著者
渋谷 幸弘 餅田 治之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.26, 2003

フィリピンにおける森林再生事業は、初期の政府が直轄で行う造林から近年では地域の住民組織が主体となったものへと変化してきた。しかし、現在においても問題の抜本的解決には至っていない。そこで本研究では、フィリピンにおける主要な森林再生事業である、__丸1__政府が直轄で行う造林と、__丸2__住民組織による造林が地域の実態においていかなる問題をはらんでいるのかという点に関して、事業に関係している地域住民に焦点を当て考察を行った。具体的には、__丸1__事業の公平性、__丸2__地域住民による造林地の自立的な維持管理、__丸3__地域住民の生活改善への寄与、そして、__丸4__森林の再生という4つの分析視角を設定し事業の評価を試みた。政府が直轄で行う事業としては、国際協力事業団の協力により1976__から__1992年に実施されたパンタバンガン森林開発プロジェクトを取り上げた。プロジェクトの目的は、ダムの集水域に広がる荒廃林地に造林を行うことによって土砂堆積を防ぐことであり、約1万haの造林が行われた。当プロジェクトでは、林地・造林木は国の所有とされ、地域住民は主に雇用労働者として事業に携わった。住民組織による事業としては、現在の林政における最重要政策であるCBFM(Community Based Forest Management)を取り上げた。CBFMは地域の住民組織に対して25年を契約単位とする林野保有権を付与し、住民組織を基盤とした資源の共同管理を目指そうとするものである。調査地においては、二つの住民組織が各々約300haの国有林地を利用し、果樹造林を行っていた。調査地は、ルソン島中部に位置するヌエバエシハ州カラングラン町を設定した。当地域では過去にパンタバンガンプロジェクトが実施され、2001年以降二つの住民組織がパンタバンガンプロジェクトと同じ造林地を利用してCBFMを実施している。そのため、多くの住民が双方の事業に関わっており、両事業の比較が可能であった。調査は2001年8月、2002年2月、2002年9月の3回実施し、設定した二集落の全世帯に対して質問表を用いた悉皆調査を実施した。地域住民は所得水準によって以下の4つの階層に分類することが可能であった。高所得順に、__丸1__農外就業者、__丸2__自作農、__丸3__小作農、__丸4__農業雇用労働者であり、この階層の違いをもとに分析をおこなった。__丸1__事業の公平性:パンタバンガンプロジェクトにおいては、最も貧しい農業雇用労働者が最も雇用機会を得ることができず、雇用に際して平等が確保されていなかった。CBFMの実施主体である住民組織への参加率は、自作農が最も高いものの、その他の階層ではほぼ同程度であった。しかし、農業雇用労働者は日々の生活の糧を得なければならないため、造林地の維持管理ができず、CBFMは富裕層のみが利益を得ることができ、貧困層が実質的に参加できない仕組みになりつつあった。__丸2__造林地の自立的な維持管理:パンタバンガンプロジェクトにおいては、実施期間中、年平均10ha以上が山火事によって被害を受けた。林地・造林木に対してほとんど何の権利も持たなかった地域住民にとって、造林木を維持管理するインセンティブは無く、造林地を保護する自立的な行動は見られなかった。CBFMでは、その同じ造林地において、2001年に事業が開始されて以来、山火事による造林木の被害は無い。これは、住民組織が山火事に対処するために規則を作り、草刈や消火活動などを行った結果であり、25年(最長50年)に及ぶ林野保有権が林地・造林木の維持管理における強力なインセンティブになっていると考えられた。__丸3__住民の生活改善への寄与:当地域における住民のニーズはどの階層においても、「雇用機会の創出」が最も高かった。パンタバンガンプロジェクトは、16年間という長期にわたって雇用機会を提供することができたが、一時的な効果にとどまっており、地域の持続的な発展に繋がることはなかった。CBFMにおいては、住民組織が造林事業にとどまらず、家畜飼育事業や金融事業などを自主的に行うことを計画しており、CBFMを通じた新たな地域発展の可能性が生まれつつあった。__丸4__森林再生事業としての評価:パンタバンガンプロジェクトにおいては、20種類以上の多彩な樹種が造林され、採算性の低い場所にも大面積に造林された。CBFMにおいては、造林されているのはマンゴーを主体とする数種の換金樹種に限られ、また集落から交通アクセスのよい林地にしか造林が行われていない。面積は現在のところ完全に事業が成功したとして約600haである。このように、森林の再生という側面からみれば、CBFMには限界があるということができる。
著者
市川 勇 松村 年郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
衛生化学 (ISSN:0013273X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.162-173, 1997-06-30 (Released:2008-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
4

