2 0 0 0 OA 紅葉の季節学

著者
松本 太
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.141-148, 2013 (Released:2013-01-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

紅(黄)葉は秋の関心事であると同時に,その変化は温暖化など気候変化のバロメーターである.本稿ではイチョウ,イロハカエデの紅(黄)葉のメカニズムや気象的要因,および近年の気候変化と紅葉との関係を概説した. まず紅葉の化学的なメカニズムを述べ,イロハカエデの紅葉(クロロフィル減少)に低温の積算が関係していることを示した.そして紅(黄)葉日と地球温暖化や都市の昇温との関係を述べた.イチョウの黄葉日は同一地域内での地点差や個体差が大きく,発芽の遅速など生理的要因の関与が示唆された.一方イロハカエデの紅葉日は地点差や個体差が小さく,気候の影響を反映すると推察された.よって紅(黄)葉日を評価する際には,樹種によるメカニズムや,気候への反応の違いを考慮に入れる必要がある.
著者
増橋 佳菜 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1140-1147, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
14

回遊行動がまちに生み出す賑わいが重視されるとともに,位置観測技術及び歩行者行動モデルの発展に伴って,都市空間改変が歩行者行動にもたらす影響の評価に対する関心が高まっている.同時に,COVID-19の流行など歩行者行動規範を変容させうる様々な要因が同時並行で存在する.このように都市空間改変と行動変化の因果構造が複雑化する中,相関関係の提示に留まる従前の評価手法はもはや限界といえる.本研究では,大規模再開発が進行する渋谷を対象として,大規模空間改変の前後にあたる2時点の長期観測位置データをメッシュ単位に集約化した上で,サンプリングの工夫により因果推論の枠組みに従って分析した.因果推論のアプローチを空間行動分析の方法論に導入しただけでなく,渋谷という実際の都市に提案手法を適用することで,渋谷における再開発が回遊機会を激減させ,時間消費を減少させた上,多様な活動パターンを時間的にも空間的にも喪失させていることを明らかにした.
著者
吉見 俊哉
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.121-133, 2013-09-14 (Released:2017-08-10)

本論文は、シンポジウム当日の報告に基づいて、今日における「大学の危機」をめぐる議論を踏まえつつ、思想史的な観点からポスト国民国家時代の知的空間として「大学」概念そのものを再定義することの必要性を強調し、メディアとしての大学という新たな視角を切り開くことを試みる。
著者
村上 幸史
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.80-93, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
35

携帯メールやLINEのやりとりにおいては,送受信の行為自体が,一種の社会的交換と見ることができる。ただ返信するだけでなく,できるだけ早く返信するという返報の義務の存在からは,返報の速度自体にも価値が置かれていると考えられる。そのため,利用者が相手との不均衡さを感じた場合には,返信速度を調整することによって,相手に合わせた対応をしたり,何らかの意思表示をしているのではないかと推測される。そのため,やりとりの早さは,返信が早い相手には早いが,遅い相手には遅いという「つりあい」が取れた形で現れると考えられる(互酬性仮説)。本研究ではこの仮説を検証するために,メールとLINEに関する調査を行った。その結果,自分と相手の返信速度や文字数の間には高い相関が見られた。また返信の早さは,相手の返信の早さによって違いが見られた。
著者
苅谷 剛彦
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.626-640, 2005-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
5 1

大学教育の場を通じて, 社会学の知識は, どのように教えられるのか.この論文では, 日米で使われている社会学入門の教科書の比較分析を通じて, 日本とアメリカにおける教育的知識としての社会学知の生産・再生産様式の特徴について分析を加える.問題設定の1節に続き, 2節では, 教科書の分析を通して, 社会学知がどのように編集され, 提示されているのかを比較する.その上で, 3節では, アメリカの大学教育の特徴を, 日本と比較しながら検討する.社会学知が伝達される当の舞台である大学の教室が, 日米でどのように異なるのか.それが, 教科書における知識の社会的構成にどのような影響を与えているのかを検討するのである.そこでは, 日本の大学教育の特徴が, 社会学知の標準化の程度を弱めていることが明らかとなる.4節では, これらの分析をふまえて, 日本における社会学知の生産と再生産が抱える課題について考察を加える.そこでは, アメリカに比べ社会学知のノーマル・サイエンス化が進んでいない日本において, 社会学知の方法知 (社会学的なものの見方の伝達) へのシフトが起きていることの問題性について考察する.
著者
阿部 智
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.31-39, 1996-04-01 (Released:2013-04-26)

