著者
関 乃里子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.22-27, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)

図書館システムの専門メーカーである株式会社ブレインテックでは,社員の4割が司書有資格者であり,30年以上にわたりシステム・ライブラリアンのいない多くの小規模図書館に対して「外付けシステム・ライブライアン」のような役割を果たしてきた。しかしそこに求められる専門性は,図書館を取り巻く情勢の変化に伴い変わってきている。我々が,「外付けシステム・ライブラリアン」としてこれからも図書館を支援し続けていくために必要とされるスキルや知識は,以前より多様で広範なものである。そうした力をもった人材を育成するための,当社における組織や役職制度,働き方,研修制度の改革を紹介する。
著者
北條 勝貴
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.20-35, 2004-05-10 (Released:2017-08-01)

大殿祭は、忌部(斎部)宿禰の主催する希有な宮廷祭祀である。「大殿祭祝詞」や『古語拾遺』は、同祭が、山中での採材から柱立てに至る一連の伐木・建築祭儀と内的連関にあることを主張する。事実、伊勢神宮の年中行事や遷宮諸祭、大嘗祭にも、これと同種の儀礼体系が共通して存在し、忌部の関与が濃厚に確認できる。これら忌部と樹木との密接な関係は、忌部宿禰の品部である紀伊忌部が同国固有の環境において醸成してきた、樹木に宿る宗教性(木霊・山神の力)を殿舎の守護神へ転化する、木霊鎮めの技法に基づいている。「祝詞」にのみ登場する大殿祭の祭神屋船命は、忌部が樹木との直接的交感を通じて生み出した独自の神格であり、「事問ひし」自然との葛藤を体現する物語りなのである。
著者
宮崎 誠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2022-058, 2023 (Released:2023-06-07)
参考文献数
15

本学6年次生の読解力を測定し,得られた能力と学内で実施された試験の成績および薬剤師国家試験成績との関係を検討した.読解力の偏差値は中央値が63程度であったが,一部には50に満たない者もいた.5年間の学内総合成績が低い者は『イメージ同定』の能力が低く,国家試験不合格者は合格者に比べて『推論』の能力が低かった.個々の学生の読解力の特徴から,学生を4つのタイプに分けることができた.『推論』,『イメージ同定』,『具体例同定』のいずれもが低いタイプでは5年間の学内総合成績も国家試験模擬試験成績も他のタイプに比べて有意に低かった.以上より,読解力が国家試験の合否に間接的にも影響している可能性が示唆され,薬学部における学生の教育・指導において読解力は考慮すべき基礎能力であると考える.
著者
林 果林 端 こず恵 神前 裕子 土川 怜 浅海 敬子 齋木 厚人 龍野 一郎 白井 厚治 藤井 悠 黒木 宣夫 桂川 修一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.920-930, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
39

目的 : 肥満症患者において心理的側面は病態と大きく関与している. その重要性を明らかにするため, 肥満症患者群とコントロール群で, ロールシャッハテストの変数を比較分析した. またその結果から, 肥満症患者の心理的側面について, 7クラスターに分類し検討した.  方法 : 肥満症患者群103名 (男性52名, 31.8±6.7歳/女性51名, 32.1±5.9歳) およびコントロール群160名 (男性61名, 30.8±9.7歳/女性99名, 30.4±9.7歳) のロールシャッハ変数を比較検討した.  結果 : コントロール群と比較したロールシャッハ変数109のうち, EA, EB, Lambda, DQ+, DQv, DQo, DQv/+, Populars, X+%, X−%, M, a, WsumC, CF, SumT, SumV, SumY, Afr, All H Cont, COP, FDを含む47で変数に有意差が認められた.  結語 : 肥満症患者は, 社会生活上求められる資質不足から, 物事の意思決定や行動選択において対処困難を伴いやすく, 自身の感情を把握し調節・表出する力が未熟な傾向にある. そのため自己防衛として, ①刺激を単純化して受け取ることで心理的な距離をとり安定をはかる, ②感情コントロール不全を避けるため, 感情そのものを否認する, ③対人場面では可能な範囲で他者とのかかわりを回避するという3点に集約できる. このような特性を治療者が認識し, 心身の状況を踏まえたうえで集学的治療を行うことが重要である.
著者
荒木 一視
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.6, 2014 (Released:2014-10-01)

