著者
大槻 マミ太郎 五十嵐 敦之 勝沼 俊雄 藤澤 隆夫
出版者
一般社団法人 日本皮膚免疫アレルギー学会
雑誌
日本皮膚免疫アレルギー学会雑誌 (ISSN:24337846)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.163-176, 2018

<p> アトピー性皮膚炎治療薬であるタクロリムス軟膏の添付文書に記載されている警告に関して, 臨床現場への影響について検証する目的で, アトピー性皮膚炎診療に精通している皮膚科および小児科363名の医師を対象に, ステロイド外用薬の現状も含めた使用実態調査を行った。</p><p> 薬剤の使用理由として「効果が良好だから」は, ステロイド外用薬98.1%, タクロリムス軟膏60.1%に対して, 「副作用が少ないから」は, ステロイド外用薬21.2%, タクロリムス軟膏73.2%であった。タクロリムス軟膏の発がんリスクに対しては, 85.4%の医師が否定的な見解であった。一方で, 発がんリスクの説明による患者 (保護者) からの使用拒否を19.6%の医師が経験していた。添付文書の「発がんリスクの警告に関する説明義務」については, 73.5%の医師が処方の妨げになり, 68.0%の医師が患者の不利益になるとの見解であった。本調査からタクロリムス軟膏の「発がんリスクの警告に関する説明義務」が, 患者が有効な治療を受ける機会を妨げている側面が浮き彫りとなった。</p>
著者
武田 甲 藤原 俊六郎
出版者
神奈川県農業総合研究所
雑誌
神奈川県農業総合研究所研究報告 (ISSN:03888231)
巻号頁・発行日
no.141, pp.15-22, 2001-03
被引用文献数
1

1.三浦半島では推定1,500t/年の屑スイカが排出され,その処理が環境上の問題となっている.スイカは含水率が92~98%と高いため,そのままで堆肥化は困難である.そこで屑スイカを細断して,スイートコーン茎葉裁断乾燥物(スイートコーン粕)とコーヒー粕乾燥物を混合して堆肥化する方法を検討した. 2.堆肥化は2段階で行った.初期発酵は通風装置付き密閉式縦型発酵槽(ビオロータリータイプ,1,200l容)で行い,続いて通風装置附き1,000l容箱形発酵槽により長期発酵を行った. 3.縦型発酵槽中では60℃を超す発熱がみられ,約60%の重量減少があった.長期発酵により重量は更に半減し,発酵を終えた製品はスイカの皮が一部残るだけで,混合したスイートコーンだけが目立つ性状となった. 4.成分分析の結果,原料スイカの炭素率(C-N比)は15程度であり,堆肥化には適していたが,含水率は95%以上と高かった. 5.半年間の発酵終了後,C-N比は10以下になり,肥料効果の高い堆肥となった.完成したスイカ堆肥は悪臭や不潔感が無く,コマツナによるポット栽培試験の結果,良好な生育を示した.堆肥化によりスイカ種子は発芽しなくなった. 6.以上の結果,適切な副資材と混合し,縦型発酵槽を使用すれば,屑スイカの堆肥化は可能であることが明らかにされた. 7.本研究で用いたコーヒー粕は株式会社コカコーラ海老名工場より御提供いただいた.また本研究で用いた屑スイカの調達には神奈川県農業総合研究所三浦試験場の岡本保氏の御助力をいただいた.岡本氏ならびに関係各位に謝意を表する.
著者
松田 毅
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.65, pp.73-89_L7, 2014

