- 著者
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山下 清海
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.2, pp.83-102, 1986-12-30 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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本稿は,シンガポールにおける華人方言集団のすみわけパターンとその形成要因について考察した.すみわけパターンを把握するために,華人会館や廟の分布,および華人会館会員の分布を,いくつかの時期ごとに地図化した.その結果,次のようなすみわけパターンが明らかになった。 華人の居住はシンガポール川の南岸地区(大披)から始まり,福建人,潮州人,および広東人の三大方言集団が,そこを大きく3つの地区にすみわけた.一方,移住時期が遅れた海南人,福州人,興化人などの少数方言集団がおもに居住したのは,シンガポール川の北岸地区(小披)であった.そこには3大方言集団も多数居住し,少数方言集団と互いにモザイク状にすみわけた. このように,華人方言集団のすみわけパターンは,シンガポール川を挾み,その南岸と北岸で著しい対照をなした.これらのすみわけパターンは, 1968年頃においても大きな変化はなかった. 以上のすみわけパターンの分析に基づいて,次にすみわけパターンの形成要因について考察した.華人移民は故郷を出発する時からシンガポールで生活を始めるまで,客頭,客桟,猪仔館などをとおして,7連の地縁的な鎖によって結ぼれていた.このような地縁的連鎖は,すみわけを促す要因の1つであった. 華人方言集団の内部には,すみわけを形成する内的要因が認められた・華人は方言集団内部の相互扶助に期待して,また,言語,宗教,食事習慣をはIじめ,自己の伝統文化を保持したいという欲求を抱いて集中居住し,アーパン・ヴィレッジを形成した.このようなアーバン・ヴィレヅジを核として,華人方言集団のすみわけは拡大していった. 華人の経済活動の特色について検討した結果,それぞれの華人方言集団は,特定の職業分野で卓越し,専門化する傾向が顕著に認められた.このことは,特定の華人方言集団の地域的集中を強める結果となり,すみわけを助長した。