著者
河野 隆志 鈴木 由里子 山本 憲男 志和 新一 石橋 聡
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MVE, マルチメディア・仮想環境基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.184, pp.1-8, 1999-07-16
被引用文献数
6

ネットワーク上にコミュニケーションの環境を作る試みはインターネット上を中心に盛んに行われている。本論文では遠隔地にいる人々が会話や行動を共にできる通信環境を目指して、等身大の映像を投影し、没入できる多面ディスプレイを表示装置とするクライアントと手軽に携帯ができるPCベースのクライアントを共有空間で結ぶことによる新しいサービスを提案し、そのためのプラットフォームとして試作したシステムについて述べる。本システムにより多数の人が仮想空間を共有し、ユーザのお辞儀、挙手、手を振るという基本的なジェスチャを認識し、ユーザの分身の動作という形で相手に伝達し、音声・映像を使ったコミュニケーションが可能になった。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科研グループが設立した「マルチリンガリズム研究会」などを通して、研究を進め、その成果を雑誌や国際学会で発表するとともに、その成果に基づいた「多言語同時学習支援」の国際シンポジウムや試行プログラムも実施し、「多言語併用環境における日本語の習得、教育、及び支援」に関する全体の研究実績を報告書にまとめた。主な研究実績の概要は以下の通り。1.幼児から成人までを対象に、(1)1人1言語・3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。環境1言語仮説(2)思考言語と優越言語(3)言語環境の変化(4)品詞(5)言語選択(6)アイデンティティ(7)場所格(8)テンス・アスペクト等の観点から、タガログ語・英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・中国語等の多言語併用環境における日本語習得の実態が解明された。(これらの主な成果は、スイスでの国際学会「The fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」のProceedings(CD-ROM版)として出版。)2.国際シンポジウム「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援」をマルチリンガリズム研究会と日本語教員養成機関(大学院>とで共催し、3力国(+台湾)での多言語学習・習得の実態の報告を受け、多言語同時学習支援プログラムと多言語併用環境での日本語の教育や支援のできる日本語教員養成プログラムの研究・開発に着手できた。3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。
著者
三友 仁志 樋口 清秀 太田 耕史郎 実積 寿也 フィリップ 須貝 大塚 時雄 鬼木 甫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、地球環境問題を軽減するための方策として、情報通信ネットワークの活用の可能性への着目し、その方向性を見出すことを目的とする。直接的な規制や経済学的な方法に加え、情報を適切に提供することによって人々を啓蒙し、より環境にやさしい行動をとることが可能となる。他方、これによって環境問題を認知するものの、行動に移らない可能性も指摘される。本研究では以下の3つのプロセスを通じて、かかる課題の解決を試みた:(1)情報通信の普及効果を把握するための評価モデルの確立;(2)情報通信の普及段階に応じた環境対応型産業政策とそれに呼応した企業戦略の明示;(3)従来の経済理論分析の下では十分に探索されてこなかった問題の検討。
著者
田村 均
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の継続期間中に8篇の論文を公表した。最初の論文は、行為の演技論的説明によって自己犠牲的行為を説明するものであった。自己犠牲への関心は期間中のすべての論文に関わっている。第二の論文では、実験哲学の手法により、行為説明の比較文化論的な考察を行なった。そして、日本的な行為説明がしばしば行為者と周辺環境の協同による結果として行為を説明するものであることを見出した。残る6篇の論文は、周辺環境の要因を行為のためのシナリオと見なす立場をとり、自己犠牲のように見かけ上は不合理な行為でも、シナリオによって与えられる虚構空間において合理的説明が与えられるということを見出した。
著者
木鎌 耕一郎
出版者
八戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は、平成16年度に得られた知見に基づき、第二バチカン公会議以降のカトリックとユダヤ教の関係史の中にエディット・シュタイン列聖問題を位置付け、その特殊性と歴史的意義を探った。第二バチカン公会議公文書『キリスト教以外の諸宗教に対する教会の態度についての宣言』(Nostra Aetate)第4項の内容と成立経緯を検討した。さらに、ヨハネ・パウロ二世在位以降を同公文書の理念の具現化の時代と捉え、その言動を重点的に検証した。また合衆国における両宗教間の対話の展開に着目し、その中で見出された対話に介在する問題点を指摘し、その問題点が平成16年度で検討したユダヤ人のアイデンティティにおける問題と密接な繋がりにあることを見出した。また、エディット・シュタインに関する家族が描く、カトリック側からのエディット・シュタイン観とは異なる聖者の人間的な側面に着目し、そうした情報が本件に及ぼす影響や意味について考察した。さらに、2003年2月に公開されたエディット・シュタインがピオ十一世に宛てた手紙に関して、これをホロコーストの時代におけるカトリック教会の政治的姿勢と関連づける解釈の存在を指摘した上で、ユダヤ人問題の政治的解決を「非本質的」と考えていた1933年春時点のエディットの内的状況をテキストに即して明らかにした。研究目的のひとつであった本件が現代の宗教間対話の理論的側面に与える問題提起を明らかにする点については、十分に果たすことができなかった。
著者
木鎌 耕一郎
出版者
八戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1933 年春にエディット・シュタインが教皇ピオ11 世に宛てて記したとされる手紙が、2003年に公開されたことを受けて、カトリックとユダヤ教の間で展開された論争について調査した。関連文献の収集、研究を通して、「手紙」執筆の内的動機を探るとともに、エディット・シュタインの自己理解に見られるユダヤ人としてのアイデンティティとユダヤ民族との連帯感の特性、カルメル修道会の霊性に基づく「殉教」への意志の特性について考察した。
著者
佐藤 政良 佐久間 泰一 石井 敦 塩沢 昌 吉田 貢士
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

