著者
堂満 華子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地球深部探査船「ちきゅう」の下北半島沖慣熟航海コア試料C9001Cコアの古地磁気層序・火山灰層序・微化石層序・酸素同位体層序にもとづく年代モデルを構築し,C9001Cコアが海洋酸素同位体ステージ1~18までの過去74万年間をほぼ連続的に記録することを明らかにした.また,北太平洋における中期更新世の重要な浮遊性有孔虫化石基準面であるNeogloboquadrina ingleiの終産出層準がステージ16の後期あるいはステージ16と15の境界付近に位置することを示した.
著者
深沢 克己 高山 博 羽田 正 松嶌 明男 勝田 俊輔 千葉 敏之 宮崎 和夫 樺山 紘一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、近世・近代のヨーロッパにおける宗教的寛容と不寛容の生成・展開について考察することを主たる目的としながらも、イスラム世界・ヨーロッパ中世の専門家を交えることで、この問題を比較史的にも検討することを課題とした。この研究テーマについて各研究分担者がそれぞれにおこなった調査研究の成果を年二回の研究会において全体で討議し、その結果として、次のような共通理解に到達することができた。宗教改革を契機として成立した近世ヨーロッパの宗教的寛容は、国家の役割に従って分類するならば、宗派別の住み分け、法令による異宗派の共存、法律の制定を伴わない実質的な寛容の三つに類型化できる。しかし寛容の堅固な基礎は日常的次元での共存と相互理解にあり、それを可能にする社会の意識改革あるいは文化変革にある。宗教的寛容の歴史的研究においては、この問題への国家による対応のみならず、社会的次元での寛容の実践のあり方、またそれを支える人々の内面的根拠にも分析のメスを入れることも重要であり、両者を総体として論じることが要請される。このように考えるならば、歴史としての宗教的寛容という問題は、近世近代のヨーロッパのみならず、イスラム世界やアジアをも含めた世界史の問題として、あるいは古代・中世という近代的寛容の精神をいまだ知ることのない歴史世界についての考察にも応用可能であるばかりか、まさに宗教的不寛容が蔓延する現代社会において、その解決法を歴史的に探るという意味でもまた有益である。
著者
近藤 隼人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、イーシュヴァラクリシュナ(4-5c)著『サーンキヤ頒』(Samkhyakarika,SK)に対する注釈書『論理の灯火』(Yuktidipika,YD)(ca.680-720)における認識論解明の総仕上げとして、正しい認識手段(pramana)の一つ<信頼できることば>(aptavacana)に焦点を当てた。この<信頼できることば>はSK第5偈にて"aptasruti"と換言されるが、YDはその"aptasruti"に対して三種の複合語解釈を示す。第一は、人為でないヴェーダを<信頼できることば>に含める解釈、第二は、ヴェーダ以外の人間の手に成る聖典や教養文化人(sista)など世間的な人物の言明を含める解釈、第三は、一語残留規則(ekasesa)を用いて上記二解釈を折衷する解釈をとっていた。SK第2偈で示されるように、サーンキヤはバラモン正統哲学の一派としては例外的にヴェーダ供儀に対して懐疑的な姿勢を示しているが,YDはそのような純粋な意味では正統派とは呼びがたいサーンキヤの伝統から踵を返し、<信頼できることば>に対してSKが与える定義的特質はヴェーダも含意しうることを理論的に示すことによって他の正統哲学諸派との折り合いをつけようとしたことが、この複合語解釈から窺知される。その姿勢を裏付けるためにも、YDがaptaをいかに位置づけているのかを検討した。この問題はヴェーダの非人為性,すなわちaptaは「信頼できる」という形容詞として解釈すべきか、「信頼できる人」として解釈すべきか、という議論とも密接に関連する。形容詞の場合には上記第一解釈、「人」の場合には上記第二解釈に相当する。YDにおけるaptaおよびaptavacanaの位置づけをすべて検討した結果、YDにおける本来的なaptaの用法としては、「信頼できる人」、とりわけ世間的に信頼できる人物を念頭におき、日常生活を営む上での試金石ともいうべき位置づけを与えていたものと結論づけた。本研究のこの成果は、仏教思想学会(於東洋大学)、日本印度学仏教学会(於龍谷大学)、インド思想史学会(於京都大学)にて口頭発表し、論文としても発表した。
著者
丹羽 仁史
