著者
鳥居 隆三 野瀬 俊明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、移植免疫に関わる均質化した遺伝的背景、すなわち同一MHC遺伝子をもつカニクイザルとそれら個体のiPS細胞を樹立することによって霊長類を用いた実用的な移植検定系の確立を目指すことを目的とし、本年度は以下の4点の結果を得た。1)均質化MHCサルコロニーの作製:カニクイザル1,668頭についてMHC遺伝子の中で免疫拒絶に関わる主要5遺伝子の分析を試みた結果、14種のハプロタイプと30頭のホモ接合体見出し、その中のホモオス2頭から採取した精液を用いて顕微授精を試みMHCホモとヘテロ個体の作出に成功した。これによって移植免疫寛容型カニクイザルコロニーの基盤が整備出来た。2)MHCホモ個体からのiPS細胞の作製:MHCホモ個体の皮膚細胞から山中4因子をレトロウィルスベクター法によってiPS細胞の樹立に成功し、継代も順調に行う事が出来た。3)サルiPS細胞の幹細胞特性:in vitroおよびin vivoでの多能性を確認し、すでに樹立していたカニクイザルES細胞と同等の特性を持つことを確認した。さらにキメラ能確認のために蛍光タンパク遺伝子導入ips細胞を作製し、顕微授精胚(4~8細胞期胚)に注入、卵管内移植したが38日目胎子ではキメラ形成は認められなかった。ただここで用いたiPS細胞はヒト型の扁平型コロニーであったことから、キメラが見られるマウス型、即ち立体型のコローニーの作製を検討すべく培養法を改善しマウス型コロニー様とした後、GFP遺伝子導入と授精胚への注入・移植した37日目の胎子におけるキメラ能を見た結果、蛍光は観察できなかった。今後樹立の段階でマウス型コロニーを形成するiPS細胞を用いてキメラ能の確認を行いたいと考える。4)生体内移植によるiPS細胞の安全性と疾患による影響の評価:サルの健常個体に山中4因子を導入したiPS細胞をカプセル内に封入して背部皮下に移植した結果、遺伝子発現レベルの解析では、内因性KLF4、c-mycの発現亢進が認められた。この結果から将来のiPS細胞から分化誘導した細胞移植においては、とくに各種疾患をもつ患者への移植は安全性確保のための影響評価が重要であることが示唆された。なお、当初予定の5)サルiPS細胞からのin vitro配偶子形成については、キメラ能をもつマウス型コローニーのサルiPS細胞樹立後に検討する予定である。
著者
吉田 健一 橋本 光靖 伊藤 由佳理 渡辺 敬一 坂内 健一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.ヒルベルト・クンツ重複度の下限について研究代表者と渡辺敬一(分担者)は本研究に先立ち、ヒルベルト・クンツ重複度が1の局所環が正則局所環であることを証明した。この結果は正標数において、永田による古典的な結果を拡張したものになっている。本研究では正則でない局所環に対するヒルベルト・クンツ重複度の下限を求める問題について考察した。結果として、平方和で定義される超平面の場合に下限を取るという予想を得て、4次元以下の場合にそれを証明した。本結果における最小値は(代数幾何学的にも)大変興味深いものであるが、現在の所それをサポートする理論は得られていない。このような理論を見出すことは今後の研究課題である。また、我々の予想は完全交叉の場合にエネスク・島本により証明された。2.極小ヒルベルト・クンツ重複度の理論極小ヒルベルト・クンツ重複度はF正則局所環の不変量として導入した概念である。この量は0と1の間の実数値を取りうるが、アーベルバッハらの研究により、F正則であることと、極小ヒルベルト・クンツ重複度が正の値を取ることが同値であることが知られている。本研究においては、F正則環の代表的なクラスである、アフィントーリック特異点と商特異点の場合にその値を求めた。3.極小重複度を持っブックスバウムスタンレー・リースナー環の特徴付け研究代表者は佐賀大学の寺井直樹氏の協力に基づき、ブックスバウムスタンレー・リースナー環の極小自由分解、重複度、h列などに関する研究を行った。特に、そのようなクラスにおける重複度の下限を決定し、下限を取るスタンレー・リースナー環の特徴付けを行った。
出版者
英語青年社
巻号頁・発行日
1905
著者
岩本 珠美 平原 文子 金山 功 板倉 弘重
出版者
県立広島大学
雑誌
県立広島大学人間文化学部紀要 (ISSN:13467816)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.17-25, 2007

本研究では、キュウリエソを原料として麹菌で発酵させて作成した魚醤がラットの脂質代謝に及ぼす効果を検討した。Fisher-344系雄ラット7週齢、1群6匹ずつ4群を設けた。AIN-93G飼料組成を基本とした飼料を与えた群を対照(Cont)群とし、基本飼料+コレステロールを飼料とした群をChol-Cont群、基本飼料+コレステロール+粉末化した魚醤(FSPF)1%を飼料とした群をChol-F1群、基本飼料+コレステロール+FSPF3%を飼料とした群をChol-F3群とした。これらの飼料でラットを4週間飼育し、血清成分、肝臓中の脂質、トコフェロールについて検討した。その結果、体重増加量は、4群間で有意な差はみられなかった。血清脂質についてChol-Cont群とChol-F1群およびChol-F3群を比較検討したところ、血清総コレステロール(TC)値はChol-F1群、Chol-F3群で有意に高値を示し、魚醤の添加効果は認められなかった。血清トリグリセリド(TG)値はChol-F1群では、Chol-Cont群に比べ、有意の低い値であった。また、血清α-Toc値は、Chol-Cont群よりもChol-F1群、Chol-F3群で高い値を示した。さらに、肝臓中の脂質では、TG値はChol-Cont群、Chol-F1群、Chol-F3群の3群間で有意な差は認められなかった。今回の検討では、粉末化した魚醤の摂取により血清TG値の低下が認められたことから、キュウリエソを有効活用できる可能性のあることが示唆された。
