著者
保柳 睦美
出版者
立教大学
雑誌
史苑 (ISSN:03869318)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.82-111, 1969-01
著者
速水 格 川沢 啓三
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
vol.1967, no.66, pp.73-82_1, 1967

高知県須崎市北方の仏像構造線に沿って分布する堂ガ奈路層からNeithea(1新種を含む), Plicatula, Amphidonte, Pterotrigoniaよりなる海棲二枚貝が発見されたので報告する。これらの化石の多くはこれまでに日本各地の宮古統および最近発見された台湾のAptian層の二枚貝群に共通または近縁である。本層分布地域からはかってMyophorellaが報告されたことがあり, ジユラ紀後期を暗示するとも考えられたが, 今回の発見により, 当地域における四万十川層群最下部(堂ガ奈路層)の時代は, 甲藤(1961)が推察した通り, 宮古世主部(AptianまたはAlbian)であろうと結論される。
著者
橘高 二郎 今村 賢太郎
出版者
The Sessile Organisms Society of Japan
雑誌
付着生物研究 (ISSN:03883531)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-59, 1981-09-20 (Released:2009-10-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1 9

Grazing activity of sea urchins, Strongylocentrotus nudus and St. intermedius, which were fed marine fouling organisms, was obserbed. Mussel, Mytilus edulis galloprovincialis, and barnacles, Balanus tintinnabulum, B. rostratus and B. trigonus, were eaten by sea urchins. A linear relation was found between the maximum diameter of the mouth of sea urchins (d mm) and the the maximum shell length of the mussels (l mm). The mussels were eaten completely in the case of l≤d. The maximum number of mussels eaten was 15/day/sea urchin. The mussels were eaten partially in the case of d<1≤1.75d, but they were not eaten at all in the case of l>1.75d. Averege number of barnacles scraped was 3.3/day/sea urchin. B. tintinnabulum of thin shell was eaten better than B. trigonus and B. rostratus of thick shell. When a sea urchin was introduced into the netting cage of cultured scallop, Patinopecten yessoensis, the sea urchin fed on encrusting bryozoans and compound ascidians as well as slime fouled on the shell surface of the scallop. Thus, the grazing activity of the sea urchins is applicable to controlling fouling organisms on cultured scallop.
著者
Xiaoyu CHEN Fuxian YU Zhiwei ZHU Jing HUANG Liang ZHANG Jianzhi PAN
出版者
The Society for Reproduction and Development
雑誌
Journal of Reproduction and Development (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
pp.2021-060, (Released:2021-10-16)

Hormonal products have been developed for fixed-time artificial insemination (FTAI) to improve the efficiency of swine production. Here, we evaluated the effect of an FTAI protocol initiated during different phases of the estrous cycle on follicle development and ovulation in gilts. A total of 36 gilts were equally divided into three groups designated as the luteal (L), follicular (F), and post-ovulation (O) groups and fed with 20 mg of altrenogest for 18 days, followed by intramuscular injection of 1000 IU PMSG at 42 h after withdrawal of altrenogest, and 100 μg of GnRH after an 80-h interval. The L group had the highest number of follicles 4–6 mm in diameter, as well as corpora hemorrhagica. The mRNA expression of caspase-9 in the L group were significantly lower than those in the O and F groups (P < 0.05), while CYP11A1 and VEGF mRNA expression levels were significantly higher (P < 0.05). Moreover, FSHR mRNA levels were significantly higher in the O group than in the L, F, and control groups (P < 0.05). LHCGR and CYP19A1 mRNA levels were the highest in the F group (P < 0.05). Thus, the changes in the expression of genes associated with follicular development, maturation, and ovulation identified in this study indicated that initiation of the FTAI protocol during the luteal phase induced a better environment for follicle development and ovulation in gilts.
著者
椎野 若菜
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.59, pp.71-84, 2001