While Spinoza, rejecting the project of "theodicy", insists on "absolute necessity"of the world from the view point of eternity, Leibniz, as the originator of the concept of "possible worlds," advocates the optimism, namely the logical contingency and moral necessity of the best of this world. Given this seemingly fatal opposition of two 17th century major metaphysicians about modalities, it is philosophically important to see the causes of this tension and, thereby to have some prospect for better understanding of the problems of modalities.<br>Firstly, from the representation of recent interpretations of "the necessity of finite modes" in Spinozaʼs <i>Ethica</i>, especially from Huenemannʼs about "the instantiation of geometrical essence" in the finite modes; secondly from contextual understandings of Leibnizʼs comments about texts such as IP29 of <i>Ethica</i>; and thirdly,characterizing the distinction between modal inferences of <i>consequentiae</i> and <i>consequentis</i> in Leibniz, I maintain that the ontologically irreducible status of agency of actions and the proper concepts of logical contingency turn out to be decisive in the controversy on modalities. Finally, it is argued that the modal sentences as such are seen by Leibniz as a type of reflexive proposition the truth values of which cannot be unconditionally decided.
著者
阿部 洋丈 Hirotaka Abe 科学技術振興機構 CREST JST CREST
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-14, 2006-01-26
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では,近年注目を集めているpeer-to-peer型分散システムを構築するための基盤技術,分散ハッシュテーブル(Distributed Hash Table; DHT)についての入門的な解説を行う.分散ハッシュテーブル技術は,システム全体を管理する中央サーバを持たないようなpeer-to-peerシステム(pure peer-to-peerシステム)において,効率的なオブジェクト発見の実現を可能にする.
著者
Fernando LÓPEZ-GATIUS Irina GARCIA-ISPIERTO Ronald H.F. HUNTER
出版者
The Society for Reproduction and Development
雑誌
Journal of Reproduction and Development (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
pp.2021-022, (Released:2021-05-30)
被引用文献数
3

This study sought to establish whether temperature gradients between the cervix, vagina, and rectum at and 7 days post-artificial insemination (AI) were associated with the incidence of pregnancy in lactating dairy cows (Experiment I; n = 90 ovulating cows) and to evaluate temperature gradient dynamics from the time of insemination to 7 days post-AI under heat stress conditions (Experiment II; n = 16 ovulating and 4 non-ovulating cows). In Experiment I, 39 cows (43.3%) became pregnant. The odds ratio for pregnancy was 2.5 for each one-tenth of a degree drop in cervical temperature with reference to the control rectal temperature at the time of AI (P = 0.01), whereas the same decrease in the cervix–rectum temperature differential 7 days post-AI resulted in ana odds ratio of 0.44 (P = 0.02). In Experiment II, 5 of the ovulating cows (31.3%) became pregnant. The mean values of the vagina–rectum, vagina–cervix, and cervix–rectum temperature differentials at AI (day 0), 8 h, 24 h, and 7 days post-AI changed significantly from day 0 to day 7 (within-subject effect; P < 0.02) in ovulating cows but not in non-ovulating cows. Temperature differentials on days 0 and 7 were similar between ovulating cows and cows of Experiment I. Overall, our findings support the notion that a temperature differential between the caudal cervical canal and rectum at AI may be an indicator of the likelihood of pregnancy. Possible prospects of confirming estrus at the herd-level are also suggested.
著者
山口 修平
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

要旨 我が国には600 カ所以上の脳ドック施設があり,未破裂脳動脈瘤や無症候性脳梗塞およびその危険因子の早期発見に貢献している.脳ドックの受診者は中高齢者が多く,近年は脳卒中に加え物忘れの精査を希望する例も増加している.脳ドック学会ではT2*強調画像による脳内微小出血(CMB)の検出が新たに施設認定条件に加えられた.CMB は無症候性脳梗塞や白質病変と同様,将来の脳出血および脳梗塞の重要な危険因子である.皮質に多発する場合はアミロイド血管症も考慮する必要がある.また脳ドック学会は認知機能検査実施も施設認定の条件に加えた.現在約3 割の施設で認知機能検査が実施されているが,人員と時間が必要なためiPadを用いた簡易なスクリーニング検査(Cognitive Assessment for Dementia, iPad version: CADi)などが推奨される.MRI では脳小血管病変の検討とともに,海馬萎縮の検討も勧められる.さらに認知症の早期発見のために,安静時機能的MRI も将来有力な検査項目と考えられる.
著者
祖父江 元 渡辺 宏久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.9, pp.1804-1809, 2018-09-10 (Released:2019-09-10)
参考文献数
10
著者
渡辺 宏久 祖父江 元
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3+4, pp.127-133, 2015 (Released:2016-06-17)
参考文献数
13

