著者
小谷 紗稀 深沢 良輔 武澤 秀理 馬場 正道 曽根 淳 藤井 明弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.194-199, 2021 (Released:2021-03-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は70代の男性3例.主訴は全例歩行障害だった.全例に縮瞳と四肢・体幹失調を認め,mini-mental state examinationは2例,frontal assessment batteryは全例で低下していた.頭部MRIで白質脳症所見と小脳萎縮,拡散強調画像で皮髄境界の高信号を認めたが,2例は経過観察となっていた.全例,皮膚生検で抗ユビキチン抗体と抗p62抗体陽性の核内封入体,遺伝子検査でNOTCH2NLCのCGGリピート伸長を認め,神経核内封入体病と診断した.本症は物忘れを主訴とすることが多いが,失調による歩行障害で受診することもあり,特徴的な頭部MRI所見を手掛かりに皮膚生検や遺伝子診断で精査を進めることが重要である.

1 0 0 0 OA めまい

著者
城倉 健
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.279-287, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2

めまいの病態は,眼球偏倚(および結果として生じる眼振)に反映されることが多い.末梢性めまいである良性発発作性頭位めまい症は,耳石が迷入した半規管刺激による眼球偏倚がそのまま出現する.良性発作性頭位めまい症以外の末梢性めまいでは,一側の半規管障害をすべて総和した眼球偏倚となる.一方,中枢性めまいでは,中枢前庭経路(半規管経路+耳石器経路)が小脳により抑制制御を受けているため,前庭経路の直接障害による眼球偏倚に加え,小脳からの脱抑制による眼球偏倚も出現する.小脳による中枢前庭経路の抑制制御は,めまいの回復に重要な役割を担う前庭代償にも深く関わっている.めまいを治療する際には,こうしためまいの病態を理解し,病態に応じて特異的に介入する必要がある.
著者
梅本 大地 柴田 曜 森 仁 進藤 克郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.537-542, 2021 (Released:2021-08-30)
参考文献数
16
被引用文献数
3

破傷風は土壌に存在する破傷風菌が体内に侵入することで発症する感染症である.当院が診断した破傷風11症例について先行外傷や治療経過など臨床経過について検討した.発症時の平均年齢は68歳であり,7例で集中治療管理を要した.先行外傷には明らかに汚染を伴う例もあれば,非常に軽微あるいはない例もあり,先行外傷の程度と重症度に相関はなかった.初診医が破傷風と疑えたのは11例のうち4例のみであり,開口障害や頸部の筋緊張亢進など典型的な症状を呈していても外傷が軽微,またはない場合には見逃される傾向にあった.破傷風を疑う際には生活歴に至るまでの病歴聴取および適切な神経診察を行い診断・治療を行う必要がある.
著者
西尾 誠一郎 林 祐一 加藤 新英 大野 陽哉 和座 雅浩 長尾 洋一郎 向野 晃弘 中根 俊成 下畑 享良
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.522-529, 2021 (Released:2021-08-30)
参考文献数
16

弓道において,弓を放つ際,「早気,もたれ,びく,ゆすり」と呼ばれる4種類の状態が生じ,上達に支障を来す.種々のスポーツで認めるイップスの定義に当てはまるが,これまでほとんど検討されていない.これらの頻度や分類の意義,危険因子について明らかにすることを目的に,大学生を対象とした検討を行った.アンケートを行った65名中41名(63.1%)にいずれかの経験があり,「早気」が最も多かった(のべ35名;85.3%).イップス発症の危険因子として,経験年数が長いことが関与していた.病態は未だ不明なことが多いが,「もたれ」のみ単独で出現し,その特徴からも動作特異性局所ジストニアの関与の可能性が疑われた.
著者
西田 亮介
出版者
情報処理学会 ; 1960-
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.596-598, 2018-06-15

