著者
藤本 薫
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

硝酸による脱アルミニウム処理によりZSM-5と同等までSiO_2/Al_2O_3比を高めたモデナイト、およびUSY型ゼオライトを調製し、水素のスピルオーバー効果を得るために含浸法により調製したPd/SiO_2をゼオライトに対して等重量物理混合したハイブリッド触媒を用いて各種C7パラフィンの水素化分解を行った。パラフィンの水素分解反応では、水素のスピルオーバーによりゼオライト上にプロトンが供給され活性が向上するとともに、同時に生成するハイドライドにより中間体カチオンが安定化されるためこれらの重合、および重合物の分解が抑制され分解生成物は少数のパラフィンに限定された。各種C7パラフィンの反応性にはゼオライトにより大きな違いが認められ、モルデナイト、USY型ゼオライトでは2,4-ジメチルペンタン(DMP)>2-メチルヘキサン(MHK)>ヘプタン(NHP)の順となった。これらの序列はH-ZSM-5ハイブリッド触媒と全く逆である。H-ZSM-5ハイブリッド触媒では、2-MHK、2,4-DMPではW/Fを0に外挿したときの分解の選択性は0に近い値になるが、NHPでは40%以上の高い分解の選択性を示すことである。これらの実験結果からモルデナイト、USY型ゼオライトではパラフィンの水素化分解において従来から広く受け入れられてきたカルベニウムイオンのβ開裂により分解が進行するが、その酸強度、および酸量から予想されるよりも遥かに高い活性を示すH-ZSM-5では、プロトン化シクロプロパン環を中間体として分解が進行することが示唆された。ヘプタンの転化率(異性化反応を含む)が酸強度がモルデナイトよりも低いH-ZSM-5が高いことから、H-ZSM-5の狭い細孔構造がプロトン化シクロプロパン環型中間体の安定化に寄与し、優れた炭化水素の反応の場となっている可能性がある。
著者
藤掛 英夫 安達 三郎 沢谷 邦男 柴田 康弘
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.1097-1102, 1985-11-20

用地難や電磁環境問題を避けるために, 中波放送アンテナを例えば山頂に設置することが考えられている.しかし, 山頂に設置した場合の中波放送アンテナの特性をあらかじめ予想することは, これまで理論的にも実験的にも困難であった.そこで本論文では, 山頂アンテナに関する筆者らのこれまでの理論の検証と, 山岳モデルを用いた実験方法の確立を目的として, モデル実験を行って得た測定結果について述べている.実験モデルには, 良導体である平地を模擬する導体地板上に, 損失性誘電体で構成された回転対称型のモデル山岳を製作し, この上に埋設接地線を施した直立モノポールアンテナを立てた.この実験装置によって, 先の筆者らの理論的報告の検証を行うと共に, 理論的には困難な, 接地効果がアンテナ特性に及ぼす影響を明らかにする.これによって, ある条件下において山頂中波アンテナが, 実用上有効であることを結論している.
著者
永田 和宏 細川 暢子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

小胞体関連分解の分子機構について、多くの新しい知見を得た。まずEDEMという新規因子を発見し、これがカルネキシンの下流にあって、ミスフォールドしたタンパク質の糖鎖を認識して分解へまわす機構を提唱した。EDEMは小胞体ストレスで発現誘導され、IRE1-XBP1経路で誘導される初めての因子であることも明らかになった。EDEMの分子機構をさらに研究する過程で、 EDEM結合因子として新規小胞体還元因子をも同定し、研究はさらに発展することになった。サイトゾルにおけるポリグルタミン(polyQ)タンパク質の凝集は神経変性疾患などにおいて重要な関わりを持つが、その凝集阻止にサイトゾルシャペロニンCCTが関与していることを示した。CCTはβシートを持つタンパク質のフォールディングを助けるが、その認識部位を明らかにし、さらにβシートに富むpolyQタンパク質の凝集を直接結合することによって阻害できることを示した。特に、FCSなどの比較的新しい方法を用いて、CCTがpolyQタンパク質のオリゴマー形成を阻止しているらしいことも明らかにし、凝集阻止機構を考える上で大切な知見となった。永田らが発見したコラーゲン特異的分子シャペロンHsp47についても、ノックアウト細胞を用いた解析から、Hsp47がコラーゲンの三本らせん構造形成に必須であることを明らかにしたほか、分泌されたコラーゲンが線維形成をできないことを示し、繊維化疾患の治療ターゲットとしてHsp47が有望であるという確証を得た。
著者
光安 保 関口 卓司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MR, 磁気記録
巻号頁・発行日
vol.94, no.356, pp.53-60, 1994-11-19
被引用文献数
1

