著者
岩坂 泰信 金 潤ソク
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

韓国で、2005年3月に、韓国気象研究院の協力を得て、エアロゾルゾンデを使い大気中のエアロゾル数密度と粒径の計測を行った。地上付近から、成層圏まで順調に観測され、その初期的な結果は、国際的なプロジェクトであるABC(Atomospheric Blown Cloud)プロジェクトのもとで運営されているホームページ上で公開した。韓国において、開催されたABC国際シンポジュームでもその成果は発表されている。インドで2005年12月に開催されたアジアエアロゾル会議および金沢大学21COEが主催した2006年3月の国際シンポジューム、においても、観測結果の解析・吟味の進捗に合わせて上述の結果を発表した。観測された高度分布は、エアロゾル濃度の高い層が何層か重なっており、これまでにACE-Asiaプロジェクトなどで観測された結果と極めてよく似た様相を呈している。上空の水蒸気分布(客観解析データより推定されたもの)などと比べてみると、性質が大きく異なった空気が何層にも重なっていることが示唆される。現在、詳細な解析結果を雑誌投稿準備中である。2005年8月には、中国科学院の大気研究グループと長白山系の予備調査を実施した。予備調査の結果、中国科学院が生態研究や二酸化炭素の濃度モニタリングを行っている長白山のふもとの施設に大気観測用の諸施設を設置し、長期大気モニタリング基地を建設するのが至当と判断された。同地域は、韓国の関係研究者も予備調査を実施しほぼ同様の結論を得ている。また、これを機会に中国の延辺大学およびその他の機関との共同研究体制が出来つつあり、今後の研究の発展の準備が出来上がった。この観測施設は、広い分野の研究者にも利用可能にするべく準備中である。引く気球実験は、2006年4月に放球の予定で、それに向けて種々の準備を行ってきた。中国のチンタオよりエアロゾルゾンデを放球し東シナ海あるいは日本海上空をゆっくりとした速度で上昇させながら横断するコースを取ることによって、大陸の空気がどのようにして海洋の空気を混合し性質を変えてゆくのかを明らかにする計画である。
著者
永光 輝義
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

17地点に設置した70トラップのそれぞれによって2004年に採集された外来種の個体数は、温室で使われたコロニーからの分散と水田の広さに正の相関を示した。一方、在来3種は畑と森林の面積が大きい場所で採集個体数が多かった。外来種が多い場所で在来種の個体数とワーカーサイズが小さくなる関係は認めらず、外来種と在来種との種間競争を示唆する証拠はこの観察からは得られなかった。この観察は、土地利用で表される生息地の条件がマルハナバチの個体数を決める主な要因であることを示唆している。ワーカーの個体群動態を5地点で4年以上観察した。外来種の分布中心部では、外来種が減少し、在来種が増加した。南北の分布周辺部では、外来種が増加したが、在来種の動態は様々だった。南の分布境界では、外来種の分布域が拡大した。この観察結果は、温室からの分散に起源する個体群が「波」として拡大するパターンを表しているのかもしれない。2005年に1511個体、2006年に2978個体の外来種を6地点で除去した。一方、7地点は対照とし、除去を行わなかった。そして、2004年から2006年までの3年間、これらの地点でトラップを用いてマルハナバチを採集した。除去は、外来種の全個体数と女王個体数を減少させた。しかし、2006年の強い除去よりも2005年の弱い除去の方が減少効果は大きかった。また、除去によって在来種の女王個体数が増加した。2006年と比べて、外来種がより大きく減少した2005年に、在来種はより大きく増加した。一方、除去によるワーカーサイズへの影響は見られなかった。よって、少なくとも女王の個体数について外来種と在来種との種間競争を示唆する証拠がこの実験から得られた。
著者
伊藤 たかね 萩原 裕子 杉岡 洋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,語レベルの言語処理にかかわる心内・脳内メカニズムを明らかにすることを目的として,事象関連電位(ERP)計測の手法を用いた実験を行った。具体的には,複文の特徴を示す複雑述語(サセ使役)および,動詞の屈折を取り上げ,いずれの場合にも規則による演算処理と,レキシコン内のネットワーク的記憶という,質の異なる処理メカニズムが働いていることを示唆する結果を得た。
著者
田岡 洋子 高森 壽 井澤 尚子 斎藤 祥子 椋梨 純枝 青木 迪佳 高木 くに子
出版者
福知山公立大学
雑誌
京都短期大学紀要 (ISSN:13483064)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-12, 2006-03

