著者
深井 洋一 田中 廣彦 内藤 成弘
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.597-603, 2011-12-15
参考文献数
25
被引用文献数
1

市田柿の水分分布が関係するカビ発生について新たな知見を得る目的で,予め試験品として選別した健全品とカビ発生品の水分分布を磁気共鳴画像(MRI)法を用いて検討した.1個のカビ発生品を1個または3個の健全品と一緒にスピンエコー法を用いて,0.2テスラの永久磁石と1辺12 cmの開口部をもつソレノイド型検出器を備えた小型MRIで測定した.水分および水分活性に有意差が認められない(<I>p</I> > 0.05)健全品とカビ発生品のMR画像では,NMR信号の強さをMR画像の明るさで表現した場合,両者の明るさに明瞭な違いが認められた.カビ発生品は健全品よりも中果皮,内果皮ともに明るくなるが,内果皮が特に明るくなった.T<SUB>1</SUB>およびT<SUB>2</SUB>緩和時間測定の結果,MR画像の明るい部分では運動性の高い水が増えていた.この明るさの違いは,市田柿のへた側から尻側までのどの横断面でも見られたので,2次元MRIで任意の一断面を測定すれば健全品とカビ発生品の水分分布の違いをとらえることができた.MRIは水分や水分活性ではとらえられなかった市田柿の健全品とカビ発生品の水分分布の違いを,水の運動性の違いからとらえることができたため,品質管理の手段として実用化の進展が期待される.
著者
山口 睦
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.237-256, 2011-12-31

本論は、1945年までの近代日本社会に存在した軍隊への贈与行為を分析対象として、非日常性が強調されがちな戦時下の贈与行為と、それ以前の日常的な贈与行為との連続性を明らかにするものである。そのなかで、近代国家における国民としての贈与行為の特異性が浮かび上がってくると考える。日本社会は、贈与交換研究が始められた「未開社会」と異なり長い貨幣使用の歴史をもち、かつ、被調査者自身による文字記録を豊富にもつフィールドである。本論では、山形県南陽市のある農家が保存していた20世紀前半に記された従軍者への餞別の記録、日露戦争直前に現役兵として過ごした3年間を記録した日記を分析する。また、新聞資料から当時の社会における慰問袋の果たした役割について検討する。以上の分析から、日本国民である、という社会関係において見返りを期待しない、一回性、一方向的な贈与行為、「国民的贈与」領域が確認できる。この国民的贈与とは、既存の社会関係の外にあり、短期的な国民同士という結びつきであるため、従来のイエや個人を単位とした互酬的な贈与行為とは異なる近代国民国家に特徴的なカテゴリーである。ただし、これらの贈与行為は、既存の社会関係を基礎として、家族や友人である兵士へ、郷土の兵士へ、そしてその他の不特定の日本国兵士へ、というように同心円状に発展した。つまり、日常性(普段のつきあい)を土台として、その延長線上に行為対象の拡大を経て、戦時下の贈与(従軍縁、慰問袋の贈与)が形成された。この国民的贈与は、日本社会のみにみられるものではなく、大きくは個人間の私的贈与に対して、国外や国内の不特定多数の人びとに対する慈善行為としての「公的贈与」に含まれる。ただし、国民的贈与は、"公"の領域を国家という1つの枠組みに限定し、さらに本論で提示した戦時下の贈与は、排他的な"国民"を単位とするという特徴をもつのである。
著者
深谷 順子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-16, 2002-03-30

視覚障害者サービスでは,関係機関と連携し,全国レベルのサービスを提供する中心機関の役割が重要である。しかし,日本では,全国レベルのサービス機関の力が弱く,効率的な業務分担が行われていない。本稿は,視覚障害者サービスにおいて世界的に評価の高いスウェーデンの全国レベルのサービス機関(TPB)の役割や関係機関との業務分担の特徴について考察した。その結果,次のことが明らかになった。1)それぞれの図書館や機関の役割が明確で,重複のない分担体制が確立されている。2)それぞれの施策が十分利用されて効果を発揮するように,配慮され体系化されている。3)効率的な分担体制の中心は,全国レベルの充実したサービスであり,これによって他の機関の任務が明確になり,負担が軽減されている。4)上記の1つの要因は,TPBと公共図書館がともに教育省の下にあることによって,視覚障害者サービスが一元化されていることである。
著者
岡田 長保 住田 良夫 高島 康治 田中 徳太郎 明石 善久 大橋 高明 伊藤 一夫 絵野 幸二
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.143-150, 1997-04-20
参考文献数
10
被引用文献数
5

