著者
黒木 裕鷹 真鍋 友則 指田 晋吾 中川 慧
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.FIN-029, pp.47-53, 2022-10-08 (Released:2022-10-01)

決算説明会とは,企業がステークホルダーに対し業績や計画・戦略を決算内容とともに説明する場である.決算説明会の参加者は経営者による説明を聞くことができるほか,質疑応答を通して業績と見通しに関する疑問を解消することができる.一方で,参加者はアナリストや機関投資家に限定されていることが多く,決算説明会に参加できない投資家との情報格差が指摘されてきた.しかしながら,本邦における決算説明会の情報価値についての分析例はほとんど存在しない.そこで本報告では,質疑応答を含む決算説明会のテキストデータに感情極性を付与し,説明会がもつ情報価値を定量的に分析する.具体的には,金融専門極性辞書と Fama-French のファクターモデルを利用して株価リターンに対する説明力を分析する.
著者
小松 謙之
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2015-07-08

オガサワラゴキブリ(Common name : Surinam cockroach)は、世界の熱帯、亜熱帯に広く分布する害虫であり、国内では鹿児島から南西諸島、小笠原諸島などに分布している。近年、このゴキブリが、我が国の都市部の建築物内にも侵入し、捕獲や駆除が報告されはじめている。また海外においても、同様に都市部の家屋内への侵入が問題となっている。疫学的には、エチアピアにおいて、Kinfu and Erko (2008) は、このゴキブリの体表から、ヒトに感染性をもつ蠕虫類の回虫卵やテニア科条虫卵を検出し、さらに腸管からは、これらに加え、鞭虫卵や原虫類である大腸アメーバのシストの検出を報告しており、感染症を媒介する衛生害虫としても注目されている。 オガサワラゴキブリに関しては、形態的に良く似た2種が知られており、両性生殖を行うPycnoscelus indicusと、単為生殖を行うPycnoscelus surinamensis が存在する。P. indicusとP. surinamensisの種の分類方法については、Roth(1967)が成虫を用いた交配実験を行い、受精嚢内に精子があるにもかかわらず、雌のみを産出した個体をP. surinamensis、雌雄を産出した個体をP. indicusとしている。また、形態的な違いとしてP. indicus は複眼と単眼点の距離が離れているのに対して、P. surinamensis は両眼が接していることで区別できるとしている。 P. indicus の雄は雌に比べて乾燥に弱く、生育環境が適切でないと雄が死んでしまうため交尾ができず、繁殖することはできない。ところが、P. surinamensis は繁殖に雄は必要ないため、雌が1匹でも生息すれば多少環境が悪くても侵入した場所で繁殖を繰り返すことが可能である。 朝比奈(1991)は、日本産の個体は、雌雄が常に同時に採集されており、雌だけの単為生殖の系統は観察されないことから、日本に生息する個体はP. indicusである可能性を示唆した。しかしながら、日本産のオガサワラコギブリを用いた詳細な実験による証明が行なわれるまでは、従来のP. surinamensisとすることを提唱し、今日に至っている。このように、オガサワラゴキブリは衛生害虫として重要なゴキブリでありながら、種の鑑別と分布がまったく不明なのが現状である。 そこで本研究では、成虫にまで発育する前に雌雄の区別ができるように、まず幼虫期における雌雄の鑑別方法の確立を行った。ゴキブリ類の幼虫期における雌雄の鑑別については、トウヨウゴキブリBlatta orientalis、チャオビゴキブリSupella longipalpa、クロゴキブリPeriplaneta fuliginosaで確立されており、幼虫期の腹板の形態により鑑別可能であることが報告されている。