近年,密接になっている情報化と政治の関係について簡潔に概観する.SNSなどが身近なものになり,また選挙といった政治的選択に付随する情報収集における重要な存在になるなかで,SNSを使った政治的介入に対する懸念が高まっている.これらの主題を扱うにあたって,世界的に問題視されている近年のケンブリッジ・アナリティカ等の事例を紹介する.その後,技術的な規制は不可能ではないが,言論の自由といった民主主義国固有の前提条件を毀損しかねないという懸念やディジタル・ゲリマンダリング等の議論に言及し,近い将来の国内における懸念事項として憲法改正の国民投票運動の例を挙げた.
著者
村上 圭秀 髙 真守 髙橋 麻衣子 伊東 秀文
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.687-691, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
30

症例は77歳女性.2~3日の経過で起立性低血圧,尿閉,便秘が出現した.入院時,立位にて失神を伴う起立性低血圧,瞳孔散大,対光反射減弱を認め,その他神経学的に異常を認めず.ノルエピネフリン(NE)負荷試験とピロカルピン点眼試験で過敏反応,血中NE低値,定量的軸索反射性発汗試験で発汗低下を認め,自律神経節後線維の障害を考えた.抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体陽性で,自己免疫性自律神経節障害(autoimmune autonomic ganglionopathy,以下AAGと略記)と診断した.免疫グロブリン大量静注療法(intravenous high-dose immunoglobulin therapy,以下IVIgと略記)で立位可能となり,便秘と尿閉も改善した.AAGに対する免疫治療の反応性は様々であるが,急性発症AAGではIVIgが奏効しやすい可能性が示唆された.
著者
忽那 史也 山下 魁理 金本 正 黒濱 大和 立石 洋平 辻野 彰
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.671-675, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
25
被引用文献数
1

症例は右片麻痺,失語を主訴に搬送された86歳男性.拡散強調画像で左島皮質から前頭葉に高信号域があり,MRAで左中大脳動脈が閉塞していた.血栓回収療法を行ったが再開通は得られなかった.血液培養検査でEnterococcus faecalisが検出され,大動脈弁に可動性の疣腫を認めたことから感染性心内膜炎と診断した.その後多臓器不全で死亡し,病理解剖を施行した.脳塞栓部には細菌塊を伴う血栓があり,炎症細胞が血管壁内に浸潤し,内弾性板は一部破綻していた.血栓と血管壁は癒着していた.感染性心内膜炎による脳塞栓症では,血栓と血管壁の癒着が血栓回収療法による再開通を得られにくくする要因の一つかもしれない.
著者
高木 隆助 埴原 光人 名取 高広 土屋 舞 木内 博之 瀧山 嘉久
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001611, (Released:2021-10-16)
参考文献数
21

症例は63歳男性.2011年クリプトコッカス脳室炎で入院,約1年間の治療で症状は改善した.数年後に左側脳室下角に限局した非交通性水頭症による近時記憶障害の悪化を認め,2019年に左側脳室下角へ脳室腹腔シャント術(ventriculoperitoneal shunt,以下VPSと略記)を行った.2020年に両側側脳室前角の拡大による排尿障害と歩行障害の悪化を認めたため,右側脳室前角へVPSを施行し,症状の改善を認めた.脳室炎後の多発性隔壁形成のため,慢性期に水頭症を生じた成人例はきわめて稀である.本例では,多房性の水頭症により脳室の一部が特に拡大し,その部位に応じた症候が出現することが示唆された.
著者
小田 亮介 藤倉 舞 林 貴士 松谷 学 曽根 淳 下濱 俊
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001609, (Released:2021-10-16)
参考文献数
22

