著者
佐見 学
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.90, no.7, pp.536-541, 1995-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
10

従来, 酵母の活性を測定する場合, 工場などでは簡便な方法としてメチレンブルー染色法が広く用いられてきた。測定の際, 微酸性の緩衝液を使用しているが, 筆者の研究ではアルカリ性のそれが優れており, その機構を分かりやすく解説していただいた。醸造工業の現場で容易に採用できる方法と考える。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1259, pp.56-59, 2004-09-20

「おはようございます」——8月下旬の平日、東京都渋谷区にあるドラッグストア「くすりのセイジョー代々木八幡店」にライオンの営業員、大久保千秋さんが現れた。すぐに取りかかったのは、目薬関連の商品が並ぶ売り場でライオン製品の陳列スペースを広げること。店長の了解を得、目立つ位置にあった他社製品を外し、ライオンの目薬「スマイル」などを並べていく。
著者
坂本 浩幸 赤木 洋介 山田 一夫 舘 幸男 福田 大祐 石松 宏一 松田 樹也 齋藤 希 上村 実也 浪平 隆男 重石 光弘
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.57-66, 2018 (Released:2018-05-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Concrete debris contaminated with radioactive cesium and other nuclides has been generated by the accident in the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant. Moreover, there is concern that a large amount of radioactive concrete waste will be generated by the decommissioning of nuclear power plants in the future. Although conventional techniques are effective in decontaminating concrete with flat surfaces such as floors and walls, it is not clear what techniques to apply for decontaminating radioactive concrete debris. In this study, focusing on a pulsed power discharge technique, fundamental experimental work was carried out and the applicability of the technique to decontaminating radioactive concrete debris associated with the accident in the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant was evaluated. The decontamination of concrete by applying the aggregate recycling technique using the pulsed power discharge technique was evaluated by measuring the radioactivity concentration of the divided aggregate and sludge from the contaminated concrete using a Ge-semiconductor detector. It indicated a reduction of the radioactivity concentration in the recovered aggregate and an increase in the radioactivity concentration in the sludge. These findings suggest that the division of the contaminated concrete debris into aggregate and sludge could result in the decontamination and reuse of the aggregate, which would reduce the amount of contaminated concrete debris.
著者
今井 大輔 大田 秀樹 松本 佳之 井口 洋平 巽 政人 柴田 達也 眞田 京一 木田 浩隆 竹光 義治
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.210-214, 2020

<p>骨粗鬆症性椎体圧潰後偽関節と診断しBKP施行したが疼痛改善せず,最終的に結核性脊椎炎であった一例を経験した.症例は83歳,女性.重いものを抱えて腰痛出現.近医入院加療したが改善せず当院受診.当院にてL1破裂骨折偽関節と診断しBKPを行った.しかし症状は改善せず,術後一か月目のMRIにてL1周囲腸腰筋に膿瘍が疑われた.術後感染の診断で前方除圧固定と後方PPSを行った.多量の膿が排出されたが,培養にて結核菌が同定された.術後は骨癒合も得られ疼痛は改善した.一般的に結核性脊椎炎は膿瘍形成が強く通常の骨折とは鑑別は容易である.術後に膿瘍形成が認められ,術後感染と紛らわしかったが,結果的には結核性脊椎炎であった.反省点として術前のCRPも1.29であったことである.CRPの異常値を重要視し精査するべきであった.骨粗鬆性椎体圧潰後の偽関節には感染も紛れているので術前の安易な診断には注意が必要である.</p>
著者
斎藤 徳美 山本 英和 佐野 剛 土井 宣夫
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.59-74, 2003-05-30
被引用文献数
1

岩手山では,火山性地震の頻発や表面現象の活発化に伴い, 1998年7月1日以降人山の規制が行われた。その後,噴火は発生していないものの,沈静化にも至らない状況で経過した。この間,経済環境の悪化が背景にあるものの,風評被害による観先客の落ち込みなど,地域経済への影響も考慮せざるを得ない状況となった。そのため,噴火の可能性が否定しきれないなかで,火山活動の監視や登山者の安全確保体制の整備をもとに,山頂まで入山規制の緩和を図るという,わが国では例のない「火山との共生」の試みが模索された。火山活動の監視や検討体制を整備し,研究者,防災関連機関,報道機関が連携する「減災の正四面体構造」(岡田・宇井, 1997) の実践のなかで,規制緩和のために必要かつ実効可能な安全対策の検討が行われた。そして,関係機関の連帯責任と連携を背景に,「気象台からの火山情報の適切な発表」,「登山者への緊急連絡システムの整備」,「自己責任の登山者への啓発」を三本柱とする安全対策が構築され. 2001年7月1日から10月8日まで岩手山東側登山道での入山規制の一時緩和が実施された。安全確保のためには,活動が活発化した火山には近づかないことが最善である。しかし,火山が有力な観光や地域振興の源である以上,有効な安全対策を構築し,地域社会と共生する取り組みが求められる。火山活動次第で規制や緩和を繰り返すいわば受け身の姿勢から,監視,評価,対策などの充実を図り,積極的な安全確保の対応に基づき入山を認めるといった岩手山での取り組みは,噴火周期の長い我が国の多くの火山にとって,先駆的な指針となりうると考えられる。本論文では,岩手山の入山規制の緩和に向けての登山者の安全対策の理念と具体的対策および今後の課題について論じることとする。
著者
宮地 功 岸 誠一 小孫 康平
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.33-44, 1994-01-31 (Released:2017-06-06)
参考文献数
7

