著者
斉藤 くるみ
出版者
日本社会事業大学
雑誌
日本社会事業大学研究紀要 = Study report of Japan College of Social Work : issues in social work (ISSN:0916765X)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.173-200, 2015-03

現在まで、聴覚障害者の書記日本語の実用的運用能力の改善を目指すための教授法や教材は、日本においては、開発されてこなかった。しかしICT の発達と相まって書記日本語のスキルが高ければ、必ずしも発話ができなくても、今や能力を発揮できる職種は十分あるし、高等教育機関への入学、そしてその後の学習にも支障は少なくなる。本研究では、書記日本語のエラーアナリシスに基づき、統語論的・形態論的・意味論的習得及び語用論習得のための教授法を体系的に構築することを目指した。ろう者・難聴者の言語パフォーマンスを資料とし、エラーアナリシスを行ったところ、日本手話者については主に日本手話の統語論的影響が現れ、難聴者については主にうろ覚えや経験不足からの意味論的・語用論的エラーが現れた。それらを集中的に修正するような教授法や教材が有効であると考えられた。(本報告書を基にろう・難聴児の進学や就労に有益な書記言語習得のためのリーフレットを作成した。)
著者
藤広 満智子
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.298-302, 2007-07-15 (Released:2009-03-13)
参考文献数
2

主として仙骨部褥瘡に対し、台所用穴あきポリ袋を用いたOpen Wet-dressing Therapy (OWT) を行ったところ、褥瘡の急速な改善を認めた。方法は、褥瘡を微温湯で洗浄し、適当な大きさに切った穴あきポリ袋を貼った紙オムツをするという簡単なものである。状態に応じて、デブリートメント、抗生剤軟膏ガーゼ処置の後に行った。その特長は1) 傷が治るのに不可欠な湿潤環境を保つ、2) 穴があるので適度にドレイナージができる、3) ずれによる皮膚障害を防ぐ、4) 皮膚にテープを貼らないためテープかぶれを起こさない、5) ガーゼのような厚みがないので圧迫がない、6) 短時間に実施できる、7) 痛みが少ない、8) 感染をおこさない、9) 安価で入手が容易、ということである。すでに200例以上をこの方法で処置し、その手軽さと治癒の早さから患者、看護師の評価は高く、現在は褥瘡患者の9割をこのOWTで治療している。褥瘡報告書の転帰を集計した結果、OWT導入前78例と導入後の118例の転帰は、治癒の割合が30.8%から51.7%と有意に上昇した。当科ではこの経験から下腿潰瘍などの褥瘡以外の難治性潰瘍にもOWTを用いているが、その有用性は医療用ドレッシング材に劣らないと評価している。(オンラインのみ掲載)
著者
井芹真紀子
出版者
国際基督教大学
雑誌
Gender and sexuality : journal of Center for Gender Studies, ICU (ISSN:18804764)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.23-43, 2010-03-31

This paper explores the potential of female female impersonation by examiningthe nature of gender performativity as not necessarily being interlocked with gendercrossing. This issue is studied in light of the desire for gender identification by femme lesbians, particularly high femmes.Since the 1990s, there has been increasing attention on the subversive potential ofgender crossing subject in both queer theory and post-structuralist feminist theory. However, femme lesbians have not only tended to be overlooked in this regard, but rendered "invisible" due to the fact that they "look straight."This paper examines how high femmes do not try to resolve this conflict but in factmaintain it, while still holding onto their "fem(me)ininity" in their strong desire for gender identification. The issue is explored through a study of high femme narratives and considered in light of Kaja Silverman's concept of "identity-at-a-distance."
著者
松本 陽一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.70-86, 2011-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
41

イノベーションの実現には,新たな知識を生み出すだけでなく,必要な資源を動員し,生み出した知識をビジネスへと結びつける必要がある.本研究は株式会社カネカにおける太陽電池事業創造のプロセスを詳細に調査し,知識創造と資源動員というイノベーションの2つの側面を踏まえた成功の要因とプロセスを議論する.
著者
正井 泰夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-16, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
106
被引用文献数
5 5

東京は,その発達史の中で,2度も世界最大都市を経験した。 18世紀末の江戸は,人口約10万に達し,産業革命を経験しなかった都市としては最大規模に達したと思われる。江戸は中央集権的封建制度の下で,厳密な階級制度をもち,土地利用にもそれがよく現われていた。今日の東京で卓越する狭い道は,当時の徒歩交通都市の遺産と考えてよい。江戸の2核構造は,不整形のプランを積極的に導入することによって複雑さを倍加させたが,今日の都市形態にも強く残存している。 明治維新後の近代化の過程で,鉄道が果たした役割は大きく,東京では特にその影響が大であった。新線建設は現在でも続き,さまざまな効率改善案が建てられてきた。情報化都市への動きも急である。しかし,伝統的景観の消滅,適切な住宅の不足など,多くの問題を抱えている。土地利用計画は一般に厳密でなく,その結果,混在型土地利用が卓越する。交通の混雑は時には破局的ともいえるが,全体としての東京は,未だ摩靡してしまってはいない。東京圏へ流入する人口はふえ続けており, 3,000万以上の巨大都市圏が形成された。地球的スーパーシティの一つとしての東京圏は成長を続けているが,自然・政治経済的な破局の可能性は決して過ぎ去っていない。
著者
伊藤 まゆ 三樹 美夏 林 浩孝 新井 隆成 鈴木 信孝 上馬塲 和夫
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.111-118, 2009 (Released:2009-07-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