症例は70歳女性.来院6年前にもの忘れを発症した.認知機能障害,神経因性膀胱,便秘症,繰り返す嘔吐発作が認められた.当科初診時には肝内門脈体循環シャントによる肝性脳症を合併していた.頭部MRIでは皮髄境界や脳梁膨大部,両側中小脳脚にDWI高信号像が認められ,皮膚生検とNOTCH2NLC遺伝子検査の結果から神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease,以下NIIDと略記)と診断した.過去10年の頭部MRIを後方視的に確認したところ,認知機能障害の出現に先行して異常信号が存在し,経時的に拡大していた.特徴的な皮髄境界病変だけではなく脳梁膨大部にも早期からDWI高信号像が認められることを念頭に置くことが,NIIDの早期診断に重要と考えられた.
著者
野矢 充
出版者
名古屋市立大学大学院人間文化研究科
雑誌
名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究 = Studies in humanities and cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.33, pp.15-38, 2020-01

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞について、憲法改正関連記事面積を1年間測定したところ、改憲派の読売よりも、9条堅持派あるいは改憲慎重派の朝日・毎日の面積の方が大きいことが判明した。それはなぜかを追究したのが本稿である。紙面に掲載された識者の数をはじめ、憲法改正の国民投票やデモ・集会を取り上げた記事など様々な点で量に開きがあることを確認した。報道する際のフレームの分析や、新聞報道量と受け手との関係を研究した「アジェンダセッティング(議題設定)理論」を組み合わせて考察し、朝日・毎日のフレームは側面的な議題が多様なため記事量が膨らむことが分かった。ただ、本稿は、安倍内閣の改憲発議前の局面に限っての調査結果であり、長期プロセスの中で記事量の逆転現象はあるのか課題は残る。同理論においては、本稿のようなメディア間の論調や量の違いを扱ってこなかっただけに、理論の裾野を広げた点で学術的な意義があると考える。
著者
小林 克寿 宇野 裕巳 永井 司 多田 晃司 北島 和一 出口 隆 栗山 学 河田 幸道
出版者
社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析療法学会雑誌 (ISSN:09115889)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.1313-1316, 1990-11-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
8

CAPD (continuous ambulatory peritoneal dialysis) は腎不全の治療として血液透析や腎移植と共に重要な治療法の一つである. しかし最大の合併症として腹膜炎があり, これがCAPD継続の鍵を握っている. 最近この腹膜炎の中に無菌性のものがあることが知られている. 特に排液中の好酸球の割合が多く, 自然寛解をみる好酸球性腹膜炎が注目されてきている. 今回我々は3例の好酸球性腹膜炎を経験した. 3症例ともCAPD導入後2-3週間で発症し, 抗生剤を使用せずに1-3週間で自然治癒した. このうち2症例に肝機能障害が出現した. 好酸球性腹膜炎の発症機転はアレルギー反応と推察されているが, 我々の症例においては末梢血の好酸球の増加はなく, カテーテルの滅菌方法をEOGからオートクレーブに変更したところその後の症例においては1例も好酸球性腹膜炎の発症を認めていない. 好酸球性腹膜炎は自然治癒し腹膜機能も低下させないので, 腹膜炎発症時には白血球分画も測定し, 本疾患の診断をつけることが大切であり, 抗生剤治療は無意味である.
著者
大門 拓実 田村 彩 髙橋 邦彦
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.166-167, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
1

著者らは,農産物中の残留農薬をQuEChERS (EN 15662:2008)の原理で抽出後,希釈のみ行い,LC-MS/MSで測定を行うという,迅速性,簡便性,汎用性の高い分析方法について,全21種の農産物を対象にその妥当性確認を実施した.その結果,全210成分中194~210成分において妥当性評価ガイドライン(厚生労働省通知)の目標値を満たしたことから,本法は迅速的かつ効果的な分析法として適用可能であることが考えられた.
著者
長沢 寛弥 國吉 杏子 谷川 敏明 小林 直樹 小西 良子 朝倉 宏 大城 直雅
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.157-161, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
32
被引用文献数
2

