著者
檜垣 恵 坂根 剛
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

慢性関節リウマチ(RA)は関節滑膜を炎症の主座とし軟骨・骨破壊を来たす原因不明の慢性炎症疾患である。関節滑膜には、血管新生、リンパ球浸潤と共に滑膜表層細胞の重層化が認められパンヌスが形成される。このパンヌスはA型のマクロファージ様細胞及びB型の線維芽細胞様細胞からなるが、B型滑膜細胞はA型滑膜細胞の産生するインターロイキン(IL)-1や血小板由来増殖因子(PD-GF)などのモノカインに反応して増殖することも明らかにした。さらに活性化されたB型滑膜細胞は種々のサイトカインと共にコラゲナーゼ、ストロメライジンなどのプロテアーゼ及びプロスタグランジン(PGs)を産生して軟骨・骨破壊を引き起こす。そこで、RAに対する治療戦略としてはB型滑膜相棒の増殖・活性化を阻害することが重要と考えられる。そこでわれわれはビタミンD_3の滑膜細胞増殖抑制効果を検討した。活性型VD3は用量依存性に滑膜細胞の増殖を抑制した。コントロールとして用いたレチノイン酸やデキサメゾンにはこの作用は認められなかた。RA由来、OA由来の滑膜細胞でVD3に対する感受性の違いはなく、線維芽細胞株WI-38には作用しなかった。さらにIL-6及びコラゲナーゼ産生をデキサメサゾンと同様に抑制したが、TIMPの産生には影響しなかった。又、ゲラチンザイモグラフでもコエアゲナーゼ活性の低下を認めた。ゲルシフト法によりVD3添加でIL-1刺激時の滑膜細胞の核蛋白AP-1の抑制が認められた。細胞周期に与える影響ではDNAヒストグラムよりVD3添加によりG1期での阻害が認められ、ノザンプロットでサイクリンD1の発現低下が認められた。以上、活性型ビタンミンD3が滑膜細胞の増殖及び活性化を抑制することが明らかになった。ビタミンD_3のメディエーターと考えられているC18/C2セラミドおよびHerbimycinなどのチロシンキナーゼ阻害剤及びチロシンホスファターゼ阻害剤(Orthovanadate)の作用検索をしたが滑膜細胞に対しては抑制効果はなかった。サイトカイン産生などの活性化抑制に関しては転写因子AP-1の抑制によるものと考えられた。増殖抑制に関してはデキサンサゾンとは異なる活性である。c-mycの発現抑制はなかったが、サイクリンD1の発現抑制によりG1アレストが起きていると考えられた。このような免疫調節作用藻有する活性型ビタミンD3の作用はマン液関節リウマチの治療薬剤としての可能性を示唆した。
著者
海野 倫明 阿部 高明 片寄 友
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は、liver-specific organic anion transporter-2(LST-2)の抗体を作成し、この抗体を使用して免疫染色を施行したところ、一部の結腸癌や乳癌においてLST-2が陽性になることを明らかにした。そこで、結腸癌手術検体および乳癌手術検体を用いてLST-2発現と各種臨床病理学的因子や予後との相関を検討し、LST-2の癌細胞における腫瘍生物学的意義を探索することを目的に以下の検討を行った。大腸癌手術症例255例を用いて、LST-2特異的抗体で免疫染色を施行し、同時に各種臨床病理学的因子と予後に関し相関を検討した。その結果、255例中、67例の癌細胞膜及び細胞質で陽性であった。一方、正常大腸粘膜は陰性(ないし弱陽性)であった。Fig.1に示したように結腸癌組織内ではLST-2陽性細胞はsporadicないしfocalに染色され、陽性細胞は最高でも30%程度であった。次に、LST-2発現と予後に関して、overall survivalを検討したところ、LST-2陽性症例は、女性においてのみ有意に生存率が高い(P=0.0217)ことが明らかとなった。次に既知の結腸癌予後因子群(リンパ節転移/浸潤度/histological grade/血管浸潤/リンパ節浸潤/Ki-67labellingindex等)との単多変量解析を施行した。その結果女性結腸癌症例におけるLST-2の発現は、従来報告されているDukes分類やリンパ管浸潤と同様に予後因子であることが明らかになった。さらに多変量解析を施行したところ、これらを超える優れた独立予後規定因子になることが判明した(P=0.0447,relative risk(95%CI)=8,264)。次いで乳癌で同様な検討を施行した。102例の乳癌症例中、LST-2陽性51例の予後は、陰性51例と比較すると,無再発生存期間、全生存期間の両者で有意に予後が良好(p=0.03,0.01)であるという結果が得られ、LST-2の発現の有無は乳癌の予後予測因子の一つと考えられた。