高齢者の生活意識と衣服環境についての調査を2001年10〜11月に北海道から九州の8地域に居住する元気な高齢者(男性282名、女性810名、計1,092名)を対象に質問紙調査法を用いて行い、有効回収率93.7%であった。「生活意識」は健康を心配し、健康維持のために食べることを男性53.5%、女性62.7%が注意し、楽しいのは人と接することであり、おしゃれ感のある男性51.4%、女性83.0%であった。服装については男性46.5%、女性66.7%がおしゃれ感をもち、着用時の第一留意点は「足もとには履きやすいもの」で、因子分析では自己表現・調和・実用性・着心地に女性が高得点で、男性は規範性に高得点であった。「望ましい高齢者衣服のイメージ」は暖かく・ゆったりした・上品な・明るいが上位で、因子分析では男性が親しみやすさ・活動性に、女性は容儀性・ファッション性に高得点であった。生活意識から見ると女性が暮らしの工夫をし、おしゃれ感、望ましい高齢者衣服のイメージには性差が見られた。
著者
田岡 洋子 井澤 尚子 高森 壽 斎藤 祥子 青木 迪佳
出版者
福知山公立大学
雑誌
京都短期大学紀要 (ISSN:13483064)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-39, 2007-03
被引用文献数
1

望ましい高齢者の衣服についての調査を2001年10・11月に北海道から九州の8地域の居住する元気な高齢者を対象に質問紙調査法を実施した。有効回収数1,092票、有効回収率93.7%であった。生活意識として、心配ごとは健康で、それを維持するために、食べ物に注意している。楽しいことは人と接することで、外出や旅行を好み、おしゃれ感もあり、服装におしゃれ感のある人が多い。着用時の留意点としては「足もとには履きやすいもの」「色・柄・デザインが気に入ったもの」「肌触りがよく柔らかいもの」など女性60才代、70才代、80才代の間に有意差のある25項目中17項目で、因子分析後の因子得点は「自己表現」に高得点を得た60才代と低得点の80才代。また、地域的には「自己表現」の高得点地域は関東、四国、近畿で、「実用性」は近畿、四国、が高得点であった。「調和」の高得点は九州、北海道、中部、四国の順であり、「規範性」は北海道が高得点であった。次にイメージとしては「ゆったりした」「暖かく」「上品な」「明るい」「親しみやすい」が上位で、18対の形容詞の中9対が有意差があり、因子分析後の因子得点は「活動性」に80才代は高得点を得て、低得点の60才代であった。また、地域では「容儀性」の高得点は関東、東北、近畿の順で、「活動性」は北海道、四国、中部の順に高得点であった。「親しみやすさ」は中国、関東が高得点で、「ファッション性」は近畿、中国、四国の順に高得点であった。以上のように、望ましい高齢者の衣服は年齢差、地域差があることが分かった。
著者
宮岸 真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

