著者
朝日 譲治
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、急速に高齢化・少子化が進むわが国において、今後どのような社会資本を、どの主体が、どれだけ整備すべきであるかを解明する。われわれの目指す望ましい社会資本整備は、公的年金・健康保健への国庫負担増等から生じる「高齢化の社会的費用」をできるだけ小さくするものである。従来、高齢者は年齢で区切られ、ひとまとめに論じられてきた。本研究は、むしろ高齢者を取り巻く自然環境や社会システムのなかで高齢者の経済問題を論じた。さらに、これまで顔の見えなかった高齢者を、肉体的・環境的・経済的に異なる生活者としてとらえた。これにより、高齢者の真に求める公共政策が浮かび上がり、高齢化の社会的費用を最小にする社会資本整備を考えるフレームワークを構築することができた。なお、財政面での現在肥大化している財政投融資制度の仕組みと問題点を詳細に検討した。同時に、社会資本をより広義にとらえ、公的年金や公的健康保険の社会的制度も含めて、望ましい制度のあり方を検討した。公的年金については、従来型の国庫補助依存体質を改め、各人が自己責任による老後の生活設計の下で資産蓄積を進めること、健康保険に関しては、わが国の医療体制そのものを長期的に見直し、地域医療の充実と、高度医療の区分を明確にする方策を論じた。高齢社会は現役引退後の時間が長期にわたることを意味する。その際、とくに重要となる余暇時間との関連で、米国における国立公園と博物館の二つの社会資本を論じ、望ましいあり方を提言する具体的な事例研究を行った。
著者
玉田 芳史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

タイの政治は1990年代に民主化が進んだ。92年5月事件と97年憲法がもっとも重要な出来事である。この民主化について虚像に惑わされず、実像に迫ろうと試みた。研究者は92年5月事件について誰が参加したのかに目を向け、なぜ参加したのかを見過ごしてきた。大規模集会を可能にしたのはチャムローンであった。民主化にとってこの事件の意義は、その彼が動員戦術の成功ゆえに危険視され、政界を逐われたことである。政治は院外政治ではなく国会中心に行われるべきことが確認された。もう1つの意義はマス・メディアによって中間層が5月事件の主役に祭り上げられたことである。中間層は政治への発言力を強め、政治改革を要求するようになる。政治改革論は下院議員批判に起因していた。議院内閣制を採用しながら、下院議員の閣僚就任を禁止しようとする主張も行われた。改革論が目指したのは政治の能率、安定、倫理であった。こうした目的を念頭において97年憲法が制定された。この憲法は民主的と喧伝されているものの、実際にはさほど民主的ではない。たとえば、大卒者は総人口の5%にも満たないにもかかわらず、国会議員や閣僚には大卒以上の学歴が必要とされた。それでも、この憲法は民主化に寄与するところがあった。それは議会政治に不満を抱き、テクノクラート支配に郷愁を抱く人々を慰撫することにより、議会政治の堅持を可能にしたからである。結局のところ、90年代の民主化にとっては、推進派勢力の活躍よりも、保守派勢力を慰撫して穏健な議会政治を定着させたことが重要であったといえる。
著者
濱谷 亮子
出版者
国際学院埼玉短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:02896850)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.97-100, 2008-03

国民が主体的に取り組む健康づくり運動として2010年までの重点的な目標を示した「健康日本21」が推進されているが,中間年にあたる2005年の実績値によると策定時よりも悪化した項目も少なくないのが現状であり,市町村,地域レベルでの具体的支援が求められる。本調査では「さいたまヘルスプラン21」に関するアンケートを実施し,女子短期大学生の現状把握と2010年目標値に対する達成度の評価,問題点の検討を行った。栄養・食生活に関する項目は調査時に2010年目標値に達成していたが,休養・こころの健康づくり,健康管理に関する項目は目標値に達しておらず,さらには睡眠による休息の充足状況は健康感に関連する一要因であると示唆された。対象者の実態把握を十分に行い,国及び地方公共団体等の行政にとどまらず職場,学校,地域,家庭等で具体的な支援策を検討することが,今後の健康づくりを推進する上で不可欠といえる。
著者
Nobue Yagihara Akinori Sato Hiroshi Furushima Masaomi Chinushi Takashi Hirono Yoshifusa Aizawa
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.49, no.18, pp.1979-1982, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
19
被引用文献数
9 9