肺癌検診発見肺癌の特徴や検診が内包する問題点を考察するため, 1987年以降7年間に, 兵庫県津名郡に於ける老健法に基づく検診で発見された肺癌23症例(A群)について検証した.臨床病期は0,I期が13例(56%), 根治手術率48%, 5年生存率48.9%, 95年9月現在, 11例が生存中でその内10例までがI期発見であった.23例中, 発見前年には受診歴がない非経年受診群は12例, 前年にも受診歴がある経年受診群は11例でIIIB期以上の進行癌は前者に多かった.然しI期症例の62%が前者に属し, その原因は個々の肺癌症例の肺癌進展速度差にあり, 検診成績を支える予後良好なI期肺癌の多くは進展速度が緩やかな症例であった.又, 検診と同一期間, 同一地域での日常診療発見肺癌29症例(B群)との対比でも, length biasを始め種々のbiasが認められ, 進展速度が遅い肺癌はB群よりもA群に多かった.進展の速い肺癌をできるだけ早期に検診で発見するという困難な課題が残されている.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1463, pp.90-94, 2008-10-27

9月1日、東京都内で開かれたシャープの新製品発表会。21世紀型の健康・環境商品の目玉として、片山幹雄社長が掲げた3つの柱の中に「LED(発光ダイオード)照明」があった。白熱電球や蛍光灯など、従来の照明と比べ低消費電力と長寿命のメリットがある。 ろうそく、白熱電球、蛍光灯に続く「第4の明かり」と呼ばれるLED。
著者
許 秀美
出版者
大谷大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究は、日本国立国会図書館に所蔵されている「朝鮮筆記」という写本に収録された、かな書き朝鮮語語彙に着目し、同時期に編纂されたその他のかな書き朝鮮語語彙集と比較しつつ、ハングル表記の復元および音韻論的検討をおこなったものである。さらに「朝鮮筆記」が合綴されている「加模西葛杜加国風説考」をはじめとする10種類の資料について文献学的検討をおこない、それぞれの底本を明かにした。
著者
嶋田 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.247-252, 1982-10-28
被引用文献数
4

オーチャードグラスの耐冬性選抜に用いる耐寒性検定法として,MARSHALLがエンバクに用いた冠部凍結法を採りあげ,その有効性ならびに最適な手順を検討した。その結果,本法がオーチャードグラスにも適用できる精度の高い検定法であることを認めた。また検定に際しては次のような手順が最適と考えられた。(1)圃場でハードニングを行う場合,毎年播種期を統一して幼苗の生育程度を整える。本実験では9月1日とした。発芽後間引いて個体を養成し,11月中旬から12月上旬に掘りとり検定する。(2)秋期以外に検定を行う場合,ハードニング装置を用いる。60〜70日苗を3℃,8時間日長で3週間ハードニングするとほぼ圃場並の耐寒性の増大が期待できる。(3)根を冠部の下から約0.5cm,地上部を3〜4cm残して切除し,水洗後アルミホイルに包み,脱気密封する。(4)これを冷凍器(精度±0.5℃)に入れ凍結処理する。凍結時間は16時間とし,材料のハードニング程度を推定して,平均で50%程度の個体生存率が得られるよう凍結温度を決定する。材料の耐寒性程度に大きな変異があるときは,2℃ずつ異なる2〜3水準の凍結温度で処理し,その平均値で評価を行う。処理に際しては,まず2〜4時間材料を0℃に置き,熱平衡に達してから,1時間に20℃の割合で温度を低下させ,所定の温度に16時間置いたのち2℃で解凍する。(5)凍結前に材料を-30℃の冷凍器に2〜3週間保存することができる。その際材料の耐寒性は増大するので留意する。(6)材料を温室のバーミキュライト床に移植,3週間後の発根程度により評価を行う。
著者
亀田 卓彦 藤原 建紀
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.59-68, 1995-08-31