著者
小野江 和則 岩渕 和也 小笠原 一誠
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

NK-T細胞の分化と機能について研究を行った。先ずリンパ節、パイエル板を欠くaly/alyマウスにおいて、NK-T細胞の分化障害があり、これはaly/alyマウスの胸腺構築異常に起因することを、骨髄キメラを用いて初めて明らかにした。次に、NK-T細胞がVα14を発現しないTCRトランスジェニックマウス(DO11.10)においても産生されること、これらはクローン消去、及びアナジーによるnegative selectionを受けることを明らかにした。さらにNK-T細胞の分化にはチロシンキナーゼのZAP-70の存在が必須であることを明らかにした。また、ZAP-70ノックアウトマウス胸腺には、NKl.1^+TCRαβ^-細胞が増加しており、これらをPMAとイオノマイシンで刺激するとVα14NK-T細胞に分化することを明らかにした。従ってZAP-70ノックアウトマウスのNKl.1^+TCRαβ^-細胞は、NK-T細胞の前駆細胞であることが判明した。さらにaly/alyマウスにおけるNK-T細胞分化欠落の原因を明らかにする研究を行い、NIK突然変異の影響が、胸腺髄質細胞の機能不全を誘導し、その結果NK-T細胞のpositive selectionが生じないことを明らかにした。従って、NK-T細胞の分化には、CD4^+8^+肺腺細胞上のCD1分子と、胸腺髄質上皮細胞からの第2シグナルが必要なことが判明した。最後に自己免疫マウスのNK-T細胞を解析し、1prマウスでは異常がないこと、(NZB/NZW)F1マウスでは加齢とともにNK-T細胞が減少することを明らかにした。NK-T細胞の減少は、自己抗体によることを示唆する結果が得られつつある。
著者
柳田 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニュートリノの小さな質量を説明するSeesaw機構によれば、その小さい質量は非常に重いMajoranaニュートリノが存在することを予言する。この重いニュートリノは宇宙の温度がその質量より高ければ大量に生成される。その後、宇宙が膨張し、重いニュートリノの質量より宇宙の温度が下がってくると重いニュートリノの崩壊が始まる。ここで重要なのはMajorana型の質量がレプトン数を破る点である。このために、重いニュートリノはレプトンへの崩壊と反レプトンへの崩壊が可能になる。CPが破れていればレプトンへの崩壊率と反レプトンへの崩壊率は互いに異なる。つまり、この崩壊によりネットなレプトン数が生成される。この生成されたレプトン数はKRS効果によりバリオン数に変換される。このようにして、宇宙のバリオン数が生成される。本研究では、この機構と観測されたニュートリノの質量が矛盾しないことを示した。宇宙のバリオン数の生成を考える上で宇宙のインフレーション後の再加熱過程の考察は不可欠である。本研究の最終年度では、インフラトンの崩壊を超対称性重力理論の枠内で考察した。超対称性が破れると重力子の相棒のグラビチーノが質量を持つ。その質量は超対称性の破れをクォークやレプトンの世界に伝える方法によって異なり、現在のところ未知のパラメターである。上記のバリオン数生成機構はこの超対称性の破れを伝える機構に重要な制限を与える。本研究では、宇宙のバリオン数と矛盾しない超対称性の破れを伝える機構として、Gauge mediationとAnomaly mediationが選ばれることを示した。この結果は来年度から始まるLHC実験により検証されると期待できる。
著者
筒井 和幸