近年、ハイビジョンなど情報量の増大に伴い、VTRに於いては、高密度記録化が進められている。磁気テープの高密度化にはテープの薄型化と表面の平滑化が必要である。テープ表面が非常に平滑になると、テープとドラム部分での摩擦が増加し、テープがドラムに貼り付くなど、テープの走行性に悪影響を及ぼす、今回、ドラム表面を超音波周波数で微少振動させて、見かけ上テープとドラムの接触面積を減少させ、テープとドラム間の摩擦を低減する超音波振動ドラム(USVドラム)を開発し、テープ走行系に実際に組み込み、記録・再生実験を行なった。その結果、摩擦係数が1, 3以下に軽減し、テープの安定走行に効果があることを確認した。
著者
萩島 理
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

空調発停行為を含む居住者の生活行為のタイムスケジュールの多様性を考慮し住戸の電力,熱,水等のユーティリティデマンドを高時間分解能で予測する枠組みTotal UtilityDemand Prediction System(TUD-PS)の構築を行った。また、集合住宅を対象としたTUD-PSによる数値計算により冷暖房負荷の確率特性についての検討を行い、平均値で基準化した全熱負荷の確率密度分布が住戸条件や家族構成の違いによらず概ね普遍的な傾向を示し, LDKにおける暖冷房の基準化全熱負荷の確率密度がアーラン分布で近似できることを明らかにした。
著者
加地 太一 大内 東 加地 郁夫
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.40, pp.61-62, 1990-03-14