そこで、沖縄県八重山郡竹富町石垣島で採集し、予備実験により産仔幼虫が雌雄の成虫に発育することを確認した個体群を使用して実験を行い、孵化直後の幼虫を腹板の形態ごとにグループに分け、成長段階における腹板の形状を記録し、最終的に各グループの個体が雌雄のどちらになるかを調べた。その結果、雌では1~6齢期の幼虫において第9腹板の後縁中央部に雄では見られないnotch(V字型)を有し、7齢(終齢)期では、第7腹板が発達して第8~9腹板および尾突起を覆い隠した。これに対して雄では7齢期まで第8~9腹板、尾突起がみられた。したがって、この特徴を観察することによって幼虫期の雌雄鑑別が可能であることが判明した。 次に幼虫期の齢期を判定するため、尾肢の腹面および背面の環節数を計測した。その結果、背面の環節数は2、3齢で同数となり判定できないが、腹面の環節数は1齢幼虫で3節、2齢幼虫で4節と加齢するごとに1節ずつ増加することが分かり、この部位の環節数を調べることにより幼虫の齢期の判定が可能となった。 これらの結果をもとに、日本に生息するオガサワラゴキブリの種と分布を明らかにするため、小笠原諸島(硫黄島・母島・父島・西島・媒島)、奄美諸島(徳之島・奄美大島)、沖縄諸島(沖縄島・宮古島・石垣島)、ハワイ島から採集した雌成虫を単独で飼育し、実験に用いる個体の繁殖を行った。その結果、硫黄島・徳之島・沖縄島は、雌のみを産出する個体と、雌雄を産出する個体が見られたため、前者をAグループ、後者をBグループとして11地域14系統の個体群を使用して交配実験を行った。 交配実験は、雌のみを産出する個体群には、Roth(1967)と同様にP. indicusと判明しているハワイ産の雄を使用し、雌雄産出する個体群は、その個体群内の雄を使用した。その結果、1地域で2系統見られた硫黄島、徳之島、沖縄島では、硫黄島Aグループの個体での産出数は、雄0個体、雌478個体で、産出後のすべての各個体における受精嚢内に精子を保有していたことよりP. surinamensisであった。硫黄島Bグループは、雄162個体、雌157個体を産出し、1回の平均産仔数の雄雌比は、10.8:10.5(p>0.05)で、性比に有意差は認められずP. indicusであった。徳之島Aグループは、雄0個体、雌221個体を産出し、すべて受精嚢内に精子を保有していたことよりP. surinamensisであった。徳之島Bグループは、雄242、雌207を産出し、1回の平均産仔数の雄雌比は12.1:10.4(p>0.05)で、性比の有意差は認められずP. indicusであった。沖縄島Aグループは、雄0個体、雌724個体を産出し、すべての受精嚢に精子が保有されていたことよりP. surinamensiであった。沖縄島Bグループは、雄322、雌312を産出し、1回の平均産仔数の雄雌比は16.1:15.6(p>0.05)で、性比の有意差は認められずP. indicusであった。以上の結果より、硫黄島、徳之島、沖縄島は、P. surinamensisとP. indicus の2種が同時に生息していることが初めて明らかとなった。 雌のみが産出された母島・父島・西島・媒島の個体のうち、母島の受精嚢に精子が確認された個体での産出数は、雌248個体、父島の精子が確認された個体での産出数は、雌59個体、西島の精子が確認された個体の産仔数は、雌663個体、媒島の精子が確認された個体での産出数は、雌143個体であったことから、以上4島の個体は全てP. surinamensis であることが明らかとなった。 雌雄産出した個体のみであった奄美大島・宮古島・石垣島では、奄美大島の個体は、雄260、雌260で、1回の平均産仔数が14.4:14.4(p>0.05)であった。宮古島の個体は、雄230、雌267で、1回の平均産仔数が16.4:19.1 (p>0.05) であった。石垣島の個体は、雄281、雌266で、1回の平均産仔数が16.5:15.6(p>0.05)であった。