A 75-year-old man was admitted to our hospital in January 2010 for evaluation of syncope and abnormal ECG. ECG showed type 1 ST elevation in lead V1 and he was diagnosed as Brugada syndrome. During cardiac catheterization, baseline coronary angiography was normal, but intracoronary ergonovine maleate induced spasms of the right and left coronary arteries concomitant with chest pain and ST elevation on ECG. J waves were accentuated or newly developed. Soon after an intracoronary injection of nitroglycerin, chest pain was relieved and ischemia-induced J wave disappeared and the ST segment returned to the same morphology as baseline. Extrastimuli induced ventricular fibrillation. He received an implantable cardioverter-defibrillator. He was also treated with Ca antagonist and isosorbide dinitrate and has had an uneventful course for 5 months.
著者
岡 眞人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今日のオランダでは退職は健康維持や家庭生活に良い影響を及ぼすと考える人が多数を占めており「早期退職文化」が深く根付いている。60歳前後の退職・引退が社会常識化し、早期退職制度の廃止には強い抵抗がある。オランダ政府は高齢者の就業意欲を高めるため、生涯学習・訓練による就業能力の維持・開発という総合的・長期的戦略に基づく政策を推進している。高齢者雇用問題を高齢期だけの問題とみなさず、生涯にわたる労働生活の視点から捉え、全年齢層との関係で捉えるところにオランダの政策的特徴がある。イギリスではオランダとは対照的に、サッチャー政権の新自由主義路線の下で早期引退制度は導入されなかった。しかし労働不能給付制度が事実上早期引退への抜け道として機能し、高齢者雇用率の長期的低下傾向が続いた。ブレア労働党政権は雇用保障を国民福祉の基本に据え、EU諸国と歩調をそろえて高齢者雇用促進に取り組んだ。その中核は「ニューディール50プラス」である。この施策は就業不能給付受給層の多い50歳以上にきめ細かな就労支援を提供して自立を促すことを狙いとし、一定の効果を上げたと評価されている。さらに年齢差別禁止に関する法律が2006年に制定されたことも大きな一歩と思われるが、その効果について評価するのは時期尚早である。オランダとイギリスに共通する政策的特徴は、年齢差別、性差別、障害者差別、人種差別などを個別的に捉えるのではなく、包括的に人権問題として位置づけ、各分野の取り組みを関連付けて相乗効果を引き出す戦略にある。非正規社員と呼ばれる不安定雇用の渦の中に多くの高齢労働者が巻き込まれている日本の実態を見ると、英蘭両国の包括的アプローチから学ぶべき点は少なくないといえよう。
著者
小川 由英 HOSSAIN Rayhan Zubair
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

現在我々は、消化管からのシュウ酸吸収に影響する各種物質に関して実験し、ビタミンB6欠乏食で飼育したラットにおいてシュウ酸前駆物質投与による内因性のシュウ酸合成について検討した。カルシウムと同様の実験系で、マグネシウムが消化管からのシュウ酸吸収へ与える影響を検討し、マグネシウム投与により消化管からのシュウ酸吸収が減少し、尿中シュウ酸排泄が減少することがわかった。また我々の動物実験系で内因性のシュウ酸合成に関連するいくつものシュウ酸前駆物質を投与し、実験した。グリコール酸、グリオキシル酸、ハイドロピルビン酸、ハイドロオキシプロリン、エチレングリコールが尿中シュウ酸を増加させる重要なシュウ酸前駆物質であり、そのシュウ酸合成がビタミンB6欠乏食群でより促進され、その原因はグリオキシル酸解毒酵素であるAGTとGRHPRの機能不全によることがわかった。さらに、ビタミンB6欠乏状態にすると尿中クエン酸排泄にも影響がでる。ビタミンB6欠乏は短期間投与でも低クエン酸尿をきたし結石形成危険因子となることがわかった。またビタミンB6欠乏による低クエン酸尿がアルカリの負荷により是正されるかも検討した。た標準食とビタミンB6欠乏食においてアルカリの急速投与が尿中クエン酸に与える影響を比較し、その両者において急速なアルカリ投与が尿中クエン酸を増加させるがその影響は標準食を与えた群がより著明であった。原因としてビタミンB6欠乏は腎のクエン酸排泄を障害する可能性があり、低クエン酸尿の原因として独立したものである可能性が示唆された。過シュウ酸尿症と尿路結石の研究において多くの動物実験系を報告してきた。我々の実験系では3%のグリコール酸食の投与で過シュウ酸尿症とシュウ酸カルシウム結石を形成させることができた。この結石形成動物モデルは再現性がよく、多くの結石形成に関与する可能性のある物質の影響を調べることができ、結石の再発予防法の研究に役立つと考える。
著者
細川 淳一 田神 一美
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

