著者
二宮 有輝
出版者
日本学校メンタルヘルス学会
雑誌
学校メンタルヘルス (ISSN:13445944)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.37-47, 2017 (Released:2021-04-08)
参考文献数
39

【問題と目的】日頃からSNSなどを利用することの多い大学生にとって,ネット依存は無視できない問題である。一方,これまでネット上でのどのような行動がネット依存に関連しているのかはほとんど扱われてこなかった。そこで,本研究ではSNS上の自己呈示というネット上の行動面を媒介変数として取り上げ,精神的健康がSNS依存傾向に与える影響を検討することを目的とした。【方法】大学生を対象に質問紙調査を行い,SNSの一つであるTwitterを利用している403名を分析対象とした。分析にはパス解析を用い,精神的健康の指標としての自尊感情,孤独感,解離傾向の3指標がSNS上の自己呈示を媒介してSNS依存傾向に与える影響について検討を行った。【結果】相関分析から,Twitter上で理想的な自分を演じる,虚栄的自己呈示は精神的健康の指標と負の相関を示した。また,パス解析の結果,自尊感情の低さがTwitter依存傾向に与える影響は,虚栄的自己呈示によって媒介されることが示された。一方,孤独感は間接的にTwitter依存傾向を抑制することが示された。さらに,解離傾向がTwitter依存傾向に与える影響は虚栄的自己呈示によって媒介されていたが,解離傾向は直接Twitter依存傾向を助長することも明らかとなった。【考察】本研究の結果から,個人の精神的健康がTwitter依存に与える影響は,Twitter上の自己呈示によって媒介されることが明らかとなったが,精神的健康からTwitter依存への直接の影響も認められた。今後は縦断的な方法を用いて精神的健康がTwitter上の自己呈示,およびTwitter依存に与える影響を詳細に検討するとともに,実際の活動履歴など,より具体的なネット上の行動面に焦点を当てた方法を用いた調査を行う必要があると考えられる。
著者
力丸 裕
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.455-461, 1996-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本論文では音楽知覚に不可欠な音感覚を脳が創りだしているという基礎事実について述べた.目的としている音のどの物理的周波数成分 (スペクトル) にも関係のない音を, われわれがよく知覚することは, 聴覚心理学の分野では19世紀からよく知られた事実である.実は, これによってわれわれは音楽を楽しむことができるのである.たとえば, いくつかの連続した高次倍音を加えると, 「ミッシングファンダメンタル」と呼ばれる実在しない低周波の基本周波数に対応したピッチが聴こえる.この現象を容易に理解するために, これまでにみつかった心理学的事実を簡単に紹介し, さらに, 聴覚中枢におけるミッシングファンダメンタルのピッチ抽出機構と関連のある神経生理学的知見をいくつか提供した.ミッシングファンダメンタルとして知られる時間情報で創られるピッチ (時間ピッチ) が, 周波数成分に基づきスペクトルで創られるピッチ (場所ピッチ) を処理している考えられる一次聴覚野ニューロンと同じニューロンによって取り扱われているかどうかが調べられた.その結果, 一次聴覚野において時間ピッチは場所ピッチと同一のニューロンによって取り扱われているらしいことが判明している.紹介しているデータは心理学的知見とよく一致している.
著者
仲 真紀子 上宮 愛
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.343-361, 2005

Admissibility and reliability of a child's testimony depends on her/his competence in remembering and communicating facts as well as ability to discriminate the truth from a lie. It also relies on the type of early interview through which the account has previously been elicited. In this article, we reviewed research into the development of relevant cognitive abilities such as episodic memory and communication skills to talk about an event, a nd the ability to tell the difference between the truth and a lie, Also we examined studies on social factors that may facilitate or interfere with the production of an accurate account, such as the forms of questions, interview methods, social pressures and suggestive information. Results suggest that compared with younger children, children over six years of age, who are more aware of source information and the definitions of truth and lie, a nd more able to resist suggestions, are more capable of giving a testimony provided that an unbiased interview has been conducted, The results are discussed in connection with current legislation and investigative procedures in Japan.
著者
前田 春香
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回 (2021) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2C3OS9a01, 2021 (Released:2021-06-14)