ハワイ島の個体は、雄199、雌189で、1回の平均産仔数が11.7:11.1(p>0.05)であり、以上4島の個体はすべてP. indicusであることが明らかとなった。 以上の結果より、日本にはP. indicusとP. surinamensisの2種類が生息しており、これらが混生している地域、およびP. indicusのみ、あるいはP. surinamensisのみが生息する地域があることが明らかとなった。 次に、実験により種が判明した個体を使い、この2種類の形態的な違いを調べた。Roth(1967)は、複眼と単眼点が接していればP. surinamensis、離れていればP. indicusであるとしたが、本実験ではP. surinamensis の雌成虫の複眼と単眼点は接しておらず、その距離は、母島0.16㎜>父島0.14㎜>媒島0.13㎜>西島・徳之島・沖縄島0.12㎜>硫黄島0.10㎜となり、平均0.13㎜であった。一方、P. indicus 雌成虫の複眼と単眼点の距離は、硫黄島 0.18㎜>宮古島0.16㎜>奄美大島・沖縄島 0.13㎜>徳之島・石垣島0.12㎜で、平均0.15㎜となり、どちらの種も接しておらず、両種の複眼と単眼点の距離による鑑別は不可能であった。 また、昆虫類の種の違いとして前翅長の違いが広く利用されているため、雌成虫の平均前翅長を計測した。その結果、P. surinamensisは、沖縄島15.82㎜>母島15.26㎜>西島15.07㎜>媒島14.16㎜>父島13.81㎜>徳之島13.57㎜>硫黄島12.87㎜、P. indicus 雌成虫の平均前翅長は、沖縄14.72㎜>硫黄島14.35㎜>石垣島13.81㎜>徳之島13.54㎜>奄美大島13.53㎜>宮古島12.96㎜と、地域的な差異が大きく、両種を鑑別することはできなかった。 一方、交配実験を行わなくても種を鑑別できる方法を検討するため、本実験で得られた各雌成虫の未交尾個体による飼育実験を行った。その結果、P. surinamensisはすべての個体が幼虫を産出し、前述した幼虫期の雌雄鑑別法により、すべてが雌であることがわかった。一方、P. indicusはすべての個体で幼虫は産出しなかった。このことより、野外で採集した雌成虫の同定法として、産仔幼虫がすべて雌であった場合はP. surinamensis、また雌雄を産出、あるいはまったく産出しない場合はP. indicusと同定できることが判明した。 以上、本研究により、これまで日本に生息するオガサワラゴキブリはP. surinamensisのみであると考えられていたが、P. indicusも同時に生息していることが明らかとなり、これらの結果から、日本に生息するゴキブリは1種増えて58種となった。さらに、現在までP. indicusとP. surinamensisは生息地域が違うと考えられてきたが、2種類が同一地域に混生している事実が明らかになり、今後の研究の方向性を再検討する必要がある。また、Roth(1967)が提唱している複眼と単眼点の距離による形態をもとにした鑑別方法は利用できないことがわかった。これに替わる新たな鑑別方法として、交配実験を行わなくとも未交尾の雌個体であれば、そのまま飼育して産仔すればP. surinamensis、産仔しなければP. indicusと判断でき、野外採集個体であれば、産出された幼虫が雌のみであればP. surinamensis、雌雄産出すればP. indicusと判断できることがわかった。朝比奈(1991)の報告では、我が国におけるオガサワラゴキブリの種に関する知見が明確ではなかったが、本研究における種々の交配実験や形態的な観察により、その詳細が明らかとなった。
著者
大倉 得史
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.33-44, 2018 (Released:2019-03-11)
参考文献数
24