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.315-318, 2009
被引用文献数
1

2009年3月9日に高等学校の新しい学習指導要領が公示され,数学と理科は2012年度の入学生から先行実施される。学習指導要領解説も含めて高校の理科教育,物理教育に生じる課題を考察した結果,個々の教員の指導力とともに学校の教育課程経営の在り方が重要性を増すことがわかった。本稿ではこれらの考察の結果を報告するとともに,日本物理教育学会(以下,本学会とする)を中心とした物理教育関係者による組織的な取り組みについて提案を行う。
著者
岡山 博人 佐方 功幸 石見 幸男 白髭 克彦 大矢 禎一 石見 幸夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

当研究の主たる課題であり、発癌の根底機構をなす足場依存性・非依存性細胞周期機構の解明に向けて研究を推進し、重要な進展を得た。特に、足場消失に伴い、染色体DNAの複製開始に必須なCdc6タンパクの発現が転写停止とタンパクの分解促進によって遮断されること、このタンパク分解に、少なくとも2種類のユビキチンリガーゼと1種類のカテプシン様システインプロテアーゼが関わっていること、その一つはG1期で作用することが示されているCdh1-APであり、その働きに癌抑制因子p53が必要であること、更にこれらの系によるCdc6タンパクの分解制御にTsc-Rhebシグナル伝達経路が深く関わっていることを見出した。一方、G1期サイクリン依存性キナーゼのなかでCdk6/サイクリンD3の複合体が、阻害タンパクの影響を受けないこと、その結果、増殖刺激が無い状態で細胞の増殖促進効果を発揮し化学発癌に対する細胞の感受性を著しく引き上げること、更に、骨細胞分化を負に抑制することを明らかにした。他方、細胞周期チェックポイント制御に関して、以下の知見を得た。Myt1キナーゼはCdc2の抑制的キナーゼであり、ツメガエル卵の減数分裂においては、Mos/MAPK下流のp90rskキナーゼがMyt1と結合し、その活性を阻害している。また、体細胞周期においてPolo様キナーゼPlx1がMyt1と結合しリン酸化することによってその活性を阻害することを見出した。更に、様々な基質中の二重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGFXpS)を認識するSCFb-TrCPユビキチンリガーゼが、ツメガエルおよびヒトのCdc25Aにある新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGFXD)を認識し、分解に導くことを見出した。
著者
澤田 元 尾野 道男
出版者
横浜市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の特徴である、臓器を皮下に移植することにより、生体内で再生現象を起こさせた場合の変化について調べ、いくつかの重要な知見を得た。本年度に新たにわかったことを以下に記す。(1)気管の上皮細胞は移動に際し、重層扁平化(扁平上皮化生)したが、電子顕微鏡レベルでの観察では、移動先端の細胞は上層の扁平な細胞層と、下層の立方状の細胞層が区別できた。最上層の細胞の上面には徴絨毛が見られるなど、細胞極性は一部維持されていた。細胞間隙は開いており、そこに多数のヒダを出して隣の細胞と結合している。接触面にはデスモソームが見られる。移動先端では不規則な形と大きさのBleb状の構造が見られ、移動にとって重要な役割をしていることが推察された。この構造は中に差相棒ない小器官をほとんど持たずアクチンの断面と思われる点状構造のみが見られた。(2)気管は皮下に空間を作り、上皮の断端が宙に浮くように移植しても上皮間に薄い膜が張って、その内側に上皮が移動、再生した。この膜は上皮が移動した先端部を境にして、フィブリンが主体の中心部分と各種コラーゲンが主体の周辺部に区別される。そこで人為的にコラーゲン膜やフィブリン膜を作成して、この膜上で気管の上皮再生を促したところ、コラーゲン膜では良好な再生が見られたが、フィブリン膜には細胞は接着できなかった。なお、細胞接着タンパクのフィブロネクチンは細胞外マトリックス全体に幅広く分布していた。
