著者
井上 彰 後藤 玲子 DUMOUCHEL PAUL
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成29年度は、平成28年度の研究、すなわち、「平常時」から(部分的にせよ)かけ離れたカタストロフィ後の世界において、分配的正義を支える価値や理念がいかなる身分を有するのかについて精査し、そのうえでカタストロフィ後の世界に適用可能な価値の構成や適用順序について明らかにする研究をふまえて、わが国を含む様々な国や地域の不平等や不正義の問題への応答を試みた。具体的には、政治哲学パート(井上彰が担当)では、これまでの復興にかかわる分配的正義をめぐる原理的議論を分析哲学の手法を用いて批判的に吟味し、経済哲学パート(後藤玲子が担当)では、復興にかかわるような格差を生む分配メカニズムについての考察を、経済学や社会的選択理論の知見をふまえるかたちで進め、社会哲学パート(Paul Dumouchelが担当)では、カタストロフィ後の経済社会のあり方、ありうべき姿について社会思想史やロボット哲学・倫理学の観点から検討した。その研究成果の一部として、研究代表者の井上が主催するかたちで、2018年1月19日に、Questioning Methods, Theory, and Practice in History and Politicsと題するシンポジウム(Strategic Partnership Program: The Australian National University and the University of Tokyo, Australian National University-University of Tokyo Joint Research Seminar)を東京大学駒場キャンパス(東京大学大学院総合文化研究科グローバル地域研究機構アメリカ太平洋地域研究センター)にて開催し、政治や歴史をめぐる方法論的反省とその刷新可能性について分野横断的に議論した。
著者
田口 速男
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

おもにアミノ酸残基置換による解析から、Lactobacillus plantarum D-乳酸脱水素酵素(D-LDH)においては、His-296が酸塩基触媒として作用し、Arg-235が基質の結合に重要であることが示された。すなわちこれらの残基は、L-LDHのHis-195とArg-171にそれぞれ対応し、両LDHは、進化的には大きく隔たる酵素でありながら、きわめて類似した基質結合と触媒の機構を備えていることを示している。さらにL-LDHにおいてはHis-195と対をなすAsp-168の負電荷が、基質ピルビン酸との結合及び触媒上の遷位状態の構造を安定化していると考えられているが、そこでこれに対応する残基をD-LDHにおいて検索した。D-型酵素ファミリーにおいて保存されている、193、200、240位のAsp、264位のGlu残基のカルボキシル基を、それぞれ部位指定変異によりアミド基に置換したところ、Glu-264をGlnに置換した場合にのみ大きな活性低下が見られた。既にL.bulgaricus D-LDHにおいて、Glu-264をGlyに置換した変異型酵素が報告されている。この場合には酵素活性は大きく低下せずに、そのpH依存性が大きく酸性側にシフトしたことから、Glu-264は触媒活性に必須ではなく、触媒His残基の近傍に位置することにより、酵素のpH依存性を中性付近に調節している残基と考えられている。しかしながら、L.plantarum D-LDHにおいてGlu-264を同様に負電荷を消失させるGlnに置換した場合には、顕著なpH依存性のシフトは認められず、並異型酵素は、大幅に増大したKm値と減少したkcat値を示した。この結果はL-LDHにおいてAsp-168をAsnに置換した結果によく対応し、本残基がL-LDHにおけるAsp-168のそれと相同な機能を持つことを強く示唆している。本結果はL.bulgaricus酵素の結果と異なるが、もし両D-LDHにおいてGlu-264の機能に相違が無ければ、L.bulgaricus酵素の場合は、残基を側鎖の無いGlyに置換したために、酵素の構造にさらに大きな変化が引き起こされた結果とも考えられる。
著者
生田 和良 西野 佳以 今井 光信 石原 智明 関口 定美 小野 悦郎 岸 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