小笠原群島(聟島列島,父島列島および母島列島)におけるシガテラの実態を調査するために,周辺海域で漁獲されたバラハタVariola louti 65個体の筋肉を試料としてLC-MS/MSによるシガトキシン類(CTXs)分析を実施した.すべての試料からCTX1Bに近接するピークが検出されたが,CTX1Bの前駆体である52-epi-54-deoxyCTX1B,54-deoxyCTX1Bや,他のCTX類縁体は検出されなかった.バラハタ試料では通常,この3物質が同時に検出されることから夾雑物による影響を考え分析カラムを変更して分析した結果,全試料においてCTX1Bとは保持時間が異なったため夾雑物由来であると判断した.本研究に供したバラハタは体重2,170~7,000 gと大型の個体であったにも関わらず,65個体のいずれからもCTXsは検出されなかった.そのため,小笠原群島周辺海域のバラハタによるシガテラのリスクは低く,CTXs産生性渦鞭毛藻の分布密度は沖縄・奄美海域に比較して極めて低いことが示唆された.
著者
福光 徹 脇 ますみ 萩尾 真人 林 孝子 桑原 千雅子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.168-174, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1

畜水産物中のキノロン系およびテトラサイクリン系薬剤18成分を対象としたLC-MS/MSによる高精度な一斉分析法を確立した.n-ヘキサン存在下,EDTA含有クエン酸緩衝液–メタノール–アセトニトリル(3 : 1 : 1, v/v/v)混液で試料から対象薬剤を抽出し,Oasis PRiME HLBミニカラムで精製した.本分析法は,n-ヘキサンを用いることで,脂肪を含む固体試料中の対象薬剤も抽出可能であることが示唆された.また,ミニカラムからの溶出液に0.1 vol%ギ酸含有・メタノール–アセトニトリル(3 : 7, v/v)混液を用いることで,回収率の低下を最小限にしつつ精製効果を向上させることができた.6種類の食品試料を用いて妥当性評価を実施した結果,選択性および添加濃度におけるS/N比は良好であり,真度70.6~113.8%,併行精度9.0%以下,室内精度15.5%以下とガイドラインの目標値を満たした.
著者
小野 譲司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.20-34, 2010-06-30 (Released:2021-03-18)
参考文献数
22
被引用文献数
5 4
著者
Naoki Ohno Kotaro Yoshida Yu Ueda Yuki Makino Tosiaki Miyati Toshifumi Gabata Satoshi Kobayashi
出版者
Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine
雑誌
Magnetic Resonance in Medical Sciences (ISSN:13473182)
巻号頁・発行日
pp.mp.2021-0087, (Released:2021-11-02)
参考文献数
26
被引用文献数
5

Purpose: This multi-scanner study aimed to investigate the validity of single breath-hold (BH) diffusion-weighted imaging (DWI) using simultaneous-multislice (SMS) echo-planar imaging in multiple abdominal organs to enable faster acquisition and reliable quantification of apparent diffusion coefficient (ADC).Methods: SNR, geometric distortion (GD), and ADC in a phantom; the ADC in the liver, renal cortex, paraspinal muscle, spleen, and pancreas; and the signal intensity ratio of the portal vein-to-muscle (SIRPV-M) in healthy volunteers were compared between BH- and respiratory-triggered (RT) DWI with b-values of 0 and 800 s/mm2 in two different MRI scanners.Results: The phantom study showed that the SNR of BH-DWI was significantly lower than that of the RT-DWI (P < 0.05 for both scanners), whereas the GD and ADC of BH-DWI did not differ significantly from those of the RT-DWI (P = 0.09–0.60). In the volunteer study, the scan times were 23 seconds for BH-DWI and 184±33 seconds for RT-DWI, respectively. The ADC of the liver in BH-DWI was significantly lower than that in RT-DWI (P < 0.05 for both scanners), whereas there were no significant differences in the ADCs of the renal cortex, paraspinal muscle, spleen, or pancreas between BH-DWI and RT-DWI (P = 0.07–0.86). The SIRPV-M in BH-DWI was significantly smaller than in RT-DWI (P < 0.05 for both scanners).Conclusion: The proposed method enables the acquisition of abdominal diffusion-weighted images in a single BH.