本論文はノードが番号順に列をなし、あるサイズ以下の部分集合に、カットされるエッジのコストの総和を最小分割する問題である。応用例としてはページングにおける仮想アドレスへのプログラムの最適配置などがある。この問題に対してKernighan[1]はダイナミックプログラミング(DP)を示している。本論文ではこれに対して、Branch-and-Bound法(B&B)法によるアルゴリズムとKernighanによるDPアルゴリズムの改良型(改良型DP)を提案する。
著者
星野 真紀
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,初心者が無鉛ハンダを使用しやすいハンダゴテを選定することと,無鉛ハンダの中で使用しやすいものを選定することを目的とした.電子工作実習用に学生が購入するため,安価で入手性の良いものを対象とした.【実験内容】コテ先形状,ハンダゴテ,無鉛ハンダについて,実際に学生に使用してもらい,使用感アンケートにより評価を行った.【コテ先形状】先が直径1〜2mmの棒状で先端が斜めにカットされているコテ先は評価が高く,直径が2.5mm以上あるものや先端が細く尖っているものは評価が低かった.【ハンダゴテ】同じ型でワット数が26Wと32Wのコテを2組用意して評価したところ,どちらも26Wの方が評価が高かった.無鉛ハンダは融点が高いため,ワット数が高い方が高評価を得るかと予想していたが,予想に反した結果となった.基板表面を観察すると,32Wでハンダ付けした基板では,過熱によるツノや基板の焼けが多く見られた.コテ先温度が高いコテでは手早く正確なハンダ付けが必要になり,初心者にはかえって扱いづらくなったと考えられる.【ハンダ】Sr-Ag-Cu系4種とSn-Cu-Ni系2種の評価を行ったところ,Sn-Ag-Cu系の方が評価が高かった.Sn-Ag-Cu系の方が融点が低いため,その差が表れたと考えられる.また,濡れ性については,組成よりもメーカーによる差があらわれた.フラックスの違いによるものが大きいと考えられる.【まとめ】電子工作初心者にはワット数の高いハンダゴテは使いづらく,26W程度が適切という結論を得た.使用する無鉛ハンダはSn-Ag-Cu系が使用しやすいと考えられる.ただし本研究は初心者の電子工作実習という条件であり,精細なパターンや上級者に関しては考慮していない.
著者
瀧上 舞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、(1)ナスカ地域における食性の季節差、(2)インカ帝国時代以前の南部海岸地域における定住者の食性の季節変化、(3)インカ帝国時代の食性の地域差、(4)形成期の北部高地における植物栽培・家畜の飼育開始時期について調査を進めた。また、ペルー国内の古代の食物の同位体比を得るためにナスカ地域河内遺跡の食物試料サンプリングを行い、さらにナスカ地域及び北部高地の現生の陸上植物食物、淡水生魚類、海水生魚類、ラクダ科動物の毛の採取を行った。(1)平成22年度にサンプリングを行ったチャウチー野外展示場のミイラの14C年代測定及び、毛髪の炭素・窒素同位体比測定による食性の経時的変化の分析を行った。年代測定の結果、この遺跡のミイラはイカ・チンチャ期(AD 1000-1400)に作成されたことがわかった。また、食性には一年ごとの周期性はみられなかったが、C3植物とC4植物の摂取量が一年を通して変化していたことがわかった。また、海産物摂取量は一年を通してあまり変化していないこともわかった。これらの結果は、ナスカ台地の有機物試料の年代測定による人間が活動した文化期の同定結果と共にペルー文化庁に報告書を提出した。(2)は南部海岸地域から出土した一般人のミイラの毛髪と他の軟部組織の分析を行った。毛髪の食性変化から皮膚や筋肉が反映している食性の時期(亡くなる何か月前の食性か)の同定を試みた。今後、骨の同位体比との比較を行い、体組織の同位体分別の補正値を考えていく予定である。(3)インカ帝国が支配下に収めたペルー北部高地から南部高地までの古人骨の食性推定と年代測定を行った結果、インカ帝国期には食性に大きな地域差があったことがわかった。また、先行研究で報告された生賛の子供のミイラの食性と比較したところ、彼らは帝国全域から集められた子供であったことがわかった。この結果は今後論文にまとめて報告していく。(4)北部高地の形成期の古人骨や動物骨の食性推定を行ったところ、ヒトもラクダ科動物もB.C.800年頃からトウモロコシ摂取が増加したことがわかった。特にラクダ科はB.C.800年頃には、野生のシカとは異なる2種類の食物の混合された食性に変化しており、ヒトによる食物コントロールが行われていた可能性が示された。
著者
小出 哲士 北川 章夫 若林 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,ディープサブミクロンVLSIチップのレイアウト自動設計に注目し,ディープサブミクロンVLSIチップの実用化と共に顕著になってきた回路のパフォーマンスの考慮,ハード・ソフトマクロブロックの考慮,及び設計時間の短縮,等の問題を解決するための以下の新しいレイアウト設計手法を開発した.1.パフォーマンスを考慮した回路分割手法の開発回路のパフォーマンスを最適化するために,論理合成後に行われる回路分割において,回路のパス遅延を陽に考慮した回路分割手法を開発した.2.パフォーマンスを考慮したフロアプランニング手法の開発ハード・ソフトマクロを取り扱うフロアプランニングにおいて,バッファ挿入と配線幅調整を考慮した概略配線とフロアプランニングを実用的な計算時間で同時に求める手法を開発した.3.パフォーマンスを考慮した配置手法の開発タイミングを考慮したクラスタリングと新しい配置モデル(アメーバモデル)に基づくタイミングドリブン配置手法を開発した.4.パフォーマンスを考慮した配線手法の開発6層以上の配線層に対して,配線幅とバッファ挿入を考慮したスタイナ木生成アルゴリズムを用いて,与えられたタイミング制約を満たす概略配線経路を階層的に求める手法を提案した.5.パフォーマンスを考慮した階層的バッファブロックプランニング手法の開発チップ領域をグローバルビンに分割し,タイミングを考慮したバッファブロックプランニングを階層的に行う手法を提案した.6.パフォーマンスドリブンレイアトに対する適応的遺伝的アルゴリズムの適用エリート度に基づく適応的遺伝的アルゴリズムを提案し,レイアウト設計手法に適用した.また,高速化のためのLSI化を行い,パフォーマンスドリブンレイアウト手法の数10倍の高速実行の見通しを得た.
著者
中屋 晴恵
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地殻表層部の温度履歴を推定することは、生物の生存領域に重なる場での地質現象を明らかにするために重要であるが、これまで有効な地質温度計が得られていなかった。本研究では2年にわたり、自生粘土鉱物の酸素同位体を温度履歴の推定に用いることを目的として計画した。統一した見解の得られていない続成過程での自生鉱物形成メカニズムを検討した後に、粘土鉱物を分離して酸素同位体比の測定を行い、地質温度計として有効であるかどうかを検討した。さらに、室内で、水と粘土鉱物の酸素同位体交換実験を行うことにより、天然と実験室内で得られた同位体分別係数の妥当性を確認することも目的であった。簡単に結果をまとめる。1 南海トラフから得られた堆積物コア中の自生粘土鉱物の詳しい観察と単一結晶の化学分析を行い、自生粘土鉱物組み合わせが、堆積物の砕屑性粒子の組成によって異なり、粘土鉱物組み合わせの出現は地質温度計として精密ではないことが明らかになった。また、続成過程においても、地熱系同様に、自生粘土鉱物の形成過程は溶解沈澱によるものか卓越していることが明らかになり、酸素同位体比を温度計として用いることの妥当性を与えた。2 地熱井から得られたスケール中のスメクタイトの分析により、摂氏200度を超える温度でのスメクタイト-水間の同位体分別係数を決定した。また、1で用いた自生粘土鉱物の酸素同位体比を測定し、採取深度(すなわち温度)に依存して重酸素が減少する傾向があることを確認した。3 イライト-水間の同位体分別係数を決定するために静水圧下で行う水熱合成実験のための耐圧容器と電気炉を設計、製作した。また、実験に用いるイライトの選択を行った。この実験は現在も進行中である。
著者
米山 忠克 藤原 徹 林 浩昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