精神疾患の原因は明らかにされていない。現在、精神分裂病やうつ病などの精神疾患の原因として遺伝因子と環境因子の両方が関わると考えられている。本研究では、精神疾患との関連性が示唆されているボルナ病ウイルス(BDV)に関する検討を行った。これまでのドイツを中心に行われた疫学調査から、BDVはウマ、ヒツジ、ウシ、ネコ、ダチョウに自然感染し、特に、BDVに感染したウマやヒツジではその一部に脳炎を引き起こすことが明らかにされている。私達は、日本においてもドイツとほぼ同じ状況でBDVがこれらの動物に蔓延していること、さらに末梢血単核球内にBDV RNAが検出しえることを報告してきた。また、同様の検出法により、精神分裂病に加え、慢性疲労症候群においてもBDVとの関連性を認めている。しかし、献血者血液においても、これらの疾患患者に比べ低率ながら、BDV血清抗体や末梢血単核球内のBDV RNA陽性例が存在することを報告した。そこで、本研究では安全な輸血用血液の供給を目的として研究を行い、以下の結果を得た。1) 健常者由来末梢血単核球への精神分裂病患者剖検脳海馬由来BDV感染により、明らかなウイルス増殖の証拠は得られなかった。2) ヒトの血清抗体ではBDV p24に対する抗体が主に検出され、ヌクレオプロテインであるp40に対する抗体検出は稀である。同様に、ヒト由来末梢血単核球内のBDV RNA検出においても、p24 mRNAが主であり、p40 mRNAは稀である。この現象を検討するため、ラットおよびスナネズミ脳内へのBDV接種実験を行った。その結果、新生仔動物への接種ではp24抗体が主として産生され、成動物への接種ではp24とともにp40に対しても上昇することが判明した。
著者
高野 英晃
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

昨年度までに放線菌S.griseusのストレス応答性σ^Hはanti σ因子RshAを介して培地中のグルコースに応答した形態分化及びストレプトマイシン生産の開始に関与することを報告した。今回は、RshAによって制御されるσ^H以外のσ因子群及びRshAに対するanti-anti σ因子の同定と解析を目的とした。網羅的なTwo-Hybrid-Systemを用いた実験から、RshAはσ^Hと同族のσ^F及びσ^Lと相互作用することが判明した。この結果は、in vitroランオフ転写実験からも支持され、RshAはσ^Hと同族のσ^F及びσ^Lと相互作用し、それらの活性を負に制御することが明らかになった。RshAの過剰発現によってσ^Fとσ^L依存的なプロモーターの転写が阻害されたことは、細胞内においてRshAがσ^Fとσ^Lの活性を抑制していることを示している。遺伝子破壊実験から、これらのσ因子群は共通して菌糸のメラニン生産及び胞子の色素生産に関与することが考えられた。上記と同様なTwo-Hybrid-Systemを用いた解析から、RshAはS.coelicolor A3(2)において同定されているanti-anti σ因子BldGによって制御されることが予想された。このBldGとRshA間の相互作用は、Pull down assayによって得られた結果からも支持された。このBldGの機能は、in vitroランオフ転写アッセイの結果からRshAに対するanti-anti-σ因子であることが判明した。染色体上のbldG遺伝子を欠失させることで作製したbldG遺伝子破壊株は、S.coelicolor A3(2)の場合と同様に分化能を完全に欠損し、この破壊株においては、σ^Hσ^F及びσ^Lに依存的なプロモーターの転写が著しく低下していた。このことから、RshAの制御はBldGを介して行われることが考えられた。
著者
江口 みなみ
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ナチス政権が崩壊し終戦を迎えた時、ドイツに住む人々の生活は完全に破壊されていた。人々に課されたゼロからの復興の出発点は、しばしば「零時Stunde Null」と呼ばれるが、日本美術の研究拠点もまたゼロからの復興を強いられた。本研究課題では、終戦直後のドイツにおける日本美術研究の状況と、その復興について調査・検討を行った。事例研究として、日本美術史家ディートリヒ・ゼッケルの戦後の活動および西独で1950年代初頭に開催された日本美術の展覧会をとりあげ、さらにドイツ人芸術家ハンス・リヒターと洋画家長谷川三郎の米国における交流について、戦後の日独美術交流が断絶した状況下で生じた事例として分析した。
著者
見浪 知信
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

