著者
松本 秀輔
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.93-104, 2001-12

本稿では,受動文において動作主をニ格で示すことについて,カラに置き換えられるような格助詞ニの働きとはどのようなものか,という疑問から考察を進めた。その中で,「母親は息子に牛乳を飲ませた」のような使役文・「太郎は先生にほめてもらった」のようなテモラウによる受益文・「彼の仕事ぶりに満足している」「突然鳴ったベルに驚いた」といった一部の自動詞述語文の,それぞれに用いられる格助詞ニとの共通性について論じた。また,「本が猫にいたずらされた」のような無生物主語の受動文ではニ格動作主が現れにくいという事実について,主語とニ格名詞句の関係や表現者の視点という側面から論じた。その結果,受動文においてもニ格名詞句が表すのはガ格名詞句(主語)の側から見た対象と呼ぶのがふさわしく,そのため,動作の受け手を主語として事象の中心に据えて表現する受動文では,無生物主語の側を視点の中心,有生物動作主をその対象,とすることが相対的に困難なためにニ受動文が成立しにくいのだと考えられた。そして,受動文においてニ格で表されるものが主語に対する働きかけの主であることから,カラに置き換えられるような起点の意味が生まれることを述べた。
著者
近藤 健一郎
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1、沖縄県内の小学校が刊行した学校記念誌に掲載された回想記録や座談会記録を資料として、近代沖縄における方言札の実態について調査研究を行った。明らかにできた点は以下の通り(報告書第2章)。(1)沖縄全体としてみれば、1900年代前半以降のあらゆる時期に方言札が存在していたことが確かめられた。この事実はこれまでの研究に対して次のような修正を迫るものである。第一に方言札の登場がこれまで考えられていた1900年代後半よりも若干古く1900年代前半であること。第二に方言札が「下火」になってきたと考えられていた1920〜30年代にかけても、多くの小学校に方言札が存在していたこと。(2)方言札は、児童の相互監視と罰を基本的な特徴としつつも、学校ごとに適用範囲や導入方法などに違いが存在した。そして児童は方言札を免れようと、また渡されないようにと、弱い児童にむりやり沖縄言葉を話させるなどの対応をしていた。2、小学校における国語科設置など日清戦争後の「国語」確立に向けた政策を展開するなかで、文部省が沖縄県用に編纂した『沖縄県用尋常小学読本』(1897〜1904年度使用)を用いた教育実践とその論理について考察した。その際、沖縄県私立教育会機関誌『琉球教育』に掲載された教育実践記録や教育論、言語論を主要な史料として用いた。分析の結果、1900年頃を境として、標準語教育の方法は、沖縄言葉を媒介としたものから沖縄言葉を最小限にとどめ主として標準語に依ったものへと移行しようとしており、標準語教育は沖縄言葉の排除を伴っていたことを明らかにした(報告書第1章)。
著者
萩原 綾子 権守 礼美 相原 慎
出版者
一般社団法人日本小児看護学会
雑誌
日本小児看護学会誌 (ISSN:13449923)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.33-39, 2009-11-20

本研究は、先天性心疾患(以下、CHD)によりフォンタン手術を受ける子どもの家族の満足度について過去3年に手術を受けた40名の家族を対象にし、2006年10月〜2007年2月までアンケート調査を実施した。回収率は70%で、早期退院と医師の説明やケアに関する満足度は8点以上(10点満点)であった。看護師の説明やケアに対する満足度は、早期退院、医師の説明やケアの満足度と比べると低い傾向にあり7点が6項目あった。特に入院中の看護師への声のかけやすさに関しては、4.9±3.1点であり低かった。質問項目の自由記述について意味内容ごとに項目を抜き出し、内容を分析した。満足度に影響を与える因子として、二つのカテゴリーが抽出され、それぞれに【説明】【専門的なケア】と命名した。家族は、看護師に手術や治療の看護ケアだけでなく、これを踏まえた食事や睡眠といった療養に関する看護ケアを期待しており、これを実践することが質の高い看護ケアにつながると考えた。
著者
