著者
河合 大介
出版者
岡山県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

最終年度となる本年度は、1.美学的課題を美術史研究の実践に照らし合わせて検討すること、2.赤瀬川原平の〈匿名性〉への関心をより発展的に考察するために、「千円札裁判」についての研究をすすめた。これまで作者の意図についての美学的・哲学的研究から、作品解釈において想定されている作者の意図を、一般的な好意における意図とは区別して、作品解釈の場面に固有な概念として考察する必要性が予測された。その予測に従って、特に美術史研究における意図への参照について検討し、美術史研究者を中心とする研究会で研究発表をおこなった。そこでの議論を通じて、美術史研究においては、作者の意図を示す資料も他の資料と同等にその正当性を検証されるのであり、とくに「意図」を特権的に扱うことはあまりないことがわかった。したがって、少なくとも歴史的な作品研究において、「意図」について論じることの妥当性や、それにかわる新たな体系の可能性について考察するという課題があきらかになった。また、赤瀬川原平の「模型千円札裁判」に関する研究では、前年度の東京文化財研究所での研究発表を発展させ、成城大学美学美術史学会において発表を行い、論文として公表した。そこでは、模型千円札についての赤瀬川の説明が時間とともに変化していくという点、また、赤瀬川にとって制作意図とは作品完成後に現れるという考えに至っている点を示した。ここには、意図と作品との因果関係に関する重要な洞察が認められる。これらの成果をもとに、次年度には研究会を開催して検討を深めた上で、最終的な成果を学会等に発表する予定である。
著者
中村 睦男 前田 英昭 岡田 信弘 山口 二郎 江口 隆裕 高見 勝利
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、平成3年度および4年度の2ヵ年にわたって行われたものである。日本においては、他の先進諸国と同様に、政府の提案によって成立する政府立法が量的にも(約85%)、また質的にも(国の政策を実現するための法律)、立法過程において重要な役割を果たしている。本共同研究の成果は、政府立法を取りあげ、1.研究分担者による総論的研究、2.研究分担者による事例研究、3.立法・行政実務家による事例研究に分けられる。今回の共同研究は2年間であったため、半数の研究は完成しているが、残りの半数の研究は中間報告の形をとっている。今後も研究を継続して一冊の著書にまとめる予定である。1.総論的研究では、日本の立法過程では法律案の作成段階で官僚機構を通じて意見調整がなされ、国会審議の段階で修正によって野党が重要な役割を果たし得ること(江口論文)、法律案の公案過程における行政機関間の調整の在り方(加藤報告)、行政部内政策過程の枠付けの手法としての“基本法"の役割(小早川論文)、日本とアメリカの1980年代における財政政策をめぐる政治と行政の相互関係の比較検討(山口論文)、アメリカ公法学の立法過程モデル(常本論文)、イギリスにおける政府立法の生成(前田報告)、日本の立法過程論の論争点(清水報告)が明らかにされている。2.政府立法の事例研究では、PKO協力法(牧野報告)、難民条約への加入に伴う関係法令の改正(渡辺報告)、育児休業法(小野報告)、大学審議会設置法(稲報告)、元号法(高見報告)、地方自治法改正(神原報告)および選挙法(岡田報告)が扱われている。3.事例研究は、立法・行政実務家を研究会に招いての報告と質疑の記録で、老人保健法(渡邉論文・岡光論文)、個人情報保護法(松村論文)、大店法(古田論文)および暴力団対策法(吉田論文)を取り上げている。
著者
望月 てる代