本発表では、保険における(統計的な)差別の分析手法をアルゴリズムによる差別で踏襲することができることを示す。昨今では、アルゴリズムによる差別が注目され、技術的取り組みも盛んである。偏りがあると問題になりやすい属性として人種や性別といった属性が知られているが、一律にその使用を禁ずることは望ましくなく、かといってどう扱えばよいのかも必ずしも明らかでない。そこで本発表では、保険における差別のアプローチを参照し、いつ属性の取り扱いが倫理にかかわる問題になりうるかを明らかにする。両者はアルゴリズムによる差別と、意図によらない合理的推論に基づいているという最大の特徴を共有する。具体的には、特に属性に生じる社会的コストに着目しながら、保険分野における差別および倫理にかかわる事項を通じその応用可能性を探る。この作業により、どのような事例が問題になるかを考える筋道を提供する。

3 0 0 0 OA 新生児搬送

著者
島袋 林秀
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.668-671, 2021 (Released:2021-04-26)
参考文献数
9

総論 1.はじめに─新生児搬送の究極的な原則─ 新生児搬送の究極的な原則は,母体(胎)搬送によって新生児搬送を極力回避することである.限られた人材・資材・空間での新生児搬送は,搬送医学(transport medicine)の高度な技術と経験が求められ,はるかに母体搬送よりリスクが高いからである.一方で,新生児搬送は新生児科医師には直面することも多く,不可避の技術でもある.慢性期の転院だけでなく,早産児の予期せぬ出生,胎盤早期剥離により母体搬送の時間すらない状況,低体温療法実施施設への搬送,さらには外科手術による緊急搬送等も稀ではない.また,本邦では米国に比べ分娩施設が周産期センターに集約化が進んでいないために,周産期センター以外での分娩が約半数を占め,結果的に新生児搬送が必要となりやすい背景もある.本稿では,新生児科医の不可欠な技術である新生児搬送について解説する.誌面の都合上,やや総論的な概説になることをお許し願いたい.
著者
時津 裕子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.110, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

かつては口承で語り継がれた怪談が,Web上のテキストで楽しまれるようになって久しい。そこで描かれる恐怖がどのようなものであるか知ることは,現代日本人の心性や文化的特性を考える上で不可欠だろう。本研究の目的は,現代のネット怪談がもつ意味的構造を解明することである。まとめサイトに掲載されたランキング上位100篇の怪談を収集し,作中に登場する恐怖の喚起につながると考えられる112件の物語要素を抽出した。つづいて,各話におけるこれら要素の存否状況をダミー変数として,数量化理論Ⅲ類による分析を実施した。カテゴリー布置から,1軸が,作中で発生する出来事の原因に明確な説明が成り立つかどうか(「ルール明示/ルール不明瞭」)を,2軸が怪異や霊的存在が目に見える形で登場するかどうか(「恐怖の直接呈示/間接呈示」)を表すと解釈でき,ネット怪談はこれら2軸の組み合わせにより4類型に分類できることがわかった。
著者
鈴木 伸一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.504-511, 2004-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
19
被引用文献数
10 10

The purpose of this study was to validate the three dimensional model of classifying coping behavior. The three are: Encounter-Avoidance, Problem-Emotion, Behavior-Cognition Dimension. A set of questionnaires on coping behavior and psychological stress responses were administered, and 1 604 undergraduates and 1 296 adults completed them. Analyses of covariance structure were performed, and results indicated that the three dimensional model, with eight coping style, showed the highest goodness-of-fit statistics. Multiple regression analyses also indicated that Problem-Emotion and Behavior-Cognition dimensions were useful for predicting the coping effects on psychological stress responses. Therefore, the two dimensional model of Problem-Emotion and Behavior-Cognition, with four coping style, would be helpful for further investigation of coping behavior that would buffer psychological stress responses.
著者
加茂 直樹 平田 博文
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.114-118, 1996-02-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
2