マメ科植物では篩管を移行する物質が窒素固定する根粒数を決めていること、これにはhar1遺伝子が関与していることを示している。しかし根粒数を制御する物質は未だ不明である。本研究で用いた植物ステロイドホルモンであるbrassinosteroidsは植物の成長において様々なはたらきを行なうだけでなく、最近は病害ストレス応答に関与し、病害抵抗反応をシステミック(全身的)に誘導することが報告されている。このbrassinosteroidsの最も生理活性の強いbrassinolideのダイズ野生株(エンレイ)および根粒超着生ミュータント(En6500)の地上部への処理と、brassinosteroidsの合成阻害剤のbrassinozoleをエンレイの葉部と培地から処理をして、葉部の成長と根粒の着生を調査した。Brassinolideの葉への処理はEn6500の根粒数を23-62%に低下させたが、エンレイでは根粒数は変化しなかった。Brassinolideの処理によって、節間は伸長した。葉にBrassinozoleの処理を続けるとエンレイの根粒数が増加した。また培地へのbrassinozoleの処理は節間を短くし、根粒数を増加させた。このような結果から葉部の,brassinosteroidsが篩管を通じてシステミックに根粒着生を変化させることが始めて明らかとなった。イネ篩管液からメタルの鉄、亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、モリブデンなどを検出した。とくにカドミウムと亜鉛については遊離のイオンでなく、大部分がリガンドと結合していていることを明らかにした。篩管内鉄またはその結合物質は鉄のシグナルとなっていると予想された。本年度から日仏共同研究「植物の炭素、窒素同化のシグナリングと代謝ネットワークの分子基盤とその応用」(代表 長谷俊治、Suzuki Akira)の日本側の研究協力者となった。ここでは代謝とそれを制御するシグナリングを研究することとした。また12月8〜9日と大阪大学蛋白研究所で開催された「植物代謝のネットワークとシグナリングの分子基盤とその応用」セミナーで「植物成長とC/N移行:^<15>Nと^<13>Cによる追跡」と題して本萌芽研究のテーマの長距離シグナリングメタボライトの存在とその重要性について講演した。
著者
丹治 光浩 橋本 和明 安藤 治 東 牧子 小川 恭子 Mitsuhiro TANJI HASHIMOTO Kazuaki ANDO Osamu AZUMA Makiko OGAWA Kyoko 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学社会福祉学部
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.43-51,