灌漑用水の管理に関して,世界で潮流となっている参加型水管理(PIM)について,その現状と成功の共通原理を探るため,日本とアジア諸国の農業用水管理を調査,比較分析した。日本での成功は,灌概事業における全段階,全側面における農民参加の制度的保証によっており,一方韓国における公的管理強化は複雑な農村の政治経済的背景から起こり,タイなどにおけるPIM導入の困難は,政府の強い保護的姿勢と制度の未確立によるものと判断された。
著者
大槻 和夫 山元 隆春 牧戸 章 植山 俊宏 位藤 紀美子 吉田 裕久
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本科研の最終年度である平成8年度は,本プロジェクトの集約をめざして、本調査およびその分析に取り組んだ。また,新たに国語能力全体の発達に関わる総合モデルが提出され,プロジェクト全体の研究仮説とするための理論的整備が進められた。これまで取り組んできた説明的文章班,文学作品班,文章表現班,音声表現班の4領域による本調査の計画・実施・分析を行った。その際,予備調査の結果を分析・考察した結果得られた研究仮説を整備し,本調査の調査仮説とした。それをもとに大規模・広域の本調査を計画し,実施した。本調査は,おおむね平成8年末から9年初頭という年度末に行われたため,現時点で集計・分析は継続中である。本年度の研究成果を大きくまとめると次の2点に集約される。1.前年度までの調査研究によって明らかになった各領域における国語能力の発達の諸特徴を,より多くのデータをもとに確かめることができた。2.予備調査・本調査を通じて,各領域班ごとに取り組んできた研究の成果を,「統合モデル」というというかたちで,仮説の域を出ないながらもまとめることができた。本調査についての精細な考察は今後を待たねばならないが,本調査設計時に設定した研究仮説との照合を中心に得られた研究成果を研究成果報告書にまとめている。また,一部の領域班では,集計・分析の所要時間の都合上,収集したデータ全体のうち一部分を取り上げて集計・分析し,その後全体に広げていく方法を採っている。
著者
須賀 健雄
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

安定かつ迅速な電荷授受能を有するラジカルと電荷補償能を果たすイオン対を、(1)TEMPO/イオン置換ブロック共重合体、(2)汎用ブロック共重合体へのTEMPO-イオン液体の選択的集積化、の2つの手法でミクロ相分離ドメインに精密に組み込み、相分離構造(スフィア、シリンダーなど)、およびその配向性により有機薄膜素子でのメモリ特性の発現、調節の創り分けが可能であることを明らかにした。
著者
吉村 克俊 山下 延男 石川 七郎
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.301-308, 1978-09
被引用文献数
1