近年,我が国では保育の量的拡大を目指して幼児教育・保育分野の市場化を促すような施策が相次いでおり,いくつかの自治体では公立保育所を民営化する動きが加速している。こうした中,より低コストで保育を行う事業者に保育所の運営が委託されるケースが増えつつある。こうした事業者の変更は,保育の質,あるいは慣れ親しんだ保育者から引き離される子どもたちに,どのような影響をもたらすのだろうか。本研究では,株式会社に運営を委託されたある院内保育所の事例を取り上げ,そこで生じた保育の質の低下が子どもたちの情緒的安定を脅かすまでに至った経緯を明らかにする。その上で,保育の質を保つためには,委託契約期間の延長,最低委託額の取り決め,新旧事業者の義務などの明確化,保育士の給与の改善などが必要であるという結論を導いた。
著者
三納 正美 大原 圭太郎 山舩 晃太郎 市川 泰雅 木村 颯 片桐 昌弥 橘田 隆史 西尾 友之 大原 歳之 菅 浩伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.248, 2023 (Released:2023-04-06)

1. はじめに 島根半島の東端に位置する地蔵埼から北東に30㎞以上離れた海域に、日本海軍の駆逐艦「蕨(わらび)」が沈んでいる.1927年の夜間演習中,軽巡洋艦「神通」と駆逐艦「蕨」,軽巡洋艦「那珂」と駆逐艦「葦」がそれぞれ衝突し,「蕨」は沈没,「葦」は大破(艦尾沈没)し,殉職者119名にも及ぶ大事故となり,美保関事件として後世に伝えられている.事故直後から掃海作業や救助作業は行われたが,沈没した正確な位置は不明であり,これまで詳細な調査は実施されていないことから,蕨の沈没位置を特定し,船体の状況を確認するため,本調査を行った.2. 探査方法と結果 既存資料を整理すると4箇所の沈没候補地が挙げられ,その位置も広範囲に分布していたことから,緯度経度情報があり「軍艦」「ワラビ」と呼ばれている漁礁地点を魚群探知機で調査し,反応があった地点周辺を2020年5月にマルチビーム測深機(SeabatT50-P)で詳細に探査した.その結果,漁礁「軍艦」は全長約54m,全高5.4m,最大幅8.3mの巨大な塊であることが判明した.マルチビーム測深で正確な地点,水深,形状等を把握できたため、本調査プロジェクトチームが開発した水中3Dスキャンロボット(天叢雲剣MURAKUMO)を投入し,2020年9月に水深約90mの海底に沈没した船体を確認することに成功した.この結果,船体前部のみであること,発見した水深は約90mであるが,事故直後に調査された時の水深値と島根県の水産試験船が発見した物体の水深値は約180mであったことから,残りの船体は別の場所に沈没している可能性が出てきた.そこで,2021年7月に「軍艦場」と呼ばれている地点を中心に約2.5㎞四方の海域をマルチビーム測深機(SeabatT50-P)で探査し,これまで1つだと認識されていた地形の高まりがいくつかあることがわかった.マルチビームで得られた詳細海底地図を用いて,改良した天叢雲剣MURAKUMOで探査した結果,水深180mを超える海底に沈む駆逐艦蕨後部を発見,撮影することに成功した.3. 考察 天叢雲剣MURAKUMOで取得した画像データを用いてフォトグラメトリによる3Dモデルを作成し,画像データと合わせて検証した結果,船体のサイズや船首形状が蕨に近似し,砲塔のような筒状の構造物,舷窓等が確認できたことから,蕨である可能性が高いと判断した.4. まとめ 蕨前部と後部は約15㎞も離れているが,既往資料や現地状況から,衝突現場は蕨船体後部が沈没している場所であり,船体前部は浮遊後現在の地点に沈没したと考えられる.蕨後部周辺にはその他いくつか地形の高まりが確認されている。今後これらを探査することで,美保関事件をより詳細に解明できるものと考える.参考文献大原 歳之2020. 海の八甲田山「美保関沖事件」伯耆文化研究 第二十一号(2020)抜粋改訂版.謝辞本研究は2021-2025年度科研費 基盤研究(A)JP21H04379および2021-2024年度科研費 基盤研究(C)JP21K00991の成果の一部です。
著者
鈴木 公啓
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.45-56, 2014-08-18 (Released:2015-06-06)
参考文献数
48
被引用文献数
2

Body image disturbance and body image discrepancy considered as factors of body dissatisfaction and a drive for thinness were investigated. Participants were presented with new figural stimuli (contour drawings/silhouettes) ranging from thin to heavy developed based on real and objective data—human body size measurements and 3-D image data. Results indicated that female participants overestimated their body size, though the degree of overestimation is not particularly large. It is suggested that competition with members of the same sex generates body dissatisfaction and a drive for thinness. Furthermore, participants rated ideal body size thinner than their perceived body size. It was found that the differences between perceived body size and ideal body size relate to body dissatisfaction and a drive for thinness.
著者
須合 俊貴 藤原 博伸 大河内 博 内山 竜之介 中野 孝教 鴨川 仁 荒井 豊明
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.101-115, 2020-05-13 (Released:2020-05-10)
参考文献数
51

