著者
吉田 輝夫
出版者
信州大学人文学部
雑誌
人文科学論集 (ISSN:02880555)
巻号頁・発行日
no.23, pp.p169-188, 1989-03
著者
中嶋 美和 (林 美和)
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成20年度は1935年7月の人事で浮上した真崎教育総監更迭問題を中心に、二・二六事件が発生するまでの陸軍内部の動向についての分析を行った。この問題は、陸軍中央の中でも中堅幕僚たちの水面下による活動の影響が非常に強い。荒木陸相辞任後はその影響力をかき消すべく、反荒木の中堅幕僚たちが陸軍中枢部に属する上官に対して書面で「真崎罷免」を懇願するなどの行動を起こしている。そこで、本研究では中堅幕僚たちによる諸活動の実態を解明していくことにした。分析史料としては、国会図書館憲政資料室所蔵「片倉衷関係文書」を使用した。「片倉衷関係文書」は近年になり新しい原史料が追加され、軍人宛ての書簡が多く収められている。平成20年度の科学研究費補助金は、この史料の収集作業に利用した。片倉は満州事変の際にも暗躍し、荒木を支持する青年将校から忌嫌われる存在であった(実際、二・二六事件の時に磯部浅一からの銃弾を浴びている)。板垣征四郎や石原莞爾などと親しい片倉は、彼らに頻繁に書簡を送り、真崎を罷免するよう促している。以上のような問題関心をふまえ、陸軍中堅幕僚の内部活動の実態を解明していくことにする。取り上げる事例としては真崎教育総監更迭問題における中堅幕僚たち(片倉を中心とした)の活動実態を研究分析していった。そして、かつては陸軍の中心であった荒木や真崎が、陸軍内のいわば悪役として位置づけられていく過程を明らかにした。なお、上記研究実績を踏まえ、現在、私は博士論文及び学術雑誌に投稿予定の論文の執筆作業を行っている。
著者
松本 充豊
出版者
長崎外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、第一に、ラテンアメリカやヨーロッパの各地域を対象にしたポピュリズム研究の成果を踏まえて、東アジアの新興民主主義国である台湾のポピュリズムを分析するための理論的な枠組みの構築を目指した。第二に、そうした枠組みをもとに、台湾の陳水扁政権下のポピュリズムを李登輝政権期と比較しながら実証的に考察した。李登輝と陳水扁との比較を通じて明らかになったことは、前者のポピュリズムが統合的、調和的なものであったのに対し、後者は分裂的、対立的であったという特徴である。陳水扁が台湾アイデンティティを強調する方向へと戦略を転換したことで、彼のポピュリズムは分裂的、対立的なものへと変わり、両政権のパフォーマンスにも違いがもたらされた。陳水扁が、台湾アイデンティティの強い人々という「味方」と、そうでない人々や中国という「敵」の対立の構図を作り出したことで、台湾の政治構造は二極化し、社会は分裂の度合いを深めた。陳水扁が辞任の危機を回避できた背景にも、そうした戦略の効果と民進党をベースとした組織化された支持基盤の存在があったといえる。研究成果の意義として指摘できることは、第一に、陳水扁のポピュリズムを、東アジア政治を席巻したポピュリズムの潮流の中に位置づけ、その興隆と衰退を明らかにしたことである。第二に、台湾における民主主義の「変容」の特徴を明らかにしたことである。台湾の民主主義がポピュリズムの色彩を強めたことは確かだが、政治制度の違い(ラテンアメリカ諸国は大統領制、台湾は半大統領制)から、G・オドーネルがいう「委任民主主義」へと「変容」したわけではなかったことが示された。
著者
島田 弦
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、インドネシアにおける外国法の影響および「法の移植」論の再構成であった.具体的には、法分野においてインドネシアに体系的な影響を与えてきた、オランダ、アメリカ、オーストラリアなどについて調査を行い、インドネシア法への影響を明らかにすることを目的とした。その結果、特にオランダにおける歴史法学論争、自由主義と保守主義の対立などと植民地法政策の関係について研究を中心に成果を上げることが出来た。
著者
金崎 雅之
出版者
九州大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:0022975X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.113-128, 2006-06
著者
佐々木 巌