平成29年度は、論文執筆およびその刊行、さらに博士論文の提出を目標に研究を進めた。その結果、論文を2本、刊行することができたことに加え、博士論文も提出することができた。2本の論文は、商品流通の制度的基盤について、輸出振興政策をとりあげ分析したものである。1本目は、輸出斡旋機関について、その展開および運営を明らかにした。輸出振興機関は、外務省、農商務省(商工省)といった国の機関と並行して、大阪をはじめとする地方でも整備が進んだ。このような国と地方の重層的な情報ネットワークは、日本の輸出拡大を情報面から支えていたことを実証した。2本目は、輸出振興政策について、1930年に成立した輸出補償法に焦点を当て、制定過程や法改正などを踏まえ、その意義について論じた。また輸出補償法の改正過程についても、その対象国および補償率が拡大および、名古屋市や大阪市といった地方との連携のもとで展開を明らかにした。これら2本の論文に加えて、『貨物集散統計』などの資料を用いて、両大戦間期日本の大都市を対象に、商品流通の観点から国内分業および国際分業構造を分析した。具体的には、戦間期日本における3大都市(東京市、大阪市、名古屋市)について、商品流通の定量的な分析から、それぞれの分業構造を概観した。さらに、戦間期における代表的工業製品である綿布について、大阪を対象にその流通構造を検討した。また、両大戦間期における雑貨輸出について、東京と大阪の比較の観点を踏まえて、その拡大の要因を検討した。さらに、1930年代の大阪における重化学工業化について、貨物集散統計を用いて分業関係の広がり、およびその特徴を明らかにした。これらを組み合わせることで、「両大戦間期日本の地域間分業構造-大阪市の貨物集散とその制度的基盤-」のタイトルで、京都大学博士(経済学)を取得した。
著者
加藤 征 影山 幾男 竹内 修二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

江戸時代は現代に比較的近く形質的にも最も近いことが想定される。しかし、江戸時代は士農工商で知られる通り階級制度が明確であり、鈴木の徳川将軍の形質調査から階級制度の頂に立つ者の貴族形質が明らかにされているが、それ以外は江戸時代人として一様の形質を有するか否かは論じられいない。江戸は1590年徳川家康が関東8カ国に移住させられたことから始まり平成元年で丁度400年になる。江戸時代は武士と町人の階級は厳確に維持され、増上寺およびその子院群は徳川幕府に関与なる武家しか檀家となることを許されなかったとされている。研究者等は港区三田済海寺から出土した長岡藩主の人骨、港区芝の増上寺子院群の跡地の発掘で得られた人骨とそれより多少格式の高いと言われる天徳寺子院の発掘で得られた人骨群を武家々族とした。一方上野7丁目の上車坂町出土人骨および湯島無縁坂出土人骨群を庶民家族とした。これら武家と庶民の他に江戸の先代である鈴木の鎌倉時代人骨、後代である森田の現代関東地方人骨とを比較した。そのほか江戸時代人骨として鈴木らの雲光院、森本らの一橋高校地点出土人骨などは東京都内のもので、更に脇の熊本県桑島、中橋の福岡市天福寺出土の江戸時代人骨を参考とした。この様に多くの人骨群を比較し、藩主、武士、庶沢と思われる人骨の形質を明らかにした。頭長は鎌倉時代人が最も長く、次いで湯島・上車坂の江戸庶民、芝公園1丁目・天徳寺の武士、現代関東地方人が短く、長岡藩主が最も短い値を示した。頬骨弓幅は江戸庶民が最も広く、次いで鎌倉・江戸時代武士がこれに次ぎ、現代人は132.9mmと狭いが藩主ではさらに狭くなっている。このほかいくつかの計測項目において庶民、武士、現代人、藩主へと計測値の上で連続した形態がみられた。
著者
池谷 文夫
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1) 期皇帝権時代(おおよそ950-1150年), (2) 後期皇帝権時代(おおよそ1150-1350年), (3) 晩期皇帝権時代(おおよそ1350-1550年)の皇帝及び皇后の機能・権力を, 皇帝夫婦の巡幸や両者による文書発給事例に即し具体的に検証した。特に, 「皇帝」と行動をともにした「皇后」について, 国王・皇帝証書等の発給文書への関与や, 自己の固有財産(寡婦資産)の寄進等に関して, そして「皇后戴冠」後の「后」の帝国における位置・立場に関して, (1), (2), (3)期における具体例を史資料の読解・分析を通じて解明した。これらの研究成果をまとめて約18万字に及ぶ「研究成果報告書」である『神聖ローマ帝国史の研究神聖ローマ帝国皇后列伝-共治者, 皇后・王后から妃へ-」』を完成させた。
著者
轟 朝幸 居駒 知樹 江守 央 川崎 智也 兵頭 知 桐島 弘之
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本において水上飛行機による航空運送事業が2016年に半世紀ぶりに再開された.しかし,水上機が離発着する水域を利用している船舶や漁業などから水上機の離発着への懸念が示されている.そこで,水上機運航が活発なカナダ,アメリカ等の先進事例調査を実施した.その結果,水上機離発着場が数多く整備され, AIP(航空路誌)にて公表していた.水上機の離発着数が多いバンクーバー等では,航空管制などによる運航支援システムが整備され,狭あいな入江のヴィクトリアでは,水上機と船舶の利用エリアを区分した運用ルールを整備していた.これらのように,水上機と船舶などがともに安全に運航できる環境整備が進められていた.
