著者
土肥 輝美 高橋 嘉夫 大村 嘉人 町田 昌彦
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度はサブテーマ「地衣類の形態的・構造的特徴による元素の保持特性の違い」を中心に研究を実施した。地衣類は、様々な金属や放射性物質を蓄積・保持することが知られており、環境モニタリング材料の一つとして活用されているが、地衣類の形態や生理的特性に関連してそれらがどのように蓄積・保持されるのか、ほとんど分かっていない。地衣類中の放射能濃度は、核種によって差異が生じることが報告されており、元素種によって地衣類中への取込み・保持メカニズムが異なる可能性が考えられる。また、地衣類中の同一核種濃度の差異については、生育場所における着生方位などの生態的な環境条件や地衣類の種による形態 ・内部構造・生理的な違いなどが影響するものと考えられる。ここで、生態的な差異を排除すれば、地衣類における着目元素種の蓄積・保持能力について、形態的・構造的・生理的特徴による違いが見られることが予想される。本研究では、表面形態および内部組織構造の特徴が明瞭なウメノキゴケについて、被ばく評価上重要なCs, Sr, I(安定元素)の取込み試験を行った。試料は、平成28年に岐阜県で採取したものを使用した。地衣類中のCs濃度はSr濃度の3倍程度高い値を示した。電子線マイクロアナライザにより取込試験後の地衣類組織断面構造の元素分析を行った結果、Cs, Iは皮層への蓄積が認められたのに対して、Srは髄層中に蓄積が認められ、元素種によって地衣類中で保持される場所が異なることを見出した。取込み試験後の試料については、放射光蛍光X線マイクロビームを用いたX線吸収微細構造(EXAFS)の解析により、地衣類中のCs, Sr, Iの近傍情報を取得した結果、水和物や有機分子化合物として存在する可能性が示された。Csと地衣類特有の一部の二次代謝物について、第一原理計算を行い、安定な吸着構造を示すエネルギー差を持つことを見出した。
著者
三好 孝典 今村 孝 上 泰 真下 智昭 石橋 豊 小山 慎哉 上木 諭 寺嶋 一彦 兼重 明宏 青木 悠祐 北川 秀夫 三枝 亮 大場 譲 河合 康典
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

マスターである人間の運動や力覚を遠隔地において忠実に再現しようとするロボットをテレコピーロボットと定義したとき,自身のコピーロボットが遠隔地に存在し,その遠隔地に居る人間(マスター)のコピーが目前に存在する環境において,1.テレコピーロボットの概念の提示と,それを実現するための全方向移動機能を有した双腕コピーロボットの製作.2.通信遅延に対して安定な4chバイラテラル制御アルゴリズムの提案と実装.3.コピーロボットによるバイラテラル遠隔制御の実現.を行い,目前のコピーロボットを通じてあたかも遠隔地のマスターと直接力学的インタラクションをしているかのような体験が実現可能であることが実証された.
著者
犬束 歩
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

視床下部に局在するオキシトシン神経は多様な脳領域に投射しており、社会行動・摂食・ストレス応答といった多様な生理現象に関与している。現在、オキシトシンが社会行動に果たす役割が大きく注目を集めているが、オキシトシンのもたらす効果は成育歴や社会的文脈といった多彩な要因に修飾されることでその実態は捉えづらい。本研究は、複雑な入出力を持つオキシトシン神経の個別の投射経路を選択的に描出・活動操作し、その機能分担あるいは機能連関を明らかにすることを目的とした。平成29年度の研究実績としては、膜移行性GFPを選択的に発現させるAAVベクターを用いて室傍核に局在するオキシトシン神経からの投射経路を明らかにしたことが挙げられる(Nasanbuyan, 2018-Endocrinology)。オキシトシン受容体発現細胞の可視化には、GFPの改変体であるVenusを選択的に発現するOxtr-Venusノックインマウスを用いた。さらに、GFPに対する特異的結合を契機とするCre分子の再構成を利用したGFP-dependent CreをOxtr-Venusマウスに適用した。これにより、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現細胞には従来報告されているソマトスタチン陽性インターニューロン以外の投射ニューロンが存在することを見出した。また、逆行性感染するAAVベクター(AAV retro)を利用し、室傍核のオキシトシン受容体発現細胞が扁桃体中心核へ投射していることも確認した。AAVベクターを用いた投射経路選択的な遺伝子発現制御に関しては共同研究の成果として、副嗅球から内側扁桃体への投射経路の描出・活動操作に成功した(Kikusui, 2018-Behav Brain Res)。
著者
倉岡 正高 藤原 佳典 鈴木 宏幸 飯塚 あい 内山 愛子 長畑 萌 村上 深 南 潮
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、こどもの教育・文化的環境づくりと高齢者の健康増進を目的とした囲碁を活用した世代間交流プログラム「iGOこち」を開発し、こどもの対人関係能力や高齢者へのイメージに与える影響、高齢者の認知機能と心理社会的側面に与える影響について検討した。プログラムの内容は、プロ棋士による講義、個人戦、高齢者とこどもが協力し合う練習問題、チーム戦(ペア碁)などである。調査の結果、こどもは高齢者への尊敬と思いやりの心を養い、知的活動に消極的な傾向にある高齢者において注意・実行機能が向上する可能性が示唆された。
著者
井上 勝生
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