ガラス棟は, 吹抜容積250000m3のガラスアトリウムで, その大屋根は, 2本の大柱のみで支えられる特殊な構造形態を成す。その構造体の層間変位を支配する大柱の剛性を高めるために, 80N/mm2の高流動・高強度コンクリートを柱に充てんしている。敷地周囲は全て鉄道構造体に囲まれ, 地下21mの地下工事は逆打工法で進められた。ただし, 連壁と地下躯体は防振対策上, 縁が切られており, それに対応した特殊な逆打躯体工事が要求された。また, 地下2階中央には, 2層吹抜空間があり, 長さ60mのPCブリッジが切ばりとして, 地下1階に渡されている。これはプレキャストブロックを現場で連結し, プレストレスにより一体化された地下の橋となっている。
著者
田中 孝幸 安東 敏彦 高橋 三雄 石坂 裕子 谷 瑞希 山門 實
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.24-28, 2007-06-29 (Released:2012-08-20)
参考文献数
21

目的:環境の変化や人間関係,過労などに心身の適応が困難な場合,精神的身体的緊張を引き起こし様々なストレス疾患が表れる.一方で,アミノ酸を摂取することによってストレスに対する抵抗性が高まることを示す研究結果が報告されており,ストレス下において血中アミノ酸パターンが変化していると予測された.今回は,アミノ酸を測定することにより,ストレス疾患の早期発見・治療につながる可能性が得られたので報告する。方法:ストレス負荷の定量的評価として当センターで用いているストレス関連問診票より職業性ストレス簡易調査票に対応する問診項目を抽出しスコア化した.また,当センターの問診票からDSM-IV(Diagnostic and Statistical Manualof Mental Disorder,4th ed)診断基準を準用し,大うつ病を判定した.上記ストレス問診結果と血中アミノ酸の解析を行った.成績:「ストレスなし」群をコントロールとして,他の群と各アミノ酸の血中濃度を比較したところ,「抑うつ」群および「大うつ病」で有意にリジンが低下していた.また,うつ病患者においてトリプトファンの低下が報告されているが,今回の結果でも大うつ病にてトリプトファンの有意な低下がみられた.結論:人間ドックにおけるアミノ酸測定は,ストレス群のようなうつ病予備軍の発見・治療において有用な情報を提供できる可能性があると言える.
著者
釈 悟震
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.523-546, 2008-09-30 (Released:2017-07-14)

スリランカ仏教は、アショーカ王の時代以来の長い歴史を有する。しかし、この長い同国の仏教の歴史は、決して平坦ではなかった。一六世紀以降のヨーロッパ人によるスリランカ支配は、必然的にキリスト教の布教、とりもなおさず仏教への圧迫さらに弾圧となって現われた。特にイギリスの植民地支配時代、スリランカの仏教は、存亡の危機に直面した。その時、仏教僧侶と二人のキリスト教の牧師との間に、激しい教理論争が繰り広げられた。その結果は仏教が勝利したとされるが、このことがスリランカ仏教復興の原動力となった。特に、仏教の近代化やその復興に功績の大きかったオールコット大佐が、仏教の支援者となったのもこの討論の結果である。そして、彼らの仏教復興運動は、全世界に波及しインドや日本の復興や近代化にも影響を与えた。一九世紀のスリランカの田舎で行われた仏教とキリスト教の討論は、仏教の近代にとって看過できない大きな意味を有するものであった。しかし、この討論についての学術的研究は、殆どなされていない。本稿では、この忘れ去られた仏教の近代化の出発点ともなった討論とその意義について検討する。
著者
柳沢 猛 中村 喜十郎 白柳 伊佐雄
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.412-416, 1977-08-01 (Released:2017-06-02)

The longitudinal displacements of a point on a piano string changing with time immediately after hammering are calculated, together with the transverse displacements, using the finite element method. This method assumes that the string is elastic and completely flexible with small mass points and a large mass point of the sound board on it. From equations (1)〜(6) and Fig. 1, the values of transverse and longitudinal displacements changing with time at any point of the string immediately after hammering may be calculated (Figs. 2, 3, 4). It is found from the analysis that the longitudinal vibration generated in the string causes the sound board to produce an inharmonic tone of high frequency (Fig. 5).
著者
柳沢 猛 中村 喜十郎 白柳 伊佐雄
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.661-666, 1975-11-01 (Released:2017-06-02)

In this paper, the vibration system of a piano string and a sound board (Fig. 1) is analyzed by the finite element method (Fig. 2). The string is stretched with constant tension P between the upper bearing and the lower bearing, and is assumed to be completely flexible. The mass point m are distributed along the string at equal distances, and m_1 indicates the upper bearing, m_&lt103&gt the lower bearing, m_&lt97&gt the equlivalent mass of the sound board, and k the spring constant. It is also assumed that the mass-point of the hammer m_H collides with the point m_N on the string with an initial velocity x^^^. _H, that they repel each other according to Newton's law, and that m_N is decelerated by the tension P. Then it collides with m_H again, and this series of motions is repeated. These motions of all points m_i, m_H, m_N are expressed by Eqs. (1), (2), and (3). The flow diagram of the program is shown in Fig. 6. The calculated values by this simulation program and the measured values of an actual piano are presented in Figs. 7 and 8. Comparisons between them show good agreement.