著者
坂本 篤郎 堀田 龍也 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.85-88, 2009
参考文献数
4

初等教育の教科学習での協調学習場面において,教師が学習者のどのような要因に着目して足場はずし(Fading)を行うのか明らかにすることを目的とし,10名の小学校教師に対して質問紙と半構造化インタビューを用いて調査を行った.抽出された足場はずしを,それらが行われた際の理由や状況によって類型化した結果,3つのカテゴリ,7つのサブカテゴリに分類することができた.以上より,教師が協調学習場面で足場はずしを行う際に認識している観点が示された.
著者
光村 実香
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101822-48101822, 2013

【はじめに、目的】訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、利用者の生活を基盤としたリハビリテーション(以下、リハビリ)を展開することが重要である。そのためにリハビリ専門職である理学療法士(以下、PT)、作業療法士、言語聴覚士らは訪問リハを行う上で自らの職業専門性を発揮することが必要だと考える。しかし現在、訪問リハにPTが携わることの意義や効果については不明確である。そこで本研究では、訪問リハにおいてPTがどのような関わりや場面で理学療法の専門性を意識し、実践しているかのプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】対象者はスノーボールサンプリング法により抽出された訪問リハ経験年数1~12年のPTp9名(女性6名、男性3名)である。調査期間は2012年3月6日~2012年11月7日であった。まず訪問リハ業務で理学療法の専門性が役に立った(役に立っている)経験や他職種と関わりの中でのPTとしての役目などについての質問項目をインタビューガイドとして作成し、それをもとに半構造化面接を行った。面接時間は60~90分、インタビュー内容は録音し、インタビュー終了後逐語録におこした。分析は、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて、概念やカテゴリーを生成し結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い、同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。内容は1)調査結果は連結可能匿名化を行い、個人が特定されないようにすること2)調査結果は厳重に保管し、研究以外の目的で使用されないこと3)研究への参加は自由意志で調査の途中でも参加を拒否することができ、それによって不利益を生じないこと4)本研究への協力に関する謝金の支払いがないことである。【結果】【カテゴリー】3、〈サブカテゴリー〉2、「概念」11を抽出した。PTが訪問リハにおいて理学療法の専門性を意識し、実践するプロセスは、他職種や家族との協業を通して利用者の生活動作をより良いものに創作するためにPTの専門的知識技術を再認識し、役割を見出していくことであった。以下に【カテゴリー】、〈サブカテゴリー〉、「概念」を用いてストーリーラインを示す。訪問に従事するPTはまず、利用者が「生活の中でしたいこと」を聞き出し、叶えようと努める。また維持期に入り大きな機能変化が望めない場合でも現状の「在宅生活を成り立たせるために」身体・精神的関わりを探り、安心して生活できるようにする。一方で利用者や家族、他職種には「リハビリに対する絶対的病院イメージ」があるため病院で行うリハビリを期待され、PTが考える生活を基盤としたアプローチとの間に相違が生じる。こうした要因の中でPTは【訪問でPT関わる意味を模索】し、悩む。しかし「限られたサービス時間・頻度」や利用者の生活全般を支えるのが「家族やヘルパーが介護の主体」であることから、訪問時の直接的アプローチだけではなく【他職種や家族との協業で成し得ること】を基盤にアプローチの幅を広げていく。すると他職種との関わりの中で【PTの専門性を意識した関わり】として「生活を見据えた身体機能評価」や「安全に動きやすくすること」、「動作から現象を説明すること」が〈PTだからこそ言えること、できること〉だと認識し、「情報発信伝達役」、「生活環境課題発見役」、「生活動作評価役」など動作からみて考えること、それを他者へ伝えることで他職種との差別化を図り〈PTが関わることの役割を見出す〉。【考察】在宅という特性から活動や参加を意識したアプローチが必要であり、そのために利用者以外にも家族や他職種など様々な背景や立場を持った人々と協業関係を構築しながらアプローチを展開しなければならない。この関わりを通して訪問に従事するPTは、病院でのリハビリとの差異を感じながら、訪問業務における理学療法の専門性について意識し考えるようになり、PTが関わることの意義を見出そうとしていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】訪問リハでのPTの役割を明確化する一助となる。それにより他職種との連携が図りやすくなり、利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
任 章
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-20, 2015-03