Since the end of 1960s, with an increase in the economic growth, a large amount of chemical products made from fossil fuel have been used. In addition to the development and the modification of the products for building materials containing many kinds of hazardous chemicals, the techniques for the airtight construction of houses have been remarkably developed. In the latter half of 1970s, among people living in U.S.A. and northern Europe a new syndrome with headache, dizziness, and eye irritation, etc., which was later called as a sick building syndrome (SBS), has emerged. This syndrome was found to be caused by concentrated multiple pollutants such as volatile organic compounds (VOCs) and allergens from fungi and ticks in high airtight rooms with lower ventilation. Recently, the number of patients suffering from biological allergens and VOCs tends to increase. But in Japan the standard values we have in the law on the sanitary management for buildings are limited to those for such three materials as carbon dioxide (CO2), carbon monoxide (CO) and suspended particulate matter (SPM). Therefore, we describe in this report the necessity of the establishment of a new law on the indoor environmental standards for the prevention of our health against some kinds of indoor pollutants such as VOCs in cluding formaldehyde, nitrogen dioxide (NO2), ozone (O3) and asbestos produced not only in offices and working places but also in houses.
著者
八木 久義
出版者
林業試験場
雑誌
林業試験場研究報告 (ISSN:00824720)
巻号頁・発行日
no.336, pp.p45-116,図11p, 1986-03

フィリピン共和国パンタバンガン地域では,荒廃した草原状無立木地における流域管理や木材生産の調和をはかる造林技術の開発やそれらの体系化,およびそれらの技術転移を目的とした森林造成に関する日比技術協力プロジェクトが進められている。著者は熱帯草原状無立木地における森林造成のための基礎資料を得るため1980~1984年にかけて同プロジェクトサイトの土壌調査を行い,同サイトの立地条件を明らかにした。それらの結果の概要は次のとおりである。1. 調査地の土壌母材としては,第四紀礫層,熱変成岩等に由来する赤褐色砕屑堆積物,閃緑岩ないし石英閃緑岩を主とする火成岩,第三紀泥岩,第四紀粘土質堆積物,および不定形瘤状物に富む堆積物が重要であり,それらの分布は地形や地域と密接な関連を有する。2. 調査地の土壌は,全般的に炭素や窒素の含有率が低く,表層の発達が概して不良である。3. その他の理化学性や微細形態学的特徴は地形や母材の違いのよってそれぞれ異なり,塩基置換容量,置換性塩基含有量,塩基飽和度等が非常に高いものから非常に低いものまで,また,通気透水性が非常に良好なものから極めて不良なものまで多種多様である。4. 調査地を被覆する草木は主としてサモン(カルカヤ類:Themeda triandra)およびコゴン(チガヤ類:Inperata cylindricum)であるが,前者は比較的瘠悪な立地条件下に,また,後者は比較的理化学性の良好な立地条件下に優占する。
著者
サリチ エルトゥール 並木 涼 山井 成良
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-53, no.10, pp.1-4, 2021-05-06

ファイアウォールシステムの構成法として IDS(Intrusion Detection System)と SDN(Software Defined Network)システムとを併用する IDS・SDN 連携型ファイアウォールシステムが構成や機能の柔軟性の観点から注目されている.この構成法では IDS から SDN コントローラへのアラートの通知方法が問題となる.本稿では SNMP トラップによりアラートを通知する方法を提案する.これにより従来の syslog に比べて SDN コントローラでの解析が容易になる効果が期待できる.
著者
村山 航
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.130-140, 2003-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
20 13

これまでの研究において, 学習方略使用と有効性の認知との関係に関し, 一貫した結果が得られていない。本研究では, その非一貫性を解消するため, 従来単一のものとして扱われていた学習方略の有効性の認知を, 短期的な有効性の認知 (目前のテストなどに対する有効性の認知) と, 長期的な有効性の認知 (長期的な学習に対する有効性の認知) の2つに分け, 学習者の方略使用に与える影響を比較検討した。また, その結果の学校間変動や達成目標という個人差変数の調整効果も併せて検討した。中学生・高校生12校1138人に, 予備調査によって作成した歴史の学習方略質問紙に対して回答してもらい, 階層線形モデルなどによる分析を行った。結果, 短期的な有効性の認知は方略使用に対し直接の効果を持つが, 長期的な有効性の認知は, 短期的な有効性の認知を媒介した間接的な効果しか持たないことが明らかになり, 学習方略の有効性の認知を分けて概念化することの有用性が示された。有意な学校間変動は見られなかった。また, 達成目標による調整効果はみられなかった。
出版者
Microsoft
巻号頁・発行日
1993
著者
諏訪 兼位
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
鉱物学雜誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.265-272, 1990

