著者
紅野 謙介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、財団法人日本近代文学館に所蔵されている中里介山文庫1万点について書誌調査を行ない、データベースを作り上げた。調査の過程で、これまでかえりみられなかった介山文庫の重要性が再認識された。文庫には「近世綺聞」「大和名所図会」「歴史綱鑑」「農民蜂起譚」「本朝医人伝」「武道極意」「尺八通解」など、地誌、名所図会、史書、風俗、医学、剣術、音楽をめぐるさまざまな本、くわえて江戸末期から明治初期に出された合巻、黄表紙、漢籍などの和書、エンサイクロペディストらしい洋書の百科事典類など、文学ならざる書物であふれていた。しかも、かなり独自に手を加えていて、表紙や奥付の破損したものも、題簽の欠けた和本もある。何冊かを合本したものもある。これらの膨大な雑書の宇宙にとりまかれながら、介山は『大菩薩峠』を書き続けたのである。介山文庫自体は雑多なコレクションではあるが、それだけに在野の民間知識人の知のネットワークが浮かび上がってくる。また蔵書の一部に介山の直筆と推定される書き込みも多く発見され、『大菩薩峠』という大長編小説の創作の秘密に迫ることが出来た。また介山は『大菩薩峠』の出版に関しても、独自な私家版作りを行なった。印刷や出版に関する介山独特の哲学は、小説内でも挿話として盛り込まれ、介山文庫の書物研究が同時に介山自身の書物作りと重なり、ひとつのループをなしていることも明らかになった。平成15年4月に山梨県立図書館で開催された「中里介山『大菩薩峠』展」では、介山文庫から数十点が展示され、NHKハイビジョンで放映された『大菩薩峠 果てなき旅の物語』というドキュメンタリー番組でも、介山文庫への言及がなされた。
著者
寺澤 宏美 TERAZAWA Hiromi
出版者
Graduate School of International Development, Nagoya University
雑誌
Forum of International Development Studies (ISSN:13413732)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.203-219, 2007-08 (Released:2007-10-05)

As a result of the revision of the Immigration Control Law in 1990, tens of thousands of the Japanese descendents (nikkeis) from South America, mainly from Brazil and Peru came to Japan as ‘dekasegi’ (migrant workers) labor force. Their intention was to ‘come, work, remit and return’, or work hard to save as much money as possible and return to their home country to have a better life. However, over the last 15 years, most of them continued to work in Japan and had families. The nikkeis are no longer considered ‘guests’ or ‘temporary labors’ in the cities where they live and have rights to enjoy administrative services. This essay focuses on the qualitative and quantitative changes in the information required by nikkeis with the lapse of time. Three case studies were conducted with Association of Nikkei & Japanese Abroad, Aichi International Association and Toyohashi City, Aichi Prefecture. The analysis of the changes in the topics of the consultation, and the number of the consulters show how nikkeis’ need have changed. The findings showed that nikkeis require more individualized and personal counseling.
著者
吉田 忠彦 桜井 政成
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.313-325, 2004-03-25

従来のボランティアコーディネート理論,ボランティアマネジメント理論について批判的に考察を行った。次に,それらの理論の限界を克服し,新たなボランティアマネジメント・モデルの構築を図るために,戦略的人的資源管理論(SHRM)の適用可能性について論じた。SHRMを適用させた新たなボランティアマネジメント・モデルによって,NPOはその活動において競争優位を得ることができると考える。ここで提示した諸仮説の検証が今後の課題である。
著者
吉田 雪子
出版者
(財)東京都医学総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

ユビキチン・プロテアソーム系による選択的タンパク質分解は、様々な生体反応に於いて重要な役割を担っているが、この系において最も重要な分子は、分解を受けるべく標的タンパク質を見分けるユビキチンリガーゼである。その中で最も良く研究されているファミリーのひとつSCF型ユビキチンリガーゼの基質認識サブユニットF-boxタンパク質はヒトでは約70種類存在するがこれらの機能がわかっているものは少ない。本研究は機能未知のF-boxタンパク質の標的分子を同定しその機能を解明することを目的とするものである。昨年度確立した定量的質量分析(SILAC)法により標的分子を効率よくスクリーニングする系を用いることで、本年度は第三の糖蛋白質認識Fbxo27、Fbs1と相同性の高いFbxo44, Fbxo17の基質を同定し解析を進めた。Fbs1, Fbs2とは結合せず、Fbxo27と特異的に結合するトランスフェリンレセプターを用いた解析から、Fbxo27は小胞体関連分解以外の局面、すなわちエンドサイトーシスで取り込まれた糖蛋白質が未知の経路で細胞質に出てきたもと結合することが明らかとなった。さらに本解析を進めることによって、糖蛋白質が細胞外から細胞質へ現れる新たな系が明らかになることが期待される。一方Fbxo44に関してはDNAダメージに関わる複数の分子との相互作用が見られ、リン酸化修飾が結合に必須であることが明らかになったため研究を継続している。
著者
竹中 治堅
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、金融危機のように長期的に顕在化しない政策問題がどのように解決される条件について比較政治における集合行為論や政官関係論を参考にしながら探ることを試みた。このため日本、アメリカ、スウェーデンにおける金融危機が発生した時の、政府の対応を比較分析した。政治状況について把握することにつとめた。各国を比較して明らかになったのは金融危機の解決される状況に共通の特徴があることである。それは政権交代がおきることが、金融危機の解決を促進するということである。1920年代の日本、80年代のアメリカ、80年代から90年代のスウェーデンの場合、いずれも長期化した金融危機は政権交代がおきた後に初めて解決されている。ただ、政権交代が短期間におわった90年代の日本では政権交代が金融危機の解決を促進することにはならなかった。政権交代が金融危機の解決につながることは集合行為論や政治家や官僚の選好によってこれを説明することができる。金融問題は長い間顕在化しないため、問題解決に取組もうとする場合、まず問題の存在を認めることから始めなくてはならない。問題の存在を認めることは過去の政策の失敗を認めることである。政権交代がおきていれば、政策の失敗を過去の政権政党に帰することができるのに対し、政権交代がおきていない場合には、与党や官僚機構に対する批判を招くことになる。このため、与党や官僚はなかなか問題解決に取組まず、問題が長期化するのである。金融システムの安定が公共財の性格を帯びており、他の政治アクターが問題解決することを期待し、自らは行動しようとしないただ乗りの問題が発生することも金融危機の長期化につながっている。
著者
大塚 卓哉 小野澤 晃
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.162, pp.13-16, 2006-07-07

