著者
渡辺 伸一
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

公害・環境問題には、その発生から何十年も経つのに依然として未解決という問題が少なくない。本研究では、その代表例であるイタイイタイ病問題(慢性カドミウム中毒問題)について、未解決の理由と解決過程に潜む問題点について解明した。他方、公害・環境問題の中には、社会問題として一定の解決はみたが、どのように解決したのかが未解明という事例が少なくない。本研究では、大分県大分市(旧大分市、旧佐賀関町)における環境問題を選択し、その解決過程を明らかにした。
著者
中尾 祐治
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

15世紀の英国作家サートマス・マロリーの現存する二つの異本間の言語差異に関する研究は、私の永年の課題で、それを英文書としてまとめる時期が来たと感じている。しかしそのためにはまだ研究すべきかなりの言語現象が残っているので、それらの調査研究をするのが科研費による研究の目的の一つであった。このような目的で、四編の論文を執筆した。論文の一つは、定冠詞と不定冠詞の異同現象である。この論文は英国出版の論文集に掲載された。第二は否定離説接続詞の研究である。この論文ではne, neither, nouther, nother, norなどの語に関し、両テキストでの用法の特徴を突き止め、論文に仕上げた。これは、スロバキアのコメニウス大学の論集に採用され、印刷された。第三は頭韻の問題である。キャクストン版の第五巻(アーサーのローマ戦役物語)は、写本と刊本で本文が異なり、キャクストンが、頭韻詩に依拠している写本の本文を、頭韻を嫌って全面的に書き直した、と云う説があるが、本当にキャクストンが頭韻を嫌ったか否かにつき、新しい資料でこの問題を論じた。この論文は印刷中で、2005年7月に韓国で出版されることになっている。これら三編はいずれも海外で出版され、海外の研究者と論文を交流するように努めた。他の一編は接頭辞の有無を論じた英文論文で、中部大学人文学部紀要に寄稿した。また中部大学ブックシリーズの1冊として『トマス・マロリーのアーサー王伝説-テキストと言語をめぐって』というタイトルのブックレットを日本語で出版した。この作業を通じ完成させようとしている英文による研究書への糸口を探ることができた。これらの研究成果をあげるため、科研費が大きな役割を果たしたことを述べ、深く感謝申し上げる次第である。
著者
伊藤 和之 加藤 麦 中村 仁洋 池田 和久 幕内 充 水落 智美 岩渕 俊樹
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

重度の中途視覚障害者の手書き行動が学習に影響を与えるかを検証するため,新規外国語単語学習課題を手書き有り無しの2条件で行う行動実験及びMRI撮像を行った.その結果,聴くだけの学習は短期記憶で,手書きとの併用は長期記憶で有効との示唆を得た.また,視覚障害者群で,両側の運動野を含む前頭頭頂葉から後頭葉に亘る広い領域で,晴眼者に比して強い神経活動が見られた.特に,左前楔状回を中心とする視覚領域では,手書き条件で,非手書き条件より強い神経活動が観察された.重度の中途視覚障害者の手書き行動は,長期記憶に有効であり,視覚心像に関わる視覚連合野を中心とする神経活動を介して学習促進が起こることが示された.
著者
鈴木 雄大
出版者
専修大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