著者
野村 徹 齋藤 敦史
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

SAWデバイスを利用したマルチチャネルセンサの構成とそのガスセンシングへの応用について示す。化学特にガスセンサでは、複数のセンサの応答よりガスの識別を行う。本研究では、同一基板に複数のSAW遅延線を並べ、入力には一個のドッグレッグIDTを用いたセンサアレイによるガスセンシングについて提案した。このセンサアレイと増幅器による自励発振器を構成したセンサシステムでは、自動的に温度補償が行え、チャネル間のクロストークも小さいことが分かった。また、ガスセンサに重要な感応膜の塗布に、簡易LB膜法を用いることにより、センサアレイの各チャネルの微小な部分に正確に再現性よく塗布することができた。応用では、このセンサを有機ガスの識別に適用し、いくつかのサンプルガスに対し、ユニークな応答パターンを得た。
著者
若月 利之 石田 英子 増田 美砂 林 幸博 広瀬 昌平 TRAORE S.K.B ALLURI K. OTOO E. OLANIYAN G.O IGBOANUGO A. FAGBAMI A. 小池 浩一郎 宮川 修一 鹿野 一厚 中条 広義 福井 捷朗
出版者
島根大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイジェリア中部ニジェール洲、ビダ市付近のエミクパタ川集水域のヌペ人の村落から農民の参加意欲と土と水条件より5ケ村のベンチマーク村落を選んだ。アジア的な水田稲作とヌペの伝統的低地稲作システムを融合させながら展開するための実証試験をニジェール洲農業開発公社の普及研究員と国立作物研究所の研究員の協力を得ながら、農民参加により実施した。又、多目的樹種を中心にした育苗畑の整備と管理法及び成熟苗を利用したアップランドにおけるアグロフォレストリーの実証試験も実施した。東北タイより収集した品種特性の異なるタマリンドの種より育苗した。次年度には移植する予定。ガーナのクマシ付近のドインヤマ川小低地集水域でも、同様の水田農業とアグロフォレストリーを農民参加により実施することにより、劣化集水域を再生するための実証試験を実施するに当たって必要な土と水と気象条件、在来の農林業システム、村落の社会経済的条件等、各種の基礎的調査を実施した。一部では水田造成と稲作、村落育苗畑等の小規模実証試験を行った。ニジェールのドッソ付近のマタンカリ村付近のサヘル帯の小低地集水域でも同様の基礎調査を実施した。タイとインドネシアでは西アフリカに応用可能な農林業システムの文献資科や、上述のように樹木のタネ等を収集した。アジアと西アフリカの研究者と意見交換し、農林業システム融合の条件を検討した。又、タイで採取した樹木種子はナイジェリアの苗畑で発芽生育させ、生育は順調なので移植を準備中である。フィリピンでは世界の稲作システムに関する既存の資料を収集した。
著者
大柳 満之 中沖 隆彦 中野 裕美 青井 芳史
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

積層不規則構造をもつナノ粒子の構造規則化と結晶配向、焼結の相関および、それに影響を及ぼす条件・因子に関する研究を行った。焼結パラメーターや添加材(CにはB、BNにはホウ素酸化物など)を変えることで、ナノ粒子の構造規則化・結晶配向・緻密化に及ぼす影響を調べた。積層不規則構造を保ちながら緻密化した焼結体と結晶配向の著しい焼結体を作り分けることに成功し、それらが特異な性質を示すことを明らかにした。
著者
西野 正見 吉原 計一 前田 弘
出版者
公益社団法人日本航海学会
雑誌
航海 (ISSN:0450660X)
巻号頁・発行日
no.71, pp.1-9, 1982-03-15