著者
打樋 利英子
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

近年のPCR法の開発により、毛髪からのDNAを利用した各種遺伝マーカーの判定が可能となり、私はこれまでにHLAクラスII遺伝子型の判定を毛髪に応用し、抜去毛の毛根部からの型判定、及び毛髪中のメラニンによるPCR反応の阻害を報告した。HLAクラスII遺伝子は多型性に富んだ遺伝マーカーであり、毛髪特に毛幹部に応用できるならば、毛髪資料が個人識別に大きく寄与することは確実である。しかしながら、毛幹部に含まれるDNAは微量であるため、本研究では、効率的なDNAの抽出法の検討や、高感度PCR法の応用を行なった。毛髪特に毛幹部に含まれるDNA量は極めて微量であり、さらに抽出段階で混入するメラニンによるPCR反応の阻害が無視できないことから、充分量かつ高純度のDNAを効率よく回収する抽出法の検討を行なったところ、フィルター付遠心チューブを用いることにより、従来のフェノール抽出法に比べメラニンをかなり除去することができた。この方法は短時間にかつ簡便に行なうことができるので、有効な抽出精製法と考えられる。こうして抽出したDNAから、HLA-DQA1遺伝子の第二エクソン部分をPCR法により選択的に増幅した。毛幹部より抽出したDNAは微量であるため、通常のPCR法よりも格段に増幅感度の高いsemi-nested PCR法を採用したところ、毛幹部から充分量の増幅産物が得られ、型判定も可能となった。このPCR法は他のHLAクラスII遺伝子にも応用が可能であり、他の法医資料や考古学的資料からのDNAタイピングに有用である。
著者
野島 高彦
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

蛋白質やペプチドなどの生体分子を固体表面に保持するための手法を開発することを本申請課題の目標とした.そのための第一段階として,ペプチドをプローブとして保持したチップ上において,ペプチド-蛋白質相互作用を行うための分析手法を開発した.ここではペプチドをオリゴヌクレオチドとのコンジュゲートとして調製することによって,疎水性ペプチドであっても水溶液中において取り扱い可能となることを期待するとともに,先行するDNAチップ技術を取り込むことを目論んだ.また,オリゴヌクレオチドコンジュゲートの二重鎖置換能を利用することによって,新しい概念の生体分子間相互作用検出法を実現することも目標とした.リガンドをオリゴヌクレオチドと共有結合することによって,分子間相互作用の特異性が損なわれる恐れがある.そこでオリゴヌクレオチドと共有結合したリガンド分子と,水溶液中のリガンド分子とによる競争標的蛋白質結合実験を行い,生体分子間相互作用能を維持した状態でのリガンド固定法を実現するための基礎的知見を得た.続いて,オリゴヌクレオチド分子が可逆的に二重鎖を形成および解離する性質を利用して,リガンド分子を固体表面上において可逆的に着脱する分子操作法確立を試みた.分子鎖置換における熱力学的最適条件の検討を含め,基礎なデータを収集し,オリゴヌクレオチド分子がコードする情報を用いて生体分子間相互作用の有無を検出する,新しい概念の分析手法を実現した.さらに,リガンド-情報分子コンジュゲートをマイクロリアクター内に導入し,微小空間内における分子鎖置換反応を達成するための予備的検討にとりくんだ.約1cm四方のDNAチップ上にマイクロ流路を組み合わせたマイクロ流体デバイスを作製し,これを用いた生体分子ハンドリングに関する基礎的知見を得た.
