著者
村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.111-122, 2002-01-30
参考文献数
29
被引用文献数
23

利根川水系鬼怒川の中流域で1996年に植生調査を行った砂礫質河原のうち,丸石河原代表種が多く生育していた4ヵ所において,1999年および2000年にベルトトランセクト法により植物種の出現頻度と基質タイプを調べ,1996年のデータと比較した.4ヵ所のうち2ヵ所の河原の半安定帯において,カワラノギクやカワラニガナの丸石河原固有種の出現頻度の著しい減少が認められた.3ヵ所の河原においては,砂質の基質の顕著な増加が認められた.シナダレスズメガヤは砂質だけでなく中間および礫質の基質でも増加していた.1996年には100株以上からなるカワラノギクの局所個体群が4ヵ所確認されていたが,2001年には3ヵ所となり,そのうちの一ヵ所では,株数もほぼ10万株から110株へと著しく減少した.基質の変化とシナダレスズメガヤの侵入がカワラノギクやカワラニガナなどの河原固有植物の生育適地を減少させ,すぐにでも保全のための応急的対策が必要なほどに個体群の急激な衰退が起こっていることが示唆された.
著者
秋野 有紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

「文化的な創造活動への広域的共同支援に関する国際研究-ドイツと日本を例に」をテーマに、本年度は調査研究を進めつつ、これまでの研究成果の発表を積極的に行った。とりわけこの3年間従事してきた研究・調査については、11月にドイツの国際セミナーで口頭発表を行い、3月には日本で査読論文として発表した。研究成果としては以下の点が明らかになった。(1)ドイツは伝統的に舞台芸術への公的支援は極めて大きいが、近年では自治体の財政難を背景に超域・広域的な支援に向かいつつあることを具体例から示した。(2)その背景として、公共サービスの自由化や人の移動の加速化があるが、ドイツの芸術環境における観劇者層の非対称性という課題も公的支援の根拠を動揺させている要因である。(3)日本は確かにドイツと比べると公的な支援は相対的に小さいが、習い事や商業劇場、演劇人たちの自主的な劇団活動など、私的な領域からの芸術活動への寄与度は極めて高く、そのことがドイツでは見られない自由で多様な表現の土壌を準備する潜在性となっている。(4)だが日本では一般的に、個人の〈芸術消費(受容)〉意識の高さとそれとは相対的に低い〈創造性(生産)への支援〉の必要性への意識という非対称性が、「創造環境としての公立劇場」を公的に支援する際の障壁になるという構図がしばしば現れる。この比較により、舞台芸術領域において〈公の強いドイツ〉と〈私の強い日本〉という特徴に優劣をつけるのではなく、双方の課題を可視化し、(日本では従来、専ら欧州から学ぶという姿勢をとってきたが)お互いに学びうる可能性を示し、市民社会における豊かな文化環境を形成する上での政策的・実践的基盤に関して、国際的に論点を共有することが出来たことは有益であった。ドイツの事例についての分析の一部は日本で論文としてすでに発表したが、来年度秋頃には、日独比較の部分をドイツで共著として発表する準備を進めている。
著者
桜井 啓子
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.9, pp.143-164, 1994-03-31

イランは,スンニー派のアラブ民族が多数派を占める中東世界において,シーア派に属するアーリア民族として,その独自性を維持してきたことで知られている。そのため,イランすなわちシーア派・アーリア民族の国家として定式化されることが多い。しかしながら,このようなイラン像は,必ずしもそこに住む人々によって共有されてきたわけではない。現実のイランは,多民族,多宗教社会であって,人々は,それぞれの属する民族,宗教,地域に帰属意識をもってきた。19世紀末,欧米列強による帝国主義的な侵略の脅威に晒されて以来,イランの指導者たちは,イランを国民国家として統合することの必要性を強く意識してきた。彼らは,自らの国内的ならびに国際的な政治目標を達成するうえで,最も都合のよい共同体像を描き,それを国民が共有することを欲してきた。どの時代の指導者も,ムスリム,シーア派,イラン,ペルシア,アーリアなどを,この国土に暮らす人々の主要な属性とみなしてきた。しかし,体制の相違により,これらの要素の扱いは,相当に異なったものとなった。ところで,お互いに顔を合わせることもない広い範囲に住む人々の間に共同体意識を醸成するうえで,歴史教育の果たす役割は大きい。歴史は,過去に生きた特定の人々を,祖先として教えることによって,現在に生きる人々を結び付ける。共同体の起源,過去の栄光そして祖先の戦いや屈辱の物語は,人々が属する集団のイメージを鮮明にする。歴史は過去を物語ることによって,現在に奉仕し,また将来の使命を説く。指導者は,歴史的素材の取捨選択,構成,評価において教科書内容に深く関与することによって,自らの存在を正当化できるような歴史物語を描いてきた。したがって,教科書に描かれた歴史は,その史実の正確さや解釈の妥当性においてではなく,歴史物語に託された目的やそれが果たした役割において検討されなければならない。このような観点から本稿は,まず,カージャール朝末期,パフラヴィー朝末期,イラン・イスラム共和国という3つの異なる体制下で発行された小学校歴史教科書を考察し,それぞれの体制がどのような共同体像を描いてきたのかを明らかにする。次にこれらを比較しそれぞれの共同体像が何を指向し,どのような役割を果たそうとしてきたかを検討する。
著者
西尾 剛 ASHTOSH ASHTOSH ASHUTOSH
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