米国会計学会『基礎的監査概念』(ASOBAC, 1973)は、現代の監査概念形成に関りマウツ=シャラフ『監査哲学』(1961)の貢献が多大であると認めている。マウツらが監査証拠の属性に見出していた要素と、彼らが用いた接近法は、畢竟、米国20世紀初頭に興隆した実用主義基盤の分析哲学観の応用であった。本稿の目的は、監査概念基盤に対して現代哲学が強く影響した可能性について論究することにある。本稿にては殊に、嘗てマテシッチ(2008, 序言)が言及していた視座、なかんずく「会計史は哲学史に相似性を有する。それはドクトリンかつ方法論の歴史であり、財務上のリアリティーを実用主義的に表現する方法の一つである」、に依拠し、監査概念基盤への分析哲学の浸透過程を探る。以って筆者は、会計とは事実的記録に過ぎず、監査とは報告数字の単なる検証に留まるという、根深い、軽薄な社会的妄信の打破に努める。
著者
渕元 純子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.396-398, 2005-01
被引用文献数
1

少子化の波が押し寄せ, 合計特殊出生率は1.29という戦後最低の値を示した。また, 伝統的にあった三世代複合世帯や「向こう三軒両隣」といった近隣関係は崩れ, 子育てを家族内や地域で支え合う旧来の関係は期待できない時代となっている。孤立したなかでの子育てが増え, 育児不安が増大し, 親のストレスはたまり, そしてついには子どもの虐待が始まる。子育て、女性健康支援センター (社)日本助産師会は, 「母子に身近な地域で, 助産師が気軽に相談に応じることにより, 親の育児不安の緩和、解消および育児ノイローゼやマタニティーブルーの予防を図り, ひいては子どもの虐待を防止する」ことを目的に, 平成10年度より各支部に「子育て、女性健康支援センター」の設置を推進してきた。これを受けて, 滋賀県支部では平成11年度より電話相談、来所相談、訪問相談を中心とした活動を開始した。相談内容の概略 実際の相談内容は多岐にわたる。平均相談時間は11分で8割は15分以内だが, 2時間を超える相談も少なくない。
著者
高木 浩人
出版者
愛知学院大学
雑誌
心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
no.2, pp.61-67, 2007-03

本研究は205名の大学生を対象に,組織への帰属意識と充実感との関連について検討した.重回帰分析の結果,充実感のすべての要素(充実感,孤立感,自立・自信,自己の存在の肯定)が,大学生の所属組織への組織コミットメント3要素(内在化要素,愛着要素,規範的要素)によって説明可能であることが明らかとなった.とくに,(a)内在化要素は,充実感,自立・自信,自己の存在の肯定と有意な正の関連を示し,(b)愛着要素は充実感と有意な正の関連を,孤立感と有意な負の関連を示し,(c)規範的要素は自己の存在の肯定と有意な正の関連を示していた.今後の研究への含意が議論される.
著者
Yasuhiro Ito Shinichi Suzuki Ken-ichi Ito Tsuneo Imai Takahiro Okamoto Hiroya Kitano Iwao Sugitani Kiminori Sugino Hidemitsu Tsutsui Hisato Hara Akira Yoshida Kazuo Shimizu
出版者
(社)日本内分泌学会
雑誌
Endocrine Journal (ISSN:09188959)
巻号頁・発行日
pp.EJ16-0064, (Released:2016-05-20)
被引用文献数
23

Differentiated thyroid carcinoma (DTC) is generally indolent in nature and, even though it metastasizes to distant organs, the prognosis is normally excellent. In contrast, the overall survival (OS) of patients with radioactive iodine (RAI)-refractory and progressive metastases is dire, because no effective therapies have been available to control the metastatic lesions. However, recently, administration of tyrosine-kinase inhibitors (TKIs) has become a new line of therapy for RAI-refractory and progressive metastases. Previous studies have reported significant improvement regarding the progression-free survival rates of patients with metastatic lesions. However, TKIs cause various severe adverse events (AEs) that damage patients’ quality of life and can even be life-threatening. Additionally, metastatic lesions may progress significantly after stopping TKI therapy. Therefore, it is difficult to determine who is a candidate for TKI therapy, as well as how and when physicians start and stop the therapy. The present review, created by Committee of pharmacological therapy for thyroid cancer of the Japanese Society of Thyroid Surgery (JSTS) and the Japan Association of Endocrine Surgeons (JAES) describes how to appropriately use TKIs by describing what we do and do not know about treatment using TKIs.
著者
谷本 奈穂
出版者
日本マス・コミュニケーション学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
no.51, pp.168-181, 261, 1997-07-31

