著者
田嶋 淳子 鄭 暎慧 高 鮮徽
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本国内および中国東北地方における移住者調査を通じ、以下の点が明らかとなった。1)中国系移住者の日本への流入は1980年代以来就学生、留学生が中心だが、日本人配偶者、研修生およびIT技術者としての来日が増加傾向にある。また、在日中国人の2割はすでに永住権をもつ。このことから定住化傾向が指摘できる。定住化は中国系移住者が送り出し地域への再投資を可能とする資力を持ち始めていることを示す。2)遼寧省大連および藩陽における調査から、研修生の来日が主には日系企業の工場設置と不可分に進んでいることが示された。また、IT関連では日本への派遣労働者としての導入も同時に進んでおり、日本語と技術を併せ持つ人材への需要とそれに応じた中間組織(派遣業者および付随するシステム)の形成が進んでいる。3)吉林省延辺朝鮮族自治州における海外出稼ぎ経験者調査からは、彼らの出国が親族関係(8割が韓国内に親族関係をもつ)により、可能となっており、比較的容易と考えられている。ただし、彼らの出国は地域経済に一定の影響を与えており、残された子どもの教育問題など今後の影響が懸念される。4)黒竜江省では、残留日本人孤児および残留婦人らの出身地域の一つであるF県を対象とする聞き取り調査をおこなった。彼らは帰国したが、地域にはその関係が埋め込まれている。このことから、周囲の人々と日本への移住者とが独自の社会空間を作り上げていることが明らかとなった。以上の結果から、中国系移住者の移動と定着が地域レベルで周囲の人々の目を日本社会へと向ける要囲となっており、さらなる日本への流入が継続していく社会的基盤ができあがってきていることが示された。
著者
岸本 直人 倉島 敦子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RCS, 無線通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.11, pp.33-37, 2003-04-10

従来,音声・映像サービスの主観品質評価試験を実施するには,専用設備を有する実験室と専任スタッフによる監督が必要であり,試験会場は限られ,試験日程の調整も必要であった.そこで,誰もが都合の良い場所・都合の良い時間帯で主観品質評価試験に参加できる環境を構築する目的で,被験者自身による簡易な操作だけで主観品質評価試験を実施できるPCツール(ポータブル主観品質評価ツール)を試作した.本稿では,試作ツールの特徴を紹介し,品質評価性能の検証結果について報告する.
著者
青江 誠一郎
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.C57BL/6Jマウス(ワイルド型;+/+マウス)の食餌応答性:ob/+マウスのバックグランドデータを把握する目的で+/+型マウスの食事応答性を検討した。その結果,ワイルド型(+/+)マウスにおいて、高脂肪食負荷は内臓脂肪蓄積を増加させるが、脂肪細胞の機能への影響は弱いと考えられた。2.レプチンノックアウトマウスのヘテロ型(ob/+)とワイルド型(+/+)マウスの食餌応答性の比較:ob/+および+/+雄マウスを評価した結果、いずれのマウスも感度良く飼料の影響が評価できた。本マウスでは遺伝子の因子よりも高脂肪食の影響が強いことが示された。3.ヘテロ型(ob/+)とワイルド型(+/+)マウスを用いた食品素材の評価:大豆リン脂質、卵黄リン脂質を評価した結果,両リン脂質は脂肪細胞の肥大化を抑制した。4.レプチン受容体ノックアウトマウスのヘテロ型(db/+)とワイルド型(+/+)マウスの食餌応答の比較:C57BL/6Jのバックグランドを持つdb/+マウスを作成し、食餌応答性を比較した。その結果、db/+マウスの方がヘテロ型とワイルド型との差が大きく、高脂肪食においてその差が大きかった。5.新規な肥満モデルマウスとしてのSTR/Ortマウスの評価:自然発症変形性膝関節症モデルであるSTR/Ortマウスを評価した結果、通常食においても太りやすく、高脂肪食に対する感度も良かった。6.C57BL/6JマウスとKK/Taマウスを用いた機能性食品素材の評価:C57BL/6JマウスとKK/Taマウスを用いて,機能性食品素材の評価を行った。C57BL/6JマウスとKK/Taマウスが効果の感度がそれぞれ違うため,目的に応じて系統の違うマウスを選定するべきであると考えられた。
著者
池田 潤 乾 秀行 竹内 茂夫 IZRE'EL Shlomo
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

紀元前2-1千年紀の北西セム語文書がXML でマークアップされ、個々の言語データが位置情報を有する言語データベースを検索し、検索結果を地理情報システムに送って地図化するプログラムのパイロット版を作成し、それを用いて事例研究を行った。一例として、動詞語尾-(n)naや定形動詞として用いられる不定詞の地理的分布を可視化し、それらがフェニキア以北から南へ伝播した言語的改新であったという新たな知見を得た。
著者
牧 泰史
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

