著者
武藤 学
出版者
JIBI TO RINSHO KAI
雑誌
耳鼻と臨床
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.S61-S66, 2005

中・下咽頭癌の多くは嚥下障害などの自覚症状を伴って進行した癌で発見され、侵襲の大きな治療が余儀なくされてきた。われわれは、食道癌と頭頸部癌が重複するfield cancerization現象のメカニズムをアルコール代謝酵素の遺伝子多型の面から解析し、アルコールの第一代謝産物であるアセトアルデヒドの慢性的な蓄積が究極の原因である可能性を突き止めた。さらに、新しい内視鏡技術: narrow band imaging (NBI) を応用することで、これまで発見が困難であった中・下咽頭の表在癌の早期発見が可能であることを明らかにした。今後、中・下咽頭癌のハイリスク群がさらに絞り込まれ、これらの癌がいわゆる表在癌の段階で発見されて予後が改善されるばかりでなく、病気の進行や侵襲の大きな外科手術で発声や嚥下の機能障害が余儀なくされ日常生活で苦しむ患者が減少することを期待する。
著者
芹沢 浩 雨宮 隆 伊藤 公紀
出版者
横浜国立大学
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-14, 2010

湖沼生態系におけるアオコの異常発生現象には次のような特徴が見られる.(1)アオコをもたらす究極の原因である湖の富栄養化は10年,20年の歳月をかけて徐々に進行するが,異常発生はある年を境に,突然,勃発する(突然の出現).(2)アオコの主成分であるミクロキスティスなどの藍藻類は冬から春にかけて湖底で越冬し,夏の訪れとともに湖面に上昇して「水の華」と呼ばれる異常発生現象を引き起こす(年周期の垂直上下運動).(3)夏季の異常発生期間でもこれらの藍藻類は,午前中,水面に出て光合成を行い,午後になると水中に沈んで栄養分を吸収する(日周期の垂直上下運動).本論文ではタイムスケールの異なるこれら3つの特徴を的確に説明するために,栄養塩と藍藻類から成る2つの2変数数理モデル(常微分系の基本モデルと偏微分系の垂直上下運動モデル)を作成する.そして,これらのモデルを用いて,神奈川県の『県営水道の水質』に記録された相模湖と津久井湖におけるアオコの異常発生現象を解析する.本論文の解析によれば,相模湖・津久井湖水系は1970年代前半に澄んだ状態から濁った状態にレジームシフトし,以後,現在まで濁った状態,すなわち夏季のアオコ異常発生が恒常化した状態が継続している.またアオコの発生量,発生パターンに関する年ごとの変動には日照量,水温,栄養塩濃度といった生態学的,生理学的要因とともに,台風の襲来,ダムの放流といった自然,人為による偶発的要因も深く関与していると考えられる. Algal blooms in lake ecosystems are characterized by the following features. (1) Algal blooms break out abruptly at a certain time, although eutrophication, the ultimate cause of algal blooms, proceeds gradually over decades (abrupt outbreak of the phenomena). (2) Cyanobacteria such as Microcystis, the main component of algal blooms, overwinter at the bottom of the lake during the winter season, rising up to the water surface with the coming of summer (annual vertical migration). (3) During the summer season, cyanobacteria repeat vertical movement for photosynthesis at the surface from the midnight to the morning and for nutrient uptake at subsurface layers from the afternoon to the early evening (diurnal vertical migration). In this paper, we present two mutually correlated mathematical models, a fundamental model described by ordinary differential equations and a vertical migration model described by partial differential equations, both of which consist of nutrients and cyanobacteria. These models can properly explain the above-mentioned phenomena that differ in time scales. Then, we apply these aquatic models to the algal blooms in Lake Sagami and Lake Tsukui, referring to "Quality of prefectural tap water" published by Kanagawa Prefecture. According to our analyses, the aquatic system of these lakes has undergone the regime shift from the clear-water state to the turbid-water state at the beginning of the 1970s, with the turbid-water state continuing until now. In both lakes, the abundance of cyanobacteria and the seasonal algal blooming pattern differ considerably depending on years, indicating the significant influence of accidental factors of the natural and the anthropogenic origins such as the advent of typhoon and the water discharge from the dam as well as the ecological and the physiological factors such as the light intensity, the water temperature and the nutrient concentration.
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンピュ-タ (ISSN:02854619)
巻号頁・発行日
no.491, pp.181-183, 2000-03-13

「単純なミスが原因だった。本当に情けない」。KDDの田中孝司情報システム部担当部長は,こう言ってがっくりと肩を落とした。田中担当部長が落胆するのも無理はない。いく多の困難を乗り越え,1999年10月にやっとの思いで稼働にこぎ着けたばかりの新基幹系システム「統合KISS」で,電話料金の"誤請求"というトラブルが発生したからである。
著者
山﨑 雄大 常松 展充 横山 仁 梅木 清 本條 毅
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.30(第30回環境情報科学学術研究論文発表会)
巻号頁・発行日
pp.43-48, 2016 (Released:2016-11-28)
参考文献数
10