昨年夏、家族が事故にあい、その介護などのため、現地調査が必要な本研究は滞った。昨年度は、そのようななかでも、研究誌(東学農民戦争特集号)に、論文と史料紹介発表を実現することが出来た。論文と史料紹介の2本で、京都大学人文科学研究所『人文学報 特集 日清戦争と東学農民戦争』111号に、巻頭論文「東学農民戦争、抗日蜂起と殲滅作戦の史実を探究して――韓国中央山岳地帯を中心に――」と史料紹介「東学党討伐隊兵士の従軍日誌――「日清交戦従軍日誌」徳島県阿波郡――」を発表した。史料紹介は、東学農民軍殲滅に従軍した四国出身、一日本兵士の「従軍日誌」復刻である。後備兵への応召、東学農民軍討滅のための渡韓。ソウルから三路に分かれ出軍。東路進撃。京畿道・忠清道での討伐。東の慶尚道を討伐しつつ南下。縦断する山岳を越え、西の全羅道へ転回。農民軍主力が集結していた南原から、長興、羅州へと東学農民軍を殲滅。公式記録に記されない現場の様相を兵士が記した「従軍日誌」を原文通りに復刻し、農民軍の拠点村々全部の焼き打ち。銃殺、焼き殺し、銃剣による刺殺、苛烈な戦闘状況など。忘れられていた戦場を韓国側研究者と共同の現地踏査と、文献資料にもとづいて検証した。その結果、討伐戦争が、これまでの想定をおおきく越える徹底したものであったこと、戦場も、知られていなかった利川、東幕里、城内里、文義・沃川、南原などを現地調査し、もっと広範なものであったことなどを検証した。この「従軍日誌」現地調査は、韓国の東学農民戦争第一線の研究者らと共同で行ったが、まだなかばを残している。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

変形性関節症(OA)は、関節軟骨が変性摩耗し関節痛や関節可動域制限を生じる疾患である。関節軟骨は、軟骨細胞の産生するII型コラーゲン(Col2)を主体とする軟骨基質によって力学的負荷に耐えうるような構造を保っている。OA軟骨細胞ではCol2発現が著明に低下し、関節軟骨は機械的負荷に耐えらず更に変性摩耗していく。従って、OA軟骨におけるCol2産生を誘導し、軟骨基質の再構築をはかることができれば、OA進行を阻止する有効な治療法となる可能性がある。Col2発現には転写因子SOX9が重要な役割を果たしていることが報告されている。我々は、Col2の軟骨特異的発現に必須である遺伝子エンハンサーに特異的に結合する転写因子CRYBP1をクローニングし、軟骨以外の組織においてCRYBP1がCol2発現を抑制していることを見いだした。しかし、これらの転写因子が、関節軟骨やOA発症過程においてどのような役割を果たしているのかは、全くわかっていない。本研究では、OA進行を阻止する遺伝子治療の開発を最終目標とし、SOX9及びCRYBP1という正と負の転写制御因子のOA軟骨における意義を明らかにし、関節軟骨細胞でのCol2発現が制御可能かを検討することを目的とした。本年度は、CRYBP1の軟骨分化における役割を明らかにするため、アデノウイルスベクターを作成し、軟骨細胞への導入および器官培養を行った。軟骨細胞にCRYBP1を強制発現させると、CRYBP1の発現量に逆相関してCol2発現が減少し、他の軟骨基質であるアグリカンやリンクプロテインの発現も減少した。さらに細胞がアポトーシスに陥ることも判明した。胎生11日のマウス胚肢芽の器官培養にアデノウイルスを感染させると、その後の肢芽の形成が阻害され、軟骨組織の形成が不十分となることが判明し、in vivoにおいても軟骨分化におけるCRYBP1の重要性が確認された。すなわち、CRYBP1の軟骨組織における持続的発現は軟骨分化を阻害し、その発現減少が軟骨形成には必須であると考えられた。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
1999