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は当初、cDNA発現ライブラリーを染色体外発現ベクターを用いて構築し、この中からES細胞の分化を誘導するクローンを機能的に選択し、その遺伝子を単離・解析することを目標としていた。このために20万個のクローンからなるライブラリーを作製し、そのスクリーニングを行ったが、この過程で極少数の分化細胞からベクターを回収する効率の悪さが問題となった。この点を克服すべく条件検討や方法の改良を試みたが、結局現在に至るまで顕著な改善は得られていない。一方、年々増加する分化関連遺伝子に関する情報の増加に基づき、作製したライブラリーからまず候補遺伝子を含むものを単離し、これらに関して個々に検討を加えた。この結果、転写因子COUP-TFとCdx2が、それらの強制発現により、ES細胞を栄養外胚葉様細胞へと分化させることを見いだした(日本発生生物学会第32回大会にて発表予定)。また、これまで用いてきた染色体外発現ベクターpHPCAGGSに改良を加え、染色体に組み込まれた形でも高発現を示す多目的発現ベクターpPyCAGIZ,pPyCAGIPを開発し、これらを用いてドミナントネガティブ型STAT3の強制発現がES細胞では分化を誘導するがEC細胞ではなんら効果を示さないこと、および、これとは逆にc-junの強制発現はEC細胞においてのみ分化を誘導することを見いだした(Niwa H.,et al,Genes&Dev.1998、および日本癌学会年会にて発表)。今後は以上の成果に基づき、ES細胞の分化機構の解析を更に進めるとともに、ライブラリースクリーニングの効率的実施のための方法の開発を行うべきと考えている。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.研究目的未分化細胞特異的に発現する転写因子Oct-3/4は、我々のES細胞を用いた解析から、ES細胞の未分化状態を維持するためにはその一定量の発現が維持されることが必要であり、発現量の減少は栄養外胚葉への、増加は原始内胚葉への分化を誘導することが明らかになった(Niwa H.et al,Nat.Genet.,in press)。そこで、本研究では、このOct-3/4による遺伝子発現調節機構およびそれによる未分化状態維持/分化運命決定機構の解明を目的とし、次の3点の解析を行った。(1)Oct-3/4による転写活性化機構の解析(2)Oct-3/4の発現量増加による原始内胚葉分化誘導機構の解析(3)Oct-3/4の発現量減少による栄養外胚葉分化誘導機構の解析2.研究成果(1)転写因子Oct-3/4と結合する因子を単離するために、EGFP-Oct-3/4融合蛋白の発現によって未分化状態を維持されたES細胞GOWT1を樹立した。(2)(1)で得られた細胞の可溶化物を坑GFP坑体を用いて免疫沈降し、沈降物をSDS-PAGE法で解析し、未分化状態特異的に共沈してくる3つのバンド(CO1-3)を同定した。(3)(2)で同定されたバンドを単離してN端部分アミノ酸配列解析法および質量分析法で解析したところ、CO-1,3は細胞骨格成分の蛋白で、アーチファクトと考えられたが、CO-2は未知の蛋白と考えられた。(4)染色体外発現ベクターを用いた強制発現と、テトラサイクリンによる発現調節系を用いて、転写因子Cdx-2の発現がES細胞の栄養外胚葉への分化を誘導することを見い出した。(5)ゲノム遺伝子の解析から、Cdx-2の発現がES細胞においてはOct-3/4によって抑制されていること、およびCdx-2が自己のプロモーターを活性化しうることをルシフェラーゼアッセイ法により明らかにした。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

我々は、無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成を支持する活性を、ES細胞自身が産生していることを見出し、これをKSRSと名付けて、当初発現ライブラリースクリーニングによるクローニングを試みたが、活性を示すクローンの同定には至らなかった。また、種々の既知サイトカイン・成長因子の効果も検討したが、明確にKSRS様活性を示すものは存在しなかった。しかし、このKSRS活性は血清中にも存在することに着目し、次に血清から無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成支持能を指標に分画を進め、最終的に逆相クロマトグラフィーで単一画分に活性を認めるに至った。現在、スケールアップの上、活性を担う蛋白の同定を進めている。一方で、血清からの分画過程で得られた粗画分を用いて129系統由来EB3 ES細胞を無血清無フィーダー状態で約1週間培養し、その後ブラストシストインジェクションを行った。この結果キメラマウスが得られることは確認され、現在germline transmission能を検討している。