本研究では2020年の東京五輪のマラソンコースを例に,その温熱環境を把握することを目的として,MRT(平均放射温度)とWBGT(湿球黒球温度)の計算事例を示した。その結果,猛暑日である2015年8月7日の事例では,9時~18時でコース上のすべての地点でWBGTが熱中症の「厳重警戒レベル」とされる28℃以上となった。またコース上にできる影によってWBGTが低下するため, 日陰を選んでコース取りをすることにより,ランナーが体感するWBGTを低く抑えられる可能性が示唆された。
著者
古森 健吾 戸井 武司
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.84, no.862, pp.18-00103, 2018 (Released:2018-06-25)
参考文献数
8

Numerical simulations, such as the finite element method have been widely used to predict noise and vibration behavior. This allows reducing the development time and production cost of products. However, these results have been calculated based on the governing equations at each physical areas as the idealized conditions. Then, these simulations are not taken into account the fluctuation of response characteristic by the uncertainties of noise factors. Therefore, it is important to restrain the fluctuation of products properties by the uncertainties. In this paper, focusing on the transient analysis, we propose a robust design for minimizing the time history amplitude fluctuation by structure uncertainties. The robust design is implemented based on the combined use of the stochastic finite element method and the structural optimization. Since this method is performed by minimizing the 1st sensitivity, we will formulate the 1st and 2nd sensitivity in the time domain. Then, the proposed method is validated by applying it to the simple mass-damper-spring system whether the fluctuation of the time history response amplitude is restrained.
著者
池田 康弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌
巻号頁・発行日
vol.2017, no.636, pp.636_25-636_43, 2017

本論文は,弁護士費用保険をめぐる潜在的被害者(依頼者,被保険者),弁護士,保険者の各当事者の利得構造とインセンティヴ,および当事者間の情報の非対称性に着目し,民事紛争への保険利用の問題と課題を経済分析によって明らかにする。<br />本論文の考察の内容と主な結論は次のとおりである。まず,保険料が保険数理的に公正であれば,弁護士費用保険に加入未加入のどちらにせよ,依頼者の期待利得は同じとなり,弁護士探索の費用がかからない分だけ被保険者の期待利得が高くなる。次に,成果報酬の弁護士報酬は,弁護士のモラルハザードを阻止できるが,契約の不完備性から生じる被保険者と弁護士の暗黙の結託による弁護士費用の過大請求がもたらされ,他方,固定報酬の場合は,弁護士のモラルハザードを回避できないが,社会的に正の外部性をもつ事件にも対処できる可能性がある。さらに,弁護士費用保険は経済的利益をめぐる原告弁護士と被告弁護士間の暗黙の結託の余地を与え,弁護士費用の過大請求を許してしまう可能性をもつ。最後に,依頼者保護基金の制度設計は良質な弁護士を確保するための装置となりうる。保険制度設計者は上記の事柄を認識する必要がある。
著者
久保田 尚之 小坂 優 謝 尚平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<br><br><b>1.&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; </b><b>はじめに</b><b></b><br><br>夏季西部北太平洋域での代表的な気圧配置パターンとして、フィリピン海と日本付近の気圧偏差が逆相関の関係で年々変動するPJ (Pacific-Japan)パターンが知られている(Nitta 1987, Kosaka and Nakamura 2010)。これは、日本の猛暑・冷夏と関連して、東アジア太平洋域の夏の天候を広く特徴づける気圧配置パターンである。本研究では、PJパターンを地上データから定義することで1897-2013年のPJパターンを再現し、夏期西部北太平洋域のモンスーン活動の数十年変調を調べた。<br><br><b>2</b><b>.</b><b> </b><b> </b><b>データと解析手法</b><b></b><br><br>夏期(6-8月平均)の高度850hPaの渦度(10-55&deg;N、100-160&deg;E)の主成分解析(1979-2009年のJRA55データ)で得られた第1モードと海面気圧との相関を図1に示す。PJパターンに対応したフィリピン海と日本付近の逆相関が顕著な2地点(横浜と恒春)を選び、6-8月平均の気圧差(横浜-恒春)をPJパターンの指標(PJ指標)と定義した。解析期間は1897-2013年。<br><br><b>3.&nbsp; </b><b>結果</b><br><br>PJ指標が正の年は日本、韓国、中国の長江流域で乾燥・猛暑となり、フィリピン海のモンスーン活動が活発で雨量が多く、沖縄や台湾を通過する台風活動も活発になる(図2)。一方で、負の年は逆に北日本の冷夏、日本のコメが不作、長江の洪水と対応する。PJ指標との関係を1897年まで遡ると、PJ指標とENSOとの相関が高いのは1970年代後半以降であることがわかる(図3)。それに対して1940年代から1970年代は不明瞭、さらに1930年代、1910年代より前は再び明瞭になる関係があり、数十年の間隔で明瞭、不明瞭の時期が繰り返されていることがわかる。日本の夏の気温、コメの収穫量、台湾や沖縄を通過する台風数とPJ指標との関係もまた、明瞭、不明瞭の時期を数十年間隔で繰り返しており、変化が一方向でないことから、変調が地球温暖化よりも気候の自然変動に伴うことを示唆している。
出版者
巻号頁・発行日
1786
著者
大山 梓
出版者
明治大学社会科学研究所
雑誌
明治大学社会科学研究所紀要 (ISSN:03895971)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.5-28, 1973-02-01