西山 繁 中村 和彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は有用な薬剤の開発に資することを最終目的として、有機電気化学的手法とタリウム(III)塩の双方からフェノール酸化反応を検討し、これを鍵反応として天然有機化合物を含む生物活性物質の合成を行ったものである。以下、その概略を述べる。ユーリパミド類の合成海洋生物由来の環状イソジチロシン類ユーリパミドA、B、Dの合成を行った。鍵となるジアリールエーテルの構築は、硝酸(III)タリウムを活用した。ユーリパミドAの構造訂正を含めて、目的を達成することが出来た。さらに、ユーリパミド誘導体に新たな抗MRSA活性を見出すことが出来た。現在さらなる高活性の誘導体を求めて研究を続けている。ジャーマクレンDの臭素化反応ジヤーマクレンDに電極酸化により発生させたブロモカチオンを反応させ、主生成物として2環性化合物が得られることが判明した。ヘリアヌオール類の合成と生物活性独自に開発したフェノール類の陽極酸化で生成するスピロ化合物か6クロマン誘導体への変換反応を活用して、ヒマワリのアレロパシー物質ヘリアヌオールEの構造訂正を含めて全合成を達成した。また、本合成における転位反応の選択性は芳香環上の置換基の立体化学と電子的性質に依存することを見出した。合成途上で得られたクロマンおよびベンゾオキセピン誘導体について植物に対する成長阻害活性を調べたところ、より単純な構造についても天然物と同様の活性を有することを明6かにした。海洋生物由来のスピロイソキサソール型天然物の合成と反応スピロイソキサソール骨格の合成を陽極酸化と水素化ホウ素亜鉛の還元による改良合成法を確立するとともにスピロイソキサソール環の選択的な開環反応を行い、新しいアエロプリシニン-1の合成を達成した。カラフイアニンは、ジエノン部分にエポキシ環が存在するスピロイソキサソール関連物質であり、本研究において従来提唱されていた構造を訂正するとともに全合成を達成した。ベルベナカルコンの合成神経芽成長促進因子活性化作用を示す植物成分ベルベナカルコンの合成において、混合ハロゲン化フェノールの陽極酸化反応を鍵反応として全合成を達成した。さらに、この全合成の知見を活用して活性試験を行い、新たな知見を得た。
著者
林 雄二 村井 章夫 野老山 喬 菅 隆幸 後藤 俊夫 磯江 幸彦 正宗 直
出版者
大阪市立大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

天然性のイリドイド、ゲニビンを原料にして、多くの多官能性イリドイド及びセコイリドイド類の合成を達成した(磯江)。皮膚刺戟性があり発癌プロモ-タ-として注目を集めているテレオシジンの全合成をおこなった。インド-ル環に直接置換基を導入する新しい方法で、インドラクタムVおよびテレオシジンB3及びB4を合成した(後藤)。環状モノテルペノイド生合成の際に、ゲラニル2-リン酸(GPP)は、(i)環化酵素内で2-リン酸基を引抜かれてリナリル状のカチオンを発生すること、(ii)酵素内で発生するカチオンは、植物種に特異的なConfigurationをもっていることを明らかにした(菅)。2-(6'-シリル-4'-キセニル)-3'、4'-ジメチル-2-シクロヘキセノンの2'位にかさ高い置換基(シリル基あるいはアルコキシカルボニル基)をもつ基質の環化による8,9-ジメチル基をもつクレロダン骨格の合成を検討した(野老山)。さきに開発した鎖状ポリエン環化剤を用いて、センダン科Lansium domesticumの抗アレルギ-性セコオノセラノイドのアグリコンLansiolic acidを合成した。同じ植物の種子の二重転位形リモノイドを構造決定し生合成経路を推定した。又、同植物の魚毒成分アファナモ-ルAを、分子内光環化により生じるブルボナン形中間体を経て合成する経路を検討した(林)。ジャガイモ塊茎組織はジャガイモ疫病菌あるいはアラキドン酸を接種されると過酸化水素を発生し、これに伴ってフィトアレキシンの蓄積が誘導される。人為的に過酸化水素で処理してもフィトアレキシン生成は誘導されるので、過酸化水素はジャガイモでのフィトアレキシン生成の直接の引金物質であることがわかった。同様の現象は、サツマイモ、インゲン、サトウダイコンでも見出された。ジャガイモを用いてフィトアレキシンの内因性エリシタ-の実在をはじめて証明すると共に、その単離研究をおこなった(村井)。
著者
大串 隆之 高林 純示 山内 淳 石原 道博
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