This paper focuses on the attractiveness of popular Comics. At first, in previous studies and the questionnaires sent to the readers of comics, I suppose readers (high school students) felt uncomfortable. Secondly, I tried to examine the contents of the most popular comics, paid more attention to the readers' interests. And the popular comics show the development of youth, their social relations and provide bracing laughter. Lastly , I concluded that the readers, situation and comic contents have a relationship. Instead of "true satisfaction", the readers seem to be satisfied with the world of comics. The popular comic is instrument of healing for readers.
著者
川口 洋 出田 和久 加藤 常員
出版者
帝塚山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、人文系データベース構築事例のポータルサイト・データベースを構築して、人文系データベース協議会ホームページ(http://www.jinbun-db.com)から一般公開した。さらに、本システムに人文系データベースの構築事例を登録申請するためのアンケート回答者用Webアプリケーション、管理者用Webアプリケーションを開発した。国立国会図書館からD-Naviデータの提供を受け、人文系データベース協議会会員や関連学会会員の協力により、Webアンケートを行った結果、本システムには約2万3千件のデータベースが登録されている。
著者
須藤 康介
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.53-61, 2010-03-10

The purpose of this article is to review the empirical studies of academic achievement disparity in Japan and USA, and to lead suggestions for Japan. By reviewing those studies, it is found out that although the existence of academic achievement disparity is pointed out in Japan, the process of disparity and the way to overcome it still remain unrevealed. On the other hand, there are many studies in USA because of its historical and social background, and they also include many suggestions for Japan. But it is unsure whether we can apply the knowledge in USA to Japan.
著者
Makoto Tokunaga Ayumi Beppu Yasuki Tamura Kumiko Oowaki Yoshimi Tokunaga Chika Ishihara Kiyomi Shibata Kiyomi Tanaka Masako Takayama
出版者
一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会
雑誌
Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science (ISSN:21855323)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.7-12, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Tokunaga M, Beppu A, Tamura Y, Oowaki K, Tokunaga Y, Ishihara C, Shibata K, Tanaka K, Takayama M. Relationship between improvement in GNRI, a nutritional index, and improvement in motor FIM in elderly stroke patients hospitalized in a Kaifukuki Rehabilitation Ward. Jpn J Compr Rehabil Sci 2016; 7: 7-12.Objective: To clarify the relationship between improvement in the Geriatric Nutritional Risk Index (GNRI) and improvement in the Functional Independence Measure (FIM).Methods: The subjects were 155 patients aged 65 years or older selected among stroke patients admitted to a Kaifukuki Rehabilitation Ward. Seven items, including GNRI at hospital admission and degree of GNRI improvement, served as independent variables. For multiple regression analysis, motor FIM score at hospital discharge was the dependent variable. For multiple logistic regression analysis, motor FIM gain (1:13 points or more, 0:12 points or less) was the dependent variable.Results: GNRI at admission was a significant positive independent variable in the multiple regression analysis. GNRI at admission and degree of GNRI improvement were both significant independent variables in the multiple logistic regression analysis, with odds ratios of 1.084 and 1.090, respectively.Conclusion: Improvements in motor FIM are greater when GNRI at admission and the degree of GNRI improvement are larger.

5 0 0 0 OA 徳川文芸類聚

著者
国書刊行会 編
出版者
国書刊行会
巻号頁・発行日
vol.第4 (怪談小説), 1914
著者
猿渡 隆夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