二次大戦に際しマレー半島で,ジョン・ダリー大佐が組織し,日本軍と対戦した華僑部隊の勇敢な交戦は戦史に著名である。当時の南洋華僑の人口は千五百万人と云われ,または二千五百万とか云われている。かかる南洋華僑が抗日に蹶起したのも,通説によると満洲事変以来,または支那事変以来とされている。本稿は更に溯り,南洋華僑の政治意識を,大清帝国が滅亡し,中華民国が成立した以後の大正時代を考察することにした。即ち一次大戦の日本参戦,二十一ケ条の要求,山東問題の懸案,利権回収の問題に対し,南洋華僑の動向を研究することにある。昭和時代・満洲事変・支那事変・大東亜戦争に際し,南洋各地の華僑の激烈な排日思想は,既にその萠芽が大正時代の排日と排貨,経済断交の運動にみられるからである。
著者
堤朝風 原輯
出版者
英大助
巻号頁・発行日
vol.[2], 1836
著者
薬師寺 文華
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.121-124, 2016

<p>米国ボストンにあるハーバード大学、Broad Institute of Harvard and MITのStuart L. Schreiber教授が主宰する研究室に2年間留学する機会を得た。Schreiber研究室は、現在Broad Instituteの3階にあり、大学研究室の枠を越えた大規模な研究展開を行っている。最近では、ガン細胞における遺伝子発現と低分子化合物に対する感受性との間に相関を見出すことで、化合物の作用機構を考察する計算科学的手法を発表している。Schreiber教授の研究例を含め、大規模データ解析による知見の構築が次世代創薬の流れをつくりつつある。実際にBroad InstituteはGoogle genomicsと提携し、ゲノム解析ソフトGATKをGoogleクラウドプラットフォーム上で使用できるサービスを開始しており、生物医学や創薬研究に与えるインパクトの大きさがうかがえる。Schreiber研究室への留学という好機に恵まれたことに深く感謝し、今後も幅広い研究活動を行えるよう努力を重ねていきたい。</p>
著者
大澤 類里佐 中山 知士
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.36-41, 2011-12-31 (Released:2017-11-01)

国立情報学研究所CSI委託事業「オープンアクセスとセルフ・アーカイビングに関する著作権マネジメント・プロジェクト」(SCPJ)について,その発足からの経緯を振り返り,データベース作成を中心に現在の活動について述べた上で,課題と今後の展望について報告する。

1 0 0 0 OA 炎上一件 4巻

出版者
巻号頁・発行日
vol.[4] 御本丸炎上一件 安政六年未十月 分冊ノ二,

1 0 0 0 OA 本草綱目纂疏

著者
曽槃
出版者
巻号頁・発行日
vol.巻4下,

1 0 0 0 OA 地球内部の水

著者
井上 徹
出版者
The Japan Society of High Pressure Science and Technology
雑誌
高圧力の科学と技術 (ISSN:0917639X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.124-133, 2000-05-20 (Released:2010-02-05)
参考文献数
63
被引用文献数
4 6

H2O is an important volatile material in the Earth, and it affects the physical properties (e. g. density, elastic velocity, viscosity, rheobgical property, diffusion, electrical conductivity and melting temperature) of the Earth's materials. Recently, it has been darified that significant amounts of H2O can be accommodated in β and γ phases of olivine, which means that the mantle transition zone has the potential of being a water reservoir in the Earth. In this paper, I review the H2O contents, lattice parameters and elastic properties of hydrous β and γ phases, the effect of H2O on the phase transformation of olivine, and the possibilities of water transportation into the mantle transition zone are discussed on the basis of these experimental data.
著者
本木 実 冨浦洋一 高橋 直人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.2779-2791, 2006-08-15

本論文では,記号列を入力し記号列を出力する階層型ニューラルネットの学習法を提案する.本論文で考察するモデルは,結合荷重だけでなく,各記号に対応する記号表現ベクトルも学習パラメータとする.この方式により,学習データの性質を反映した記号表現ベクトル(類似の使われ方をする記号の記号表現ベクトルが互いに近いベクトル)を学習することができ,予測能力の向上が期待できる.しかし,目的関数を平均二乗誤差とする通常のモデルでは,目的関数の値を最小にするタスクにとって無意味な解が存在し,出力ベクトルから記号の同定を行うと正解率がきわめて低いという問題がある.そこで本論文では,記号の同定を考慮した目的関数による学習法を提案する.実験により,提案モデルは,学習データの性質を反映した記号表現ベクトルの学習が可能であり,かつ高い正解率を持つことを示す.