Ewing肉腫(ES)は悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ESの癌化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1の発現を抑制することでES細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止すること、EWS-Fli1の標的遺伝子がG1/S期移行に関連した因子であることを明らかにしてきた。本研究の目的は、転写因子EWS-Fli1から標的遺伝子までのシグナル伝達経路の詳細を明らかにし、その経路を阻害することでES細胞の増殖を有効に抑制できるか検討を加え、ESの新しい分子標的治療を開発することである。ES細胞にEWS-Fli1アンチセンスを作用させると、細胞はG1期停止を起こす。そこで、この細胞からmRNAを抽出してプローブを作成し、cDNA microarrayにhybridizationさせた。結果をコンピューターで解析し、EWS-Fli1による細胞癌化に、どのような遺伝子発現変化が伴うか検討した。その結果、G1/S期移行に重要である転写因子E2F1がEWS-Fli1の標的遺伝子であることが明らかになった。EWS-Fli1を強制発現させるとE2F1の発現が誘導され、ES細胞にアンチセンスを作用させるとE2F1の発現は抑制された。ES細胞にE2F1結合配列をもったデコイオリゴを作用させると、細胞の増殖が有意に抑制された。本研究より、E2F1はEWS-Fli1の標的遺伝子であり、ESの増殖に深く関わっていること、ESの新しい遺伝子治療のターゲットとして有用であることが明らかになった。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

Ewimg肉腫(ES)とその類縁腫瘍PNETは、悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ES/PNETのがん化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、アンチセンスオリゴを用いてEWS-Fli1の発現を抑制することで、ES/PNET細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止することを明らかにした。そこで、アンチセンスオリゴ処理前後のES/PNET細胞よりmRNAおよび蛋白質を抽出し、細胞周期関連因子の発現変化を調べると、G1-S期移行に関わるCyclin D1、Cyclin E、p21およびp27の発現が大きく変化しており、アンチセンスオリゴによる増殖抑制の原因の一つと考えられた。このうちp21遺伝子のプロモーター領域をluciferaseにつないだreporter constructを作成し、ES/PNET細胞にこのreporter constructを導入したところ、reporter遺伝子活性は抑制されていた。ここでアンチセンスオリゴ処理を行うとreporter遺伝子活性が誘導された。また、プロモーター領域内でのEWS-Fli1の結合部位を検索した結果、EWS-Fli1は直接p21プロモーターに結合し、その活性を抑制した。p21発現を誘導する薬剤Na Butylateを作用させると、ES/PNET細胞でのp21発現が濃度依存性に誘導され、細胞の増殖も抑制された。従って、p21はEWS-Fli1の直接の標的遺伝子であり、ES/PNETの増殖に大きく関与していること、ES/PNETの遺伝子治療のターゲットとして有用である可能性が示された。
著者
吉丸 博志 勝木 俊雄 岩本 宏二郎 松本 麻子 加藤 珠理
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

全国の主要なサクラ集植機関で保存されている重要な伝統的栽培品種について、形態解析とDNA解析によって正確な識別と分類を行った。先行研究の3集植機関の栽培品種と一致するものについては正確な名称を確定し、一致しないものについては保存の重要性を指摘した。栽培品種と野生種の遺伝的変異の比較を行い、各栽培品種の成立に関与した野生種を推定する系統解析を行った。多くの栽培品種が複数の野生種による雑種起源と推定された。この成果は多数の伝統的栽培品種を有するわが国のサクラ遺伝資源の管理と利用に役立つ情報である。
著者
和田 毅 上田 博人 R・TINOCO Antonio
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-07-10