【要旨】加齢に伴う脳内ネットワーク変化の可視化は、神経変性性認知症に対する信頼のおける早期診断バイオマーカーや画期的治療法の開発に重要である。我々は、安静時機能的MRI (fMRI)、拡散テンソルMRI、3D MPRAGE、脳磁図を用いて、健常者の脳内ネットワークの変化を調べてきている。200例の予備的な検討では、加齢に伴う変化として、脳萎縮は辺縁系を中心に認め、TBSS解析による解剖学的ネットワークの破綻は側脳室周囲に認めた。しかし、安静時fMRIでは、デフォルトモードネットワークをはじめとする基本的な安静時ネットワーク内における結合性の低下を認める一方で、安静時ネットワークを構成する90の領域間(基本的ネットワーク間)における結合性は増加していた。これらの結果は、年齢に伴う脳萎縮や解剖学的ネットワークに対する機能的神経回路の代償現象を観察している可能性がある。加齢脳においては、以前より考えられているよりもダイナミックな解剖学的および機能的ネットワークのリモデリングがより広く生じている可能性がある。
著者
宇野 あかり
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.117-127, 2020 (Released:2020-05-30)
参考文献数
38
被引用文献数
1

【目的】緩和ケア病棟で働くスタッフを対象に,緩和ケアで死に寄り添うことへの心理的適応過程を死のとらえ方と時間的展望に着目して明らかにする.【方法】緩和ケアスタッフ10名を対象に半構造化面接を実施し,TEM(複線径路・等至性モデル)を用いて分析した.【結果】スタッフは緩和ケアのキャリアの中で死のとらえ方を変化させ,死にpositiveな意味を見出すことで精神的健康を維持して働いていた.また,死が身近な環境は,過去・現在・未来への視点を広げ,適応的な時間的展望の形成を促し,よりよい生を送ろうという意識を高めることが推測された.【結論】今後はスタッフの死のとらえ方を把握しpositiveな意味づけを促す必要がある.また,緩和ケアに時間的展望の視点を取り入れることは,緩和ケアが自身の成長の糧になっているという気づきや,日々のケアの意識にもよい変化があると考えられ,有意義であるといえるだろう.
著者
原 明子 川北 敬美 四谷 淳子 道重 文子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.133-138, 2019

&emsp;本研究の目的は, 被採血時に失敗された経験の有無に分け, 血管の深さと血管断面積との関係, 目視可否について明らかにすることである. 20歳以上の女子学生10名20肢を対象に, 被採血時の失敗経験無し群と被採血時の失敗経験有り群に分け両上肢の駆血前後の皮膚表面から血管までの距離, 血管径, 血管断面積, 目視による血管確認を行った.その結果, 皮膚表面から血管までの距離が2.1mm未満, 血管断面積が10.2mm&sup2;以上の血管をもつ上肢では, 被採血時の失敗経験無し群は20肢中12肢,被採血時の失敗経験有り群は20肢中1肢であった. これに対し, 皮膚表面から血管までの距離が2.1mm以上, 血管断面積が10.2mm&sup2;未満の血管をもつ上肢では, 被採血時の失敗経験無し群は20肢中1肢, 被採血時の失敗経験有り群は20肢中12肢であった. 被採血時の失敗経験有り群は, 皮膚表面から血管の深さは深く, 血管断面積も小さい割合が多いこと, また, 目視による可視化ができない割合も高いことから, 血管の選定が難しいと考えられ, 採血が失敗される要因であることが示唆された.
著者
長谷川 篤司 木下 潤一朗
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
Dental Medicine Research (ISSN:18820719)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.169-175, 2009-07-31 (Released:2013-08-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