「反因果説に基づく反自然主義的な行為観の構築」という本研究プロジェクトの第3年目の本年度は、行為に関する「選言説」と呼ばれる立場を整理し、そのうちのあるバージョンを擁護することを主目標とした。行為に関する選言説は、行為にとって重要な三つの要素に関連して、三つの種類に分類される。その三つの要素とは、身体動作・意図・理由である。理由に関する選言説についてはすでに前年度に研究を進めたので、本年度の主な研究対象は身体動作の選言説と、意図の選言説であった。行為の反因果説に対立する因果説によれば、何らかの行為がなされるためには、ある身体動作が何らかの意図によって引き起こされたのではなければならない。この主張を導き出すために、意図の共通要素説と、身体動作の共通要素説が前提となる。意図の選言説と身体動作の選言説は、そうした前提をそれぞれ拒否することによって、因果説を導くことを防ぐ。まず身体動作の選言説に関しては、行為に関わる身体動作と、行為とは無関係な身体動作との間の比較が問題となり、身体動作の選言説は、二つの身体動作は同種のものではないと主張する。本研究は、身体動作の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年6月6日に立正大学で開かれた国際ワークショップTaipei-Tokyo Workshop in Philosophyにおいて発表した。次に意図の選言説に関しては、行為へと実現した意図と、行為へと実現しなかった意図との間の比較が問題となり、意図の選言説は、二つの意図は同種のものではないと主張する。本研究は、意図の選言説を擁護するための理論構築を行い、その研究成果を、2016年11月26日に台湾の東呉大学で開かれた国際ワークショップSoochow International Workshop on “Knowledge and Action”において発表した。
著者
大津 由紀雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ことばへの気づき(メタ言語意識)を仲介として母語教育と外国語教育を言語教育として統合させる試みの暫定的とりまとめを行った。これまで、このような試みが体系的に成されてこなかった理由が、統合のための基盤となるべき、「ことば」という観点が決定的に欠けていることにあることがわかったことに基づき、どのような形で「ことば」という観点を学校教育に導入するべきであるかを検討した。さらに、教材の開発と授業実践を続けることによって、本研究の成果が学校教育の現場に直接役立つよう努力した。この作業のために、以前から交流のある小中高の先生との会合を重ね、その成果を「毎日小学生新聞」に「ヤバい!ことばの力」と題する連載として公表した。さらに、教員育成のためのカリキュラムの開発のため、夏と冬に教員のためのことばワークショップを主宰した。また、前年度に引き続き、現実の社会問題としての小学校英語の問題、および、高等学校英語の問題についても、上述の言語教育の視点から分析し、その成果を論文、単行本、講演会などの形で、広く知ってもらえるよう努力した。こうした研究成果のまとめの一環として、2010年に慶應義塾大学三田キャンパスにおいて、言語教育シンポジウム「」を企画し、理論と実践の両面から言語教育のあるべき姿を追求した。
著者
神奈木 玲児
出版者
愛知県がんセンター
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、細胞がアポプトーシスをおこす際に、細胞表層の糖鎖抗原がどのように変化するかを解析し、その変化の制御機構を明らかにすることにある。特に糖鎖抗原の中でも、シアリルLe^X抗原やシアリルLe^a抗原のように、すでに細胞接着のリガンドであることが判明している糖鎖の変化の検索に重点をおいた。ヒト大腸癌培養細胞株HT-29およびColo201を実験対象に選んだが、これらの細胞にアポプトーシスを引き起こすには、抗FAS抗体処理のみでは不十分であったので、抗FAS抗体とIFNγによる刺激を併用してアポトーシスを誘発した。これに伴う細胞表面糖鎖の変化を各種抗糖鎖モノクローナル抗体を用いたフローサイトメイトリ-で検索したところ、アポトーシス誘発後に両細胞でLe^XおよびLe^y糖鎖の発現の上昇が認められた。この変化は、IFNγによる単独刺激では観察されなかった。合成糖鎖を基質として、α1→2フコシルトランスフェラーゼ、α1→3 フコシルトランスフェラーゼ、α1→4 フコシルトランスフェラーゼおよびβ1→4 ガラクトシルトランスフェラーゼの酵素活性を測定したところ、アポトーシス誘発後の両細胞株において、α1→3 フコシルトランスフェラーゼの活性の増加が認められた。現在までにα1→3 フコシルトラスフェラーゼは5種類(Fuc-TIII,IV,V,VI,VII)の分子種が存在することが知られている。 Northern Blotting および RT-PCR法を用いてα1→3フコシルトランスフェラーゼmRNA発現を検討した結果、アポトーシス誘発後にFuc-TIV(Myeloid型)の発現上昇とFuc-TIII,VIの発現低下が認められた。Fuc-TV,VIIIは検出感度以下であった。以上の結果より、活性の増加が認められたα1→3 フコシルトランスフェラーゼ分子種は、ミエロイド型のFuc-TIVである可能性が高いと考えられた。
著者
松岡 和美 内堀 朝子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

