著者
青木 亮三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.621-628, 1990-09-05

脳は人間存在の根元に関わるものとして究極の興味ある対象であるが, まるで分かっていない. 高度の判断を司る神経線維の絡み合いは余りに複雑で, 実体の解析を拒否している. ところがその脳が全体として電気信号を発している, しかも, それが驚くほど単純な波形で観測されている. 多数の構成要素からなる系の単純な集団振動, これこそは相関の強い多体系として, 物理学研究者にとって好個の対象と考えられる. いままで生体については, ともすれば性急に物理的概念を当てはめようとしたり, 手近の解析的手法をそのまま応用することが試みられてきたが, この解説から対象に即した新しい観方やアプローチが触発されれば幸いである.
著者
佐川 浩彦 酒匂 裕 大平 栄二 崎山 朝子 阿部 正博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.753-763, 1994-04-25
被引用文献数
58

聴覚障害者と健聴者のコミュニケーション支援を目的として,手話通訳システムの開発を行っている.手話通訳システムでは手話から日本語への変換を行うために,手振りの情報からその中に表現されている手話単語を認識する必要がある.本システムでは,データグローブから入力した手話パターンと,あらかじめ登録してある手話単語パターンを音声認識で一般的な連続DP照合を用いて照合することにより,手話単語を認識する.しかし,データグローブからの入力データ量が多いため,通常の連続DP照合ではリアルタイムな認識が困難になる.そのため,手話パターンの動的な特徴に基づいたパターン圧縮を行い,圧縮パターン同士を直接照合する圧縮連続DP照合を開発した.本方式の有効性を検証するため,単語数17語の連続手話認識実験と単語数620語を用いた大語い手話単語認識実験を行った.この結果,従来の連続DP照合の認識率と比較して精度の低下がなく,認識時間としては実測で約1/16に短縮できることが確認できた.更に,大語い認識実験においても98.7%の認識率が得られ,本方式の有効性を確認できた.
著者
南 美穂子
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.73-78, 1996-11-25
被引用文献数
3
著者
伊藤 昭 寺田 和憲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

心を読むことに基づくコミュニケーションを計算機に実装可能なアルゴリズムとして検討した。主要な成果は、次のとおりである。1.心を読むコミュニケーションの発生要件を「非零和ゲーム状況=利害が完全には一致しないが協調を必要とする状況」と定式化し、人工的にその状況を生成することで、嘘やだましを含む心を読むことによるコミュニケーションを創発させた。2.人が(人工物を含む)対話相手に心属性を付与する条件を、外見要因、行動要因の2面から調査した。また、心を読むことによるコミュニケーションの創発におけるメタ信号を役割を、身振りをコミュニケーションメディアとして用いて分析した。
著者
市川 良哉
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
vol.3号, pp.127-136, 1974-12
著者
奥川 裕 工藤 恵理子 クドウ エリコ 奥川 裕 オクガワ ユウ OKUGAWA Yu
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.131-143, 2009-09