また、同様の条件でC57BL6系統由来胚盤胞をフィーダー細胞存在下に無血清状態で培養し、ES細胞の樹立を試みたところ、約20%の胚盤胞からES細胞株を得ることに成功した。現在、これらの細胞の分化能を検討するとともに、培養皿をコートする基質を最適化して無フィーダー化することを試みている。これらの解析と平行してES細胞の増殖を制御するシグナル伝達機構の解析も行った。特に、TGF-βファミリーの因子がES細胞の増殖に及ぼす影響を検討するために、抑制Smad蛋白をコードするSmad6とSmad7を発現ベクターに組み込んで、ES細胞に導入して過剰発現させた。この結果、Smad7の発現はES細胞の増殖を顕著に抑制した。この効果は、細胞のpluripotencyには影響を与えず、またSmad2の共発現によって解除されることから、ES細胞における生理的な役割を反映したものと考えられ、現在さらに詳細な検討を進めている。以上の結果は、今後ヒトES細胞を再生医学に応用する上で、異種動物成分を排除した培養系を確立するための基礎研究として、今後さらに発展が期待できるものと考えている。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)Oct-3/4による未分化状態維持機構を明らかにするために、薬剤投与によりOct-3/4の発現が消失して100%栄養外胚葉に分化するES細胞ZHBTc4を用いて、その未分化状態を維持するために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、機能的DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになった(図参照)。このとき、Oct-3/4のC末転写活性化ドメインとDNA結合ドメインからなる変異型分子で未分化状態を維持されたES細胞では、Oct-3/4の下流遺伝子の一つであるlefty-1の発現が殆ど消失していた。このことは、一部の下流遺伝子の発現には特定の転写活性化ドメインが必要であること、またこれらの遺伝子の発現はES細胞の自己複製には必要がないことを示す。(2)Oct-3/4の発現増加による原始内胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、そのために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、未分化状態維持と同様に、DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになったが、興味深いことにDNA結合能は必要ではなかった。このことは、この分化誘導現象が、これらのドメインが他の蛋白と相互作用することによって引き起こされていることを示唆している。(3)Oct-3/4の発現減少による栄養外胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、この現象への関与が考えられる転写因子Cdx-2との相互作用について解析を行った。Cdx-2の発現は未分化ES細胞では全く検出されないが、Oct-3/4の発現が減少すると速やかに検出されるようになる。そこで、この遺伝子の発現制御領域を解析したところ、この遺伝子の発現が、自身の産物で自己活性化されうること、およびこの活性化をOct-3/4が阻害しうることを見いだした。更に、ES細胞におけるCdx-2の強制発現は、部分的にではあるが栄養外胚葉への分化を誘導した。これらのことは、Oct-3/4がCdx-2の発現を抑制することにより、栄養外胚葉への分化を阻止している可能性を示唆している。
著者
丹羽 仁史
出版者
理化学研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

昨年度構築したインスレーター活性を検出するためのレポータープラスミドpTIA(tester of insulator activity)を用いて、マウスゲノム断片からインスレーター活性を含むものを単離することを試みた。しかしながら、ゲノム断片挿入によるスペーサー効果と明瞭に区別しうるインスレーター活性の検出には至っていない。この過程で、他施設からの報告により、インスレーター配列のエンハンサー活性遮断効果は、当該エンハンサーの両側にインスレーターがタンデムリピートとして配置されることにより増強することが明らかになったので、現在これを踏まえたベクターデザインの改良を検討している。