著者
古郡 曜子 菊地 和美
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.410-416, 2009-12-20

本研究は,平成2年前後に生まれた学生を対象とした保育所・幼稚園における「食の思い出」アンケート調査をまとめたものである。調査時期は2008年4〜5月に実施し,有効回答数は732人,調査対象者の平均年齢は18.5歳であった。アンケート調査の結果は以下のとおりであった。食生活の出来事における思い出の回答では,「印象に残っていること」は「いただきます・ごちそうさまという挨拶」を多く挙げていた(74.5%)。通園先における「食事が楽しかった」という回答が82.2%であり,「楽しい思い出」の質問には,みんなで食べたこと,お弁当に関すること,食べ物の栽培をしたことなどを回答していた。一方,幼児期の家庭における「食事のしつけ」の記憶数は,平均4.0±2.2個であった。「現在,食事のマナーが身についていると思う」と回答した学生は,幼児期の家庭における「食事のしつけ」の記憶数が多いという,関連性がみられた。
著者
山口 しのぶ
出版者
中京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究においては、インド、マハーラーシュトラ州で現在行われているヒンドゥー教儀礼「マンガラーガウリー女神供養」(mangalagauripuja)を取り上げ、現地調査と文献研究よりその構造と特色を明らかにした。デカン高原の歴史においては、古くからさまざまな王朝が交替するにしたがってヒンドゥー教が広まっていった。特にマハーラーシュトラ州においては、13世紀以降バクティの運動が盛んとなり、バクティはマラータの民族運動と結びついていった。現代のマハーラーシュトラ州第二の都市であるプネー市は、マラータの伝統とともに、バラモンの伝統が根強く残る地域であり、前述のマンガラーガウリー供養も、新たに結婚したバラモンの女性により行われる儀礼である。マンガラーガウリー女神供養は、1)口すすぎおよびヴィシュヌ神への敬礼、2)諸神への敬礼、3)儀礼執行の宣言、4)準備的儀礼、5)中心的儀礼(マンガラーガウリー女神の供養)、6)バラモン僧のもてなし、7)結びの敬礼文、8)マンガラーガウリー女神供養にまつわる話の朗読、9)灯火をまわす行為、の9つのプロセスよりなる。1)、2)のプロセスにおいて、儀礼をおこなうメンバーの身体を浄化し、3)において儀礼執行の宣言がなされる。4)においては、儀礼に使用される道具や供物の浄化が行われる。5)においてはマンガラーガウリー女神と夫シヴァ神の供養が行われ、オーソドックスな「16のもてなしからなる供養」の他に、神像の沐浴等がなされる。一連の供養が終了した後、この供養に関わるマラーティー語での話を女性のみが聞き、讃歌を唱えて灯火を回す行為(arti)でこの供養は終了する。マンガラーガウリー女神供養は新たに結婚した女性が幸福な結婚生活を願って行うもので、行為の中心となるのはほとんど女性であり男性は副次的な役割を担っているのみである。またこの供養においては、中心的儀礼において、16のもてなし中の沐浴の他に「大いなる聖別の沐浴」「吉祥の沐浴」等繰り返して女神像に水が供えられる。以上のことからこの供養では、水が重要な役割を担っていると考えられる。
著者
磯田 則生 久保 博子
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高齢者に対する温熱環境基準や好ましい冷暖房設備のあり方について提案するために、高齢者住宅を対象に温熱環境に関するアンケート調査、実態測定を実施すると共に高齢者を被験者に人工気候室実験により温熱環境要素の人体影響を測定し、総合的に検討した。1.住宅温熱環境における青年・中年・高齢者の住まい方対応に関するアンケート調査では、住宅の熱特性や高齢者の体質・体格により冷暖房器具の使用や住まい方に違いがみられた。夏季には高齢者の方が他の年代に比べ着衣量が多く、冷房器具としてはクーラーより扇風機の使用率が増加し、睡眠時の使用は減少する。冬季には高齢者の着衣量が増え、高齢者・中年ではストーブが使用され、睡眠時には中年・高齢者で寝床内暖房器具の使用が増加し、特に高齢者で多く、トレイ回数も増加する。2.高齢者住宅の温熱環境の実態測定では、冬季の温熱環境が悪く、暖房設備を改善する必要がある。夏季の居間の平均室温は29℃程度で、寝室では27℃であり、通風や扇風機の利用が多い。冬季の居間室温は15℃〜18℃と推奨室温より3〜5℃低く、寝室では8℃程度とさらに低く、着衣や炬燵で寒さに対応し、夜間のトレイ時には皮膚温が低下する。3.高齢者・青年を被験者とした人工気候室実験では、高齢者の温熱環境に対する生理・心理反応の特徴を明らかにした。夏季実験では高齢者は青年に比べ躯幹部皮膚温が低下するが、末梢部の変化が少なく安定するのに時間を要し、気温や気流の影響を受ける。冬季実験では寒冷暴露時の高齢者の前額皮膚温が気温の影響により低下するが、下腿部では青年に比べ低下が少ないことから血管収縮機能の低下が示唆される。推奨室温としては夏季には26℃〜29℃で、室温30℃では気流が必要であり、冬季には21℃〜25℃の室温が推奨され、放射暖房方式が望ましい。
