著者
向井 秀樹 新井 達 浅井 寿子 武村 俊之 加藤 一郎
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.84-90, 1995-02-01 (Released:2011-07-20)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

小児のアトピー性皮膚炎の治療に海水浴療法が行われており, その作用機序として紫外線および海水の作用が考えられている。そこで今回この海水の作用に注目して, その有用性を検討した。方法は自宅の入浴時に海水成分に近い自然塩を用いて塩水療法を行った。対象は, 従来の治療法に抵抗性で重症度の高い46症例(小児17例, 成人29例)。全体の有効率は60.9%であり, 年齢別にみると小児94.1%, 成人41.3%と明らかな有効率の違いをみた。臨床効果を要約すると, 止痒効果が高く, 湿潤局面の改善や保湿効果などが認められた。副作用として, 使用時の刺激感および長期連用により乾燥肌の出現がみられた。比較的かゆみのコントロールしにくい症例に対して, 本療法は容易で有用性の高い補助療法になりうると考えた。
著者
小枝 義人
出版者
拓殖大学国際日本文化研究所
雑誌
拓殖大学国際日本文化研究 = Journal of the Research Institute for Global Japanese Studies (ISSN:24336904)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.141-168, 2023-03-25

池田勇人の首相政務秘書官、池田が創始した自民党の派閥「宏池会」事務局長、首相・大平正芳のブレーンも務めた政治評論家・伊藤昌哉の死後、筆者は淳夫人から伊藤の遺した大量の未公開史料を譲り受けた。本稿は、その中にあった草創期の宏池会に関する未公開史料を解析・検証したものである。内容は一九六四年一〇月の東京オリンピック後間もなく病気のため首相を辞任する池田の退陣表明文案、後継指名に至る政局シミュレーションと池田亡き後の宏池会の展望が中心である。前者は二〇〇字詰め原稿用紙二枚、後者は二五枚に亘り、いずれもブルーのインクで記されている。本稿が今後の戦後日本政治史研究の一助となれば幸いである。
著者
白石 純子 中川 瑛三 加藤 希歩 新井 紀子 渡邉 静代 岩見 美香 家森 百合子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.58-72, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
28

今回の報告の目的は,発達性協調運動症のある子どもの書字困難の特徴を検討すること,および書字困難に対する感覚統合療法の効果を検討することである。発達性協調運動症のある小学2年生,計13例を対象に,読み書き,音韻処理,視知覚認知機能,眼球運動,感覚処理・協調運動に関するアセスメントを実施し,主訴やアセスメント結果から対象児それぞれの課題に応じた感覚統合療法を週に2回,計10回実施した。結果,13例の対象児の書字困難の特徴は「乱雑」「視写の困難さ」「書字負担」「読みの困難さを併せもつ書きの困難さ」「漢字書字の困難さ」「拒否」の6つのグループに分類された。感覚統合療法による介入を通して,13例中9例において書字困難に関する主訴の改善が認められ,発達性協調運動症に関連する書字困難が改善する傾向が示唆された。
著者
源河 亨
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.65-82, 2018-12-30 (Released:2019-11-27)
参考文献数
36

Some features of music are described using emotional terms, for example, sad music, joyful rhythm, fearful melody, and so on. These features are called expressive properties. There are two leading theories concerning expressive properties, the resemblance theory and the persona theory. The former claims that sad music shares some features of the behavior of a sad person, the latter claims that sad music induces an imagining in the listener, of a sad person. In this paper, I will suggest that, given the philosophy of mind, these two theories can be compatible.
著者
富永 京子
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.27, pp.122-133, 2014-09-10 (Released:2015-09-01)
参考文献数
16

The theory of social movements has studied political protests with regard to their occurrence, duration, development and participants. Previous research has clarified that diverse factors are involved in all of these elements. Although policing, arrests and interrogations are also essential elements, few researchers have examined them as they occur in contemporary Japan. In this paper, the author conducted a case study based on interviews with arrested activists and their colleagues. From the analysis, the author clarified that arrested protesters are labeled as “radical protesters” both by the police and by people they know in their private lives. On the other hand, policing plays a role in an initiation that makes these protesters more committed to social movements. An arrested activist is recognized as a hero by some protesters. In this way, social movements can develop their sense of solidarity. However, other organizations often regard those arrested as deviant fellow-participants.
著者
山本 奈生
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-79, 2018 (Released:2019-10-09)
参考文献数
20