一方、昨年度の検討でES細胞においてインスレーター活性が検出できたニワトリβ-globin LCR(locus control region)由来CTCF結合配列を用いたインスレーターカセットに、比較的強力な活性を示すhuman β-actin promoterないしは極めて弱い活性しか示さないhCMV^*-1 promotorの制御下にβ-geo(β-galactosidase+neomycin耐性遺伝子の融合蛋白をコードする)を接続したレポーターカセットを組み込んで、これらをES細胞に導入した。この結果、インスレーターは弱いプロモーターがゲノム上の挿入部位近傍のエンハンサーから受ける活性化は遮断できるが、クロマチン構造に起因すると考えられるプロモーター活性への抑制効果は遮断できないと考えられた。今後、これらの結果をさらに種々の異なる方法で検討するとともに、より有用な外来遺伝子発現のためのカセットの構築を進めていきたい。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

テトラサイクリンで転写因子Oct-3/4の発現を調節することが可能なES細胞ZHBTc4において、テトラサイクリン投与後0,24,48、72、96時間目の細胞からそれぞれRNAを精製し、これを始原生殖細胞由来cDNAマイクロアレイで解析し、全ての結果の収集を完了した(理化学研究所・阿部博士との共同研究)。一方で、これらのサンプルをNIHの洪博士との共同研究により、23K cDNAマイクロアレイを用いても解析を進めている。今後、全てのデータの収集が完了次第、その解析に着手する予定である。テトラサイクリンで転写因子Gata6の発現を調節することが可能なES細胞G6SKOについては、その発現によって誘導される細胞が壁側内胚葉であることを最終的に確認した(Fujikura J et al.,Genes Dev.,2002)ので、現在マイクロアレイ解析用の時系列RNAサンプルを収集している。また、最近ES細胞における遺伝子マーキングによる解析から、従来均一と考えられていたOct-3/4を発現する未分化細胞集団が、さらに遺伝子発現パターンの異なるサブグループに分離可能であることを見出した。現在、これらのサブグループを系統的に純化する方法の開発を進めており、その進捗を見た後に、マイクロアレイを用いた系統的遺伝子発現解析に進む予定である。マイクロアレイ法による遺伝子発現解析の有効性は、洪博士との共同研究によるES細胞とTS(trophoblast stem)細胞の遺伝子発現比較検討により確認することが出来ているので(Tanaka, TT et al., Genome Res.,2002)、今後同様の手法を用いた上記サンプルの解析結果から、細胞分化のメカニズムの一端が明らかにされるであろう。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、未分化ES細胞からの栄養外胚葉およびtrophoblaststem (TS)細胞分化における転写因子Cdx-2の機能を解析するために、テトラサイクリンでOct-3/4の発現を制御可能なZHBTc4 ES細胞において、内在性Cdx-2遺伝子を、2回の相同遺伝子組み換えによって破壊した。この結果得られたCdx-2-null ES細胞は、親株のZHBTc4細胞と同様に、テトラサイクリン投与によって栄養外胚葉に分化し、FGF-4存在下にフイーダー細胞上でTS細胞に分化した。しかし、このCdx-2-null TS細胞は安定に自己複製できず、速やかに全て最終分化してしまった。そこで、これがCdx-2の発現に依存した現象であることを確認するために、このCdx-2-null ES細胞に、Tamoxifenで活性を調節できるCdx-2(Cdx-2ER)を導入し、これを安定に発現するES細胞株CNCRを樹立した。CNCR ES細胞は、Tamoxifen非存在下にテトラサイクリンを投与した場合では、TS細胞化したあと自己複製できなかったが、Tamoxifen存在下では、安定に自己複製出来るようになった。さらに、この条件でTamoxifenを除去すると、これらのTS細胞は速やかに分化してしまった。一方、このCNCR ES細胞にテトラサイクリン非存在下にTamoxifenを投与すると栄養外胚葉に分化し、さらにFGF-4/フィーダー細胞が存在するとTS細胞にも分化した。これらの結果は、Cdx-2の機能が、栄養外胚葉やTS細胞への分化に十分ではあるが必要ではないこと、しかし、その機能はTS細胞の自己複製には必須であることを示す。我々はさらに、Cdx-2非存在下にあって栄養外胚葉分化を制御する転写因子の候補としてTbr-2/Eomesodeminを同定し、現在その機能解析を進めている。
著者
丹羽 仁史
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