著者
柴田 重信
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

体内時計のリズム性の現象として本研究課題では、週に焦点を当てた研究を展開した。ヒトでは、weekday(平日) とweekend(週末)の過ごし方が異なり、平日は学校・仕事で無理に早起きし、 週末は遅寝・遅起きとなり、週の中で社会的時差ボケ状態になっている。社会的時差ボケマウスでは土日で末梢時計遺伝子発現・エネルギー代謝リズムが大きく後退し、次の金曜日までに戻らないことが分かった。ヒトの髭毛包細胞のPer3発現リズムの評価でも、社会的時差ボケの夜型は、月曜と金曜で遺伝子発現プロファイルが大きく異なった。社会的時差ボケによる時計の乱れが肥満や精神機能に影響を与える可能性が示唆された。
著者
吉武 哲信 梶田 佳孝 出口 近士 寺町 賢一 梶原 文男
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、都市計画にもとづくまちづくりのウェイトが低下し、都市じまい的なまちづくりを志向する地方小規模自治体が存在することを、都市計画マスタープラン(都市MP)策定の意義に対する自治体の認識を調査・分析することによって明らかにしたものである。九州、中国、四国地方を対象とした調査の結果、都市MP未策定においてもデメリットがないものの、都市計画事業の実施に都市MPを関連づけて策定することが多いこと、一方で新規の都市計画事業や民間開発が想定できない状況では、都市MPを充実させるインセンティブは働かず、総合計画や区域MPで都市の将来像を緩やかに示すことを望む自治体が存在することが明らかになった。
著者
迎 寛 赤田 憲太朗 川波 敏則 野口 真吾 内藤 圭祐 畑 亮輔 西田 千夏 山﨑 啓 城戸 貴志 矢寺 和博
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

気管支洗浄液を採取した肺炎患者(177名)を対象に16SrRNA遺伝子を用いた網羅的細菌叢解析法を用いて、誤嚥リスク因子の有無により分類し原因菌解析を行った。誤嚥リスク有群(83名)では口腔レンサ球菌が有意に多く検出され、その規定因子として、全身状態不良や1年以内の肺炎の既往が抽出された。これにより、口腔内常在菌として過小評価されてきたレンサ球菌が、誤嚥性肺炎の原因菌として重要なことを明らかにした。また、口腔衛生状態と原因菌との関連性の検討(n=34)では、口腔内衛生状態(OHI)が不良群で嫌気性菌の検出が有意に多く、口腔内不衛生が下気道検体の嫌気性菌の検出に関与すると考えられた。
著者
中山 睿一 小野 俊朗 上中 明子 野口 雄司
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

1.CHP(cholesterol hydrophobized pullulan)は、プルラン鎖に、コレステロールを配したナノパーティクルである。CHPとNY-ESO-1蛋白の複合体をDCにパルスし、健常人から得たCD8T細胞をin vitroで刺激し、特異的な反応の誘導を検討した。2回以上の刺激で特異的CD8T細胞の反応が認められた。同じ、CHP-NY-ESO-1複合体パルスDCを用いてCD4T細胞を刺激して、同様に特異的に反応が誘導されるか否かを検討した。やはり、2回以上の刺激でCD4T細胞の反応が誘導された。オーバーラップペプチドを用いて、DR1501拘束性の新しいエピトープを同定した。このように、DC細胞は、CHP-NY-ESO-1複合体を取り込んで、クラスIおよびIIのいずれのエピトープも発現することを明らかにした。2.CHP-NY-ESO-1を用いた臨床試験を開始した。臨床試験プロトコルは、ニューヨーク、ラドウィック癌研究所および岡山大学大学院医歯学総合研究科で承認された。第一目的は、安全性およびNY-ESO-1に対する免疫能の検討で、第二目的は、腫瘍の反応を観察することである。2週おきに4回投与する。他に有効な治療法がない進行癌患者を対象とする。現在、参加登録患者は4名で、その内訳は、食道癌(IV期)1名、および前立腺癌(D期)3名である。現在、評価可能患者数は3名であるが、3名ともに強い抗体産生が認められた。抗体認識エピトープの解析では、特に抗原性の強いエピトープが認められた。CD8およびCD4T細胞の反応は、比較的早くから認められた。腫瘍に対してもある程度の効果を認めた。