日本TNM分類肺がん委員会は1972年以来の肺がんについて「新肺カード」による全国登録を行っている.1972・1973・1974年次分の3年間の症例のうち組織診のある2,493例について,性別,年令別,組織型別,治療法別および日本臨床病期などの観点より臨床統計を行い,全国規模での資料を求め得た.
著者
山邊 時雄 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究は、特異な磁気物性、特に強磁性あるいは反強磁性を示す有機高分子の分子設計ならびに電子状態の理論的解明などを目的として実施したもので、その研究実績の概要は以下のようである。(1)安定な強磁性有機高分子として期待できるポリ(m-アニリン)の分子設計を行い、併せてその電子状態、特にスピン状態の解析を非制限ハートリー・フォック法に法づく結晶軌道法によって行った。その結果、本ポリマーの適当な酸化により、主として窒素原子上に強磁性的スピン相関を示す電子状態をとりうることが明らかとなった。またポリマー鎖中のフェニル基への適当な置換基導入により、スピン状態の制御を行いうることも明らかとなった。(2)有機強磁性体としての潜在的可能性を有する、何種類かのポリ(フェニルニトレン)の電子状態および磁気的性質についての解析俎、非制限ハートリー・フォック法に基づく結晶軌道法によって行った。その結果、π性スピンはベンゼン環中をスピン分極を伴いながら非局在化しており、長距離磁気的秩序配列が可能であることが明らかとなった。一方、σスピンは1価の窒素上に比較的局在化していることも明らかとなった。以上により、ポリ(フェニルニトレン)はポリ(mーフェニルカルベン)と同様に、強磁性ポリマーの有効な候補でありうることが結論された。(3)3回対称性を有する非ケクレ有機分子に対して、非経験的分子軌道法を用いてその高スピン状態の理論的解析を行った。1,3,5ートリメチレンベンゼン及び1,3,5ートリアミノベンゼンのトリカチオンは、ほぼ縮退した3つの非結合軌道を持ち、4重項状態はヤーン・テラー変形した2重項状態より安定で、基底4重項であることが明らかとなった。これは別途得られている実験結果ともよく一致している。
著者
山邊 時雄 立花 明知 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究において実施したものは以下に記するように、実験の部と理論の部に大別される。その大要と実績を併せて記載する。1.本研究における実験の部では、熱処理法・熱CVD法および有機合成法によって種々の有機磁性体材料を調製し、併せてそれらの磁気物性を中心とする固体物性の測定・解析を行った。まず熱処理法で調製したアルキレン・アロマティック系樹脂の磁気物性として、3重項以上のスピン配列を示すことが磁化曲線ならびに電子スピン共鳴の測定より得られた。これらのことより、部分的ではあるが強磁性的なスピン相関が現われることが結論づけられた。さらに熱CVD法によりアダマンタンを炭素化させた材料では、より明確な強磁性的スピン相関の存在が結論づけられ、超常磁性との関係の議論も行っている。なおポリ(mーアニソン)については以下の部であわせて述べる。2.上記の実験的研究と並行して,理論の部では強磁性的スピン配列を示す高分子材料の分子設計・磁気的性質の予測などを実施した。計算法としては非制限的ハ-トレ-・フォック法に基く結晶軌道法解析プログラムを新たに開発した。これによりポリ(mーフェニルカルベン)の強磁性発現が確認された。さらに強磁性を示すと期待できるポリジフェニルカルベンのスタッキング配向性,ポリパラシクロファンの強磁性発現の可能性などについての解析も実施し、特に前者では特別な配向ピッチ角において単量体間の強磁性的相互作用が、発現することが明らかとなり分子設計上、有用な示唆を与えた。一方、ポリ(mーアニソン)の酸化あるいは脱水素状態が強磁性を有することを新たに予測し、あわせてこの高分子の実際の合成を開始し、所期の物質を得ることに成功した。その磁気物性の測定もあわせて実施しており、この高分子において特異的な強磁性相関の存在することを明らかにした。
著者
馬場 俊秀 小野 嘉夫 鈴木 栄一 馬場 俊秀
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1)アニリンとシラン化合物との反応フッ化カリウムをアルミナに担持した触媒では,アニリンとトリメチルシリアルセチレンとの反応によって,対応するアミノシランが得られる。その収率は45℃,20時間で67%であった。アニリンとトリエチルシランとの反応も進行して,50℃,20時間で47%の収率で対応するアミノシランが生成した。また,アミンとしてn-ブチルアミンやt-ブチルアミンでもトリエチエルシラントとの反応が進行し,それぞれの収率は,27%,と9%であった。2)ベンズアルデヒドとフェニルアセチレンとの反応アルミナ担持アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属酸化物を触媒として,上記反応を行なうとカルコンが生成した。なかでも水酸化セシウムを担持した触媒が最も高い活性を示し,90℃,20時間でカルコンの収率は65%であった。反応時間を40時間にすると,その収率は87%に達した。フェニルアセチレンはフルフラ-ルとも反応を起こし,1-フリル-3-フェニル-2-プロペン-1-オンが生成した。その収率は,90℃,20時間の反応条件下で45%であった。しかし,他のアルデヒドとフェニルアセチレンでは反応が進行しなかった。カルコンはフェニルエチニルベンジルアルコールの異性化反応によっても生成した。炭酸セシウムをアルミナに担持した触媒で反応を行なうと,90℃,20時間でカルコンの収率は95%であった。フェニルアセチレンはシクロヘキサノンなどのケトンと反応して,対応するアルコールが生成した。この反応にはアルミナ担持カリウムアミド触媒が有効であった。例えば,フェニルアセチレンとシクロヘキサノンとの反応では,1-(フェニルエチニル)シクロヘキサン-1-オールが,90℃,20時間で収率85%で生成した。
著者
松岡 久美 山田 仁一郎
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