化学反応速度の初歩の理論を解説した。アレニウスの半経験的な式に現われる活性化エネルギーおよび頻度因子を, ガス分子の衝突理論およびアイリングの活性化複合体理論によって解説した。化学反応が起こるためには, 分子が衝突し, 1)衝突に際し適当な向きになっており, 2)ある値のエネルギーを供給できるだけのエネルギーをもって衝突しなければならない。1)は活性化エントロピー, 2)は活性化エネルギーが決定する。
著者
Yuki G. Baba Tatsumi Suguro Noriaki Naya Takeo Yamauchi
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.11-13, 2016-08-31 (Released:2016-11-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

We report the occurrence of a gynandromorph of the funnel-web spider Allagelena opulenta collected by a Malaise trap set in a Japanese cedar plantation on Mt. Aikodake, Yakushima Island, Japan. This specimen presents a transverse gynandry, with the anterior half of the body male and the posterior one female. The epigyne is abnormally developed, and the shape of the epigynal opening is deformed compared to that in normal females. This is the first case of gynandromorphy observed in this genus.
著者
浦田 克博 萬田 正治 渡邉 昭三
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.325-331, 1992-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

塩味(塩化ナトリウム),酸味(酢酸),甘味(ブドウ糖),苦味(塩酸キニーネ),旨味(グルタミン酸ナトリウム)に対する鶏•鶉の味覚反応を2瓶選択法で調べた.これらの味物質を水道水に溶かしてそれぞれ11段階の濃度を設定し,低濃度から高濃度へ向けて実験を行なった.各濃度における総飲水量に対する試験液の摂取割合を選好指数とし,濃度上昇に伴う選好指数の推移を味覚反応曲線として表し,味覚反応を推察した.X2-検定により,選好指数39.7%から60.3%は不弁別範囲,60.3%以上は嗜好範囲,39.7%以下は拒絶範囲と定義した.塩味の濃度は鶏が0.64%,鶉が1.28%まで弁別せず,鶏が1.28%,鶉が2.5%以上で拒絶反応を示した.酸味の濃度は鶏が0.04%,鶉が0.16%まで弁別せず,鶏が0.08%,鶉が0.32%以上で拒絶反応を示した.甘味の濃度は鶏が20%まで弁別せず,鶉は1.28%と2.5%で弱い嗜好を示した.苦味の濃度は鶏が0.02%まで弁別せず0.04%以上で拒絶反応を示し,鶉は0.32%まで弁別しなかった.旨味の濃度は鶏が0.64%,鶉が5%まで弁別せず,鶏が1.28%以上,鶉が10%で拒絶反応を示した,以上の結果より,鶏と鶉は特に強い嗜好を示す味物質はないことと,鶏は鶉より味覚が敏感であることが明らかとなった.
著者
宮永 隆一朗
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.59-81, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
43

「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」。杉田水脈議員の言葉は、狭義のLGBT に留まらず閉経後の女性など様々な理由で子供を作らない人を「生産性」の名の下に排除する。しかし、クィアな老人は、生産性の論理により二重に周縁化された存在でありながらも、クィアさと老いを対立関係に置く私たちの社会の規範的言説によって想像困難なものにされている。 本稿はクィアさと老いを二項対立ではなく交差する変数としてとらえ、両者を共に排除する「生産性」の暴力に抗うクィア・エイジングの理論の意義を主張し、その理論的観点から映画『ベンジャミン・バトン』における老いの表象を批判的に検討する。ホモフォビアの言説とクィア・スタディーズは、クィアさを専ら未成熟さ・若さと描くことにより、皮肉にも共にクィアな老人を不可視化してきた。こと2000 年代後半アメリカ社会では、ベビーブーマーの高齢化により加熱するポジティヴ・エイジングのイデオロギーが、「健康な老い」を称揚する裏側で異性愛規範や強制的な健常的身体性を強化した。こうした中で制作された2008 年の『ベンジャミン・バトン』は老いを個人のアイデンティティやライフスタイルの問題に還元することでポジティヴ・エイジングのイデオロギーと共鳴する。一見ステレオタイプ的老いの表象に抗う本作は、老いへの不安を抱える中年ベビーブーマーに「老いなど存在しない」という快楽を提供すると同時に、異性愛規範や支配的な身体のイデオロギーを反復することで成立する。 本稿はクィアさと老いがいかに相反する規範的言説をなし、その衝突の場であるクィアな老人の想像を困難にするか明らかにする。ストーンウォールの立役者であるベビーブーマーのLGBT が年金世代となり、生産性の名による暴力が正当化される今、私たちは生産性の論理が二重に周縁化するクィアな老人を描き、こうした暴力に抗う、クィア・エイジ ングの理論を開かなければならない。
著者
池田 結佳 松岡 久美子 須田 美香 太根 ゆさ 平松 純子 山内 まどか 薄井 聡子 森本 尚子 藤井 靖史
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.135-145, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
33