This is to review some phases in the history of petrography and petrology. Petrology has developed on a deep understanding that a rock is not a rock-fragment in any sample case but an important constituent of the earth and planets. Some recent works on some rock-forming minerals done in my laboratory are introduced in this paper. Some random thoughts on amalgamators of mineralogy and petrology are presented. Mineralogy has developed recently as mineralogical science. It has two main aspects: (a) earth and planetary science, and (b) material science. Mineralogical science as material science should consider the earth and planets to develop further.
著者
小出 良幸
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.94, pp.1-27, 2013-11

本質的属性に基づく自然分類が岩石の理想的な分類である。岩石の分類にかかわる課題を整理し,岩石に自然分類が適用できるかを検討した。岩石の分類は,火成岩,変成岩,堆積岩の3つ成因がもっとも本質的である。変成岩と堆積岩では,自然分類に基づいた岩石名の適用は可能になっているが,火成岩では人為分類の導入が不可欠となっている。火成岩の人為分類の定義の整理と,体系的な導入が重要な課題となる。Various problems in the classification of rocks and systematics of nomenclature are discussed in this paper. Rocks should be ideally categorized by the natural classification based on some essential attributes. It is checked whether the natural classifica論文Article
著者
佐方 信夫 浜田 将太 土屋 瑠見子 佐竹 昭介
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.164-166, 2021-01-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1

介護度が多様な施設入所者に対するフレイル評価として,FRAIL-NHが米国で開発され,その妥当性や予後予測の有用性が確認されている.我々は,原版の翻訳,逆翻訳,開発者への確認,試験的使用というプロセスを経て,言語的妥当性を検証したFRAIL-NH日本語版を作成した.今後,FRAIL-NH日本語版が施設入所者のフレイル評価に活用され,脆弱性の進行予防に寄与することを期待している.
著者
菊光 美樹男 渡辺 美知子 ラワンカル アビジート 鈴木 育男 岩館 健司 古川 正志
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.94-95, 2019

<p>近年,自動車や自転車など従来の移動手段に加えて平地や坂道などを一人で移動する手段が求められている.この移動手段としては,セグウェイのように重心の移動を利用して多様な環境下でも対応できる方法がある.本研究ではセグウェイのような平行二輪型の立ち乗り車を三次元物理空間にモデリングし,障害物を回避しながら目的地まで自律的に走行する行動獲得を目的とする.自律行動の獲得には進化学習を用いる.</p>
著者
村上 順也 山之上 卓
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-53, no.9, pp.1-10, 2021-05-06

マイニングマルウェアがマイニングを動作させたときの通信がマイニングウェアの通信と類似していると仮定し,マイニングの通信の性質を,wireshark で観測することにより,抽出した.この性質を使って,現在開発中の悪性 Botnet 包囲網によるマイニングマルウェアの通信が検出できる可能性があることを確認した.ここで,悪性 Botnet 包囲網で得られたデータの解析に R を用いている.
著者
山越 大雅 田島 浩一 近堂 徹 渡邉 英伸 岸場 清悟 西村 浩二 相原 玲二
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-53, no.8, pp.1-7, 2021-05-06

脆弱性診断は,Web コンテンツ,コンピュータ,ネットワーク等に対して擬似攻撃を行い,内部に潜む脆弱性を発見する診断であり,昨今のサイバー攻撃の脅威に備えるために世界中のあらゆる組織で必要不可欠なものとなっている.一般的に,診断結果には脆弱性が危険度によりレベル分けされており,それがそのまま対策の優先度として利用されているという問題点が指摘されている.この問題に対して本研究では,セキュリティインシデントにつながる可能性を元に対策の優先度を評価し,反映した診断結果を提供する脆弱性評価システムを開発した.脆弱性評価システムでは,脆弱性診断により得られる診断結果を対象とし,診断結果に含まれるCVE(脆弱性の識別子)などの識別子や脆弱性情報として公開されている NVD および JVN のデータベース等を用いて評価を行う.また,広島大学で実施している脆弱性診断の診断結果を処理対象として例を示す.

1 0 0 0 IR 協力の創発

著者
Cason Timothy N. 西條 辰義 大和 毅彦 横谷 好
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-103, 1998-04

小特集 : 社会規範と進化についてのコンファレンス
著者
長谷川 直哉 今泉 貴史
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-53, no.7, pp.1-7, 2021-05-06

Web アプリケーションの脆弱性の 1 つに SQL インジェクションがある.本研究では SQL インジェクションの対策手法として DPS(Dual Proxy to prevent SQL Injection Attack)を提案し実装した.DPS は HTTP プロキシとデータベースプロキシを組み合わせたアーキテクチャであり Web サーバを挟む構成になっている.DPS では,ユーザインプット(ユーザからの入力値)と Web アプリケーションから送られるクエリを基に SQL インジェクションを検知する.DPS が実際に SQL インジェクションを防止できるかどうかを確かめるための実験を行い,DPS が SQL インジェクションを防げることを確認した.