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.181-182, 2001

本論文は,永久磁石材料の性能を左右する問題として残されている,保磁力発生の機構解明をテーマに取り上げ,高圧窒化法を用いて合成された良質なSm_2Fe_17N_3をモデル系として,実験的研究を行った結果を論じたものである。本論文は7章から構成されている。第1章は序論として,永久磁石材料の性質および研究の歴史を概観し,Sm_2Fe_17窒化物について,その研究の歴史,結晶構造,磁気特性であるCurie点および飽和磁化について概説した後,研究の中心となる技術,高圧窒化法について概説している。さらに保磁力のこれまでの研究を概観し,その問題点を指摘した。第2章は,本論文の研究目的を記述している。これまでの保磁力研究は基礎的な疑問に対して明確な回答を与えていないという問題点を指摘し,本研究の意義を論じている。さらに,具体的にSm_2Fe_<17>N_3が取り上げられた理由を述べている。第3章では,本研究で行なった実験の種類及び方法など実験手法について記述している。第4章では,強磁場磁化測定の実験結果を基に,以下のような事実を明らかにした。保磁力の目安を与える磁気異方性のパラメーター,一軸磁気異方性定数K_<U1>=2.3×10^3 J/kg,K_<u2>=2.5×10^3 J/kgを得た。この値を用いて,絶対零度でJ-混成が無視できると仮定することにより,結晶場パラメーターA_2^0は&acd;-660K/a_0^2であると評価した。この値はバンド計算による理論的研究より求められた値とよく一致している。この窒化により誘起される一軸磁気異方性は,c面内のSm原子付近のN-2p電子とSm-5d電子との異方的混成による価電子の非球対称電荷密度によるA_2^0の増強として説明できる。第5章では,磁気異方性から決定される異方性磁場H_Aと保磁力H_cとがどのように結びついているかを明確にするため,メカニカルグラインド法(MG法)による粉砕法を用いた保磁力の粒径依存の実験結果を基に以下のような事実を明らかにした。(1)MG法を用い粉砕したSm_2Fe_<17>N_3粒子において,2μm以上の粒径では,保磁力は平均粒径の減少により増大する。これは保磁力が粒径に反比例するという逆磁区の核生成型(ニュークリエーション型)による磁化反転機構と一致する。一方,2μm以下では,保磁力はほとんど飽和する。この飽和は粒径減少による保磁力増大効果とMG中の表面元素析出,内部歪などのニュークリエーションサイトの増加による保磁力減少効果の競合によるものと推論された。(2)最高保磁力値は1.32Tが得られたが,この値は異方性磁場に比べるとなおオーダーが1桁小さい。これは,保磁力を低下させる様々な要因の存在を想定し,中でも粒表面における逆磁区の発生が保磁力低下を導いていると推論された。(3)飽和磁化は粒径の減少とともにわずかながら減少した。これは,MG粉砕中に表面相からわずかに窒索が抜け,それに伴い磁化が低下するものと推論される。なお,この高圧窒化法により合成した良質なSm_2Fe_<17>N_3粒子をMG法により粉砕した実験により,Sm_2Fe_<17>N_3における世界最高の(BH)_<max>値&acd;330kJ/m^3を得た。第6章では,保磁力の粒径依存性から推察された保磁力に対する粒表面効果すなわちニュークリエーションサイト発生の効果を明らかにするために,Znとの合金化で粒表面のニュークリエーションサイトを磁気的に除去する実験結果を基に以下のような事実を明らかにした。まず,保磁力が1TにおよぶSm_2Fe_<17>N_3を,等重量のZnと共に磁気的に等方的なZnボンド磁石を作製することにより,保磁力が3Tにおよぶことを推定した。これにより,保磁力に対する表面の効果が極めて大きいことが確認でき,本研究で用いたSm_2Fe_<17>N_3において,ニュークリエーションサイトが粒子全体に分布するのではなく,主に表面に分布すると推論できた。次に,平均粒径40μmのSm_2Fe_<17>N_3粒子を用いて磁気的に異方性のZnボンド磁石を作製し,保磁力の温度変化の測定により,保磁力の表面処理効果に関して以下の事を明らかにした。(1)保磁力は,温度上昇とともに単調に減少する。この時の保磁力は,異方性磁場H_Aのべき乗則に従い,表面処理前において保磁力はH_Aの2乗に従っていたのが,表面処理後はほぼH_Aに比例する。これは表面の清浄効果によるものと推論された。(2)保磁力の温度変化は熱活性型過程の2つの重ね合わせで表わされることを明らかにした。つまり,高温領域(100&acd;200℃)ではニュークリエーションサイトが生成する頻度が保磁力の温度依存を決め,低温領域(-200&acd;-150℃)では生成した磁壁が試料を通過する時のポテンシャルの深さが保磁力の温度依存を支配していることを明らかにした。従って,低温領域において表面処理効果は顕著に現われず,高温領域で表面清浄効果が顕著に見られたと結論された。
