著者
玉田 芳史 河原 祐馬 木村 幹 岡本 正明 横山 豪志 滝田 豪 左右田 直規
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は民主化以後に登場した新しいタイプの指導者について、(1)その登場の背景ならびに(2)登場が民主化に与える影響について分析した。具体的に取り上げたのは、韓国の盧武鉉大統領、中国の胡錦涛国家主席、タイのタックシン首相、マレーシアの与党青年部副部長カイリー、インドネシアのユドヨノ大統領とゴロンタロ州知事ファデル、インドのインド人民党(BJP)、ロシアのプーチンである。(1)背景 (a)民主化に伴い指導者が選挙を通じて選ばれるようになったことが新しいタイプの指導者の登場を可能にした。(b)1990年代に政治経済の激動を経験し(経済危機、長期政権の崩壊)、国民が危機からの脱却を可能にしてくれる強い指導者を待望した。(c)既存の政党組織よりも、個人的な人気によって、支持を調達している(自由で公平な選挙が実施されているとはいえない中国とマレーシアは例外)。(d)指導者は国民に直接訴えた。危機で傷ついた国民の自尊心の回復、危機の打撃を受けた経済再生とりわけ弱者の救済をスローガンとした。このいわゆるポピュリズムの側面は中国やインドにも共通していた。(c)(d)双方の背景には、放送メディアやインターネットの積極的な活用が宣伝を容易にしたという事情があった。2 影響 (a)強い指導力を発揮できた事例とそうではない事例がある。韓国とインドネシアでは期待外れに終わり、タイとロシアでは期待通りとなった。(b)強い指導力を制度化できるかどうかに違いが見られた。プーチンは成功したものの、タイでは強い指導者の登場を嫌う伝統的エリートの意向を受けたクーデタで民主主義が否定された。
著者
横山 伊徳 中野 等 箱石 大 杉本 史子 高野 信治 吉田 昌彦 井上 敏幸 井上 敏幸 梶原 良則 小宮 木代良 杉本 史子 高野 信治 宮崎 修多 吉田 昌彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

天領豊後日田の広瀬家に伝わる未整理の史料群(大分県日田市・広瀬資料館所蔵「広瀬先賢文庫」)について文書構造を検討して目録を作成し、研究・教育に活用可能な状況を創り出した。また、同史料に基づく共同研究を実施し、近世後期から幕末維新期にかけての広瀬家を中心とする地域ネットワークの実態を、政治情報・経済情報・思想言説という、三つの視角から究明し、報告書にまとめた。
著者
橋詰 隼人
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.365-372, 1968-12
被引用文献数
1

1)花粉母細胞は11月下旬に減数分裂を開始した。分裂は12月下旬〜1月上旬にオープン・スパイレーム期に達し, しばらく停滞するが, 翌年の2月上旬になると急速に進行し, 2月中旬〜下旬の前半に第一分裂中期像が観察された。四分子は2月下旬に形成された。減数分裂の期間は約100日で非常に長い。花粉母細胞の減数分裂は平均温度が10℃以下の低温の時期に行なわれる。2)花粉母細胞の減数分裂にはしばしば異常が認められた。すなわち, 遅滞染色体, 染色体橋, 隔膜形成の異常, 退行現象などが観察された。このような異常分裂の結果, 巨大花粉が形成された。巨大花粉には円形, 広卵形, ひょうたん形のものがあった。成熟巨大花粉では, 生殖核を1個有するものと2個有するものがみられた。前者は二倍性の花粉である。巨大花粉の平均直径は43.8μで, 正常花粉よりも約10μ大きい。巨大花粉の出現率は個体によりちがいがみられた。3)四分子から分離した未熟花粉は3月上旬に急速に生長して, 飛散の5〜7日前から細胞分裂をはじめた。成熟花粉では生殖細胞と花粉管細胞の二つが認められた。飛散開始期は3月8日〜15日であった。四分子形成から飛散までの所要日数は約15日であった。4)人工発芽試験の結果, 花粉の発芽は飛散の5〜7日前から認められた。発芽率は花粉の発育にともなって急速に増加し、飛散期に最高に達した。以上の結果から, 花粉の採取は飛散時に行なうのが最もよいように思われる。
著者
古川 照美 西沢 義子 中路 重之 木田 和幸 梅田 孝 高橋 一平 高橋 一平
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

子どもの生活環境を考えた場合、家庭での生活習慣は重要である。本研究では、中学生時期の親子に対しての生活習慣改善を促す介入プログラムの検討を目的に、親子関係と子どもの生活習慣の関連、及び親子の身体特性の関連について検討した。その結果、親子で身体特性及び生活習慣の関連が認められ、さらに親子関係が子どもの生活習慣に影響を与えていることが示唆された。子どもの生活習慣改善のためには、親子関係を見据えながら、親をも含めた支援が必要である。
著者
照屋 寛善
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.115-127, 1959
被引用文献数
1 3