我々は、マウスES細胞において、インテグリンを介した細胞外マトリクスとの接着と、カドヘリンを介した細胞間の接着が、液性因子と協調して未分化状態維持シグナルを入力しているとの仮定の下に、これらの接着分子の機能解析を試みた。まず、インテグリンの細胞内シグナル伝達経路を遮断する目的で、integrin-linked kinase(ILK)の競合阻害変異体を強制発現させたところ、ES細胞は分化抑制因子LIFの存在下でも分化傾向を示した。一方、ES細胞の凝集塊を浮遊培養すると、その表層は原始内胚葉に分化する。このとき、可溶型E-cadherin細胞外ドメインを添加すると、この分化が阻止されたことから、この凝集塊表層における原始内胚葉分化は、ここに位置した細胞における細胞接着総量の減少が関与していることが示唆された。これらの細胞外シグナルは、最終的には転写因子の発現調節を介して、分化運命の決定を制御する。我々は、マウスES細胞で転写因子Gata6を強制発現させることによって誘導される原始内胚葉細胞が、初期胚から樹立されるXEN細胞と同等の細胞生物学的特性を示すことを証明した。また、転写因子による分化運命決定モデルとして、栄養外胚葉分化に関わる転写因子Cdx2と、多能性維持転写因子Oct3/4の相互抑制機構を明らかにするとともに、もう一つの多能性維持転写因子Sox2の機能を解明することにも成功した。これらの結果は、今後Gata6による原始内胚葉分化誘導調節機構の解析に大きく資するものであると考えている。
著者
落合 邦康 今井 健一 田村 宗明 津田 啓方
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

Epstein-Barrウイルス(EBV)再活性化や感染細胞の異常増殖がおこり伝染性単核球症や上咽頭がんなどが発症する。われわれは、歯周病原細菌の代謝産物である酪酸がEBVの再活性化に必須である最早期遺伝子ZEBRAの発現を転写レベルで誘導する事を見出した。ZEBRAは他のウイルス蛋白やRNAの発現を誘導しEBV関連疾患を引き起こすことから、歯周病がEBVを再活性化し口腔毛様白板症やがんおよび重度の歯周病の進展に深く関与している可能性を示唆している。また、ラットを用いた実験により、歯肉に接種した酪酸が長時間組織に停滞し、ミトコンドリアに強い酸化ストレスを誘導することが判明した。
著者
西村 正宏 牧平 清超 二川 浩樹 浜田 泰三 中居 伸行 熊谷 宏
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

根面齲蝕の発生・進行に関与する微生物学的要因として、微生物の根面への付着、定着、酸あるいは酵素の産生による基質の分解が必要であり、我々は、カンジダアルビカンスは他のカンジダや齲蝕原性細菌と比較してコラーゲン及び変性コラーゲンへの付着能、定着能が著しく高いことを見出した。次にコラーゲンスポンジをカンジダアルビカンスと共培養すると、スポンジが完全に溶解することを見出した。このコラーゲン分解能をより定量的に検討するために、アゾコラーゲンやコラーゲン様配列をもつ合成ペプチド(FALGPA)による分解活性測定を行い、このコラゲナーゼ活性の性質について様々な検討を行った。その結果、1.アゾコラーゲンの分解能は嫌気的中性状態で血清アルブミン存在下の時に最も高かった。2.カンジダアルビカンス周囲のコラゲナーゼ活性の検討としてFALGPAの分解能を検討すると、同一ATP当たりではストレプトコッカスミュータンス、アクチノマイセスよりは弱く、ラクトバチラスよりは高かった。また血清アルブミンが存在するときに活性が高かった。3.FALGPAの分解活性はEDTAによって抑制されたが、セリンプロテアーゼインヒビター(APMSF)やアスパラギンプロテアーゼインヒビター(ペプスタチン)では抑制されなかった。また熱によって失活した。4.ゼラチンザイモグラフィーによる分子量検索の結果、培養上清中には約116kDa,150kDaの2本のバンドを検出し、このバンドはサンプルの熱処理によって消失したがEDTA処理では消失しなかった。以上の結果から、カンジダアルビカンスは細胞周囲と培養上清中に少なくとも2つ以上の異なるコラゲナーゼ様の酵素を産生し、この活性は他の細菌と比較して十分に強力なコラーゲン分解能を持つことが示された。したがって、カンジダアルビカンスは根面齲蝕におけるコラーゲン分解に十分に関わりうることが示された。
著者
小森 謙一郎
出版者
武蔵大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究では、フロイト・レヴィナス・デリダが共有している「ユダヤ的なもの」を彼らのテクストに則して考察し、その議論に内包される「母なるもの」への眼差しが、性的差異の観点からして伝統的な男性優位の考え方にはもはや収容されないということ、またその限りにおいて彼らの言説が従来想定されてきたのとは別のユダヤ性を提示しているということを明らかにした。