著者
西山 茂
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本調査研究では、仏教が一般庶民の「煩悩」に即して「菩提」を説き、「方便」を以って「真実」に誘引する、衆生教化法の今日におけるあり方を仏教系新宗教教団の中に探り、その具体的な工夫手立てを「教導システム」と規定し、その実態を本門佛立宗・霊友会・創価学会・立正佼成会・真如苑などの事例のなかに探った。その結果、仏教系の新宗教教団のそれぞれが種々の教導手段を持ち、自利の「凡夫」を利他の「菩薩」にする体系的な修行のシステムを有していることがわかった。そのシステムの内部においては、仏典や題目の読諦によって、六波羅蜜などの特定の徳目実践によって、布教や社会的実践(選挙を含む)によって、またあるいは教団霊能者への「お伺い」や教団中央への祈願依頼・財施(献金)などによって、罪障消滅や「徳積み」ができ(修徳致福)、仏心に近づくことが説かれていた。また、仏教系新宗教教団の多くが、信仰の深まりに応じた幾つかの位階を設けており、信者にその位階を上昇させ、教団の期待する信者像により接近できるよう、社会化させていくことが教団の中間指導者に求められていることも判明した。この場合、位階を上るごとに新しい礼拝対象が与えられるが、信者には、その都度、応分の財施(献金)が必要になる。調査研究の結果、教団の期待するより上位の信者像と一般社会が期待する人間像の間にはずれが存在することが浮かび上がってきた。具体的に、そのギャップの実態や程度を探ることについては今後の研究課題としたい。以上の調査研究の成果は、平成14年度に刊行された資料集(1)、平成15年度に刊行された資料集(2)および調査報告書に集約されているが、本格的な成果の公表は今後の課題として残されている。
著者
古澤 泰治
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

海外共同研究者である小西秀男氏(Boston College)とともに、2国間で締結される自由貿易協定(FTA)をネットワークゲームを用いて分析してきた。産業化度や人口規模において似通っている国同士がFTAを締結しやすく、そのため全ての国々がそれらに関して対称的ならばグローバルな完備FTAネットワークが安定的になることを示した。また、FTA締結国間でトランスファーが可能ならば、国々が極めて非対称的な場合でも完備FTAネットワークが安定的になるという結果も導いた。各国が生産し輸出する差別化された財の間での代替性も重要な役割を果たす。それらの代替性が十分低いならば、完備FTAネットワークは唯一の安定的なネットワークとなる。逆に、もしも差別化財間の代替性が高いならば、完備ネットワーク以外の安定的なFTAネットワークが存在することになる。このようなときは、最終的に世界でどのようなFTAネットワークが張りめぐらされるかはFTA形成のパスに依存してくる。これらの研究成果は"Free Trade Networks,"COE/RES Discussion Paper No.27,Hitotsubashi University(現在専門誌掲載審査中)、"Free Trade Networks with Transfers,"Japanese Economic Review,56(2),144-164,2005にまとめられている。また、人々の効用関数が準線形型のとき、社会厚生は消費者の粗効用と貿易収支の和として表されるという、簡潔で有用な分析結果を"A welfare Decompositionin Quasi-Linear Economies,"Economics Letters,85(1),29-34,2004で発表した。
著者
小崎 閏一
出版者
志學館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