著者
上中 明子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)がん抗原の同定:培養肺癌細胞由来mRNAからcDNAライブラリーを作成し、10,000クローンを1プールとした40プールのライブラリーを作成し、第一次、2次のスクリーニングを完了。第3,第4次スクリーニングへ向けて、CTL側の調整を終了した。(2)(2)抗原の特質解析ツールとしてのモノクローナル抗体の作出:がん・精巣抗原XAGE-1bに対するモノクローナル抗体USO9-13を、開発した簡易モノクローナル抗体作成法によって作出した。組織染色によりその反応特異性を明らかにした。さらにXAGE-1b蛋白の抗体が認識する領域を明らかにした。(3)(3)がん免疫療法におけるT細胞免疫反応動態の解析:免疫療法における免疫反応動態の解析は重要であるが、がん抗原特異的に反応するT細胞の頻度は著しく低くその検出は困難である。そこで、T細胞免疫モニタリング法の検討および実際に使用可能な方法を検討した。モデル抗原としてインフルエンザA-24ペプチドを用いて末梢血リンパ球を刺激し、培養条件およびのアッセイ法の検討を行った。その結果、5%プール血清、IL-2 10u/mlおよびIL-7 10ng/ml添加AIM-V培地で、12日間の刺激培養で抗原特異的T細胞が効率良く検出されることを明らかにした。また、がん抗原と特異的に反応するT細胞の検出法として、エリスポット法、細胞内IFNγ検出法、IFNγ分泌細胞検出法を比較検討し、IFNγ分泌細胞検出法が高感度に検出することを明らかにした。CHP-NY-ESO-1蛋白の臨床試験におけるT細胞免疫反応動態をIFNγ分泌細胞検出法により解析した。末梢Tリンパ球をオーバーラップペプチドを用いて刺激し、再現性の高い結果が得られることを明らかにした。CD4 T細胞のモニタリングでは、4回の免疫で、約半数の症例に特異的T細胞の上昇をみとめた。
著者
中山 睿一 小野 俊朗 上中 明子 小野 俊朗 上中 明子
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

がんワクチンとして用いるがん抗原は、がん特異的が高く、さらに免疫原性が強いことが必須である。われわれは、新しいがん抗原CCDC62、HERV-KおよびXAGE-1bを見出し、特異性および免疫原性に優れていることを明らかにした。また、がん・精巣抗原NY-ESO-1の全長タンパクを用いて、がんワクチン臨床試験を実施し、がん患者には、免疫が誘導されることを明らかにした。さらに臨床効果も認めた。
著者
中村 浩志
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.最近日本でカッコウがオナガに托卵を開始した。オナガへの托卵がその後各地で急速に広がったのは、オナガが卵識別能力やカッコウへの攻撃性を十分もっていなかっためであることを、托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から明らかにし、論文にした。2.托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から、オナガは托卵されてから10年という短期間に、卵排斥行動や攻撃性といった対抗手段を発達させたため、オナガへの托卵は初期の頃のようにはいかなくなっていることを明にし、両者の関係は適応と対抗適応を通しダイナミックに変化することを論文として発表した。今年度の調査からは托卵が始まる前や始まった直後に比べとオナガの生息密度は著しく低下していることを過去の資料と現在の密度調査との比較から明らかにできた。3.一昨年カルフォルニア大留学中知り合ったカナダ、McMaster大学のGibbs氏との共同研究は、昨年計91個体のカッコウの成鳥と雛から血液サンプルを集めることができ、彼の研究室で現在分析中である。DNAフィンガ-プリント法などの血液分析で、カッコウの性関係、異なる宿主に托卵するカッコウどうしの遺伝的関係などの重要な問題が解明されることになった。また、京大理学部の重定氏らと2年前から共同研究の形で進めてきている、カッコウと宿主の相互進化の数理モデルによる解析を論文としてまとめることができた。4.