Previous studies have shown that people tend to overestimate the extent to which others can discern their internal states, such that liars tend to overestimate the detectability of their lies (e.g., Gilovich, Savitsky, & Medvec, 1998). In this study, we examined the effect of regulatory focus on the tendency to overestimate the detectability of lies. According to the regulatory focus theory (e.g., Higgins, 1998), prevention-focused people try to avoid failure. We hypothesized that the magnitude of the overestimation of detectability by liars increases when they are prevention-focused rather than promotion-focused. In the experiment, participants were randomly assigned to be an actor (liar) or an observer. Liars overestimated the detectability of their lies by observers and this tendency was more pronounced when liars were prevention-focused.先行研究では、人は自分の内的状態を他者が見透かす程度を過大視する傾向があることが示されてきている。たとえば、嘘をついたときに、嘘をついた人は他者にその嘘を見抜かれる程度を過大視する傾向がある(e.g., Gilovich, Savitsky, & Medvec, 1998)。本研究では、嘘がばれる可能性を過大視する傾向に、制御焦点が与える効果を検討した。制御焦点理論(e.g., Higgins, 1998)によると、防衛焦点にある人は失敗を避けるよう動機づけられる。促進焦点よりも防衛焦点の状態にある人において、嘘をついた人が嘘を見抜かれる可能性を過大視する傾向が大きいと予測し、実験を行った。実験では、参加者は行為者役(嘘をつく役)か観察者役にランダムに割り当てられた。嘘をつく役は観察者役が嘘を見抜く可能性を過大視し、この傾向は防衛焦点にある参加者においてより大きかった。
著者
河原 俊雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1998年、『殺人者の言葉から始まった文学-G.ビューヒナー研究-』(鳥影社)を出版した。本研究は、この著書で展開した論を裏付け補足し、ビューヒナー研究史上における本研究の位置を明確に示し、あわせて、『ヴォイツェック』と『レンツ』の作品が生まれた土壌となる当時の時代背景を主として殺人者の精神鑑定という問題に焦点を絞り明らかにしたものである。科学研究費申請の当初の目標も研究史の外観と時代背景の解明に的を絞り込んだ。その成果が以下の二点である。すなわち、ビューヒナー研究(四)は研究史を、ビューヒナー(五)は時代背景を、それぞれ調査し検討し、従来の論に対して批判的な観点から自らの見解を提示しようと試みた。研究期間の後半は、ビューヒナーの作品に対する演劇的な側面からのアプローチが大きな課題となった。2001年に、ベルリンのシャウ・ビューネで観た『ダントンの死』の公演、ベルクのオペラ『ヴォツェック』の分析、さらには、レッシングやヴァーグナーやデュレンマット等の演劇やオペラの演出への関心。これらはいずれも、申請者のなかでビューヒナー研究を通して得た文体研究の成果が反映された結果である。言葉の戦略的な機能、群集の問題、主人公の感覚による一見断片的としか思えないがしかし基底のところで通じている太くて直線的な流れ。こうした観点からビューヒナー研究と関連する分野の演劇やオペラを観る視点が生まれた結果である。しかし、ベルリンやウィーンでのビューヒナーの戯曲や、その戯曲を台本にしてオペラ化した作品の上演はそう多くはない。このため、演劇的な側面からの研究は未完に終わった.これは今後の課題としたい。
著者
田中 未央 厳島 行雄
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.85-94, 2007-07

不正確な目撃証言による記憶の変容は、証言者の意図が伴わずに生じる現象であり、その原因として事後情報効果などの様々な要因が明らかにされてきた。一方で、事件の加害者や容疑者が意図的に語った不正確な供述、つまり嘘の供述が後の記憶に及ぼす影響についての検討は、あまり行われていない。そこで、本研究では出来事を想起する際に嘘をついた場合、記憶がどのように変化するかを検討するために2つの実験を行った。実験1では、同じ出来事について嘘をついた後の記憶と嘘をつかなかった後の記憶を比較し、出来事を想起する際に嘘をついた場合でも出来事に関する正確な記憶が維持されること、また、嘘をつく際には2つの方略が用いられる傾向があることが示された。実験2では、嘘をつく際に採用される方略を統制し、後の記憶を比較したところ、嘘をつく際に知らないふりをする方略を用いた場合に正確な記憶が抑制されることが示された。実験1・実験2の結果から、出来事を想起する際の嘘の有無ではなく、採用される嘘の方略が正確な記憶を抑制する要因であると考えられる。また、知らないふりをすることでオリジナル(原現象)の想起が抑制されるので、オリジナル記憶のリハーサルが妨害され、正確な出来事を想起することが困難になると考えられる。
著者
林 亜希子
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、反社会的な嘘(登場人物の嘘によって、他者が被害を受けるシナリオ)と向社会的な嘘(登場人物の嘘によって、他者が利益を得るシナリオ)という目的の異なる2種類の嘘に対して被験者がどのように道徳判断をするのかについて明らかにすること、さらに、それらの嘘の道徳判断に関与する神経基盤についてfMRI(functional magnetic resollance imaging)を使用して検討することであった。本研究では、同じ嘘という行為でも、目的に応じて道徳判断が異なり、さらには、それぞれの嘘に対する神経基盤も特異的なものであったという結果を得ることができた。今年度は前年度に引き続き、実験データの考察や解釈のため数多くの論文の精読をこなし、国際雑誌への投稿を目標に英語論文の作成を行った。投稿結果は、差し戻しであったが、reviewerから本研究に対する問題点やアドバイスを頂いた。特に、論文中に記載されている言葉の使い方や解析方法の改善及び追加解析に対する指摘が多かったため、その点の改良を行った。現在、再投稿を行い結果待ちである。道徳判断や道徳的行動に関わる脳活動を詳細に調べることは、人の意思決定などの社会行動における脳のメカニズムの一端を明らかにすることが可能になると考えられる。また、社会的行動の異常、特に道徳的な判断・行動の異常を呈する脳損傷患者の病態の理解に貢献するものと考えられる。本研究の成果が、一部の認知症患者にみとめられる反社会的行動の神経機構の解明や、将来的には症状の早期診断等の一助となることに期待する。
著者
Nisha Balmiki Biswabandhu Bankura Srikanta Guria Tapas Kumar Das Arup Kumar Pattanayak Anirban Sinha Sudipta Chakrabarti Subhankar Chowdhury Madhusudan Das
出版者
(社)日本内分泌学会
雑誌
Endocrine Journal (ISSN:09188959)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.289-296, 2014 (Released:2014-03-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1 15