サン=ドニ修道院において遂行された一連の歴史記述作業は周知のところであるが,なかでも怪しげな歴史物語や露骨な偽文書の解釈を巡っては作成者や作成の意図・年代について諸説入り乱れるものがあり,そこから歴史の現実から遊離した途方もない見解が導き出されることもしばしばであった。本研究では,サン=ドニの大市(ランディ)の起源とのかかわりで問題となる『受難聖遺物伝来記』(Descriptio)と,813年の日付を持つ偽シャルルマーニュ証書を考察の対象としたが,それは取りも直さずこれらの史料から歴史的現実を無視した解釈が唱えられてきたからに他ならない。しかしこれらの史料を冷静に検討すれば,従来の解釈とは大きく異なる結論を得ることができるように思われる。シュジェールの言うIndictum exterius in platea, interius enim sanctorum erat, libentissime reddidit.は,「内側(町内)の市は聖人に属するものであるが故に,野原で開かれる町外の市を聖人に返還した」と訳すべきではなく,「内側(修道院内)の祝祭は聖人のものであるが故に,野原で開かれる町外の市を聖人に返還した」と理解すべきである。問題はIndictumの捉え方であるが,シュジェールはこれを本来の意味に近い「祝祭」と,11世紀後半から12世紀初頭にかけて含まれるようになった「市」の両様に取っている。813年の日付を持つ偽シャルルマーニュ証書(DK286)については,12世紀に作成された偽文書という前提で議論されたことから様々な誤解と混乱が生じている。これが史料として初出するのはJ.Doubletの著作(1625)であることから,この偽文書がDoubletによって捏造されたもの,ないしはそれに近い時期のものと考えれば,この証書に伴うあまたの疑念が払拭されるのである。
著者
中島 茂樹
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ポスト冷戦世界で進行するグローバリゼーションの下で、国家は、対外的に主権を有しており、国内的にはヒエラルヒー的従属関係によって特徴づけられており、議会によって制定された法律を基礎にして社会の発展を形づくる、というイメージはますます過去のものになっている。グローバリゼーション下の国家と経済との融合化によって、国家の性格は大きく変貌を遂げ、「国家」と「経済」、「国家」と「社会」、「公」と「私」の境界はますます不確かなものになっている。かくして、問題は、社会におけるもろもろの公的に重要な任務のうち、いかなるものを国家的任務とし、いかなるものを私的団体の自律に委ね、いかなるものを個人の自己決定に委ねるか、ということである。このような問題は、現行憲法の枠内では、本来的に立法者による民主的決定の問題であることはいうまでもないが、しかし、そもそも立法者はこのような問題についての決断の正当性を何によって根拠づけようとするのか、そしてまた、憲法は、私的団体や個人について、どのような仕方で、どこまでを規制対象におくことができるのか、等々の問題が問われることになる。本稿は、主としてドイツおよびわが国における「公共性」や「公共圏」に関する議論をもふまえながら、現代の議会民主政にとって不可欠な媒介機能のゆえに、国家と社会とのシステム境界上に位置づけられる政党への国庫補助の憲法上の許容性をめぐって、その場合に問題となる国家の正統性基準としての公共性という観点から検討し、その研究成果をまとめたものである。
著者
山崎 孝治 小木 雅世
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

北極振動または北半球環状モード(Northern Hemisphere annular mode : NAM)は冬季北半球で卓越するモードであるが、その季節変化は十分調べられていなかった。当研究では、客観解析データを用いて、北半球の月平均・帯状平均高度場の主成分分析を各月ごとに行うことによって各月ごとに卓越する環状モードを抽出した。それにより夏季のNAMは冬に比べて南北スケールが小さく北極側にシフトしており、対流圏に閉じられたモードであることがわかった。2003年夏、ヨーロッパは熱波に襲われた一方、日本は冷夏であった。このときの気象状況を夏のNAMという観点から解析した。7月初めまでは夏のNAMはやや負であったが、7月中旬〜8月中旬に大きな正となった。このとき、ヨーロッパでは高気圧偏差が卓越し、大気下層気温は大きな正偏差となった。一方、東シベリアでも大きな正の高度偏差となり、オホーツク海高気圧が発達した。このため日本では冷夏となった。NAMが大きな正であった期間には北半球の対流圏上層でダブルジェット構造となったが、その成因を波と平均場の相互作用の観点から解析した。その結果、擾乱が低緯度に伝播し波の運動量輸送により高緯度のジェットを加速しダブルジェット構造を生成することが明らかになった。このダブルジェット構造の北極海沿岸のジェットに沿って欧州からロスビー波が伝播し、東シベリアで砕波し、オホーツク海上空にブロッキング高気圧を形成したため、日本付近での異常気象が持続した。夏の異常気象を理解するうえで、夏のNAMが有益な概念であることが示された。NAMの冬と夏のリンクに関しては、ユーラシアの雪だけでなく、成層圏オゾンの輸送を通じたリンクがあることが示唆された。