戦前の日本の米が国内で自給されていたわけではない。少なからぬ量の米が植民地であった台湾や朝鮮半島から供給され,国内の需要を賄ってきた。その一方で,少なからぬ穀物(米,小麦,粟など)がこれらの地域に輸移入されていた。本発表では朝鮮半島の主要港湾のデータに基づき,これらの主要食用の輸移出入の動向を把握する。これを通じて,戦前期の日本(内地)の食料(米)需要を支えた植民地からの移入米を巡る動向と,1939~1940年にそのような仕組みが破綻したことの背景を明らかにしたい。  第一次大戦と1918年の米騒動を期に,日本は東南アジアに対する米依存を減らし,それにかわって朝鮮半島と台湾に対する依存を高める。円ブロック内での安定的な米自給体系を確立しようとするもので,1920年代から30年代にかけて,朝鮮半島と台湾からの安定した米の供給が実現していた。しかし,1939年の朝鮮半島の干ばつを期にこの食料供給体系は破綻し,再び東南アジアへの依存を高め,戦争に突入していく。以下では朝鮮半島の干ばつまでの時期を取り上げ,朝鮮半島の主要港の食料貿易の状況を把握する。 この時期の貿易総額は1914(大正3)年の97.6百万円から1924(大正13)年には639百万円,1934(昭和9)年には985百万円,1939年(昭和14)年には2,395百万円と大きく拡大する。貿易額の最も多いのが釜山港で期間を通じて全体の15~20%を占める。これに次ぐのが仁川港で,新南浦や群山港,新義州港がそれに続く。また,清津,雄基,羅津の北鮮三港も一定の貿易額を持っている。  釜山:最大の貿易港であるが,1939年の動向の貿易総額734百万円のうち外国貿易額は35百万円,内国貿易が697百万円となり,内地との貿易が中心である。釜山港の移出額260万円のうち米及び籾が46百万円,水産物が14百万円を占め,食料貿易の多くの部分を占める。なお,1926年では輸移出額計124万円のうち玄米と精米で50百万円と,時代をさかのぼると米の比率は大きくなる。1939年の釜山港の移入額では,菓子(4百万円)や生果(8百万円)が大きく,米及び籾と裸麦がそれぞれ3百万円程度となる。1926年(輸移入額104百万円)においても輸移入される食料のうち最大のものは米(主に台湾米)で,5百万円程度にのぼる。これに次ぐのが小麦粉の2百万円,菓子の百万円などである。 仁川:釜山港同様に1939年の総額367百万円のうち外国貿易は67百万円と内地との貿易が主となる。1920年代から1930年代にかけて,米が移出の中心で,1925年の輸移出額64百万円のうち,玄米と精米で47百万円を占め,1933年では同様に43百万円中の28百万円,1939年では106百万円のうち32百万円を占める。なお仕向け先は東京,大阪,名古屋,神戸が中心である。輸移入食料では米及び籾,小麦粉が中心となる。 鎮南浦:平壌の外港となる同港も総額213百万円(1939)のうち,外国貿易は29百万円にとどまる。同年の移出額89百万円のうち玄米と精米で15百万円を占め,主に吉浦(呉)や東京,大阪に仕向けられる。移入では内地からの菓子や小麦,台湾からの切干藷が認められる。 新義州:総額135百万円のうち外国貿易が120百万円を占め,朝鮮半島では外国貿易に特化した港湾である。1926年の主要輸出品は久留米産の綿糸,新義州周辺でとれた木材,朝鮮半島各地からの魚類などで,1939年には金属等,薬剤等,木材が中心となる。いずれも対岸の安東や営口,撫順,大連などに仕向けられる。輸入品は粟が中心で,1926年の輸入総額52百万円中17百万円,1930年には35百万円中,15百万円,1939年には46百万円中12百万円を占める。移出は他と比べて大きくはないが,米及び籾を東京や大阪に仕向けている。 清津:日本海経由で満州と連結する北鮮三港のひとつで,1939年の総額158百万円中35百万円が外国貿易である。1932年の主要移出品は大豆で,移出額7百万円中3百万円を占める。ほかに魚肥や魚油がある。移入品では工業製品のほか小麦粉,米及び籾,輸入品では大豆と粟が中心である。
著者
松江 崇
出版者
好文出版
巻号頁・発行日
2007-04