介護施設や病院施設において、認知・理解力、及び、運動能力の低下が見られる高齢者が単独で寝具から離床を試み寝具から転落事故が問題となっている。本稿では、重量計を寝具の各脚下に配置する事で、寝具上の被介護者の重心位置を計測し、重心位置の時系列データから、離床につながる動作を認識する手法について述べる。本手法により、被介護者が単独で離床しようとする動作を検出し、被介護者を離床前に介助する事で転落事故を未然に防ぐことが可能となる。
著者
松崎 貴史 系 正義 小菅 義夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.536-551, 2003-03-01

不要信号環境下における目標追尾において,目標信号消滅後に,不要信号や他の目標信号に誤追尾してできる誤航跡を解除するための目標消滅判定が必要である。目標消滅の例として,突然の航空機の衝突,船舶の沈没,車が崖から転落した場合などが考えられる。本論文では,追尾目標以外からの不要信号(雲,波,地面からの反射信号)が存在環境下で,PDAで追尾維持を行っている場合のアルゴリズムであるPDA (Probabilistic Data Association)の信頼度を使用して,目標が存在する確率と目標が存在しない確率の比を求め,その確率の比を使用した目標消滅判定法の提案する。計算機シミュレーションによる検討を行った結果,目標が実際に存在するシナリオと目標が実際に消滅するシナリオの両シナリオに対し,提案法は,安定した目標消滅判定を行うことが確認された。
著者
田中 愛治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本における政党システムの時系列の変化を1972年から1996年にかけての24年間にわたり、世論調査データを中心に分析した。それらのデータ分析の結果、1993年の衆議院選挙で自民党が政権の座から転落し「55年体制」が崩壊した時点以前に、日本の政党システムは1986〜87年頃にイデオロギー的な対立軸が弱くなっていたという知見を得た。また、「55年体制」崩壊後の1996年の時点になると、有権者の意識においては「55年体制」時代から存続する既成の政党が何らかの組織を通じて投票への動員をかけることが出来る有権者の比率は46.3%に低下しており、53.7%の有権者がそのような組織的な間接的絆を政党と持っていないことがわかった。その53.7%の「組織化されていない」有権者が、50%を越える無党派層と大きく重複することも判明し、無党派層の増大が政党の従来のあり方に変化を迫っていることが明らかになってきた。また、それと同時に、1990年代の日本の政党システムは政党再編成(partisan realignment)には至っておらず、1996年の時点ではまだ過渡期であると考えるか、もしくは政党編成崩壊(partisan dealignment)と呼ぶべき状態にあることが明らかになった。これらの研究成果は、1998年度のアメリカ政治学会において報告したほか、Waseda Political Studies, March 1999, とWaseda Political Studies, March 2000に論文として掲載した。あつかったデータは、財団法人・明るい選挙推進協会が国政選挙後に実施している全国世論調査データと、国内外の研究者が実施した学術的全国世論調査データである。後者としては、1976年の衆議院総選挙の前後に実施されたパネル形式のJABISS調査(研究者:綿貫譲治、三宅一郎、公平慎策、Bradley Richardson, Scott Flanagan)、1983年の参院選後と衆議院選挙の前後に実施されたパネル形式のJES調査(研究者:綿貫譲治、三宅一郎、猪口孝、蒲島郁夫)ならびに1996年の衆議院総選挙の前後にパネル方式で実施されたJEDS96調査(内田満、林文、谷藤悦史、田中愛治、池田謙一、西澤由隆、川上和久、Bradley Richardson, Susan Pharr, Dennis Patterson)の世論調査を対象とした。また、補足的に読売新聞社と朝日新聞社が定期的に実施している全国世論調査のデータも補足的に分析し、無党派層の増加が時系列にはどのように変化したのかをとらえた。
著者
石峯 康浩
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