大気汚染物質が都市型豪雨生成に及ぼす影響の解明を目的として、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)で降水の時系列採取を行った。さらに、都内および周辺地域の大気観測値を用いて地理情報システムによる都市型豪雨直前の大気汚染物質の空間解析を行った。2012年から2019年までの都市型豪雨の体積加重平均pHは4.41 (n=16) であり、その他の降雨より低かった。総主要無機イオン濃度は都市型豪雨と通常降雨で同程度であるが、都市型豪雨では酸性物質由来成分が高い割合を占めた (62.3%)。都市型豪雨中酸性物質由来成分は台風性豪雨に比べて緩やかな濃度減少を示し、継続的に雲内洗浄されている可能性が示唆された。一方、都市型豪雨によるH+沈着量、NO3-沈着量、SO42-沈着量は通常降雨のそれぞれ31、20、15倍であり、短時間に大量の酸性物質を地上に負荷していた。雨雲レーダー画像解析から、都市型豪雨には都心部で発達するパターン(直上パターン、東パターン)と、西部山間部から雨雲が輸送され、都心上空で発達するパターン(北西パターン)があることがわかった。都市型豪雨発生直前には発生地点付近でPM2.5高濃度域が形成されるが、豪雨発生前に消失していた。このことから、大気汚染物質が豪雨発生地点へ輸送・集積し、上空へ輸送されて積乱雲の形成および発達に関与していることが示唆された。
著者
小口 高 鍛治 秀紀 鶴岡 謙一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.106, 2023 (Released:2023-04-06)

東京大学情報科学研究センター(CSIS)は1998年に発足したGISの研究組織である.CSISは文部科学省が認定した共同利用・共同研究拠点であり,様々な地理空間情報をCSISが多数収集して「研究用空間データ基盤」を構築し,収録したデータを提供している.CSISがデータを収集・購入する際に,データの提供元と覚え書きを交わすことによって,外部の研究者がデータを利用する可能性を確保している.この仕組みにより,個人研究者がデータを入手する際の経済的な負担や手間を軽減している. 「研究用空間データ基盤」に登録されているデータはデジタルデータであるが,地理学では長年にわたり,紙の地図が基本的なデータとして活用されてきた.紙地図は現在も作製されている.この際には,地図を構成する要素のデジタルデータを用いて地図のデジタル原版を作製し,それを印刷するのが今日の一般的な状況である.一方.古い時代の紙地図は,デジタルデータから作成されたものではなく,現存する紙地図自体がデータとして意味を持つ.各所に保管されている古い時代の紙地図の一部は,スキャンやデジタイズによってデジタル形式になっている.このような古い地図の情報を活用して地域の過去の状況を明らかにし,近年の状況と比較することは,地理学の主要な研究方法の一つである.古い時代の地図は,学校教育や生涯教育の場でも活用されており,社会的にも重要である.たとえば,「ブラタモリ」のようなテレビ番組では,過去から現在に至る地理的環境と人の営みを結びつける際に,新旧の地図がしばしば活用されている. このような点を考慮し,CSISはデジタルデータとともに紙地図の資産にも注意を払ってきた.CSISが「研究用空間データ基盤」の提供のような本格的な活動を,紙地図についても行うことは,組織の性格やマンパワーの点から困難である.しかし,紙地図の活用と関連した試みをいくつか行ってきた.日本地理学会と関連した一つの事例は,2000年代後半に試みられた「デジタル地図学博物館」の構築である.これは,CSISが日本地理学会の国立地図学博物館設立推進委員会(現在は地図資料活用推進委員会と改称)と連携し,様々な機関が公開していた地図のスキャン画像を,検索によって即座に閲覧できるシステムの構築を目指したものである.この際には,古地図などの画像を公開している全国の博物館などのウェブサイトを対象とした.このプロジェクトは,画像のURLの変更に対する対応の難しさなどの課題が生じたことと,地図を含む画像の検索がGoogleなどの検索エンジンで可能になっていったこともあり,プロトタイプの構築とその試行的な運用で終了した. 2018~2019年度には,東京大学のデジタルアーカイブズ構築事業の一環として,多数の紙地図のスキャンニングと,地図画像の公開システムの構築を行った.スキャンニングの対象となった地図は,1980年に東京で開催された10th International Cartographic Conferenceの際に,約40ヶ国から日本地図学会に寄贈され,その後に東京大学柏図書館に移管された約1200枚の紙地図の一部を含む.具体的には,国土地理院、海上保安庁、日本水路協会、日本オリエンテーリング協会、U.S. Geological Survey, Geological Survey of Finlandなどが製作した紙地図をスキャンし,著作権の問題がないことを確認した後,「柏の葉紙地図デジタルアーカイブ」としてオンライン公開した.このアーカイブは,独自に開発した地図検索システムを使用しており,高解像度の地図を高速に表示するとともに,メタデータの表示や検索の機能も持っている.ただし上記の1200枚の地図の大半は著作権が消滅していない等の事情があり,公開できたコンテンツの数は限られている. 最新の紙地図と関連したCSISの活動として,埼玉大学教授だった故谷謙二氏がオンラインで公開し,教育の場を含む様々な場面で広く活用されている「今昔マップ」の保守が挙げられる.「今昔マップ」は,国土地理院およびその前身の機関が紙地図として出版した明治時代以降の地図をウェブ・ブラウザで表示する機能を持ち,さらに新旧の地図を並べて比較できる.谷氏は2022年に8月に急逝されたため,氏が管理していたサーバーで稼働している「今昔マップ」の今後の継続性が不透明となった.地理学関係者やご遺族による検討の結果,CSISが「今昔マップ」を含む谷氏が整備したオンラインコンテンツの保守の主体として協力することになった.当面の目的は,現状の「今昔マップ」の提供を継続することである.今後,現行の「今昔マップ」には含まれていない地域の地図画像を,新たに追加する可能性についても検討する予定である.