著者
井内 敏夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

初期中世ポーランドの国制・社会制度についての見方は、1960-70年代に開始されるK・ブチェクとK・モゼレフスキの大論争を通じて、大きく塗り替えられた。二人の基本的な視点はよく似ており、論争を通してブチェク=モゼレフスキ理論と呼び得るような史観が形成され、その到達点がモゼレフスキ著、chlopi wmonarchii wczesnopiastowskiej,1987といえる。これに対する批判の代表が、S・ガウラス著、O ksztalt zjednoczonego Krokestwa,1966とJ・マトゥシェフスキ著、Vicinia id est...,1991である。モゼレフスキ理論の方法は遡及にある。ポーランドでは13世紀に幾千通のインムニテート文書が現れるが、そこで読み取り得る構図を12世紀の少数の文書と年代記、ならびにゲルマンや周辺スラヴの部族期の史料を参考にしながら、インムニによって崩れていく古い体制の要素と新しく誕生する要素を選り分けていく。彼によれば、前者が公の権利体制、後者が土地領主制ということになる。つまり、公の権利体制とは、君主としての公に象徴される国家に農民と戦士が総服従の状態にある制度であり、わが国の公民制に似ている。この初期国家は、地方行政機構を整え、部族期の一般自由民から分化した農民を様々な義務を持つグループに分けて、食料貢租や役務だけでなく、手工業製品、サーヴィスなどを徴収し、自足体制を築き上げた。しかし、その一方で、国家として機能していくためには、農民に部族時代の一般自由民としての基本的な権利を認め、またオポレと呼ばれる古来からの隣保共同体の協力を必要とした。それゆえ、農民から土地への権利や移動の自由を奪い、土地領主制と農奴制へと転換するにはほぼ200年に及ぶ時間を必要とした。このようなモゼレフスキ理論に対し、ガウラスは、10世紀末から12世紀末まで変化のない体制というのはありえないとし、マトゥシェフスキはモゼレフスキ理論の根幹の一つであるオポレ組織の存在を否定する。私には今後、史料の検討が必要となる。
著者
中尾 友紀
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の社会保険は議論が開始された1880年代から、特に公的年金には巨額の国庫負担の必要が認識されていた。保険という形式だったが、公的年金はあくまで労働者あるいは「少額所得者」を救済する防貧政策だったからである。このような理念で1941年に創設された労働者年金保険は被保険者の適用範囲を「少額所得者」に制限し、その上で保険給付に要する費用にも国庫負担を規定した。したがって、国庫負担は「少額所得者」の救済を意図したものだったと考えられる。
著者
飯塚 舜介
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

アルミニウム負荷後の尿中アルミニウム排泄量については,有意な増加がみられた.今回の食物中のアルミニウム吸収率は0.14%であった.アルミニウムは他の毒性のある金属と比較して腸管吸収率は低く,日常生活レベルでのアルミニウムの毒性の低さがうなすける結果となった.さらに制酸剤中のアルミニウムの吸収率は,飲食物中のアルミニウム吸収率に比べてわずか10分の1以下の低い値であった.アルミニウムの生物学的半減期は,は約8.5時間であった.文献による血中アルミニウム半減期は約8時間とよく一致していた.尿量(x)と尿中アルミニウム濃度(y)の相関については,xy=一定と近似された.このことは単位時間当たりのアルミニウム排泄量は,でほぼ一定であることを示している(制酸剤の場合:約27ng/min).市販の缶詰,びん詰,テトラプリック無菌充填包装およびハイパーパック包装の天然果汁中のアルミニウム濃度を測定した.アルミニウム材料が使用されているが,著しい溶出などは観察されなかった.市販のコンブ3種,ワカメ4種,ヒジキ1種を試料とし,海草中のアルミニウム含有量,浸漬液および加熱抽出液へのアルミニウム移行量,浸出条件によるアルミニウム濃度への影響について検討したところ,ヒジキに高い濃度のアルミニウムが観察された.長期の曝露や,腎不全患者などのアルミニウムに対する排泄機構の働きか低下している場合,吸収されたアルミニウムが長い時間を経て脳その他の器官に蓄横し,アルツハイマー病などの重篤な健康障害をもたらす危険性は十分認識されるべきである.しかし,健常人においては,アルミニウムの吸収率は極めて低く,また吸収されたアルミニウムは速やかに尿中へ排泄されることが分かった.
