著者
井上 誠章
出版者
三重大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

イセエビは千葉県以南の本州の太平洋側,九州沿岸,種子島,奄美大島,屋久島,韓国の済州島および台湾北岸に生息する重要な漁獲対象種である.このイセエビの親個体群構造に関しては,以下の2つの仮説が考えられた.すなわち,1)全くランダムに混ざり合って各々の水域に分散して着底するのか,それとも,2)特定の水域にあるまとまりを持ってプエルルス幼生として着底するのかである.上記いずれの場合においても,今後イセエビの合理的な資源管理を行うためには,イセエビの親個体群構造を把握することは必要不可欠であり,かつそれを把握することは上記のフィロゾーマ幼生の輸送・分散経路を含んだ幼生加入過程のさらなる解明の糸口になる.昨年度までの結果を踏まえて,五島列島,三重および千葉よりそれぞれイセエビ成体サンプルを採集し,それらのmtDNAのCOI領域を解析した.この結果,前年度までの予想どおり,イセエビの親個体群は大きくはひとつの個体群を形成することが明らかになった.これらとあわせて,黒潮流路とイセエビの漁獲量変動との関係の調査を行った.その結果,各県の漁獲量の変動より,本邦のイセエビは,潮岬以西と以東の2つのグループに,すなわち九州を中心したグループと三重,静岡および千葉の3県によってまとめられるグループに分割できた.これらの結果からは,イセエビは遺伝的に均一な大きな一つの個体群を形成しており,そのなかで潮岬以西と以東に分割できるような地域個体群が存在するという結論が引き出せる.

1 0 0 0 OA 朝暾集

著者
貴志忠美 [著]
巻号頁・発行日
vol.[10], 1800
著者
Naoki HAYASHI Satoru MONZEN Koichi ITO Tsuyoshi FUJIOKA Yukio NAKAMURA Ikuo KASHIWAKURA
出版者
Journal of Radiation Research Editorial Committee
雑誌
Journal of Radiation Research (ISSN:04493060)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.195-201, 2012 (Released:2012-04-17)
参考文献数
28
被引用文献数
8

The present study aimed to estimate the clonogenic and differentiation potential of induced pluripotent stem (iPS) cells exposed to ionizing radiation. Compared with mouse hematopoietic stem/progenitor cells, iPS cells were less sensitive to radiation. To examine the effect of ionizing radiation on the early differentiation pathway of iPS cells, we assessed embryoid body (EB) formation. Although EB formation was observed at all radiation doses, EB diameter decreased in a radiation dose-dependent manner. At the same time, we analyzed the expression of genes specific to differentiation in the initial iPS cells and cells of EB. The expression of the endoderm marker Afp increased remarkably in cells of EB derived from non-irradiated iPS cells; however, in irradiated cells, this expression significantly decreased in a radiation dose-dependent manner. Further, the expressions of the pluripotent stem cell markers Nanog and Oct-4 and the early mesoderm marker Brachyury significantly decreased. The results of the present study suggest that radiosensitivity with regard to gene expression differs at various stages in the early differentiation pathways of iPS cells that lead to the formation of the 3 germ layers; the sensitivity is the highest in the genes expressed during the differentiation pathways of iPS cells, leading to the formation of the endoderm.
著者
谷原 真一
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

地域における多・重複受診者の受療行動及び服薬状況などの実態把握を目的として、T県A市の老人医療受給対象者のうち、1997年6〜8月又は1998年6〜8月の期間で受診件数(診療報酬請求明細書の枚数)が上位1%の者(多受診者)、及び1月間に同一診療科を3か所以上受診したか、2月以上連続して同一診療科を2か所以上受診した者(重複受診者)を対象に保健婦による聞き取り調査を実施した。調査対象とされた317人中、241人(76.0%)から回答が得られた。薬剤服用状況については、処方された薬剤を全て服用すると回答した者が202人(83.8%)、一部のみ服用すると回答した者が39人(16.2%)であった。1日に処方されている薬剤数の合計は、平均11.8錠であった。最大値は37錠であり、「なし」と回答した者が5名認められた。1日平均5-9錠を処方されている者が全体で73人(30.3%)ともっとも多く、33人(13.7%)が1日20錠以上の薬剤を処方されていた。薬剤服用状況別に1日の平均処方薬剤数をみると、一部のみ服用すると回答した群が10.2錠、全て服用すると回答した群が12.2錠と、全て服用する者の方でより多くの薬剤を処方されている傾向が認められた。老人保健医療給付対象者中の多・重複受診者の大半が処方された薬剤を全て服用していたことが明らかになった。しかし、実際に受けている医療行為の全てが有効に利用されているわけではない事例も存在することが示された。高齢者に必要な医療サービスを提供しつつ、医療費の高騰を抑制するためには、多・重複受診者と判定されたものを一律に指導するのではなく、診療内容に関する情報を把握しておくことが重要と考えられた。
著者
宮内 良一
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, 1990-07-20