漁撈操船中の主機運転パターンは,それぞれの漁業の作業形態に応じた特有の型をとる。その典型的な例として1980年3月9日から18日まで対馬近海で土安丸(49トン,230馬力,FRP船)によって行われたフグ延縄揚縄作業32時間48分にわたる記録を分析し次の結果を得た:1.揚縄作業中の主機運転は短時間の前進と停止の繰り返しであり,前進時間(最短1秒より最長75秒まで,平均8.2秒,1秒単位)と停止時間(最短1秒より最長207秒まで,平均29.1秒,5秒単位)の頻度分布は対数正規分布に適合する。2.一連のデータに関する前進・停止時間(いずれも長さy秒をlog(y+1)に変換した値を用いる)の平均・偏差を従属変数とし操業条件を説明変数とする重回帰式を変数最良選択法によって求め,次のことがわかった。前進は風・潮流による船の漂流と揚縄作業の進行に対し船位を調整するためで,大きな調整を必要とする時ほど,すなわちあまり長い間停止したままでおれない時,船首方向から風を受ける時,左舷からの潮流を受けて船が縄の上に流される時は長い。3.前進時間の偏差は,前進時間が長く停止時間の偏差が大きい時ほど大きい。4.停止時間の長さは,風と潮流を受けて流されながらでも位置を調整せずに揚縄を続けることのできる時間の長さで,船が縄の上に流されにくい時ほど,すなわち右舷からの風・左舷に向かう潮を受ける時及び風力が弱い時ほど長い。5.停止時間の偏差は,長い間停止したままでおれる時及び右舷からの潮を受ける時は小さい。6.前進時間・停止時間のオートコレログラムとクロスコレログラムによれば,相次いで行われる何回かの前進と前進・停止と停止,前進と停止及び停止と前進の間に連続性(関連性)は認められない。
著者
高井 伸雄
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでに提案してきた破壊パターンは内部空間の損失を反映した指標であるが、さらに定量的に評価するために、内部空問の損失を評価するW-値を導入し、建物の破壊パターンとW-値との関係を明らかにした。ここで、人的負傷とを関連づけることで、建物被害とは独立した、人間への外力と傷害度との関係が導き出される。ここでは人間の負傷度を医学で用いられる指標(傷害度スコア)を引用し、医学研究者との議論を重ね、内部空間損失と人的負傷との関係を明らかにした。以上で地震時の建物被害による人的被害発生のメカニズムが明らかになったが、パターンと傷害度スコアとの関係は、東灘区のデータを利用していることから、一般化を目指し他地域での適用に関して議論した。そこで、対象地域を木造パラメーターの異ならないと思われる地域として、同地震で被害を受けた神戸市長田区を新たに対象地域都市として、GIS上に同様のデータベースを構築し、人的被害を予測した。その結果これまでに利用されてきた手法より精度の高い予測が可能となっている。これまでは木造に関しての解析であるが、1999年トルコ地震におけるRC建物造に関しての建物破壊パターンとW値との関係も議論可能とするべく、一次解析としてRC造の破壊パターンと主要な破壊階と死傷者の関係のデータベースを構築した、RCに関してはさらに詳細な解析を行う準備がある。ここで注目する点は精度の向上よりも、メカニズムに踏み込んだ議論をしていることであり、以上により明らかとなった木造建物の地震被害による人的被害発生メカニズムを基に、より安全性の高い破壊パターンを考慮した建物形式、及び既存不適格建物の補強方法を議論することが可能となった。
著者
猿渡 俊介 司 化 森川 博之 ヨハンイェルム 小田 稔周
雑誌
研究報告モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL)
巻号頁・発行日
vol.2010-MBL-52, no.9, pp.1-8, 2010-01-21

DLNA デバイスの操作履歴から抽出可能な,ユーザがいつ,どのように,どのようなコンテンツを閲覧したかなどの情報は,新商品の開発やユーザの状況にあわせた推薦サービスなどに役立てることができる.本稿では,DLNA デバイス間の通信を ARP スプーフィングを用いてモニタリングすることで DLNA デバイスの操作履歴を取得するシステム 「DLNA Probe」 の設計について述べる.DLNA Probe を用いることで,既存の DLNA の枠組みを壊すことなく,ホームネットワークに DLNA Probe を接続するだけで DLNA デバイスの操作履歴を収集することができる.