著者
森 信介 飯山 将晃 橋本 敦史 舩冨 卓哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前年度までに構築したレシピフローグラフコーパスと収録した調理映像を用いて調理映像からのレシピ生成の手法を提案し、実験結果とともに国際学会にて発表した。手法は十分一般的であり、調理映像とレシピに限定されない。これにより、本研究課題「作業実施映像からの手順書の生成」が国際学会採択論文とともに完了したといえる。課題終了後も、写真付きの手順書などのような、マルチメディア教材の自動生成などの発展的研究に取り組んでいる。
著者
青木 一勝
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

三波川変成帯最高変成度岩石の昇温および後退変成作用の温度-圧力-時間(P-T-time)条件を明らかにするため、三波川変成帯の模式地である四国中央部汗見川地域の最高変成度地域に産するザクロ石と石英が主要構成鉱物であるガーネタイトの岩石学的および熱力学的研究を行った。その結果、この岩石の最高変成P-T条件は、P=15-19kb,T=500-520℃であり、エクロジャイト相変成作用を被ったことを明らかにした。さらに、この地域に産する変成岩中に現在観察される鉱物組み合わせは、変成帯上昇時においてP=7-11kb,T=460-510℃(緑簾石角閃岩相)の条件で加水後退再結晶作用を被ったことにより生成したことも明らかにした。更に、Nano-SIMS(東大、佐野研設置)を用いてジルコンU-Pb年代分析を行った結果、その加水後退再結晶作用が85.6±3.0Maに起きたことが分かった。以上のことから、汗見川地域に産する最高変成度岩石は、エクロジャイト相の変成作用を被った後、上昇過程で85.6±3.0Maに緑簾石角閃岩相の条件で加水後退再結晶作用を被ったことが示された。以上の結果とこれまでに明らかにしてきた結果を組み合わせ,三波川変成帯の変成・形成プロセスを考えると、三波川変成岩の原岩は、沈み込み後、累進変成作用が進み、120-110Maに変成ピークを向え、最高変成度部では、エクロジャイト相に達した。その後、造山帯の走向と直交した南方向に、薄いスラブ状に上昇を開始し、66-61Ma頃に地殻中部(15-17km深度)で下位の四万十変成岩の上位に定置し、貫入を停止した。上昇中に昇温変成作用が進行している四万十変成岩から大量の流体が三波川変成岩を通過することにより、加水後退再結晶が進行し、三波川変成岩の多くは再結晶化して、累進的な構造、鉱物、年代の記録を失った。その後、地殻の隆起が起こり、50Ma頃に表層に露出し、現在に至ったと考えられる。
著者
伊藤 寿啓 喜田 宏
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

インフルエンザウイルス(IFV)は哺乳動物や鳥類に広く感染する。すべてのIFVは野生水禽のウイルスに由来すると考えられている。しかし、ウイルスが異なる動物種間を伝播する機序が解明されていない.IFVはHA蛋白を介して細胞表面のシアル酸を末端にもつ糖鎖レセプターに結合して感染する。そこで、本研究ではIFVのレセプター特異性と宿主域との関連を解析し、さらに感染実験によってその異動物種間伝播のメカニズムを解明することを目的とした。宿主の細胞表面上にあるレセプターの種類をレクチンを用いて解析した結果、馬、鯨、アザラシの呼吸器にはシアル酸がガラクトースにα2-3結合している糖鎖(α2-3)のみが存在し、豚、フェレットにはα2-3およびα2-6の両者が存在することが判明した。これらの成績はα2-3親和性の鳥IFVが馬に直接伝播可能であるという疫学的知見を裏づける。また、鯨およびアザラシのウイルスが鳥由来ウイルスであるという遺伝子解析結果をも支持する。一方、豚やフェレットでは、α2-6親和性の人ウイルスもα2-3親和性の鳥ウイルスも共に増殖するという以前の感染実験の成績に一致する。一方、人ウイルスから選択された、α2-3親和性変異株のHAのみを有し、他の遺伝子は全て馬のウイルス由来のハイブリッドウイルスを作出した。このウイルスのHAは226番目のアミノ酸がLeuから鳥ウイルスと同じGluに変化していた。しかし、このウイルスは馬では増殖しなかった。さらに228番目のアミノ酸も鳥ウイルスと同じGlyに変化したHAをもつハイブリッドウイルスを作出したところ、馬でよく増殖した。即ち、IFVが馬の気管で増殖するためには226番目に加えて228番目のアミノ酸も重要であることが判明した。現在、このアミノ酸がIFVのレセプター特異性にどのような変化をもたらすのかをレセプター結合試験により解析中である。