人間関係を育成する上で,ソシオメトリーは貴重な資料を提供できる.この技法を有効に機能させ,テストの信頼性と妥当性を高めるために,構成員全員を対象にした間隔尺度データに基づくソシオメトリックテスト法を提案する.この方式によって得られる指標を提案する.このテスト法によって得られるデータを処理加工し,分析結果を図表化するシステムを開発した.従来得られていた図表に重みを含めて,選択と排斥データ表,選択と排斥関係表,被選択児童とその理由リスト,被選択の理由と度数,被排斥児童とその理由リスト,被排斥の理由と度数,相互選択児童とその理由リスト,相互排斥児童とその理由リスト,矛盾選択関係の児童とその理由リストが得られる.また,提案した方法の特徴である重みを考慮した重み付き選択と排斥関係表,個人の友達関係図,選好度表,学級の友達関係図,友達関係伝播図のような従来得られなかった情報が得られる.この間隔尺度法を実際に活用した結果,利用した教師からかなり有効でわかりやすい加工情報が提供されるという良好な評価が得られた.
著者
池辺 幸正 任 天山 王 作元 永峰 康一郎 飯田 孝夫 WANG Zuoyuan
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

中国・日本を含むアジア地域における大気中トリチウム動態の解明に資するために、中国で実施されている環境トリチウムの全国組織による調査の機会に合わせて、中国における水蒸気中トリチウムの全国規模調査を実施した。1.測定法水蒸気のサンプリングにはモレキュラーシ-ブスを用いた。従来用いられてきたポンプを用いて捕集するactive法のほか、新たに開発した動力を用いないpassive法による捕集を行った。これは、アクリル製容器にモレキュラーシ-ブスを入れ、ふたに設けたフィルターを通して自然換気により一定速度で空気中水蒸気の捕集を行うものである。モレキュラーシ-ブスに吸着した水蒸気を加熱により水として回収するための装置を作成し、北京の衛生部工業衛生実験所に設置した。回収した水の蒸留および液体シンチレーションカウンター(Aloka LB-1)を用いた放射能計数は北京で行われた。上記の予備実験として、passive法とactive法による同時採取サンプルの放射能測定値の比較および同一水試料の中国側と日本側でのトリチウム濃度測定値の比較を行い、それぞれほぼ良好な一致を見た。passive法に用いた容器の気密性が完全でなく、月単位の期間では外気中の水蒸気の混入が問題となることが判明したため、サンプリング前後の容器は常に鉄製の密閉容器に保管した。2.passive法による地域分布の測定東アジア地域の水蒸気中トリチウムの地域分布をみるため、passive法によるサンプリングを二ヶ月毎くり返し実施した。採集期間は1992年6月から1993年9月までの16か月間(8回)、採集地点は中国全域にわたる13市(ハルピン、長春、北京、蘭州、武漢、西安、上海、杭州、福州、成都、深〓、ウルムチ、ラサ)および日本の5市(札幌、仙台、名古屋、熊本、那覇)である。得られた測定値の誤差についての最終的評価には至っていないが、測定の結果は以下の通りである。(1)中国・日本を含む東アジア地域の水蒸気中トリチウムの大略の地域分布が二ヶ月毎に得られた。また年平均値の地域分布を得た。(2)濃度レベルはウルムチと蘭州が最も高く、年平均濃度は約15Bq/lである。次に高いグループは、ハルピン、長春、北京、西安、ラサ(8〜11Bq/l)であり、武漢、成都がこれに次ぐ。沿岸部(杭州、福州、深〓)は数Bq/lで低濃度であり、日本の5地点は1〜2Bq/lで最も低いグループに属する。(3)地域分布には内陸効果および緯度効果が認められる。また過去の核実験の影響も検討すべき要素と思われる。(4)全体的に、濃度は秋、冬に高く、春、夏に低い傾向が認められる。(5)水蒸気中トリチウム濃度は、降水中濃度の推測値よりも高いレベルである。3.active法による日々変動の測定濃度の日々変動を見るため、active法によるサンプリングを地理的に特徴のある北京、蘭州、福州の3地点で実施した。サンプリングは春夏秋冬の各季節毎に10日間づつ、2日毎に実施した。北京では1992年9月の訪中時にもサンプリングを行い、水の回収および放射能測定を日本で行った。北京の9月、秋および冬のデータについては、2層流跡線モデルによる計算値との比較を行った。9月と秋のデータに関しては、測定値と計算値の濃度レベルはかなり近い値を示したが、1月の測定値は計算値の約3倍であり、今後に問題を残した。モデル計算においては、地表水のトリチウム濃度分布を過去の中国の文献値等から推測して発生源分布(蒸発による)として与えているが、今回の中国側の全国規模調査によって現在の発生源分布が測定によって得られるものと期待される。この研究で得られたデータと中国側が得ているデータに基づいて、今後トリチウムの広域環境動態の解析が進むものと期待される。
著者
長谷 一矢 横田 弘 佐藤 靖彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造) (ISSN:21856567)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.270-282, 2020 (Released:2020-10-20)
参考文献数
17
被引用文献数
1

