著者
渡辺 匠 唐沢 かおり
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-34, 2012
被引用文献数
1

本研究は存在脅威管理理論の観点から,死の顕現性が自己と内集団の概念連合に与える影響について検証をおこなった。存在脅威管理理論では,死の顕現性が高まると文化的世界観の防衛反応が生じると仮定している。これらの仮定にもとづき,人々は死の脅威にさらされると,自己と内集団の概念連合を強めるかどうかを調べた。死の顕現性は質問紙を通じて操作し,内集団との概念連合は反応時間パラダイムをもちいて測定した。その結果,死の脅威が喚起された参加者は,自己概念と内集団概念で一致した特性語に対する判断時間が一致していない特性語よりも速くなることが明らかになった。その一方,死の脅威が喚起されても,自己概念と外集団概念で一致した特性語に対する判断時間は一致していない特性語よりも速くはならないことが示された。これらの結果は,死の顕現性が高まると,自己と内集団の概念連合が強化されることを示唆している。考察では,自己と内集団の概念連合と存在脅威管理プロセスとの関係性について議論した。<br>
著者
中村 浩爾
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.11-44, 2009

国家と市民社会の二元論に対して, 国家・市場・社会の三元論や国家・市場・コミュニティ・アソシエーションの四元論など, 多様な市民社会論の展開がある. マルクス主義の側も深化ないし修正を迫られていると同時に, 新しい市民社会論の側にも課題がある. 市民社会の構造, 編成, 構成員について考えた場合, 個人的構成か集団的構成かということが問題となり, 家族と階級が論点となる. また, 市民社会のメルクマールがフランス革命の理念たる自由・平等・友愛とされることが多いが, 友愛は軽視されてきた. 元来この三理念は古代に遡るものであって, マルクスらも言及しているものである. それ故, この三理念をめぐる議論も論点となる. 更に, 市民社会における社会規範の存在様式について考える場合, 法哲学的観点からは, 法律のみならず, 他の社会規範も視野に入れなければならない. とくに, 慣習が重要であるが, 本稿では, 法律, 道徳, 慣習を, 市民社会の三元構造と対応させることによって, 他の論点とも関連させながらそれを明らかにする.There are various theories on the civil society, as the three elements theory of the state, market and society or four elements theory against the dualism of the state and civil society. In considering about the structure, constitution and constituant memmber, it will come into question whether the civil society is constituted by the individual or the groups among which the family and the class are important. The liberty, equality and fraternity used to regarded as the ideas of the civil society from both camps are also the subjects of argument. From the viewpoint of legal philosophy, we cann't discuss about a mode of social rules in the civil society without counting in not only the law but also other social rules, among which the custom should be made much of. My purpose is to make it clear by corresponding the law, the morality and the custom to the three spheres.
著者
太田 有子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.19-36, 2006-03-28
被引用文献数
1

歴史社会学は,社会学における一般理論への偏重に対する自省から,分析対象地域の歴史経験や固有の事情をふまえつつ理論構築を志向する試みとして発達したが,同分野の定義をはじめ,さらには分析方法から理論の射程範囲に至るまで,現在もなお議論が続いている.なかでも比較分析は,歴史社会学分野において主要な分析方法として用いられ,また近年は広く社会科学分野においても,その意義が注目されているが,そのあり方をめぐっては諸論が展開している.本稿では,「歴史社会学」の軌跡を辿りつつ,比較分析の方法論ならびに研究例を通じ,その内容を検証すると同時に今後の課題を考察する.
著者
藤田 弘夫
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.117-135, 2006-03-28