本研究は、暴力的紛争(暴動・民族浄化・集団虐殺・内戦など)の勃発を予知するシステムを構築するために、①理論的な枠組みの整理、②リアルタイムで分析可能なイベント・データ・システムの構築、③イベント・データを分析し、紛争の予知に役立てる統計モデルの開発、の3つの作業を同時に進めている。今年度の研究実績は以下の通りである。「①理論的な枠組みの整理」については、大学院生を含む作業チームがこれまで同様に作業を進めた。2017年11月には、社会運動や紛争に関する大学院生の研究発表をメキシコにて実施した。「②リアルタイムで分析可能なイベント・データ・システムの作成」については、その作業を継続した。スペイン在住のスペイン語自然言語処理の専門家と共同研究の形で作業を進めた。同時に、自然言語処理の専門家以外の研究者もこの手法を理解し応用できるようにするため、ワークショップを開催した。Global Event Data System (GEDS) Seminar Series: "Big Data and Natural Language Processing in the Social Sciences & Humanities"と名付けたワークショップでは、国内外から講師を迎え、自然言語処理の様々な側面についての講義・訓練を7回にわたって実施した。さらに、リアルタイムで自動的に作成されるイベント・データの質や精度を検証するために、人力でコード化を行うパラレル・データの作成も開始した。11月にメキシコにて、スペイン語新聞記事をコード化する作業を国際共同研究の形で実施した。「③イベント・データの分析と統計モデルの開発」作業に関しては、分析作業を継続して行い、5月のLatin American Studies Associationにて国際共同研究チームを結成して、イベント分析の成果報告を行った。
著者
宮崎 征行 井町 寛之 大橋 晶良
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

微生物が作り出すマンガン酸化物はレアメタルを吸着しやすい事が知られている。そこで、本研究ではマンガン酸化物を連続的に作り出すことができる微生物群集をバイオリアクターに集積培養することを目的とした。植種源には海底堆積物サンプルを、バイオリアクターにはdown-flow hanging sponge (DHS) リアクターを採用し、二価のマンガンを含む人工海水を基本とした培地をリアクターに供給した。その結果、DHSバイオリアクター内に独立栄養細菌とマンガン酸化菌が繁茂し、微生物が生成したと思われるマンガン酸化物の生成が確認された。
著者
吉橋 亮太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

まず前年度の成果である動画中の鳥検出システムを拡張し,検出と追跡の2タスクを同時学習可能なニューラルネットワークを開発した.昨年度は物体検出で利用可能なフレームワークとして,1. 背景差分法による鳥候補領域の抽出,2. 候補領域の追跡による,鳥候補軌跡の生成,3. 鳥候補軌跡の深層学習による識別の3ステージからなるパイプラインを実装していた.しかしながらこの方法には鳥候補軌跡の生成には個別の既存の追跡機を利用しており,このステージでは学習の恩恵を受けられないという問題があった.今年度は追跡による候補軌跡の生成とその識別を深層学習によって同時に行う新たなフレームワークを開発した.この手法では検出と追跡が同時に単一のネットワークで行われることによる性能向上が得られ,実験により昨年度のシステムから8%程の鳥検出率の向上が可能となることが分かった.この成果はオーストラリア国立大学およびオーストラリアの国立研究機関であるData61-CSIROの尤 少迪 講師との共同研究として得られた.そのほか昨年度の成果であるTwo-stream CNNによる動画特徴量を利用した検出に関して,評価実験の拡張と論文誌への投稿を行った,こちらの論文でのアルゴリズムの評価は,より広いコミュニティに成果をアピールするために,歩行者検出に関する外部の動画データセットであるCaltech Pedestrian Detection Benchmarkを利用した.結果として開発にあたってベースとした既存の静止画による検出器からの性能向上を確認した.また当初の計画より進んだ成果として,風力発電所画像での野鳥検出と領域分割の同時学習による高精度化,UAVからの畜牛検出への新たな応用の2つに関しての研究成果が,受け入れ研究室での学生とのコラボレーションの結果として得られた.
著者
曽田 繁利
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題では、強相関系の量子ダイナミクスを明らかにすることを目的に、密度行列繰り込み群法を応用した強相関量子シミュレータの開発を行うことである。平成29年度に実施した強相関量子シミュレータの開発における進展は、時刻の異なる状態について、密度行列繰り込み群法によりそれぞれの時刻の状態を表現するために最適化された異なるヒルベルト空間の表現で与える新たな時間依存密度行列繰り込み群法の手法を開発した。ここで開発された手法は、動的密度行列繰り込み群法で用いられるマルチターゲットの手法を応用し、異なる時刻の状態をひとつの最適化されたヒルベルト空間の表現で与える場合と比較して、半分程度の制限された基底の数でよりより高精度な結果を得ることが確認された。特に密度行列繰り込み群法の計算コストはこの制限された基底の数の3乗で与えられることから、本課題で開発された手法は非常に有効であると考えられる。また、同時にこの密度行列繰り込み群法の大規模並列化を進め、本研究の対象である強相関量子系の量子ダイナミクスの研究を行った。平成29年度の研究成果としては、幾何学的なフラストレーション効果により量子モンテカルロ法では取り扱いが困難な系を中心に、三角格子ハバード模型やKagome-strip鎖の新奇量子相の研究、またSPring-8等の大規模実験施設と連携したキャリアドープされた銅酸化物高温超伝導体の電子状態の解析等を行った。また、本研究課題で開発を行っている多次元系へ応用可能な時間依存密度行列繰り込み群法の応用研究として組合せ最適化問題に対して有効であると考えられる量子アニーリングに対する応用研究を行い、その研究成果を国際会議において発表した。
著者
小川 國治 田中 誠二
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