第68回NAB(National Association of Broadcasters)大会が, 1990年3月31日〜4月3日まで, アメリカ合衆国ジョージア州アトランタのジョージアワールドコングレスセンターにて開催された.今回その民放連ツアーに参加したので報告する.今回の参加人員は約50000人, 海外からは約6000人.約15万m^2の会場に700以上もの業者が出展していた.〔NAB会長 エディフリッツ氏の挨拶〕この10年間を振り返ってみると, 1980年初めには, VCR(家庭用VTR)はなかった.しかし現在では, 2/3以上の家庭がVCRを持っている.またケーブルテレビも, その頃には出始めのため政府の保護を受けなければならなかったが, 今ではすっかり安定している.1980年代には, 技術の進歩に伴い放送界は大きく変化した.海外の放送事業者との関係が一段と密接になり, 災害や事件の時には世界のどこであろうとも一番先に飛んで行き, 世界中にそのあり様を"生"で映し出してみせた.我々放送業界は, CATVに対抗してフリーでこれらのサービスを行ってきたし, これからもそのようにしていかなくてはならない.しかし, その前には大きな波が押し寄せてきている.皆で力を合わせ, 共に立ち向かっていかなければならない.CATVもさることながら, 我々"Free TV"の果たしている役割はずっと大きいし, 国会もそれなりの法律を制定し, 我々に協力すべきである.CATVとは, 法律の規制を同じにし, 公平な立場で競争させてほしい.今後, アメリカおよび日本の民放は, ローカルサービスに励み, 地域社会に密着したサービスを充実していかなければ生き残ってはいけないだろう.
著者
鈴木 智之
出版者
日本図書館協会
雑誌
カレントアウェアネス (ISSN:03878007)
巻号頁・発行日
no.280, pp.2-3, 2004-06-20
被引用文献数
1
著者
黒井 伊作
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.301-306, 1985
被引用文献数
5 11

ブドウ'巨峰'のガラス室栽植樹並びに1芽挿しを用い, 石灰窒素 (CaCN<sub>2</sub>として55%含有) の20%温水浸出液及びH<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>塗布処理が芽の休眠打破に及ぼす効果を試験した.<br>CaCN<sub>2</sub>をカラス室栽植樹に塗布した春先の発芽状況は12月, 1月, 2月の各処理区で, それぞれ16日, 9日, 5日の発芽促進となり, 休眠の深い時期の処理で発芽促進効果が高く, これまでの実験結果と一致した. 3% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区では同じ時期の処理で, それぞれ15日, 7日, 4日の発芽促進となり, CaCN<sub>2</sub>区と同じ傾向の休眠打破効果が認められた.<br>一方, 切り枝の挿し木実験では, 12月中の置床でCaCN<sub>2</sub>並びに0.5%及び1% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区は2~4日の発芽促進であった. 挿し木における発芽促進程度は栽植樹に比較してはるかに低く, また, 挿し木では2% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>以上の濃度では薬害による枯死芽がみられ, 有効濃度は栽植樹の1/3~1/6でよかった. これらのことは, 切り枝による強い創傷効果が休眠を浅くしたためと考えられた.切り枝の休眠を完了した2月下旬では, CaCN<sub>2</sub>及び1%H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区においても薬害が発生した.<br>本実験の結果からH<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>はブドウ'巨峰'の休眠打破にCaCN<sub>2</sub>と同様な効果があった. このことは石灰窒素水浸出液の休眠打破作用の主体が, CaCN<sub>2</sub>の部分的加水分解によって活性型のH<sub>2</sub>NCNを生じ, cyanide ion(CN<sup>-</sup>)として作用することを示唆する.
著者
小川 晋史
出版者
開拓社
雑誌
音韻研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.91-98, 2006
著者
松浦 年男
出版者
九州大学大学院人文科学研究院言語学研究室
雑誌
九州大学言語学論集 (ISSN:13481592)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.29-58, 2009-12

This paper describes the accentual patterns of Sino-Japanese compounds in Nagasaki Japanese. By investigating the accentual patterns of actual and nonce Sino-Japanese compounds, I demonstrated that the accentual pattern of a Sino-Japanese compound is determined by the mora length of the second element of the compound. If the second element of a Sino-Japanese compound consists of one mora, the compound is produced with a falling pattern (Type A), otherwise it is produced with a flat pattern (Tone B). Since the same generalization holds also in Standard Tokyo Japanese, the result strongly implies that the accentual patterns of Nagasaki Japanese are influenced by the accentual patterns of Standard Tokyo Japanese.
著者
加地 秀
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