コラーゲン含有飲料の 1ヶ月間摂取による顔面皮膚の変化を,計測機器による指標を使って予備的に検討した.61 名の健常女性(年齢 25–68,34±8 歳)を対象とし,文書による同意を得た後,コラーゲン 5 g 飲料/日摂取群(30 名)と 10 g 飲料/日摂取群(31 名)に無作為に割り付けし,摂取前と後 1 週目と 1ヶ月目の顔面(両頬部)皮膚水分と下眼瞼の皺数を測定した.皮膚水分と皺数に関して,改善した反応例と変化がない無反応例に分類したところ, 10 g 摂取群では 5 g 摂取群より高い 5 割の反応率が得られた.反応例は無反応例より摂取前において皺数が多く皮膚水分が低いこと,皺数は 1 週間目から有意な改善をみることが示された.また本飲料が安全であることも示された.今後,皮膚の異常性状例を対象にして,コラーゲン 10 g/日を,1 週間あるいは 1 ヶ月月間投与する二重盲検試験により有効性を評価する研究の必要性が示された.
著者
今井 理衣 金 佑香 岡野 周志 近藤 竜太
出版者
一般社団法人日本獣医がん学会
雑誌
日本獣医がん学会雑誌 (ISSN:18843344)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.38-42, 2022-12-27 (Released:2022-12-27)
参考文献数
8

A 9-year-old neutered female British shorthair cat presented with anorexia. Physical examination revealed stomatitis and gingival ulcer of the maxillary anterior acetabulum. Computed tomography showed a bone-infiltrating neoplastic lesion in the maxilla invading the orbit. A core biopsy of the lesion along with imaging studies and laboratory examinations revealed stage 3 oral squamous cell carcinoma. An esophageal fistula tube was placed and administration of analgesics and molecular-targeted drugs was initiated. After a month, palliative irradiation was performed. The cat tolerated without significant side effects during the 197-day administration of the molecular-targeted drug. Later in treatment, radiation therapy caused necrosis of the bone and skin. However, for most part of the 227-day survival, quality of life was well maintained with pain relief and dietary supplements.
著者
巻口 勇一郎
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.51-69, 2008 (Released:2019-10-19)

この論文では、4人の学者の宗教体験に関する理論を検討し、 現代社会における異教やホリスティック運動(ニューエイジ)、カ ルチュアルクリエイティブズ(ロハス)などの社会運動の原動力 となる、脆弱(柔)ではない超越力の可能性について示す。この 検討により、社会学の創設者を含む臣人が、近代主義的日常性の 彼方の客観的実在というトランスパーソナルな心理を、経済交換 (贈与と対抗贈与)を規制する法、道徳などの社会制度や秩序の基 盤とみなしていたことを明確化する。デュルケムの集合意識と、 ヴェーバーのカリスマ概念は共に非日常性をもつ。カリスマはグ ルの特権であり支配を生むが、集合的エネルギーであるマナは伝 播し万人に広く分有され、人格に(崇拝に向けた)聖なる抽象的 価値を加え重置する。集合的エネルギーは化身し、人間をそれ以 上に高める。ルーマンによれば、そうした超越性はいずれも分化 した近現代社会においては周辺システム化してしまう。ハバーマ スのように共同意識の妥当性を再生させるためにコミュニケー ション(討議・合意)に期待する立場もある。だが、ルーマンに よれば言論による基礎付けは更なる機能分化、不確実性に帰結す る。コミュニケーション自体が独自に定位する。では、表出・解 釈に依存せずいかに共同性は可能か。ルーマンは、独善的に相手 を裁断しない態度と、専門家主導の概念を通さない各自の直接体 験が重要であるとする。デュルケムとユングにあっては、分化の 極致にある冷めた表層が、かえって万人の深層の統合、未分化の 胚、無意識の最深層の自然を想起させ、それへの郷愁を呼び起こ す。現代の、エゴイズムという自殺をもたらす苦痛(表層的分 化・喪)の果てに、ただ方向性なく浮動する未定形の力(ユング におけるヌーメン)は、深淵を渡り目的性をもって密度を付け結 晶化(体化)し、自身の可感的実体的現実性を顕にし、聖俗の二 分法、集合的概念(理性と科学)や安定した原型を強制性をもっ て啓示し産出する。流れ込む力は、個人の象徴解釈に対する優位 性をもつ。これは、第5元素の外在的(具体的人間に内在しない) プラズマ、異界の豊穣な生命をもったエネルギーの流入へ浸っ て、人為的に構成された概念や認識形式、イメージや幻想による 介入・屈曲を排しそれを直観することで可能となる。デュルケム にあっては、カントがいうように世界はそれ自体不可避的に不可 知ではない。デュルケムは、集合力の匿名的、非人格的普遍的性 格に加え、堅固で可感的な性質を重視する。彼は、反神秘主義者 として知られているが、ケテルとマルクトの関係性を見抜くカバリストのようである。そして彼はまた、激烈な剰余の沸騰におい て、我々はイデアをずれなく直観できると主張する。そこで我々 は、エクスタティックで自らが運び去られる、各自の垣根のない、 自己を圧倒する(クンダリニのように沸きあがる)擬似錯乱を経 験する。この驚異の超越的感覚は我々が予め合理的思考、エゴを 確立していることではじめて生ずる。そして、これは内面からの、 狭間からのsui generisな総合・融合である。ユングとデュルケム は、コミュニオンにおける「無意識の意識化」が物質、形式や象 徴を再活性化・再聖化し、対立物を中継することで星座=連帯= 理想社会を作り上げると確かに予期していた。物質を通した(抽 象力の)崇拝こそ、社会の波や呼吸への鍵である。近代的理性主 義の極北であるルーマンの立場からも、直接的非日常体験の可能 性は否定されない。
著者
乾 康代 中田 潤
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1446-1451, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
4