沖縄群島および八重山群島のハブ咬症について沖縄本島内の那覇, コザ, 名護の三保健所ならびに八重山保健所に集計された資料につき整理した資料と, 筆者が現地において直接調査し得た咬症患者ならびにハブについての一般的知見から琉球列島におけるハブ咬症の疫学相をまとめ, さらにこれを奄美の資料と比較したところ次のような興味ある結果がえられた.1)咬症患者の発生は年平均明治末期74.0, 大正年代88.0, 昭和年代111.2, 終戦後332.9と次第に増加し, 人口1, 000人に対する比率も増えているが, 致命率は逆に明治中期18.0, 明治末期16.6, 大正年代16.8, 昭和年代7.1, 終戦後1.83と減少している.(表1) 2)地域別には沖縄本島では北部の山岳地帯が多く, 中南部は比較的少ない.群島内では伊江島が最も多く, 次いで久米島が多い.八重山群島では一番患者の発生が多く罹患率の高いのは黒島で, 小浜島, 石垣島がそれに次ぐ.(表2) 3)市町村別に患者発生が多く罹患率の高いのは, 沖縄北部では伊江村, 国頭村, 今帰仁村, 東村, 本部村, 久志村等で中部では比較的に与那城村, 宜野湾村が多く, 沖縄南部では久米島の外三和村, 玉城村, 具志頭等が受傷率は高い.八重山では市町村別にすると大浜町が患者の発生も罹患率も高い.(表2) 4)ハブ咬症の月別発生状況は沖縄, 八重山とも冬に少なく夏に多いが7, 8月にはむしろ減少している.3月, 4月, 5月と温暖になるにつれ患者発生が多くなるが八重山では4月, 沖縄では6月に最高を示し, 以後減少して沖縄では10月, 八重山では11月に再び上昇している.奄美ではこのような山が6月と9月に見られるが.三地方についてみると南にいくにつれ盛夏の谷が長く深くなつている.(表3)(図1) 5)ハブ咬症の発生は気候と密接な影響があり, 24℃から29℃迄の発生が最も多く, 雨量や湿度とも密接なつながりがあるようである.(図3) 6)時間的には沖縄, 奄美では0時から23時迄いずれの時間にも患者の発生があるが, 特に奄美では午前10時と夕方7時〜8時頃に多く, 八重山では午前10時と夕方7時〜8時頃に患者の発生が多い外に昼3時頃にも多く, 3つの山をなしている.また深夜0時〜4時迄の発生は八重山サキシマハブの場合は殆んどないが, 奄美, 沖縄のハブにおいては比較的に高い.(表5) 7)年齢別の発生状況は各年齢層とも男子に多くて女子に少なく, 沖縄では男女比は100 : 66で, 八重山では100 : 44である.年齢別にみると両地方とも10歳未満は少なく, 15歳以上になると急激に患者が増加し, 以後年齢が進むにつれやや漸増しているが20歳〜29歳が最高で老年期には少なくなつている.(表6, 表7) 8)罹患場所についてみると, 沖縄では最も多いのは山野(31.9%)であるが, 道路歩行中(27.7%)屋内(26.0%)も相当に罹患率が高い.これに反し八重山のサキシマハブの場合は耕地(50.9%)が大部分を占め, 屋内での罹患率は僅かに3.1%である.(表8) 9)咬症部位については, ハブ, サキシマハブ共に手足の咬症が罹患率は高いが, ハブの場合はその外, 躯幹(2.8%), 頭, 顔(4.0%), 大腿(2.8%)等にもおよび, これらの部位における致命率は高い.サキシマハブの場合は足が半分以上(54.3%)を占め, 手(38.9%)の外は下腿と大腿にわずかにあるだけで躯幹, 頭部, 上腕, 等の比率がハブより明らかに低い.(表9) 10)抗ハブ毒血清の使用は致命率の減少をもたらし, この意味では素晴らしい効果を挙げたと推定されるが, 局所の病変には必らずしも著効を奏しない.もつと血清を改良して治療効果を高める必要があると同時に熱地保存に耐えるものが要求される.
著者
吉安 祐介 山崎 信寿
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.3, pp.582-592, 2011-03-01