著者
川谷 充郎 小林 義和 野村 泰稔
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.橋梁交通振動のアクティブ制御による制振効果の確認研究代表者らが開発してきた模型桁,模型車両およびアクティブ制振装置を用いて実験的にアクティブ制御の制御効果を示すとともに模型実験で用いられた制御理論を用いて理論解析を行い,実験結果との比較を行った。解析で用いる制御理論は出力フィードバック制御とロバスト安定性が高いと思われるH∞最適制御理論とした.そして実橋に対するアクティブ制御の制振効果を理論的に確認するために,阪神高速道路梅田入路橋の応答データに基づき,曲げ振動だけではなく曲げとねじり連成振動に対しても制御を行い,出力フィードバック制御とH∞最適制御理論との制振効果の比較を行った.結果として,H∞最適制御理論による橋梁交通振動の動的応答解析結果から,曲げ振動および曲げとねじり連成振動共に制振効果が高いことが分かった.2.歩道橋群集歩行振動のアクティブ制御による制振効果の確認大阪ドーム前歩道橋のうち最も揺れやすいと報告されている,支間長30.19m,幅員3.4mの区間を対象として現地歩行振動実験を行い,振動応答結果に基づき歩行外力モデルを検討するとともに,歩行者の振動感覚アンケート調査を行った.さらに,単独共振歩行および群集歩行に起因する振動の低減化対策について解析的に検討した.結果としてTMDは単独共振歩行に対しては効果的であるが,群集歩行時には共振成分以外の振動はあまり低減されず,振動を感じることがわかった.アクティブ制御においては,最適レギュレータ理論,H∞制御およびファジィ制御を適用したが,全ての制御理論において制振効果が高く,歩道橋に対しても,その有用性が確認された.各制御理論の比較から,H∞制御が最も制振効率が良く,単独・群集歩行時の共振成分以外の様々な振動成分を低減できることが明らかとなった.
著者
神川 康子 永田 純子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

先進国の中で最も睡眠不足だと言われる日本の子ども達の心身の健康や生活の質を向上させるために、小学生や未就学児を対象に、睡眠・生活実態調査と学力調査、および重心動揺による自律神経機能の測定を行い、それらの関連を分析した。その結果、子ども達の就寝時刻の遅延が、睡眠の質(寝つき、熟眠感、目覚めの気分)も、日中の生活(覚醒度、集中力、いらいら感、)の質も低下させることが判明した。そして子ども達の就寝時刻を遅れさせる最も大きな原因はTVやゲームであり、ついで、習い事の多さも原因となっていた。また、TVやゲームの時間は、試験の成績や健康状態とも有意に関連していた。とくに小学生では、4年生以上において生活習慣が悪化しやすいので、この時期に睡眠習慣を見直す科学的な指導が必要であるといえる。学力と生活習慣の関連では、4教科のうち、国語が最も多くの生活習慣項目(睡眠習慣、規範意識、家族関係、自尊感情など)と関連しており、また算数は、睡眠時間や食生活、健康状態と関連があり、健康状態が良いほど、思考力が必要な問題の正答率が良いことが判明した。また、起床困難を改善するために、小学4,5年生を対象に、子ども部屋に漸増光照射照明器具を設置して、その効果を検証したところ、起床時の気分や日中の気分を改善し、QOLを高める効果が認められた。最後に、学年進行とともに睡眠習慣が改善する児童と、改善しない児童の生活実態の10ヶ月間の変化を比較したところ、就寝時刻が遅延した児童ほど、日常生活(あくび、TV・ゲーム時間、服装など)も悪化し、生活の質が低下することが認められた。小学生までの間に、子ども達には、就寝時刻を乱さないように生活を見直し、TVやゲームの時間を自分で制限するなど、自分で考えて生活する力(自己管理能力)をつけることが重要であると考えられる。
著者
申 吉浩
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.459-468, 2009 (Released:2009-08-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1

This paper proposes two frameworks to be used in engineering tree kernels. One is to ensure that the resulting tree kernels be positive semidefinite, while the other is for efficient algorithms to compute the kernels based on the dynamic programming. The first framework provides a method to construct tree kernels using primitive kernels for simpler structures (e.g. for labels, strings) as building blocks and a easy-to-check sufficient condition for the resultant tree kernels to be positive semidefinite. The second framework provides a set of templates of algorithms to calculate a wide range of tree kernels in O(|X|3) or O(|X|2)-time, where |X| denotes the number of vertices of trees.