ルオ村落社会では, 既婚の男が死んだあと, 残された妻は「墓の妻 (<i>chi liel</i>)」とよばれ, 亡夫の代理になる男と「テール (<i>ter</i>)」関係を結ばねばならない。寡婦は亡夫の妻であり続けながらジャテール (<i>jater</i>) とばれる代理夫を選択し, 彼と亡夫の土地で「夫婦」生活を送る。<br>従来の多くの研究における寡婦に関する慣行は, 夫の集団が彼の死後もその妻に対し保持しうる権利として解釈されてきた。寡婦と性関係を結ぶ男たちとのかけひきをも描いた, 寡婦の生活実践を究明するものは極めて少なかった。そこで本稿では, 寡婦が夫の死後, 新たな男との関係を築きそれを維持していく過程に注目した。まず慣習的規範や信念などと絡み合う, 寡婦をめぐる人間関係を抽出したうえで, そのなかにおける寡婦の生活の社会的側面と, 性生活におよぶ寡婦の個人的側面を支える, テール関係の様々な局面についての考察を試みた。<br>その結果, このテール関係は父系的土地慣行を前提としているだけでなく, 性に関する細かな慣習的規範,「娼婦」のレッテルなど, 寡婦にとって圧力になりうる諸要素の影響下に成り立っていることが判明した。一方で寡婦は, そうした社会的な圧力と人間関係の絡み合いのなかで生じる力のバランスを巧みに利用し, 不都合があれば逆に慣習的規範を関係解消の理由づけとして使い, 代理夫を頻繁に変え得ることが明らかになった。つまりルオの寡婦は, 個々のもつ社会的状況に応じて策略を練り, 男たちとかけひきしながら自由に代理夫を選択するという, 実践を続けているのである。
著者
宇田川洋著
出版者
東京大学出版会
巻号頁・発行日
1989
著者
藤原 正仁 ロート マーティン
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.63-75, 2021-06-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
55

ドイツは欧州最大のゲーム市場である.ドイツではゲームが多くの人々にプレイされる一方で,子どものゲーム使用に関する保護者の懸念がある.ドイツには青少年保護に関する法律とゲームレーティングが存在するが,近年のゲームレーティングシステムについては明らかにされていない.そこで,本研究は,ゲームのデジタル配信を踏まえたドイツにおけるゲームレーティングシステムについて明らかにすることを目的とした.その結果,ドイツにおけるゲームレーティングシステムは,(1)関連法に基づき,エンターテインメントソフトウェア自主規制機関(Unterhaltungssoftware Selbstkontrolle: USK)によって運営される共同規制の形態を採っている,(2)USK諮問委員会によって審査基準が策定され,公開されている,(3)ナチス等の違憲組織のシンボルの使用について,社会的妥当性を考慮して検討されている,(4)USK.onlineとIARCにより,オンラインゲームやアプリのレーティングに対応している,(5)普及啓蒙を推進し,USKレーティングの透明性を高めていることが示された.また,連邦青少年有害メディア審査会(Bundesprüfstelle für jugendgefährdende Medien: BPjM)は,児童と少年の発達および教育に深刻な悪影響を及ぼす可能性のあるメディアを青少年有害メディアリストに掲載していることが把握された.
著者
久米 新一 高橋 潤一 岡本 明治 de Rojas S.A.S. de Oka R.B.B. Garay G.M. Denis F.S.C. Leonardi S.I.R.
出版者
農林省九州農業試験場
雑誌
九州農業試験場報告 (ISSN:03760685)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.p161-176, 1988-03