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,食事からのフラボノイド摂取量を求めるために必要な資料として,日常摂取している野菜・果実中のフラボノイド量と加熱による変化を調べることを目的とした。日常摂取することの多い数種類の野菜・果実を試料として,80%メタノールによる抽出,塩酸による加水分解を行ってアグリコンとした後の100%メタノール溶出部分を分析用試料液とした。フラボノイドの分析は,3種類の移動相を使用したグラディエント溶出による高速液体クロマトグラフィーで行った。検出器はダイオードアレイ検出器を使用し,254nmと280nmで測定した。この分析により,以下の結果が得られた。(1)大型のピーマンであるパプリカ中の総フラボノイド量は,果皮色により差異が見られ,黄色果実に最も多く,次いで赤色,橙色の順であった。総フラボノイド量を従来の緑色ピーマンと比較したところ,どの果皮色の果実も緑色ピーマンとの間に有意な差が認められた。(2)数種類の柑橘類中のフラボノイドとしては,ナリンゲニンとヘスペレチンが多く含まれており,いずれの果実においてもこの2種類が総フラボノイド量の約90%を占めていた。ミカン,オレンジのようにじょうのうを含む場合には,特にヘスペレチンの量が多くなっていた。(3)野菜類に含まれる主なフラボノイドは,ケルセチン,ケンフェロール,ルテオリンそしてアピゲニンであった。総フラボノイド量は,種類によってかなり大きな差異が見られた。ゆでる,あるいは電子レンジによる加熱の後,総フラボノイド量は一般に減少する傾向が認められた。
著者
光永 雅明
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、19~20世紀転換期の英国社会主義者たちの自然観や自然への態度を検討することにより、同国における環境保護主義の歴史的発展に光を当てることを目標とする。その結果明らかになった主要な点は以下の通りである。まず、この時期には少なからずの社会主義者が都市化を批判して農業生活を提唱し、そこに英国の自給自足化という意義も加えた。しかしその一方で、H.ソルトが開始した動物の保護をめざす運動は、都市化とより親和的なものであった。さらにG. B.ショウらは、イギリス帝国における天然資源の公的な管理が必要との議論を開始したのである。
著者
中村 光一 稲葉 次紀 若松 勝寿 仲野 〓 河崎 善一郎 依田 正之
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

平成10年度冬季ロケット誘雷実験は、準備・撤収を含めて平成10年10月26日から12月5日までの間、石川県奥獅子吼山山頂の北陸電力試験用送電線30号鉄塔付近で実施された。今年度は、鉄塔誘雷6回、地上誘雷10回の計16回の誘雷に成功した。この16回を加えると昭和52年度からの通算成功回数は187回(過去のエアー砲通算2を含まず)となる。本実験では火薬ロケット、火薬を使わないエアー砲、も試みた。主な研究項目は次の通りである。(1)鉄塔誘雷:160m長のナイロン糸でワイヤを絶縁することにより、鉄塔誘雷を目指す。鉄塔側では、碍子間電圧、塔脚電位、鉄塔脚に接続した針付き接地電極への分流、などの測定。(2)地上誘雷:接地されたスチールワイヤを火薬ロケット、エアー砲、ウォータロケットにより引き上げ、地上への誘雷を目指した。限流式避雷針の特性試験、雷エネルギー測定、雷管石の生成。(3)ロケット搭載型電界計による空間電界の測定、(4)雷測定:雷撃電流、地上電界、磁界変化、放電路の光学観測、雷鳴による放電路再現、液晶雷警報器の屋外試験、鉄塔コロナ電流、搭頂電界測定。(5)4km離れたベースでは地電流測定を行った。(6)誘雨ロケットによる誘雨試験も併せて行った。誘雷を目的としたロケットは21回打ち上げて16回成功した。他に、エアーロケットに200m長のロープを取り付け、地上に回収する方式の試験も実験した。結果の一覧を表1に示す。60m鉄塔への誘雷には160m長のナイロン糸を使用した。9回の内6回成功し、1回は山側下相導体に誘雷した。中国式限流避雷針と従来形避雷針を6m置いて並列させ、その上空20mに誘雷を導き、いづれの避雷針に誘雷するかのテストを試みたが、別の場所に誘雷した。ウォータロケットは、飛行高度が不充分で誘雷に到らなかった。本研究は、平成8年度から、3年間の継続研究であり、3年間の合計誘雷成功数は、36にのぼる。この実験を通して上述の(1)〜(6)に関し、多くの成果が得られた。