バクテリアが増殖停止から増殖再開に至るメカニズムを解明することを目的として、様々な生育状態にある細胞を使ったmicroarray解析を進めた。研究には大腸菌をモデル生物として使用した。本研究の結果、増殖再開の初期に多くの遺伝子が発現していること、栄養環境の違いによって増殖停止期の適応状態が異なり、増殖再開期の遺伝子発現プロファイルも互いに違っていること、などが明らかとなった。
著者
畠山 英之
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ミトコンドリア病の一次的病因となりうるミトコンドリア機能傷害を患者組織由来の培養細胞レベルで検出しうる新規な生化学診断技術の創出を目指した。本研究にて確立された網羅的かつ体系的な機能診断技術は、多様なミトコンドリア機能(エネルギー代謝系、酸化ストレス、各種シグナル伝達、アポトーシスの制御)の全体像を分子・タンパク・オルガネラ・細胞レベルで解析可能とし、未知の変異に対する病原性の同定やミトコンドリア病の病態発生機構の解明などにおいて極めて有用であることが示唆された。
著者
松下 義則 佐野 孝幸 元田 武文 谷口 朗子 フセイン セイエド・イクラム
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. FTS, フォールトトレラントシステム
巻号頁・発行日
vol.98, no.293, pp.141-146, 1998-09-22

DSP開発環境において、我々が用いた設計開発環境の支援ツールの中で、機能・論理検証を支援するツールの概略を紹介し、その有用性に関して検討する。そのツールの内容は、内部信号・レジスタをDPSの実行サイクル毎にログと比較し、不一致の場合に適切なエラーレポートを作成する、というものである。また、このDSPコアに導入されたテスト手法に関して報告し、その有用性あるいは問題点に関して検討する。テスト手法の内容は、PSAとフィードバックモードによるある種の自己診断機能である。
著者
大泉 英次 大井 達雄 豊福 裕二
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

今日の先進諸国の住宅市場は、持家市場と住宅ストック流通の高度な発達によって特徴づけられる。この成熟した住宅市場は、他方で不安定ならびに格差という性格が顕著である。本研究は、その理由を説明する住宅市場不安定仮説を提起し、これにもとづきイギリス、アメリカ、ドイツ、日本の住宅市場のパフォーマンスを比較した。住宅政策は不安定な住宅市場の管理という困難な課題に直面している。この認識に立って、本研究は日本の住宅市場ガバナンスに求められる政策課題を検討した。
著者
山口 武視 津野 幸人 中野 淳一 真野 玲子
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.703-708, 1995-12-05
被引用文献数
16

水稲茎基部からの出液は, 根の呼吸に関連する生理活性と関係していると考えられるが, 同一の齢でも出液速度が大きくばらつくことが指摘されている. そこで, 出液の測定条件を検討し, 出液に関与する要因を明らかにして, 出液速度で生理活性を把握できるかどうかを検討した. 同一個体内で出液を採取する茎以外の茎に葉が着生していると, それの蒸散のために出液量が減少した. したがって, 出液を採取する際には, 測定個体のすべての茎を切除する必要を認めた. 切断部の茎断面積と1茎当たり出液速度とは高い正の相関関係があり, 断面積の大きい茎, すなわち太い茎は茎断面積当たりの出液速度も高い値であった. 地温が7℃から29℃までの範囲では, 出液速度は地温に伴って指数関数的に増加し, その温度係数(Q_<10>)は2.2で, 根の呼吸速度の温度係数とほぼ同じ値であった. 上記の測定条件を考慮したうえで, 穂ばらみ期以降の根の呼吸速度と出液速度との関係を検討した結果, 両者の間には高い正の相関関係が認められた. これより, 根の生理活性が重要な問題となる登熟期では, 出液速度から根の生理活性を推定することができ, 出液速度の測定は, 根の診断のうえで有効で簡便な手法のひとつとしてあげることができる.
著者
坂田 清美 小野田 敏行 大澤 正樹 丹野 高三
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