培養網膜色素上皮細胞(RPE)へのアミロイドβ負荷により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生は増加するが、その際に小胞体ストレスマーカーも増加しており、これらは小胞体ストレスを抑制する薬剤である4-フェニル酪酸(PBA)により抑制可能であった。
著者
小林 由紀子 赤星 和人 原 行弘 辻内 和人 岡村 陽子
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.778-782, 2005 (Released:2006-09-22)
参考文献数
16

In the rehabilitation of traumatic brain injury, emotional disorders such as a quick temper, depression and irritability are a critical problem, as well as cognitive dysfunctions such as impairment of attention and memory. In addition, it is rare that they are completely isolated and cognitive dysfunction and emotional disorders tend to have an influence on each other. In other words, the stress caused by cognitive dysfunction induces an aggressive emotional disturbance, and unrest of mood accelerates cognitive dysfunctions such as memory and judgment. Therefore, it is important to consider their emotional states when we start rehabilitation for patients with traumatic brain injury. We had a valuable experience in early rehabilitation of two patients with traumatic brain injury. We had very good results by thinking about the emotional disorder first, and thereafter training for the cognitive dysfunction. Case 1, a young male, was a computer programmer. After suffering a traumatic brain injury, he could not think logically and he had many emotional problems with his mother. Case 2 was a middle-aged housewife. She became depressive and negative towards rehabilitation, because of her memory problems post traumatic brain injury. We administered a rehabilitation regime which attached great importance to treating the emotional disorders affecting these two patients. As a result, in the early phase, we were able to make progress in cognitive rehabilitation as well as improving their emotional problems by our intervention, and they overcame their cognitive dysfunctions and resumed their normal daily lives in a month.
著者
柳田 伸顕 手塚 康誠 兼田 正治 工藤 研二
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

此の研究者、柳田(研究代表者)、工藤、兼田、手塚による研究課題'群のコホモロジーとBP理論の研究'において幸いにも多くのコホモロジーを計算することができ、それらをかなりの数の論文として発表することができた。まず柳田とアメリカの共同研究者によってBP-theoryとMorava K-theoryの関係が詳しく調べられた。その結果もしMorava K-theoryが偶数次元の元だけで生成されていればBP-theoryもそうなる事を証明した。またBSL(Z)のmod2コホモロジーを完全に決定した。工藤と柳田はH-空間、特に例外リー群がtorsionを持つ場合にホモトピー性質(homotopy normality,homotopy nilpotency)を詳しく調べた。兼田は標数正の代数群のコホモォジーの良いfiltrationを与えている。
著者
田中 永美
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

近年、科学離れと同様に、ものづくり離れが社会問題となっている。ものづくり教育を推進するには、学生や若者が、それまでどのようなものづくりの環境に触れて育ってきているかが重要である。本研究の目的は、インストラクショナルデザインの手法を取り入れ、科学教育の入り口にある小学生を対象に、ものづくり体験教材を企画し、開発を行うことである。インストラクショナルデザインプロセスに基づき、以下のように、計画、実施した。(1)ニーズ調査・初期分析(Analyze)学習対象者を、石川県羽咋市少年少女発明クラブ(小学3~4年生対象、31名)とし、7月にアンケート調査を実施した。(アンケート回答者20名)小学理科での実験用工作がそのまま電子工作の経験となる事例が多かった。また、自宅で電子工作を行ったことがある児童は1名であった。実施希望の最も多かった光る工作について教材を企画、開発することにした。(2)設計(Design)、開発(Development)小学理科の電気の単元で学ぶ目標の一つである、電気の通り道が理解できることを本教材の学習目標とした。実施時期が12月中旬であったため、テーマを「クリスマス」とし、照明用として多用されるようになったLEDを取り上げることにした。(3)実装・実施(Implement)羽咋市少年少女発明クラブの12月月例活動として、ものづくり体験教室「クリスマス電子工作」を実施した。(平成21年12月19日(土)13時30分~15時30分、参加者25名)(4)評価(Evaluate)ものづくり体験教室を実施後、アンケート調査を実施した。設定した学習目標は96%が達成した。得られた経過と成果を、平成21年度実験実習技術研究会(平成22年3月5日:琉球大学)に発表した。平成22年12月18日に同様のものづくり体験教室を継続実施予定である。
著者
田口 太郎 後藤 春彦
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.67, no.552, pp.239-245, 2002
被引用文献数
2 1

In this point of Tokyo, there are many condominiums building all over the city because of the politic policy of raising population. This study aims to clarify the way of negotiation between inhabitants and the developer at the urban living area. Firstly, I understood the process of the architectural dispute. Secondly I understood the basis of the argument from the view of 1.Landform Condition, 2.Sharing Infrastructure, and 3.Key person by interviewing the inhabitants. And at last, I clarified the process and agument in negotiation between inhabitants and developer
著者
Ushida Konin
出版者
中京大学
雑誌
中京大学教養論叢 (ISSN:02867982)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.139-158, 1971-11-30