著者
佐藤 理史
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、電子ニュースにおける、いわゆる「掲示型」と呼ばれるニュースグループ(例えば、fj. wantedやfj. forsale等)のダイジェストを自動作成する方法について検討し、fj. wantedのダイジェストの自動生成システムを実現した。本システムの中心技術は、ニュース記事からその記事のカテゴリを判定し、その記事の内容を端的に表すサマリ文を抽出する技術である。本研究で開発した方法は,言わば「斜め読みを模擬した処理」であり、まず、表層的な表現を手がかりとして、42の特徴を抽出する。次に、それらの特徴を利用したルールによって、記事のカテゴリとサマリ文を抽出する。ブラインドデータに対する実験において、本方法は、カテゴリ判定正解率81%、サマリ文抽出正解率76%という値を示した。抽出されたサマリ文はカテゴリ毎に整理され、HTML形式のダイジェストとして出力される。このとき、元の記事へのポインタは、ハイパーテキストのリンクとして埋め込まれる。作成されたダイジェストは、WWWのクライアントプログラムによって読むことができる。本研究で開発した方法は、fj. wantedを対象としたものであるが、他の掲示情報型ニュースグループや質問応答型のニュースグループのダイジェスト作成にも、同様な手法が適用できると考えられる。また、本方法をさらに発展させることによって、FAQの自動作成も可能になると考えられる。
著者
土橋 卓也 今泉 悠希
出版者
独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高血圧患者を対象とした食塩摂取量の評価法としては、24時間蓄尿に基づく尿中食塩排泄量の測定が正確であるが、蓄尿の妥当性を評価する必要があること、反復測定が困難であることの制約がある。一方、随時尿に基づく食塩排泄量推定値を用いた評価は、減塩指導の効果判定など反復評価、経時的評価に優れ、実臨床ではより有用と考えられた。さらにBDHQや塩分チェックシートなどを用いた食塩摂取内容の評価も合わせて行うことが具体的実践指導により有効と言える。一般住民や健診施設においても、簡便な塩分チェックシートと随時尿による評価の併用が減塩指導や啓発に有用である。
著者
角 恵理
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

コオロギのメスが、オスの歌に対して示す潜在的、前適応的な選好性の存在を明らかにすることを目的として、日本列島に分布するエンマコオロギ属3種のメスに対して音声プレイバック実験を行った。その結果、研究対象としているエンマコオロギ属3種のうち、エゾエンマコオロギのメスにおいて、近縁他種であるエンマコオロギやタイワンエンマコオロギのcourtship songに強くひきつけられるという反応が明らかになった。エゾエンマコオロギは、分子系統解析の結果、対象とする3種のうち最も分岐が古いと考えられる種である。したがって、派生的であると考えられるエンマコオロギ、タイワンエンマコオロギのcourtship songにひきつけられることは大変興味深い。エゾエンマコオロギとエンマコオロギは分布が重複しており、共存域での種間関係および聴覚システムの変化の動態を調べることにより、コオロギの歌の進化の考察に近づくことができると考えられる。courtship songはチャープ部分とトリル部分という2つの部分から構成される。エンマコオロギのcourtship songのチャープ部分には自種であるエンマコオロギのメスが、トリル部分にはエゾエンマコオロギのメスがひきつけられることが明らかになった。部分によってひきつけられ方が異なることは、これら2つの部分が独立に進化の選択圧を受けてきた可能性を示唆するものであろう。また、通常、自種の認識に重要とされるのはチャープ部分であり、付加的と考えられるトリル部分に他種であるエゾエンマコオロギがひきつけられることは、これらの種群でのメスの聴覚特性の進化および歌の進化を考える上で大変興味深い現象である。