先ず、BMIを基本とした小児期の新しい肥満指標を開発し、使用マニュアルを作成した。次に、新しい肥満度評価指標(以下標準BMI法とする)を用いて、岩手県において、児童・生徒の肥満度調査を実施した。その結果岩手県では、全国同様小中高と学年が進むにつれて肥満者の割合が高くなる傾向が認められたと同時に、統計学的には有意ではなかったが市街地よりも山間部、沿岸部において肥満者の割合が高い傾向が認められた。使用の感想たついてまとめると、学年に関係なく利用できること、評価が安定していること、大人と連続して利用可能なことがメリットとして挙げられた。デメリットとしては、慣れていないこと、文部科学省のお墨付きがないことによる不安、パソコンが必要なこと等が挙げられた。また、文部科学省の指標では、学年が一つ上がることにより、身長、体重が変化していないにもかかわらず肥満度が突然上下してしまうことが上げられる。この点については、標準BMI法による方法では、安定して評価するころが可能である。和歌山地区における標準BMI法の活用状況調査結果では、和歌山市の小中養護学校の3分の2の学校において使用しており、使用校の8割ではとても使いやすいと答えている。使っている理由としては、パソコンに入力するたけなので簡単だから、使い方が簡単だから、時間がかからないからが上位を占めた。使っていない理由として多かったのは別の方法を利用しているからで、4分の1を占めた。別の方法としては、ローレル指、日比式、保健室用ソフトなどを使用していた。
著者
笠原 清志 白石 典義 木下 康仁 田中 重好 唐 燕霞 門奈 直樹 中村 良二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今まで、中国に進出した日系企業では、比較的安定した労使関係が維持されていたが、反日デモ以降当局が厳しい締め付けをしているにもかかわらず、広州、大連といった地域では、大規模な労働紛争やストライキが発生している。2005年10月から翌月にかけて、中国に進出した日系企業の労使関係に関する調査を実施した。調査対象は従業員二百人以上、日本側の出資比率51%以上の日系企業829社(住所変更その他による返送23社を含む)で、有効回答は213社であった。これによると、日系企業の22.1%がストを経験し、主に「賃金や賞与問題」(74.5%)、「雇用問題」(17%)が原因だった。ストの長さは半日以内が34%、一日が38%と比較的短期間で解決している。この間、ストの際に、工会は問題解決に「大変協力的であった」(12.8%)、「協力的であった」(27.7%)と、日系企業の責任者は、工会活動を一般的には高く評価していることがうかがえる。中国では、工会とは関係ないところで突発的にサボタージュやストが発生するという特徴があり、その解決に工会が経営側と一緒に対処しようとする傾向にある。今回の調査でも、工会主席の83%は上・中級の管理者が兼務しており、そもそも一般の労働者の利害が十分に反映されるメカニズムにはなっていない。一定数の党員がいる組織では、外資系企業でも党支部や委員会の設立が党や政府の方針になっている。党支部や委員会は経営には全く関与しないのが建前だが、行政との交渉や企業内でトラブルが生じれば、党書記は公式、非公式を問わず何らかの形で関与する。今後、社会主義市場経済の下で独自の中国的労使関係を確立していくには、欧米型の対決型労使関係モデルよりも、日本的な協調型労使関係モデルが参考になるであろう。すなわち、日本の労使関係で確立してきた「事前協議の徹底」、「雇用維持の努力」、そして「成果の公正な配分」といった慣行やシステムが、工会の労組化に大きく貢献すると思われる。
著者
田中 寛
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.41-62, 1998-03-31

「テモ」構文はこれまで「ノニ」との比較もふ<めて多岐に考察されてきたが, 意志性とのかかわりで出現する「テデモ」などの周辺的な形式についての意味特徴は明らかにされていない.本稿では「テデモ」, 「ナイマデモ」, 「テマデ」の用法をとりあげ, それらの関連性について考察した.まず「テデモ」では, 手段行為を最大許容範囲として, 他の想定しうる複数の条件から唯一行為を取り立てる構成において, 「テモ」の譲歩, 逆接条件とはちがった局面をあらわしている.「ナイマデモ」は「テデモ」の前接否定の形態として, 「ナイニシテモ」と等しく最大許容範囲の打ち消し表現となっている.「ナイマデモ」と隣接する「マデモナク」, ならびに文末の限定表現「マデダ」の用法との関係においても考察した.さらに, 「テマデ」の用法をみると, 「テデモ」と一部重なりを見せながら, 主としての主文における否定をみちび<形式としてあらわれる傾向がある.このように, 「テデモ」形式の否定形式は前件においては, 「ナイマデモ〜スル」の形式に, 後件においては「テマデ(モ)〜ナイ」の形式にという相互に連続した特徴がみとめられる.またこれらの形式には「デモ」「マデ(モ)」という取り立て助詞がともない, 話し手の意志性をコントロールする機能を有している.以上の比較考察から, これらの形式が「テミモ」構文のもつ譲歩, 逆条件文という特徴から, 意志的な行為手段をみちびく注釈的な機能へと連続していることを明らかにした.