著者
釣 雅雄
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

政府債務が増大した我が国においては,政府が破綻することなく財政運営を行いつつ,効率的な財政政策を行う必要がある。しかしながら,社会保障費の増大や,地方交付税交付金などに代表される地方への国の役割が固定化された状況では,財政政策の自由度は限られている。さらに,政府債務の増大によって,今後利子率が上昇した場合には,国債費の増大などが生じ,さらに財政状況は悪化する。このような中で,中期的な財政政策運営を行うことの意義を財政政策ルールという視点から分析を行った。
著者
樋口 京一 細川 昌則
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

アミロイドーシスは微細なアミロイド線維が細胞外に沈着する病態であり、本来生理的機能を持つ蛋白質が線維状に重合、沈着し生体に傷害を与える。プリオンやマウス老化アミロイドーシスですでに存在するアミロイド線維がアミロイド蛋白と接触し、構造変換を誘導し雪だるま式に重合・線維沈着を引き起こすという「蛋白構造伝播仮説」が唱えられ、その検証がアミロイドーシスの発症機序解明のための重要課題となっている。マウス老化アミロイドーシスをモデルとして蛋白構造伝播仮説の検証を目指し以下のような研究を行った。 1.マウス老化アミロイド線維(AApoAII)投与によるアミロイド誘発 AApoAIIをマウスに投与(静脈内、腹腔内)しアミロイドーシスの発症を解析した。投与後1ヶ月で全マウスにAApoAII沈着が、3ヶ月で全身に重篤な沈着が確認され、アミロイドーシスが著しく促進された。 2.ProapoA-II蛋白質とアミロイド線維核岐成反応 アミロイド線維蛋白画分からAApoAII以外の小量沈着蛋白を精製した。小量蛋白質はapoA-IIのN末端にAla-Leu-Val-Lys-Argのプロペプチドが切断されずに残存しているproapoA-II蛋白であり、アミロイド線維中のproapoA-II濃度は血漿中の10倍に濃縮されていた。 3.AApoAIIアミロイド線維による感染の可能性 AApoAIIをマウスの消化管内に投与しアミロイド線維による感染の可能性を解析した。投与後2ヶ月で全てのマウスにアミロイド沈着が観察され、その後沈着が増大した。高齢マウスを若齢マウスと同一ケージ内で3ヶ月間飼育した結果、若齢マウスでアミロイド沈着が誘発された。 以上の結果からアミロイドーシスの蛋白構造伝播仮説はほぼ実証されたと考えている。今後は最初の線維核形成や線維伸長反応を抑制・促進する因子の解析が重要と思われる。
著者
佐藤 毅彦 児島 紘 高橋 庸哉 前田 健悟
出版者
熊本大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究は、IT世紀の理科学習ツール「インターネット天文台・気象台」を開発・設置、教育実践に活用し効果を挙げてゆくことを目標としている。本年度は、熊本大学にインターネット天文台を設置、首都圏に既存の二基と合わせて教育利用を推進した。互いに近接した既存の二基と地理的に離れた後続天文台が渇望され、熊本大学インターネット天文台はまさにそれに応えるものとなった。また、北日本に天体ライブ映像を配信するためのサーバーを、北海道教育大学の札幌校に設置した。熊本大学教育学部附属中一年の理科で、インターネット天文台を利用した授業を行った(平成14年12月)。屋上で天体望遠鏡を使い実際に太陽面を観察した後、インターネット天文台を操作しての太陽面観察とした。インターネット経由の天体観察自体、子供連には初めての経験であり、それは印象的なものであった。黒点の移動を調べるための前日・前々日を含めインターネット天文台をフルに活用し、この実践例から、「各地のインターネット天文台を相互利用することで、天候条件に左右されがちな天体観察の授業を、計画通りに進めることができる」という利点があらためて確認された。