著者
三隅 将吾 高宗 暢暁 庄司 省三
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、以下のような成果を得た。1)ウイルスの外被糖タンパク質に対する抗体やCCR5に対する抗体を粘膜面に誘導できた。2) CCR5および外被糖タンパク質に対する抗体価を維持するための交叉免疫抗原を見つけることができた。3)本邦におけるHIV/AIDS経膣感染霊長類モデルの構築を試みたところ、ヒトの性周期と類似するカニクイザルを用いて、SIV10000TCID_<50>/ml(1ml)をSIV感染細胞及び精液とともに複数回接種するモデルが妥当であるという結論に至った。
著者
松井 章 石黒 直隆 中村 俊夫 米田 穣 山田 仁史 南川 雅男 茂原 信生 中村 慎一
出版者
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、農耕および家畜の起源とその伝播を、動物考古学と文化人類学、分子生物学といった関連諸分野との学際的研究から解明をめざすとともに、民族考古学的調査から、ヒトと家畜との文化史を東アジア各地で明らかにした。家畜飼育から利用への体系化では、日本、ベトナムや中国の遺跡から出土した動物骨の形態学的研究をすすめつつ、ラオスやベトナムの少数民族の伝統的家畜飼育技術や狩猟活動などの現地調査を実施した。東アジアの家畜伝播を知るうえで示唆に富む諸島において、先史時代や現生のイノシシ、ブタのmtDNA解析をすすめ、人の移動と密接に関係するものと、影響が見えないものとが明らかとなった。遺跡発掘試料の高精度年代測定研究では、暦年代較正の世界標準への追認、日本版の暦年代構成データの蓄積をすすめた。中国長江流域の新石器時代遺跡から出土した動物骨で炭素・窒素同位体比の測定では、ヒトによる給餌の影響から家畜化と家畜管理についての検討を行った。さらに、台湾を主体としたフィールドワークでは、犬飼育の伝播と犬肉食の世界大的な分布・展開の解明、焼畑耕作・家畜飼育と信仰・神話、また狩猟民の観念について探究した。
著者
塚本 康浩
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

動物の発生・再生・腫瘍形成および記憶における細胞接着分子ギセリンの役割を個体レベルで追求した。ニワトリの皮膚移植再生モデルを確立し、移植片の定着にギセリンおよびそのリガンドが関与すること、さらにギセリンの投与が再生を促進することを見出した。さらに、ギセリンおよびそのリガンドが腫瘍(大腸癌およびリンパ腫)の転移を促進することを腫瘍移植実験において明らかにした。ギセリン欠損動物は、出生前に致死となることが判明した。
著者
永松 謙一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

脳外科手術における脳機能局在同定を、簡便に網羅的に行うためのスクリーニング方法として、脳表を赤外線カメラで撮影して脳の活動に伴う脳表温度変化をとらえるという、リモートセンシング技術を応用した新たな手法の実用化を試みた。本研究期間内には安定して脳活動部位を検出・同定することは出来なかったが、今後の研究への足がかりとなると思われた。
著者
高野 陽太郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は、形態認識と方向変化との関係について、先に当研究者が提案した「情報タイプ理論」の妥当性を実験的に検討することである。ドイツの研究者達(Hollard & Delius,1982)がハトを被験体とし、方向変化を伴う鏡映像弁別を行わせたところ、いわゆるメンタル・ローテーションによる方向修正なしに弁別が行われたことを示す証拠を得た。この研究者達は、人間には検出できない鏡映像の回転不変項をハトが検出したという解釈を提出した。