ルブミンは,工場団地の成功と顕著な税収増で,地域再生を果たした。この成功でもたらされた成果は,ルブミンが人々に選択される居住地,人々が訪れる観光地になったことである。ここから引き出せる教訓は,原発立地地域の地域再生策は,廃炉事業に依存せず,地域資源や立地を生かした産業の育成と,人々を惹きつける居住地づくりにおくことにある。
著者
川路 則友
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.153-158, 1988-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

1) 南九州低山帯の常緑広葉樹林と植栽林め混在する環境における繁殖鳥類群集の特徴を調べるために,1985年から1987年のそれぞれ5月から7月にかけて,鹿児島市近郊の鳥帽子岳(標高522m)でライントランセクト法によってセンサスを行った.2)調査区はアカガシ,タブの優占する広葉樹林,ヒノキやスギの植栽林,およびそれらの混交林がモザイク状に存在するA区と,農耕地に植栽林の混じるB区であった.3)調査期間中,A区で28種, B区で24種の鳥類が確認され,両地域で共通なのは20種であった.しかし,コゲラ,エナガ,ヤマガラおよびシジュウカラの4種はA区で,コジュケイ,キジバト,アカショウビン,ツバメ,ヒヨドリ,ウグイス,ホオジ店スズメおよびハシブトガラスの9種はB区でそれぞれ高い相対密度(羽/ha)を示した.4)A区における上位4優占種の組み合わせは,ヒヨドリ-シジュウカラ-エナガ-ヤマガラであり,B区のヒヨドリ-スズメ-ウグイス-ホオジロ群集や水俣の照葉樹林帯(KUBO 1978)と異なるが,霧島山の荒襲•狭野地域のそれと類似する(黒田ほか1972).5)水俣で見られた鳥類のうち,コサメビタキ,イカル,ツツドリ,アオバズク,オオアカゲラなどは鳥帽子岳では見られず,キビタキ,オオルリなどの密度は後者で非常に低かった.一方,ヒヨドリの優占度が高く,林縁棲鳥類であるウグイスやホオジロ,都市部でも見られるスズメ,ツバメ,カワラビワなどが混じるなど,植栽林とそれに広葉樹林が混在する環境を反映した鳥相構成を顕著に示していると思われた
著者
若林 満 星野 靖雄
出版者
経営行動科学学会
雑誌
経営行動科学 (ISSN:09145206)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.77-108, 2006-03-31 (Released:2011-01-27)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1
著者
Yaguang Song Yilun Wang Jiarui Liu Hua Chen Faxin Yu
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Electronics Express (ISSN:13492543)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.20230086, 2023-05-10 (Released:2023-05-10)
参考文献数
31

In this letter, we proposed a highly linear mixer-first receiver with a discrete-step attenuator (DSA) and a noise-shaping TIA. A resistor-reuse technique is devoted to improving linearity and attenuation flatness of the DSA with frequency independance, and a negative impedance chopping method is proposed to reduce the in-band noise of the TIA. Measurement results show that the receiver achieves >13dBm IIP3 and in-band noise floor has been depressed by 4dB, with only consuming 2.82mW under 1.3V supply.
著者
藤田 浩示 高原 良博
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.1071-1074, 2007 (Released:2007-12-01)
参考文献数
6

Recently, research and development using ultraviolet rays is being conducted in the bioscience field. In such R&D, expensive quartz glass is most often used as the ultraviolet transmitting material. The authors have been studying the use of inexpensive soda-lime glass as an alternative to quartz. In this study the authors investigated the effects of iron oxide and titanium oxide, which are found in raw materials, and crucible materials on the ultraviolet transmission properties of soda-lime glass. It was found that by reducing the amount of Fe2O3 and TiO2 contained in raw materials as impurities, it was possible for soda-lime glass to achieve high ultraviolet transmissivity. Reducing the amount of iron oxide turned out to be an especially effective way to improve ultraviolet transmissivity.