植物-植食性昆虫-捕食者からなる多栄養段階のシステムを対象にして、フィードバック・ループの生成メカニズムとしての植物-植食者相互作用の重要性を実証し、その高次栄養段階に与える影響とメカニズムの生態学的・化学的・分子生物学的基盤を明らかにした。さらに、植食者の被食に対する植物の防衛戦略とその結果生じる間接効果についての理論も発展させた。これまでの3年間の総括を行い、間接効果と非栄養関係を従来の食物網構造に組み込んだ新たな「間接相互作用網」の考え方を提唱した(Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 36:81-105)。さらに、「間接相互作用網」の生態学的意義とその概念の適用について世界に先駆けて単行本の編集を行った(Ohgushi, T., Craig, T. & Price, P.W. 2006. Ecological Communities : Plant Mediation in Indirect Interaction Webs, Cambridge Univ. Press)。本プロジェクトの成果の多くは、すでに国際誌に公表されている(研究発表リストを参照)。これらの成果に基づいて、植物の形質を介した間接効果が植物上の昆虫群集における相互作用と種の多様性を生み出している重要なメカニズムであることを指摘し、間接相互作用網に基づく生物群集の理解のための新たなアプローチを確立した。このように、本プロジェクトは陸域生態系の栄養段階を通したフィードバック・ループの実態解明と理論の確立に大きな貢献を成し遂げた。
著者
早川 典生 陸 旻皎 川田 邦夫 富所 五郎 宮下 文夫 石坂 雅昭 渡辺 伸一
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.分布型流出モデルによる松花江1998年洪水の解析松花江流域全域について、格子間隔30分の分布型流出モデルを開発し、1998年大洪水の流出解析を行い、洪水現象の発生を再現させることができた2.1 松花江流域の積雪量調査を行い、資料を収集して積雪量分布の概略を把握した。2.2 分布型モデルによる融雪流出解析松花江流域の支川,拉林河と甘河において,降水量,流量データを取得し,その分布特性を調べた.その結果,降水量分布に顕著な標高依存特性が見られた。拉林河において,格子間隔90mの分布型流出モデルを開発した。このモデルについて、降水量,流量データを取得し,洪水流出解析、融雪流出解析を行った。その結果洪水流出解析では計算流量が実測流量に比べて少なく出る傾向があった。融雪流出解析では融雪初期の流量を再現するために気温の日較差を考慮した計算手法を考案した。
著者
中西 敦士 藤井 俊彰 木本 伊彦 谷本 正幸
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 : 映像情報メディア (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.1321-1327, 2002-08-01
被引用文献数
33 14

A new method for interpolating ray-space data is described that uses block matching and one-sided extension of the locus of corresponding points for arbitrary-view image generation. The block detects straight lines for interpolation. The one-sided extension interpolates occluded pixels. Testing showed that the proposed method generates intermediate images well even when occlusion occurs
著者
富所 敦男 間山 千尋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

(1)前眼部フーリエドメインOCT(以下、FD-OCT)による隅角微細組織構造の同定、論文掲載輸入摘出人眼の隅角部を前眼部FD-OCTの高解像度スキャンにて撮影することで、隅角部における房水流出経路として重要なシュレム管や線維柱帯の構造を非侵襲的に同定することが可能であった。シュレム管は空隙としてとらえられ、外科的拡張操作の前後にFD-OCTの撮影を行うことでシュレム管であることを確認した。さらに、正常人ボランティア30人60眼において、超音波生体顕微鏡(UBM)、前眼部FD-OCTによる隅角部画像データを取得し解析した。その結果、正常人眼60眼においてシュレム管は87.5%と高い頻度で同定できた。シュレム管の平均長径は347.2±42.3μm、線維柱帯の平均長径は466.9±60.7μm、線維柱帯の平均面積は0.0671±0.0058mm^2であるなど正常な隅角構造の定量的な解析を初めて行うことが可能であった。