【かな由来の手話表現の音韻的制約】指文字が取り込まれて語彙化する「かな由来」の手話単語では手話の音韻パラメータの1つである「位置」と、利き手の身体部位との接触の有無に関連性があることを明らかにした。その理由に接触や追加の動きが手話単語のsaliency(顕著性)を高めることが考えられることを指摘した(論文採択済み)。【愛媛県大島の地域共有手話の研究】数と時の表現について追加のデータを収集し、ろう者と聴者が手話を共有する地域の歴史的・社会的背景の聞き取り調査を行った。他の共有手話や聴者のジェスチャーも考察に入れた論考をまとめた(論文採択済)。海外の研究で用いられた動画を参照しながら、より文化的に適切な動画を作成し、一致動詞の空間使用を調査した。【日本手話の否定とモダリティ】日本手話の否定表現とモダリティ表現の共起関係の制限を手がかりに、否定は3つ、モダリティは2つの異なる位置に生じていることを明らかにした。その構造的位置は、語彙の形態・意味的な性質と深く結びついている仮説を提案した。【数量詞の適用範囲と空間位置】日本・アメリカ・ニカラグアの聴者のジェスチャー動画を収集し、数量詞を含む文を用いる際に'more is up'の空間的メタファーの使用に関して数量的分析を行った(論文投稿中)。【話題化の非手指標識について】文頭の話題化要素に伴って生じる「眉上げ・うなずき」に加えて、文頭に生じる要素には話題化とは別の非手指動作が伴っている例も観察した。例えば「目細め(ないし視線変化)」であるが,これは従来Referential Shiftの非手指標識とされている。今後の研究でも,これらを含め,非手指標識全般について,複数の標識を厳密に見分けた上で互いの分布(特に共起関係)を記述する必要があることが確かめられた。
著者
齋藤 雅英
出版者
日本体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

記憶課題と注意仮題を用いた新たな催眠尺度の作成を行うために実験を行った。実験には、世界的に使用されているハーヴァード集団式催眠感受性尺度(HGSHS)と、意図的に操作することが難しい潜在連合テストを用いた。潜在的権威主義尺度(IAT)とHGSHSの関連について実験を行った。その結果、HGSHSとIATの相関係数が有意であり、IATを用いた新しい催眠尺度を作成できる可能性が示された。
著者
向居 暁 佐藤 純 DEHON Hedwige
出版者
高松大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、実験室におけるDRM課題による虚記憶と現実世界で生起すると考えられる自伝的虚記憶との関連性を、連想活性化、及び、モニタリングに係る個人変数を通して検討することであった。本研究では、日常において空想的に生じる自伝的虚記憶として、「心霊体験」が仮定され、そして、その生起に関与する個人変数として、心霊信奉はもとより、解離体験、認知スタイルなどが検討された。その結果、予測に反して、DRM虚記憶と自伝的虚記憶との間には、それぞれに関与するいくつかの個人変数は示されたものの、強い関連性は認められなかった。
著者
芦塚 伸也
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アドレノメデュリン(AM)は様々な生理作用を有する生理活性ペプチドであり、炎症性腸疾患モデル動物にも治療効果を示す事が明らかとなっている。今回我々は、非盲検前向き予備試験として、炎症性腸疾患(IBD)患者に対しAM静注(1日8時間、14日間)を行い、安全性および臨床的有効性に関し検討した。その結果、AM投与2週間後、臨床症状の有意な改善と大腸潰瘍の粘膜修復を認めた。また、AM投与にて炎症性サイトカインの低下を認めた。また、明らかな有害事象は認めなかった。AMはIBD患者に対しても治療効果を示した。
著者
生出 拓馬
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本年度は,昨年度に実施したプロトタイプシステムの試作に基づき,実環境・実端末上で動作可能なセンサ指向ソフトウェア構築プラットフォームの研究開発を推進した。具体的には,既存のWi-FiおよびBluetoothプロトコルを協調させた新たなプロトコルを設計し,提案プロトコルを用いてスマートフォン間で自由にD2Dネットワークを構築可能な通信基盤を実装した。提案プロトコルは,事前設定が不要で周辺端末と接続し,任意の端末とのユニキャスト通信が可能である。各端末は定期的に情報を更新して他端末の位置情報および通信経路を学習するため,同基盤を搭載する全ての周辺端末との接続性をアプリケーションに提供する。このプロトコルおよび通信基盤により,既存の通信インフラを介さずに周辺端末との自由な通信が可能となり,特に災害時における情報共有といったユースケースへの適用が期待できる。商用のAndroid端末を用いた実証実験においては,既存の通信インフラを用いずに端末間のみでWi-Fiネットワークを構築し,任意の端末と低遅延でユニキャスト通信が可能であることを確認した。また,未知の周辺端末およびIoTデバイスとの任意のセンサデータの流通では,流通データにパーソナルデータが含まれることが懸念されるため,交渉・契約プロトコルにプライバシーの概念を導入することが求められる。そのため,利用者のプライバシー感覚に応じた適切な流通データの開示程度決定手法について,詳細設計及びシミュレーション評価を実施した。
著者
谷村 禎一
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