良好な根管治療予後のためは, 治療過程のすべてのステップで根管内無菌化のための努力がもとめられている. これらのステップのうち, 根管壁の化学的清掃, すなわち根管洗浄には, 従来から次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素水による交互洗浄が用いられてきた. また, 近年ではEDTAの使用や, 超音波発生装置の併用などが取り上げられている. では従来からの根管洗浄法の問題点は何か. 新たな薬剤や器材によって何がどう改善され, どのような効果が見られるのか. これらを導入する際には, 臨床上どのようなことに配慮すべきか. 現状でどの程度の臨床現場で使用されているのかなどを簡単に解説した.
著者
井田 喜明
出版者
社団法人 日本流体力学会
雑誌
日本流体力学会誌「ながれ」 (ISSN:02863154)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.150-159, 1987-06-30 (Released:2011-03-07)
参考文献数
11

Magma is generated by partial melting of rocks and ascends due to its buoyancy in interstitial conduits through the country rock. When the country rock creeps, the magma conduits are deformable. A vertical cylindrical conduit that is deformable with time and space is considered for the present analysis, assuming that both country rock and magma are viscous fluids. Here the fluid representing the country rock has a significantly higher viscosity than magma. This analysis can be generalized to permeable flow with a network of deformable magma paths. The theory gives such a solution that a bulge of magma conduit propagates upward at a constant speed without change of wave form. Such a stationary wave resumes its form after collision with another wave so that it may be called magma soliton. The propagation velocity of a magma soliton increases with increasing amplitude. If magma flux is changed to a higher value at a certain depth, a new state of greater flux is established upward, creating new magma solitons at the moving tip. This process of soliton creation might be applicable for explaining the episodicity of volcanic eruptions.
著者
城寳 佳也 井上 大樹 大藏 倫博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.363-371, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
24

目的 より多くの高齢者の運動実践を促すため,身体状況や体力レベルが大きく異なる高齢者に対応した運動プログラムを普及させる取り組みとして低強度運動であるストレッチングを指導できる高齢運動ボランティアを養成することとした。本稿では,茨城県つくばみらい市でおこなった「シニアストレッチリーダー(以下,SSL)養成講座」について,講座内容の紹介と受講による高齢者の身体機能,ストレッチング実践頻度への効果および講座終了後の活動について報告することとした。方法 参加者は市の広報および回覧で募集した。養成講座は8週間,1回120分,全8回で構成した。講座では「SSL養成テキスト」を使用し,ストレッチング理論や高齢者への運動指導法を中心に講義をおこなった。実技はストレッチングフォームの確認やサークル指導のロールプレイングを中心におこなった。またグループディスカッションでは柔軟性が低下する要因や自宅でのストレッチング実践状況について5人1グループで話し合った。 受講前後の身体機能の変化を評価するために,関節可動域(柔軟性),5回椅子立ち上がり時間(下肢筋力),開眼片脚立ち時間(静的バランス能力),10 m通常・最大歩行時間(歩行能力)の測定をおこなった。また,ストレッチング実践頻度の変化については,自記式アンケートと日誌を用いて評価をおこなった。その他,受講後に講座に関する評価をおこなった。活動内容 第1回SSL養成講座には29人(男性15人,女性14人,平均年齢69.7±3.8歳)が参加し,全員がSSLとして認定された。受講後,柔軟性および歩行能力が向上し(P<0.05),ストレッチング実践頻度は有意に増加した(P<0.001)。講座に関する評価は,参加者全員が「有意義だった」と回答した。また,96.6%が「今後,サークル指導に携わりたい」と希望したことから,講座終了後,2つのサークルを設立し活動を始めている。結論 講座の受講により柔軟性および歩行能力が向上し,ストレッチング実践頻度が増加したこと,またサークル指導に携わりたいと希望する者が多かったことはSSL養成講座の受講が高齢者の健康維持・増進に寄与する可能性がある。特別な道具を使用せず実施可能な低強度運動であるストレッチングを普及させるSSLの養成と活動を支援する取り組みは,他地域においても展開が可能であると考える。
著者
籠谷 恵 朝倉 隆司 佐久間 浩美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.349-362, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
39