RNAiは非常に効果的な遺伝子抑制法であり、簡便で、効果の高い遺伝子機能の解析法として、注目を集めている。しかし、最近、siRNAによって、非特異的な抑制効果であるインターフェロン応答が励起されることが報告され、その詳細な解析が急務となっている。本研究課題では、ベクター系によって発現されるsiRNAによるインターフェロン応答の解析を行うと共に、二本鎖RNAによって誘起されるインターフェロン応答のパスウェイの解析を行った。初年度、数種類のsiRNAベクターのインターフェロン反応を、2',5'オリゴアデニレースシンセターゼ(OAS)の発現により調べたところ、どれもインターフェロン応答を起こしていないことが分かった。そこで、次に、より長い二本鎖RNAを発現するベクターを作製し、それによって生じるインターフェロン反応について解析を行った。発現系としては、tRNAプロモーターおよび、U6プロモーターを用いた2つの発現系を使用した。また、インターフェロン応答は、PKRのリン酸化、発現量をウエスタンブロッティングにより解析すると共に、OASの発現をリアルタイムPCRにより、定量することにより調べた。その結果、50、100塩基対を発現するtRNA連結型のベクターは、PKRのリン酸化、発現量、OASの発現量を増加させることから、インターフェロン応答を誘起していることが分かった。また、二本鎖RNAのセンス鎖にミューテーションを挿入することにより、このインターフェロン応答を軽減することができることが判明した。RNAiライブラリーを用いた二本鎖RNAによるアポトシスパスウェイの解析に関しては、数百のシグナルトランスダクションの遺伝子に関して、検索したところ、今回新たに、JNKからミトコンドリアに至るパスウェイおよび、MST2、PKCαからERK2に至るパスウェイが関与していることが分かった。
著者
辻 延浩 佐藤 尚武 宮崎 総一郎 大川 匡子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小学校の系統的な睡眠学習カリキュラムを構築することを目指して, 教材を開発するとともに, 睡眠学習プログラムを作成して実践化を試み, その有効性について検討した。さらに, 開発した睡眠学習教材をデジタルコンテンツ化し, 学校園の授業や校内研究会等で活用できるようにすることを目的とした。得られた結果の大要は以下のとおりである。(1) 現行の小学校体育科の保健領域(3~6年生)の指導内容に沿って睡眠の科学的知見を位置づけ, 発達段階をふまえた系統的な睡眠学習教材を作成した。睡眠学習における児童の評価は, 3年生と4年生では, 授業の楽しさ, 内容の理解度,生活への活用度,教具の適切度ついてほぼ全員から「大いにある」または「まあまあある」の評価が得られた。5年生と6年生では, 中学年に比べて「あまりない」あるいは「まったくない」とする児童の数が多少増えているものの, 多くの児童から高い評価が得られた。授業者および授業観察者の評価では, 提示した資料の説明の仕方でいくつかの改善点が指摘されたが, いずれの学年の授業においても, 児童が睡眠の科学的知見を通して, 自分の睡眠生活を見直したり, 再発見したりしていたことが高く評価された。これらの結果から, 開発した教材およびプログラムは, 児童に睡眠の大切さに気づかせるとともに, 睡眠に関する知識を深めることができると考えられた。(2) Web教材は, 「睡眠科学の基礎」, 「健やかな体をつくる睡眠6か条」, 「快眠に向けて補足6か条」で構成させた。Web教材に対して質問紙調査(5段階評価)を実施した結果, 画像等に関わる項目の平均得点は3.9~4.3の範囲にあり, 内容等に関わる項目の平均得点は3.8~4.5の範囲にあった。Web教材の改善に向けては56件の具体的な指摘を受けた。これらをふまえて, リンクのはり方, 図の色調, 図中の文字, カット図の挿入について改善を加えた。
著者
住吉 智子 渡邉 タミ子 竹村 眞理
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,幼児期からの肥満予防のため家族が生活習慣を客観視し,生活のコントロールが行えるための生活習慣セルフモニタリング測定尺度を開発することである。最終年度にあたる今年度は生活習慣セルフモニタリング尺度の質問紙の信頼性と妥当性の検証を行った。尺度の原案は平成19,20年度の結果に基づき幼児ならびに家族に関する基礎情報の質問項目15問,尺度構成は質問項目50問となった。子どもの体型が気になると回答した5~6歳の子どもがいる保護者63名に対し質問紙調査を実施し55名(91%)より回答を得た後,再テスト法を試みた。調査結果の因子分析(主因子法,バリマックス回転)により,解釈可能な9因子が抽出された。第1因子は「崩せない家族のペース」第2因子は「間食と活動量の少なさ」,第3因子「母親の指導力不足に起因する肥満になる食生活」,第4因子「家族のコミュニケーション力」,第5因子「規律のない食生活」,第6因子「子どもの運動量の不足と遅寝遅起き」,第7因子「働く母親と遅い夕食時刻」,第8因子「計画性のない家族行動パターン」,第9因子「甘党の朝食パンメニュー」となり,9下位尺度33項目(5段階評価)からなる質問紙となった。累積寄与率は54.5%,内的整合性を示すクロバッハαは0.78であった。再テストによる再現性は良好であった(Spearman's p=0.61, p<0.01)。以上の結果より,家族の生活習慣セルフモニタリング尺度が作成され,尺度構成の内的一貫性と再現性が検証できた。今後は質問紙の標準化と子どもの肥満度群別による得点法について検討を進めていき,さらなる信頼性と妥当性を検証していく必要がある。また,この尺度の保健指導における活用方法の検討も行う必要が示唆された。これらの結果は小児保健学の学会で発表予定である。
著者
長谷川 まどか 加藤 茂夫 山田 芳文
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.1483-1489, 1997-09-25
被引用文献数
9