心理療法における失敗を論じる意義は大きいが、それが正面から取り上げられることはそれほど多くない。そこで、本研究では心理療法における失敗要因とその防止策を探ることを目的に、臨床心理士485名を対象に失敗事例を収集し、その分析を行った。調査の回収率は、20.8%で、クライエントの平均年齢は、27.3歳±12.5歳であった。回答者の平均年齢は44.2歳±12.5歳で、臨床歴の平均は16.6年±11.2年であった。クライエントの主訴は、うつ病性障害が最も多く、続いて境界性人格障害、適応障害の順に多かった。失敗内容で最も多かったのは、セラピーの中断(ドロップアウト)で、全体の約6割を占めていた。失敗の要因は、「間違った介入」、「不適切なアセスメント」、「セラピー構造の崩れ」の順に多かった。中でも逆転移は重要な問題で、その多くはセラピストの未熟さに起因していると考えられる。失敗の防止策は、「適切な介入をする」、「関係部署との連携を図る」、「アセスメントをしっかりとする」の順に多く、いずれも基本的な事柄であった。セラピストは臨機応変に対応するために、常にスーパーヴィジョンやケースカンファレンスなどにより自らの臨床を振り返る必要があるだろう。So far, few studies have focused on the factors related to the failure of psychotherapy. We tried to collect case examples of therapeutic failures from 485 clinical psychologists to identify contributiong factors and to search for measures to prevent future failures. The collection rate was 20.8%, and the mean Ciage of clients was 27.3±12.5years. The mean age of the respondents was 44.2±12.5 years, and the mean years of professional experience of the clinical psychologiets who participated in the study was 16.6±11.2 years. The most common complaint of the clients was body symptom. Other complaints were, in order, interpersonal relationships, depressive state, and refusal to go to school. The most common diagnosis was depression, and others were, in order, borderline personality disorder and adjustment disorders. The most common therapeutic failure was dropping-out of therapy (about 60%), and the causes of the failures were, in order, "wrong intervention," "irrelevant assessment", and "unstable therapeutic structure." Counter transference is a particularly significant problem, which is thought to result from the immaturity of the therapist. The proposed measures for preventing future failures were, in order, "appropriate intervention," "cooperating with the related organization," and accurate assessment," all of which are basic principles in psychotherapy. It is recommended that a therapist should always reflect on his/her clinical style by means of supervision, case-conference and so on to take a flexible approach in each case.
著者
伊藤 醇一 岩附 正明 深沢 力
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.445-459, 1993-08-05
被引用文献数
3 3

炭化ケイ素には多数のポリタイプが存在し,通常の炭化ケイ素製品はこれらの混合物である.一方,JCPDSカードその他に記載されている炭化ケイ素の結晶学的データやX線回折データには必ずしも一貫性がなく,実際試料との不一致も見られ,各ポリタイプの同定を困難にしている.そこで本研究では,従来の炭化ケイ素の格子定数データをできるだけ多く集めて比較し,本来変わらないはずの六方格子のα軸長を,著者らの実験結果や文献値を参考に一定値(3.081Å)にして整理統一した.更に,代表的ポリタイプについて,この格子定数と原子配列データを用いて,面間隔とX線回折強度を計算して実験値とも比較した.これによりポリタイプ間の回折図形の差が明確になり,ポリタイプの同定が容易になった.
著者
中込 四郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

スポーツ競技者の現役引退並びに運動部集団からの離脱後の適応過程について、主に、自我同一性の再確立に着目して以下のような側面から研究を行った。(1)部離脱に関する相談事例の提示:研究者が心理相談室で担当した運動部離脱に関する6事例をまとめ、部離脱が危機的状況あるいは同一性再確立の困難な状況もたらしていることを示した。(2)退部後の再適応に寄与する要因:退部後かなりの時が経過し、現在、比較的適応状態にある元大学スポーツ競技者10名ドロップアウトならびにトランスファー者)への面接調査により、再適応を促進したと考えられる心理社会的要因を明らかにした。(3)引退後の再適応過程の統合モデルの構築:わが国を代表する元アマチュア競技者8名への面接調査を行い、具体的な事例提示並びに、それらの資料から再適応過程を説明する一般化された「統合モデル」を提示した。(4)各同一性再体制化のタイプごとの特徴:T大学時代に活躍し、さらに卒業後何年か引き続き現役競技者としての競技経験を有する元スポーツ競技者115名に対して調査を試みた。ここでは、それまでの事例研究で主張したことを中心に、操作的な方法により確かめた。(5)再適応への心理的援助の方法:本研究の一貫として行った文献研究の中から、すでに開発されているいくつかの心理的援助プログラムの紹介を行った。今後は、プスポーツ選手に対象を拡げ,同種の研究を試みる予定である。また、それまでの研究成果を踏まえて、再適応を促進するための援助プログラムの開発を行いたい。