昭和63年度と平成元年度の2年間で、以下のような研究を行った。1.中国地方諸藩と長州藩とを比較し、その特質を検討した。(1)長州藩の土地制度のうち慶長・寛永・貞享・宝暦の検地を中心に、地方史料を用いて、政策の実態・特質・石高の性格を究明し、中国地方諸藩との比較検討を行った。(2)長州藩の租税制度について、前期から後期まで、徴租法の内容・段階区分などを検討した。(3)長州藩の村入用について、実態の究明と段階区分を行い、負担の全体像を検討した。(4)長州藩の特産物の紙・ろう等について、その専売を段階区分に即して検討した。(5)大谷家文書・益田家文書・毛利家文書などの史料によって、藩・給領主・庄屋の支配関係を明らかにし、長州藩の地方支配の特質を村の側から検討した。2.史料収集と整理・分類を行った。(1)山口県田万川町の大谷家文書(庄屋文書)は、県内地方史料のなかでも群を抜く豊富さなので、重点的に史料収集を行った。(2)大谷家文書との関連で、田万川地方を支配した益田家の文書を調査した。3.以上の研究成果として、小川が「萩藩の郷村支配と老」、「長州藩産物取立政策と佐波川水運の開発」、「萩藩撫育方と鶴浜開作」、田中が「萩藩貞享検地考」、「萩藩の本・支藩関係をめぐって」、「毛利秀元論-萩藩初期政治史研究序説-」(『研究成果報告書』参照)などを発表して新知見を示した。
著者
松林 賢司
出版者
金沢工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