1.予測方法 多くの地震を解析した結果、台風が温帯低気圧になる時や低気圧が発達する時、激しい下降気流が発生し、地面・水面に当たった地点で、数か月後、地震が発生していることが分かった。下降気流が当たった地点では、最大瞬間風速の増加が認められた。また衛星画像では、雲の無い領域として写っていることが分かった。1)数ヶ月から数年ぶりの最大瞬間風速が記録された地点で地震発生の可能性が高い。2)地震の大きさは、強風域の幅または雲の無い領域の幅が震源域の幅と一致することから、推測できる。3)強風日から1週間から7ヶ月後位に地震が発生する。4)震央近傍の風向が、メカニズム解の軸と一致する。2.予測方法の実証 2010年地震学会で予測方法を発表以降、2011東北沖地震など、多くの予測例・解析例があり、この予測方法が実証されたと考えている。3.2016年4月7日の発達した低気圧からの地震予測 前線を伴った低気圧が日本海を進み、東北付近を通過して、夜には三陸沖へ。全国的に雨となり、西日本や東日本で南寄りの風が強く吹いた。 熊本県阿蘇山では午前09:53に最大瞬間風速43.9メートル(南南西の風)(2007年以来9年ぶり)が観測された。また、長崎県では、長崎で最大瞬間風速29.3メートル(南風)、雲仙岳で35.2m/s(南西の風)が観測された。4月1位の記録が更新された。 予測方法に基づき、雲仙岳から阿蘇山付近にかけて地震の可能性があると予測された。発生時期は1週間後から7か月後と予測され、7日後に発生した。4.2016年熊本地震4月14日 21時26分 熊本県熊本地方 M6.5 4月16日 01時25分 熊本県熊本地方 M7.3 5.詳細解析と結論 別表・別図に気象庁の熊本県・大分県の全観測地点の4月7日の最大瞬間風速を示した。赤字は最大瞬間風速が高い地点である。別図の赤枠は、気象庁作成の震央分布図の枠である。阿蘇山の南西から北東にかけて、最大瞬間風速が周辺と比べて高い領域がある。この領域は、別図に示した気象庁作成の震央分布図(赤枠)とほぼ一致している。すなわち、他の多くの地震同様、地震発生前の最大瞬間風速等から、地震の発生場所と地震の大きさを予測することができる。 マントル対流や活断層が地震の原因ではなく、下降気流の強風が地震の原因と考えるべきである。 参考文献1. http://www2.jpgu.org/meeting/2011/yokou/MIS036-P85.pdf2. http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/S-CG56_P.pdf
著者
酒井 健吾 長谷川 宏一 泉 岳樹 松山 洋
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1. はじめに近年,小型の無人航空機(UAV; Unmanned Aerial Vehicle)を用いて撮影した複数の画像から地表面の三次元データを作成する手法が注目されている。UAVを用いてステレオペア画像を撮影し,SfM(Structure from Motion)ソフトウェアで処理すると,対象物の三次元点群データ,三次元モデルを作成することができる。さらに,この三次元モデルから,空間解像度数cmのオルソモザイク画像や数値表層モデル(DSM; Digital Surface Model)を得ることもできる。これらは条件によってはレーザ計測と同等の精度が得られるという報告がある(小花和ほか,2014)。一方,植生を対象とした場合,精度が落ちるという報告もされている(Harwin and Lucieer,2012)。これは,画像の解像度が十分でないこと,風により植生が動いてしまうこと,影になっている部分が再現されにくいことなどが原因として挙げられる。そこで本研究では,直下視画像に加えて,斜め視画像を加えてSFMで処理を行うことで,森林樹冠のDSM作成を試み,その再現精度の検証を行った。2. 研究手法対象地域は八ヶ岳南麓のカラマツ林(緯度35° 54' 34''N , 経度138° 20' 06''E)であり,2015年7月にUAVを用いて樹冠上から空撮を行った。機材にはK4R(K&S社)を使用した。K4Rは電動マルチコプタ(クワッドコプタ)であり,飛行にはGround Station(DJI社)の自律航行機能を利用した。UAVにコンパクトデジタルカメラGR(RICOH社)を搭載し,1秒間隔で写真を撮影した。K4Rのジンバルは角度を変えることができるため,直下方向に加えて前後方45°の撮影も行った。飛行方向は東西方向であり,約9,000m2の範囲に対し合計823枚の画像を取得した。次に,撮影したステレオペア画像を,SfMソフトウェアPhotoScan(Agisoft社)を用いて処理を行い,三次元点群データ,三次元モデルを作成した上で,オルソモザイク画像・DSMを作成した。これらの処理を,約250m2の範囲に対し,(1)対地高度100mから撮影した直下視画像70枚のみ,(2)(1)に,対地高度50mから撮影した直下視画像54枚を追加(3)(1)に,対地高度50mから撮影した斜め視画像54枚を追加という3パターンの画像を元に解析を行い,作成したDSMの再現性を比較した。3. 結果と考察3つのパターンで,空間解像度2~2.5cmのDSMを作成することができた。(1)では実際にギャップになっている部分もモザイクをかけたように,凹凸の少ない平坦な形状として表現されてしまった部分があった。一方,(2)や(3)にもこのような部分はあったが,(1)のものよりは少ないことが確認できた。三次元点群データを上空方向から見たときの画像で,点群がない部分(三次元形状が復元されていない部分)の面積割合を求めたところ,(1)では17.5%,(2)では12.8%,(3)では9.7%となり,直下視画像を加えた場合よりも,斜め視画像を加えた場合の方が,三次元点群データして再現された割合が多いことがわかった。この結果から,直下視画像に斜め視画像を加えることで,特にギャップなど直下視のみでは影になる部分の再現精度が上がる事が明らかになった。同じ枚数の直下視画像を加えた場合よりも再現度の向上率は高く,斜め視画像を加えたことによる効果の高さを示した。UAVとSfMソフトウェアによってDSMを作成する場合,UAV飛行のコストとリスクを減らし,処理時間を短縮するためにも,より少ない撮影回数,総飛行時間で必要なデータを取得する事が求められる。本研究はそのためのひとつの知見となることが期待される。今後の課題としては,精度のチェック,解像度の向上,斜め視画像の角度・方向の検討などが挙げられる。4. 参考文献小花和宏之,早川裕弌,齋藤 仁,ゴメスクリストファー : UAV-SfM手法と地上レーザ測量により得られたDSMの比較, 写真測量とリモートセンシング, 53, pp.67-74, 2014.Harwin, S. and Lucieer, A.: Assessing the accuracy of georeferenced point clouds produced via Multi-View Stereopsis from Unmanned Aerial Vehicle (UAV) imagery, Remote Sensing, 4, pp.1573-1599, 2012.
著者
鈴木 敬子 石川 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