Diplotaxis muralisの細胞質(mur型細胞質)を持つBrassicaの細胞質雄性不稔性の稔性回復遺伝子を同定するため、mur型細胞質雄性不稔性のブロッコリーと稔性回復遺伝子を持つカイラン(Brassica oleracea var. alboglabra)のF_2集団を用い、両親間で多型を示すDNAマーカーを作成して遺伝子型を分析することにより、昨年度稔性回復遺伝子を第1連鎖群にマッピングした。今年度は、稔性回復遺伝子が含まれる第1連鎖群のゲノム領域のシンテニーを解析し、これまでいくつかの種で稔性回復遺伝子として報告されてきたpentatricopeptide(PPR)モチーフを持つ遺伝子を、その領域に3つ見出すことができた。その遺伝子発現を解析したところ、稔性回復系統と不稔性回復系統で発現量に差が見られたことから、それらが稔性回復遺伝子の候補と考えられた。これらの結果を論文にまとめ、投稿中である。同研究室内の別の学生が行っているB.oleraceaの耐病性のQTL解析のためにSNPマーカー作成を協力し、これら2つの研究で得られた連鎖地図を統合することによって、320マーカーからなるB.oleraceaの連鎖地図を構築した。カイランの白花とブロッコリーの黄花は1遺伝子によって決定されるが、白花は黄花に対し優性である。この遺伝子も第1連鎖群にあり、稔性回復遺伝子とは25cM離れていることを見出した。色素合成に関わる酵素の遺伝子を分析したが、カイランとブロッコリーで変異がない、あるいはDNA塩基配列に変異があっても、マッピングした位置に座乗しないなどのため、この特性に関わる遺伝子の候補は見出されなかった。
著者
広島高等師範学校附属小学校 編
出版者
目黒書店
巻号頁・発行日
vol.第2巻 (睡眠教育), 1921
著者
教育研究会 編
出版者
教育研究会
巻号頁・発行日
vol.大正12年度, 1924
著者
秋山 英文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

半導体レーザーの利得性能計算には、自由電子近似に基づくバンド理論が用いられてきた。本研究では、計算パラメータをk・p 摂動論に基づいて決定し、1 次元量子細線系と2 次元量子井戸系用のキャリア間多体クーロン相互作用を平均場近似で取り入れ、レーザーのモード利得を定量的に計算する理論を、コードとして試作した。遮蔽クーロン相互作用の波数依存性を無視した計算も行った。実験では、高品質3周期T型量子細線試料を用いて、利得スペクトルのキャリア密度依存性を精密測定した。理論により得られた定量的利得スペクトルやピーク利得値を実験と比較して、開発した理論の有用性を明らかにした。
著者
松井 年行 奥田 延幸 小杉 祐介
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.499-503, 2002-07-15
被引用文献数
1

カイラン20品種の遺伝的関係を12種類の12塩基プライマーと, それら2種類のプライマーを組み合わせて用いたRAPD法により検討した.DNAフィンガープリントの多型性によってカイランの品種は3グループに分類された.第1グループは9品種で, 'Large leaf kailaan'(圓葉白花)の様な白花で縮葉の品種群(8品種)並びに白花か黄花である'Nanjing huanghua (huang)'(南京黄花(黄))の品種群(1品種)を含んでいた.第2グループは6品種で, 'Huanghualenye'(黄花)の様な黄花で濃緑葉の品種群(2品種)と'Huanghuagelin'(黄花格林)の様な黄花で淡緑の品種群(4品種)に分類された.第3グループは5品種で, 白花か黄花の品種の'Nanjing huanghua (bai)'(南京黄花(白))と'Hei'(黒)や'Small leaf kailaan'(尖葉白花)の様な白花で平滑葉の品種群(4品種)に分類された.また, 白花カイランが中国本土から台湾へ広がる過程で, 黄花カイランへ分岐したことが示唆された.
著者
鈴木 広一 苅田 丈士 甲斐 高志 小林 弘明 高嵜 浩一 廣谷 智成 倉谷 尚志
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-20, 2008-01

