた. 以上の対照的なCF区域出現の背景として, 村ごとで異なった余剰可耕地の大小と, 新参者の耕地化の動きが重要だった. そこで今後, 森林維持群を増やすためには, 1)CF区域の取捨選択に当たり, CF以外の土地利用政策と農林業の動向, それらに由来する土地需要の変化を踏まえた, 中期的で広範な分析に基づく判断と, 2)CF区域での新参者の耕地化に, 元からいる村人らが追随しないようにする効果的な支援が肝要だと言える.