著者
烏賀陽 梨沙
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.99-112, 2010-03-20 (Released:2017-06-12)

本稿の目的は,総合大学と美術館という二つの学際的な機関が連携して実現した「福岡道雄プロジェクト(2007年度)」の中で,学生とアーティスト(すなわちダイアローグ),学生と美術館のコミュニケーションが実際どのように行われたかを描出すると同時に,アート,特に同時代性のある「現代美術」の関与が,学習者の思考態度にどのような影響を及ぼすかという認知的視点からも事象を描出し,その教育的な意味や現代美術への教育的アプローチを考察することである。「福岡道雄プロジェクト」とは,龍谷大学・国際文化学部と滋賀県立近代美術館との連携により,「『福岡道雄展』での教育プログラムを企画・立案する」ことを目標に組まれた一連のプロジェクトである。本稿はその活動の実践報告のみならず,「現代美術」を思想の伝達視覚媒体として捉えた時の鑑賞教育のあり方と発展性を検証する。
著者
Xiaobo GAN Kai LENZ Tomoya ITO Yuriko TAKESHIMA Tsukasa KIKUCHI
出版者
Asia Digital Art and Design Association
雑誌
International Journal of Asia Digital Art and Design Association (ISSN:17388074)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.65-74, 2022 (Released:2022-11-23)
参考文献数
29

In this paper, we propose a new method based on two existing methods for procedural modeling of common rice dishes and aggregates of natural objects such as salmon roe and shaved ice. One existing method, which is the most realistic but also the most time-consuming, uses full-length physical simulation to generate the aggregates. There are two steps: the shape and components specified by the user are used as inputs, the components fall under low gravity into the specified shape, and a full-length physical simulation from the initial state to the stable final state is performed using the XPBD method. This usually takes a few hundred frames. The other existing method is aperiodic space-filling. It has two steps. First, it requires components and shapes to be input by the user, and then it fills the specified shapes with components in a non-overlapping order. Each existing method has its own weaknesses; this paper introduces a new method that combines the advantages of the two existing methods, elastic aggregates based on aperiodic space-filling and XPBD simulation. We perform physical simulations to generate more realistic aggregates with parameters such as friction data input by the user.
著者
佐藤 和広
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
pp.74-1-1, (Released:2023-11-08)
参考文献数
16

オオムギとコムギは共に近東の乾燥地に起源するため,湿潤な我が国の環境で栽培するには特性の改良が必要である.我が国でのムギ類生産の課題の一つは赤かび病である.最近,オオムギの抵抗性候補遺伝子が同定され,かび毒抑制効果が示された.現在,その成果をコムギのかび毒低下に活用する研究が進められている.また,収穫期の雨による穂発芽被害の防止に有効な,発芽の長短を決定するオオムギの主要な種子休眠性遺伝子Qsd1は著者らによって単離された.さらに,Qsd1の3種類のコムギ同祖遺伝子に共通する配列を標的としたゲノム編集によって作出した三重変異体では種子休眠が1週間程度長くなり,穂発芽耐性向上の効果が期待される.
著者
山田 貴之 松本 隆行
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.663-673, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,初等教員養成課程学生を対象とした質問紙調査の結果に基づいて,「理科に対する興味」が「媒介要因」を経由し,「主体的・対話的で深い学び」に影響を及ぼすという因果モデルを仮定し,その妥当性について検討することを目的とした。その結果,「理科に対する興味」(「因子4:思考活性型」,「因子5:驚き発見型」)が,「媒介要因」(「因子7:批判的思考」,「因子8:学習行動」)を経由し,「主体的・対話的で深い学び」(「因子13:深い学び」,「因子14:対話的な学び」,「因子15:主体的な学び」)に直接的,間接的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。これは,理科授業において,教師が驚きと発見のある事象や,思考を活性化させる事象の提示を工夫することで,学習者の興味が喚起されるとともに,「批判的思考」と「学習行動」が向上し,結果的に「主体的・対話的で深い学び」の実現につながることを示唆するものである。本研究により得られた知見は,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業の工夫や指導法などを充実させていく必要があるという学習指導要領の方向性と一致し,理科授業において,「主体的・対話的で深い学び」を成立させるためには,「理科に対する興味」を喚起するとともに,「批判的思考」と「学習行動」の向上を促す指導の可能性を裏付ける根拠と示唆を得ることができた。
著者
加藤 俊治 乙木 百合香 仲川 清隆
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.287-295, 2022 (Released:2022-06-07)
参考文献数
24