しかし、情報タイプ理論によれば、互いに鏡映像の関係にある形態の間には、弁別を可能にする回転不変項は存在しないはずであり、上記の研究者達も「回転不変項」がどのようなものであるかについては明らかにしていない。一方、情報タイプ理論は、メンタル・ローテーションを行わず、回転不変項にも依存せずに、鏡映像の弁別を行う方法が存在することを明らかにしている。その方法を使用すれば、人間の場合もハトと同様の弁別行動を示すものと予測される。本研究は、その方法の使用に熟達するよう人間の被験者を訓練し、予測された行動が見られるかどうかを検討するために立案された。平成4年度には、AVタキストスコープを中心とする必要機材を購入し、それを利用して実験を行うための計算機プログラムを作成した。平成5年度には、10名の被験者を用いて実験を行った。その結果、訓練中は、メンタル・ローテーションを行わずに鏡映像弁別が可能になったものの、新図形を用いたテスト試行においては、メンタル・ローテーションに頼った被験者が多かった。今後は、実験手続きを改良し、本研究費で講入した機材を使用して、更に実験を続行する予定である。
著者
後藤 文子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の課題である「気象芸術学 Meteorologische Kunstwissenschaft」は、芸術の制作論的諸相において変化する時間=生命性を本質とした近代芸術・建築を、生成し変化する流体として捉える新たな美術史学・芸術学研究の方法論として構想された。植栽造園家を、本来不動な建築と植物=有機体とを結合させる存在、つまり無機的存在を有機的生命体へと媒介する重要かつ特異な「媒介者」と位置づけることで、近代植物学・園芸学と美術史学・芸術学研究の接合・統合を目指した。従来の美術史・建築史的様式論・意味論・機能論が看過してきたモダニズム建築に特有の問題点を明るみに出し、実証的に解明した。
著者
安溪 遊地 井竿 富雄 鈴木 隆泰 岩田 真美
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

幕末の長州藩士や奇兵隊等の緒隊の活躍に比べて明治維新につながる動きの精神的な支柱や政治的な影響、さらには具体的な軍事行動において仏教僧の果たした役割についての解明は研究の蓄積が少なかった。この研究では、真宗僧の活躍に注目して、その史料や口承を集めることに集中した。その結果、長州4傑と呼ばれながらほとんど史料がなかった香川葆晃について、その辞令や新潟での現地調査を踏まえて、四境戦争の前夜に長州藩の密偵として活躍したことを明らかにした。精力的な社会改革運動をおこなった島地黙雷の日記のデジタル化に着手し、吉田松陰の倒幕思想に大きな影響を与えた呉の僧宇都宮黙霖の残した膨大な手稿のデジタル化を完了した。
著者
渡辺 愛子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、戦後冷戦期、とくにイギリスの国際交流機関であるブリティッシュ・カウンシルが旧ソ連・東欧諸国に向けて展開した文化外交において、イギリスが自国をどのように表象することで効果的な外交戦略を達しえたのかを、歴史実証的かつ理論的に解明しようとするものである。今年度とくに集中的に資料収集した国は、チェコスロバキアである。同国は、戦前より共産主義の隆盛に対して比較的寛容であった一方で、第二次世界大戦中、ベネシュ亡命政権がロンドンに樹立されたこと、またミュンヘン会談後、イギリス国民の同国に対する同情心が高まったことから両国の関係に変化が生じ、戦争直後の1947年、東欧諸国で唯一、イギリスと文化協約を締結した。しかし、1948年2月のクーデター勃発によりソ導のチェコスロバキアへの圧力が増大した結果、50年の協約破棄にいたっている。夏の出張では、春にひきつづき、英国公文書館において、ブリティッシュ・カウンシルおよびイギリス外務省の資料収集を行った。さらに、これまでに収集したチェコスロバキア関連の文書をもとに、学術論文を完成し国際的な学術雑誌へ投稿することを目標に、ロンドン大学図書館において執筆作業を続けた。本論文では、ソ連による政治的・軍事的統制が強まるなかで、マスメディアによるイギリスへの虚偽報道、スパイ容疑で秘密警察に摘発されるカウンシル職員の動向などを考察し、同時に、イギリスが「文化」を通じてどのようにソ連的共産主義に対抗し、西側の影響力を浸透させようかと画策する事情を論じた。拙論は現在、冷戦史関係の学術雑誌に投稿中であるが、刊行済みの以下の論考でも、この問題に触れている。