8 0 0 0 放送教育

出版者
日本放送教育協会
巻号頁・発行日
vol.52(1), no.588, 1997-04
著者
小堀 和人 李 忠翰 廣津 登志夫
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2022-OS-155, no.1, pp.1-9, 2022-05-19

近年普及の進んでいるマイクロサービスアーキテクチャでは,多数のモジュールが目的や状況に応じて柔軟に連携しあうため,構成が複雑になりやすくシステム全体を通した性能分析や負荷状況の把握が困難である.このような分散した複数のモジュールからなるサービスの実行状況の監視や性能の分析のためには分散トレーシングが用いられる.分散トレーシングでは,各マイクロサービス上で収集した統計情報の整合性を確保するため,サーバ間の高精度な時刻同期が重要である.Linux 上の高精度時刻同期プロトコル (Precision Time Protocol: PTP) の実装では,NIC のドライバ上でパケットのタイムスタンプを取得することで時刻同期の精度を向上させることができるが,これはドライバの実装に依存するためより汎用な仕組みで実現することが望ましい.本研究ではカーネルが提供する機能の一つである eBPF を用い,可搬性の高い高精度時刻同期を実現した.その設計と実装について述べるとともに,PTP マスタとの同期のずれの推移を元に,本提案実装がドライバ依存の実装と同等の性能を持つことを示す.
著者
小城 英子 坂田 浩之 川上 正浩
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-8, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
28

The purpose of this study was to revise the Attitudes towards Paranormal Phenomena Scale (APPle) to capture various aspects of skeptical attitudes, so that the believing and skeptical attitudes toward paranormal phenomena could be measured in detail. A questionnaire survey was conducted with undergraduates. Using exploratory factor analysis, six factors (Total Denial of Paranormal Phenomena, Denial Based on Current Situational Awareness, Inclination Towards Fortunetelling and Magic, Believing in Spirituality, Intellectual Curiosity about Paranormal Phenomena, and Fear of Paranormal Phenomena) were extracted, and a scale with 25 items called APPle II was created. From the viewpoints of internal consistency, confirmatory factor analysis, test-retest reliability, and criterion-related validity, sufficient reliability and validity were confirmed. Among the six factors, “Inclination Towards Fortunetelling and Magic” and “Believing in Spirituality” were regarded as believing attitudes, whereas “Total Denial of Paranormal Phenomena” and “Denial Based on Current Situational Awareness” as skeptical attitudes. “Intellectual Curiosity about Paranormal Phenomena” could be both believing and skeptical, and seemed to be based on analytical and critical thinking.
著者
佐藤 友香 小柳津 和博
出版者
桜花学園大学
雑誌
桜花学園大学保育学部研究紀要 = BULLETIN OF SCHOOL OF EARLY CHILDFOOD EDUCATION AND CARE OHKAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:13483641)
巻号頁・発行日
no.26, pp.97-109, 2022-11-30