競技スポーツ選手として、思春期から成人に至るまで激しい運動を続けてきたことが、その後の健康状態にどのような影響を及ぼすかを衛生学的観点より研究した。競技スポーツ選手は、現役引退に際して永続的な運動量減少を体験する。この時期の一般人は、成人病リスクが高まり運動を推奨されるが、この時期に運動量を低下させる競技スポーツ選手の場合、その後の健康にマイナスの要因となっているか否かを動物実験モデルにより細胞性免疫機能の一つであるナチュラル・キラー細胞の活性を指標として検討した。水泳運動中止13週間後では、対照群との間に細胞性免疫能に明かな違いは認められなかった。つまり、運動の有無にかかわらず、健康な状況下では細胞性免疫機能に検出可能な差異は現れないと考えられる。そこで、免疫抑制剤(シクロスポリン)を投与し、この負荷に対する耐性をナチュラルキラー細胞の活性を指標として測定することにした。運動トレーニングとして、ラットに穏やかな流水遊泳(30分/日、4回/週)を17週間(7週齢から24週齢まで)負荷した。負荷中止後9日目に50mg/kgのシクロスポリンを腹腔投与し、10日目にネンブタール麻酔下に開腹して無菌的に脾臓を摘出、ホモジナイズした後、これをコンレー・フィコル液に重層して比重遠心分離する方法で白血球を得た。この白血球と^<51>CrでラベルしたK562細胞とを混ぜ合わせて4時間培養し、この間に破壊された標的細胞から培地中に流出した^<51>Crをガンマー線カウントする方法で測定した。比較は運動負荷を行なっていない対照群との間で行なった。この結果、運動はナチュラル・キラー細胞に対する免疫抑制剤の作用を緩和することが分かった。この作用を通じて運動は、腫瘍などの成人病から防護していることを示唆するものと考えられる。
著者
小川 千里 高橋 潔
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,プロスポーツ選手の現役引退に伴っておこるキャリア上の諸問題を,経営学的視点から明らかにし,第二の職業人生に対する望ましい支援の方法について検討することを目的に行われた。プロスポーツ選手のキャリア・トランジションに関して,(元)Jリーガーと既存の支援システムを対象とした定性的調査を実施した。その結果,スポーツ選手の引退とその後のキャリアへの移行の実態を詳らかにした。そして「現役時代」の行動や考え方の傾向と周囲の人の属人的な要素が,引退に関する「内的キャリア」や支援に影響を与えること,選手個人が引退に伴う心理的激動を受容するために望ましい支援の特徴と組織の在り方を見出した。
著者
徳久 雅人 村上 仁一 池原 悟
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.50, pp.41-46, 2008-05-16
被引用文献数
2

本稿では,テキスト対話から情緒を推定するための言語知識べースの構築を目指して,発話対と情緒の関係についての分析を行う.日本語の文末表現に情緒が表されやすいと言われているが,文末表現のみでは情緒を断定し難い.そこで,対話の状況を考慮に入れて情緒を推定する方法が考えられる.本稿では,対話の状況を発話対でとらえて情緒推定を行うことを目指す.その推定方式を検討するために,テキスト対話コーパスから,情緒タグ,対話行為タグ,および,文末表現パターンを発話対として抽出し,これらの共起関係を分析する.本コーパスから発話対を抽出したところ2.7万対が得られ,対話行為と文末表現の組に対して聞き手の情緒の傾向が確認できた.
著者
藤崎 和彦
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