著者
清水 英範 堤 盛人 森地 茂
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

(1) 基準点となりうる地物の整理江戸朱引内全域にわたり、古地図と現代図との目視による対照を行い、TINの位相を保持している基準点となる地物300点を整理した。(2) TINを拡張した幾何補正手法の有効性と限界の確認TINとアフィン変換を統合した幾何補正手法を従来の常套手段である多項変換等と比較し、その有効性を確認した。また、TINとアフィン変換を統合した幾何補正手法の限界を例示し、TINと多項変換を統合した幾何補正手法との比較も行った。本研究においては線形街路の多い江戸城下町を対象としていることから、TINとアフィン変換を統合した幾何補正手法を用いている。(3) 古地図分析支援システムに要求される機能の確認都市計画史等の文献を調査することにより、古地図分析支援システムとして要求される機能を確認した。(4) 古地図の土地利用図の作成TINとアフィン変換を統合した幾何補正手法により天保御江戸絵図(1843)を朱引内全域にわたり幾何補正し、大名屋敷や神社・仏閣などの土地利用ごとにポリゴン化した。これにより、現在の文京区に相当する地域の土地利用図の作成を行った。(5) 古地図分析支援システムの有効性の確認幾何補正した古地図の構成要素をベクター化することにより、古地図の定量的分析を支援することが可能となる。さらに、現代のGISデータを用い、当時の空間的状況と地形との関係を分析することが可能となる。(3)において確認したGISの機能を用い、(4)において幾何補正した天保御江戸絵図を対象に、主要街道の縦断線形の分析、標高・地形と土地利用の関係の分析、眺望に関する分析を行い、システムの有効性を確認した。眺望に関する分析においては、CG技術を用い鳥瞰図の作成も行った。
著者
早川 武彦 岡本 純也 早川 宏子 涌田 龍治
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

スポーツファン(ここでは「高頻度観戦者」をスポーツファンとした)の消費行動の時系列的側面、とりわけテレビ・スポーツ放送視聴との関係性を明らかにすることを目的とした本研究は、二つの方向性から研究を進めた。第一に、スポーツファンの概念的理解を進めるべく、東京都調布市の味の素スタジアム、大分県大分市の大分スタジアム、宮城県仙台市のユアテックスタジアムにおいて観戦者調査を実施し、実態分析を行った。そこでは、スポーツファンの様々な消費行動(試合を見に行く・応援グッズを買う)が、主としてテレビなど外部からの情報に依存している、という傾向が見られたものの、スタジアムへ観戦に向かわせるという行動に対してテレビ視聴が影響を与えているとは明確に言えないということが明らかとなった。スポーツファンに対して行ったインタビュー調査によれば、ファンとしてのキャリアの「入口」においてテレビ・スポーツ視聴は、応援に関する情報源として影響を与えるが、スタジアムへ足を運ばせるという行動に対して影響を与えているとは言えないということが示唆された。第二に、スポーツファンの形成プロセスに特に重要な役割を果たすと考えられるテレビ放送事業者による放送環境整備に対して理解を進めるべく、地方都市においてケーブルテレビならびに地上波放送の放送事業者に対してヒアリング調査を行った。そこでは、スポーツの中継が多くの者を引きつける「キラーコンテンツ」であるということを放送事業者が認識しているにもかかわらず、主として二つの理由から、充分な戦略を採用できないことが明らかとなった。具体的には、(1)魅力的なコンテンツ確保が地域レベルの放送事業者の財政力では困難であること、(2)たとえ財政力があったとしても複雑な放映権を巡る権利処理に膨大な時間がかかってしまうことである。第一、第二の結果より、スポーツファンは「スタジアムでの観戦」ができない場合の代替行為としてテレビによる観戦を行う傾向があるにも関わらず、放送事業者はそのようなファンの視聴特性を把握し切れていないということが明らかとなった。
