著者
吉田 隆雄 幸田 健一 中尾 進太郎 大山 行也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.106-114, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ニボルマブ(遺伝子組換え)[商品名:オプジーボ®点滴静注20 mg,100 mg,以下ニボルマブ]は,ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり,「根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果として,2014年9月より世界に先駆けて日本で発売された新たな免疫チェックポイント阻害薬である.非臨床試験において,ニボルマブは,ヒトPD-1の細胞外領域に特異的に結合し,PD-1とPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との結合を阻害した.また,ニボルマブは抗原刺激によるヒトT細胞の増殖およびIFN-γ産生を増強し,悪性黒色腫患者T細胞を用いた悪性黒色腫抗原ペプチド再刺激系においては,腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞およびIFN-γ産生細胞を増加させ,ヒト悪性黒色腫細胞に対するCD8陽性T細胞の細胞傷害活性を増強した.さらに,ニボルマブは各種抗原を接種したサルの細胞性および液性免疫応答を増強し,抗マウスPD-1抗体4H2は,マウス同系担がんモデルにおいて腫瘍組織中の免疫関連遺伝子の発現量を増加させ,抗腫瘍効果を示した.このようにニボルマブは,PD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し,抗原特異的なT細胞の増殖,活性化およびがん細胞に対する細胞傷害活性を増強することで抗腫瘍効果を示すことから,悪性腫瘍に対する新たな治療薬になると考えた.臨床試験において,悪性黒色腫患者を対象とした国内第Ⅱ相試験にて有効性,安全性および忍容性が確認されたことから,ニボルマブは悪性黒色腫の有用な治療薬となりえることが示された.本試験結果を踏まえ,2013年12月に製造販売承認申請を行い,2014年7月にニボルマブは世界初の抗PD-1抗体として製造販売承認を取得した.現在,様々ながん腫に対するニボルマブの臨床試験が実施されており,今後ニボルマブが,がん治療の選択肢を広げるものと期待される.
著者
立花 和則
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

睡眠は健康な生活に必須で、特に脳の休息に重要であるとされるが、その制御の分子的機序は不明の点が多い。最近、脳をもたない、末梢神経のみの刺胞動物においても、睡眠があると示唆されている。脳の無いクラゲにも睡眠が存在することは、睡眠は、脳のみでなく、末梢においても何らかの役割を果たしていることを示している。本研究はこの「末梢睡眠」の機能を明らかにすることを目的とする。最近、応募者らのゲノム解析により、クラゲのゲノム中に、マウスで「眠気」を制御する鍵となる重要な遺伝子SIK3のオーソログが見つかった。本研究では、クラゲにおけるSIK3分子の機能を解明し、末梢睡眠の意義や分子機構を明らかにしたい。
著者
葛西 勤
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.537-542,a1, 1975-08-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
3

近年における産業界の急速なる発展と都市化の進展により, 農業用水の汚濁ははなはだしいものがある。水質汚濁による被害は, 農業生産性の低下のみならず農村の生活環境にも大きな障害を与えている。本稿では水質障害の現状とその対策事業について述べた。
著者
水野 昌美 中尾 優子
出版者
日本健康学会
雑誌
日本健康学会誌 (ISSN:24326712)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.150-159, 2022-07-31 (Released:2022-10-21)
参考文献数
38

Unlike the conventional parent-led weaning, baby-led weaning (hereafter referred to as BLW) is an approach that proposes harnessing the babies' own eating abilities by allowing them to choose what they want to eat based on their interests, and eat at their own pace. BLW is currently gaining ground around the world. Interestingly, in Japan, a book on BLW was translated into Japanese in 2019. Based on foreign literature, there is a possibility that BLW may lead to iron and zinc deficiencies compared to conventional weaning; however, there was no significant difference in choking risk. Benefits such as less food pickiness and less worry about becoming overweight due to self-regulating eating as a satiety response were identified. Overseas, based on the results of BLW and TW (traditional weaning) research, weaning methods for infants are being considered. In the future, while paying attention to safety issues such as choking, we will devise ways to proceed with weaning in consideration of the Japanese diet, and will promptly accumulate BLW research from related fields in Japan. We believe that this would influence the practice of BLW in Japan and its subsequent dissemination.
著者
伊藤 海斗 加嶋 健司
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.4K1GS101, 2022 (Released:2022-07-11)