ゲーテのファウストは, 民衆本等のファウストの如くに破滅し, 地獄に落ちることなく, 治癒し, 最終的に神の意志により救済されるに至る。ではなに故に, 第二部の冒頭でファウストが治癒されるかを考えてみるならば, 必然的に, 「ファウスト」第一部と第二部との間に有機的な連続性を認めねばならない。「ファウスト」第一部と第二部は全く個々の独立した作品ではなくて, 第二部は第一部の続き (Fortsetzung) として見なければならない。そしてこの小論で扱われた第二部の最初の「優美な地」は決して第二部の序幕に留まらず, 将来のファウストの生存様式を決定するに値する重大なる転回点であり, 「ファウスト」第二部における重要なテーマである第五幕のファウスト救済のテーマの伏線を有している場面と言える。この場において最も問題となることは, ファウストがどのような過程を経て治癒されるかにある。その治癒はとりもなおさずグレートヒェン非劇-いな, むしろファウスト自身の内部に横たわっている主人公の悲劇性 (プロメトイス, ソクラテス, シーザー, ゲッツ, ヴェルター等の如く)- の溶解にある。ファウストのグレートヒェンとの恋愛体験は, 就中ゲーテ自身のフリーデリケ体験に基づくものであるが, 結局不成功に終った。グレートヒュンとの断腸の離別の際のファウストの悲惨な叫びの中に, 「詩と真実」における詩人の実体験の告白と同様, 倫理的な悔恨と懺悔の声が聞かれる。すでに, そこにファウストの毒された魂の治癒を待つべく, 古い生命は捨てられ, 新しい行為の世界に至る生命, いわゆる Wiedergeburt の階梯が初まっている。では具体的にファウストがいかにして治癒に至らしめられるであろうか。それに必要な素地となるものは, 仮死状態としての眠り (Schlaf) と忘却の川水 (Lethe) である。前者は死の罰の代償として, 主人公を無の中において過去の罰を拭う, 後者は単なる忘却 (Vergessen) の意に留まらず, 生命の泉ほどのはるかに積極的な意味を持ち魂の浄化作用の役割を果している。上記の治癒に至る過程に必要な二つのモチーフは, ゲーテの他の悲劇的作品にもしばしば用いられている, 特に「イフィゲーニェ」におけるオレステスの治癒の際にこの二つのモチーフがたくみに用いられており, innere Handlung の上でもファウストの治癒との一致点が認られる。「イフィゲーニェ」におけるオレストの場合には, 単に眠りとレーテの川水だけでなくて, オレステスの心底に残存している悔恨の念, 及びイフィゲーニェの愛の清らかな息吹が加わって, オレステスの完全な治癒が成就される。ここにおける徹頭徹尾 human なイフィゲーニェの愛の清らかな息吹に代わるものは, 「ファウスト」においては, ファウストにレーテの水をほどこす妖精たちのファウストに対する同情 (Mitleid) にほかならない。この妖精たちの手によってファウストは助けられ, ついで治癒が完成されるのであるが, 妖精たちの実体は空気の精 (Naturgeist) で, 自然そのものと言えよう。ここにおいて, 自然の潜在的な治癒力が問題となる。目覚めたファウストは自然の力によって強められたと自覚し, 自然も亦その生命を目覚めさせ, 自分を包み初めたと感じる。これはファウストが, 自然と全く一致しているという感情を示すものである。その自然がファウストに与えた最大の効果は「最高の存在に向かっての努力」という本来のファウスト的衝動を誘発させたことである。グレートヒェン悲劇で一度は自らの生を呪ってみたものの, 生き続けたファウストの内部に残存していた何らかの生命力, これこそ「努力」する意志の一部と言ってよい。逆説的な言い方をすれば, 実にこのファウスト的衝動である行為の基盤となる「努力」こそ, 治癒の根底となるに至ったものである。そしてこの場面の意義がこのファウストの諦念的な悟りの言葉に集約されているようである。このように見ていった場合, ドイツ理想主義の旗手としてのゲーテの姿がくまなく理解されよう。
著者
阿部 真司
出版者
高知医科大学
雑誌
高知医科大学一般教育紀要 (ISSN:09123083)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1a-40a, 1988-12-10

In Koziki and Nihonsyoki we find out some genealogies and legends about Kibi province and Kibi Family-group. As their genealogies and legends are subject to the influence of Kasa-no-Omi family, one of Kibi Family-group, I suppose, they were written by Kasa-no-Omi family's original data which had been tendered to the Imperial Court. As the result of studying the meaning of 'Kasa (Hat) ', I conclude that the name of Kasa-no-Omi was derived from likening themselves to Kasatori family whose duty was to be a follower of Emperor and a guardian of the exorcising 'Kasa'.