これらの成果については英文論文として発表した。(2)狭隅角眼を対象とした前眼部画像データの解析原発閉塞隅角症、原発閉塞隅角緑内障患者を含む狭隅角眼を対象として、長期間前向きに隅角構造の定量的パラメータの変化を追跡する他施設共同研究を主導して実施し、最終的に257例451眼が組み入れられた。現在はエントリー終了後、定期的な経過観察FD-OCTや他の臨床検査、取得したデータの解析を進めている。エントリー時における断面的データから、虹彩前癒着のある症例では隅角角度は上下方向で薄く、狭隅角眼が女性に多く女性には男性に比べ遠視、短眼軸、薄い角膜厚の傾向があることなどを国内の学会で発表した。(3)前眼部FD-OCTによる隅角全周解析を用いた狭隅角眼における隅角閉塞領域の検討狭隅角眼43眼において、緑内障につながる隅角閉塞の検出頻度を前眼部FD-OCTとUBMで比較した。UBMでは明所下、暗所下にて各18.4%、44.1%で少なくとも部分的な隅角閉塞が認められたのに対し、前眼部FD-OCTでは各72.4%、75.7%とより高率であり、高速、高解像で隅角全周の解析が可能な前眼部FD-OCTが、閉塞隅角緑内障の診断や発症メカニズムの解明に役立つことが示唆された。これらの成果については英文論文として現在投稿中である。
著者
井口 淳子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

戦間期、1920年代から40年代の大阪と上海における西洋音楽受容について、音楽専門教育と、ロシア人、ユダヤ人亡命者による演奏会や教育活動を対象に、文字資料とインタビューにもとづく調査をおこなった。とくに上海については、当時発行されていた「外国語新聞」、とくに、フランス語LeJournaldeShanghai、ロシア語新聞Slovo、Zariaなどを収集、解読することによって「同時代音楽」(バレエを含む)の活発な上演実態を明らかにすることができた。
著者
小笹 祥子
出版者
八王子市立第十小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究目的 学校現場においてリストカット,根性焼きなどの自傷行為は特別なことではない。自傷行為生徒への早期働きかけが可能なのは,養育者以外では教員となる可能性が高い。そこで,教育の場である学校の特性と限界を念頭に置いた支援方法の構築が必要と考えられる。教育現場における,自傷行為生徒への適切な対応を阻害する要因を質的に分析し,その阻害要因の対策を検討し,教育現場で実施できる自傷行為生徒への支援方法を開発することを目的とする。研究方法 本研究は,一般中学校に勤務する教員を対象とし、自傷行為生徒への対応について,自由記述方式によるアンケート調査,インタビュー調査により質的に分析した。質的に分析した結果から,阻害要因を抽出・分析し,自傷行為生徒本人,家族・学校組織を含む環境要因への支援を検討した。インタビュー調査は、夏期休業中期間に、研究者が研究者と親交のある公立中学校へ出向き、その中学校に勤務する教員7名に実施した。インタビュー内容の分析・支援方法の開発においては、事例検討会開催、児童精神科医師、心理士より専門的知識提供を受けた。研究成果 インタビュー調査内容の分析より、1)教員は生徒に相談されるとうれしいと感じること。2)授業中に周囲に周知されるようにリストカットをする生徒がいること。3)学校だけでは抱えきれないと強く感じていることの3点が明らかになった。教員が実施する支援においては、生徒個人と集団への教育的支援方法を開発する必要がある。支援においては、自傷行為の基礎知識、校内の相談・セスメント窓口、教員集団の連携が必要である。今年度は、専門家による自傷行為の講演、アセスメントシートを活用し学校の限界設定を念頭に置き生徒支援を実施した。課題として、より詳細な一般教員の自傷行為をする生徒への対応の調査を実施し、教員・学校の特性をふまえた支援方法を汎化する必要がある。
著者
矢守 隆夫 旦 慎吾
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