①雪の輸送中の融解挙動の実験による評価:雪の長期輸送中の融解挙動は経済性の試算に必要なデータである為に独自の実験設備を製作してその評価を実施した。結果は良好で赤南半球の想定陸揚港であるシドニー付近まで輸送するのにかかる2週間の融解による損失は5%以内であり経済性の試算が可能な範囲であることが分かった。②雪資源の陸揚港と需要者の技術的、及び経済的な評価とその最適化:積出港の研究手法と同様に陸揚港としての適性が確認された3港に関してフィールド調査を実施した。バンコック港とシドニー港に関しては現地訪問の上、自治体、並びに前年度に予め協力先として選定された研究機関との意見交換を経て最適港候補の技術的、並びに経済的な評価(使用可能期間、雪置場面積、内陸への雪資源輸送利便性、陸揚設備、雪輸出に関する法規制、自治体の協力体制等)を実施した。本件に関しても関係する専門家として商社、船会社、港湾業務委託会社等に手続きと経済的な観点よりヒアリングを実施した。需要者に関しては大規模な雪資源の冷熱利用を前提として地域冷房施設である北海道ガスや新千歳空港も現地補門の上、調査研究した。並びに冷蔵倉庫を想定の上、陸揚港としての適性が高い地区の需要者候補を政府、及び自治体資料により調査の上、リストアップの後、有望先のフィールド調査を現地研究者の協力も得て実施した。
著者
馬場 明道 橋本 均 松田 敏夫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、我々が作製したPACAP欠損(KO)マウスを含め3種類の遺伝子改変マウスを用いて、PACAPによる中枢・末梢神経機能調節等の発現機構、その生理・病態的意義を解明することを目的として実施し、以下の成果を得た。1.精神行動機能調節(1)PACAP-KOは、新規環境下の自発行動量の増加、異常ジャンプ行動、好奇心増大(または不安減少)を呈した。これらの精神行動異常は、抗精神病薬あるいはSSRIにより改善された。(2)PACAP-KOに音刺激驚愕反応prepulse inhibitionの低下(障害)が認められた。以上の結果は、PACAPが精神行動の調節に関与すること、本マウスの表現型が統合失調症あるいはADHDの病態と一部類似性があることを初めて示すものである。2.海馬機能PACAP-KOとPACAP1型受容体欠損マウスの海馬シナプス伝達長期増強(LTP)の障害、行動薬理試験におけるPACAP-KOの海馬依存性記憶・学習障害を見い出し、これら高次脳機能におけるPACAPリガンド-受容体シグナルの寄与を明らかとした。3.神経因性・炎症性疼痛神経因性・炎症性疼痛の発現がPACAP-KOでは消失していた。PACAPが痛覚過敏およびアロディニア(異疼痛)の発現制御に必須な役割を果たすことが示された。4.日内リズムPACAP-KOにおいて、光照射による日内行動リズムの位相変化および視交叉上核のc-fos誘導が減弱していた。光同調機構の維持にPACAPが重要な役割を果たすことがin vivoで示された。5.糖尿病態モデル(1)ストレプトゾトシン投与時の膵臓特異的PACAPトランスジェニック(Tg)マウスの膵臓では、β細胞新生が促進することが見い出された。(2)遺伝性肥満・糖尿病KKAyマウスとTgマウスとの交配による病態モデルにより、PACAPによる膵臓ラ氏島過形成の調節作用が見い出された。膵臓のβ細胞新生およびラ氏島形成をPACAPが調節することを示す本成績は、GLP-1属であるPACAPの臨床応用の可能性を支持する重要な知見として位置付けられる。
著者
棚村 政行
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、日本における面会交流の合意形成支援、面会交流の円滑な実現のための支援の具体的な仕組みについて、明石モデルとも言うべき自治体の先進的取り組み、司法・行政・民間の連携に基づく具体的な支援策の提言をすることができた。本研究では、面会交流の紛争が生ずる当事者に対するヒヤリング及びアンケート調査、面会交流支援者の資格や経験、面会交流支援団体の規模、活動及び運営上の課題や問題点についても明らかにすることができた。本研究の成果として、2015年5月に、全国の自治体に対して、厚生労働省が明石モデル等の普及・活用を進める報告書を公表し、面会交流や養育費支援を強く打ち出した。
著者
押谷 健
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

最終年度である本年度は、スキャンロンの契約主義の関係論的性格を明らかにすることを通じて、スキャンロンの契約主義が、人々が有する多様な価値へのコミットメントに起因する道徳的不一致を適切に理解し、調停するための有効な視角を与えうる理論であることを明らかにした。スキャンロンの契約主義は、しばしば関係論的性格を有するとされる。しかし、スキャンロンが想定する道徳的関係とはいかなるものであるのか、明確に理解されてきたとはいえない。これに対して本研究は、スキャンロンの契約主義は、次の二つの関係を想定する点で、「関係論的」であると指摘した。第一の関係とは、理由応答的存在者の間に成立する関係である。我々は、こうした関係に我々と立つ他者に対して、理にかなった仕方で拒絶しえない原理に基づいて行為する理由がある。第二の関係とは、相互承認の関係である。この関係は、理由応答的存在者同士の関係に立つ我々が、互いに対して理にかなった仕方で拒絶しえない原理に基づいて行為することに成功したときに成立する価値ある関係である。上記の研究を通じて明らかにされた契約主義の関係論的性格は、契約主義が次の二つの点において、価値の多元性に起因する道徳的不一致に取り組むための有効な視角を提示しうることを示している。第一に、契約主義によれば、我々が価値づける理由のある多様な関係やプロジェクトから生じる規範は、道徳的関係の規範と対立しうる。契約主義は、こうした対立の可能性を認めうる点において、多様な規範がどのように関連しあうのかについての直観的に説得的な記述を与えることができる。第二に、契約主義はなぜ道徳的関係の規範が、こうした多様な関係性の規範に対して通常の場合は優先するのかを正当化することができる。そのためスキャンロンの契約主義は、多様な関係の規範の間の衝突を調停するための有効な視角を与えうる理論であるということができる。