日本の社会学者は都市社会学者にかぎらず,何よりも「現代」社会の研究者であることに意義を見出してきた.したがって,都市の歴史社会学的な研究は多くはなかった.もっとも,これも都市の定義や歴史社会学をどう考えるかでかなりの違いがある.日本は都市社会学をアメリカから導入した.アメリカの都市社会学はアメリカ社会の非歴史的性格を反映して,歴史への関心が欠如している.このため日本の都市社会学は最近までほとんど歴史に関心を持ってこなかった.現在,都市社会学者は歴史家の研究に影響を受けながら研究を進めている.これに対して,都市社会学者の歴史家への影響は少ない.矢崎武夫の統合機関理論による日本都市の発展史,中川清の生活構造論による近代化論,藤田弘夫の権力論による都市の発生論や飢餓論などわずかしかない.とはいえ,最近の佐藤香の社会的移動論,中筋直哉の身体の本源的対他相関性論などにもとづく研究は,新しい歴史社会学的研究の可能性を拓いている.この意味では,都市の歴史社会学的研究はようやく,はじまったばかりである.
著者
山本 寄人
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

腹水細胞中で、腹腔macrophage(pMφ)やnatural killer(NK)細胞は、内膜症細胞処理に重要な細胞と考えられ、その機能解析は子宮内膜症の発症・進展機序の解明に極めて重要である。特にpMφは貪食・抗原提示・cytokine産生といった腹腔内の異物処理に重要な役割を担い、内膜症細胞の処理に深く関わっていると推測される。pMφからT細胞への抗原提示の際には細胞膜の脂質二重層の盛り上がり(lipid raft:ラフト)上にHLA分子とICAM-1、CD40、CD58などの接着因子群(補助シグナル分子)が集積し「免疫シナプス」が形成されることが明らかとなった。ラフト形成により細胞間接着が強固となり、T細胞との間に免疫シナプスが形成され、その中心に位置するHLAの抗原情報が効率よく伝達される。内膜症婦人におけるpMφのICAM-1とHLA-DRの発現低下は免疫シナプス形成の低下を示唆している。今後pMφのラフト形成能を解析することは、内膜症のpMφの機能、特に異物処理に関わる抗原提示能が評価可能となり、その病態解明に重要と考えられる。本研究では、1)flow cytometryで内膜症婦人のpMφ上の抗原提示に関わるHLA分子の発現を非内膜症婦人と比較検討した。2)共焦点レーザー法でpMφの細胞膜上のラフトと、HLA-ABC/DRの局在を検討した。3)ELISA法で、HLA発現を調節しているサイトカインであるIFN-γを測定した。4)摘出標本を免疫染色し内膜症抗原の同定を試みた。その結果は、1)内膜症婦人では HLA-ABC と HLA-DR に有意な発現低下を認めた。2)ラフト形成は、両群間に差を認めなかった。両群とも HLA-ABC は細胞膜に均一に、DR はラフト領域に局在していた。3)腹腔内の IFN-γ濃度は内膜症婦人で有意に低下していた。これは、内膜症婦人では、HLA 発現が低下しており、特にラフト領域に局在する HLA-DR の発現低下は,内膜症pMφの抗原提示能が低下し、HLA 発現低下にIFN-γが関与していると考えられた。4)月経期の正常子宮内膜に HLA-G の発現を認め内膜症抗原の可能性が示唆された。今後は、免疫療法の開発へ展開する予定である。
著者
藤川 重雄
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本報告は上記研究課題について, 主として, キャビテーションクラウドを構成する気泡群の2個の気泡の力学に関する基礎的研究成果を述べたものである. まず, 非圧縮性液体中で膨張, 収縮, 並進運動する大きさの異なる2個の気泡に対し, 気泡同志の相互作用, 気泡壁の変形を考慮して運動方程式を導びいた. さらに, これを圧縮性液体の場合に拡張した. 得たる成果は以下の通りである. 1 本理論を固体境界壁近傍での単一蒸気泡崩壊問題に通用し, 結果を液体衝撃波管による実験により検証した. さらに, 境界要素法に基づく直接数値計算結果と比較て本理論の適用限界を明らかにした.2. 本理論を最初大きさの異なる2個の気泡の崩壊問題に適用した. その結果, 初期半径の小さな気泡は, 大きな気泡との相互作用により変形しつつ並進運動を行ない, 収縮, 膨張をくり返すごとにますます変形していく. このような気泡の変形は, 気泡の収縮, 膨張運動に加えて, 相互作用による並進加速度運動によって引き起こされる. また, 2個の気泡の適当な初期半径比及び気泡内気体初期圧力の下では, 同一条件下の単一気泡の場合よりも高い衝撃圧力を発生すること等を明らかにした.3. 本研究の成果を音場中における2個の球形気泡の非線形振動に応用した. 一つの気泡がm周期運動をすると. 他の気泡もm周期運動し, 2個の気泡が同時に音場の振動数の1/(m〜)倍の振動数を有するキャビテーションノイズの原因となることを明らかにした.以上の成果は, キャビテーションクラウドの力学が従来の単一気泡の力学とは全く異なったものであることを示しており, 本研究を通して初めて明らかにされてきたものである. 今後, 更に引き続き多数個の気泡の力学を研究する計画である.