確率分布を所望の分布に効率よく輸送する問題(最適輸送問題)は,機械学習を含め様々な応用が期待されている.本研究では,動的システム上で離散分布を所望の離散分布に輸送する問題を考える.これはエージェントの集団を所望の分布形状に最適制御する問題とも見なせる.通常の最適輸送と比較して,動的システム上の最適輸送特有の問題は,各輸送コストを知るために最適制御問題を解く必要があり,そして制御に要する実時間性を保って最適輸送問題を解かなければならないことである.そこで本研究では,モデル予測制御(MPC)とSinkhornアルゴリズムを組み合わせた動的な輸送アルゴリズムを提案する.MPCは各時刻で有限時間の最適制御を解くことで実時間最適制御を実現する手法である.またSinkhornアルゴリズムは,エントロピー正則化最適輸送を効率的に解く反復計算手法である.これらを活用し,具体的には最適制御計算とSinkhornアルゴリズムの反復を並行して行うことで,実時間性をもつ効率のよい輸送法を提案する.特に,対象システムが線形の場合に,提案手法で制御されるダイナミクスの有界性や漸近安定性といった重要な性質を示す.
著者
篠崎 鉄哉
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.603-613, 2023-12-06 (Released:2023-12-06)
参考文献数
114

本総説では,津波堆積物に対し地球化学的手法を用いた研究をまとめ,津波堆積物の地球化学的特徴・挙動について整理し,今後の課題と併せて記述した.地球化学的手法が津波堆積物そのものではなく,海水流入の痕跡もしくは環境変化を見ているため,津波堆積物研究の中でも(1)地層中の津波堆積物の識別や(2)津波浸水域の高精度復元への貢献が期待されている.近年発生した巨大津波以降,津波堆積物の地球化学的特徴について多くの知見が報告されてきており,化学プロキシごとの挙動が徐々に明らかになってきた.一方,依然としてプロキシごとの保存ポテンシャルや堆積環境ごとの挙動に関しては十分な知見が得られているとは言い難い.今後は,現世・古津波堆積物の化学的特徴の把握に加え,新たなプロキシ・解析手段を適用が求められる.そのためには様々な研究分野との協働が必要不可欠であり,分野横断型研究を進めていくことが求められる.
著者
大﨑 達哉 金城 結海夏 池内 与志穂
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.251-255, 2020-05-01 (Released:2020-06-13)
参考文献数
26

脳は運動・知覚・意識や記憶といったヒトのすべての活動において重要な役割を果たしている.脳の機能が生み出される仕組みを理解するために,多様な手法(EEG, fMRI など)が発展してきたことに加え,近年はヒト幹細胞から脳に似た構造を持つ組織体(脳オルガノイド)を作製して解析する試みが盛んに行われている.本稿では,複雑な脳の秘密を解き明かす手法として,基礎研究と産業応用の両面から期待されている脳オルガノイド研究の現状を紹介し,さらなる発展への工学・化学分野の必要性を議論する.
著者
金澤 輝代士
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.360-364, 2021-06-05 (Released:2021-06-05)
参考文献数
11

