著者
村越 真 満下 健太 小山 真人
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.1-16, 2020-12-31 (Released:2022-04-19)
参考文献数
51

This study examined whether students can recognize the risk of natural hazards using topographic or hazard maps, and whether recognition accuracy improves by learning about the relationships between topographic features and hazards from the viewpoint of map literacy. An experiment was conducted with 37 student participants and 3 natural hazard experts. Risk evaluation of sediment-related hazards for 6 sites and floods for 5 sites was required with 7-point scale, both with topographic maps and with hazard maps. The selected sites were either high risk with the risks displayed, high risk without the risks displayed, or low risk, and the participants were randomly assigned either to the experimental group or the control group. The experimental group participants learned about the relationships between topographic features and the risk of natural hazards for 10 minutes, and the control group participants learned about the risk of natural hazards without mention of the relationships. Risk evaluations for the 11 sites were required twice, before and after the learning sessions. As a result, participants were able to evaluate the risk of natural hazards to some extent even with topographic maps, but there were also some sites where they could recognize risks first by using hazard maps. Evaluated risks for many sites declined when the hazard risk was higher but not displayed on the hazard maps, while the experts maintained risk evaluations for such sites. Free descriptions explaining the evaluations revealed that the experimental group acquired knowledge of the relationships between topographic features and risk of natural hazards from the learning sessions, but it did not appear to affect their evaluations of risk. Based on the results, it was argued that autonomous judgments of the risk of natural hazards required knowledge of the relationships between topographic features and risky area of natural hazards as well as the reasons for the relationships and topographic features that should be paid attention to. Theoretical and practical implications for map literacy were also discussed.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2018-07-20

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.
著者
林 修一郎
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.335-345, 2022-10-31 (Released:2022-11-18)
参考文献数
7

新型コロナウイルス感染症の流行を受けて,これまでにないスピードで新型コロナワクチンの開発が行われ,前例のない規模で接種が進められた.新型コロナワクチンの接種事業は,大別すると科学,実務,政策の 3 分野にわたる様々な取り組みの集大成である.まず,科学の分野として,ワクチン開発と審査・承認や,副反応の評価などがあり,ワクチン接種が可能となるためには,有効性とともに安全性を検証・評価することが大前提であった.次に,ワクチン接種には,ワクチン確保・供給・流通から,接種体制の構築に至る,実務的な取り組みのウエイトが非常に大きい.体制の整備には長いリードタイムを要するため,先の見通しを持って準備を進めることが必要であった.これらを基礎とした上で,接種に関する政策が進められた.接種の法的枠組みの整備や接種に関する判断が行われた.更に,接種には,最終的に,国民に理解を得て接種行動をとっていただくことが不可欠であり,広報やリスクコミュニケーションを適切に行うことは極めて重要であった.本稿では,新型コロナワクチンの接種事業の実施に至るまでに,こうした多分野で行われた取り組みの全体像について,具体的な動きを含めて解説する.
著者
竹村 英二 伊東 貴之 江藤 裕之 Kornicki Peter Francis Elman Benjamin A. Tortarolo Edoardo Domanska Ewa Guthenke Constanze Grafton Anthony Pollock Sheldon Collcutt Martin C. Tankha Brij Mohan 佐藤 正幸 大川 真 尾崎 順一郎
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本科研研究では、(1) 18~19世紀日本の儒学世界において発展した実証主義的学問の解明、(2) その清代考証学との比較検討と日中間の学問特性の相違点の考察、(3) 日本考証学と西欧のフィロロギーとの比較研究が目指され、これらを、分野の異なる研究者との共同研究、海外の研究者との国際研究連携をもってすすめ、下記「研究成果」に列挙したごとくの成果が産出された。またその過程では、ヨーロッパ日本研究協会(EAJS、欧州最大の日本研究学会)を含めた主要な国際学会での研究発表、英ケンブリッジ大学に於ける国際研究集会の開催も実施され、これらを通じ、高い水準の日本思想史研究の海外への発信にも寄与した。
著者
瓜巣 由紀子
出版者
浦和大学・浦和大学短期大学部
雑誌
浦和論叢 (ISSN:0915132X)
巻号頁・発行日
no.53, pp.21-48, 2015-08

わが国では、社会的養護を必要とする児童が増加している。しかしながら、社会的養護の施設の区分には、障害児でありかつ被虐待児である児童が利用する施設である障害児入所施設が含まれていない。障害児でありかつ被虐待児の児童については、児童福祉法に規定される同じ「児童」でありながら、施策の適用の違い、児童福祉施策の対象あるいは障害児施策の対象となるのかにより、施設への入所制度に矛盾があるのが現状である。 そこで本論文では、児童福祉施策と障害児施策の視点から社会的養護の現状と課題について考察した。その考察からわが国の社会的養護は被虐待児をその主たる対象とし、障害児であり被虐待児についての視点は乏しいものであるという知見を得た。この社会的養護の課題解決のため、わが国の「すべての児童」を対象とした政策立案を形成するシステムの構築について提言した。
著者
吉田 英嗣 須貝 俊彦 坂口 一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.649-660, 2005-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