本研究は,亜熱帯地域に属する南米のパラグアイ国における,放牧牛の生産性と繁殖成績を改善するために,放牧牛のミネラル栄養に及ぼす種々の環境要因の影響を明らかにしたものである。得られた成果は,以下のとおりである。1. 東部のブエナビスタ牧場及びバレリート牧場の自然草地の草のP,Na,Zn及びCu濃度が非常に低かったので,草からのそれらの摂取量は放牧牛に対しては不足していることが推察された。また,草のFe及びMn含量の過剰によるミネラル不均衡もあると思われた。2. ブエナビスタ牧場及びバレリート牧場の自然草地の草のP,Na,Zn及びCu濃度に季節変化がみられなかったので,放牧牛は年間を通してそれらの不足していることが推察された。3. 東部の自然草地における草のP,Na,K,Zn及びCu濃度が低い値を示したことは,主に土壌中のそれらの含量が低いことによると考えられた。しかし,草のFe及びMn濃度の過剰は,土壌中のそれらの含量よりも,むしろ他の要因によると思われた。4. 一牧場,あるいは小地域での土壌分析から,牛のミネラル栄養の状態を診断することは困難であるが,草の分析は重要と考えられた。人工草地の草は,自然草地の草と比較するとミネラルを多量に含有し,また,東部の自然草地内では,樹木のある草地の草が樹木のない草地の草よりもミネラルに富んでいることが示唆された。5. チャコ地方の草のミネラル含量とミネラルバランスは放牧牛に対してほぼ適切なものであったが,Cuはやや不足していた。6. 水は少量のミネラルを含有していた。放牧牛は草から大部分のミネラルを摂取していたが,Zn及びCuの摂取では土壌も一部分は重要な役割を果たしていた。濃厚飼料及び他の飼料のミネラル濃度は非常に異なっていた。7. 東部のコルデルリータ牧場の自然草地の草では,P,Na,Zn及びCuが不足し,またFe及びMnが過剰であった。血清分析から判断すると,牛はややCu欠乏の状態にあると思われた。8. 牛の血清のCa,P及びMg濃度はほぼ適正な値を示したが,Cu濃度は低い値であった。パラグアイにおいては,放牧牛はややミネラル欠之の状態にあり,放牧牛のP及びCu欠之が重要な問題であることが示唆された。
著者
野間 万里子
出版者
日本農業史学会
雑誌
農業史研究 (ISSN:13475614)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.77-88, 2006
被引用文献数
2

In civilization and enlightenment period, gyunabe became popular, and for common people meat practically meant for gyunabe. Gyunabe inherited the way of cooking and the style of eating of kusurigui, most typical form of eating meat before the Restoration. But it became a symbol of civilization and enlightenment. The new government was encouraging eating meat, at that time. The Emperor Meiji first ate meat in 1872. He ate meat as Western food, not gyunabe, and the government regarded meat as beef and mutton. That is to say, the government considered that eating meat was a variety of Western civilization. I must add that besides gyunabe and Western food, there was another style of eating meat, a stewed meat stand. That was regarded as the food for the poor. Some reasons made it possible that eating meat was accepted as gyunabe. In the first place, people associated eating meat with civilization. The civilization included both Westernization and rationalities. The former couldn't have effect on people had ill feeling for Western. But the later was accepted more generally. In early modern times, to eat meat was thought disgusting conduct. Rational explanations were worked out to deny such a thought as superstition. Nutritional thinking also supported gyunabe boom. And, appetite was suppressed before Meiji, but after the Restoration, people could enjoy eating delicious things. This is also an important change. At that time, ranking formed among meat. The meat of wild animals seemed the lowest. Among the meat of livestock, beef was thought more refined than pork. Because pig was resemble to wild boar, eaten as kusurigui, and pork was associated with Ryukyu or Asia in spite of beef was associated with Western. As stated above, gyunabe was ranked higher than stewed meat stands. One of the reasons was rationalities, that was made valid by Western civilization. So Western food came higher rank.
著者
田中 真樹
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.337-362, 2010

本論はソビエト後のキューバ,とくに観光経済におけるキューバらしさ,あるいはキューバの特徴にかかわる空間的想像を考察する。観光地における住民の日々の経験は差異との遭遇に満ちており,そのなかで「キューバ人」のカテゴリーは「非キューバ人」との対照において明らかにされる。島を訪れる移動可能な観光客を目の当たりにし,キューバ人であることは移動不可能性であると認識され,キューバらしさの空間的想像を形作る。一方,社会主義と米国の通商禁止がもたらすキューバらしさの移動不可能性は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の語りに表彰されるように,独自性と純粋さを発見できる素朴な島を想像させる。1990年代末以降,キューバの「伝統」音楽が国際的な商品として人気を博し,卓越した芸術性がキューバ人の特徴とされ,逆説的に多様なレベルのキューバ人ミュージシャンの移動可能性,すなわち海外興行へと導く結果となった。このキューバらしさの移動可能性は,今日のキューバの政治経済において社会主義と資本主義が絡んだ特殊な状況を例証している。
著者
佐藤 勝彦
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.449-478, 2008-05