本論文では,一般的なディジタルカメラとその内蔵フラッシュで撮影した複数の画像から,身体3次元形状を簡便かつ詳細に復元する方法を提案する.本手法では,身体に貼り付けたマーカの3次元位置,画像のシルエット及び陰影から推定した法線に適合するように,あらかじめ用意したテンプレートメッシュを変形する.本研究の主な貢献は,(1)内蔵フラッシュでフォトメトリックステレオを実現するための光源変化の獲得方法と,(2)陰影から推定した法線に対してメッシュを正確かつ効率的に適合させるアルゴリズムである.計測手法の妥当性を確認するために足長250 mmの足模型を計測し,市販のレンジスキャナと比較した結果,両データ間の距離は平均1.4 mmとなった.また,計測した被験者9名の足型から甲の表面長さを推定し,巻尺の計測値と比較した結果,その差が約2%となり,ISOの定める最大許容誤差程度であることを確認した.最後に,計測した足形状から個人に合う靴型モデルを自動的に作成する方法も示した.
著者
福永 圭司 穗刈 治英 島田 正治 杉山 精
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J94-A, no.3, pp.222-225, 2011-03-01

剛体球-円板モデルによる数値解析と6種類の耳介模型を用いた耳介伝達関数(PRTF)の測定により,耳介形状の影響の少ない音源入射方向について検討を行った.結果として,耳介方位角を耳介傾斜角と同等,また耳介仰角を220°付近とする音源入射方向で耳介形状の影響が少なくなる傾向にあることが示唆された.
著者
長友 康行 高橋 正郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

グラスマン多様体への調和写像の線型方程式による特徴づけを利用して、対称空間上に等径関数を構成し、さらにラドン変換により、それら等径関数が球面上の等径関数に変換されることを示した。また、複素射影空間から複素射影空間への定エネルギー密度関数をもつ調和写像のモジュライ空間を線形代数的データを用いて記述した。最後に、エルミート対称空間から複素グラスマン多様体への正則写像に関しても同様の結果を得ることができた。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.255-267, 1994-04-25
被引用文献数
6

5日平均GMS上層雲量(1°×1°メッシュ)データ(1978年4月から1992年12月)、及び5日平均ECMWF上層風(2.5°×2.5゜)データ(1980-88)、を利用してインドネシア・オーストラリア・ニューギニアにおける夏のモンスーンの開始と季節変化を調査した。熱帯モンスーンに伴う雲は、11月にジャワ島・北部ニューギニアで増加し、雨期が始まる。その後、12・1月にかけて東部インドネシア・オーストラリアに広がる。5日平均850hPa及び200hPa面のECMWF上層風の東西成分の季節変化で、850hPaで西風、200hPaで東風が同一地点で観測された期間の始まりを、風によるモンスーン開始日、終わりを終了日とした日付けと比較すると、北部オーストラリア・ニューギニア・スラウエシ島・南部ボルネオ等の島や陸上で、付近の海上にくらべて日射による加熱のため対流活動が活発で、雲量による開始日は早く、終了日は遅れる傾向がみとめられた。インドネシア・オーストラリア・ニューギニアでは広大な海洋のため降水量による雨期の開始(終了)の日付の調査は、ダーウイン付近をのぞいて十分でなかった。しかしGMS上層雲量データによる調査によって、この地域での雨期の開始から終了までの季節変化が明らかになった。
著者
長友 安弘 岡山 昭彦
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マイクロパーティクル(MP)の間質性肺炎(IP)病態形成への関与、臨床応用への可能性を明らかにすることを目的とし、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の MP を測定した。IP の BALF 中の MPは増加しており、MP 濃度は BALF 中の総細胞数、特にリンパ球数と正の相関をしたが、好中球数や LDH 濃度とは相関しなかった。これらの結果から MP は抗炎症性に働いている可能性が考えられた。今後さらに研究を進めたい。
著者
井黒 忍
出版者
大谷大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