質量分析においてエレクトロスプレーイオン化(ESI)法は,汎用性の高いイオン化法の一つである。ESIの特徴の一つとして,イオン源において様々な付加体を形成しやすい点があり,一般的に[M +H]+,[M+NH4]+,[M+CH3COO]-などが分析に用いられる。一方で,試料などを由来とする金属イオンも容易に目的化合物に配位し,[M+Na]+や[M+K]+などの金属イオン付加体を形成する。こうした金属イオンの配位はcation-π電子相互作用によるものと考えられ,配位箇所はH+やNH4 +などと異なる。加えて,金属イオンの配位によってもたらされる原子間距離や水素結合の変化もH+やNH4 +などによる変化とは異なり,それゆえ金属イオンに特徴的なフラグメンテーションが引き起こされる。興味深いことに金属イオンの種類によってもフラグメンテーションは異なり,本原理を用いたユニークな構造解析法がいくつか報告されている。本総説では先ず化合物と金属イオンの付加原理について述べ,次に金属イオン付加体を活用した脂質の構造解析例について紹介する。
著者
野々垣 香織 吉池 高志 竹下 芳裕
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.285-289, 2017 (Released:2017-03-03)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

69歳,男性。約20年前から腰痛等のため適宜,ときには連日鍼治療を受けていた。約10年前から背中に内出血のような痕があった。半年前から同部に腫瘤を形成し出血がみられ,近医での生検の結果有棘細胞癌と診断,当科を紹介された。初診時背部中央に50×50×7mm大,有茎広基性腫瘤を認めた。表面にはびらん,出血がみられた。切除のうえ,中間層植皮術を行った。腫瘤部基部すなわちL2-L3の正中部ならびに脊柱起立筋外縁に沿って鍼治療痕が無数に存在していた。当該部では苔癬様反応とそれに伴うメラニン顆粒の滴落を認めた。標準鍼治療を超えた回数・深さの打ち込みといった過大な物理刺激だけでなく,2次的な苔癬様反応も発癌に与っているのではないかと考えた。
著者
大石 和恵 丸山 正
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.81-89, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
44

この数十年の間に鰭脚類において何回かの感染症による大量死が報告され,鰭脚類と海洋の保全について,世界的な関心がもたれている。日本沿岸ではそのような大量死は今のところ見られていないが,北海道沿岸に棲息する鰭脚類において,インフルエンザウイルス,モービリウイルス,ブルセラ菌,トキソプラズマ,ネオスポラの5つの病原体の血清疫学調査がなされ,全ての病原体に対して特異的抗体が検出されている。この総説では,これらの血清疫学の結果を,この分野の近年の重要な知見を交えながら概説する。これらの病原体は接触や摂餌を通して種を超えて伝播する可能性があり,鰭脚類の保全に加え,感染症のハブとしての鰭脚類にも着目して,陸と海を繋ぐ生態系に棲息する他の哺乳類や,それ以外の動物,例えば鳥類,餌となる小動物,寄生虫などを含む大きな枠組みの中で捉える必要がある。近年の環境の変化は,動物の棲息域や行動に影響を与え,種間伝播のリスクを高める可能性がある。鰭脚類のみならず,より広い動物群におけるモニタリングの継続が重要である。
著者
山本 理絵 斉藤 剛 青木 弘道 飯塚 進一 秋枝 一基 猪口 貞樹
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.865-873, 2014-12-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

急性薬物中毒は救急医療において重要な分野の一つであり,起因物質の特定は治療を行う上で極めて重要である。厚労省により薬毒物分析機器の配置が行われてきたが,機器による分析は難しく,簡便かつ迅速な検査法として尿中薬物簡易スクリーニングキットが多くの医療機関で使用されている。しかし,尿中薬物簡易スクリーニングキットは分析対象が限定され検出不能な薬物があること,体内動態や交差反応による陽性や感度不足による陰性があることから,薬物の特定には定量分析が必要となる。本研究では,ガスクロマトグラフ質量分析装置(gas chromatograph mass spectrometer: GC/MS)や液体クロマトグラフ質量分析装置(liquid chromatography-tandem mass spectrometer: LC-MS/MS)による血中薬物の定量分析結果をgolden standardとして,当院で使用している尿中薬物簡易スクリーニングキットTriage DOA® の臨床的有用性について検討した。2009年4月~2013年3月までに当施設を受診し入院となり,Triage DOA® と定量分析の双方を施行した急性薬物中毒822例を研究対象とした。ベンゾジアゼピン系睡眠薬およびベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZO),バルビツール酸系睡眠薬(BAR),三環系抗うつ薬(TCA),アンフェタミン系覚醒剤(AMP)に対するTriage DOA® の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,偽陽性率,偽陰性率について検討した。検討の結果,Triage DOA® にはいくつかの問題はあるが,救急初期治療の一次スクリーニング検査としては有用であった。しかし,TCA,AMPの陽性的中率は低く,BZOは陰性的中率が低いことから,救急現場ではTriage DOA® の解釈には十分な注意が必要である。また,近年本邦では尿中薬物簡易スクリーニングキットでは検出できない抗精神病薬やselective serotonin reuptake inhibitor,serotonin and norepinephrine reuptake inhibitorなどの抗うつ薬が数多く使われている。尿中薬物簡易スクリーニングキットで陰性でもこれらの薬物を服用している可能性を念頭に置いて初期治療を行う必要がある。