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
中出 麻紀子 木林 悦子 諸岡 歩
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.265-271, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究では若年成人における主食・主菜・副菜の揃った食事と関連する食習慣について明らかにすることを目的とし, 平成28年度ひょうご食生活実態調査に参加し, 回答に欠損のない20, 30歳代の男女343名のデータを解析した。主食・主菜・副菜の揃った食事 (1日2回以上) の頻度により, 高頻度群 (週4日以上) と低頻度群 (週3日以下) に分け, 食習慣項目をカイ二乗検定で比較した後, 属性項目で調整した二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果, 高頻度群, 低頻度群の人数と割合はそれぞれ227 (66.2%), 116 (33.8%) であった。二項ロジスティック回帰分析の結果, 朝食摂取頻度 (週4日以上), 外食頻度 (週3回以下), 米飯の食事摂取頻度 (朝食, 昼食, 夕食) (5日以上) の人は, そうでない人と比較して高頻度群の割合が有意に多かった。以上より, 朝食摂取頻度や米飯の摂取頻度が高いこと, 外食頻度が低いことは主食・主菜・副菜の揃った食事頻度が高いことと関連することが示唆された。
著者
勝川 史憲
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.255-263, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
28

「日本人の食事摂取基準2020年版」は, 健康の保持・増進, 生活習慣病 (高血圧, 脂質異常症, 糖尿病, 慢性腎臓病) の発症予防および重症化予防に加えて, とくに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れた策定が行われた。エネルギーについては, 摂取量と消費量の出納バランスが適切なレベルで維持されている状態を示す指標としてBMIを採用した。目標とするBMIの範囲は, 観察疫学研究で最低死亡率を呈するBMIをもとに4つの年齢階級別に設定し, 高齢者 (65歳以上) では, 実際のBMIの分布や肥満に伴うdisabilityのリスク等も考慮した。本稿では, エネルギーに関する概要とともに今後の課題をまとめた。
著者
内田 まり子 中村 透 山縣 浩 佐藤 幸子 浅野 真晴 秋保 明 阿部 直子
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.6, pp.71, 2005

財団法人日本盲導犬協会仙台訓練センターでは、平成13年11月から平成17年3月まで、仙台市による地域リハビリテーションモデル事業の一環である中途視覚障害者生活訓練事業の委託を受け、訪問による視覚障害リハビリテーションサービスを実施した。このサービスを利用した仙台市民の人数は、平成13年度および平成14年度は16名、平成15年度は16名、平成16年度は23名であった。のべ55名のケースについて、支援に関係した施設および機関は、当訓練センターのみではなく、地域に存在する複数だったケースが大半を占めた。その他、ケースの概要と傾向をまとめ、地域にある複数の関係機関どうしの関わりや支援システムの動きなどについて報告する。 また、受傷後およそ3年間、引きこもりに近い生活をしていたケースが地域のデイサービス利用をきっかけに視覚障害リハビリテーションサービスを利用し、交流会(「仙台市における中途視覚障害者リハビリテーション支援システム第3報」にて発表)にも参加を始めたケースを報告し、地域に住む視覚障害者に提供できるリハビリテーションサービスについて考察したい。
著者
和泉 浩
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.54-69, 2002