シンボル出現確率に偏りのある2値無記憶拡大情報源に対するコンパクト符号の構成法について提案する. 2値無記憶情報源のn次拡大情報源においては, 同一出現確率をもつ通報が多数組発生する. これらの通報をグループ化し取り扱うことにすれば, 優勢シンボル出現確率が1に限りなく近い場合, すなわち, 低エントロピー情報源に対しては, ハフマンのアルゴリズムによって縮退操作を行う際にはグループ間にまたがる通報の並べ替えは発生しない. 本論文では, このことを利用して, 上記の場合におけるコンパクト符号の符号語長と符号語数の組, 平均符号長, 最大符号語長などを符号木を作成することなく簡単な式で容易に求められることを明らかにしたので報告する.
著者
三井 宏隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.165-197, 1990

自分が見たいものを見る,読みたいものを読むといった個人の自由が社会の安寧,秩序に反するとの理由で制限,制約をうけることがある.「個人の自由といっても,それは無制限に許されるものではない」というのが,制限論者の主張である.この主張の是非はともかくとして,一応それを受け入れるとするならば,次に問題となることは,その線引きをどのようにするのか,ということである.特に人びとが「黒か,白か」をめぐって厳しく対立しているような場合には,線引きは難航する.その一例として,ポルノグラフィー(porunography)の問題があげられる.ポルノグラフィーをめぐっては,規制の強化を主張する人たちと,表現の自由,思想の自由を盾にして規制反対を唱える人たちの間で激しい論争が繰り返されてきた.そこに社会科学者が関与することになったのは,ジョンソン大統領のときに大統領諮問委員会(Commission on Obscenity & Pornography)が設置され,委託研究という形で専門家の意見が求められたことによる.その後この委員会は「ポルノグラフィーは成人にとって無害である」との結論を導き出し,それに基づく答申案をまとめて(Lockhart Report),大統領と議会に提出することになった.しかしながら,それを受けた当時のニクソン大統領及び議会は,「この内容はアメリカ国民の道徳心を堕落させるものである」と手厳しく批判したうえで,答申の受諾を拒否してしまったのである.こうして200万ドルの予算と2年間の歳月を費した委員会の報告は(1巻の要約と9巻からなる研究報告書),悪評のうちに世間から葬り去られてしまったのである.それと同時に,社会科学者(心理学者,行動科学者)はその研究成果に基づいて社会政策の立案に参画するというまたとないチャンスをフイにしてしまったのである.本稿では,大統領諮問委員会の答申が何故このような結末を迎えることになったのか,この種の社会的争点の解決に心理学の手法を適用することが果して妥当であったのか,そこから得られた知見は一般の人たちにどのように受けとめられたのか,といった問題について,この諮問委員会(Lockhart Report)の活動を辿りながら考えていくことにする.
著者
NIRAULA Madan
出版者
名古屋工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では高い空間及びエネルギー分解能、高い検出効率を有する高性能放射線検出器を実現することを目的とし、CdTe半導体結晶を用いて検出器の作成を行った。CdTeは放射線に対する吸収係数が大きく、また禁制帯幅が大きいため常温動作可能な検出器を作製できる。しかしながら、CdTe検出器では電子と正孔の移動度と寿命差に起因する検出感度の低下や、エネルギー分解能劣化などの問題がある。それを解決するため本研究では新規の電極構造である微小収束型電極構造を持つ検出素子の検討を行った。今年度は昨年度得た成果を基に電極構造、検出器作製の最適化を行い、さらにこの検出器アレイ化について検討した。また、大規模アレイ作製に必要な素子分離に適用できるレーザーアブレーション技術の検討を行った。検出器作製技術の改良により単一検出器及び小規模アレイ(2x2素子)の検出特性の向上を達成できた。その結果は従来の結晶表面と表面に平面電極を形成した構造の検出器より優れた検出特性を持っていることが確認できた。また、検出器アレイでは素子間の特性のばらつきがなく、均等な検出特性が得られた。一方、レーザーアブレーションによるアレイの素子分離では結晶上に金属マスクを置きKrFエキシマレーザー照射することにより深いトレンチが形成可能であることを確認した。また、レーザー照射がCdTe結晶内に及ばす影響が少ないことが電気特性から明らかになった。以上の結果は来年度アメリカに開催予定の放射線検出器に関する国際会議に報告する予定である。
著者
青木 徹 中村 篤志 浅野 浩司 ニラウラ マダン 中西 洋一郎 畑中 義式
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.26, no.40, pp.1-6, 2002-06-18