星が月に隠れる「星食」現象を捉え、教育学部学生対象に観測会を実施、熊本と関東とで現象に30分もの時間差があることを体験してもらった(熊本と首都圏のインターネット天文台を併用)。教員志望学生のこうした体験は、将来の小中高における教育を豊かにしてゆく大切な要素である。インターネット気象台と、「定点2000」観測点(ライブカメラ含む)、アメダス観測点などインターネット上の気集情報を組み合わせた教材を用い授業実践を行った(平成15年1月、学部生卒業研究の一環)。「青森は雪だった」「高知の天気は予想と違った」など、子供達が主体的に取り組みながら各地の天気の違いを学ぶ様子が見られ、一定の成果を挙げることができた。特定領域内においては、複数の研究と連携が動き始めたところである。その強化は、今後の発展課題である。
著者
藤田 耕史
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本年度は前年度に引き続き、南極ドームふじにて採取した降雪中の安定同位体に関する解析を進めた。ドームふじの年間降水量は28mmと極めて乾燥しているが、そのほとんどの期間で少量ながらも降雪が観測された。日降水0.3mm上の日は1年間で18日、11イベントを数えたが、これらのイベント的降雪だけで年間降水量のほぼ半分がもたらされていた。これらの降雪イベントが生じる際には昇温が観測されており、このために降水量で重み付けをした気温が年平均気温よりも5℃程度暖かいという結果が得られた。降水試料の安定同位対比は分析の標準試料をはるかに下回る値を示していたため、検量線の直線性が問題となった。そこで、同研究科の阿部理助手の協力を得て実験をおこない、検量線の直線性を確認した。以上の結果をまとめ、Fujita and Abe(2006)として出版した。上記解析の結果は、アイスコア中の安定同位体から過去の気温復元をおこなう際に用いられる気温と同位体比の関係が、イベント頻度の多少に伴って大きく変化することを示唆している。そこで降雪イベントをもたらしている気圧場について、全球気候データを解析し、高気圧ブロッキングによって氷床内陸に水蒸気がもたらされていることを明らかにした。この気圧場が形成される頻度を解析したところ、ここ数十年という短い期間においても、気温と降水の同位体の関係は大きく変動していることがわかった。現在論文化に向けて最終的な解析を進めている。降雪の解析を進める一方、長岡雪氷研究所の協力を得て、雪の作成・昇華・温度勾配実験をおこなった。これは積雪内水蒸気輸送にともなう安定同位体の変化を明らかにするための実験である。これまでは昇華は一方的に雪粒子から水分子が失われる現象として理解されていたが、日本と南極の雪を同時に実験にかけた結果、昇華が進む間にも周辺の水蒸気の凝結と氷粒子からの昇華が生じていることが明らかになった。これらの現象を説明するために新しいアイデアのモデルを使い、両者の雪の同位体変化をうまく説明することができた。
著者
泰中 啓一
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

20世紀の末には、計算機科学の手法が生物学において重要な役割を果たすようになってきた。本研究代表者と九州大学の松田博嗣氏は、1980年代(同時期)に格子ロトカボルテラ法という方法をそれぞれ独自に開発し、生態学や生物進化に適用してきた。当時としてはセルオートマトンが空間パターン解析の主流であったので、乱数を大量に使ったこの新しい方法は珍しいものであった。大規模計算であるため、日本の2つの研究室以外では、ほとんど行なわれていなかった。しかし今世紀に入り、コンピュータの発達と伴にこの格子ロトカボルテラ法は世界中で使われるようになってきた。我々はこの手法を通じて、集団レベルでのリダンダンシーの重要性を見出した。数理的な手法を用いて生物進化および生態学の最適化問題や適応問題を研究してきた。そのため、主として格子上のシミュレーションによって進化と絶滅を研究してきた。研究代表者は、「格子ロトカボルテラ模型」という格子上の確率模型によって生物の個体群動態を研究してきた。それにより、多くの新しい知見を得た。とくに長期的応答の研究である:生態系の短期的応答は比較的簡単に予測できることはよく知られているが、長期的応答は予測が不可能となることが分った。Eco Mod.やEPLのレフェリーから"great importance","beautiful model"などと評価された。また新聞でもその内容が報道され、また成果は、新書や単行本として出版された。