障害児者をきょうだいにもつ姉を対象として、同胞に対する思いの変容について調査した結果、きょうだいの同胞に対する思いは変容し続けるものであることが明らかになった。思いが変容するきっかけは、同胞の成長や同胞への理解などに対しての気付きがあったときや、同胞の可能性について着目したときにあった。また、同胞がいて良かったと思うことのできる経験によって、きょうだいの気持ちは前向きになったり、同胞を尊重したいという思いになったりしていくことが示唆された。 きょうだいは、賞賛されるタイミングや内容によっては、必ずしも好意的な感情を持たないということが明らかになった。また、「同胞+私」で賞賛されるより、「私」を個として認め、ほめられることに喜びを感じる可能性があることが明らかになった。"

8 0 0 0 OA 腹部銃創の2例

著者
深見 保之 長谷川 洋 小木曽 清二 坂本 英至 伊神 剛 森 俊治
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.2495-2499, 2003-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10

症例1は45歳,男性.ピストルで左側腹部を撃たれ救急外来に搬送された.血圧は触診で60mmHg,左側腹部に射入創,右側腹部の皮下に銃弾を触知した.開腹すると, S状結腸間膜と空腸間膜が損傷を受け,空腸と上行結腸が穿孔していた.空腸部分切除,回盲部切除術を施行し,術後28病日に退院した.症例2は41歳,男性.ピストルで数発撃たれ受傷し来院した.右腋窩に貫通銃創,腰部から左腹部に抜ける貫通銃創,左大腿に貫通銃創,右腹部に盲管銃創,左下腿に盲管銃創を認め,開腹し空腸部分切除,回盲部切除術を施行した.また腹壁と左下腿の弾丸は摘出した.術後45病日に退院した.銃創は本邦においては稀であるが,今後増加することが予想される.腹部銃創による腹腔内臓器損傷が疑われる場合には,迅速な手術決定が必要であると思われた.
著者
清水 勝嘉
出版者
The Japanese Society of Health and Human Ecology
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.87-97, 1976 (Released:2011-02-25)
参考文献数
23

In this paper, trachoma and blindness, leprosy, and parasitosis, which had been involved in the problems of public health in the early years of the Showa Era, were described. 1. Morbidity rate of trachoma in the beginning of Showa declined as compared with that in the Meiji and Taisho Era. There may be main factors of the declination of morbidity rate that emphasis was laid on the trachoma in physical examination for school children and conscriptee, that preventive measure against trachoma required small expense and that the mass examination for trachoma was simple and easy. Blindness was closely related with trachoma. 2. The goverment organization of the National Leprosarium was proclaimed in 1927 and Leprosy Prevention Law was widely revised in 1931. Since then prevention of leprosy have been made it a principle to isolate the patients in the National Leprosarium. 3. It appeared obvious in the beginning of the Showa Era that higher morbidity rate of parasitosis was 40%-60% in urban and 70%-80% in rural area. Parasitosis Prevention Law was proclaimed in 1931. However, the morbidity rate showed no decreasing tendency. Major countermeasures against parasitosis in those days were the stool examination for paraites, administration of anthelminthic, and popularization of new type of lavatory improved by the Ministry of Home Affaires.
著者
松山 恵
出版者
駿台史学会
雑誌
駿台史學 (ISSN:05625955)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.1-27, 2022-09-30
著者
有田 佳代子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.5-20, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
55