日本の最北端にある稚内港には,古代ギリシャ建築を彷彿させる北防波堤ドームがある.1936年に竣工したドームは,1981年の全面改修を経て,現在,再び劣化が顕在化してきた.ドームは構造が特殊で点検診断範囲が広大であり,対策の検討においては,部材性能の評価や補修範囲の決定方法が課題となった.そこで,広大な点検診断領域を格子状のエリアに細分化し,変状に基づき設定した5段階の劣化度で格付けした「劣化度マップ」を考案した.劣化度マップの活用により,広域変状の定量的な把握,鉄筋腐食状況の把握,エリア単位の合理的な予防保全のための補修が可能となる.本論文は,北防波堤ドームの維持管理をとおして,多面的な観点から作成する劣化度マップの考え方を整理し,劣化度マップに基づく補修判定の有効性を考察するものである.
著者
佐々木 直美
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-7, 2019-03-29

本研究は、配偶子提供を受けて生まれた子どもに対して、親が出自を伝えるか否かの意思決定に関連する心理的要因について大学生を対象として調査したものである。データは自由記述によって収集し、内容分析を行った。その結果、積極的に伝えようとする理由には、「真実を子どもが知ることによる親子関係の崩れに対する懸念」があり、伝えるつもりがない、あるいは子どもが知りたいと願った場合にのみ伝えるという人々は、「真実を知りたいという子ども自身の意思にゆだねたい思い」があった。本結果と先行研究から、子どもへのテリングに関して親が先送りしたい、あるいはためらいがあるかもしれないことを支援者は理解しておくことが必要である。また、提供を考える段階から子育ての全期にわたって、支援者が受容的な態度で、ニーズに応じた相談をいつでも受けられるようなシステムを作ることが望まれる。
著者
木原 香織 平山 寿雄 広井 正彦
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1025-1032, 1999-11-01
参考文献数
14

ハムスター卵という異種の雌性配偶子を用いて,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection;ICSI)を施行することで,人為的配偶子操作が精子染色体に及ぼす影響の検討,並びに重度男性不妊症における精子染色体の解析を,本学の倫理規定にのっとり,精子提供並びに染色体分析の承諾を得た後,行った.ICSI法とSPA(sperm penetration assay)法を用いた正常男性における精子染色体の異常発現率を検討すると,ICSI法において染色体異常は6.7%,SPA法においては6.9%と差を認めなかった.Percoll法,swim up法といった精子調整法の精子染色体への影響を検討すると,Percoll使用群においては,ICSI法では6.9%,SPA法では6.3%に染色体異常が観察されたのに対し,swim up群においては,それぞれ8.3%,6.7%で,精子調整法の違いによる精子染色体異常の発生率に有意な差は認められなかった.精子前培養法のTEST-yolk buffer(TYB)による保存時間が精子染色体に及ぼす影響を検討すると,ICSI法,SPA法とも24&sim;35時間に対し,60&sim;72時間の保存では有意に染色体の構造的異常の増加が認められ,TYBにての低温長期保存においては,慎重な配慮が必要であると考えられた.男性不妊症患者12名において,精子濃度と精子染色体異常との関係をみると,精子濃度10&sim;20×10^6/ml,1&sim;10×10^6/ml,0&sim;1×10^6/mlの3群における染色体異常の発生率はそれぞれ9.5%,7.9%,10.7%で有意な差は認められず,運動,形態とも正常な精子を選択使用する限りにおいては,受精した精子には数的,構造的染色体異常は正常群と比較して差がなく,ICSI法により受精が可能となった場合,正常妊娠に導く可能性が十分にあることが示唆された.
著者
笠井 健吉 杉本 正仁 豊田 裕
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.885-890, 1979
被引用文献数
1