本稿は現代日本における大麻自由化運動を、特に90 年代以後の展開に注目しながら整理 するものである。大麻合法化が進む欧米諸国において、大麻問題は政治的なリベラル/保 守の係争として位置づけられ、同性婚や銃規制問題と同様にしばしば争点化されている。 ここでは大麻自由化運動が、広範なリベラル派支持層の賛同を得つつ法規制の変化に現実 的な影響を与えてきたが、日本での状況は大きく異なっている。 日本における大麻自由化運動は、60 年代のビートニク/ヒッピーに端を発し、90 年代か ら現在まで複数のフレーミングを形成しながらネットワーク化されてきたものである。こ こでの運動は一つの団体に還元できるものではなく、多様な問題関心と志向性を持つ諸個 人らが織りなす群像であるが、この潮流は社会学界においても十分には知られていない。 そのため本稿では一つの出来事や団体に対して集中した解釈を行うのではなく、まずはグ ループおよび諸個人が形成してきたムーヴメントの布置連関を把握しようと試みた。 現在の大麻自由化運動は「嗜好用を含めた全般自由化」「医療目的での合法化」「産業利 用の自由化」など複数の目標を掲げながら、同時に言説枠組みの展開においてもアカデミ ックな研究に依拠するものから、スピリチュアリズムやナショナリズム、陰謀論に至るま で散開している。その後景には、社会運動というよりはサブカルチャーとしての精神世界 やニューエイジ、レゲエ文化の展開があり、こうした音楽や文化と大麻自由化運動はクロ スオーバーしながら進展してきた。本稿では、90 年代以後の日本における状況を整理する ためにまず前史を概観した後に、諸グループがどのようにして活動と主張を行ってきたの かを捉え、社会状況に対するそれぞれの抵抗のあり方について論じた。
著者
髙山 善光
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.358-376, 2018 (Released:2019-05-12)
参考文献数
66
被引用文献数
1

これまで呪術を説明すると考えられてきた「類似」は、認知科学の発展によって、普遍的な認知機能の一つであることが明らかにされ、呪術に限定されるものではないということがわかってきた。このため、呪術の知的世界の特徴を理解するためには新たな理論が必要であり、この新しい理論の形成に向けて、「思考の現実化」という考えを私は以前提出した。本論では、この「思考の現実化」という理論を深めることで、近代「呪術」概念の定義の問題を乗り越え、新しく「呪術」を定義してみたいと考えている。近代呪術概念の特徴は包括性にあり、その包括性は、「呪術」が宗教的認識によって現実化された推論を意味しているということに起因していると主張したいと思う。 近年の呪術概念に関する議論は、大きく二つの潮流に分けることができる。まず一方には、この近代的な呪術概念を放棄すべきだと考える研究者がいる。そして他方で、やはり保持すべきだと主張する研究者がいる。本論ではまず、この矛盾は、前者の研究者が、近代的な呪術概念の包括性に対する理解を欠いていることに起因しているということを論じた。そして次に、この包括性は、「呪術」が推論という普遍的な要素を指しているということに関係があると議論した。 しかし、この呪術的な推論には、宗教的である一方で、科学的にも判断されるというさらなる問題がある。この問題を解くために、次に、宗教的認識という独自の理論を用いた。結論として、私は、近代的な呪術概念は、この宗教的認識によって現実化されている推論のことを指している概念だと結論づけた。そのために、呪術は、宗教的認識あるいはその推論的な側面のどちらに注目するかによって、宗教的にも、科学的にもなり得ると論じた。
著者
池田 さなえ
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.7-73, 2023-03-31