著者
吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-17, 1975

飲酒の翌朝から発現し, 約1カ月で完全に消失した両側性MLF症候群の1例を報告した。経過中, 右顔面神経麻痺, 左外転神経麻痺および右上下肢のしびれ感など橋被蓋の障害を示す神経症状の一過性出現も認められた。本例ではアルコールの習慣的飲用はなく, 1回の比較的多量の飲酒が発病になんらかの影響を及ぼしたことは考えられるが, 病因としては多発性硬化症の可能性が最も多いと推定した。
著者
中村 泰彦 山藤 一雄
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.119-125, 1968-03

In vivo ascorbic acid exists in two forms of oxidized dehydroascorbic acid and reduced ascorbic acid. It is reported that ascorbic acid decreases the mortality of mice bearing Ehrlich ascites tumor, but we have no information as to dehydroascorbic acid. We synthesized dehydroascorbic acid by improved method of Kenyon et al. and isolated it as crude crystal. Aqueous solution immediately after dissolution showed no selective absorption in ultraviolet wave length, and it came to have a peak at 295 mμ with the lapse of time. By means of hydrazine method, crude crystal was calculated to be composed of 2% ascorbic acid, 66% dehydroascorbic acid, 1.0% 2, 3-diketogulonic acid and 22% others. Crude crystal solution kept at 30℃ for 70 hours (70-hrs-solution) consisted of 25% dehydroascorbic acid, 58% 2, 3-diketogulonic acid and 17% others. There was similar tendency in paperchromatography. Crude crystal and 70-hrs-solution inhibited the growth of transplantable mouse tumor Sarcoma 180, solid type and the inhibition rates were 45% and 51% respectively with the dose of 150 mg/kg/day for 6 days. With the same dosage, ascorbic acid showed weak antitumor activity. Although crude crystal and 70-hrs-solution went by contraries on the content of dehydroascorbic acid and 2, 3-diketogulonic acid, both inhibited the growth of tumor to similar extent. So we presumed that dehydroascorbic acid and 2, 3-diketogulonic acid had antitumor activities respectively.1. Kenyonらの方法を一部変えてアスコルビン酸よりデヒドロアスコルビン酸を調成し粗結晶として分離した.粗結晶の溶解直後の水溶液は紫外部にほとんど選択的吸収を示さないが,時間がたつにつれて295mμに吸収極大を持つようになり別の物質に変化することを示した.この変化はペーパークロマトグラフィーによつて確かめられた.ヒドラジン法によると粗結晶の組成はデヒドロアスコルビン酸66%, 2,3-ジケトグロン酸10%,アスコルビン酸2%,その他22%であり,70時間放置水溶液はデヒドロアスコルビン酸25%, 2,3-ジケトグロン酸58%,その他17%であつた. 2. 粗結晶およびその70時間放置水溶液は,可移植性マウス腫瘍Sarcoma 180に対して抗腫瘍性を示し,腫瘍の増殖は粗結晶投与群では対照群の55%,70時間放置水溶液投与群では対照群の49%に抑えられた.この抗腫瘍性はデヒドロアスコルビン酸,2,3-ジケトグロン酸によるものと推定した.