著者
大野 道邦 小川 伸彦
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、記憶と文化の関係について18世紀初頭の「赤穂事件」を手掛かりに分析し「文化社会学」の理論的・経験的な可能性を追究するものである。この場合、(1)記憶は既存の文化的な「枠」に準拠して「構成/再構成」される、(2)記憶は集団や個人のアイデンティティ形成の焦点となり、新たな「文化」や「物語」として「生成」する、という仮設を設けた。研究の結果、次の知見等が得られた。1.文化論・記憶関係の諸議論を検討し、記憶と文化の関係の二重性や記憶様態の類型を理論的に明確にした。2.『假名手本忠臣蔵』の英仏訳書や忠臣蔵論等を検討し、赤穂事件記憶の演劇文化や国民文化としての成立過程の一側面について知見を得た。3.『忠臣蔵』の歌舞伎上演記録から、明治末から大正にかけての上演数の突出を確認し、これがナショナリズムの高揚と結びつく国民文化の形成に関連すると指摘した。4.事件記憶の構成において「サムライ名誉文化」がどの程度「枠」として機能したのかについて、事件論評や武士(道)関連文献を検討し理論的な知見を得た。5.「赤穂義士祭」について、義士祭・義士会および観光関係の資料を収集し義士祭の担い手やツーリズム的特性について知見を得た。6.愛知県吉良町における吉良義央関係の史跡・事績・伝承等を整理し、「対抗記憶」が形成されてきたことを確認した。7.京都・山科の岩屋寺における拝観者への対応に関する調査により、事件に関する語りを採取し分析した。8.長野南部伝承の義士踊りを現地調査し歴史的事件の芸能化に関する知見を得た。9.「銚子塚」(川崎)、「泉岳寺」(東京)、「大石神社」(京都)の調査結果を比較しつつ、義士記憶にまつわる祭祀のあり方を分析した。10.「忠臣蔵サミット」関係の資料を分析し、事件記憶の行政文化的・地域文化的な資源=資本化の動態について知見を得た。以上の調査研究から記憶と文化の関係の二重性仮説をある程度検証することができた。
著者
久木野 睦子
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、イカの殺し方および保存温度の違いがイカの鮮度保持にどのように影響するか明らかにするため、異なる4つの方法で輸送したイカの保存にともなう外套膜筋肉の物理的変化を詳細に調べた。実験は4つの実験群、生きたイカを神経切断により即殺して研究室まで2時間輸送(即殺群)、生きたイカを5℃の冷蔵ボックスに入れて輸送(冷蔵輸送群)、生きたイカを氷海水中に入れて輸送(氷海水蔵輸送群)、および活魚輸送車の水槽にて生きたまま輸送(活魚輸送群)について、その外套膜を5℃で保存し、保存にともなう物理的特性の変化を調べた。その結果、氷海水蔵輸送群では筋肉細胞中のエネルギー物質であるATPが保存開始時に殆ど消失していたのに対し、冷蔵輸送群では保存6時間後に消失し、即殺群と活魚輸送群のイカでは保存6時間後も約50%のATPが残存していた。透過型電顕による筋組織構造の観察においても氷海水輸送群のイカは保存当初より大きな筋束間乖離が認められ、レオメーターによる物性の測定においてもこのことが原因と思われる特異な破断特性が氷海水蔵輸送群の外套膜筋肉に認められた。外套膜筋肉の透明度の測定では、即殺群と活魚輸送群で透明度は良く保持され保存12時間後でも筋肉の透明度が残っていたのに対し、氷海水蔵輸送群では保存開始時にすでに透明度を失っており、イカ筋肉中に残存するATP量と符合した変化のように見受けられた。そこで、即殺したイカ外套膜の薄切片を用いて、各種濃度のATPを添加した場合の透明度保持効果を調べたところ、ATP添加による透明度の保持効果は観察されなかった。