数値標高モデル(DEM)から作成した陰影起伏図は,地形の視認性に優れ,地図の背景にも適した地形表現の一種である.しかし,陰影は光源設定や標高値の強調率に依存し,微地形や複雑な地形を正確に描くことは不可能であった.本研究では,陰影起伏図において光源が与える影響と,斜面方位に応じた陰影の濃度分布に着目し,起伏の規模に関わらず総ての地形が表され,かつ,地図の背景として適した陰影起伏表現の作成を試みた.まず,地形に複数の光源を設定し,最適な光源分布を検討した.複数光源では,全ての斜面に光量と濃度が異なる陰影が与えられ,方向依存性を軽減できるものの,極めて小さな起伏の表現が難しい.そこで,新たに陰影の不足箇所の抽出と補間方法を検討した.その結果,水平方向からの適切な光量と,それらと直交する方向のうち第3,4象限における方位クラスタリング処理から濃度を動的に変化させた陰影を合成することで,従来は表現不可能であった大小の地形が明瞭に描かれることを確認した.本手法による地形の陰影表現は適度な過高感を持ち,任意の色調の段彩と合成しても違和感が少なく,背景図としても利用可能であると考えられる.
著者
牧野 秀成 若林 伸和 矢野 吉治 塩谷 茂明
出版者
公益社団法人 日本航海学会
雑誌
日本航海学会論文集 (ISSN:03887405)
巻号頁・発行日
vol.125, pp.191-197, 2011
被引用文献数
2 2

External forces of marine weather, such as waves, currents and wind flows, affect the course and speed of a ship under way. As a result, marine accidents, such as collisions or grounding, may occur, particularly in inshore areas. On coasts where earthquakes and tsunamis occur frequently, such as the Japanese coast, a tsunami that advances into a bay from the open sea is influenced by the submarine topography. It grows into a huge wave that could cause tremendous damage to ships under way and at anchorage. A massive earthquake occurred in the Tohoku and Kanto regions of Japan on 11 March 2011. In response, a tsunami alert, a tsunami warning and an advisory were issued for the entire Pacific coast region. This research investigates the evacuation behaviour of ships by AIS data in Tokyo bay and Osaka bay after the tsunami warning was issued. The unusual behaviour observed was attributed to the emergency evacuation of ships. In addition, the propagation direction of the tsunami was clarified by analysing the drift situation of each ship.
著者
片田 敏孝 桑沢 敬行 金井 昌信 児玉 真
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.191-198, 2004-10-29 (Released:2007-12-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

防災施設に想定外力が設定されていることからも明らかなように, 自然災害に対する「安全」は限定的なものであるにもかかわらず, 多くの住民は正常化の偏見などの様々な心理的要因により, 過大な「安心」を感じている. 本稿では, 2003年5月に発生した宮城県沖の地震を事例に, 津波襲来の危険にさらされた住民の心理と避難行動の関連について詳細に分析した結果から, 住民意識の問題点を明らかにし, そのうえで, 津波災害に対する「安心」の一概念を提案し, その視点から住民の津波避難に関わる対策や防災教育のあり方を検討するとともに, 自然災害に対する安全・安心な社会の実現のための社会技術について提言した.