1 0 0 0 OA 貧者の宝

著者
メエテルリンク 著
出版者
新潮社
巻号頁・発行日
1917
著者
明石 正和 永都 久典
出版者
城西大学
雑誌
城西大学研究年報 (ISSN:09125302)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.19-26, 1984-03
被引用文献数
1 1

バレーボールの基本動作を体育科学の観点から研究し, 基本動作の合理性を解明しようとするもので, 今回は, 12人の大学男子バレーボール選手を被験者として, 全力によるスパイク動作を高速度カメラで撮影し, スパイク動作のフォアウィングからインパクトまでの腕のスウィングと打撃時に起る力学的現象との関わりについて分析した。その結果は次のとおりである。1. ボール速度は, 手のインパクト直前の速度, 手の換算質量, 手とボールの接触時間, 平均衝撃力と高い相関関係にあることが明らかになった。2. ボール速度は, 熟練者ほど, 手のインパクト直前の速度, 手の換算質量, 手とボールの接触時間平均衝撃力と高い相関関係にあることが明らかになった。3. バックスウィング終了後, 体幹の前方屈曲の際の, 肩関節速度が手先の速度に大きく影響するので, 肩関節速度を大きくする工夫が必要であると思われる。4. バックスウィングからフォアスウィングの肘関節の位置によって, スウィングの大きさに差のあることが明らかになった。
著者
前川 喜久雄 槙 洋一 吉岡 泰夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.353, pp.9-16, 1999-10-15
被引用文献数
1 1

筆者らは1996年以来日本語熊本方言を対象として発話の丁寧さの知覚におよぼす語彙的要因と韻律的要因の関係について実験的検討をくわえてきた.前半でこれまでの研究成果を概観した後,後半では最新の実験結果に基づいてデータに観察される社会差について新規に検討をくわえる.われわれは従来,比較的若い年代の被験者による実験結果に立脚して丁寧さの表出に果たす語彙と韻律の貢献はほぼ同程度であると推定していた.しかし被験者の年代を高年層と中学生にまで拡大した結果,高年層では語彙の果たす役割が大きく韻律が果たす役割が小さいこと,そして年齢が低下するにともなって,この関係が逆転してゆくことが発見された.
著者
田川 恭識 嵐 洋子
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.51-62, 2010-12-30

The dialect of the city of Kumamoto and its surrounding area is said to lack lexical accent systems. This research investigated tonal phrases in spoken discourses of young Kumamoto dialect speakers. A tonal phrase is defined as a minimal tonal unit comprising a rise and fall in pitch. Results of the acoustic analysis revealed that tonal phrases in our data could be classified into eight basic types including those that had not been identified in previous research. In addition, it was shown that in about half of the cases, a tonal phrase corresponds with a minimal syntactic phrase (comprising a content word followed by zero or more functional words), and when a syntactic phrase semantically modifies the following phrase, they mostly form a tonal phrase.