体外受精卵の移植によって得られた雌および雄マウスの繁殖能力について検討した.PMSG及びhCG(各5iu)を投与して過排卵を誘起したF<sub>1</sub>(C3H/He&times;C57BL/6J-at/at)成熟雌マウスを卵子提供雌とし,一方,精子提供雄としては,JCL:ICR系成熟雄マウスを用いて体外受精を行った.授精後6時間に第2極体放出の有無で判定した受精率は,80.9%(418/517)であった.培養した受精卵405個のうち受精後24時間で2細胞,48時間で4-8細胞及び~2時間で桑実胚あるいは初期胚盤胞へ発生したものはそれぞれ,99.8%,97.5%,及び97.0%であった.体外培養によって得られた桑実胚及び初期胚盤胞245個を21匹の偽妊娠雌マウスの子宮へ移植した結果,雄29匹及び雌23匹の合計52匹の新生子が得られた.生後3週で離乳した後に,7匹の雌とその同腹子の雄を選び2~3か月齢できようだい交配を行った.7匹の雌マウスのすべてが妊娠し,雄37匹及び雌41匹の健康な新生子が得られた.外形異常は認められず,3週齢での雄,雌の平均体重はそれぞれ,12.2&plusmn;2.7g及び12.3&plusmn;1.7g(Mean&plusmn;S.D.)で対照区と差のない成績であった.本研究の結果から,体外受精卵の移植によって得られた子の成熟後の交配,妊娠,分娩及び哺乳に関する一連の繁殖能力は正常であることが明らかにされた.
著者
内潟 安子 折笠 秀樹 坂巻 弘之 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.743-750, 1999-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
10

糖尿病における糖尿病性合併症と医療費との関係を検討するために, 東京女子医科大学糖尿病センターにおいて治療を受けている糖尿病患者81例 (再来全患者総数の8%) の過去11ヵ月の1通院当たりの平均医療費を分析した.調査対象となった全患者1回通院当たりの医療費は4, 526±5, 669点 (平均±標準偏差) であった. 糖尿病性合併症の有無別では, 神経障害網膜症, 腎症および足病変のいずれについても合併症を有する群で費用が有意に高かった. 治療中断の医療費に対する影響を分析した結果, 治療中断のあった群では, 合併症発現の割合が高く, 医療費についても高い傾向が認められた. 今後, 糖尿病医療費に影響を与える要因の精査のために広範な前向きコホート研究が必要と考えられた.
著者
小門 穂 Minori KOKADO
出版者
神戸女学院大学女性学インスティチュート
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
no.30, pp.21-41, 2016-03

本論文では、フランス生命倫理法を対象とし、生殖補助医療の実施に際して、配偶子(精子・卵子)の提供者はどのような基準に従って、どのように選ばれているのかを検討する。配偶子提供の制度という「見える文化」から、フランス社会における配偶子提供者のいちづけという「見えない文化」を明らかにすることを目指す。フランスでは、産婦人科のある大学病院や公立病院に併設されているCECOS ( Centre d' Etudes de Conservation des OEufs et du Sperme : 卵子精子研究保管センター)が提供配偶子を提供者から受け入れ、保管、利用のための受け渡しを行っている。精子提供は、CECOS設立以降、CECOSの精子取り扱い基準、つづいて、1994年からは生命倫理法に基づいて設けられた配偶子の提供者に関する基準にしたがって実施される。提供者は、感染症の検査や家族歴と病歴の聴取に医学的な問題が発見されず、生殖の経験があり(実子がおり)、書面による同意を行った者である。生殖能力を損なう医療処置を受ける予定があり、後の自己の利用を目的として配偶子や生殖組織を保存する者は、生殖の経験がなくとも、保存する配偶子の一部を提供することができるようになった。SECOSの精子取り扱い基準やこれを踏襲した1994年の生命倫理法が規定していた要件ー提供者がカップルの一員であること、生殖の経験が必須であることーは、2004年と2011年の生命倫理法改正の際に提供者不足の解消を目的として緩和されてきた。提供者を、受領者からの要望はなく、議論もなされていない。提供者の要件の緩和から、提供者を確保するために、提供者の「非人間化」(南 2010)がゆるやかに進んできたことをみてとることができる。