岩屑なだれをはじめとする大規模土砂供給イベントが,流域の長期的な地形発達に与える影響を評価する事例研究として,約2.4万年前に浅間火山で発生した大規模山体崩壊に由来する前橋泥流が達した利根川・吾妻川合流点付近を対象とし,河川地形発達史を考察した.本地域では最終氷期初頭以降,泥流流下時までの間,気候変動に対応した段丘発達過程がみられた.本地域に達した泥流は,5~6万年前までに段丘化した段丘面に衝突し,段丘面を覆うローム層を削剥しながら,これをのりこえていった.他方,利根川を遡上し,堆積した泥流堆積物は,速やかに河川に侵食されていった.最終氷期最盛期前後には,泥流堆積物が再堆積するなどして,下流側において小規模な谷埋めが生じ,晩氷期には側刻が卓越し,完新世に入ってから下刻が始まった.最終氷期最盛期以降の利根川本流の河床変動は,泥流イベントの影響を残しつつも,再び広域的な気候変動に対応してきたと考えられる.
著者
佐倉 統 福士 珠美
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.18-27, 2007-09-20 (Released:2017-04-27)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近年、脳神経科学における高次脳機能画像の研究や脳-機械インターフェイス(BMI,BCI)などが普及することにより、極端に言えば「誰でも脳を研究できる」ようになった。その結果、非医療系研究者のおこなう実験において、脳に器質的な疾患が偶発的に発見される可能性が高まっている。医療行為に従事する資格を持たない研究者が直面するかもしれないそのような事態に備えて、非医療系基礎研究に関する倫理体制の整備が必要である。また、脳の情報はゲノム情報やその他の生理学的情報に比べると、一個人の精神活動に直接関係する度合いが高いという特徴をもつ。すなわち、社会においては脳といえば意識や自我、人格などと密接な関係にあるものとして位置づけられている。しかしこれらのトピックについて、そのような社会からのニーズに明解に応えるほどには科学的な解明は進んでいない。このような科学と社会の「はざま」に付け込むようにして、科学的に不正確な一般向け通俗脳科学書が氾濫している。マスメディアと科学の関係も含め、科学と社会の接点領域をデザインする展望が必要である。また、これらの諸課題に適切に対応するためには、省庁や学会の縦割り構造を超えて横断的に対応できる組織と指針の整備が必要である。
著者
Tomoe Nasuno Masuo Nakano Hiroyuki Murakami Kazuyoshi Kikuchi Yohei Yamada
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.88-95, 2022 (Released:2022-05-13)
参考文献数
38
被引用文献数
3

In this study, we explored the impacts of midlatitude western North Pacific (WNP) sea surface temperature (SST) on tropical cyclone (TC) activity at intraseasonal to seasonal time scales during the 2018 boreal summer. During this period, a positive SST anomaly occurred in the midlatitude WNP and subtropical central Pacific; TC activity was abnormally high under the influence of the strong Asian summer monsoon. We performed sensitivity experiments using a global cloud system-resolving model for global SST (control, CTL) and SST that were regionally restored according to midlatitude WNP climatology (MWNPCLM). TC track density in the eastern WNP was higher in CTL than in MWNPCLM, in association with large-scale atmospheric responses; enhanced monsoon westerlies in the subtropical WNP, moist rising (dry subsiding) tendencies, and reduced (enhanced) vertical wind shear in the eastern (western) WNP. Enhanced TC activity in the eastern WNP was more distinct for intense TCs and during the active phase of intraseasonal oscillation (ISO). These results suggest that the impacts of midlatitude SST anomalies can reach lower latitudes to affect TC activity via large-scale atmospheric responses and ISO, which are usually overwhelmed by the impacts of SST anomalies in the tropics and subtropics.
著者
森本 ゆり 宮本 浩徳 古瀬 充宏
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.91-97, 2006-10-10 (Released:2012-09-24)
参考文献数
4

ドワーフハムスターであるジャンガリアンハムスターとロボロフスキーハムスターにおいて,食の嗜好性に違いがあるか否かについて調査した。まず,飼料の色に対する嗜好性を調べたところ,ジャンガリアンハムスターは緑色の飼料を好んで摂食した。次に,実験動物用ペレット,ニポシ,ヒマワリの種およびカボチャの4種類に対する選択摂取テストを行った。その結果,カボチャを摂取する割合が最も高かった。また,ほとんど摂食しなかったニポシに対して,嗜好性が高かったカボチャの風味に対する反応テストも行った。結果として,嗜好性が低い食物であっても,好んで摂食するものの風味付けにより摂食量が増加することが示唆された。さらに,水分を多く含むキュウリとキャベツならびに水分の少ないヒマワリの種とクルミの4種類に対する選択摂取テストを行った。どちらのハムスターも水分含量が多い食物を多くの割合で摂食し,その割合はジャンガリアンハムスターがロボロフスキーハムスターに対して高かった。しかし,水分含量ばかりでなく食物自体に対する嗜好性も選択に関与しているかもしれない。