生物の行動は、プログラムされた本能的側面と、経験や環境により適応的に変化できる可塑的な側面から成り立っている。これまでの昆虫の行動の研究は、固定化された反射、本能行動が中心であり、行動の可塑性はあまり注目されてこなかった。生物は自己の維持、成長、増殖のために外界から栄養を取り込む必要がある。生物が栄養となる食物を識別する上で味覚感覚は重要であるが、生物は食物の栄養価をどのように感知しているのであろうか。ショウジョウバエの成虫の雌は生涯に個体当たり3000個もの卵を生むが、そのために多量のアミノ酸の摂取が必要とされる。産卵時に糖だけを含む培地では雌の産卵数が低下することがわかった。ショウジョウバエがアミノ酸をどのように感知しているかを調べるために、食用色素を利用したtwo-choice preference test、CAFE assay、吻伸展反射、唇弁感覚子からの電気生理学的記録によって、ショウジョウバエはアミノ酸溶液を識別して摂食し、さらにアミノ酸欠乏状態に置かれた交尾後の雌は、アミノ酸の摂食量が増加することがわかった。交尾後に雄から雌に渡されるsex peptideの受容体の機能がアミノ酸に対する嗜好度の上昇にかかわっているのか調べた。またアミノ酸受容体遺伝子の検索を行った。
著者
福井 裕輝
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

サイコパス群、比較対照群に対して、拡散テンソル画像;DTI)を撮像し、tract-based spatial statics(TBSS)を用いて全脳におけるfranctional anisotrophy(FA)値を調べた。サイコパス群では、前頭葉眼窩領域においてFA値の有意な低下を認めた。
著者
加藤 憲司 鈴木 志津枝 船山 仲他 福嶌 教隆 田中 紀子 岡本 悠馬 川越 栄子 長沼 美香子 益 加代子 植本 雅治 嶋澤 恭子 山下 正 松葉 祥一 金川 克子
出版者
神戸市看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

昨年度に引き続き、学部生対象の単位互換講座(10~1月 全15回)およびユニティ市民公開講座(7月 全5回)を実施した。今年度はロールプレイにスペイン語および中国語のネイティブスピーカーをそれぞれ招いて演習を行ったので、過年度よりも一層の臨場感を講義の中に盛り込むことができたと考える。ただしユニティ市民公開講座については、受講者数の減少が止まらず、市民への普及・啓発としての本講座の役割は終えたと判断することとした。医療通訳を巡る国内の情勢は極めて大きな変革期を迎えているため、常に最新の情報を踏まえて方向性を探る必要があることから、関連する第20回日本渡航医学会(倉敷市 7月)、第1回国際臨床医学会(東京 12月)などの学会や、全国医療通訳者セミナー(東京 8月)などのセミナーへ積極的に参加した。さらに、地元の兵庫県においても医療通訳の制度化に関する研究会が立ち上がり、3回の会合がもたれ、本研究チームからも複数のメンバーが参加した。調査研究については、昨年度末に1300通以上の質問紙を全国の一定規模以上の医療機関に発送したが、回収率は20%以下に留まった。データを一旦分析し、本学紀要に投稿したものの、追加のデータ分析をすべく取り下げ、現在も論文原稿を執筆中である。
著者
熊谷 直樹
出版者
横浜市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

結膜炎を伴わないアトピー性皮膚炎患者および、アトピー性角結膜炎患者の結膜組織、眼脂の培養を行った.それぞれ約1/3の症例で何らかの細菌が培養された.その内、約8割が黄色ブドウ球菌で他に表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウムがみられた.自他覚症状をスコア化し、角結膜所見の重症度と培養陽性率の比較を行ったが、両者に相関関係はなかった.湿潤な活動性の眼瞼炎を併発している症例で黄色ブドウ球菌の培養陽性例が多くみられ、角結膜所見よりはむしろ皮膚所見の重症度と細菌感染が関連していると考えられた.涙液中の細菌性スーパー抗原の検出については、患者群では流涙を伴っており充分な検体採取が出来るが、コントロール群で充分な涙液採取が出来ない症例が多く、現時点では結論は出ていない.
著者
奥村 明之進 南 正人 井上 匡美 川村 知裕 舟木 壮一郎 松浦 成昭 新谷 康 中桐 伴行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