本稿は、明治期の政治家を中心として広がる多彩な属性の人的ネットワークを可視化する方法を考案し、それをもとに明治政治史における地方人士「組織」の問題に新たな光を当てるものである。明治期の政治においては、地方人士の中に根強く存在した強固な反政党意識や組織への強い忌避感という条件のもと、議会に基盤を持たない藩閥政府の指導者たちはそのような「組織されたくない人びと」にアプローチせざるをえなかったという固有の困難が存在した。 本稿では、このような条件下での藩閥政府の指導者による「組織」の実態を明らかにするために、藩閥指導者を中心とした地方人士のネットワーク把握の方法を考案・提示した。具体的には、明治期に地方「組織」に奔走した政治家の一つの拠点に軸を据え、明治政治史の基礎的史料である書簡のみならず、異なる種類の複数の史料から人名データを抽出し、独自の指標で四象限平面上に配置・色分けする方法である。本稿で検討対象としたのは、政社―国民協会、団体―信用組合の組織化を目指して全国をくまなくめぐり、自らの手足と耳目で「組織」することにこだわった政治家・品川弥二郎とその京都別荘・尊攘堂である。 分析の結果として、以下の諸点を指摘した。1. 品川にとって尊攘堂は、政治家別荘一般について指摘されているような政界からの逃避や慰安のためだけの場ではなく、また維新殉難志士の慰霊・祭典を行うという堂創設の本来的目的のみでもなく、在野における地方人士「組織」のための拠点、あるいは連絡機関であった。2. 品川―尊攘堂を中心とするネットワーク自体の持つ魅力に惹き寄せられ、全国から多様な属性の人びとが集まっていた。3. 尊攘堂は、これら様々な背景を持つ人びとがそれぞれの目的や持ち場を一時的に離れて集う大規模なコミュニタスであり、このようなコミュニタスを持ったことが、組織を忌避する地方人士を品川が幅広く把握できた要因であったと考えられる。
著者
庭山 和貴 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.598-609, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30
被引用文献数
13 11

本研究の目的は, 教師の授業中の言語賞賛回数が自己記録手続きによって増えるか検討し, さらにこれが児童らの授業参加行動を促進するか検証することであった。本研究は公立小学校の通常学級において行い, 対象者は担任教師3名とその学級の児童計85名(1年生2学級, 3年生1学級)であった。介入効果の指標として, 授業中に教師が児童を言語賞賛した回数と児童らの授業参加行動を記録した。介入効果を検証するために多層ベースラインデザインを用いて, 介入開始時期を対象者間でずらし, 介入を開始した対象者と介入を開始していない対象者を比較した。ベースライン期では, 介入は実施せず行動観察のみ行った。介入期では, 教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録する手続きを1日1授業行った。また訓練者が, 教師に対して週1~2回, 言語賞賛回数が増えていることを賞賛した。介入の結果, 3名の教師の言語賞賛回数が増え, 各学級の平均授業参加率も上昇した。フォローアップにおいても, 教師の言語賞賛回数と学級の平均授業参加率は維持されていた。今後は, 授業参加率が低い水準に留まった数名の児童に対する小集団・個別支援を検討していく必要があると考えられる。
著者
古村 孝志 竹内 宏之
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3-4, pp.431-450, 2007-08-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
48
被引用文献数
5 6

The Tokyo metropolitan area is known to have been struck by large earthquakes due to the subduction of the Philippine Sea Plate and the Pacific Plate beneath the North American plate. Recent damaging earthquakes that occurred beneath Tokyo include the 1855 Ansei Edo earthquake, the 1894 Meiji Tokyo earthquake, and the 1923 Kanto earthquake. Whereas the Kanto earthquake is known to have occurred at the top of the subducting Philippine Sea Plate, the other events are considered to have occurred in Tokyo bay, but their source depths are unknown. Many researchers have attempted to determine the source mechanisms of these earthquakes through analyses of patterns of seismic intensity distribution in the Kanto area, but the intensity pattern at the center of Tokyo would be considerably affected by the site amplification effect of the shallow, localized structure rather than be related directly to the source itself. In the present paper, we summarize the characteristics of strong ground motions and damage caused by the earthquakes. We then compare the pattern of intensities on local and regional scales with those of recent earthquakes occurring in Tokyo and corresponding computer simulations using heterogeneous crust and upper-mantle structure models below Tokyo to find referable source models for the Ansei Edo and Meiji Tokyo earthquakes.
著者
磯村 拓哉
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.71-85, 2018-09-05 (Released:2018-10-31)
参考文献数
69
被引用文献数
4

本稿はFristonの自由エネルギー原理(free-energy principle)をわかりやすく解説することを目的とする.まず自由エネルギー原理を導入する理念や妥当性を簡潔に述べる.次に,自由エネルギー原理により説明可能な事象として,基本となる知覚および行動について述べる.簡単に言うと,自由エネルギー原理とは生物が従うとされる法則であり「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し続けている」と定めている.この原理から外界の認識のモデルとして,予測符号化(predictive coding)と呼ばれる情報表現形式が導出され,「推論・学習とは,予測誤差を最小化するように神経活動・シナプス結合を更新することである」と説明できる.また,行動の生成についても同一の原理から導出可能であり,「行動は,周囲の環境を予測しやすい状態に変化させ自分の好みの入力を得るために起きる」と説明できる.これは能動的推論(active inference)と呼ばれている.最後に,外界の推論の拡張である,他者の思考の推論について議論する.