佐藤進教授還暦記念中国語学論集.佐藤進教授還暦記念中国語学論集刊行会編.pp.100-124
著者
伊藤 沙耶美 中川 晋作 岡田 直貴
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.39-45, 2017-01-25 (Released:2017-04-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

現行のワクチンの大半は注射製剤であるため、投与に医療従事者を必要とするだけでなく、ワクチン製剤の輸送・保管に一貫した低温温度管理(cold chain)の整備が求められる。そのため、実際にワクチンを最も必要としている開発途上国などの地域にワクチンが浸透しにくく、また感染症パンデミックやバイオテロリズム発生時にワクチンの大規模接種を迅速に施行できないという課題を有する。したがって、注射に代わる簡便で有効かつ安全な新規ワクチン手法を開発することがさまざまな感染症ワクチンの有用性を向上させると考えられる。本稿では、近年開発が進むさまざまな新規ワクチン剤形のなかで、皮膚に貼るだけという簡便性と低侵襲性を併せもった経皮ワクチン製剤の開発状況について紹介する。
著者
吉川 康弘 稲村 奈津美 積田 智佳 熊坂 肇 石倉 はる美 栗原 惣一 大塚 喜人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.408-413, 2016-07-25 (Released:2016-09-10)
参考文献数
9

簡易血糖測定器である,血糖自己測定(self monitoring blood glucose; SMBG)機器や病棟用(point of care testing;POCT対応)血糖測定機器は,簡便かつ迅速な測定が可能である。そのため患者個人だけでなく,広く医療現場でも使用されている。しかし2011年,手指の残留果汁が原因とされる偽高血糖事例が報告された。今回,本事例を検証するためSMBG機器7種を対象に,グルコース以外の果汁に含まれるとされる糖類(4種)との反応性を検証するとともに,食品や輸液等に含まれるとされる糖類(7種)についても検証した。結果,検証に用いた果汁に含まれるとされる糖類は,全ての機器において影響を与えなかったため,偽高血糖事例は,果汁中に含まれるグルコースが原因である可能性が示唆された。一方,食品や輸液等に含まれるとされる糖類においてキシリトール以外の糖は,検証に使用した何れかの機器に影響を与えた。簡易血糖測定器は手技や機器の特徴により,予想外の結果が得られる場合がある。従って使用者は,それらを十分理解した上で使用することが重要である。
著者
大関 真之
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.194-201, 2021-04-05 (Released:2021-04-05)
参考文献数
12