Recent research has revealed that genetic defects due to mutation in the Thyroid Peroxidase (TPO ) gene can lead to thyroid dysfunction in the population. We aimed to study the association between genetic defects in TPO gene and patients with hypothyroidism found in adult age. Two hundred consecutive treatment naive hypothyroid patients (age ≥ 18 years) (cases) who were negative for anti TPO antibody and their corresponding sex and age matched two hundred normal individuals (controls) were enrolled. The 17 exonic regions of the TPO gene were amplified and sequenced directly. We identified 6 different previously known single nucleotide polymorphisms (SNPs) and 2 novel deletions in TPO gene. Two of the six SNPs revealed a significant association with hypothyroidism; Thr725Pro (rs732609) and Asp666Asp (rs1126797). The c.2173C allele of the Thr725Pro in TPO showed a significant association among hypothyroid patients compared to controls (p = 0.01; Odds ratio=1.45; 95% CI: 1.09-1.92) suggesting it to be a potential risk allele toward disease predisposition. Analysis of genotype frequencies of the polymorphism between the two groups demonstrated CC as a potential risk genotype (p = 0.006; Odds ratio=1.95; 95% CI: 1.2-3.15) for the disease while another SNP Asp666Asp (c.1998T allele) showed protectiveness towards the disease (p = 0.006; Odds ratio = 0.67; 95%CI: 0.50-0.89). To our knowledge, this is first study reporting the role of TPO gene with hypothyroidism in a population of Asian Indian origin. The study threw up the possibility of TPO gene polymorphisms as a possible pathogenetic mechanism of hypothyroidism.
著者
林 里香
出版者
千葉大学教育学部授業実践開発研究室
雑誌
授業実践開発研究 (ISSN:18848818)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.53-61, 2010-03

本稿では、留学生が口頭表現クラスにおいて、聞き手としての役割に気づくことによって、話し手としてのスピーチ作成過程にどのような影響を与えるのかについて考察した。口頭表現クラスには、スピーチをするだけでなく、テーマを決める段階から原稿の作成、発音練習、原稿の暗記、発表の練習、自己評価、他者評価などさまざまな過程がある。留学生は日本語でスピーチを行うため、スピーチ発表当日まで自分の使う日本語の表現や発音を意識し、暗記したものが本番で上手くできるかどうかについて気にしている。そのため、自分のスピーチには関心が高いが、クラスメイトのスピーチに対する関心度には差があった。そのため、筆者は聞き手としての意識を高めるための授業を計画し、実践した。筆者は、留学生がクラスメイトのスピーチに対する評価コメントが書けない理由に自ら気づくための活動を行った。その結果、自分のスピーチをクラスメイトがどのように聞き、また、自分がクラスメイトのスピーチをどのように聞いているのかを気づかせることができた。また、この気づきはその後の「聞き手」としての態度の変化だけでなく、話し手としての彼らの態度の変化へつながり、結果として、スピーチ発表の場の変化へもつながったことを報告する。
著者
林 里香
出版者
千葉大学教育学部授業実践開発研究室
雑誌
授業実践開発研究 (ISSN:18848818)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.53-61, 2010-03

本稿では、留学生が口頭表現クラスにおいて、聞き手としての役割に気づくことによって、話し手としてのスピーチ作成過程にどのような影響を与えるのかについて考察した。口頭表現クラスには、スピーチをするだけでなく、テーマを決める段階から原稿の作成、発音練習、原稿の暗記、発表の練習、自己評価、他者評価などさまざまな過程がある。留学生は日本語でスピーチを行うため、スピーチ発表当日まで自分の使う日本語の表現や発音を意識し、暗記したものが本番で上手くできるかどうかについて気にしている。そのため、自分のスピーチには関心が高いが、クラスメイトのスピーチに対する関心度には差があった。そのため、筆者は聞き手としての意識を高めるための授業を計画し、実践した。筆者は、留学生がクラスメイトのスピーチに対する評価コメントが書けない理由に自ら気づくための活動を行った。その結果、自分のスピーチをクラスメイトがどのように聞き、また、自分がクラスメイトのスピーチをどのように聞いているのかを気づかせることができた。また、この気づきはその後の「聞き手」としての態度の変化だけでなく、話し手としての彼らの態度の変化へつながり、結果として、スピーチ発表の場の変化へもつながったことを報告する。