慢性閉塞性肺疾患COPDの新たな治療法の開発は急務であり、今回COPDに対する細胞治療を用いた再生医療を考案することを目的とした。COPD誘導マウスに対して、健常なマウスより脂肪幹細胞を分取し、経静脈的、経気管的に投与すると、移植細胞は障害肺へ集積し気腫肺を改善した。さらに、人工多能性幹細胞iPS細胞を様々な成長因子を用いて肺胞上皮細胞への分化誘導法を検討した。分化誘導した細胞を標識して、上記と同様に肺障害マウスへの移植を施行し、肺胞への生着および呼吸機能の改善を確認した。肺の再生医療を考案する上で、脂肪幹細胞やiPS細胞が重要なツールになり得ると考えらえた。
著者
松永 典子 徳永 光展 施 光恒 伊藤 泰信 祝 利 緒方 尚美 余 銅基
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では、総合型日本語人材養成プログラム開発という目的のため、理論研究と実践研究を行った。まず、理論研究では、日本型「知の技法」の有する自文化を相対化する視点と他文化に対する積極的受容姿勢とが相互文化学習の手法として有効であるという理論化を行った。次に、その理論を日本語教育・留学生教育に還元するための教材開発及び教育実践研究を行った。実践研究の結果、本実践における日本人学生と留学生が協働でひとつの課題解決に取り組むという方法論が学習者に課題解決に向けた意識を促す可能性があることが示唆された。
著者
奥村 曉
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では紫外透過ガラスを使ったレンズアレイを製作することで、多画素のアレイ型半導体光検出器の実効的な光検出効率を改善することを目指した。市販のアレイ型検出器は隣接する画素間に不感領域があるため、入射光子の約15%は損失する。レンズアレイを前面に取り付けることで不感領域に落ちる光を有感領域に導光し、半導体光検出器を使った地上ガンマ線望遠鏡のガンマ線検出能力を高めたり、光検出器の製造費用を低減することができる。我々はレンズアレイを試作し実際に光検出器に取り付けて性能評価を行った。0~70度の入射角度で相対的に10~20%の光検出効率の向上を確認した。
著者
吉田 武美 小黒 多希子 田中 佐知子
出版者
昭和大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、薬毒物の投与により肝グルタチオン(GSH)の急激な減少(枯渇)が引き起こされると、肝臓内の様々な酵素やタンパク質が急速に合成されるという平成3、4年度の科学研究費助成で得られた成果を基に、その応答の多様性をさらに解明すると共に、遺伝子レベルでの機構解明を目的に進められたものである。本研究の結果、トランススチルベンオキシド(TSO)やファロンが、肝グルタチオンを減少させ、酸化的ストレスを引き起こすことにより、メタロチオネイン(MT)やヘムオキシゲナーゼ(HO) mRNAを急速に発現させることが明らかになった。この結果は、すでに明らかにしている同条件下におけるこれらタンパクの増加が遺伝子レベルでの応答の結果であることを支持している。これらの薬毒物によるHO mRNAの増加は、ヒト肝癌由来のHepG2細胞を用いる培養細胞系でも充分に観察され、今後の機構解明を進める上で有益な情報が得られた。興味深いことは、TSOの立体異性体であるシス体が培養細胞系でほとんど影響が認められなかった点である。この理由については、今後の検討課題として残された。これらの結果に加え、種々のジピリジル系化合物がHO誘導をはじめシトクロムP-450に対し多彩な影響を及ぼすことが明らかになり、とくに2、2'-ジピリジルの作用は、従来のGSH低下剤とほとんど同様であった。本化合物やフォロンは、ミトコンドリアや核内のGSH含量も顕著に低下させることが明らかになり、酸化的ストレスが細胞内各小器官に及んでいることが解明された。酸化的ストレス応答が細胞内のどの小器官のGSH低下と関連しているかについては今後の検討課題である。本研究と関連して、ピリジンやイミダゾール含有化合物の多彩なP-450誘導作用を明らかにし、1-ベンジルイミダゾールのP-450誘導がテストステロン依存性であることなど大きな成果も得られた。本研究課題の遂行により、薬毒物による肝GSH枯渇に伴い、様々なストレス応答が遺伝子レベルで発現していることを明らかにした。