M-π-n type Multi-pixel CdTe high-energy radiation detectors were fabricated by excimer laser processing technique combined excimer laser pattern doping with laser ablation method. The strip detectors showed high-energy resolution and uniform peak levels. The color high-energy radiation images colored by peak energy were obtained with high-energy resolution by 128pixel CdTe detector with ASIC chips.
著者
山城 香菜子
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

【目的】腎臓での糸球体濾過量(glomerular filtration rate : GFR)を評価する指標として、従来よりクレアチニン・クリアランス(Ccr)が日常の臨床現場において広く用いられてきた。2008年には日本腎臓学会より"日本人の推算GFR(eGFR)"が提唱され、24時間の蓄尿を行うことなく血清クレアチニン(Cre)値から簡便にGFRを算出することが可能になった。しかし、年齢や筋肉量の違いによるクレアチニン値への影響は避けられず、得られたGFRには未だ信頼性に乏しい部分がある。近年、性や年齢に影響を受けない新たな腎機能マーカーとしてシスタチンCが注目されている。本研究では、シスタチンCとeGFRとの相関性を分析し、慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)診断の指標としての有用性を検討した。【対象および方法】対象は本院において血清Creを測定した患者検体200件とした。各々の検体についてシスタチンCを測定し、同時にCre値から算出されたeGFRとの相関分析を行った。【結果と考察】シスタチンCはeGFRと対数相関を示し、CKD診断指標であるeGFR 60ml/min/1.73m^2未満での相関はγ=0.714であった。一方、eGFR 60ml/min/1.73m^2以上ではγ=0.472であった。また、シスタチンCと血清Creは直線相関にあり、eGFR 60未満および60以上での相関はγ=0.636、γ=0.424であった。いずれの場合も、腎障害が疑われるeGFR 60未満の検体で比較的高い相関が得られた。しかし、シスタチンCがGFRと同等に、CKDの診断指標となるには満足できる相関とは言い難い。シスタチンCの測定は標準化が遅れており、GFRへの推算式の検討が行われている段階にある。今後、eGFR算出でのCreの影響、シスタチンC測定の標準化などを解決した上で再度、相関解析を行うことが必要である。さらに、薬剤投与でのeGFRの普及、さらにはシスタチンC値そのものがGFRに代わることを期待したい。
著者
奥田 勝博
出版者
広島国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

4-Methyl-2, 4-bis(ρ-hydroxyphenyl)pent-1-ene(MBP)は、我々のグループがビスフェノールA(BPA)の活性代謝物として発見した化合物であり、in vitroではBPAの数十倍から千数百倍のエストロゲン活性を示すことが明らかとなっている。本研究ではラットin vivoにおけるMBPのエストロゲン活性を評価することを目的とした。Wistar系ラットの卵巣を外科的に摘出し(OVX)、内在性のエストロゲンを枯渇させたOVXラットにエストラジオール(0.55μg/kg/day)、BPA(0.5,5,50mg/kg/day)及びNBP(0.1,1,10mg/kg/day)を5日間皮下投与し、最終投与の翌日に子宮を摘出して重量を測定した。ホルマリン固定・パラフィン包埋サンプルを作成して、薄切後にHE染色を行い、組織の観察を行った。また、パラフィン包埋サンプルからRNAの抽出を行い、リアルタイムPCRによって、各種エストロゲン関連遺伝子のmRNA発現量を定量した。MBPを投与したOVXラットの子宮重量はコントロールに比べて有意かつ濃度依存的に増加し、子宮内膜上皮高、及び子宮筋層厚についても同様の結果が観察された。同時に行ったBPA投与群と比較して、MBPはBPAの500倍以上のエストロゲン活性を有することが示唆された。また、OVXによって惹起されたエストロゲン受容体のmRNA発現上昇を有意に抑制し、IGF-1およびc-fosのmRNA発現の減少を濃度依存的に回復させた。これらの結果から、MBPは哺乳動物においても高いエストロゲン活性を有し、BPAの活性代謝物として人体に影響を及ぼす化合物であることが示唆された。