瀬戸内海の灘部の底層には夏季に低温・低酸素の水塊が形成される.本報ではこの水塊を底層冷水と呼ぶ.この中で,別府湾の底層冷水についてその形成過程と,交換時間・酸素消費速度を求めた.8月の交換時間は1700日であり,水塊の存在時間よりも長い.この交換時間を用いて,底層冷水内の海水の年齢組成を求めた.9月になってもその体積の70%以上が,成層ができる以前(4月)の水である.このことは,別府湾の底層冷水は冬季の海水が水温上昇期に加熱から取り残されてできたものであることを示している.底層冷水はまた貧酸素水塊でもある.この水塊中の酸素消費速度は0.5〜1.0gm^<-2>day^<-1>であった.別府湾底層での強い貧酸素化は,底層冷水と外部との間の海水交換が少なく,外部からの酸素の供給が少ないために起こる.
著者
吉田 康行
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グランジュッテはクラシックバレエの基本的な跳躍動作の一つとして知られている.グランジュッテの最後には片脚での着地が必要となる.しかし,グランジュッテはこれまでバイオメカニクスの研究対象にはなってこなかった.本研究は着地動作におけるダンス技能を考察するために研究計画を立てた.そして,運動学と運動力学のデータを解析に使用した.グランジュッテのダンス技能は着地後にブレーキ力を制御する方略に現れることが明らかとなった.
著者
戸花 照雄 上 芳夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B-II, 通信II-無線通信・無線応用 (ISSN:09151885)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.812-818, 1996-11-25
参考文献数
11
被引用文献数
19

プリント回路基板(PCB)からの放射妨害波は,EMC/EMIの分野での深刻な問題である.PCBのグラウンド雑音はコモンモード放射源となる可能性が高く,そのためここではグラウンド電流が作る近傍磁界に着目している.線路パターンの位置が異なる有限な大きさのPCBの銅箔の表と裏の磁界分布について,実験的に考察し,理想的な状態で計算した磁界分布との比較を行っている.更に,基板から放射される遠方電界の測定を行い,実験から求めた基板縁の電流から簡単に求めた計算値との比較を行っている.これらの結果からPCBの線路パターンの存在する誘電体側(表側)だけでなく,PCBの裏側の部分にもかなり高いレベルの磁界分布が確認され,このコモンモード電流が放射電界に大きくかかわっていることを明らかにした.
著者
小花作之助 [著]
巻号頁・発行日
1800

文久元年(1861)12月、幕府は領有権確立と開拓のため、咸臨丸(かんりんまる)で小笠原諸島に幕臣を派遣したが、生麦事件の余波で、八丈島から来た開拓民を含む全員が同3年5月に引き揚げた。本資料は外国方定役の小花(おばな)作之助の著作(『稀本あれこれ』参照)。派遣員の氏名、小笠原諸島の略史などを述べたのち、「草木禽獣虫魚の概略」と題して農作物・家禽・家畜・野生動植物について記す。ニワトリ・ブタ・ヤギがすでに野生化していること、猫と鼠が甚だ多いなどの記述がある。末尾には「附言」があり、その中で「文久2年2月末から約1年間に寄港した外国船は12隻、うち9隻が米国捕鯨船」の旨を記す。(磯野直秀)
著者
岩崎 英哉 中野 圭介 鵜川 始陽
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は,サーバ側で実用的な性能で動作する サーバサイドJavaScript処理系を開発することにより,煩雑な Web アプリケーション開発のコストを大きく低減させることを目指し,以下の成果を得た.(1) プログラムの実行情報を利用した最適化を行い実行速度を向上させるJavaScript処理系を構築した.(2) JavaScriptプログラムとC言語で記述されたプログラムとの連携を可能とする機構を構築した.(3) イベント駆動方式サーバのための並列JavaScript処理系を設計し実装した.(4) JavaScriptプログラムの安全な実行の基礎となる型システムを構築した.