異文化を背景に持つ外国人患者がわが国の医療現場でも増加してくる中で、日本人医師・医学生による診療現場での異文化コミュニケーションの医療人類学的視点からの現状把握や分析は殆んど行われていなかった。研究代表者は自らが10年来開発研究してきた模擬患者によるアプローチを使い、異文化を背景に持つ外国人患者と日本人医師・医学生の異文化コミュニケーションのありようと問題点を明らかにするために、医療人類学的視点から分析検討を行った。異文化を背景に持つ外国人(アジア系、ヨーロッパ系、中南米系の3グループ)を対象としたフォーカスグループインタビューを行い、患者-医師間の異文化コミュニケーションにおいて起こりやすいコミュニケーションギャップを抽出した。そこで抽出されたのは、1、システムの相違と医師の誠意の示し方の問題(「ここは小児を診ませんので他をあたってください」南米系女性ほか)、2、出産への認識の違い(「病気でもないのに出産後7日も何をしていればいいの?」南米系女性ほか)、3、民族的伝統治療法と生物医学治療のギャップの問題(「coca(コカインの原料)をください」南米系女性)、4、生物医学治療の土俗化と治療要求スタイルの相違の問題(「ステロイドの注射を打ってください」アジア系男性)、5、リスク・コミュニケーションのあり方の問題(「分かりきったことを言わないでください、分からないことを教えてください」複数より)6、保険システムの違い、経済負担、予防観の違い(「虫歯になっていないのに、何故治療をするの?」アジア系女性)、7、薬物療法のあり方の問題(「お弁当箱みたいに薬はいらない」南米系女性ほか)、8、医師-患者間の説明責任の問題(「先生は『はい、薬ね』と言ったきり、喉の組織を採取するわけでもありません」ヨーロッパ系アメリカ人女性ほか)、9、IT医療の問題(「ロボットに診てもらっているみたい」南米系女性ほか)これらに基づいて模擬患者用のシナリオを試験的に開発し、開発されたシナリオに基づき、模擬患者のトレーニングと養成を行い、模擬患者との医療面接セッションをビデオテープに記録し分析を行った。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

現代社会におけるストレスや疲労の蓄積の実態を把握し、それらを解消する重要な手がかりや指標ともなる睡眠や生活行動について研究を進め、健康な暮らしの実現をはかる一助としたいと考えた。そこで研究計画に従い、1993年は現代人の睡眠と生活に関する実態調査、1994年は一夜断眠により生活リズムを乱した時の心身への影響を分析する実験を行った。そして1995年は効果的な睡眠を得るための睡眠環境と生活行動を検討したいと考え、応用実験と学生7名の睡眠日誌の分析を行った。研究の成果の概要はつぎのとおりである。1.睡眠調査の結果(1)1982年と1993年の調査の比較から、現代人は睡眠時間が短縮し、夜更かしの朝寝坊タイプが増加していた。(2)女性の社会進出により生活リズムの性差は少ないが、女性の方がやや睡眠時間は短く不満を感じていた。(3)精神的疲労が睡眠の質を低下させていた。(4)高齢者介護の担当者の疲労や睡眠に関する不満は大きく、特に介護者の高齢化とともに夜間の介護負担と自分の中途覚醒が夜間睡眠を妨げていた。2.断眠実験の結果(1)一夜断眠後の睡眠は質も量も最も良くなる傾向が認められたが、被験者9名中2名は寝つきが悪くなり睡眠も浅くなった。(2)断眠の疲労は断眠直後に現れるタイプが5名、一夜睡眠後に現れるタイプが4名であった。(3)断眠の疲労は3夜後に回復した被験者が5名、3夜後も疲労が残っていた者が4名であった。3.睡眠環境と生活行動(1)睡眠評価が最も良くなった環境温度は20〜24℃で、30℃以上になると著しく低下した。(2)騒音や香りが睡眠や覚醒レベルに与える影響は個人差や慣れの違いが大きかった。(3)入浴は入眠前1〜3時間前が寝つきに効果的であった。(4)学生の場合、日中の活動量が少ない方が睡眠評価は良かった。(5)コーヒーは確実に覚醒レベルを高め、アルコールは覚醒レベルを低下させた。(6)精神的疲労、特に心配事が睡眠評価を低下させた。
著者
中澤 秀雄 嶋崎 尚子 玉野 和志 西城戸 誠 島西 智輝 木村 至聖 大國 充彦 澤口 恵一 新藤 慶 井上 博登 山本 薫子
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

世界(記憶)遺産という側面から、あるいはポスト3.11のエネルギー政策という観点から「石炭ルネサンス」と言うべき状況が生まれているが、これを先取りして我々産炭地研究会は、「炭鉱の普遍性に基づく産炭地研究・実践の国際的なネットワーキング」を展望しながらも、まずは資料の収集整理という基礎固め作業を継続してきた。夕張・釧路の個人宅から炭鉱関係資料をサルベージして整理目録化を進行させていることを筆頭に、多数の資料整理・目録化に成功した。ネットワーキングの面では、全国の博物館・元炭鉱マン・NPO等と関係を確立し、主要な全産炭地を訪問して資料整理・研究の面でも協働した。