著者
片山 幹生
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度はアダン・ド・ラ・アル作『葉蔭の劇』の写本に記載された二つの「タイトル」の解釈を通して、当時の作品受容のありかたを考察し、この研究成果を『フランス文学語学研究』(2002年、第21号)に発表した。『葉蔭の劇』は,1276年にアラスで上演されたと考えられている。通例,中世の作品の場合,作品の末尾に記された.explicitの記述,作品の冒頭の語句であるincipit,テクスト本文の前に付けられた見出しrubriqueのいずれかを,作品を同定するタイトルとして流用する場合が多い.『葉蔭の劇』Jeu de la Feuilleeというタイトルは,作品全編を記載している唯一の写本であるBnF fr. 25566写本のexplicitの記述、《Explicit li ieus de le fuellie》から取られたものだ.現在、この作品の呼称として,explicitの記述から取られたJeu de la Feuilleeが定着しているが,この写本には本文テクストの前に,Li jus Adan「アダンの劇」という見出しも記載されている.つまりこの写本の写字生は,explicitと見出しに二つの異なる「タイトル」を記述していることになる。この二つの「タイトル」の記述に対し、作者が関与している可能性は低いが,少なくともこの二つの表題は,作品を書写した写字生および同時代の人間の作品受容のあり方を示す手がかりであることは確かである.この二つの「タイトル」には、いくつかの解釈が可能である.まず作品の見出しにある《Li jus Adan》という名称は,劇の作者であるアダン・ド・ラ・アルを示すのと同時に,劇の中の登場人物であるアダンの姿を想起させる.一方explicitにある《li jeu de le fuellie》という名称は、劇の中で、舞台装置として置かれた妖精を迎える緑の東屋をまず指すと同時に,後半の舞台となった居酒屋,アラスのノートルダム教会の聖遺物厘の収容場所,アダンとその妻マロワの若き日の恋愛の思い出など,作品中に現われる様々な要素を示唆する.また《fuellie》は,《folie》の異形と読み替えられることで,作品中に遍在する狂気のモチーフを浮かび上がらせる.この様々な解釈を呼び起こす二つの「タイトル」には,複雑な構造を持ち多義的な『葉蔭の劇』の書写を託された当時の写字生の作品受容のあり方が象徴的に示されているのだ。
著者
小泉 直介 進士 五十八
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.23-32, 2007-06-20

本研究の目的は,我が国造園建設業が継承し,また継承すべき伝統的作庭技術,工法などの造園的本質と特質を明らかにしようとするものである。(1) 飛鳥時代にはじまる作庭をみると,身近に庭をつくるために在所の地勢を活かし,資材に"自然材料・地場材料"を使い,そして作る方法は"自然に順応した工法"をとった。この規範は,近世に至るまで,造られたかたちは変わっても,つくる過程の態様として大きな変化はなかった。(2) 職能分担などの業務形態の発展は,建築土木に比べて仕事の量は劣ったにも拘らず,社会経済の変化につれてこれ等と同様な軌跡を辿った。江戸時代には,植木,石などの資材の販売業が萌芽した。しかし,造園職能のうち現場で直接土に触れる職人の存在は,社会的に認知されることが希薄であった。(3) 作庭の出来を左右する作業者の心象は,素朴にして巧まざる自然の美しさを映そうとする行為を生むものであった。これらのことから現代の造園建設が,伝統として継承すべき根幹的な事項を明らかにした。