音楽という芸術を, 合理化の視点からとらえることはできるのであろうか.もしそれが可能であるとすれば, 音楽の合理化の西欧近代における固有の特性とはいったいどのようなものなのであろうか.未完の草稿として残された『音楽社会学』においてマックス・ウェーバーが探求しようとした, この西欧近代音楽の合理化の過程を, 西欧音楽における二重の合理化という視点から読み解くことが本稿の試みである.<BR>ウェーバーが音楽を社会学の対象にしたのは, 音楽に用いられる音組織が歴史的に構築されるなかで, 理性がきわめて重要な役割をはたしてきたことを見出したためである.ウェーバーは, この音組織を歴史的に構築してきた原理を, 間隔原理と和声的分割原理という2つの原理に区別する.この2つの原理にもとづき, 音組織は間隔的に, あるいは和声的に合理化されてきたのである.この2つの合理化は互いに対立するものであり, 他方のものに非合理, 制約, 矛盾をもたらす.ウェーバーの議論は一見, 近代の西欧音楽を和声的合理化においてとらえ, それ以外の音楽を間隔的合理化において特徴づけているようにみえる.しかし, 西欧近代の音楽の合理化の特性は, この対立する2つの合理化の交錯においてかたち作られているのである.この西欧近代音楽の合理化の矛盾した関係を明らかにすることこそ, ウェーバーの音楽社会学の試みである.
著者
田村 亮 長谷 正司 福島 孝治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.652-657, 2021-10-05 (Released:2021-10-05)
参考文献数
11

「物質のハミルトニアンを知りたい」,物性研究者なら誰でも思うことだろう.しかし,対象物質の実験結果を説明できるハミルトニアンを構築するのは,一筋縄にはいかない.ハミルトニアンの関数系,含まれるパラメータ値を決定するためには,多くの試行錯誤が必要となるためである.この煩雑な作業を回避するにはどうしたらよいだろうか.近年注目されている機械学習をはじめとしたデータ駆動手法の利用が一つの道筋だろう.我々は機械学習を利用することで,実験・観測データからハミルトニアンを推定する手法を開発した.ハミルトニアンを推定するために,実験データが与えられた際のハミルトニアンの事後確率を定義する.ベイズ推定を利用することで,この事後確率は,ハミルトニアンが与えられた際の測定ノイズを含めた実験データの尤度(計算物質科学手法により評価可能)および事前分布で表すことができる.事前分布は,推定するハミルトニアンに対する事前知識を表し,推定対象に適した分布を導入する必要がある.このようにして定義された事後確率を最大とするハミルトニアンが最も実験・観測データを説明できると推定される.しかしながら,この事後確率の最大条件探索は,使用する計算物質科学手法によっては簡単ではない.あるパラメータの組における事後確率の値は,対象とする物理量を計算物質科学手法により評価することで得られる.そのため,計算に時間がかかる場合,最大条件を見つけるのは困難である.これを克服するために,機械学習が使える.機械学習を利用することでできるだけ少ない試行回数でよりよい条件を探索することができるベイズ最適化を,事後確率の最大条件探索に利用した.テストケースとして,1次元量子スピン系に対して適用した.ベイズ最適化を用いることで,物理学でよく利用されるマルコフ連鎖モンテカルロ法や勾配法よりも物理量の計算回数が少なくても,よりよい最大条件を見つけ出せることがわかった.一方で,ベイズ最適化を用いると実験データを説明できるハミルトニアンを高速に導出することはできるが,事後確率の最大条件だけでは,観測ノイズを見積もることはできない.そこで,マルコフ連鎖モンテカルロ法によって事後確率を詳しく解析することで観測ノイズを求め,推定されたハミルトニアンに誤差をつける手法を開発した.このように開発された手法の有用性を示すために,実際の実験系への適用として,低次元量子スピン系KCu4P3O12に対して高磁場測定で得られた磁化過程および帯磁率の実験結果から,スピンハミルトニアンを推定した.その結果,推定されたスピンハミルトニアンは,実験データをよく再現できた.また,磁気的相互作用の誤差も見積もることができた.推定されたスピンハミルトニアンを用いることで,実験室レベルでは直接見積もることが難しい,スピンギャップや磁気エントロピーなども予測することができる.つまり,“高価”な実験なしに物質を理解できるため,ハミルトニアン推定は物質開発のコスト削減に繋がり,新物質の発見を加速させるだろう.また,この手法は,ハミルトニアンが定義でき,入力する実験・観測データを計算できる計算手法があれば利用することができる.物理学における様々な分野において,広く応用できる手法である.