目的 本研究は,養護教諭のキャリア発達に資するためプラトー化の関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 2017年3月に東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県の小学校,中学校,高等学校のうち1,000校を層化無作為抽出し,養護教諭1,000人に調査票を送付した。養護教諭の専門職的自律性(変革),職場におけるソーシャル・サポート,仕事関連ストレッサーからワーク・エンゲイジメントを介してプラトー化につながるという概念枠組みを作成し,階層的重回帰分析とパス解析により検証した。結果 335人の養護教諭のデータを分析対象とした。パス解析の結果,内容的プラトー化に影響していたものは,ワーク・エンゲイジメント,主体的学習,質的負担,経験年数であった。ワーク・エンゲイジメントには主体的学習,追求,情報的サポート,道具的サポート,情緒的サポート,役割の曖昧さ,養護教諭の職位が影響していた。パスモデルの適合度は,CFI=1.00, RMSEA=0.00, SRMR=0.01と概ね良好であった。決定係数は,内容的プラトー化がR2=0.41,ワーク・エンゲイジメントがR2=0.45であった。階層プラトー化に影響していたものは,ワーク・エンゲイジメント,主体的学習,学歴,職位,スクールカウンセラーの配置であった。ワーク・エンゲイジメントには主体的学習,追求,情報的サポート,道具的サポート,情緒的サポート,役割の曖昧さ,職位が影響していた。パスモデルの適合度は,CFI=1.00, RMSEA=0.00, SRMR=0.01と概ね良好であった。決定係数は,階層プラトー化がR2=0.25,ワーク・エンゲイジメントがR2=0.45であった。結論 プラトー化の低い養護教諭は,ワーク・エンゲイジメントと主体的学習が高いことが示唆された。養護教諭のプラトー化を防ぐには,主体的学習を高める支援や職場環境づくり,経験年数を考慮した現職研修などが求められる。
著者
廣川 空美 森口 次郎 脊尾 大雅 野村 洋子 野村 恭子 大平 哲也 伊藤 弘人 井上 彰臣 堤 明純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.311-319, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
17

メンタルヘルス不調者のサポートのために,地域職域連携が謳われているが,実行性のある取り組みは少ない。とくに小規模事業場は課題が多く,地域と職域との密接な連携による対策が求められる。地域で実践されている好事例や認識されている課題を挙げ,メンタルヘルス対策の連携の阻害要因を整理し,実行性のある連携方法を提案することを目指したシンポジウムを開催した。 産業保健総合支援センターを核にした地域専門医療機関との連携による事例では,地域の専門医療機関の情報提供とその有効活用の工夫が示された。地域における産業保健を支援する医療リソースの把握と事業場への情報提供は産業保健総合支援センターが貢献できる領域である。 京都府では,医師会や行政が,地域の産業医,精神科医,人事労務担当者等関係者間で,連携目的に応じた定期的な会合や研究会を開催しており,多様な「顔の見える」多職種連携が展開され,関係者間で発生する課題や不満も含めて議論されている。 社会保険労務士として企業のネットワークを,障害者雇用に活用している事例では,地元の事業活動の核となる金融機関や就労移行支援事業所等と連携して,有病者や障害者のインターンを中小企業で受け入れるプロジェクトが展開されている。フルタイムの雇用にこだわらず,事業場のニーズと有病者の就業可能性をすり合わせる仕組みは,メンタルヘルス不調者の復職などに応用できる可能性がある。 相模原市では,評価指標を設定しPDCAを回しながら零細企業を対象とする支援を行っている。具体的には,市の地域・職域連携推進連絡会において,中小事業所のメンタルヘルス対策を含めた健康づくりの推進を目的に,事業所を訪問し,健康経営グッドプラクティスを収集して,他の中小事業所の事業主へ周知する取り組みを行っている。 連携の阻害要因には,職場から労働者の家族等に連絡が取りにくい点,メンタルヘルス不調者が産業保健のケアの対象から漏れたときの支援の維持方法,保健師等専門職がいない職場でメンタルヘルスを進める工夫,サービスを展開するマンパワーの不足が挙げられた。職域と地域の連携のギャップを埋めるためには,保健師や臨床医を含む関係者による,それぞれのメリットを求めた連絡会や勉強会等の顔の見える関係づくりは有用で,小規模事業場へのアプローチは健康問題全般の支援にメンタルヘルスを組み込む形で行うことが受け入れやすいと考えられた。