宇宙航空研究開発機構では,将来の宇宙輸送システムコンセプトの絞り込み,開発すべき技術課題の抽出,および現状技術の改善目標を設定するため,概念設計ツール(Systems Evaluation and Analysis Tool: SEAT)を開発中である。本報告書では,まずSEAT開発の目的,開発シナリオをまとめ,開発した雛形ツールについて報告する。ついで,代表的なエンジンの評価を行うため,雛形ルールを用いて5種類の宇宙輸送システムの概念設計を行った。本報告書では,液体ロケットエンジン,Turbine-Based Combined Cycle(TBCC)エンジン,およびRocket-Based Combined Cycle(RBCC)エンジンを対象とした。概念設計は,全備重量が最小となるように行った。その結果,母機,軌道機共にロケットエンジンを使用する二段式宇宙往還機のコンセプトが,最も軽量となる結果が得られた,本システムはエンジン搭載性についても問題がなく,最も現実的なシステムである。TBCCエンジンやRBCCエンジンといった空気吸い込み式のエンジンを使用する場合には,必要なエンジン基数が多くなり,その搭載性に問題があるという結果が得られた。
著者
加藤 行夫 田中 一隆 山下 孝子 英 知明 佐野 隆弥 辻 照彦 勝山 貴之 石橋 敬太郎 杉浦 裕子 真部 多真記 西原 幹子 松田 幸子 本山 哲人 岡本 靖正
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、主として英国初期近代(エリザベス朝およびジェイムズ朝)の演劇作品および当時の役者・劇団・劇場の総合研究を「歴史実証主義的立場」から新たに検証し直す作業を行なった。とくに「デジタルアーカイヴズ」を多用して、定説と考えられてきた既存の概念・理論を、現存する公文書や有力な歴史的基礎資料を根幹とした「検証可能な方法」で再検討し直すことを最大の特徴とした。この研究手法により、当時の劇作家、幹部俳優、劇場所有者、印刷出版業者等をはじめとした「演劇世界全般の相関的ネットワーク構築」の特徴的なありようを、演劇理論や劇作家と劇団研究、個々の劇作品とその出版等を通して追究した。
著者
白木原 康雄 若林 健之
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.277-288, 1983-11-30 (Released:2010-09-30)
参考文献数
34

The method of three-dimensional image reconstruction from electron micrographs is described with reference to the use of symmetries of specimens. Among the symmetries (two-dimensional translational symmetry, helical symmetry, icosahedral symmetry) which have been dealt with so far, the helical symmetry is fully described concerning its nature and its use. The practical aspects of the method, including manipulation of the phase data, are also presented.
著者
西崎 真也 樋口 貴志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.103-103, 2000-11-15

本論文では,ファーストクラス環境の機構を用いて単一化機構を関数型言語へ組み込む方法を提唱する.単一化子は変数上の代入として表現されるが,これを変数の束縛する環境とを同一視することにより,単一化の機構を関数型言語へ自然に組み込むことが可能となる.In this paper, we propose a way of embedding of the unification mechanism into function languages through facility of first-class environments, where unificands are introduced as expressions and their evaluation is defined as the first-order unification.
著者
森田 直子 森本 浩一
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、観相学という知の体系が19世紀の絵物語形式のメディアの成立に与えた影響を解明した。まず、19世紀前半のスイスで、後のストーリー漫画の原型となるような近代的絵物語を刊行したR.テプフェールが観相学を作画に取り入れた背景を解明した。一作品あたり何百回も同じ顔を描くことで物語るメディアの語りのしくみと、17・18世紀ヨーロッパの美術・演劇論・修辞学との関連を探った。とくに、18世紀までの美術・演劇理論や作法書等において、「内面を映し出す顔」と「作法・演技としての顔」という顔表現の二面性への関心が強く見られたことも明らかにした。
出版者
文藝春秋新社
巻号頁・発行日
1946

1 0 0 0 PID制御

著者
須田 信英
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本ファジィ学会誌 (ISSN:0915647X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.768-771, 1995
参考文献数
2
被引用文献数
1
著者
小山 慎一 NORASAKKUNKIT Vinai CHEN Chun-hsien AHMAD Hafiz Aziz 由 振偉 張 暁帆 若松 くるみ 商 倩 成田 佳奈美 堀端 恵一 山田 桃子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

研究課題の研究1~4の全てを実施し,その成果を学会および論文で報告した.研究 1では照明の第一印象に与える影響について検討し,研究2では選択肢の種類と数が消費者の選択時における満足度に与える影響について検討した.研究3・4では消費者がモノに対するこだわりと愛着を発達させるプロセスおよび飽きが生じるメカニズムについて検討した.以上の研究から,モノに対する長期的な愛着を発達させるためには「積極的に情報を収集し,複雑な評価を楽しむことによって対象物に対する愛着を発達させ,愛着が発達することによってさらに積極的に情報を収集するようになる循環的なプロセス」が重要な役割を演じていることが示唆された.