具体的内容:本年度においては、明清時代の碑刻資料を用いて、山西省汾河流域の水利用方式と関連規程を考察した。その結果、流域中における水利用規程の多くが12世紀に作成され、20世紀初頭に至るまで継承されたものであること、下流域においては、16世紀以降、水の売買・貸借が盛んに行われ水利用の不均等性を補填する互助システムとして機能したことを明らかにした。研究成果として、環境を共通テーマとする2008年史学研究会例会において研究報告を行い、「清濁灌漑方式が持つ水環境問題への対応力-中国山西呂梁山脈南麓の歴史的事例を基に-」を『史林』(第92巻第1号)に掲載した。さらに、現地碑刻調査にて得られた諸データを用いて「汾河下流域の水資源利用と開発に関する碑刻データベース」を構築した。意義と重要性:呂梁山脈南麓地域における山間部からの流出水を用いた灌漑方式が、地域社会の自律的管理のもとで700年間以上にわたる長期持続性を有したことは、この水利用方式が恒常的に発生する旱魃や水害を克服しうるシステム的耐性を持つものであることを意味する。これは、乾燥・半乾燥地域における水利慣行や規程の中に人々の環境適応のあり方を見いだすことができるとする研究の仮定を証明するものである。さらには、システムの耐久性を支えるものとして、水の売買や貸借が日常的になされたことを明らかにしたことの持つ意味は大きい。現在、各地で水不足が深刻化する中、国家および地方政府の施策として水利用権の売買が行われつつある。汾河流域の地域社会が持つ歴史的経験から、こうした現状に対しても有効な提言を与えることが可能となる。
著者
澤田 祐一
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度中に,制御スピーカーを取り付けた1次元ダクト内の音圧に関する数学モデルをすでに確立し,さらにダクト開口部に達する進行波成分を最小にする有限次元フィードバック制御器を確率システム理論を用いて構築した.平成10年度は前年の成果に基づいて数値シミュレーションおよび実験を実施し,その動作特性,有効性の検証を行った.数値シミュレーションで取り扱うダクトは実験装置として使用する矩形ダクトと同サイズのものを想定し,全長2[m]のダクトに口径12[cm]の制御用スピーカーを取り付けた.また,制御スピーカーをエンクロージャーで覆いその内部の音圧を計測することで,スピーカーのバッフルボードの変位をより正確に推定できるようにした.数値シミュレーションを実施した結果,騒音源(送風ファン)からの音波(進行波)がスピーカーの設置位置を通過すると同時にその振幅は急速に減少していることが確認され,提案した制御系がダクト内の進行波成分を効果的に押さえることが示された.その性能はおよそ100[Hz]から1000[Hz]までの進行波成分を最大20[dB]減少させることができ,本研究で提案した制御系の目標を十分に満足するものであった.ダクト内の音圧分布という観点から見た場合,騒音源である送風ファンからスピーカーまでの部分では制御の有無に関わらす音圧の振幅にほとんど変化は見られないが,制御スピーカーから開口部に到る部分では音圧のみならず音圧勾配も十分に抑制できていることが明らかとなった.これは,ダクト開口部から放射する音が減少することを意味する.実験は数値シミュレーションの場合と同様のアクリル製矩形ダクトとDSP(Digital Signal Processor)を用いた制御装置により行った.シミュレーションでは1000[Hz]付近まで効果的に制御できることを確認したが,実験ではおよそ120[Hz]から500[Hz]の範囲でダクト開口部付近の音圧をおよそ10[dB]低下させることができ,実験においても1次元ダクトと見なせる周波数範囲で制御系が良好に動作することが確かめられた.
著者
川人 光男 銅谷 賢治 春野 雅彦
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.24, no.38, pp.57-64, 2000-06-22

言語などのヒトの高次認知機能を神経科学の研究対象とするためには、サルなどの動物実験で得られた神経科学のミクロなレベルの知識を、計算理論を媒介として、ヒトを対象にした脳活動の計測データや、言語学などの研究と統合する必要がある。このための新しい計算理論とそれを支持するデータを紹介する。我々の提唱するアプローチの対極となる、Chomskyが構築した生成文法研究で大前提とされる仮定に対する批判を行いながら、研究の全体像を俯瞰する。
著者
高橋 公明 池内 敏 ロビンソン ケネス 橋本 雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

大陸沿岸・半島部・島嶼部で構成される東アジアでは、海を舞台とした人間の営みが大きな意味を持つ。本研究では、東アジアの国際関係史、文化交流史および海事史などで扱われている諸課題を相互に連関させ、かつそれらを基礎づけるとものとして「海域史」を位置づける。その立場から既知・未知を問わずに資史料を発掘し、新たな方法論を提示して、これまで見えてこなかった局面に光をあてた。こうした「海域史」の立場から資史料を見たとき、常に大きな困難となるのは資史料の性格である。第1に、中心(国家)から周縁(地域)を見る立場から作成された資史料が多いこと、第2に、「嘘」や「誇張」が含まれた記述を解釈しなければならないこと、第3に、文学作品や舞台表現など、そもそも「事実」であることを保証していないものも、資史料として活用しなければならないことなどである。以上の認識に基づいて、(1)古地図は何を語っているのか、(2)文学表現のなかの言説と「事実」のあいだ、(3)偽使の虚実を超えての3点の課題を設定し、これからの海域史研究における史資料活用の可能性を広げるための検討をおこなった。その結果、研究代表者・研究分担者だけでなく、研究協力者からも多様な成果が提示された。それらの成果は、国際的な学術誌を含め、論文・著書として発表され、最新の成果に関しては研究報告書に結実した。