物理学にはブラウン運動を代表とする確率現象が多く存在し,それらは確率過程として記述されることが多い.そして,確率過程の枠組みとして最も確立しているクラスはマルコフ過程である.マルコフ過程とは,現時点の情報だけを元に時間発展が完全に決まる確率過程クラスであり,数学的に洗練された様々な枠組みが既に出来上がっている.実際,マルコフ確率過程(マルコフ確率微分方程式)の設定が具体的に与えられた場合,対応するマスター方程式(またはフォッカープランク方程式)を導出することによって,固有値問題に帰着させることができ,系の性質を体系的に理解することが可能である.一方で現実の物理現象の多くはマルコフ過程ではなく,非マルコフ過程であることも知られている.即ち,過去全ての時系列情報があって初めて,時間発展を記述することができる.例えば,歴史的に最初に発見されたブラウン運動を思い出してみよう.ブラウン運動は水中の微粒子を題材としたものであり,流体力学相互作用に由来して強い非マルコフ性を示すことが実際に知られている.このような非マルコフ過程に,一般の非線形系を含めて適用可能な処方箋は現在確立していない.そこで最近筆者とD. Sornette(ETH Zurich, SUSTech)の研究グループは,このような非マルコフ過程を体型的に取り扱う解析手法を研究している.特に我々はホークス過程とよばれる複雑系物理学の非マルコフ確率過程のモデルに着目し,ホークス過程に適用可能な場の理論的な解析手法を構築した.ホークス過程とはバーストを伴う臨界現象を説明する時系列モデルであり,地震・社会現象・疫病・神経系といった幅広い分野で活用されているモデルである.本解析手法を用いて我々は臨界点近傍におけるホークス過程の定常分布の漸近系を調べ,非普遍的な指数をもつべき分布が,一般のホークス過程で現れることを発見した.本手法の鍵となるアイディアは非マルコフ・ホークス過程を高次元のマルコフ過程に埋め込むことである(マルコフ埋め込み法).この方法を用いることで,非マルコフ過程であっても,マスター方程式のような従来のマルコフ過程の枠組みが適用可能になる.我々の論文では一般のホークス過程に対してこのマルコフ埋め込みの手法を適用し,無限次元空間のマルコフ場の確率過程にマップする理論解析手法を開発した.結果,場の理論型のマスター方程式を用いた漸近解析手法が有効であることがわかった.この手法の適用範囲はオリジナルのホークス過程だけに留まらず,より広いクラスの非マルコフ過程(例えば,非線形ホークス過程や,より一般の非マルコフ点過程など)の解析に応用できることが徐々にわかってきた.更に本手法は形式的に非エルミート場の量子論と形式的な対応関係が存在することがわかった(例えば,一般化ランジュバン方程式は調和振動子場の非エルミート量子論と対応関係がある).今後は非エルミート場の量子論と非マルコフ古典確率過程の一般的な数学的関係を調べることで,幅広い非マルコフ系に対して適用可能な新しい理論的枠組みを構築することができる可能性があるのではないか,と筆者は考えている.
著者
松岡 俊二
出版者
早稲田大学アジア太平洋研究センター
雑誌
アジア太平洋討究 (ISSN:1347149X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.77-100, 2022-03-24 (Released:2022-03-29)
参考文献数
32

This article examined 1F decommissioning policy from a viewpoint of the social science and from a history of the governance of TMI-2 Cleanup Program in U.S.A. This article performed comparative analysis with partnership type decommissioning governance of TMI-2 based on the GEND agreement and the central government-led model decommissioning governance of 1F. The author got the following 3 important conclusions. Firstly, the improvement and innovation of the 1F decommissioning governance, based upon scientific examination and the discussion by a variety of people concerned are necessary. The second is importance of the formation of “Ba (place) of Dialogue” with the local communities. By the decision of the expert committee which lacked in “Ba of Dialogue” with the local communities, it cannot breed the social acceptance and social understanding. The third is importance of the recognition of the problem of Trans-Scientific Questions. There are not the measures without the recognition of the question.

8 0 0 0 OA 沸石の種類

著者
松原 聰
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.261-267, 2002 (Released:2008-05-08)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

According to the recommended nomenclature for zeolite minerals by the subcommittee on zeolites of the Commission on new minerals and mineral names of IMA (1997), 83 species have been defined. After the recommended report, three new zeolites have been approved in the Commission up to the date. Though gmelinite-K was recorded in the zeolite report of 1997, it was formally approved in 1999. Here, all 85 spicies are summerized and the 41 species among them found in Japan are briefly reviewed.
著者
清水 一彦
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.117-138, 2015-03-20 (Released:2019-03-31)
参考文献数
29

『読書世論調査』によれば,2005年ごろまでは若者は読書離れしていなかった.しかし,知識人,出版業界人,ジャーナリズムのアクター3者のバイアスが相互作用してつくられた「若者の読書離れ」という認識は,オーディエンスが“ここちよい”ものとして受容することで1980年代までには“常識”となった.本稿では当時の社会的な背景をふまえたうえで,なぜ「若者の読書離れ」という常識が構成されそして受容されたのかを論じる.