事例研究を積み重ねることで地域における文化的な事業の創出のメカニズムを探った。その結果、ダイナミックな資源の活用・循環・創出を行うためには、社会的起業家を中心として、住民、行政、企業等の制度固有の論理を持つ利害関係者集団が互いの利害を「相互資源化」して集合的行為として関与することが不可欠となることを指摘した。また、事業の成立には長い時間を要するため、事業体からの起業家個人の離脱という課題が新たな論点として浮かび上がることを指摘した。
著者
劉力綺 筒井 茂義 小島 基伸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.86, pp.13-16, 2007-09-03

筆者らは先にカンニングアントシステム(cAS)と呼ぶ新しいACOアルゴリズムを提案し,TSP を用いて評価を行い,cAS の有効性を確認した.本論文は,cASのQAPへの応用と並列化方式に関するものである並列化の目的は大きく二つに分類できる.一つは,与えられた時間内に よりクオリティーの高い解を得ることである.もう一つは,与えられたクオリティーの基準を満たす解を高速に得ることである本論文では第二の目的,すなわち高速化を達成することを目的に,複数のプロセッサを用いるcASの並列化の一方法と QAP における結果について述べる.The previously proposed cunning ant system (cAS), a variant of the ACO algorithm, worked well on the TSP and the results showed that the cAS could be one of the most promising ACO algorithms. In this paper, we apply cAS to solving QAP focusing our main attention on the parallelization of the cAS. Results show promising speedups of the parallel cAS.
著者
塩田 徹治 比嘉 達夫 佐藤 文廣 藤井 昭雄 木田 祐司 荒川 恒男
出版者
立教大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.従来の研究に引続き、代表者塩田は、主としてモ-デル・ヴェイユ格子に関連する研究をし、種々の応用を得た。整数論への応用として、有理数体の高次ガロア拡大において、比較的小さな素数でのフロベニウス置換を、チェボタレフ密度定理との関連で調べ、興味深い具体例を構成した(文献[1])。また代数幾何の有名な問題である3次曲面上の27本の直線について(モ-デル・ヴェイユ格子の理論に加え)ワイヤストラス変換の概念を導入して、決定的な結果を得た([2])。2.藤井は、ゼータ関数のゼロ点の分布について研究し、リーマン・ゼータの場合、シャンクスの予想についての以前の結果を改良した。また、エプスタイン・ゼータの場合も興味ある結果を導いた([3]、[4])。3.木田は整数論および代数幾何学における実際の計算と、その計算量について研究した。成果の一部は[5]で公表した。これらの研究において、当補助金により購入したパーソナル・コンピュータは大変役立ったことを特記しておく。
著者
磯部 彰
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

山東を舞台とした信仰では、泰山信仰が最も普遍的ではある。主神は東嶽帝君であるが、羅祖教の流れにある黄天道などの新興宗門では、東嶽帝君に陪祀される夫人の泰山娘々を神格とした経典宝巻を作成している。明刊本としては、「天仙聖母源流泰山宝巻」西大乗教の萬暦刊「霊応泰山娘娘宝巻」(悟空編)の2種が伝わる。沢田瑞穂氏は後者で、両本を代表させるが、実際は両者の内容は異なる。前者の断簡を所蔵する一方、後者は『続刻破邪詳弁』巻1に邪教の一つとして著録され、複印本もある。古くから女神としては観音がいて、「香山宝巻」が作られてその出身の霊験談を記す。泰山娘宝巻も観音出身伝に倣って、泰山娘々の霊験談を作り出したと見える。同じ頃、やはり山東を舞台とする孟姜女宝巻も作られている。女性神の宝巻が目立つのは、教門の担い手に女性教祖や信者が多かったことと関係しよう。