本稿は,日本語教師が日本社会のマジョリティ≒日本語母語話者への日本語教育にかかわろうとする,その理由と方法について論じるものである.まず,その理由を三点に整理した.①日常的に非母語話者と場を共有している者として,母語話者に,非母語話者とのコミュニケーション方略を伝えるためである.②日本社会の大言語の教師として,少数言語の価値とその話者の権利を守る,すなわち「ことばの平等」を社会に根付かせる一翼を担うためである.③コミュニケーションの教師として,価値観の違いによる分断と対立を解消するための対話を生み,人と人をつなぐ役割を果たすためである.そして,その方法論として,日本語教師養成プログラムの枠組み転換,市民の一般教養としての日本語教育の位置付け,責任あるステークホルダーへの働きかけ,企業研修への関与をあげ,その一例として大学学部での一般教養科目としての日本人学生向け日本語教育コースの実践概要を報告した.
著者
冨岡 薫
出版者
日本倫理学会
雑誌
倫理学年報 (ISSN:24344699)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.219-232, 2022 (Released:2022-07-11)

“Autonomy,” which is a key concept for diagnosing the ethical legitimacy of one’s actions, has been argued in various ways in philosophy and ethics. In one way, the concept of autonomy is perceived as individualistic in the sense it authorizes excluding interventions by other people. In another way, it is employed by feminists to protect women’s rights. Then, along with these two ways of understanding autonomy, care ethics, which began with In a Different Voice by Carol Gilligan in 1982, was forced to deal with the predicament whether it should criticize the concept of autonomy as relational ethics against individualism or accept it as feminist ethics. The aim of this thesis is to raise a question about the current form of care ethics which uses the concept of autonomy as a criterion for good care to address the issue of oppression suffered by caretakers. To guide the conclusion, in the first section, I confirm that at the beginning care ethics criticized the concept of autonomy as being individualistic. Feminists criticized that by excluding the concept of autonomy, care ethics could not protect caretakers’ autonomy in oppressive situations. In the second section, I suggest that together with developing the theory of relational autonomy, care ethics incorporated the concept of autonomy as a criterion for good care in response to the feminists. In the last section, though, I criticize that incorporating the concept of autonomy into care ethics continues the ideology of autonomy and then makes a certain care relation invisible. So, I propose that care ethicists must distinguish the issue of oppression from the issue of autonomy, and that they can address the issue of oppression more adequately without using the concept of autonomy.
著者
西田 紘子
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.121-132, 2017 (Released:2018-07-01)

This paper selects Neo-Riemannian theory and aims to contextualize and characterize the developmental process of the relevant academic discipline by tracing the complementary and competitive relationship of Neo-Riemannian theory with the existing Schenkerian theory. Neo-Riemannian and Schenkerian theories cannot be compared even by analytical objects. However, as observed by Julian Hook (2007, 168) who considers it a “mistake” if one regards “transformation” and “prolongation” as antithetical conceptions, even though there is a fundamental difference between the theories, the integration or differentiation of both theories has been suggested in several studies (Cohn 1999, Samarotto 2003, Hook 2007, Goldenberg 2007, Rings 2007, Baker 2008). This case study examines the effects of the methodological arguments that advocate a new theory over an existing one. The effects are divided into two categories: first, enabling heuristic interpretations through a hybrid theoretical framework by quasi-integration and, second, showing the capacity of one theory by explaining what the other theory reveals. In other words, a series of arguments arise from the methodological difference related to the priority of “interpretation” or “method,” that is, the theory that sets as an end objective renewing the interpretation of musical pieces, holding the incompatibility of methods, or evoking a new theoretical model.
著者
張 賢徳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.781-788, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
13

自殺既遂者の90%以上が自殺時に何らかの精神科診断がつく状態であったことが見い出されている. したがって, 精神疾患の治療においては, 自殺予防への配慮が必要になる. 自殺に最も関係の深い病態はうつ病・うつ状態である. 日本では, 重症自殺未遂者の精神科診断の調査によって, 約20%に適応障害レベルの人が見い出されていることから, 疾患自体の重症度が軽症であっても自殺のリスクが低いとはいえず, 心療内科を含め, 精神疾患の治療を担当する医療従事者はすべて, 自殺のリスクを念頭に置く必要がある. 自殺のハイリスク者を把握するためには, 希死念慮の確認とその強度の査定が必要になる. ハイリスク者への対応では, 狭義の医学的治療だけではなく, 希死念慮の背後にある悲観や絶望に目を向け, それらをどう支えるかを考えねばならない. 多職種による積極的な関与が必要だという認識が求められる.