カルフォルニア大学のRothstein教授とともに、昨年の8月京都で開かれた国際動物行動学会(IEC)で、「托卵における相互進化」をテ-マにしたラウンド・テ-ブルを開催するとともに、その後長野県の軽井沢と信大教育学部に会場を移し、3泊4日のサテライト・シンポジュウムを開いた。シンポは、世界の托卵鳥研究者のほぼ全員にあたる外国から16名、日本から6名が参加し、本格的な国際会議となった。この会議で、これまでの我々の一連の研究内容を発表し、高い評価を得た。また、日本でのカッコウとオナガの関係は、生物進化の事実を目で確認できるまたとないチャンスにあることを参加者に認識していただいた。さらに、今後ヨ-ロッパのカッコウとの比較調査などの共同研究を進めていく話しがまとまった。
著者
田井村 明博 松本 孝朗 大渡 伸
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究ではこれまでの水泳中の発汗量(体重減少量),水分摂取量についての結果を踏まえたうえで,水温,運動強度(泳速度)が発汗量および体温におよぼす影響と(実験1),水泳選手の体温調節反応の特性(実験2)を検討することを目的とした.対象は実験の目的,方法についての説明を行い,被験者として協力の承諾が得られた大学男子選手5名であった.実験1では水温2種類(26.4℃,29.2℃),泳速3種類(1,500m自由形ベスト記録の90%,95%,97.5%の泳速度)の条件で1,500m自由形を行わせた.測定は1,500mの記録,体温,心拍数,自覚的運動強度(R.P.E.)および体重減少から求めた発汗量であった.実験2では人工気象室内26℃,33%rhの条件にて,Water Bath法により温熱刺激を与え,下肢局所加温時の局所発汗量,発汗波,鼓膜温,皮膚温,を連続記録した.実験1では,心拍数,R.P.E.,体温変化は泳速(運動強度)による有意な差が認められ,泳速によって上昇することが認められたが,水温による有意な変化は認められなかった.発汗量は泳速,水温において有意な差が認められ泳速の上昇に伴い,また水温が高いほど発汗量が多くなった.以上の結果より,本研究で設定した水温の範囲では水泳中の体温は水温よりも泳速に影響されると考えられる.水温が高くなると発汗量が増えるので,水温が30℃前後あるいはそれ以上の水温での泳速度の大きい水泳トレーニングでは,水泳中の脱水予防と過度の体温上昇を押さえるために発汗に応じた水分摂取が必要であることが示唆された.実験2では陸上種目の鍛練者と比較して発汗開始時間が早く,発汗量が多い傾向にあった水泳選手の体温調節反応の明確な特徴は見いだせなかった.今後の検討課題としたい.
著者
寺澤 幸枝 大島 英揮 成田 裕司 諫田 泰成 藤本 和朗 緒方 藍歌
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

広範囲心筋梗塞では、壊死心筋による激しい炎症の後、線維組織に置換され、時間とともにリモデリングが進行し、心腔拡大や収縮障害、最終的に重症心不全を引き起こす。近年、移植片対宿主病(GvHD)の臨床治験において、RNA や蛋白を含む50-200nm の細胞外微小胞「エクソソーム」の抗炎症作用による治療の有効性が報告されている。申請者らは、これまでに大動脈瘤に対して間葉系幹細胞(MSC)から産生されるエクソソーム投与療法を行い、瘤縮小効果が得られたことを明らかにしてきた。MSCや心筋塊前駆細胞由来のエクソソームによる心筋梗塞治療の有効性はすでに報告されているが、エクソソームの性質(膜表面タンパクや包括するmiRNA, mRNA, prtotein など)はホスト細胞に依存するため、細胞の種類によって治療効果が異なることが予想される。平成29年度では、すでに治療効果が明らかとなっているMSC に着目し、MSC由来エクソソームに含まれるタンパクとmiRNAを、各アレイを用いて網羅的解析を行った。タンパクアレイでは286種のタンパクが同定され、全体のうちサイトカイン20.3%、成長因子21%、ケモカイン14%が占めていた。miRNAアレイでは、526種のmiRNAの存在を確認し、In Silicoにて血管新生因子や炎症抑制に働くmiR-17, miR-24, miR-92, miR-126, miR-210などが同定された。In vivo検討に進むため、心筋梗塞モデル作成に着手した。