がんの増殖・生存に関わるPI3Kは、がん治療の有力な標的と考えられる。我々は、新規PI3K阻害剤ZSTK474を開発し、世界に先駆けPI3K標的がん治療の有効性を証明した。本研究では、PI3K阻害剤の臨床開発に向け以下の知見を得た。1) PI3K遺伝子変異の解析:クラスIPI3Kの触媒サブユニットp110には4種のアイソフォーム(α、β、δ、γ)があり、各々PIK3CA、-B,-Dおよび-G遺伝子によってコードされている。PIK3CA変異のみ注目されているが、他の3種の変異は報告がない。そこで39種類のがん細胞株(JFCR39)でPIK3CB、-D,-G遺伝子の全塩基配列を決定し、ミスセンス変異を初めて同定した(PIK3CBに5箇所、PIK3CDに3箇所、PIK3CGに8箇所)。これらが機能獲得型変異かどうかは興味深い。2) PI3K遺伝子変異を持つがんに対する効果:JFCR39におけるPI3K変異プロフィルとZSTK474に対する感受性に相関があるかどうかを細胞レベルならびに動物レベル(ゼノグラフト)で調べたが、有意な相関は認められなかった。よって、PI3K阻害剤の抗がん効果は、PI3K変異状態には無関係と考えられた。3) PI3Kスーパーファミリー(クラスI、II、III、PI4KおよびPI3K関連キナーゼ)への効果:ZSTK474はクラスIPI3Kへの特異性が高いことが判明した。4) 脳腫瘍への効果:脳腫瘍同所移植モデルにおいてZSTK474は経口投与で有効性を示したことから、脳腫瘍治療への応用が期待された。5) 他の薬剤との併用効果:ヌードマウス移植ヒトゼノグラフトに対しZSTK474は、mTOR阻害剤ラバマイシンとの併用で効果増強を示した。PI3K経路を2箇所で阻害する治療は有望と考えられた。
著者
雨宮 正樹 今江 理人 藤井 靖久 鈴山 智也 内藤 孝 浦川 順治 海老原 清一 照沼 信浩
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. C, 電子・情報・システム部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. C, A publication of Electronics, Information and System Society (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.644-650, 2010-04-01

A precise frequency dissemination system using optical fiber is studied. The purpose of the system is to transmit frequency standard with little deterioration to distant many users. It is composed of a phase compensation transmitter, bidirectional optical amplifiers, optical amplified distributor, and receiver. The system target is to achieve a stable transmission of hydrogen maser class signals. For short term stability, it is shown the required optical received power to realize the Allan deviation of 1×10<sup>-13</sup> (averaging time of 1 s). For long term stability, a new compensation method using third wavelength transmission is effective to suppress phase fluctuation induced by fiber temperature change. Experimental result shows stability of 8×10<sup>-17</sup> at 10<sup>5</sup> s in a fiber link of 160 km in total with one bidirectional optical amplifier.
著者
永田 浩
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.103-105, 1992-12-31