【目的】読み書きに困難を抱える児童を対象に、視覚関連基礎スキルアセスメント(WAVES)を用いて視覚認知機能を評価し、支援への活用を検討すること。【対象および方法】対象は2020年3月から2021年6月の帝京大学病院小児科LD外来受診者のうち、WAVESと見る力に関するチェックリストを実施した30名(男児25名・女児5名、年齢9.8±2.1歳)。WAVESを行い下位検査評価点と4つの指数を算出した。【結果】下位検査評価点の平均値の多くが標準値より低かったが、線なぞりの合格点と比率、形なぞりの比率は標準値より高かった。4つの指数では、視知覚+目と手の協応指数(VPECI)と視知覚指数(VPI)が標準値より低く、VPIが最も低かった。目と手の協応全般指数(ECGI)と目と手の協応正確性指数(ECAI)は標準値より高かった。【考按】視知覚指数(VPI)は読み書き困難を持つ児童では低く、過去の報告と同様の傾向を示した。眼科検査、言語検査、心理検査と合わせてWAVESを活用することで苦手の背景にある児童の特性を推測し、読み書き指導に有用な情報を与える可能性がある。
著者
赤塚 真依子 飯村 浩太郎 高山 百合子 源 利文
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.17, pp.23-17158, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
11

環境DNAを活用した水生生物モニタリングは経時的な生物情報の収集手段として期待されている.他方,海域では流れの変化が大きく,環境DNA量は採水地点や時刻により変わるため,流れの影響を把握してサンプリングすることが重要である.本研究では固着生物であるアマモを対象に,藻場における環境DNAの時空間分布特性の把握を試みた.海域調査では環境DNAの岸沖方向の分布と藻場内の時間変化を捉えることができ,これにより藻場の環境DNAは藻場分布に依存して藻場より数100m広い範囲に分布が形成され,流れによりその分布形状が変化することが示唆された.また環境DNAを物質濃度に模擬した移流拡散計算により時空間分布を定性的に再現し,流れの条件を変えたケーススタディによって最適な採水範囲を選定する方法について提案した.
著者
宮園 誠二 滝山 路人 花岡 拓身 宮平 秀明 赤松 良久 中尾 遼平
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
河川技術論文集 (ISSN:24366714)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.221-226, 2023 (Released:2023-10-31)
参考文献数
17

国内外で在来魚類の減少が多数報告されており,水系全体の河川環境健全度を推定し,流域における魚類の保全を効率的に行うための河川保護区間の優先順位付けを行う必要がある.そのためには,広域の河川環境健全度を効率的かつ定量的に評価可能なモニタリング手法の開発が求められる.本研究では,環境改変が顕著である一級水系江の川の土師ダム下流を対象とし,環境DNA定量メタバーコーディングを用いて推定した魚類環境DNA濃度を基に,河川環境健全度(様々な生態的特性をもつ魚類が生息可能である河川環境の多様度)の指標となる生物的指数を算出し対象区間の河川環境健全度評価を行うことを目的とした.結果として,人為的な改変が相対的に少ない下流区間は,上流区間よりも多くの項目について生物的指数が高く,河川環境健全度が相対的に高いことが示された.また,上流区間においても,相対的に河川環境健全度が高い地点があることが明らかとなり,保護・修復すべき河川区間の優先順位付けが可能であることが示された.これらの結果から,環境DNA定量メタバーコーディングを用いて同一日,多地点観測により効率的な河川環境健全度評価が可能になることが明らかとなった.