画像解析技法の一つであるParticle Image Velocimetry法(以下、PIV法)を火山噴煙の映像に適用した。特に、2006年以降、噴火活動が活発になっている桜島火山の昭和火口で発生した噴火において、火山噴煙の速度を定量的かつ面的に抽出することに成功した。
著者
寺倉 清之 池田 隆司 Boero Mauro
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (Low temperature science) (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.57-69, 2006-03-22

多様な状況下で多様な振る舞いを示す水の性質の解明は,長い研究の歴史にも拘らず,なお物理化学, 生物の主要な研究課題となっている.第一原理分子動力学法に基づく計算機シミュレーションによる 水の研究から,水の基本的性質,超臨界水の物理と化学,高圧下のメタンハイドレードなどについて 解説する.
著者
朝日 吉太郎 鈴木 啓之 上瀧 真生 金谷 義弘 西原 誠司 丹下 晴喜 八木 正
出版者
鹿児島県立短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,今日のグローバル化が日本とドイツの経済の変容をどのように促進しているかを様々な分野から比較研究することを目的とし,日独それぞれ2回づつの調査旅行,研究交流を行った。初年度は,日独それぞれの経済システムの基本的特徴と,その今日的制限,新たな対応戦略とその影響の基本的把握を目的に,2年目は,その成果にたって,より専門的,典型的な部門への調査をおこなった。以上の研究から,(1)経済のグローバル化に関する日本とドイツにおける共通性と民族的特殊性を.特に欧州通貨統合とドイツ金融・財政当局の主権の制限との関係を調査したこと,(2)ドイツの財界のグローバル化戦略が,従来型の実体経済の強化から金融的利得を求めるマネーゲーム的な蓄積方式へと進みつつあるが,同時にそれに対する社会システムがまだ十分対応できていないこと,(3)ドイツの経済界がこのグローバル化の中で目指す次代の経済構造として,ドイツ産業連盟の「オランダ型シナリオ」を提唱している理由を解明し,欧州大での労使関係の変容をとらえてきたこと。また,(4)ザクセン州の詳細な調査の中で,旧東ドイツ地域が国際的資本融資や新規技術利用,東中欧を含むあらたな産業地域として国際的インフラ整備の対象とされ,さらに従来の西ドイツとは異なる新たな労使関係形成の実験場として位置付けられ,ドイツ全体の将来戦略の柱として位置づけられていることを解明し,東西ドイツの統一や経済発展について独自の視点をもったこと。(5)日本のJITシステムにかわるJISシステムによる効率化が進められる中で,ドイツの産業資本の企業間ネットワークが変化しつつあること等を明らかにしてきた。一方,日本のグローバル化の進展については,(1)日本の従来的な産業政策とその変容について,一国的レベルを超えた分析方法を提起し,(2)従来の日本のプロフィット形成システムの実態とその制限について,産業構造,企業間関係,技術的特徴,労使関係等の側面から調査・分析し,生産主義的に日本の企業社会を評価しがちなドイツでの,研究に対して論点を提起してきた。この成果は,ドイツ・日本での独日グループの3回にわたる講演会を通じ社会還元されており,また,今後平成14年と平成15年に予定している両国での出版によって公表される。以上の研究はかなり徹底した調査を行いつつも,一定の限界を持つ。第一に,調査研究の対象が今のところドイツ・日本に限定されているという点にある。上掲のオランダ型シナリオの様に,欧州にはアメリカ型とは異なる独自のグローバル化に対する戦略があある。さらに,グローバル化の中で,ドイツ経済界は,中東欧の将来の発展可能性を持つ地域に隣接する地歩の優位性を利用しようとしてる。この点での認識はこの研究を通じて始まったばかりであり,今後の調査・研究が不可欠である。こうした地域を視野に入れて,広域の地域市場圏と企業間関系の形成をハイテク産業分野等を事例に把握しようとするのが,次の国際共同研究の課題である。
著者
鈴木 盛久 刑部 哲也
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.21, pp.37-49, 1982-04

飛騨変成帯西部地域の岐阜県吉城郡月ケ瀬地域から含亜鉛スピネルを産する変成岩を見出し,それを記載した。本岩は,カリ長石+珪線石の組合わせで特徴づけられる泥質片麻岩中に10×15m程度のレンズ状岩体として出現する。本岩の鉱物組合わせは,ざくろ石・黒雲母・珪線石・カリ長石・石英・スピネル・石墨・チタン鉄鉱であり(タイプA),それらに斜長石が加わることもある(タイプB)。スピネルは,タイプAの岩石中のものではHe_<39.7-41.O> Ga_<52.3-540> Sp_<6.3-6.7>,タイプB中のものではHe_<60.0-61.7> Ga_<26.6-28.9> Sp_<10.8-11.7>の組成範囲を示す。全岩化学組成,鉱物組合わせ,構成鉱物の化学組成等の検討から,含亜鉛スピネルを産する岩石は,泥質岩或いはそれに関連した原岩から角閃岩相以上の変成条件下で生成されたものと結論づけられた。