機械学習では,入力と出力の関係がよくわからないものに対して,とりあえず自分たちが扱うことのできる簡素な関数を用意する.猫の姿を見て,猫だと認識するのは,入力が画像データであるのに対して,猫だという指摘をする結果をはじき出すのだからよくわからない入出力関係があるのは間違いない.しかしそれをコンピュータが実践できるように扱いがしやすい関数を用意する必要がある.ただし,その関数には変更可能なパラメータを複数含ませておき,できるだけ広い豊富な表現力をもつようにしておく.後で微調整を行い,実際に入力を与えた時に適切な出力が与えられるようにする.関数に変更を加えてなんとか辻褄を合わせるというのは変分法に相当する.変更可能なパラメータ以外にも機械学習では,非線形変換を伴う関数を利用して,その表現能力を増強することができる.ニューラルネットワークが深層化を経て,非常に複雑な非線形変換を獲得するのも,そうした目的があるためだ.非線形変換というのは,ある種の飛躍であり,計算の難しさの象徴として現れる.例えば高校生のときに二次関数まで学んだのちに,三角関数をはじめ,指数関数と対数関数を学び,その豊富な数学の表現力に魅了される.しかし同時にその扱いに厄介さを覚えることもある.ただ慣れてくれば,その扱いもその存在も親しみをもって普段使いをする対象となる.人間というのはなかなか勝手なものである.そうした機械学習の分野で一つ気になる用語が登場しつつある.量子機械学習である.その冠にある量子力学は理解をすんなりと許さない,厄介な対象となる代表例である.交換しない演算子を利用して微視的な自由度の変化を追う際に新しい計算方法や概念を学ぶため,私たちの感覚のアップデートを必要とするというのも大きい.この量子力学は,機械学習とは一切関係のなさそうなものである.しかし人類はそうしたものですら,より豊富な表現力を得るために,機械学習において利用する関数に取り込もうとしている.量子力学では,エネルギーの固有状態を調べるのに,原理的には高次元の行列の対角化を伴い,最終的には数値計算に頼る.また時間発展にしても,ハミルトニアンが指数関数化されて状態ベクトルにかかることにより,そう単純ではない変化を生み出し,やはり数値計算に頼る他なかった.問題設定そのものは単純に行えるとしても単純ではない変化を生み出すのが量子力学の難しさである.しかしこの部分を積極的に利用すれば,機械学習で利用されうる「複雑な非線形変換」を作り出せることが期待される.量子機械学習とはそういう営みであると換言できる.他にもニューラルネットワークでなされる誤差逆伝播法から始まる勾配法による最適化を,運動方程式により駆動される系の変化と捉えれば,その運動方程式をシュレーディンガー方程式に置き換えるなどして量子力学の原理を導入することも考えられる.これも量子機械学習の一つのあり方と言える.こうした自然に量子力学を取り入れようとする発想が出てきた理由は,近年注目される量子コンピュータを始めとして制御可能な量子デバイスの進展があり,実際に動作する量子デバイスを手にしているという現状にある.人類にとって,もはや量子力学は親しみをもって普段使いする対象になりつつあるのだ.
著者
Mayank Goyal Leon A. Rinkel Johanna M. Ospel
出版者
The Japanese Society for Neuroendovascular Therapy
雑誌
Journal of Neuroendovascular Therapy (ISSN:18824072)
巻号頁・発行日
pp.ra.2023-0035, (Released:2023-07-12)
参考文献数
54
被引用文献数
1

Endovascular treatment (EVT) has revolutionized the management of acute ischemic stroke (AIS), but almost half of patients undergoing EVT do not achieve a good outcome. Adjunctive therapies have been proposed to improve the outcomes of EVT in AIS. This review aims to summarize the current evidence on the use of adjunctive therapies in EVT for AIS, including antithrombotic agents, intra-arterial thrombolytics, cerebroprotective agents, normobaric oxygen, and hypothermia. Several adjunctive therapies have shown promise in improving the outcomes of EVT in AIS, but phase 3 clinical trials are needed to establish clinical efficacy. We summarize the advantages and disadvantages of adjunctive EVT treatments and outline the challenges that each of these therapies will face before being adopted in clinical practice.
著者
高田 亨 中村 仁 鈴木 勝
出版者
電気通信大学
雑誌
電気通信大学紀要 (ISSN:09150935)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.167-172, 2010-02-15

The report management system was introduced into the Physics Laboratory class in the first-year curriculum. This class is a compulsory subject, and plays an important role in the education of our university. However, the management of students’ reports puts a heavy load on staff, associated with the lack of experience on experiment. We developed a new management system in order to reduce the load of report management. This system also enables us to grasp the status of students’ activities for the Physics Laboratory class in real time.
著者
中村 香子
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.92, pp.69-81, 2017-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
22

本稿は,アフリカにおける民族文化観光においてもっとも長期的に有力な「商品」でありつづけている「マサイ」をとりあげ,彼らが住民主体でおこなう観光業の実態を検証することを目的とする。前半部では,民族文化観光の現場で何がどのように観光資源化されており,それによってどの程度の収益がもたらされているのかを明らかにし,そのうえで,観光業の経済基盤としての脆弱性を指摘する。人びとが「最少努力・最少投資」の姿勢で観光業に対峙していることをふまえて,後半部では,人びとが新たに民族文化観光の資源として利用しようとしているものを分析する。そのひとつは女性の「苦境」であり,もうひとつは子供の「苦境」である。いずれも国際社会による開発支援の定番のイメージであり,観光客が無意識に求めているもうひとつのステレオタイプ─「かわいそうなアフリカ」に合致するものである。「伝統」と「未開」を「光」としてみせ,「苦境」を「影」として聞かせながら,人びとは,観光客から新たな支援を呼び込む場として民族文化観光村を活用しているのである。