永久磁石材料の研究はモーターやアクチュエーターなどの電気部品の小型化,軽量化,高性能化,省エネルギー化に寄与できることなどから,学界や産業界において現在も精力的に研究開発が進められている。Nd-Fe-B系永久磁石材料はNd_2 Fe_<14>B型金属間化合物を主相とする永久磁石材料の総称であり,1983年に発見された。一方,Sm-Fe-N系永久磁石材料は既知のSm_2 Fe_<17>金属間化合物(Th_2 Zn_<17>型結晶構造)の結晶格子間位置に窒素(N)を侵入することにより得られる侵入型窒化物Sm_2 Fe_<17>Nxを主相とする新永久磁石材料の総称であり,1990年に発見された。本論文は,この両永久磁石材料をモデル物質として採り上げ,基礎・応用の両面から総合的に研究した結果をまとめたものである。以下に両系の研究目的,実験結果並びに検討結果を要約する。1.Nd-Fe-B系永久磁石材料 Nd-Fe-B系永久磁石材料は主相であるNd_2 Fe_<14>B化合物相の持つ大きい飽和磁化(I_s=1.6T),高い磁気変態温度(キュリー温度 : Tc=573K),大きな一軸磁気異方性(μoH_A=8T,K_1=4.5MJ/m^3)などにより,最大エネルギー積(BH)_<max>==320kJ/m^3(40MGOe)の永久磁石材料として知られている。Nd_2 Fe_<14>B型化合物は空間群がP4_2/mnmである正方晶構造をとり,NdとBは特定のc面のみに存在する層状構造を持つ。その単位胞は4分子式68個の原子から構成されている。本研究では単結晶試料,粉末冶金法により作製した単相焼結体試料および焼結永久磁石体試料を用い,以下の2つの課題研究を行い,その結果について考察を加えた。(1) R_2 Fe_<14>B化合物(R==Y,Ce,Nd,Tm)の比熱,熱膨張,キュリー温度の圧力効果 Nd-Fe-B系永久磁石材料の主相であるR_2 Fe_<14>B化合物について比熱の測定を行い,デバイ温度,電子比熱,スピン再配列に伴う潜熱の値を求めた。その結果,Y_2 Fe_<14>Bに対して電子比熱係数γ=86 J mol^<-1> K^<-2>,デバイ温度θ_D=400Kを得た。またスピン再配列に伴う磁気エントロピー変化△S=16 J mol^<-1> K^<-2> (R=Nd),および△S=0.2 J mol^<-1> K^<-2> (R=Tm)を得た。電子比熱係数γの実験値は最近のバンド計算より得た値の約2倍の大きさであり,理論的計算が未だに十分でないことを示している。またY_2 Fe_<14> Bの4.2&acd;293Kでの比熱の測定結果はデバイ近似により計算されたフォノンの比熱,分子場近似により計算されたFeの磁気モーメントの磁気比熱,電子比熱の総和により良く表わされることを見いだした。ただし,説明に必要な分子場係数の値はTcから評価した値よりも小さく,Feの磁気モーメントの遍歴性を示唆している。熱膨張はキュリー温度以下でインバー効果的な異常熱膨張を示した。さらに,単結晶試料の測定結果よりこの異常熱膨張は大きな異方性を示し,Tc以下の温度領域ではa軸方向がc軸方向より大きな異常熱膨張を示すことを明らかにした。この異常熱膨張による自発体積磁歪の大きさは0Kで2.4%であり,希土類化合物の中では異常に大きな値であった。さらにTc以上の温度領域でもc軸方向に大きな異常熱膨張が存在することを見いだした。R_2 Fe_<14>B型化合物のキュリー温度Tcの圧力効果を6GPaまでの圧力下で測定した。Tcの圧力効果(∂Tc/∂P)は-30&acd;-100K/GPaの大きさで,圧力依存性を示しながら低下した。Ce_2 Fe_<14>Bに於ては加圧,昇温中にTcが異常上昇することを見いだした。このTcの異常昇温は,この化合物中のCe原子の圧力誘起価数変化によるとみられるが詳細は不明である。得られた圧力効果の結果をR-Fe 2元系金属間化合物に対して得られた結果と比較した結果,R_2 Fe_<14>B 3元系化合物のキュリー温度の圧力依存性は通常の遍歴電子モデルでは説明出来ないことを示した。(2) Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力並びに保磁力の温度特性 Nd-Fe-B系永久磁石材料は,キュリー温度Tcが593Kであるが,保磁力の大きな温度変化(減少)が実用上の大きな障害になっている。これまで希土類永久磁石の保磁力の温度変化に関して理論的取り扱いはされていたが,実験的な確証は得られていなかった。本研究ではこの点に着眼し,Pr_2 Fe_<14>B単結晶試料を作製し,その異方性磁界H_A,飽和磁化I_sの温度変化を測定し,加えてこの化合物を主相とする焼結永久磁石体を作製し,保磁力H_<CI>の温度変化を測定した。その結果,保磁力H_<CI>は広い温度範囲にわたりμo H_<CI>=C・μo H_A-N・I_s(NとCは定数)の関係で表わされることを実証した。またNd_2(Fe_<1-x> Co_x) _<14>Bの単結晶試料を作り,H_AとI_Sの温度変化を測定した。その結果,前式により,Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力の温度特性の改善にCoの添加は有効でない原因をつきとめた。